日本地質学会学術大会講演要旨
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T8.フィールドデータにおける応力逆解析総決算
  • 大坪 誠, 山路 敦
    セッションID: T8-O-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    応力場はどんな時間スケールで変化するのか?プレート運動を定常運動と見なすことができる期間は106~107年である一方で(例えば,Argus and Gordon, 1990),World Stress Map Projectにより,第1次オーダーとよばれるプレート規模の広域応力場がプレート運動で支配されることが判明している(Zoback, 1992).したがって,プレート規模の応力場はそうした時間スケールで変化せざるをえない.ではもっと水平的広がりの小さい,第2次,第3次オーダーの応力場はどのくらいの時間スケールで変化するのだろうか? この問いに直接答える代わりに,現在の応力場がいつ成立したかを検討した.具体的には,Chibanian以降の層序が細分されている,琉球弧南部の島々の琉球層群(Hanzawa, 1935; Kizaki, 1985)を切る小断層で応力逆解析を行った.琉球前弧の現在のテクトニクスは,背弧リフティングに伴うarc-parallel extensionで特徴づけられる(例えば,Kubo et al., 2002; Kubo and Fukuyama, 2003; Nakamura, 2003).本研究では,宮古島,多良間島,石垣島,小浜島,波照間島,与那国島の更新統琉球層群を切る小断層から得た142の断層スリップデータに対して多重逆解法(Yamaji, 2000)を適用した.結果として,琉球層群堆積後の応力変遷は3つのドメインに整理された.ドメイン I は,宮古島,多良間島,石垣島,小浜島を含み,0.20–0.10 Maの石灰岩を切る小断層から,先行研究が報告する2つの正断層形成応力(σ3軸の方向が島弧に高角に交わる応力と島弧に平行方向の応力)を検出した.両応力に対応する小断層の切断関係から,後者の応力が前者の応力より新しく,このドメインにおけるarc-parallel extensionは125 ka以降に始まったと考えられる.波照間島では,200–125 kaに堆積した石灰岩を切る小断層から横ずれ断層形成応力が検出され,ドメインIIとする.与那国島はドメインIIIとして,125 kaの石灰岩を切る小断層から沖縄トラフの拡大方向(Sibuet et al., 1998)におおむね一致するNNE–SSW方向のσ3軸を持つ正断層形成応力が検出された.今回対象とした地域の応力場は,12.5万年前より若いことが明らかとなった.これは,沖縄島,宮古島,石垣島,与那国島の中新統と鮮新統を切る小断層を検討したFabbri やFournierらの結果より1桁若く(Fabbri and Fournier, 1999; Fabri, 2000; Fournier et al., 2001),島弧の応力場が短期間で変化しうることを示唆する.この地域の0.125 Ma以降の応力場の変化は,すぐ北側の沖縄トラフの拡大方向の変化(Sibuet et al., 1998)と同期していた可能性がある. 引用文献:Argus, D. F. & Gordon, R. G., 1990, JGR, 95, 17315–17324; Fabbri, O., 2000, 地質学雑誌, 106, 234–243; Fabbri, O. & Fournier, M., 1999, Tectonics 18, 486–497; Fournier, M. et al., 2001, JGR, 106, 13751–13768; Hanzawa, S., 1935, Science Reports of the Tohoku Imperial University, 2nd Series, Geology 17, 1–6; Kizaki, K., 1985, Geology of the Ryukyu Island Arc; Kubo, A. et al., 2002, Tectonophys., 356, 23–48; Kubo, A. & Fukuyama, E., 2003, EPSL, 210, 305–316; Nakamura, M., 2004, EPSL, 217, 389–398; Sibuet, J.-C. et al., 1998, JGR, 103, 30245–30267; Yamaji, A., 2000, JSG, 22, 441–452; Zoback, M. L., 1992, JGR, 97, 11703–11728.

  • 西山 成哲, 中嶋 徹, 後藤 翠, 箱岩 寛晶, 長田 充弘, 島田 耕史, 丹羽 正和
    セッションID: T8-O-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【背景・目的】 活断層が確認されていない地域において、マグニチュード6~7クラスの地震が発生することがしばしばある。これらの地震を発生させる断層は、地表には現れず、地下に伏在しているものと考えられる。このような伏在断層は、歴史地震などの記録や地震観測データがない限り、把握することが困難である。 断層周辺に発達するダメージゾーンは、小規模な断層が密集して発達する領域とされることから活断層が地下に伏在する場合でも、その周辺のダメージゾーンは地表まで到達している可能性がある。このようなダメージゾーンに発達する小断層は、主たる断層の活動に伴って形成されると考えられ、伏在する主断層と同様の応力で活動した可能性が高い。そのため、ダメージゾーンに発達する小断層の解析から、地下に伏在する活断層を把握できる可能性がある。 本研究では、伏在断層の存在が既に明らかにされている1984年長野県西部地震の震源地域(Yoshida & Koketsu, 1990)を対象に、地表に分布する小断層のスリップデータ(走向、傾斜、および条線のレイク角、剪断センス)を収集した。このデータを基に、小断層群を動かした応力を多重逆解法で推定し、伏在断層周辺の地表における応力の空間分布を求めるともに、小断層スリップデータから伏在断層のダメージゾーンが把握可能であるかを検討した。 【調査手法】 本研究では極力多くのスリップデータを集めるため、露頭において変位が不明瞭な割れ目面や、ガウジを伴わない割れ目面であっても、条線が認められるものについては小断層としてデータを収集した。割れ目面の条線を頼りに調査を実施するため、調査の際は、溶岩や溶結凝灰岩の露頭において溶結構造や流理構造などと見間違わないように細心の注意を払った。特に、条線が直線的であるか、面が条線の方向に対して湾曲していないかを注意深く観察し、調査を行った。 応力の推定には多重逆解法を用いた。多重逆解法は、断層のすべり方向がせん断応力に平行であるというWallace-Bott仮説に基づき、多数の小断層スリップデータから逆解析的にそれら小断層の運動を説明する応力を検出・分離する手法である(Yamaji, 2000: 佐藤ほか, 2017)。本研究では、条線データの収集地点とデータ数を考慮して調査地域を13の領域(a~m)に区分し、各領域内のスリップデータに対して多重逆解法を適用することで応力の推定を行った。【結果・考察】 本研究では、地表踏査により344条の小断層スリップデータを収集した。データの大半は割れ目面に発達した条線から得られたものであり、細粒の粘土を挟む破砕帯を伴うものは2地点で認められたのみであった。また、地質体ごとで小断層面の傾向は認められなかった。小断層スリップデータの中には、第四紀の火山岩中のものも含まれており、収集したスリップデータの一部は少なくとも第四紀以降に活動したことを裏付けている。 小断層スリップデータ、領域区分、多重逆解法の結果を図1に示す。検出された応力は領域ごとに大きく異なるが、伏在断層の直上付近に位置する領域b、c、e、kでは、概ねNW-SE~WNW-ESE方向にσ1軸を持つ応力比の低い応力が共通して検出された。Uchide et al. (2022)による本地域を含む広域応力と領域b、c、e、kの平均応力との応力角距離は、いずれも59.26°(Yamaji & Sato, 2019)を下回る。この結果は、伏在断層の直上付近に現在の広域応力と似た応力で活動した小断層が密集していることを示しており、このような密集領域は伏在断層のダメージゾーンに相当すると考えられる。 本地域は、伏在する活断層の活動が地表に大きな影響を及ぼしておらず、明瞭なリニアメントが検出されていない地域である。本研究の結果は、こうした活断層地形が不明瞭な地域であっても地表踏査により小断層データを収集し応力逆解析を実施することで、伏在断層のダメージゾーンを把握できる可能性を示す。【参考文献】 佐藤ほか(2017): 地質学雑誌, 123(6), 391-402. Uchide et al., (2022): JGR: Solid Earth, 127(6), e2022JB024036. Yamaji, (2000): JSG, 22(4), 441-452. Yamaji & Sato, (2019): JSG, 125, 296-310. Yoshida & Koketsu, (1990): GJI, 103(2), 355-362.【謝辞】 本研究は経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和2~4年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(地質環境長期安定性評価技術高度化開発)」の成果の一部である。

  • 大橋 聖和, 田村 友識
    セッションID: T8-O-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    地殻変動の原動力である応力は,直接視認できない,形のないものである.物体が変形して初めて,我々はそれに外力が働き,応力状態下にある(あった)ことを知りうる.弾性変形の範囲においては,外力が取り除かれるとその痕跡は残されないので,過去の応力は「存在しなかった」のと同義である.地層や岩石が非弾性変形をしない限り,過去の応力は知り得ないし,非弾性変形を生じるにしてもある程度の応力レベル(=媒質の強度)が達成される必要がある.このような様々な制約条件を乗り越えたものだけが古応力として地質体内に記録されることを,野外観察者として改めて意識したいと思う.著者らは,これまで,新潟―神戸,山陰,九州中部(別府–島原地溝帯)などの歪み集中帯(地殻のひずみ速度の速い領域)を対象に,小断層解析に基づいた古応力推定を広域的に実施してきた.対象としたのは,鮮新世以降の地層を切断する小断層や,未固結の断層ガウジを伴うなど定性的に新しいと判断できる小断層であり,歪み集中帯に発達する小断層が現在の応力場と調和的か否かを調べることが主目的であった.その結果,新潟―神戸歪み集中帯の南部(跡津川断層以南)や山陰歪み集中帯では,地震活動から求められる現在の応力場と調和的な古応力が得られた.一方で,新潟―神戸歪み集中帯の北部(跡津川断層以北)や九州中部では少なからず地域差が認められ,活断層を境に応力区が異なることや,ローカルな構造に支配された応力場が存在することが示唆される.また,従来注目されてこなかったこととして,歪み集中帯内部であってもテクトニックな応力が検出されなかったり,そもそも小断層が発達しない地域があるなど,応力(変形)に不均一があることも分かってきた.本発表ではこれらの結果に基づき,地殻応力の均一・不均一や,地殻応力が変形として記録される際のそもそも論などを議論し,小断層の応力逆解法によって分かること・分からないことをまとめる.

  • 【ハイライト講演】
    内出 崇彦, 椎名 高裕, 今西 和俊
    セッションID: T8-O-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    地殻応力は地震を含む地殻変動の原動力であり、地震発生予測やテクトニクスの理解の手掛かりとなる物理量である。現在の応力場は、その場観測によって調べられているほか、地震の震源メカニズム解を用いた推定も行われている。前者は特定地点のことが精度よくわかる一方、後者は地震発生深度における広範囲の代表的な応力場を知ることができるという利点がある。ただし、後者では応力軸方向と応力比を推定することはできるが、応力の大きさを求めることができないという欠点もある。以下、「応力軸方向と応力比」を単に「応力」と記す。応力分布を示した地図として代表的なのは、世界各地での研究成果をまとめたWorld Stress Map(例えば、Heidbach et al., 2018)である。わが国でも、防災科学技術研究所の広帯域地震観測網(F-net)によって概ねマグニチュード(M)3.5以上の地震を対象にして得られたセントロイドモーメントテンソル(CMT)解を用いて、応力分布が推定されている(Terakawa & Matsu'ura, 2010, 2023)。より詳細な応力分布を得るためには、より小さい地震を解析する必要がある。Yukutake et al.(2015)は、地震波形から手動で読み取ったP波初動極性に基づいてM2以上の地震の震源メカニズム解を求め、それを用いて応力場を推定した。この推定では、P波初動極性の読み取りに膨大な人手と時間を要するという問題がある。そこで、Uchide(2020)はP波初動極性の読み取りを深層学習により自動化した。Uchide et al.(2022)はこの深層学習モデルを用いて、日本内陸及び日本近海(海岸線から50 km以内)の20 km以浅で、2003年から2020年までに発生したM0.5以上の21万件を超える地震の震源メカニズム解を推定した。それに基づいて、応力インバージョン解析を行った。グリッド間隔は緯度・経度ともに0.2度(概ね20 km)である。得られた応力場情報は、産総研地殻応力場データベース(https://gbank.gsj.jp/crstress/)で公開している。得られた応力場は、日本列島が概ね東西圧縮である、東北地方・関東地方の太平洋側の一部では南北圧縮であるといった、既に知られている性質を示すほか、興味深い特徴があちこちに見られる。 別府・島原地溝帯、四国の中央構造線、糸魚川静岡構造線南端部(静岡県内)などといった地質境界を境にして、水平主圧縮軸方位が異なるケースが見られた。北上高地では、南部は南北圧縮、北部は東西圧縮となっているが、その境界が三陸海岸におけるリアス海岸の有無によく対応しているように見える。これらの空間的な対応を生み出したメカニズムはまだ不明である。2011年東北地方太平洋沖地震による影響も見積もった。同地震の前後の期間でそれぞれ応力インバージョン解析を行った。その結果、応力軸方位の有意な変化が見られたのは、2008年岩手・宮城内陸地震の震源周辺と釜石付近など、一部の地域にとどまり、広範囲に応力軸方位を劇的に変えるような様子は見られなかった。今回作成したストレスマップは、既に地震発生場の理解の基礎的な情報として用いられつつある(例えば、Nishimura et al., 2023)が、さらに構造地質学的な研究の手掛かりになることも期待される。謝辞本研究では、国立研究開発法人防災科学技術研究所の高感度地震観測網(Hi-net)、気象庁の地震観測網、国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センターの地震観測網によって得られた地震波形データ、気象庁一元化処理検測値を使用した。本研究の一部は公益財団法人三菱財団の自然科学研究助成、産総研エッジランナーズの支援を受けて実施した。参考文献Heidbach et al. (2018) Tectonophysics, 744, 484-498.Nishimura et al. (2023) Sci. Rep., 13:8381.Terakawa & Matsu'ura (2010) Tectonics, 29, TC6008.Terakawa & Matsu'ura (2023) GJI, 233, 162-181.Uchide (2020) GJI, 223, 1658-1671.Uchide et al. (2022) JGR-SE, 127, e2022JB024036.Yukutake et al. (2015) EPSL, 411, 188-198.

  • 吉本 剛瑠, 大森 康智, 千代延 俊, 張 鋒, 山本 由弦
    セッションID: T8-O-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    島弧前縁に広がる前弧海盆は、地質学的に長期間安定して存在することから、沈み込み帯の地質情報を連続的に保存すると期待される。これらの運動の記録は、堆積岩物性としてだけでなく、断層などの地質構造として保存される。本研究は、新第三系前弧海盆堆積物の宮崎層群において、最高被熱温度と圧密降伏応力、古応力方向を検討した。それらの結果から、宮崎層群にみられる特異な隆起過程とそれを支配するテクトニクスを考察する。 宮崎層群は、砂岩泥岩互層の岩相が側方に変化するため、砂岩優勢の南部(青島相)、等量の中央部(宮崎相)、泥岩優勢の北部(妻相)の3相に区分されている。泥岩の空隙率は、南部から北部にかけて15%から30%まで増加する(青島相:15.9%,宮崎相:25.5–26.9%,妻相:26.1–31.6%)。 ビトリナイト反射率を用いて、堆積岩の最高被熱温度を検討した。算出された最高被熱温度は、約5–6 Maに堆積した同時異相で比較した場合、南部ほど高い値を示した(青島相:97–116°C,宮崎相:85–99°C,妻相:80–94°C)。また各相において、下部ほど高温である傾向が見られた。 堆積岩の最大有効応力を検討するため、泥岩を対象にK0圧密試験を実施した。泥岩の側方を拘束し鉛直方向に圧密させていくと、泥岩が経験した最大有効応力を圧密降伏応力として算出できる。上述の同時異相で比較した場合、圧密降伏応力は南部ほど明瞭に大きかった(青島相:38.2 MPa,宮崎相:13.8–16.2 MPa,妻相:13.6–15.5 MPa)。圧密降伏応力から計算される堆積物の最大埋没深度は、青島相で3600 m、宮崎相と妻相で1400–1600 mである。宮崎相と妻相の埋没深度は、層序から期待される値とほとんど一致した。したがって、青島相は宮崎層群の深部に由来し、宮崎層群南部が局所的に隆起することでこれらが地表に露出したことが明らかになった。宮崎層群南部の古応力を復元するため、青島相において76条の小断層を観察し、応力逆解析を実施した。小断層のうち、25条について断層方位・滑り方向・滑りセンスが確認できた。そのほか滑り方向が不明なデータを51条取得した。解析はHough変換による応力逆解法 [1]を用いた。解析の結果、青島相全域において、ほぼ鉛直方向のσ1軸とNW–SE方向のσ3軸が検出された。宮崎層群北部においてもE–WからNW–SE方向のσ3軸が報告されていることから [2]、これは宮崎層群全域に共通すると考えられる。一方で、青島相と宮崎相の境界付近では、上記の応力方向に加えてNE–SW方向のσ3軸が検出された。境界付近の宮崎相においても同様のσ3軸が報告されていることから [2]、この応力方向は青島相と宮崎相の境界に固有のものである可能性が高い。この境界付近の特異な古応力は、九州―パラオ海嶺の沈み込みに起因すると考えられる。宮崎層群全域に見られる古応力は、海溝に直行したσ3軸であり、プレート沈み込みやスラブロールバックに起因すると考えられている [2]。一方で、境界付近で検出された古応力は、σ2軸が九州―パラオ海嶺の沈み込み方向と並行であり、この地域へ海山が沈み込むことによってσ2軸の方向が局所的に変化したことを示唆する。 青島相の局所的な隆起は、南九州地域の反時計回り回転運動と、九州―パラオ海嶺の沈み込みに起因すると考えられる。約200万年前、宮崎層群を含む南九州地域は、約30°の反時計回り回転運動を経験した [3]。この際、南九州地域は3つのブロックに分かれて回転し、その境界の1つが宮崎相と青島相の境界に一致する。したがって、青島相は他相と異なるブロック上で独立して運動したと考えられる。また九州―パラオ海嶺は、宮崎層群堆積途中の5 Ma頃に宮崎沖で沈み込み始め、現在は宮崎層群の直下に沈み込んでいる。青島相の局所的な隆起は、海山沈み込みとそれに伴う海山の局所的なアンダープレートによって引き起こされたと解釈できる。 宮崎層群の局所的な隆起とそれに付随する断層運動は、海嶺沈み込みの痕跡を記録している可能性がある。 参考文献 [1] Yamaji+, Journal of Structural Geology 28, 980-990, 2006. [2] Yamaji, Tectonophysics 364, 9-24, 2003. [3] Kodama+, Geology 9, 823-826, 1995.

  • 小林 健太, 石井 拓也, 馬 寅瀚, 林 宏樹, 林 茉莉花
    セッションID: T8-O-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    応力逆解析は多数の小断層について姿勢とセンス(以下,スリップデータ)を測定し,応力を求める手法である.その結果を,より広域で認識されている応力変遷と比較することにより,変形ステージ区分がなされてきた.しかしながら,それが時間・空間的にどの範囲で一定なのか,必ずしも明確ではない.そこで,中新世〜更新世の堆積岩・火山岩類が分布し,東西ないし北西-南東圧縮が進行する,新潟県新津丘陵に形成された小断層を対象に,性状の記載と応力逆解析を行った.なお,本研究は新潟大学と原子力規制庁の共同研究「断層の成因評価に関する基礎的研究」の一部として実施した.金津地域に分布する上部中新統〜鮮新統金津層について,9露頭を調査した.100条以上の断層を記載し,約80セットのスリップデータを得た.主に砂岩泥岩からなる地層は北方に中角度で傾斜する.断層は北または南傾斜であり,累重する地層を切断しながら連続,数cm-10数cm程度の傾斜隔離を与える.ほとんどは断層ガウジを伴わない.また,連続性は悪いが群集し,個々の隔離は小さいものの,表面に条線が観察され断層と判断されるもの(以下,“割れ目”)が識別された.さらに,断層ガウジを伴う複数の断層が並走し,変位量が数mを示すものがある.下盤の地層が連続的あるいは分断されつつ引きずられ,断層スミアを形成する.矢代田地域に分布する更新統矢代田層については,約20セットのスリップデータを得た.主に未固結の砂からなる下部層と,礫・シルトからなる上部層に分けられる.ともにほぼ水平ないし北西に緩傾斜する.断層は下部層では北西,上部層では北東あるいは南西に傾斜するものが多い.取得したスリップデータについて,当地域の先行研究である冨田・山路(2001)と同じ条件で多重逆解法を用いて応力解析を行った.金津層からの結果として,σ1は共通して鉛直,σ3は1)基円上に分布(一軸短縮),2)北北西-南南東,3)北東-南西を各々示し,3つのクラスターが識別された.“割れ目”ではクラスター3,それを除いた断層ではクラスター2が卓越する.一方,大変位を示す断層では,σ3が東北東-西南西を向く(一軸伸長).矢代田層下部の結果は異質であり,σ1が低角度で北東-南西を向く応力(一軸短縮)が,最も多くのデータを説明する.矢代田層上部のデータは少ないが,σ1は鉛直,σ3は北北東-南南西を向く結果となった.断層の表面(鏡肌)を実体顕微鏡および卓上型SEMで,断層ガウジ帯を挟在する試料をX線CTを用いて,それぞれ観察した.“割れ目”上には不連続なくぼみ状の条線が形成され,直線的な溝は認められない点で,一般的な条線とは異なる.X線CT画像では,微細な剪断面やガウジ帯が明瞭に識別できることを確認した. 金津層から認識した応力(クラスター)1・2・3は,冨田・山路(2001)の応力A・B・Cに,各々対比される.応力AはBに付随して現れた見かけ上のものとされたため,応力1も同様と考える.彼らは各応力が卓越する断層の性状を示していないが,今回それがなされたことになる.応力Cは矢代田層からも認識されることからその堆積後,認識されない応力Bは堆積前との考察にはほぼ同意する.彼らが図示したデータ採取地点は矢代田層の下部層(〜0.61Ma:村松,2007)であるが,我々が応力3を得たのは,同上部層であり,応力3はより新期まで継続した可能性がある.同時に,“割れ目”はそれ以外の断層に切断される場合もあり,応力2と3は共存した期間があると考えられる.なお,我々が同下部層から得た応力の意義については,現時点で合理的な解釈に至っていない.いずれにせよ,現在の広域応力場とは異なる応力を被った断層,あるいは別の成因による断層等が,最近まで形成されていた可能性が高い. 文献: 冨田 智・山路 敦,2001,共役断層による小断層解析はすべて誤りか? 新潟県新津丘陵における多重逆解法と共役断層法との比較.地質雑,107,711-721. 村松敏雄,2007,新潟市新津丘陵に分布する凝灰岩及び火山岩のフィッション・トラック年代.フィッション・トラックニュースレター,第20号,44−47.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    細川 貴弘, 橋本 善孝, 乾 宏樹, 本田 和輝
    セッションID: T8-O-8
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    はじめに   高い流体圧は有効法線応力を減少させるため、断層挙動に大きな影響を与える。しかし、沈み込みプレート境界浅部(<2.5km)を除いて、沈み込みプレート境界に沿った流体圧比を定量的に制約した例はほとんどない(Tobin and Saffer, 2009)。そこで、本研究では、西南日本白亜系四万十帯横波メランジュを対象にメランジュ形成に伴い発達したと考えられる伸長鉱物脈に応力逆解析を行い、メランジュ形成時の応力場を明らかにした上で、流体包有物解析と岩石破壊理論を組み合わせた手法(Hosokawa and Hashimoto, 2022)を用いて沈み込みプレート境界の流体圧比の制約することを目的とする。 地質概説   本研究対象地域は、白亜系四万十帯に属する横浪メランジュであり、主に砂岩からなるブロックと黒色頁岩からなるマトリックスで構成されている。このメランジュ構造を切る剪断脈は流体包有物解析により、温度・圧力が約175-225℃、約143-215MPaと推定されている(Hashimoto et al., 2012)。本研究で対象にする伸長鉱物脈は、2つの種類に分類することができる。1つ目は砂岩ブロックの長軸に対し高角に発達している伸長鉱物脈(Type 1鉱物脈)、2つ目は砂岩ブロック周囲のマトリックスに発達する伸長鉱物脈(Type 2鉱物脈)である。 手法  本研究では、まずType 1 鉱物脈とType 2鉱物脈に対して応力逆解析を行い、応力場と駆動流体圧比(P*)を推定した(Yamaji and Sato, 2011, Yamaji, 2016, Faye et al., 2018)。P*は、伸長鉱物脈形成時の最大過剰流体圧(ΔPo)を差応力で正規化したものである(Otsubo et al., 2020)。さらに、砂岩ブロックが回転していないか検討するため、応力角距離を用いて2つの応力場を比較した(Yamaji and Sato, 2019)。次に、Type 1鉱物脈に対し流体包有物解析を行い、鉱物脈形成時の温度・圧力を推定した。最後に、応力逆解析から推定されるP*と岩石破壊理論から制約される鉱物脈形成時の流体圧の上限と下限がそれぞれ流体包有物から推定される流体圧の最大値と最小値と一致する時の鉱物脈形成時の深さと岩石引張強度を制約する(Hosokawa and Hashimoto, 2022)。 結果・議論  Type 1鉱物脈とType 2鉱物脈からともに正断層応力場が得られ、応力角距離から砂岩ブロックは回転していないと言える。また、流体包有物解析から鉱物脈形成時の温度・圧力は、約175-203.5℃、約171.2-217.9MPaと推定された。そして、正断層応力場での岩石破壊理論と推定されたP*、流体包有物から推定される流体圧から、鉱物脈形成時の深さは、約7.9km、岩石引張強度は約11.7MPaと制約された。さらに、推定された深さ、岩石引張強度と流体圧から、流体圧比が約0.83-1.05、最大差応力が約46.8MPaと制約することができる。 流体包有物解析から推定されるType 1鉱物脈と剪断脈の形成時の流体温度が重なることから、延性変形と脆性変形が混在していることが示唆され、横浪メランジュは沈み込みプレート境界の延性-脆性遷移帯に相当すると考えられる(Hashimoto and Yamano, 2014)。 本研究結果により、現在の沈み込みプレート境界浅部(<2.5km)と同様に延性-脆性遷移帯(約7.9km)においても高い流体圧比が示され、沈み込みプレート境界地震発生帯上端まで高い流体圧比と低い断層強度が維持されていることが示唆される。 引用文献Tobin and Saffer, 2009, Geology, 37, 679.Hosokawa and Hashimoto, 2022, Scientific Reports, 12, 14789.Hashimoto et al., 2012, Island Arc, 21, 53-64.Yamaji and Sato, 2011, Journal of Structural Geology, 33, 1148-1157.Yamaji, 2016, Island Arc, 25, 72-83.Faye et al., 2018, Journal of Structural Geology, 110, 131-141.Otsubo et al., 2020, Scientific Reports, 10, 1-8.Yamaji and Sato, 2019, Journal of Structural Geology, 125, 296-310.Hashimoto and Yamano, 2014, Earth, Planets and Space, 66, 1-9.

  • 【ハイライト講演】
    山路 敦
    セッションID: T8-O-9
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    岩脈や鉱脈などの裂罅(dilational fracture)や断層などの地質構造を観察して,それらができた時の応力状態を実証的に推定する技法が応力解析である. 応力解析の開祖はAnderson [1–3]ということになっている.確かに彼の教科書には地質図規模の数条の断層から推定した応力軌跡図が一つだけ掲げられている.この図は差し渡し数百kmのほぼ一様な応力場が存在したことを示唆し,また,既知の断層達の活動が応力概念で説明できることを示した.しかし1942年の教科書は,ほとんど影響力をもたなかった.1950年になっても平行岩脈群を応力の現れとしない論文が出ていた[4]. 応力概念を含め連続体力学は20世紀を待たず地質学に導入されていたが[5],応力解析にとって20世紀前半は空白期だった.その間に進められたのは.応力概念を援用した地質構造形成の説明または理解である.すなわち正・逆・横ずれ断層を説明[1],裂罅形成の説明[6],環状岩脈を説明などである[2].岩脈群の放射状・平行状遷移についてのOdé論文もこの系列である[7]. 応力解析の研究に火をつけたのは,戦後復興のための世界的な資源需要だったのではないか.地下構造について表層で得られる情報はいつも断片的で資源探査に不十分である.構造形成の力学を理解することで,それを補うことができるだろうというビジョンが1950年代に広まったのである[8–11].その実現のため,岩石物性の研究も進んだ.のちには防災や地層処分からの需要も生まれた.断層の共役性を積極的に使うことを説いたGzovsky [12]と,1942年版とほぼ同じ内容のAndersonの1951年の本が,応力解析の研究を始動させた.先行したのはソ連と日本だった.Stevens-Anderson流「岩脈法」による研究は若干あったが[14],70年代半ばに逆解法が導入[13]される頃まで,西欧や米国での応力研究は不活発だっいた.応力解析の方法論的研究が進んだのは70年代末からである. しかし,具体的地質体を相手にしたテクトニクスの力学の建設が難しいこと,このことがしだいに理解されるようになった.仮想的物体であれば,数値実験や室内実験により,その振る舞いを今や定量的に論ずることができる.しかし,観測の不完全性を補うものにはなっていない.テクトニクスは非線形性の高い一種の不安定現象であり,観測にかからない小さな亀裂や不均一が,現象の運命に決定的に効くからである.個別具体的な地質体の構成や振る舞いを予言するには,決定的な情報が不足している.地質図規模の具体的地質構造の形成を理解したいという,20世紀の地質学の夢は実現していない. 他方では最近40年ほどのあいだに応力解析の方法論的な研究は進み[15–17],利用できる構造も今や断層・裂罅のほか双晶など多様である.過去の応力場を実証的に明らかにする手段が豊富に提供されるようになったからこそ,それらを利用して,ふたたび地質図規模の構造形成の力学建設に挑んでほしいものである.それには,応力解析だけでなく,地質図規模の4次元的な構造把握にくわえ,系のごく一部から全体の大局的振る舞いを理解する物理の発展が必要かもしれない.これらは筆者自身,望んで到達できなかったことだった.文献 [1] Anderson, 1905, Trans Edinburgh Geol Soc 8, 387; [2] ―, 1936 Proc Roy Soc Edinburgh 56, 128; [3] ―, 1942, The Dynamics of Faulting and Dyke Formation with Application to Britain. Oliver & Royd; [4] Lister & Allen, 1950, GSA Bull. 61, 1217; [5] Becker, 1893, GSA Bull 4, 13; [6] Stevens, 1911, Bull Am Inst Min Eng 49, 1; [7] Odé, 1957, GSA Bull 68, 567; [8] Gzovsky, 1954a, Izd AN SSSR 3, 244; [9] Bederke et al., 1964, Tectonophysics 1, 1; [10] 平山, 1966, 地質雑 72, 91; [11] 藤田, 1966, 構造研会誌 1, 1; [12] Gzovsky, 1954b, Izd AN SSSR 5, 390; [13] Carey & Brunier, 1974, CR Acad Sci Paris D279, 891; [14] King, 1961, USGS Prof. Pap. 424B, 93; [15] 山路, 2001, 地質雑 107, 461; [16] ―, 2012, 地質雑 118, 335; [17] 佐藤他, 2017, 地質雑 123, 391.

  • 羽地 俊樹, 宮崎 一博
    セッションID: T8-P-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    貫入岩の方向からそれらの定置時の古応力を推定する手法は岩脈法と呼ばれる(山路,2012).近年の岩脈法では,貫入面の極の集中方向が古応力の最小圧縮主応力軸に近しいものとみなされる.これは,法線応力の小さい面ほど貫入面として選択されやすいという考えによる.しかし,母岩に強い異方性が存在する場合には貫入方向はそれに支配される場合があり(Gudmundsson, 2020),岩脈法の適用には注意を要する.本研究では,異方性の強い岩石を母岩とする岩脈群と古応力の方向の関係について,フィールドデータを基に検討した高岩流紋岩の岩脈の研究例を紹介する.高岩流紋岩は,四国中央部に位置する中期中新世の珪長質火成岩体で,主岩体とその周辺部のENE-WSW走向の岩脈群からなる(沢村ほか,1964; 梅原ほか,1991).母岩は,三波川変成作用を被り片理の発達した千枚岩や片岩類で,ENE-WSW方向を軸とするアンチフォームをなす(脇田ほか,2007).高岩流紋岩の岩脈群の方向は,かつて西南日本の広域応力場の研究で参照された(小林, 1979).しかし,その走向が母岩の三波川変成岩類の構造と調和的であることから,この岩脈群をアンチフォームの軸部の引張割れ目に貫入したものとした研究例(沢村ほか,1964)や,母岩中の構造線に貫入したものとみなした例(石井ほか,1957)もあり,本岩脈群と母岩との関係や当時の応力場については再検討が必要であった.そこで我々は高岩流紋岩の岩脈について,分布や貫入姿勢と母岩の構造との関係の精査を行い,岩脈の方向の規制者や古応力状態について検討した. 調査の結果,37枚の貫入岩において母岩との境界構造を観察できた.貫入岩は母岩の地質図規模の褶曲の軸部だけでなく翼部にも認められ,褶曲構造に無関係に貫入していることが明らかとなった.また,母岩の層構造に完全に調和的な貫入岩(岩床)と断層に貫入した貫入岩はそれぞれ1枚ずつで,残りの35枚は母岩の面構造や岩脈定置前の断層を切って貫入していた.これらの結果から本岩脈群の姿勢は母岩の構造(片理面・褶曲構造・断層)に規制されたものではないと判断される.測定した岩脈群の方向に混合ビンガム分布法(Yamaji and Sato, 2011)を適用し,NNW-SSE方向の引張応力を得た. 瀬戸内や四国および紀伊半島中央部には,高岩流紋岩の岩脈群の他にも中期中新世の平行性の良い岩脈群が存在し,それらはみな島弧に平行な方向を持つ(例えば,楠橋・山路,2001;Tatsumi et al., 2001).本研究の結果は,これらの岩脈群の方向が西南日本の地帯構造に規制されたものではなく,島弧直交方向の引張応力場によるものであることを示唆する. <引用文献> 石井ほか,1957, 地質雑,63, 449‒454. 沢村ほか,1964,高知大学研報,13, 1‒13. 小林,1979,火山第2集,24, 203‒212. 梅原ほか,1991, 岩鉱,86, 299‒304. 楠橋・山路,2001,地質雑,107, 26‒40. Tatsumi et al., 2001, Geophys. J. Int., 144, 625‒631. 脇田ほか,2007,5万分の1地質図幅「伊野」. Yamaji and Sato, 2011, J. Struct. Geol., 33, 1148‒1157. 山路,2012,地質雑,118, 335‒350. Gudmundsson, 2020, Volcanotectonics, Cambridge University Press. 586p.

  • 佐藤 活志
    セッションID: T8-P-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    露頭規模の地質構造の逆解析によって古応力を求める手法として,小断層解析法と岩脈法が広く普及している.両手法は最近半世紀の間に大きく発展し,決定できるパラメタが増えたり,複数の応力を検出できるようになってきた.逆解析手法にはフォワードモデルが必要だが,現在主流となっている手法のフォワードモデルは,小断層と岩脈とで大きく異なっており,それぞれに利点と欠点がある.小断層解析で用いられるフォワードモデルは,Wallace-Bott仮説(Wallace, 1951; Bott, 1959)である.これは断層の滑り方向が剪断応力と平行であると仮定するもので,構造地質学だけでなく地震学の分野でも広く用いられている.Wallace-Bott仮説の利点は,断層面の方位に関して何ら仮定を設けないことである.これにより,既存の断層の再活動や,岩体中の弱面を利用した活動した断層の解析が可能になっている.なお,その対極にあるのがより古くから用いられている共役断層法である.共役断層法では主応力軸と断層面の成す角が一定であることを期待するので,無傷の岩体に新規に発生した断層しか解析できない.一方で,Wallace-Bott仮説には欠点もある.断層面の方位だけでは応力を何ら制約することができないので,応力の決定精度が低い,摩擦係数を決定できない,複数の応力を検出しようとするときに応力数を決定できないといったことである.岩脈法では,平板状の岩脈の貫入面に直交する方向に引張応力がはたらいたと考えるのが基本である.それならば最小圧縮主応力(σ3)軸に直交する平行岩脈群のみが形成されるはずだが,実際の岩脈群の方位はばらつく.そこで,引張破壊による岩脈の形成だけでなく,既存の割れ目が開くことも想定して,法線応力から流体圧を差し引いた有効応力が負であれば岩脈が形成されると仮定(Delaney et al., 1986)することで,岩脈群の方位のばらつきが説明される.このフォワードモデルを用いることで,3つの主応力軸と応力比の決定が可能になった.また,σ3軸に直交する方位に近いほど岩脈の頻度が増えると考え,岩脈面の方位分布がBingham分布などの確率分布モデルで近似できるという仮定も用いられる.このモデルを混合確率分布モデルに発展させ,情報量規準を用いることで,複数の応力の自動検出が可能になった.なお,小断層解析の場合も複数の応力の検出は可能だが,断層面の方位分布をモデル化しないために情報量規準を利用できず,応力数を自動決定できない.一方で,岩脈法にも欠点がある.既存の弱面を利用した岩脈はあって良いが,貫入前の弱面の方位分布に偏りがあってはならないという制限がある.例えば堆積岩体の層理面は,方位分布に著しい偏りのある典型的な弱面だが,それを利用して貫入した岩床の頻度が多いことと,逆断層型応力のもとで水平な岩床が多数形成されたこととの区別は難しい.以上のように,小断層解析法と岩脈法のフォワードモデルには根本的な違いがあり,それぞれに利点と欠点がある.フォワードモデルはあくまで仮定であるので,その仮定が適用する対象において妥当であるかどうか,検証しながら利用する必要がある.一方,各手法でこれまでとは異なるフォワードモデルを用いることで(それが適用対象において妥当であるならば),より高い精度で応力を決定したり,複数の応力の分離に成功できる可能性がある.例えば,小断層解析において断層面の方位分布に何らかの仮定を設けられるならば,応力数や摩擦係数の決定が可能になるだろう.また,岩脈形成時の変位(開き)方向を観測できるならば,応力の決定精度を向上や,流体圧の見積もりが可能になる可能性がある.Delaney, P.T., Pollard, D.D., Ziony, J.I. and Mckee, E.H., Jour. Geophys. Res., 1986 , 91 , 4920-4938.Wallace, R.E., Jour. Geol., 1951 , 59 , 118-130.Bott, M., Geol. Mag., 1959 , 96 , 109-117.

  • 山路 敦, 本間 健一郎, 越谷 信
    セッションID: T8-P-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    応力軌跡図は、テクトニクス研究の基本的な材料である。現在の応力場であれば、多数地点での水平最大主応力ないし水平最小主応力の方向から、容易にそうした図を描くことができる。しかし、地質学的過去の応力場をあつかう場合は、次の理由でそれは必ずしも容易ではない。すなわち、一ヶ所でえられたデータセットから複数の応力がえられることがしばしばあるにもかかわらず、それらの応力が働いていた時代が不明確なことが多いということである。あつかう対象が断層であれ裂罅であれ方解石双晶であれ、いまやひとつのデータセットから複数の応力を検出する手法がある。隣り合う2地点それぞれで2つの応力が検出されたとすると、どの応力とどの応力を同時期のものとみなすか、それとも、同時期の応力はないと考えるべきか。古応力の軌跡描画では、応力解析で検出された応力達のグルーピングの問題が浮上するのである。 そこで、北部北上帯北西部の大島造山期の岩脈と鉱脈から決定した古応力を材料として、上記の問題にたいする答えを提示する。上記の意味のグルーピングにどんな客観的基準を考えればよいかという問いに答えるheuristicな描画法である。 応力インバージョンにより規格化応力テンソル(主軸の方向と応力比の情報のみをになう)がえられるので、似たテンソルを同時代のものとして応力軌跡線でむすぶというのが、われわれの基本方針である。このとき応力角距離(Yamaji & Sato, 2006)を規格化応力テンソル間の非類似度の使用として使う。すなわち、検出された規格化応力テンソルのすべての組み合わせで応力角距離を計算し、60°よりそれが小さければ同じ時代のものとみなす。この基準を満たすテンソルを紐付けると、応力解析の解のネットワークができる。紐を次々にたどってゆくと、はじめ異時階のものと考えてた解につながる不合理な結びつきも現れる。その場合は、応力角距離の小さい方を選ぶ。こうした手続きにより、与えられたデータセットから誰もが同じ応力軌跡図を描くことができる。 北部北上帯のデータからは、3つの時期の軌跡図が描かれ、岩脈の切断関係からそのうち2つは新旧関係が定まった。大島造山期の火山弧のトレンドを基準に考えると、島弧と平行な引張りのあと、島弧と直交する引張りが働いたことがわかった。前者はおそらく、造山帯の重力崩壊をあらわすか、または、横ずれテクトニクスをあらわすものである。後者は火成活動末期のものである。【文献】Yamaji & Sato (2006) Geophys. J. Int. 167, 933-942.

  • 細井 淳
    セッションID: T8-P-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    棚倉断層帯沿いには、日本海拡大時にその運動によって形成された棚倉堆積盆が分布する.棚倉堆積盆は17–15 Ma頃に短期間の間に,急速な堆積盆の発達と沈降・海進,堆積盆の埋積,隆起が生じた (Hosoi et al., 2020, 2023).しかし,堆積盆の発達を左右した棚倉断層帯の運動については諸説ある.また,正確な年代に基づく堆積盆形成前後の古応力とその変遷については明らかになっていない.応力解析法のうち,岩脈を用いた手法はその応力の時期を岩脈貫入の時期に制約できる.そこで発表者は岩脈を用いた解析を実施し,古応力とその時期の推定を行った.具体的には,棚倉堆積盆埋積物中の男体山火山角礫岩から得られた52条の岩脈を用いた.男体山火山角礫岩の年代は16.6 Ma頃である(Hosoi et al., 2023).応力解析は岩脈の姿勢の分布をビンガム分布に当てはめて推定する手法(Yamaji and Sato, 2011; Yamaji, 2016)を用いた.応力解析の結果,応力比中程度のNW–SE引張応力が検出された.棚倉堆積盆の近傍に分布する栃原流紋岩(約17.2 Ma)からは応力比中程度のWNW–ESE引張応力が得られている(細井ほか,2021).これは男体山火山角礫岩から得られた応力と比較して引張方向が似ており.応力角距離に基づく応力の類似度判定(Yamaji and Sato, 2009)では中程度の類似度(resemble)であった.シンプルに考えれば,栃原流紋岩から男体山火山角礫岩の火山活動まで(約17.2–16.6 Maまで),概ねNW–SE引張応力であったことになる.しかし棚倉堆積盆では丁度その時期に反時計回りのブロック回転運動が生じており(Hosoi et al., 2023),その運動を加味する必要がある.回転運動が生じたブロックの認定と戻す回転量によって,古応力とその変遷は異なる結果になる可能性がある.日本海拡大時には島弧の回転又はブロック回転が生じていることから,当時の正確な古応力を求めるためには,その応力の時代推定だけでなく、回転運動の有無とその時期、回転量の評価が必要になるだろう. 本発表では,別途実施中の小断層解析の予察的結果と考察についても触れ,棚倉堆積盆の応力史と発達史についても議論する. 文献: Hosoi et al., 2020. Journal of Asian Earth Sciences, 104157. 細井ほか, 2021, 地質雑, 395–402. Hosoi et al., 2023. Tectonics, e2022TC007642. Yamaji, 2016, Island Arc, 25, 72–83., Yamaji and Sato, 2009. Journal of Structural Geology, 125, 296–310. Yamaji and Sato, 2011, Journal of Structural Geology, 33, 1148–1157.

  • 林 茉莉花, 林 宏樹, 田中 宗一郎, 小林 健太
    セッションID: T8-P-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    はじめに   断層が構造性の断層であるか非構造性の断層であるかを特定することは、その断層が将来的に活動するかどうかを判断する上で重要である。原子力規制庁では、活断層を含む構造性断層と非構造性断層を識別するための知見を蓄積しており、その中で古海底地すべりとの識別に係る検討を実施している。林ほか(2022)では、阿部ほか(1994)等で古海底地すべりの存在が報告されている秋田県横手市を対象に、断層破砕物質の化学的な性状の違いを検討した。ただし、古海底地すべりの認定は露頭記載の情報のみで判断している。 そこで本研究は、林ほか(2022)で扱った3露頭を対象に古応力解析を実施し、断層面の応力履歴の検討を行った。なお、本研究は原子力規制庁と新潟大学との共同研究「断層の成因評価に関する基礎的研究」の一部として実施したものである。 露頭概説   本研究の対象露頭は、林ほか(2022)で古海底地すべりとして扱った、横手市大屋沼東方の2露頭(S3露頭及びその150m南西にあるS4露頭 )及び横手市北部にある金沢断層の副断層である活断層露頭(細矢ほか, 2018)(F11露頭)である。断層スリップデータは、露頭観察、ボーリング掘削及び定方位ブロック試料から条線を観察することで取得した。 解析条件 S3、S4、F11露頭からそれぞれ63、38、44条の完全断層スリップデータを取得し、露頭ごとに多重逆解法(山路, 1999; Yamaji, 2000)を用いて古応力解析を行った。さらに、露頭内の各小断層について詳細な検討を行うため、S3露頭では露頭とボーリングコア、S4露頭では主断層周辺と副断層群、F11露頭では北面と西面を対象とした応力解析も実施した。また、地層傾動後の活動であることが明らかなF11断層を除き、傾動補正(富田・山路, 2003)を0%、50%、100%の割合で実施し、最適条件を検討した。なお、応力解のクラスターの認定に際し、解析者の主観を可能な限り排除するため、K-meansクラスタリングによる自動決定(Otsubo et al., 2006)を行った。 結果と考察 S3露頭全体の解析では傾動補正の割合に関わらず、σ1は鉛直、σ3は南西~北の応力解が得られた。露頭及びボーリングコアからは傾動補正50%の時に最も説明性の高い応力解が得られたが、露頭において支配的な応力解である鉛直圧縮応力は、ボーリングコアではほとんど見られなかった。これは、地表と地下で記録している応力状態が異なるためであると考えられるが、この理由の検討はできておらず今後の課題である。 S4露頭全体は傾動補正50%、副断層群及び主断層周辺は傾動補正100%の時、最も説明性の高い応力解が得られた。いずれの場合でもσ1が鉛直となる応力解が得られているが、主断層周辺ではσ1が鉛直となる応力よりσ1が北北西-南南東、σ3が北東-南西となる応力の方がクラスターの集中度が良い。この応力は主断層を切断する高角なすべり面を動かしうる応力であることから、重力性の変形の後に一部断層面が再活動したことで条線が上書きされていると考えられる。また副断層群からは、上記以外に4つ応力解が得られており、副断層群は主断層よりも複雑な応力履歴を有すると考えられる。 活断層露頭であるF11露頭全体からは、広域応力を反映したと考えられるσ1は東西、σ3は鉛直となる逆断層性の応力解が得られた。北面では南北圧縮応力がみられ、西面では高角寄り又は南寄りにクラスターの中心が移動するものの、概ね同様の傾向を示す。 S3及びS4露頭は、構造性断層であるF11露頭と異なる応力を記録していることから、非構造性断層であると考えられる。さらにS3及びS4露頭は、150mと近傍にあるにも関わらず応力解が一致しないため、それぞれが局所的な応力を記録していると考えられること、広域応力である東西方向の圧縮又は引張応力(中嶋, 2018)が見られず、鉛直圧縮応力が見られることから地すべり起因の断層である可能性が高い。 引用阿部ほか(1994)応用地質, 35, 5, 15-26.林ほか(2022)地質学会要旨, G8-P-1.細矢ほか(2018)地質学会要旨, R22-O-18.中嶋(2018)地質学雑誌, 124, 693-722. Otsubo et al. (2006) J. St. Geol., 28, 991-997.冨田・山路(2003)情報地質, 14, 85-104. 山路(1999)構造地質, 43, 79-88. Yamaji(2000)J. St. Geol., 22, 429–440.

  • 竹山 翔悟, 高木 秀雄
    セッションID: T8-P-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【はじめに】 伊豆弧衝突帯はフィリピン海プレート上にのる伊豆弧と大陸側のプレートにのる本州弧との衝突が現在も進行中のプレート収束境界である.伊豆弧の衝突テクトニクスを明らかにするためには,衝突帯の地質構造に残された変形から推定される古応力方向の情報は重要な手がかりの一つになる.ここでいう変形には断層,岩脈,鉱物脈,石英中のマイクロクラックなどが含まれる.本研究ではプレート境界を構成する断層の一つである神縄断層より南側に分布する更新統足柄層群中の小断層に着目した.2022年の地質学会おいて,足柄層群中の安山岩脈群から推定した古応力方向について報告したが (竹山・高木, 2022),今回は足柄層群中の小断層を対象に古応力解析を行った.岩脈群から得られた古応力方向や先行研究との比較を交え,小断層を対象に古応力解析した結果を報告する. 【手法】 本研究では神奈川県南足柄市,山北町,松田町にまたがる地域を調査範囲とし,断層スリップデータの収集を行った.応力逆解法における断層スリップデータセットは,断層面の姿勢,すべり方位 (条線)の姿勢,剪断センスの3つの要素からなるが,露頭状況などによっては条線の方位もしくは剪断センスを判定できない場合がある.3つの要素を認定できたデータをfullデータ,条線の方位もしくは剪断センスが欠けているデータをline only データ,sense only データとして扱い,両者を混合して解析することができる応力逆解法の一つであるHough法 (Yamaji et al., 2006; Sato, 2006) を適用し解析を試みた.【結果】 本研究における地質調査と研究室卒業生の成果 (北垣・高木, 2019)と合わせて,計43条の断層スリップデータを対象にHough法を用いて解析を行った.43条のうち,22条はfullデータ,21条はline only データである.なお足柄層群は全体として北北西にプランジした背斜構造をなしているが,小断層の活動は褶曲形成よりも後と仮定し,小断層スリップデータに対し構造的な補正は行っていない.図にはEnhance=0.8におけるσ1軸とσ3軸の解析結果とそれらを最もよく説明する応力解を示す.σ1軸はほぼ鉛直方向を,σ3軸はNW-SE方向を示し,応力比は0.5程度であった.また求めた解で説明できると考えられるミスフィット角が30°以下の断層は43条のうち18条であった.【議論】 先行研究の天野ほか (1986)では足柄層群中の小断層について共役断層法から,おおむねNW-SE方向のσ1,鉛直方向のσ2,NE-SW方向のσ3を求めている.また北垣・高木 (2019)では神縄断層および周辺の小断層33条を対象にHough法を用いた応力逆解析から,NW-SE方向のσ1,NE-SW方向のσ2,E-W方向のσ3を求めており,これらの結果と本研究は異なる結果になった.一方,竹山・高木 (2022)では足柄層群中の岩脈群について混合ビンガム分布を用いて一つのクラスター;鉛直方向のσ1,NW-SE方向のσ2,NE-SW方向のσ3を検出した.これらの結果は異なる応力ステージを反映しているものなのか,どのような変遷をたどってきたのかについて議論する. 【文献】竹山翔悟・高木秀雄, 2022, 日本地質学会第129年学術大会講演要旨, 237.; 北垣直貴・高木秀雄, 2019, 日本地質学会第126年学術大会講演要旨, 518.; Yamaji, A., Otsubo, M. and Sato K., 2006, J. Struct. Geol., 28, 980–990.; Sato, K., 2006, Tectonophysics, 421, 319–330.; 天野一男・高橋治之・立川孝志・横山健治・横田千秋・菊池 純, 1986, 北村信教授退官記念: 地質学論文集, 7–29.

  • 酒井 亨, 高木 秀雄
    セッションID: T8-P-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    神奈川県三浦半島南端に位置する城ヶ島では大正関東地震(1923年,M7.9)の際に生じた隆起海食台が発達し,後期中新世~前期鮮新世の三崎層および初声層が露出する.また,これらの岩相を切る多数の小断層が発達しており,断層面や切り合い状況を比較的容易に観察できる.小玉(1968)はこれらの小断層を共役断層法で解析し,古応力を復元した.しかし,昨今は複数の応力を同時に検出できる応力逆解析手法が広く用いられており,城ヶ島においてそれらの手法による検討は現在のところ行われていない.そこで著者らは応力逆解析手法である多重逆解法(Yamaji,2000)とHough法(Yamaji et al.,2006;Sato,2006)を用いて,城ヶ島に生じた古応力の再検討を進めている. 城ヶ島南西部の三崎層分布域を調査範囲とし,小断層の断層スリップデータを計測した.地層の隔離と断層条線が明瞭のため,計測対象とした全ての小断層において,断層面と条線の姿勢および剪断センスのフルデータを取得した.小断層は北東‒南西走向・高角南傾斜が最も卓越し,北東‒南西走向・高角北傾斜や,西北西‒東南東走向・高角傾斜や南‒北走向・高角傾斜のものが見られる.合計78個の断層スリップデータを取得し,多重逆解法(Yamaji,2000)で解析した結果,応力Aと応力Bの2つの有意な応力状態が検出された.応力Aはσ1がほぼ鉛直,σ3が東‒西にほぼ水平,応力比(Φ = σ2–σ31–σ3)は0.2,応力Bはσ1が東‒西にほぼ水平,σ3がほぼ鉛直,応力比は0.7である. 小玉(1968)は断層を逆断層系のa系統,正断層系のb~d系統に分類しており,城ヶ島南西部に発達する東南東方向に低角度傾斜の軸を持つ向斜構造(以下,城ヶ島向斜)の形成後に,逆断層系,正断層系の順に発達したとした.城ヶ島向斜と三浦半島南端部を東‒西に走る剣崎背斜(三梨ほか,1979)は褶曲軸方向が一致することから,両者は同時期に形成されたと考えられる.本研究で取得した断層スリップデータは城ヶ島向斜の両翼で違いが見られないため,小断層は褶曲構造の形成後に発達したと考えられる.また,剣崎背斜の褶曲軸は剣崎地域で東に20~30°,城ヶ島付近で西に10~40°でプランジしており(国安,1981),背斜形成後に東‒西圧縮応力が生じたことが示唆される.本研究で復元した応力Bは東‒西圧縮の逆断層型であり,これらの応力を反映している可能性がある.【引用文献】小玉喜三郎,1968,地質雑,74,256‒278.国安 稔,1981,構造地質研究会誌,26,117‒126.三梨 昂ほか,1979,特殊地質図(20)(1:10万)および同解説書,地質調査所.Sato, K.,2006,Tectonophysics,421,319‒330.Yamaji, A.,2000,J. Struct. Geol.,22,441‒452.Yamaji, A.,Otsubo, M. and Sato, K.,2006,J. Struct. Geol.,28,980‒990.

  • 向吉 秀樹, 内田 嗣人, 市村 正如, 吉田 歩夢, 香川 加奈, 吉崎 那都, 金本 翔真
    セッションID: T8-P-9
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    2000年鳥取県西部地震(M7.3),2016年鳥取県中部地震(M6.6),2018年島根県西部地震(M6.1)など,活断層が報告されていない場所で中―大規模の内陸型地震が度々発生している.これらの地震はいずれも近年のGNSS観測によって,周囲よりひずみ速度の速いひずみ集中帯(山陰ひずみ集中帯:Nishimura &Takada, 2017)内で発生している.このうち,2000年鳥取県西部地震余震域においては,Uchida et al. (2021)において,余震域を網羅するような地質踏査が行われ,余震域内に高密度に小断層が発達しており,これらの断層が複数の応力場を経て形成し,現在の応力場と調和的な応力場を示すものも認められることを報告している.本研究では,山陰ひずみ集中帯周辺においてより広範囲の調査を行い,2016年鳥取県中部地震(M6.6),2018年島根県西部地震(M6.1)など他の余震域の小断層が示す応力場や,ひずみ集中帯外の岩石が記録している背景古応力場との関係について明らかにすることを目的とした調査を実施した.調査は,Uchida et al. (2021)が報告している2000年鳥取県西部地震余震域の小断層調査と同様に,2016年鳥取県中部地震余震域,2018年島根県西部地震余震域周辺に露出する小断層を対象に断層姿勢およびすべりデータの取得を行った.また,ひずみ集中帯外の小断層が記録している背景古応力場の調査対象として,ひずみ集中帯北側に位置する松江市宍道湖南岸および島根半島東部における調査を行った.さらに山陰ひずみ集中帯と同様に断層地形に乏しいひずみ集中帯して,向吉ほか(2018)で報告されている南九州せん断帯内の小断層露頭の断層が示す応力場との比較も行った. 調査対象地域である, 2016年鳥取県中部地震(M6.6),2018年島根県西部地震(M6.1)には,おもに白亜紀後期~古第三紀の花崗岩類が露出する.ひずみ集中帯外の調査対象地域である松江市宍道湖南岸および島根半島東部には,おもに中新世の堆積岩類及び火山岩類が露出する.南九州せん断帯内の小断層露頭周辺には,白亜系四万十帯中に貫入する中新世花崗閃緑岩が露出する. 調査の結果, 2016年鳥取県中部地震(M6.6),2018年島根県西部地震(M6.1)の両余震域の小断層は,Uchida et al. (2021)が報告している2000年鳥取県西部地震余震域の応力解析結果と同様の複数の応力場を示し,東西または南北引張の正断層型応力場が卓越するが,同地域における現在の応力場(Kawanishi et al.,2009)と調和的な東西圧縮南北引張の横ずれ型応力場も認められた.ひずみ集中帯の範囲外では,現在の応力場と調和的な応力場は認められず,主に正断層型の応力場および南北圧縮東西引張の横ずれ応力場を示した. ひずみ集中帯内の小断層から推定された現在の応力場と調和的な応力場は,現在の応力場において,ひずみ集中帯内の断層が活動し,地表付近の小断層にもその変位が及んだ痕跡を示している可能性がある.山陰ひずみ集中帯の比較として調査した南九州せん断帯内の断層に関しては,基盤の花崗閃緑岩から喜界アカホヤテフラを含む第四紀層を切り,地表まで到達する小断層において,現世応力場と調和的な応力場を示す断層すべりが認められる.この断層が示すすべり方向は,喜界アカホヤテフラ堆積以降の断層すべり方向を示すといえる.周辺の小断層の中には,第四紀層を切らないものもある.これらの断層のすべりを示す断層条線のプランジはやや高角となっており,現世応力場以前の応力場を反映していると考えられる. 今回取得した山陰ひずみ集中帯内の断層すべりデータに関しては時間軸がないが,南九州せん断帯中の断層の例や,2000年鳥取県西部地震に伴い,横ずれの変位を示す変状が地表に露出した例(伏島ほか,2001)を踏まえると,現世応力場と調和的な応力場を示す断層は,現世応力場で生じた断層すべりを反映している可能性が高いと考える.断層地形に乏しいひずみ集中帯においては,断層が未発達の状態にあり,震源域で生じた断層変位が地表付近では複数の小断層によって分散すると指摘されている(例えば 岡田,2002).本研究で確認された,現在の応力場と調和的なすべりデータを示す小断層は,現在の応力場で活動した地殻内の断層変位が地表付近まで到達し,地表の小断層で変位を分散した痕跡をみているのかもしれない.

  • 内田 嗣人, 向吉 秀樹, 藤内 智士, 山口 昌克, 小林 健太
    セッションID: T8-P-10
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    地形学的特徴に基づく活断層の認定は,断層の発達過程の理解や地震防災上きわめて重要である(例えば,Wesnousky, 1988; 活断層研究会,1991).一方で,世界中のみならず日本国内でも,地形学的に活断層が認識されていない地域において,中規模~大規模地震が発生している(例えば,Uhrhammer and Bolt, 1991; Fukuyama et al.,2003; Kubo et al., 2017; Nie et al. 2018).このような地形学的情報が乏しい地域においては,小断層の分布や性状が地震活動を反映している可能性があると考えられる. 本研究では,地形学的に活断層が不明瞭な地域であったにもかかわらず内陸地震が発生した2000年鳥取県西部地震の余震域を対象として,フィールドで観察される小断層に着目し,小断層の性状の記載と古応力解析,断層ガウジのXRD分析およびK-Ar年代測定結果に基づき,広域的な地殻応力場と小断層群の発達過程,2000年鳥取県西部地震との関係を議論した.  調査地域の地質は主に約65Maの根雨花崗岩類から成り,多数の節理と7-1Maに貫入した横田単成火山岩群起源の玄武岩~安山岩質岩脈および中新世に貫入したと考えられる少量の流紋岩質岩脈が観察される.小断層の多くは,mm~cmスケールの断層幅を持ち,それらは節理や岩脈に沿って発達している.また,小断層はしばしば岩脈を切断している様子が確認される.これらの小断層から不完全なスリップデータを取得し,古応力解析を行った(Yamaji et al. 2006; Sato 2006).また,断層ガウジのK-Ar年代測定とXRD分析は,4つの粒径(< 0.2μm,0.2–0.5μm,1.0–2.0μm,0.5–1.0μm)に分離した試料に対して実施した.最も細粒なフラクションでは母岩起源のカリ長石などの混入が少なく,自生イライトの量が増加することを確認し,これを断層ガウジの生成年代と解釈した.  本調査地域の小断層および貫入岩から推定される古応力場は,(1)N-S圧縮―E-W伸長の横ずれ断層型~正断層型応力場,(2) NE–SW伸長の正断層型応力場, (3)E-W圧縮N-S伸長の横ずれ断層型応力場から成る.(1)で説明される小断層の断層ガウジから得られたK-Ar年代結果は約26Maを示し,日本海拡大期に形成されたと考えられる.(2)は7-1Maに貫入した横田単成火山岩群起源の岩脈から推定された応力場である.また,小断層と貫入岩の切断関係に基づくと,(3)は7-1Ma以降の応力場であると考えられ,これは地震学的に推定された現在の中国地方の広域応力場(Kawanishi et al., 2009)と調和的である. 上記のような応力場の整理に基づくと,2000年鳥取県西部地震余震域の小断層群は,日本海拡大期に既存の節理に沿って発達した小断層の一部が,貫入岩の形成以降に再活動したと考えられ,その活動は近年まで続いている可能性がある.また断層の変位量と断層破砕帯の幅の関係に基づくと,本調査地域の小断層は,地形学的に不明瞭であることと調和的である.本研究の成果は,地形学的に活断層が不明瞭な地域において,地質学的情報から構築された地殻応力の評価が断層の発達過程の理解に貢献するだけでなく地震防災上も重要であるということを提案する.

T9.マグマソースからマグマ供給システムまで
  • 【ハイライト講演】
    村岡 やよい, 宮崎 一博
    セッションID: T9-O-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    北部九州には白亜紀に活動した花崗岩類が広く分布する.これらの花崗岩類は岩相や貫入関係,ジルコンの性質,年代などから17岩体に大別され(大和田・亀井,2010など),その後にも各花崗岩体についての詳細な調査が進められている.例えば,福岡県添田町や京都郡みやこ町周辺に産する添田花崗閃緑岩はその岩石学的特徴・年代・同位体比組成から,落合花崗閃緑岩と伊良原花崗閃緑岩で構成される複合岩体であることが明らかになるなど(柚原ほか2019,2020など),岩体区分が見直された例もある.また,堤・谷(2022)は北部九州花崗岩類のジルコンU-Pb年代を多数報告した.その中で,花崗岩体ごとにジルコンU-Pb年代のまとまりがあることを指摘する一方で,糸島花崗閃緑岩と深江花崗岩はサンプルごとに年代がばらつくことから,岩体区分の再考の余地があることも指摘されている(堤・谷,2022). 糸島花崗閃緑岩は北部九州花崗岩類の中でも最大の分布面積(東西約60km,南北約35km)を誇り,糸島半島から脊振山地にかけての広い範囲に分布する.背振山地南部では深江花崗岩と漸移関係にあり,累帯深成岩体を形成している(矢田・大和田,2003;大和田・亀井,2010).特に糸島花崗閃緑岩に関して,この大規模な花崗岩体が1度のマグマ活動で形成されたものなのか,同一岩体なのかは疑問視されることもあった. 現在,産業技術総合研究所地質調査総合センターでは5万分の1地質図幅「前原及び玄界島」を作成中である.「前原及び玄界島」地域は福岡県西部に位置する糸島半島周辺を区画としており,図幅範囲(南北約25 km x 東西約23 km)内には北部九州白亜紀花崗岩類の内,北崎花崗閃緑岩・志賀島花崗閃緑岩・糸島花崗閃緑岩・深江花崗岩・早良花崗岩が分布する.各岩体の分布の概要は,糸島半島北部に北崎花崗閃緑岩とこれに貫入する志賀島花崗閃緑岩,間に変成岩を挟みその南には糸島花崗閃緑岩とこれに貫入する深江花崗岩及び早良花崗岩である.北崎花崗閃緑岩と糸島花崗閃緑岩はいずれも三郡蓮華変成岩に貫入し熱変成を与えている.糸島花崗閃緑岩は図幅内に最も広く産する岩体である.図幅調査にて,従来糸島花崗閃緑岩分布するとされてきた地域に糸島花崗閃緑岩とは記載岩石学的特徴が異なる岩体を見出し,これらを姫島花崗閃緑岩と立石山花崗岩の2岩体に区分した.本発表では図幅調査にて得られた知見,特に新たに区分した2岩体の特徴を紹介する.さらに,地質調査およびその他分析で得られたデータを基に,北部九州最大の面積を誇る糸島花崗閃緑岩の岩体区分と細分化の可能性について考察する.【参考文献】・大和田・亀井(2010)日本地方地質誌8:九州・沖縄地方,304-311.・柚原ほか(2019)地質学雑誌,125,405-420.・柚原ほか(2020)地球科学,74,83-98.・堤・谷(2022)日本地質学会(要旨)・矢田・大和田(2003)地質学雑誌,109,518-532.

  • 中島 隆
    セッションID: T9-O-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    フレアアップでは多くの地域で火山深成岩帯として観察されるが、大規模なものでは現在の地表でその地点の火山深成活動の累積結果を観察することになり、地表地質や年代学的分解能の限界から個々の火山深成岩複合体を判別することが難しいことが多い。しかし近年ジルコンU-Pb年代測定の技術がめざましく進歩し、その地質学的分解能が大幅に向上したことにより、フレアアップの実態がある程度描述できる部分も見えてきた。本発表ではそのような例を紹介する。 西南日本では2回のフレアアップが知られている。中期中新世の外帯花崗岩区と白亜紀〜古第三紀の領家山陽山陰帯花崗岩区の活動である。 中新世外帯花崗岩のフレアアップは西南日本全域にわたる同時多発的な活動で、そのすべてが13.5-15.5Maという非常に短期間に発生し終了している(Shinjoe et al., 2019)。花崗岩類の産状はバソリス、ストック、火山深成岩複合体と多様であるが、いずれも浅所貫入と考えられている。火山深成岩複合体を構成する珪長質火山岩類の多くはカルデラフィル、花崗岩体はリサージャントのマグマ貫入と見られるので、火山岩と深成岩の形成は一連とみなされ、火山岩のU-Pb 年代はまだあまり報告例が多くないものの深成岩とほとんど差がないと推定できる。 一方、白亜紀〜古第三紀のフレアアップは中新世のそれに比べると生産された火山岩と深成岩の地表露出量が格段に大きく、それらの年代もかなり範囲が広くて活動史の詳細が分かりにくい。しかし近年、U-Pb年代測定が高精度で行なわれるようになり、火山岩と花崗岩類の活動の同時性が検討できるようになった。 中部地方三河地域では領家花崗岩類のU-Pb年代がほぼ70-75Maと90-95Maの2つの時期に集約された(Takatsuka et al., 2018)。この2つの活動ステージは近接地域の同時性岩脈のジルコンに記録された94Maと71Maの成長年代(中島ほか, 2021)によっても支持され、これらによって白亜紀フレアアップのパルス的性格が明らかになった。 また、近接する見かけ層厚5000m(山田ほか, 2005)に及ぶ濃飛流紋岩は、最近ジルコンU-Pb年代がその火成層序の下位から上位まで70-72Maと報告され(星ほか, 2016)、極めて短期集中の活動であったことが明らかになったと同時に70-75Maの活動パルスにおける噴出岩相として花崗岩との同時性が示された。しかし90-95Maのパルスに対応する珪長質火山岩類は同地域から確認されておらず、今後の研究が待たれる。 一方、中国地方の広島県地域でも、この地域内での見かけ層厚3000mの高田流紋岩が下位から上位まで91-96MaのジルコンU-Pb年代が報告され(早坂・田島, 2016)、これも短期集中型の活動であったことが明らかになった。また、近隣の広島花崗岩類を代表するU-Pb年代として、ジルコンおよび閃ウラン鉱年代 約93Ma(中島・折橋, 2009; Yokoyama et al., 2016)が報告されており、高田流紋岩との同時性が示された。 活動時期が白亜紀に限られる領家山陽帯に比べて山陰帯には白亜紀から古第三紀にわたる花崗岩類と珪長質火山岩が存在する。特に古第三紀の活動は、白亜紀末期から連続する67-60Maとそれより若い48-33Maの活動期の間に約10Myrの活動休止期が見られ(Iida et al., 2015)、休止期後の活動は60Maまでとは異なる化学的な性質や多数のコールドロンの形成などの特徴が報告されており(Imaoka et al., 2011)、活動場のテクトニクスが変化して新たな活動パルスを生じた可能性が高い。ただし山陰帯では火山岩のU-Pb年代がまだ少ないため、花崗岩類との活動の同時性については検討できていない。 文献 早坂康隆・田島詩織 (2016) 地質学会123年大会講演要旨, 61. 星 博幸ほか (2016) 地質学会123年大会講演要旨, 81. Iida, K. et al. (2015) Isl. Arc, 24, 205-220. Imaoka, T. et al. (2011) J. Asian Earth Sci., 40, 509-533. 中島 隆ほか (2021) 地質雑 127, 69-78. 中島 隆・折橋裕二 (2009) 地質学会116年大会講演要旨 22. Shinjoe, H. et al. (2019) Geol. Mag. https:// doi.org/10.1017/S0016756819000785 Takatsuka, K. et al. (2018) Lithos 308-309, 428-445. 山田直利ほか (2005) 地団研専報 no.53, 29-59. Yokoyama K. et al. (2016) Mem. Nat’l Museum Nat.& Sci., no.51, 1-24

  • 伴 雅雄, 菅野 舜, 佐藤 初洋, 井村 匠, 常松 佳恵, 長谷川 健
    セッションID: T9-O-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    吾妻山は東北日本火山フロント中央部に位置する活火山である。本研究では吾妻山の最新マグマ噴火によるブルカノ式降下火砕岩について岩石学的研究を行い、噴出物をもたらしたマグマ供給系について考察した。火砕岩中の火山弾は暗灰色と明灰色タイプに分けられる。両者が縞状構造を形成している場合もある。両者共かんらん石直方輝石単斜輝石安山岩で、前者の全岩SiO2量は58-59.5 wt%、後者のそれは60-63 wt%である。SiO2組成変化図では直線的なトレンドを示す。輝石斑晶は、コア組成が低Mgのものと高Mgのものがある。前者は外縁部に~80 μmの高Mg帯を持つものと持たないものがある。後者は高Mg単斜輝石のコア中にパッチ状の高Mg直方輝石と低Mg単斜輝石を含ものである。かんらん石斑晶は正累帯と逆累帯のものがある。前者はコアがFo84程度で外縁部がFo~80、後者はコアがFo82 程度で外縁部がFo84程度である。Fo84程度のFo量の高い部分にのみクロムスピネルが包有されている。斜長石斑晶は、波動累帯構造にパッチ状構造が重複したコアを持つもの、蜂の巣状構造を示すコアを持つもの、均質なコアを持つものがある。1番目のものの低An、高An部、2番目のもののコア、3番目のもののコアの組成は、各々An55-65、An70-90、An70-90、An~90である。また、主に正累帯を示すかんらん石と均質なコアを持つ斜長石からなる集斑晶が認められ、接触部での両者の組成はFo80及びAn~90である。 全岩組成の組成変化図上での直線的変化及び斑晶組織・組成の多様性は主に珪長質と苦鉄質の2端成分マグマの混合によって説明できる。斑晶については、輝石の低Mgコア、斜長石の低An部は珪長質マグマから、スピネルを包有しているFo84程度のかんらん石は苦鉄質マグマ由来と考えられる。高Mg輝石、An70-90程度の斜長石、Fo82程度のかんらん石は、上記2端成分マグマの混合によって形成された組成幅を持つ中間マグマ由来と考えられる。地質温度圧力計とMELTSを用いて検討したところ、珪長質と苦鉄質端成分マグマの全岩SiO2量・温度・圧力・含水量は次の範囲内にあったと推定された。すなわち、各々64-65 wt%・880~900 ℃・1~2.5 kbar・2.5~3.5 wt%及び約49 wt%・1140~1150 ℃・3.5~5 kbar・3.5~4.5 wt%である。吾妻山では、地球物理観測が進められており、火山下の地殻浅部(約4~12 km)と深部(約20 km以深)に部分溶融体の存在が推定されている。これらを基にすると、上記の珪長質及び苦鉄質マグマは各々地殻浅部と深部の部分溶融体由来であると考えられる。 地殻浅部部分溶融体は苦鉄質マグマの注入が基となって活性化したと考えられるが、斑晶内の中間マグマ由来の部分の組成が幅広いことを考えると以下のような浅部部分溶融体の活性化~噴火プロセスが一案として考えられる。すなわち、活性化開始時には苦鉄質マグマの上昇に伴って部分溶融体内での流動部の形成が起こり、さらにその流動部と苦鉄質マグマの混合による中間マグマの形成、流動部と中間マグマの部分溶融体上部への成長と続き、さらなる苦鉄質マグマの注入がきっかけとなり噴火に至った。なお、最新期マグマ噴火の噴出量は浅部部分溶融体の100万分の1以下と推定され、地表に噴出したものの10倍のマグマが形成されていたとしても、浅部部分溶融体の極一部の部分を占めていたと考えられる。また、暗灰色と明灰色の2種が噴出しており、両者が縞状構造を形成しているものも認められることは、上記の浅部部分溶融体の極一部の部分で、混合度合いの異なる2種の混合マグマが形成されていたと推定できる。このような混合度合いの異なるものが活性化部分の頂部付近に同時に形成されていたと思われる。なお、低Mg輝石外縁部の高Mg帯の組成累帯を基に見積もった混合から噴火までのタイムスケールは数か月~半年程度ととても短い。よって、その頂部付近に活性化が及んでから噴火までは短時間であったと思われる。 一方、苦鉄質マグマについては、深部部分溶融体から分離したマグマがやや上昇した位置でかんらん石とスピネルを結晶化させていたものと考えられる。すなわち、深部部分溶融体中のメルトは苦鉄質マグマよりも未分化なものであったと推定される。また、逆累帯を持つかんらん石の存在から、部分溶融体よりやや浅部にはマグマ溜りが形成され、そこに深部部分溶融体からの分離上昇が繰り返されて、より未分化なマグマとやや分化したものとの混合が行われていたと推定できる。

  • 江島 圭祐, 大和田 正明, 亀井 淳志
    セッションID: T9-O-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【はじめに】北東アジア大陸縁辺部にはイザナギプレートの沈み込みに関連するジュラ紀から白亜紀の火成岩類が広く発達し,火成活動やテクトニクスの研究が精力的に行われている(例えば,Kim et al., 2016, Lithos ; Yu et al., 2021, International Geology Review).中国北東部,韓半島での最近十数年の研究では地質年代学を筆頭に膨大なデータが蓄積され,様々な火成活動・テクトニクスモデルが提唱された.しかし,未だに議論の収束はなく,モデルの飽和状態となっている.飽和状態を生む要因に,北東アジア白亜紀火成活動の終着点である日本列島花崗岩バソリス(面積100km2以上の岩体)の地質学的意義の不明瞭がある.特に,白亜紀北部九州バソリスは,大陸側(北東中国,韓半島)の火成岩類と同様にイザナギプレートのユーラシア大陸への沈み込み(200-50Ma)に関連することは明確であるが(Seton et al., 2015, Geophysical Research Letters; Imaoka et al., 2014, Lithos),マグマ発生機構を含めた包括的検討は皆無で,大陸規模の火成活動に対する地質学的意義が判然としない.また,火成活動に正確な時間軸を付加することは沈み込み運動などの「現象」を捉えることに有効であるが,その現象の「原因・特徴」の解釈には曖昧さが残る.つまり,網羅的な地質年代学だけでなく,岩石学的検討を主軸とした信頼性の高い火成活動史を再構築することで,大陸規模の火成活動やテクトニクスの解析に影響力を持つことができると考えられる.そこで,本発表では,白亜紀北部九州バソリスに付随する白亜紀苦鉄質岩体である北多久苦鉄質複合岩体を研究対象とし,北部九州花崗岩バソリスの熱源や親マグマの特徴を検討する.将来的には,北東アジア白亜紀火成活動の終着点である白亜紀北部九州バソリスの包括的な火成活動の理解とその地質学的意義の明確化により,北東アジア大陸縁辺部の火成活動とテクトニクスに新たな制約条件を提示できると考えている.【地質概要】北多久苦鉄質複合岩体が露出する佐賀県多久市天山周辺の地質は,角閃岩と蛇紋岩を母岩とし,それを貫く北多久苦鉄質複合岩体と深江花崗岩(Ms-Bt trondhjemite)および北多久苦鉄質複合岩体を貫く珪長質岩脈(Trondhjemite–Aplite)と斑状細粒閃緑岩(PFT)岩脈から構成される.北多久苦鉄質複合岩体は主に斑れい岩類からなり,集積岩相(Cumulus group:Types 1-4)と非集積岩相(Non-Cumulus group:Types 5-7)に分類され,互いに明瞭な境界を持たず,複雑な産状を示す. 【親マグマの性質】 北多久苦鉄質複合岩体中で最も未分化組成に近い岩石のCpxの組成から平衡メルト組成を計算した.その結果,算出された液組成はSanukitic 高Mg安山岩質のマグマに類似する組成を示すことが明らかとなった.また,その初生マグマが共存したマントルかんらん岩の組成はCr#>0.8が推定される.さらに,白亜紀北部九州花崗岩バソリスに点在するSanukitic 高Mg安山岩マグマ由来の岩石(高Mg閃緑岩)と比較しても類似の組成的特徴を持つ.つまり,このことは、Sanukitic 高Mg安山岩マグマが白亜紀北部九州の広範囲で実質的に活動したことを示唆している.【熱源】北多久苦鉄質岩体に産するミグマタイトの産状からは,苦鉄質マグマを熱源とした角閃岩の部分溶融現象が考えられる.微量元素を用いたモデル計算の結果から角閃岩の部分溶融メルトとSanukitic 高Mg安山岩マグマを混合することによって北多久苦鉄質複合岩体周辺に産する花崗岩質マグマの多様性を説明することができる.そして,Sanukitic 高Mg安山岩質マグマの北部九州での空間的な広がりと北部九州花崗岩バソリス構成岩体のモデル計算から,白亜紀北部九州花崗岩バソリスを構成する花崗岩類の一部は,北多久苦鉄質複合岩体の親マグマであるSanukitic 高Mg安山岩マグマとそれを熱源とした部分溶融によって形成したanatexisメルトとの混合により形成可能である.また,Sanukitic 高Mg安山岩マグマも一般に同化作用や分化作用により高Mg閃緑岩や他の苦鉄質マグマとして上昇している.よって,白亜紀北部九州花崗岩バソリスの火成活動の熱源はSanukitic 高Mg安山岩を代表としたマグマであった可能性が高い.このような検討結果は,スラブロールバックによる引張応力場であった白亜紀北東アジア大陸縁辺部のバソリス火成活動,熱源および複雑な地殻成熟過程に新たな知見を与えると考えられる.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    諸星 暁之, ウォリス サイモン
    セッションID: T9-O-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    マグマの生成と輸送はマントルから地殻への物質・熱の輸送を支配する重要なプロセスである。マントルの部分溶融で生成されたマグマは地殻中を上昇したのちマグマだまりに貯蔵され、マグマ混合・結晶分化作用・同化作用などによって成分が多様化する。マグマだまりは火山へマグマを供給して活動を維持すると考えられているが、一部のマグマだまりは火山噴火に至ることなく中部~上部地殻で固結して深成岩体となる。マグマだまりへのマグマ供給過程の詳細に関しては現在も議論が続いており、統一的な見解を得られていない。マグマ供給はマグマだまり内の温度構造の時間変化に強く影響し、マグマだまりの保持するメルト量や内部の粘性などに密接に関係する。メルト量や粘性はマグマだまりのダイナミクスを強く制約するため、マグマだまりの噴火可能性やメルト抽出などの問題を議論するうえでマグマ供給過程への理解は不可欠である。深成岩体が溶融状態を維持して成長する古典的な形成モデル (melt-rich model) では、大規模なマグマ貫入によりmelt poolが形成され、壁面からの冷却による分別結晶化で岩体が作られるとされた。Skaergaardなどの層状岩体の地質構造や化学組成をよく説明し、多量のメルトを保持することからいわゆるsuper-eruptionとの関連も指摘されている [1] 。一方、活動的火山の物理探査や成長中の深成岩体の調査からは、活動中のマグマだまりであってもメルト割合は低い(<~30%)ことが示唆されてきた [2] 。近年の詳細な年代測定などの結果から、結晶主体の状態を維持しながらシルが次々と付加することによって成長が進むモデル (crystal-rich model) が広く受け入れられつつある。このモデルではマグマの供給フラックスや供給間隔、マグマの排出の有無など多くの変数に従って温度構造が変化するため、様々なマグマだまり環境を取る一方、各変数の天然でのバリエーションを制約し、現象をどの程度説明できるか検討する必要がある。しかしながらこれらの変数は天然試料から制約が困難であり、マグマ供給過程を調べる新しいアプローチが必要となる。本研究では、マグマだまり成長モデル理解への手がかりとして、深成岩体の経た熱史に着目した。深成岩体の熱史は岩体へのマグマインプットによって変化するため、岩体の成長履歴をよく反映することが期待できる。また熱史の記録媒体として、深成岩に含まれる斜長石結晶中のSr の拡散に着目した。元素拡散は高温時に進行し低温時は停止することから、鉱物に残された拡散の影響を調べることで高温状態の持続時間を推定できる。拡散を用いた被熱履歴推定は火山岩斑晶に適用例が多い一方、深成岩への適用は極めて限られることから、本研究でははじめに数値計算によって適用可能性評価を行った。計算では、はじめに異なるマグマ供給システム (温度、供給頻度、マグマの付加位置、噴火によるマグマ排出の有無) で熱モデリング [3] を行い、深成岩体成長時の温度構造履歴を推定した。つぎに得られた各マグマ供給条件における温度構造履歴について、岩体中の複数箇所の温度変化を入力して斜長石中の元素拡散のシミュレーションを行った。以上の計算の結果、異なるマグマ供給条件において、斜長石中のSr拡散に異なるパターンが現れることが確かめられた。この結果は、地表に露出する多くの深成岩体を用いて、マグマだまりへのマグマ供給過程を広範に調査できる可能性を示す。またmelt-rich modelに代表されるマグマが高フラックスで供給される条件において拡散が著しく進行することが確かめられた。この結果は特に噴火に関与した深成岩体を抽出し、噴火に至る条件や噴火時のマグマだまり内部のダイナミクスへアプローチできる可能性を示唆する。以上の計算で岩体中の複数点での拡散分析から貫入様式を制約できることが示唆されたことから、実地試験として対照的な温度履歴を持つ2岩体においてサンプリングと分析を行い、実際の感度を調べる研究を進めている。対象には三河地方に分布する新城トーナル岩、武節花崗岩を選択した。新城トーナル岩は同時期に隣接して形成された武節花崗岩に比べて有意に広い接触変成帯を持つことが知られており [4, 5] 、両岩体は対照的な温度履歴をたどったことが示唆されていることから、本手法の試験適用対象に最適である。計算と分析の結果、および手法の適用法を議論し報告する。[1] Annen et al., 2022, Sci. Adv. [2] Samrock et al., 2021, EPSL [3] Annen et al., 2023, J. Volcanol. Geotherm. Res. [4] Yamaoka et al., 2022, Lithosphere [5] Takatsuka et al., 2018, Lithos

  • 宇野 正起, 岡本 敦, 土屋 範芳, 赤塚 貴史
    セッションID: T9-O-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    地殻浅部におけるマグマ―熱水系の熱履歴と熱輸送メカニズムは,地殻内部の流体・エネルギー収支や地震発生,エネルギー資源の推定に重要である.しかしながら,従来,マグマ貫入による地殻への熱的な影響は接触変成帯における温度拡散として記述されることが多く,マグマ貫入による流体挙動と熱輸送メカニズムへの影響はよくわかっていない.本研究では,0.1 Maの極めて若い花崗岩を熱源としたアクティブな接触変成帯である葛根田地熱地域を対象として,現在および過去の詳細な温度構造を明らかにし,1次元熱輸送モデルによる解析から地殻浅部マグマ―熱水系における熱輸送メカニズムの変遷を制約した.  葛根田地熱地域は仙岩火山地域に位置し,0.1 Maの極めて若い花崗岩を熱源とした地熱地域である(e.g., Doi et al., 1998).当地域のWD-1a坑井は,深度約3800mで500℃に達し,黒雲母,菫青石,紅柱石,直閃石,カミントン閃石など各種の変成鉱物が確認される.黒雲母および菫青石のアイソグラッドは3次元的に葛根田花崗岩の表面に平行に分布しており,深度約1500 m以深には花崗岩を熱源とした接触変成帯が分布している.  本研究ではWD-1a近傍のWell-20で採取されたカッティングス試料の深度約1500–2800 mにおいて黒雲母および緑泥石の化学組成を求めた.黒雲母温度計(Henry et al., 2005)および緑泥石温度計(Bourdelle et al., 2013)を適用し,各鉱物に記録されている温度を求めた.なお,花崗岩/基盤岩境界は深度約2800 mに位置する. 得られた温度プロファイルをマグマ対流,および熱水対流を考慮した1次元熱輸送モデルにより解析した.下記に示す熱輸送メカニズムの異なる次の5つのモデルを検討した.(1) 熱伝導モデル, (2) 熱伝導+マグマ対流モデル, (3) 熱伝導+貯留層対流モデル, (4) 熱伝導+マグマ対流+貯留層対流モデル, (5)熱伝導+亜臨界および超臨界貯留層対流+熱伝導帯モデル.  黒雲母に記録された温度は,約760℃(深度2850 m)から約630℃(深度1700 m)と浅部に向けて徐々に低下し,接触変成時の温度を示した.緑泥石に記録された温度は,深度2850–1530 mで370–265℃程度で系統的に変化し,WD-1aで観測された坑井温度(Ikeuchi et al., 1998)やWell-20の流体包有物の最低均質化温度と良い相関を示した.  熱輸送メカニズムとして熱伝導だけを仮定したモデル(1)および貯留層対流を追加したモデル(3)では,花崗岩/基盤岩境界の温度がマグマの温度(~1000℃)と基盤岩の温度(~140℃)の平均以下となるため,境界で観測された黒雲母の温度(760℃)を説明することが出来なかった.  マグマ溜まり内の対流を考慮したモデル(2)では,花崗岩/基盤岩境界の温度がマグマの対流下限温度(~840℃)とソリダス(760℃)の間に固定され,境界付近の黒雲母温度を再現できる.しかしながら,浅部での高い黒雲母温度(630℃@深度1700 m)は再現できなかった. マグマ対流と貯留層の対流を考慮したモデル(4)では,モデル(1–3)よりより効率的に浅部へと熱が伝わるが,浅部での高い黒雲母温度を再現することは出来なかった.マグマ対流,亜臨界および超臨界貯留層における対流および,亜臨界/超臨界境界での熱伝導帯を考慮したモデル(5)では,熱伝導帯がヒートキャップとして機能し,浅部での高い黒雲母温度(630℃@1700m)を再現することができた.  深度2850 mから1700 mにおける760–630℃の高い黒雲母温度は,花崗岩からの単純な熱伝導では説明することができない.マグマ溜まり内部での活発な対流による花崗岩/基盤境界への効率的な熱輸送と,貯留層内での熱水対流による浅部への熱輸送の両方が必要である.さらに,石英の溶解度が極小値となる380–550℃付近で形成されるシリカシーリング帯(Saishu et al., 2014)は,亜臨界/超臨界を隔てる熱伝導帯としてヒートキャップの役割を果たし,浅部の超臨界貯留層の効率的な加熱に寄与していたと考えられる. 引用文献 Bourdelle et al. (2013) Contribution to Mineralogy and Petrology, 165, 723–735.Doi et al. (1998) Geothermics, 27, 663–690. Henry et al. (2005) American Mineralogist, 90, 316–328. Ikeuchi et al. (1998) Geothermics, 27, 591–607. Saishu et al. (2014) Terra Nova, 26, 253–259.

  • 山崎 陽生, 昆 慶明, 江島 輝美
    セッションID: T9-O-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    はじめに茨城県城里町に位置する岩船閃緑岩は,主岩相である閃緑岩と直方輝石を含む直方輝石閃緑岩に区分される。山崎ほか(2023)は,岩船閃緑岩の組成変化について,直方輝石閃緑岩から単斜輝石および斜長石を分別することで説明したが,鉱物化学組成を用いた検討は行っていなかった。そこで,本研究では,鉱物中の微量元素組成から,鉱物およびメルトの化学組成の変化を議論する。鉱物化学組成閃緑岩の斜長石の組成はコアからリムにかけてAn73.6Ab23.2Or3.2-An24.9Ab72.6Or2.5であり,直方輝石閃緑岩のものはAn69.9Ab29.4Or0.7-An38.0Ab60.3Or1.8である。斜長石のAn成分の減少と各微量元素の含有量の変化に,岩相間の違いはない。両者の斜長石中の微量元素は,An成分の減少に伴い,LaおよびCeが増加する。また,斜長石のAn成分が50-74%のコアでは,An成分の減少に伴いSrは減少,Baは増加するが,An成分が25-50%のリムでは,An成分が50%以上の領域と比較してSrの減少幅が大きくなり,Baは減少する。閃緑岩中のアルカリ長石の組成は, Or78.6-91.5 Ab8.2-20.4 An0.3-1.3である。アルカリ長石は鉱物粒間に存在する。アルカリ長石のSrおよびBaは不均質で,それぞれ265-352 ppmおよび1050-13300 ppmである。閃緑岩中の単斜輝石の組成はコアからリムにかけてEn40.0Fs21.5Wo38.5-En33.3Fs28.5Wo38.2であり,直方輝石閃緑岩中のものはEn43.0Fs25.9Wo31.1-En37.1Fs21.3Wo41.6である。閃緑岩中の単斜輝石は,En成分の減少に伴いMn,LaおよびYが増加し,Crが減少するのにたいして,直方輝石閃緑岩の中のそれらの元素の組成変化はEn成分の変化と相関しない。直方輝石閃緑岩の中の直方輝石の組成はコアからリムにかけてEn55.8Fs41.1Wo3.1-En48.4Fs49.5Wo2.1であり,En成分の減少に伴いYが増加し,Crが減少する。考察本研究では,メルト-鉱物間の分配係数はRollison and Pease (2021)の値を用い,鉱物組成によらず分配係数は一定の値であったと仮定する。 斜長石中のLaおよびCeはAn成分の減少とともに増加し,単斜輝石のLaおよびY,直方輝石のYはEn成分の減少とともに増加する。岩船閃緑岩の全岩化学組成(山崎ほか, 2023)は,SiO2の増加とともに,La,CeおよびYが増加する。また,斜長石,単斜輝石および直方輝石の各元素の分配係数は1以下である。これらのことから,An成分およびEn成分の減少に伴う上述の元素の含有量の増加は,各鉱物の結晶分化作用によってLa,CeおよびYがメルトに濃集したことで説明できる。単斜輝石および直方輝石のCrは,En成分の減少とともに増加する。岩船閃緑岩の全岩化学組成(山崎ほか, 2023)は,SiO2の増加とともに,Crが減少する 。また,単斜輝石および直方輝石のCrの分配係数は1以上である。これらのことから,En成分の減少に伴う単斜輝石および直方輝石のCrの減少は,単斜輝石および直方輝石の結晶分化作用によってメルト中のCrが減少したことで説明できる。斜長石のSrおよびBaの分配係数はSrが1以上,Baが1以下であるため,一般にAn成分の減少に伴うSrの組成変化は減少するトレンドを示し,Baは増加するトレンドを示すと考えられる。しかし,An成分が約50%以下の領域において,An成分の減少に伴うSrの組成変化は, An成分が50%以上の領域と比較してSrの減少幅が大きくなる。また,Baは減少するトレンドに変化する。この斜長石のSrおよびBaの組成トレンドの変化が,アルカリ長石の晶出によって説明できるかを以下で検討する。閃緑岩中のアルカリ長石は,高いSrおよびBaを持つことから,アルカリ長石は晶出時にメルトからSrおよびBaを取り除いたと考えられる。また,アルカリ長石は鉱物粒間に存在することから,マグマ過程の後期に晶出したと考えられる。これらのことから,An成分の減少に伴う斜長石中のSrおよびBaの組成変化トレンドの変化は,メルトからAn成分が50%の斜長石が晶出した際に,アルカリ長石が晶出し始め,メルト中のSrおよびBaを減少させたことによると説明できる。まとめ岩船閃緑岩のメルト組成の変化は,斜長石および単斜輝石(山崎ほか,2023)に加え,アルカリ長石および直方輝石の晶出で形成したと結論される。 引用文献 Rollison, H. and Pease, V. (2021), CUP, 346p. 山崎ほか (2023), 日本地球惑星科学連合2023年大会予稿集, SCG48-03.

  • 齊藤 哲, 谷脇 由華, 川島 泰地, 下岡 和也
    セッションID: T9-O-8
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    <はじめに> メルト包有物はマグマ溜まり中で成長する鉱物中に周囲のメルトが取り込まれたものであり、メルトの化学組成や含水量といった情報を保持している。ジルコンに含まれるメルト包有物は、物理化学的に安定な鉱物であるジルコンがメルト包有物の変質を妨げるため、メルトの組成情報を復元するために適した研究対象である(Thomas et al. 2003, Rev Mineral Geochem)。一方で、深成岩中のジルコンに含まれるメルト包有物はマグマ冷却中の結晶化により不均質な多相包有物となっているため、分析の前処理として高温高圧発生装置を用いた封圧下での均質化実験がおこなわれている(たとえばGudelius et al., 2020, Geochem Cosmochim Acta)。本発表では、花崗岩に含まれるジルコン中のメルト包有物について、ピストンシリンダー型高温高圧発生装置を用いた均質化実験と、SEM-EDSによる主要元素組成分析から得られたメルト包有物組成の検討結果(Taniwaki et al., 2023, Lithos; Kawashima et al., in preparation)について報告する。<実験試料> 研究に使用した試料は、領家帯花崗岩類の蒲野花崗閃緑岩から採取した黒雲母花崗岩と、外帯花崗岩類の御内岩体から採取した黒雲母花崗岩である。野外産状の特徴として、蒲野花崗閃緑岩は、母岩の変成岩の構造に調和的に貫入し、またその境界近傍では変成岩がミグマタイト様を呈するのに対し、御内岩体は母岩に対して非調和に貫入しており、母岩との境界近傍にしばしば発泡痕や球状の石英―電気石連晶がみられる。蒲野花崗閃緑岩試料は、主成分鉱物として石英、斜長石、黒雲母、少量のカリ長石を、副成分鉱物としてジルコン、燐灰石、不透明鉱物を含む。ジルコンは自形を呈し、主成分鉱物の粒間やリム部にみとめられる。御内岩体試料は、主成分鉱物として石英、斜長石、カリ長石、黒雲母を、副成分鉱物としてジルコン、燐灰石、スフェーン、電気石、不透明鉱物を含む。ジルコンは自形を呈し、主成分鉱物の粒間にみとめられる。分離したジルコンをSEM-EDSで観察したところ、両者の試料とも、ジルコン中に微細な石英、斜長石、カリ長石および空隙からなる多相包有物が認められた。 <実験方法> 分離・抽出したジルコン試料をNaClとともに白金カプセルに封入し、ピストン-シリンダー型高温高圧発生装置を用いて実験を行った。実験の設定圧力は0.3 GPa、温度条件と実験時間は、蒲野花崗閃緑岩試料では900℃で4.5時間、御内岩体試料では1000℃で1時間保持した後、840℃まで降温させ24 時間保持し、その後それぞれ室温まで急冷させた。回収したジルコン試料をエポキシ樹脂でマウントし、鏡面研磨を行い、SEM-EDSでの観察・組成分析とFE-SEMでのカソードルミネッセンス像観察を行った。<結果と考察>反射電子像観察および元素組成マッピングから、実験によりジルコン中のメルト包有物が均質化したことが確認できる。一方で、カソードルミネッセンス像観察ではジルコンに累帯構造が認められ、実験後もジルコンの内部構造は保存されているものと考えられる。ジルコン中のメルト包有物のSiO2含有量は蒲野花崗閃緑岩試料で76.3〜79.4 wt %、御内岩体試料で74.6〜79.9 wt %であり、両者ともジルコンを分離した試料の全岩SiO2含有量(蒲野花崗閃緑岩試料:72.4 wt %、御内岩体試料:71.8 wt %)より高く、ハーカー図上では全岩化学組成トレンドのSiO2含有量の高いところに位置する。したがって、ジルコンは結晶成長時に鉱物粒間の分化したメルトを包有物として取り込んだものと考えられるが、このことは偏光顕微鏡観察からジルコンが主成分鉱物の粒間やリム部に認められることと調和的である。得られたメルト組成について、Rhyolite-MELTS地質圧力計を用いた圧力検討を行った。その結果、蒲野花崗閃緑岩試料からは、293~158 MPa(N = 7)の圧力が、御内岩体試料のジルコンのリム部のメルト包有物組成から114〜80 MPa(N = 4)の圧力が得られ、それぞれジルコンが結晶成長して周囲のメルトを取り込んだときの圧力を示すものと解釈できる。また、蒲野花崗閃緑岩と比較して御内岩体は有意に低い圧力が得られたが、このことは御内岩体については野外産状から地殻浅所への貫入が示唆されること(発泡痕が認められるなど)と調和的である。このように、ジルコン中のメルト包有物の均質化実験と主要元素組成分析により、花崗岩質マグマ固結過程の圧力情報を得ることができるものと考えられる。

  • 中山 瀬那, 亀井 淳志, 谷 健一郎, 岩田 智加, 薬師寺 亜衣, 松場 康二
    セッションID: T9-P-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    西南日本内帯の山陰帯には, 白亜紀~古第三紀の花崗岩類が広く分布して山陰バソリスを形成している.花崗岩バソリスは花崗岩質地殻の形成に欠かせないものであるが,特にメタアルミナス型の花崗岩類はより苦鉄質な岩石に由来することから,花崗岩質地殻の成長に重要である(例えば,Wedepohl, 1995).山陰バソリスにもメタアルミナス型の花崗岩類がいくつか産するが,その火成活動には不明な点が多い.本研究では,山陰バソリスのメタアルミナス型花崗岩のうち,バソリス中央部の高田花崗閃緑岩を研究対象としてそのマグマ過程を検討した. 本発表では,高田花崗閃緑岩とそれに付随する花崗岩類についての地質調査, 岩石記載,全岩化学分析,Sr同位体比分析,およびジルコンU-Pb年代測定の結果を中心に報告する. 高田花崗閃緑岩の岩相は中~粗粒普通角閃石黒雲母トーナル岩~花崗閃緑岩,中~粗粒普通角閃石含有黒雲母花崗閃緑岩,および粗粒斑状黒雲母花崗岩に区分され,それぞれは東-西方向に伸長して北から南に向かって帯状配列している.高田花崗閃緑岩の内部には小木石英閃緑岩(主に細粒の石英閃緑岩)および下久野花崗岩(優白質黒雲母花崗岩)も見られる.小木石英閃緑岩は高田花崗閃緑岩と広範囲でミングリングの産状を示し,一方,下久野花崗岩はこれらを一部で混染しながら貫いている.顕微鏡下における高田花崗閃緑岩は,斜長石に汚濁帯や干渉色の異なる成長累帯を示すものや中心部が著しく変質したコアを有するものがあり,普通角閃石には針状のものもある.斜長石の著しい変質や針状角閃石は組成ギャップと温度差のあるマグマ混合を意味し,これは小木石英閃緑岩とのミングリングによる組織と解釈できる.このことは薬師寺ほか(2012)にも記述が有る.一方,汚濁帯や干渉色の異なる成長累帯は,高田花崗閃緑岩に化学組成が似る花崗岩質マグマの混合があった可能性を示唆する.下久野花崗岩にはマグマミキシングやミングリングを示唆する組織は確認されず,既存報告にも記載はない(薬師寺ほか,2012).高田花崗閃緑岩の全岩化学分析はハーカー図において主・微量成分がブロードなトレンドを形成する.そして,小木石英閃緑岩とはトレンドが異なる.また両者はRb-Srアイソクロンプロットにおいて分析点が分散し,アイソクロンを形成しない.このことも両者のミングリングや,高田花崗閃緑岩体内における花崗岩マグマの複数のマグマミキシングを示唆する. 高田花崗閃緑岩および下久野花崗岩についてはジルコンのU-Pb年代測定を行った.両者ともに約65~60 Maの幅広い年代値を示して,60 Maにピークが認められた.高田花崗閃緑岩の年代値に関しては,上記の野外地質,岩石記載,全岩化学分析の結果を考慮すると,小木石英閃緑岩とのミングリングを含めた複数回の花崗岩質マグマの混合を経験したことが考えられる.一方,下久野花崗岩については,野外の産状,鏡下の特徴,比較的に均質な化学組成(薬師寺ほか,2012)から,65Ma以降の古いジルコン(高田花崗閃緑岩もしくは小木石英閃緑岩)の混入と,約60Maのマグマからの結晶粒子と考えられる.このことは,薬師寺ほか(2012)が下久野花崗岩より約61 Ma のRb-Sr全岩アイソクロン年代を得ていることと矛盾しない.  以上のような高田花崗閃緑岩の火成活動を山陰バソリスの形成史と比較すると,バソリス形成の最も盛んな68~53 Ma頃(山陰帯火成活動では因美新期に相当)においてもっとも早期に活動した岩体と位置付けられ,メタアルミナス組成を有し,かつ複数の花崗岩マグマが関与するやや特殊な活動史を持つものと言える. [参考文献]岩田ほか, 2013, 地質学雑誌, 119, 3, 190-204 薬師寺ほか, 2012, 地質学雑誌, 118, 1, 20-38 Wedepohl, K. H., 1995, Geol. Rundsch, 80, 207-223.

  • 佐藤 博明, 田結庄 良昭, 金丸 龍夫, 新井 敏夫
    セッションID: T9-P-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    この講演では日本の珪長質深成岩体の噴火能力 (Eruptibility) について議論する.Scaillet et al.(1998) と Takeuchi(2011) は噴火したマグマのマグマ溜り内での粘性係数は多くの場合10^6 Pa s 以下であることを示した.今回,噴火能力の指標として粘性係数 10^6 Pa s 以下を用い,深成岩体の噴火能力の検討を行った.Glazner (2014)は珪長質ミニマムメルトの粘性係数を温度―圧力図の中で示し,より高温高圧では粘性係数は低いが,0.1 GPaの圧力(深さ3-4㎞に相当)で780℃以下では粘性係数は10^6 Pa sを超えることを示した.今回,例として屋久島花崗岩YMG(Anma et al., 1998; SiO2=70.92 wt.%)について,rhyolite-MELTS (Gualda et al.,2012) を用いて水飽和における相関係を求め,バルクと液の粘性係数(Giordano et al, 2008),密度(Ochs and Lange, 1999) を求めたが,0.1 GPaの圧力で結晶作用と発泡・脱ガスにより,820℃以下ではバルク粘性係数は10^6 Pa sを超えることが示された.日本の多くの珪長質深成岩体は浅所貫入の特徴を示し,浅所ではマグマは発泡・脱ガスし,リキダス温度の上昇に伴って結晶作用が生じ粘性係数が増大し噴火能力を失う可能性が考えられる.日本の活火山の幾つかでは過剰脱ガスが観測されており,マグマ溜りから火道が浅所に達してその内部でマグマの対流脱ガスが生じ,その結果脱ガスしたマグマはマグマ溜りの底に噴火能力を失って沈積することが考えられている(Shinohara, 2008).日本の珪長質深成岩体では,(a) 掘削で浅所に高温花崗岩体が見出される,(b) 同時代の火山噴出物に貫入している,(c) 細粒斑状組織を呈する,(d) 晶洞,ペグマタイト,アプライト等が存在する,等,浅所貫入を示す場合が多くみられる.これらのことから,日本列島の珪長質深成岩体のかなり多くのものは浅所貫入で噴火能力を失ったマグマが固化したものである可能性が考えられる.(引用文献)Scaillet et al. (1998) JGR; Takeuchi (2011) JGR; Glazner (2014) Geology; Anma et al. (1998) Memoirs National Inst Polar Res; Gualda et al.(2012) J Petrology; Giordano et al. (2008) EPSL; Ochs & Lange (1999) Science; Shinohara (2008) Rev Geophysics.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    谷脇 由華, 齊藤 哲
    セッションID: T9-P-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    はじめに 花崗岩質マグマの固結深度は、造山帯の構造発達史から個々の花崗岩体のマグマ過程まで、広い範囲にわたる地質現象の理解に欠かせない基本情報である。花崗岩体に記録された圧力情報を得るために角閃石Al圧力計が広く用いられているが、角閃石を含まない花崗岩類には適用できない等の問題点が指摘されている。そこでTaniwaki et al. (2023, Lithos)では、花崗岩類に普遍的に含まれる鉱物であるジルコンのメルト包有物組成を用いた圧力検討法を提案した。本研究では、中新世甲斐駒ヶ岳岩体を対象に、メルト組成を用いた圧力検討および当岩体について既報の角閃石圧力計の結果との比較検討を行った。 実験試料・実験手法 伊豆衝突帯に分布する甲斐駒ヶ岳岩体を対象とし、ジルコンメルト包有物圧力計の検討を行った。Watanabe et al. (2020, JMPS)は当岩体内の8試料について角閃石Al圧力計(Mutch et al., 2016, CMP)および角閃石Ti温度計(Femenias et al., 2006, Am Min)を適用し、花崗岩質メルトの含水ソリダス曲線に近い温度圧力条件を示す3試料を岩体固結時の圧力(240〜220 MPa)を記録したものと解釈し、岩体の定置深度を約9〜8 kmと見積もった。なお、この定置深度はSueoka et al. (2017, JGR)によって報告された熱年代学的手法から見積もられた地殻削剥量と整合的である。 実験試料は石英・斜長石・カリ長石・黒雲母・普通角閃石から構成される角閃石黒雲母花崗閃緑岩であり、副成分鉱物としてジルコン・燐灰石・磁鉄鉱・イルメナイト・褐簾石を含む。Watanabe et al. (2020, JMPS)は、本試料について角閃石温度圧力計を適用したところ、花崗岩質メルトの含水ソリダスより有意に高い温度圧力条件(729 ℃, 300 MPa)が得られたことから、岩体固結時よりも高温高圧条件を記録したものと解釈した。また、本試料からジルコンを分離し、内部構造をSEM-EDSにより観察したところ、微細な石英・長石類と空隙を含む不定形の多相包有物(メルト包有物)が認められた。 メルト包有物の均質化実験はTaniwaki et al. (2023, Lithos)にしたがい、実験圧力を0.3 GPa、実験温度を780℃と設定して行った。実験後の試料は室温まで急冷させ、SEM-EDSで観察・組成分析を行った。また、H2O含水量の見積もりは下司ほか(2017)にしたがった。 結果 EDS分析から、メルト包有物は花崗岩質の組成を持ち、ジルコンを分離した試料の全岩化学組成(68 wt % SiO2)よりSiO2含有量が高い(70〜83 wt %)。ハーカー図上では、メルト包有物の組成は岩体の全岩化学組成に比べてSiO2含有量の高いところに位置する。さらに、メルト包有物の含水量は0.3~10.1 wt %と見積もられた。 考察 Taniwaki et al. (2023, Lithos)は、中新世御内花崗岩質岩体のジルコンメルト包有物について、全岩化学組成トレンドと異なる組成を持つものはメルトともにアルカリ長石や石英などの微細結晶を捕獲した可能性を指摘した。本研究においても同様にメルト組成を検討し、8つのメルト包有物分析値のうち、メルト組成を代表していると考えられる3つの組成を以下の議論に用いる。甲斐駒ヶ岳岩体のメルト包有物組成および含水量を用いて圧力を検討したところ、rhyolite-MELTS圧力計(Gualda et al., 2014, CMP)からは124、53、52 MPaの圧力がそれぞれ見積もられた。これらのメルト組成から見積もられた圧力は、本試料の角閃石Al圧力計の結果(約300 MPa)よりも有意に低い。一方で、同様の3つの組成についてDERP圧力計(Wilke et al., 2017, JPet)からは265、166、263 MPaの圧力が見積もられた。これらの平均値(231 MPa)は本試料の角閃石Al圧力計の結果(300 MPa)よりやや低いが、Watanabe et al. (2020)により解釈された岩体固結圧力(240〜220 MPa)と調和的である。 薄片観察から、角閃石は自形〜半自形でマグマの固結過程の初期から結晶化していたものと考えられる。一方で、ジルコンは一部に角閃石の周縁部に包有されているものがあるが、多くは黒雲母の周縁部に包有されるものや、主成分鉱物の粒間に認められる。さらに、メルト包有物のSiO2含有量が高いことから、マグマ固結直前の粒間の残液がジルコン結晶成長時に取り込まれたことが示唆される。したがって、当試料についての角閃石Al圧力計とジルコンメルト包有物圧力計との不一致は、角閃石とジルコンの結晶化時期の違いを反映したものと考えられる。

  • 岩野 英樹, 仁木 創太, 坂田 周平, 浅沼 尚, 折橋 裕二, 平田 岳史, 檀原 徹
    セッションID: T9-P-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    近年、第四紀年代測定分野において、ウラン系列の中間生成物であるトリウム230(半減期7.5万年)を利用した238U−230Th放射非平衡年代測定法(以下U−Th法と略す)が再注目されている。この手法は1960年代に開発され[1] [2]、鉱物結晶化時に生じるトリウム230とウラン238間の放射非平衡を活用し、その同位体比(230Th/238U)とマグマの初生的なトリウムとウラン比(Th/U)を精確に決定することで鉱物結晶化後の時間情報を抽出する年代測定である。同法はウラン含有鉱物であるジルコン、アパタイト、イルメナイト、モナザイトなどに適用でき、またその実質的な年代適用範囲は数千年前から30万年前である。すなわち、後期更新世以後の地質試料に適用可能な炭素14 (14C) 年代測定法とその他(ジルコンU−PbやサニディンAr/Ar法)の手法間年代空白(5万年前から10万年前の適用年代範囲が重ならない期間)を埋めることができる。直近のU−Th年代報告例として、阿蘇4火砕流(86.4±1.1ka, イルメナイト) [3] 、三瓶木次軽石(105±6ka、ジルコン) [4]や洞爺火砕流(113.5±5ka、ジルコン+モナザイト) [4]がある。Niki et al.(2022)は、U−Th法の最大のハードルである微量230Thの正確な分析のために、コリジョンセルを搭載した四重極型ICP質量分析計を用い、質量数230に対するスペクトル干渉除去技術を新たに開発した。彼らは、ジルコン を対象とした時の230Thに対して干渉となる232ThのテーリングおよびZr2O3+に代表される多原子イオンを従来のICP―MS法の1/100まで低減し、その正確な分析を実施可能とした。また、従来法の一つである二次イオン質量分析法(SIMS)と比較して分析処理能力が20倍以上の高速化を達成している。著者らはさらに、NikiほかのLA―ICP―MSシステムを用い、マグマ内での結晶化年代(U−Th)に加え、火山噴出年代も同時に決定する、ジルコンU−Th放射非平衡およびフィッショントラック(FT)ダブル年代測定法の開拓を目指し実験を開始した。本講演では、島根県三瓶火山の噴出物の中の3つの火山灰:三瓶木次テフラ(噴出年代105ka)、三瓶大田テフラ(70ka)、三瓶池田テフラ(40ka)のジルコン年代測定結果を報告する。これらの噴出年代は比較的よく決まっている[5]。まず年代測定の基礎実験として、 Nikiほかで構築したLA−ICP−MS U―Th年代分析条件でU定量を行い、既存のU定量法(熱中性子誘導トラック法)の値と一致することを確認した。また、複数の年代標準ジルコンについてFT年代測定も行い、その結果が標準年代と一致することを確かめた。このことから既存のU−Th分析条件でのダブル年代測定が実行可能と判断した。現在までに三瓶火山の年代結果として、三瓶木次ジルコン(101粒)からU―Th年代(114±4ka, k=2)とFT年代(113±26ka, k=2)を得た。また、三瓶池田ジルコンについては予察的ながらU―Th年代(60ka)を推定した。しかしながら、三瓶火山のテフラには明らかな外来結晶が観察されることから、U―ThおよびF T両年代の観点から合理的に外来結晶を除外する必要がある。その上でジルコン結晶化年代と冷却年代(=噴出年代)の差を検討し、火山噴火以前のマグマプロセスに迫りたい。著者らはさらに、ウラン含有鉱物の中でもマグマ内の晶出期が 比較的早く、様々な火山岩に広く含まれるアパタイトU−Thに着目している。三瓶池田テフラのアパタイトを用いて、アパタイトU−Th、ジルコンU−Th、ジルコンF Tの年代結果比較とその意義を議論したい 。 [1] Kigoshi K. (1967) Science 156, 932―934. [2]福岡孝昭(1996)地質ニュース, 502号, 7-13. [3] Keller F. (2022) Geostandards and Geoanalytical Research. 46, 465-475 https://doi.org/10.1111/ggr.12447. [4] Niki S., Kosugi S., Iwano H., Danhara T. and Hirata T. (2022) Geostandards and Geoanalytical Research. doi: 10.1111/ggr.12458. [5]産業技術総合研究所地質調査総合センター、オープンファイル 23)三瓶山火山.

  • 秋本 悠作, 大和田 正明, 亀井 淳志, 永嶌 真理子
    セッションID: T9-P-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【はじめに】山口県東部玖珂層群には後期白亜紀の火成活動に伴う花崗岩類が分布している.これら花崗岩類は東アジア東縁に発達した白亜紀の間欠的な大規模火成活動(magmatic flare ups)期に対応し,ジュラ紀付加体の玖珂層群を貫く.また,成因的な関係は不明であるが,周囲にはMnやW鉱床が分布する.本発表で対象とする土生花崗閃緑岩は,これまでSr同位体比組成(大和田ほか,1995;Tsuboi and Suzuki , 2002)や角閃石K–Ar年代(104 Ma;柚原ほか,1999),モナズ石CHIME年代(90 Ma; Suzuki and Adachi, 1998)の研究が報告されているが,分布や岩相の特徴以外,鉱物・全岩化学組成を踏まえたマグマ過程の研究が行われてない.本研究は,土生花崗閃緑岩の岩石記載学的特徴について検討し,マグマの定置過程について議論した後,Mn鉱床との関係について検討する. 【地質概要】土生花崗閃緑岩は東西約5km,南北約4kmの岩体である.母岩の玖珂層群は弱変成作用を被り,その片理面はゆるく北へ傾斜している.本岩体は構造的上位に角閃石を含む優黒質相(角閃石黒雲母トーナル岩~花崗閃緑岩),下位に角閃石を欠く優白質相(黒雲母花崗閃緑岩~花崗岩)が分布し,大部分は優白質相が占める.優黒質相中には暗色包有物がしばしば含まれる. 優白質相は,自形~半自形の黒雲母,半自形の斜長石,他形の石英,カリ長石から構成される.一方,優黒質相は角閃石を含み苦鉄質鉱物に富むが,基本的な特徴は優白質相と類似する.優黒質相の角閃石は,しばしば黒雲母を包有することから,黒雲母の晶出は角閃石と同時期もしくはそれ以前と考えられる.また優白質相と優黒質相の両者には汚濁帯の伴う斜長石が観察され,このような産状は,固結しつつある優白質相に優黒質相が貫入し,両マグマの接触部でマグマ混交したことを示唆する. 【マグマ組成変化と定置条件】斜長石のアノーサイト組成(An)は,優白質相と優黒質相でそれぞれAn25-30,An40-45で組成頻度分布に2つのピークが認められる.角閃石圧力計と黒雲母圧力計を用いて優黒質相と優白質相の定置圧力条件を求めるとそれぞれ2-3kbarで,母岩の変成圧力条件と調和的であったまたジルコン飽和温度計を用いて,両岩相の温度条件を見積もると,優黒質相で約750℃,優白質相は750-700℃であった. 全岩化学組成は,両岩相で一連のトレンドを形成し,Sr–Nd同位体初生値(104 Maで補正)を考慮すると,分化の進んだ優白質相は上昇過程で周囲の泥質岩を取り込み,同化したことを示唆する. 【定置過程】産状,岩石組織および鉱物化学組成から見て,土生花崗閃緑岩は優白質相と優黒質相がマグマ同士で共存していたことを示唆する.土生花崗閃緑岩は優白質相が主岩相として岩体の大部分を占める.岩石化学的特徴から,優黒質相のマグマから分化した優白質相が上昇しつつ地殻物質を同化して,上部地殻(深度5〜6 km)に定置したと考えられる.定置後,固結直前の優白質相マグマ溜まりに優黒質相のマグマが貫入し,優白質相を加熱して一部でマグマ混合を引き起こした.この時,優黒質相は液体に近く,固結しつつある優白質相よりも低密度だったため,優白質相の上位に定置したと推察される.一方,岩体の周囲には多数のMn鉱床が分布する.これらは,岩体の近傍でバラ輝石やざくろ石を産する珪酸マンガン型鉱床,岩体から離れ場所で菱マンガン鉱を産する炭酸マンガン型鉱床が距離に応じて分布する.岩体からの距離とMn鉱床の種類から,土生花崗閃緑岩を熱源としたMn鉱床の形成が示唆される. 【引用文献】 大和田ほか, 1995, 岩鉱, 90, 358-364. 高見ほか, 1993,地質学雑誌,99,545-563. Tsuboi and Suzuki, 2002, Chemical Geology, 199, 189–198. 柚原ほか,1999, 地質学論集, 53, 323-331. Suzuki and Adachi, 1998, Journal Metamorphic Geology, 19,23-37.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    福井 堂子, 下岡 和也, 小北 康弘, 長田 充弘, 高橋 俊郎, 斉藤 哲
    セッションID: T9-P-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    1. はじめに 交代作用とは,岩石と流体とが反応し,その岩石の鉱物組成・化学組成を変化させる作用である.その中でも,交代性閃長岩類は地殻岩石である花崗岩類と流体の反応による産物であり,その形成過程および関与した流体を検討することは,地殻進化をもたらす物質移動プロセスを理解していく上で重要である.西南日本内帯には白亜紀後期の大規模火成活動によって形成された花崗岩類の分布域に交代性閃長岩類が点在しており,それらの記載岩石学的特徴および全岩化学組成・鉱物化学組成についていくつかの報告がある(例えば, 村上, 1976).一方,愛媛県芸予諸島伯方島を構成する岩石については,これまで記載岩石学的な検討に基づく多様な花崗岩類の分布が報告されているが(越智, 1991; 桃井, 1991; 松浦, 2002),本研究において新たに花崗岩類に伴う2種類の交代性閃長岩類を見出した.本研究では,日本愛媛県伯方島北部トウビョウ鼻に産出する2種類の交代性閃長岩類(Type 1とType 2)について,野外産状および岩石記載,化学組成分析をおこなうとともに,それらを形成する交代作用を引き起こした流体の特徴について考察した.  2. 野外産状・岩石記載 当地域に産する2種類の交代性閃長岩類は局所的な範囲に,同一の花崗岩に伴って産出.Type 1は長さ30 m,幅10 m程の岩体として露出しており塊状・緻密な岩相を示す.一方,Type 2は長さ40 m,幅5 mの岩体として露出しており,空隙や有色鉱物のレイヤリングといった特徴的な野外産状が認められる.これらの交代性閃長岩類は間に40 m程の花崗岩を挟んで近接している.いずれも周囲の花崗岩との境界は不明瞭であり,岩相が漸移的に変化する.Type 1,Type 2共に主な構成鉱物はアルカリ長石,単斜輝石,柘榴石,チタン石であり,アルカリ長石には顕著なパーサイト組織または網目状のメソパーサイト組織がみられる.一方,異なる特徴としてType 1では単斜輝石と柘榴石の粒状集合組織が,Type 2では柘榴石が粒状の単斜輝石やアルカリ長石を包有する組織がみられる.3. 結果・考察 交代性閃長岩類は特にSiO2, K2O, Rb含有量が花崗岩類より低く,Na2O, Sr, Ba含有量が高い.また,交代性閃長岩類の中でも,Type 1のFeO(total), MgO, CaO, Sr, Y, Ba含有量はType 2より高いのに対し,Al2O3含有量はType 1よりType 2の方が高い.希土類元素については,Type 1閃長岩,周囲の花崗岩類,Type 2閃長岩の順でその存在度が低くなる.また閃長岩類は両者ともEuの負異常を示し,Type 1よりType 2がより顕著なEuの負異常を示す.またType 2は顕著なCeの正異常を示す .Sr-Nd同位体比については,交代性閃長岩類と母岩である花崗岩ともに近い値を示す.  希土類元素パターンにおいてType 2が示す特徴的なCeの正異常は,Type 2のCeがType 1や花崗岩類と近い値を示す一方で, Ce以外の希土類元素が低い値を示すことにより起因しており,このことはCeが母岩から2種類の閃長岩化に至るまで,移動しにくい性質を持っていることを示唆 している.そこで,2つの組成の異なる閃長岩類について,それぞれCeを不動元素としてIsocon解析(Grant, 1986)を行った.その結果,母岩の花崗岩類と比較してType 1ではBe, Mg, P, Ti, Mn, Co, Cdが増加し,B, Si, W, Pbが減少するのに対し,Type 2ではアルカリ金属元素(Li, Na, K, Rb)とHFS元素(Nb, Ta)が増加し,Ca, Cs, Pb, Euが減少する特徴がみられた.隣接するType 1とType 2において対照的な地球化学的特性が認められたことから,両者を形成する交代作用には組成の大きく異なる2種類の流体が関与したものと考えられる.一方,これらの流体の起源については,交代性閃長岩類と母岩の花崗岩類のSr-Nd同位体比が近い値を示すことから,Type 1とType 2の交代作用に関与した流体のいずれも母岩を形成した花崗岩質マグマを起源としている可能性が考えられる. 引用文献:Grant(1986), Economic Geology, 81, 1976–1982; 松浦ほか (2002) 20万分の1地質図幅「岡山及丸亀」, 産業技術総合研究所地質調査センター, 1‐2; 村上 (1958) 岩鉱, 42, 309-318; 43, 85-97; 村上 (1976) 岩石鉱物鉱床学会誌 特別号, 261-281; 桃井ほか (1991), 愛媛県地質図(20万分の1)第4版. 12₋15; 越智 (1991) 日本の地質8, 四国地方, 共立出版, 6-12.

  • 小坂 日奈子, 長谷川 健, 内山 玄基, 田切 美智雄, 細井 淳
    セッションID: T9-P-8
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【はじめに】 茨城県の北東部(大子地域)から栃木県南部(茂木地域)には新第三紀火山岩類が多数分布する.これら火山岩類には,大子地域の男体山火山角礫岩のアイスランダイト質デイサイト[1,2],茨城県城里町の塩子アイスランダイト質安山岩[3],茂木地域元古沢層に見られる高TiO2ソレアイト[4]など,通常の島弧では珍しい火山岩がある.また,大子地域の新第三紀火山岩類については,近年,U-Pb年代やFT年代測定,古地磁気層序学的研究による詳細な編年が行われている[5,6].著者らは,日本海拡大に伴う火成活動の変遷やマグマ成因論を詳しく検討する目的で,本地域の中新世火山岩類を対象に岩石学的・地球化学的研究を行っている.本発表では,大子地域北田気層大沢口凝灰岩部層から見い出されたアダカイトの特徴を述べ,さらに,17 –15 Maの大子~常陸大宮~茂木地域におけるアダカイトおよびアダカイト様火山岩類の時空分布と広域対比について議論する. 【試料採取】 大子~常陸大宮~茂木地域にはジュラ紀八溝層群を基盤として,火山岩類を狭在する新第三系が分布する[7,8].大子地域では,栃原流紋岩類の流紋岩貫入岩と,下位から上位に向かって,大沢口凝灰岩部層最下部に産出する安山岩火山岩礫(中津原火山角礫岩[9]に相当),大沢口凝灰岩部層の珪長質火砕岩,浅川層の珪長質凝灰岩,男体山火山角礫岩のデイサイト溶岩,苗代田層の珪長質凝灰岩,内大野層の珪長質凝灰岩を,常陸大宮地域では大沢口凝灰岩部層相当[7,10]とされる小貝野層の珪長質凝灰岩を,茂木地域では茂木層の凝灰角礫岩~火山礫凝灰岩を採取した(図1). 【結果】 各試料の全岩化学組成をXRF,ICP-MSで測定した.得られたデータからSr/Y-Y図(アダカイト判別図)[11]を作成した結果,アダカイトの領域にプロットされたもの(以下,アダカイト),通常の島弧(Normal volcanic arc)の領域にプロットされたもの(以下,通常島弧型火山岩),両領域から外れるが,Yに乏しくアダカイト的なもの(以下,アダカイト様火山岩),の3種類が識別できた(図2).アダカイトは,大子地域の大沢口凝灰岩部層の試料のみであった.アダカイト様火山岩は大子地域の栃原流紋岩と中津原火山角礫岩,常陸大宮地域小貝野層の凝灰岩,茂木地域茂木層の一部(下部層準)の凝灰岩から得られた.本発表で識別したアダカイトおよびアダカイト様火山岩類は,希土類元素(REE)パターン図上で,通常島弧型火山岩に分類された試料に比べて,重希土類元素(HREE)に著しく乏しい傾向を示す.なお,不適合元素パターン図では,アダカイトおよびアダカイト様火山岩類も,通常島弧型火山岩の試料と同様に,島弧火山に特徴的なNbやTa(HFS元素)の負異常を示す. 【議論:アダカイトの時空分布と今後の課題】 大子地域では,大沢口凝灰岩部層より上位ではアダカイトまたはアダカイト様火山岩は認められなかった.大沢口凝灰岩部層は,17.3 ± 1.2 MaのK-Ar年代[9]と16.7 MaのFT年代[12]が報告されていることから,大子地域におけるアダカイト質マグマの生成・活動年代の上限はこの時期に定められる.大沢口凝灰岩部層より下位の層は調査・採取できていないため,下限については不明である. 大子地域の大沢口凝灰岩部層(本研究によりアダカイトと認定)と同年代の栃原流紋岩(同様にアダカイト様)は,茂木層の凝灰岩に対比される可能性が示されている[9].本研究では,少なくとも茂木層の凝灰岩の一部(下部)はアダカイト様の特徴を示すことが分かった.常陸大宮地域の小貝野層が,岩相・化学組成からみて大沢口凝灰岩部層に対比可能であることも考慮すると,アダカイト~アダカイト様マグマによる大規模な火山噴出物が大子~常陸大宮~茂木地域に広域に堆積した可能性が指摘できる.今後は,本地域のより緻密な調査,試料採取および室内分析(化学組成分析・年代測定)によって,アダカイト~アダカイト様火山岩類の時空分布を明らかにし,その給源と成因,そして日本海拡大との関係を検討していく. 引用文献 [1]周藤ほか,1985a,岩鉱.[2]高橋ほか,1995,地質学論集.[3]山元ほか,2023,地質雑.[4]周藤ほか,1985b,岩鉱.[5]Hosoi et al.,2020,J Asian Earth Sci.[6]Hosoi et al.,2023,Tectonics.[7]大槻,1975,東北大學理學部地質學古生物學教室研究邦文報告.[8]星・高橋,1996,地質雑.[9]田切ほか,2008,地質雑.[10]天野ほか,2011,地質雑.[11]Drummond and Defant,1990,JGR. [12]天野ほか,1989,日本地質学会第96年学術大会講演要旨.

  • 福田 圭一郎, 齊藤 哲
    セッションID: T9-P-9
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/01
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    1,はじめに 石鎚コールドロンは、愛媛県久万高原町に位置する直径7~8kmの大きさを持つ火山深成複合岩体である。当岩体は、中期中新世の火成活動により西南日本外帯に形成したカルデラの一つであり、地下深部のマグマが地上に噴出したことで、地表の地盤が陥没して形成されたと考えられている。吉田ほか(1993)は、火山岩類と深成岩類の全岩化学組成の比較をおこない、両者が類似していることから一連のマグマから派生したものと考えた。また、溶結凝灰岩中の本質レンズと花崗岩類の全岩化学組成をQz-Or-Ab-H₂O系相平衡図に投影し、マグマ溜まりの深度を地下6~8km前後と推定している。本研究では、岩石記載や全岩化学組成の検討に加えて、新たにジルコンに含まれるメルト包有物に着目し、溶結凝灰岩と花崗岩のメルト組成を解析すると共に、その組成から当岩体のマグマ固結時の圧力条件を検討した。2,研究手法 野外調査では石鎚コールドロン内で見られる天狗岳溶結凝灰岩と坂瀬川斑状花崗閃緑岩(吉田ほか、1993)について産状観察と試料採集をおこなった。室内実験では、薄片作成、XRFを用いた全岩化学組成分析をおこなった。また、Taniwaki et al. (2023)に従い、ジルコンメルト包有物の均質化実験と、SEM-EDSを用いたメルト包有物の組成の分析を行った。3,結果 薄片観察から、溶結凝灰岩は石英、斜長石、直方輝石、単斜輝石が主成分鉱物として見られ、ジルコンを副成分鉱物として含む。ジルコンは自形を呈しており主成分鉱物の縁辺に認められた。花崗岩は石英、黒雲母、斜長石、カリ長石で構成されており、ジルコンを副成分鉱物として含む。ジルコンは自形を呈しており主成分鉱物の粒間に認められた。全岩化学組成では、溶結凝灰岩と花崗岩類のSiO₂含有量はそれぞれ65.9~69.4 wt%と65.7∼75.5 wt%であった。一方、EDS分析による溶結凝灰岩と花崗岩中のジルコンメルト包有物のSiO₂含有量は、それぞれ72.4∼74.5 wt%と75.5~77.0 wt%であった。4,考察  ハーカー図において、ジルコン中のメルト包有物のSiO₂含有量は、溶結凝灰岩と花崗岩の両者ともにジルコンを抽出した試料の全岩化学組成(溶結凝灰岩:65.3 wt% SiO₂、花崗岩:66.7 wt%)より高い。従って、ジルコンは結晶成長時に比較的分化したメルトを包有して形成したと考えられる。これは、偏光顕微鏡観察からジルコンが主成分鉱物の縁辺や粒間に存在している事と調和的である。さらに、圧力検討のために花崗岩中のジルコンメルト包有物組成について Rhyolite-MELTS地質圧力計(Gualda et al. 2014)を用いた圧力検討を行った。その結果、86∼195MPa(N=6)の圧力が得られた。<引用文献> Gualda et al. (2014) Contrib Mineral Petrol,168,1-16. Taniwaki et al (2023) Lithos,454-455, 107260. 吉田ほか(1993) 地質学論集, 42, 297-349.

T10.文化地質学
  • 川村 教一
    セッションID: T10-O-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    1.はじめに 沖縄県では,民家で石臼(回転挽臼)が広く用いられていたことが知られている.神谷(1999)は沖縄県内で使用されていた石臼の石材について ,沖縄県立博物館の展示品(当時)を取り上げ,大豆をすりつぶすための挽き石臼として硫黄鳥島産の暗灰色~灰色の輝石安山岩,薬草をつぶすための石灰質の砂岩があることを述べている.これらのうち硫黄鳥島産の石材を用いた臼は明治時代以降に使われていた(恩納村博物館 ,2011).産地からの石材の流通過程や産業・文化の発展を論じる際,石材産地は重要な情報である.賀納(1997)は沖縄県の火成岩製の石臼を観察し,これらは硫黄鳥島産と考えた.このことに対し,暗い色調を示す火山岩には沖縄県久米島の安山岩もあることを大城(2020)は指摘しているので,同定には注意が必要である.沖縄県の石臼の産地同定のためには,石材の岩石学的情報を収集する必要がある.そこで本研究では,沖縄県内の博物館施設で収蔵されている石臼の岩石種について観察を行い,石材の種類について予察的に整理を行った.2.調査方法(1)対象 石臼は,沖縄石の文化博物館,今帰仁歴史文化センター,本部町立博物館,名護博物館,恩納村立博物館収蔵品の一部を調査した.(2)岩相の観察 岩相は,風化が進んでおらず付着物のない面を対象に石基の色調,気泡の有無・大きさ,斑晶鉱物の有無やその種類・粒径・量を肉眼で観察して記載した.(3)帯磁率の測定 石臼同士の類似性を検討するために,帯磁率の平均値と標準偏差を求めた.これらの統計値を用いて比較することで,石材産地を推定できる場合がある(例えば,﨑山ほか,2023). 帯磁率は,岩相記載と同様に付着物がないおおむね平坦な面を選んで,1面につき20点ずつ測定した.測定点の間隔は約5 cmとした.測定機器には携帯型帯磁率計(Terraplus社製KT-10)を用いてピンモードで測定した.なお石臼は,一般的に上臼と下臼とも直径約30cm,高さ10cm内外の円筒形をしている.上臼の上面はややへこんでおり,供給孔がある.上臼の下面はおおむね平坦であるが溝が刻まれている.なお,下面の中心に直径数mmの鉄製の芯が埋め込まれている場合がある.鉄棒がない場合は,上下面において各10点,および側面の上下面の中間付近で,外周に沿って20点で測定した.下臼の上下面ともにおおむね平坦であるが,上面には溝が見られる.なお,上面の中心に直径1~2 cmの芯孔に鉄管が埋め込まれている場合がある.鉄管がない場合は,上下面において各10点,および側面の上下面の中間付近で,外周に沿って20点で測定した.  3.調査結果 これまでに石臼25点のデータを得た.石臼の岩石種として砂岩,石灰質砂岩,花崗岩,火山岩(黒色~暗灰色~灰色,淡褐色)の4種が識別できた.このうち石灰質砂岩はいわゆる琉球石灰岩と考えられる.また,火山岩のうち黒色~灰色の岩石は一般的に斜長石の斑晶を含み,まれに輝石が見られる輝石安山岩である. 黒色~灰色の安山岩の帯磁率の平均値(標準偏差)は,3.0×10-3~2.6×10-2SI(1.5×10-4~4.0×10-3SI)である.4.課題 今後は,暗灰色系の火山岩について,石材産地の岩石と石臼の比較を行い,対比を試みたい.また,今回の調査で,これまで報告がなかった花崗岩や角閃石を含む火山岩製の石臼が見つかった.博物館施設等収蔵品の未調査の石臼も多いので追加の調査を行い,資料性の高い報告を目指したい.謝辞 沖縄県内の博物館施設の館長・職員の方々には調査に際しご高配いただいた.また,兵庫県立大学大学院地域資源マネジメント研究科の有道俊雄氏には調査をお手伝いいただいた.お世話になった皆様方に御礼申し上げる.引用文献神谷厚昭(1999)石材と人間の民俗的・歴史的関わり.沖縄県立博物館紀要,25,53-67.賀納章雄(1997)先島諸島におけるアワ用農具の形態と地域性.関西大学博物館紀要,3,218-240.恩納村博物館(2011)恩納100むらのきおく トーフウーシ.広報おんな ,362号 ,12.大城逸郎(2020)石臼いろいろ.おきなわ石の会.http://okinawanoishi.blog96.fc2.com/blog-entry-472.html(2023.6.26閲覧)﨑山正人・川村教一・佐野恭平(2023)兵庫県北部および京都府北部の近世~近代玄武岩製石造物の採石地の推定.人と自然,33,49-63.

  • 岡本 研
    セッションID: T10-O-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【はじめに】北海道北部士別市の「石灰山」では,1960年より良質の石灰岩が生石灰及び消石灰の材料として採掘され,1970年代には北海道の生消石灰の生産量の60%を超えていた(田中,1971)。しかし,一時閉山し,2001年より土壌改良材や融雪剤の材料として再び採掘が行われている。 この石灰岩は中生代のオリストストロームとされており(長谷川,1988),二枚貝や有孔虫等の化石により,三畳紀中期~後期の形成時代が推定されている(川村・橋本,2014)。また,ウーライトの発見により,形成環境としてラグーン環境が推定されている(岡本,2018)。 士別市の石灰岩について,観察や実験を通して石灰岩の成因や人間生活での活用について学ぶ学習プログラムを考案し,教育資料を作成した(岡本,2023)。【成因を考察する学習】露頭の観察(図)や岩石サンプルの観察から堆積性メランジュの形成について高校生,大学生,一般市民に考察させる学習プログラムを考案した。この学習を通して,古代のプレート境界で発生した付加体の大規模な崩落という事件を推定し,巨大地震に関連するという考察に結びつけた。【石灰岩の性質を考察する学習】士別市の石灰岩が酸性土壌の改良材として利用されている理由について,次のような実験を行って考察させた。(1) 石灰岩と酸の反応を調べる実験(土壌改良剤としての活用) 石灰岩を食酢に浸して石灰岩の溶解やpHの変化を調べる実験を通して,土壌中の酸と石灰岩の反応で生じる水酸化物イオンが土壌の酸性を中和し,中和されると溶解しにくくなり,長期間継続的に土壌が中和されるという優れた性質を持つことを理解する。(2) 石灰岩の加熱による変化を調べる実験(生石灰と消石灰としての活用) 砕いた石灰岩をガストーチで強熱することで起きる化学反応と温度の上昇を調べる実験を行い,一連の実験で起きた化学反応式を考えさせる。この化学反応については,高校「化学基礎」や高校「化学」でも扱われており,建築材料,酸性土壌の改良材,乾燥剤,発熱剤など,人間生活での活用と結びつけられている。 これらの観察・実験による学習プログラムの他にも,石灰岩に関する多数の学習プログラムを考案した。田中寿雄(1971):北海道上川郡士別石灰石鉱山の鉱床の形態と開発について.応用地質第12巻,第3号.長谷川美行(1988):奥士別南方の日高累層群の放散虫,コノドント年代.北海道中軸体に分布する日高累層群の再検討(昭和62年度科学研究費総合研究A研究成果報告書).川村寿郎・橋本健一(2014):北海道の石灰岩にみる中生代海山頂炭酸塩の堆積相と古生物相の変遷.日本地質学会第121年学術大会講演要旨,p76.岡本研(2018):士別周辺の岩石の教材化-石灰岩編-.士別市立博物館報告,35.岡本研(2023):士別の岩石と地質を学ぼう-士別の石灰岩-.士別市立博物館発行物.

  • 坂本 昌弥
    セッションID: T10-O-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    初等教育理科における学習内容(単元)は,「児童が対象である自然の事物・現象に関心や意欲を高めつつ,そこから問題意識を醸成し,主体的に追究していくことができるように意図的な活動の場を工夫することが必要である」とされている.また地質分野に係る単元学習時の指導方法については,「児童が土地のつくりや変化について実際に地層を観察する機会をもつようにする」「遠足や移動教室などあらゆる機会を生かすとともに,博物館や資料館などの社会教育施設を活用する」こと等が推奨されている(文部科学省,2018).これはこのような学習の積み重ねによって,児童が主体的に自然の持つ規則性に気付き,自然環境を思考・理解・尊重する力や態度が効果的に育成されると考えられるためである(坂本,2022).それゆえ理科の授業では,フィールドワークや社会教育施設等を児童の学習活動に可能な限り活用し,身近な空間の中で理科教育がなされていくことが望ましい.文化庁(2023)によると,全国には現在3,300件以上もの国指定史跡名勝天然記念物が存在する.加えて都道府県及び市町村指定文化財は12万件近い文化財が存在する.地質に関連する文化財指定については,「地質鉱物のうち学術上貴重で,我が国の自然を記念するもの」として12項目の指定基準があり,加えて天然保護区域に関する基準が存在する(文化庁,2022).指定の対象物は,その地域に特徴的にみられる岩石・地層・化石等であり,これらは学校教育の単元として活用されるべきものも多い.文化財指定時には,専門的知見を持つ研究者等が当該天然記念物候補物件に対して学術論文等の形で価値づけし,これを社会に公表することによって指定理由を明らかにしている.それゆえ指定天然記念物等の文化財についての専門的知識を持たない教員であっても,地域に存在する指定文化財の学術的価値や特徴を把握・理解しやすい教育環境がすでに整っており,これを活用することによって地域に根ざした地学教育教材の開発をおこなうことが可能である.しかし現状では,この教材開発は積極的におこなわれているとは言い難い.例えば熊本県教育委員会(2021)は,「熊本県文化財保存活用大綱」を策定し,おおよそ6つの観点から文化財を取り巻く環境変化に柔軟に対応することとしているが,学校教育への地質鉱物等の文化財の積極的な活用方針は見られず,観光等に活用されているケースが主である.指定天然記念物は,市町村指定のものを含めると身近に存在している場合が多く,これらを学校教育に活用することによって,教員が児童の生活空間の中から地質に関する事物・現象に関心や意欲を高めつつ,そこから問題意識を醸成し,主体的に追究していくことができるような活動の場を創り出すことができる可能性がある.それゆえ本研究では,その具体的な活用事例を示し,その教材開発法を明らかにする.鹿児島市に位置する桜島火山は昭和29年に県指定名勝として文化財指定され,現在まで鹿児島のシンボルとして保全・活用されている.そのすそ野に広がる溶岩原は,近赤外衛星画像を活用すると,桜島火山の噴火史を概観することができ,学習活動に活用しやすい(例えば坂本,2007).特に桜島火山の衛星画像を近赤外で処理することによって得られた画像は,明確な水域と陸域の境界線が判明でき,また植生の分布を観察することができる.ここで桜島の山頂域が黒く観察できるのは植生がないためであり,また発達したガリーの様子,流出する土砂によって発達した扇状地の様子,昭和噴火や大正噴火によって形成された溶岩地帯の観察等が容易にでき,教材として非常に活用しやすい. 【引用文献】文化庁(2022):記念物の保護のしくみ.https://www.bunka.go.jp/(最終確認日,2023/1/23).文化庁(2023):文化財指定等の件数.https://www.bunka.go.jp/(最終更新日,2023/7/10).熊本県教育委員会(2021):熊本県文化財保存活用大綱.93p,シモダ印刷.文部科学省(2018):小学校学習指導要領(平成29年告示)解説理科編.167p.東洋出版社,東京.坂本昌弥(2007):桜島火山防災教育の実践 ‐人工衛星画像と防災マップの活用‐.日本理科教育学会九州支部発表論文集,35,59-62.坂本昌弥(2022):指定天然記念物を教材とする理科教育の展開.~地域に存在する教育資源の活用~.心理・教育・福祉研究,21,43-52.

  • 浦本 豪一郎, 中村 璃子, 朝山 航大, 壹岐 一也, 多田井 修, 濱田 洋平, 谷川 亘, 廣瀬 丈洋
    セッションID: T10-O-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    高知県西部の幡多郡三原村では,当地で採石される新生界の粘板岩を用いて,高知県指定の伝統的特産品・土佐硯が生産されている.三原村における硯生産は1966年に現在まで採石される同村西部の源谷坑で硯製作可能な粘板岩露頭が発見されたことに始まるが(三原村史編集委員会,2003),三原村に隣接する土佐清水市では,下ノ加江地区荒谷坑から採石される「荒谷石」のように,歴史的な記録に残る硯材も存在しており(白野,1886),高知県西部では硯工芸の伝統文化が長く継承されてきたことが伺える.しかし,近年は安価な外国産硯の輸入や人工材料(プラスチックなど)製硯の生産と普及など,土佐硯に限らない,日本の天然石材製硯の生産・利用減少をもたらす状況が続き,硯職人が減少してきた.更に,土佐硯は原料となる粘板岩が採掘できなくなってきており,原料の枯渇によって,伝統工芸文化の存続が岐路に立たされている. こうした中,筆者らは三原村および土佐硯の職人組織・三原硯石加工生産組合と共同で,土佐硯の製作に利用可能な粘板岩の新規露頭探索の地質調査を進めている.この取り組みにおいて,新たな露頭で得られる粘板岩から硯の製作可否を判断するには,これまでに土佐硯製作に用いられてきた粘板岩の特徴を踏まえ,硯石として適正を判断する必要があると考えられる.そこで浦本ほか(2023)では,従来から書家や硯職人によって説明されてきた土佐硯石の特徴を,文献調査や研究用に製作した土佐硯の表面分析を踏まえて再整理し,(1) 中期始新統-前期中新統の粘板岩で,(2)鑑賞用途に重宝される「金星」と呼ばれる金属鉱物が主に黄鉄鉱から構成されること,(3)土佐硯表面の鋒鋩(ほうぼう)(墨を磨るための硯表面の微細な凹凸構造)を主に粘土鉱物が構成すること,としてまとめた.ただし,土佐硯石の源岩について,従来は書家や硯職人の評価で「硯石が緻密な組織を持つ」ことによって墨の下りの良い鋒鋩(墨を磨るための硯表面の微細な凹凸構造)を作ることができるとされているが(植村,1980),ここで言われる「緻密」がどのような組織であるか,感覚的に表現されているため,組織のスケールや構成鉱物の特徴等,依然として具体的なことが分かっていない. 今後,新規の硯材採石場の調査研究を進める基礎として,採石坑で得られた硯石の源岩そのものの特徴も把握する必要があると考えられる.そこで本研究は,過去・現在の土佐硯石の採石坑で得られた粘板岩試料について,鉱物単体分離解析(MLA)による鉱物分析と粒度分析によって,硯石の組織解析を行った.MLAは走査電子顕微鏡観察で得られる画像の解析とエネルギー分散型X線分析によるX線スペクトルの化学分析を組み合わせ,試料に含まれる鉱物の同定や重量割合の解析,鉱物粒度分析を自動で行う方法で(Sylvester, 2012),硯石の組織解析に応用できると考えられる. MLAの結果について,XRDの全岩鉱物分析や走査電子顕微鏡による個別粒子の観察・分析で得られたデータも含めて総合的に検討したところ,従来,「緻密」とされてきた土佐硯石の組織が「主に16 μm以下のミクロスケールの極細粒シルトが構成する組織」であることが判明した.さらに,土佐硯の各採石坑で得られた硯石を比較したところ,現在の採石坑の粘板岩では,過去の採石坑に比べて結晶鉱物の砂質粒子の含有割合が高いことも分かった.この結果は,硯の製作過程等において硯職人が体感している採石坑間の土佐硯石の特徴の違いを表していることも分かった.総合的な硯石評価の一助として,MLAによる分析が有用となることが分かった. 【文献】三原村史編集委員会編, 2003, 新編 三原村史,三原村教育委員会,三原,1115ページ; 白野夏雲, 1886, 地質要報,2, 234–282; Sylvester, 2012, Mineral. Assoc. Canada Short Course, 42, 1‒16; 植村, 1980, 和硯と和墨,理工学社,新宿, 291ページ; 浦本ほか,2023,地質学雑誌,印刷中.

  • 谷川 亘, 徳山 英一, 望月 良親, 高木 翔太, 中村 璃子, 多田井 修, 山本 哲也, 近藤 康生
    セッションID: T10-O-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    日本各地に点在する近世大名墓所は、近世武家社会の葬送の実態を知る手がかりとなると同時に、墓碑・墓塔の産地・採石場の情報は、当時の物流および文化的な背景を知る手がかりとなる。そこで本研究では、土佐藩主山内家の大名墓を対象に石材の産地同定を行った。山内家大名墓所は高知市筆山に北麓に造成されており、初代から16代までの藩主、およびその家族の墓石が建てられている。一方、15代藩主山内豊信(容堂)の墓石は、東京都品川区大井公園に隣接した敷地にある。墓石は全体に青緑がかっており、三波川変成帯に分布する「青石」に類似している。大井公園からほど近い場所にある清澄庭園は豊信の墓が建造された時期と同時期(明治初期~中期)に造成されており、また3地域の「青石」が庭石としてふんだんに利用されている。また、全国に流通している有名な青石石材として愛媛県内で採取される「伊予青石」がある。そこで、本研究は豊信の墓石、および清澄庭園の庭石と伊予青石で造られたと推定される愛媛県内の石造物(主に顕彰碑)を対象に調査を行った。携帯型帯磁率測定器(TK-10、Terraplus社)を用いた岩石磁化率測定、小型分光測色計(Spectro1、Variable社)を用いた色測定(L*a*b*表色系による数値化)による非破壊分析を実施して、それぞれの特徴を比較した。豊信の墓石は高さ2.1m、厚さ0.2mの平板状の自然石から作られている。全体的に青緑がかり、弱い層構造と連続性の乏しい石英脈が確認できる。また、至る所に10mm程度の丸い穴が空いている。磁化率は0.69±0.097×10-3 SI (n=50) を示した。色測定の結果、dark olivish gray(色コード:#70766b)を示し、L*値とa*値はそれぞれ25~55、-4~9を示し、b*値は5.7±1の値を示した。またb*値はa*値と弱い相関を示したが、L*値とは相関関係が認められなかった。穴の断面形状は真円に近い円形をしており、穴の位置はランダムであった。穴の直径が大きくなるほど穴が深くなる傾向が認められたが、深さが20mmより深くなると、直径と深さとの関係は不明瞭になった。清澄庭園には伊予青石、紀州青石、秩父青石が景石として使用されている。それぞれの磁化率は0.6~0.95(平均値=0.78)×10-3 SI、0.05~1.2(0.72)×10-3 SI、および0.17×10-3 SIを示した。一方、愛媛県西条市で産出された青石は0.59~1.15(0.84)×10-3 SIを示し、伊方町にある石碑と海岸の転石は0.52~1.09(0.77)×10-3 SIを示し、八幡浜市の石碑・海岸の転石は0.59~0.90(0.78)×10-3 SIを示した。また、清澄庭園の伊予青石、および伊方町と八幡浜市の石碑の一部に豊信の墓石と近いb*値を示す景石が認められた。また、伊方町にある3基の石碑、および3カ所の海岸露頭と転石で穴が空いた青石を確認できた。また、「三崎漁師物語り三崎本店」跡地にある石碑の穴の中に、白色の二枚貝の貝殻が確認できた。穴が確認できた3つの青石を対象に直径と深さ分布を計測したところ、いずれも豊信の墓石の特徴と類似性が認められた。特に、道の駅瀬戸農業公園前にある「国道改築記念碑」はその特徴が合致した。豊信の墓石で確認された穴は、伊方町と八幡浜市の青石で認められた特徴と一致することから、海岸付近に生息する穿孔貝により掘られた巣穴の可能性が高い。また、豊信墓石の磁化率とb*値は同地域の青石と齟齬が認められないことから、豊信の墓石は愛媛県西部の伊方町の海岸で採取された三波川変成岩の転石から製作された可能性を示唆している。伊予青石は大洲市および西条市でも採石されているが、前者は山を削って採石しており、後者は河川敷等から採取されたものであるため、穿孔跡は存在しない。墓石は川石と異なり丸みや光沢が目立たなく、表面がややくすんでいることから海石の特徴を示す。一方、三波川変成帯の緑色片岩である「青石」は愛媛県の伊予青石以外にも、清澄庭園にある紀州青石(和歌山県)、秩父青石(埼玉県)、さらには阿波青石(徳島県)、伊勢青石(三重県)も存在することから、愛媛県以外の青石の特徴、当時の石材の流通過程などについて調査する必要がある。

  • 先山 徹, 黒川 信義, 谷川 亘, 森山 由香里, 海邊 博史, 田村 公利
    セッションID: T10-O-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    考古学分野で歴史的石造物の石材産地や流通を検討する場合,しばしばその形態が有効手段とされる.しかしそれは製品の流通と技術の伝播の両面が考えられる。一方地球科学的同定は石材そのものの移動を意味し,それが製品であったか石材のままであったかは不明である.そこで筆者らはこれまで,考古学と地球科学の両面から総合的に石材産地や流通過程の検討を行ってきている.本発表では高知県南西部の土佐清水市における中世の石造物(特に一石五輪塔)を対象に,それらの特徴と産地・流通の可能性について報告する.具体的作業として考古学分野のメンバーは各石造物の実測と銘文の拓本作成を担当し,地球科学分野のメンバーは岩相記載,帯磁率測定,蛍光エックス線分析をおこなった.  土佐清水市には中世から近世にかけて作成された砂岩と花崗岩の石造物が多く存在している.なかでも泉慶院墓地(図1)と念西寺墓地には砂岩製の一石五輪塔が大量に存在する(土佐清水市教育委員会,2010).それらの製作年代として,このうちの1基に天文15年(1546年)の文字が刻まれているのみで,他は不明であるが,類似した形態のものがまとまって分布することから概ね中世後期のものであると考えられる. これらを構成する砂岩はその岩相と帯磁率によって大きく以下の3種類に区別される.砂岩A:粗粒砂岩~中粒砂岩からなり一部には極粗粒砂岩と呼んで良いものも存在する.しばしば2~3㎜の岩片が点在する.帯磁率は0.20~0.37×10-3SI. 砂岩B:主に中粒砂岩からなり,砂岩Aと比べると細粒で大型の礫を含まない点が異なるが,明瞭に区別できないものも多い.また一部に砂岩Cに似たものも存在する。帯磁率は0.13~0.29×10-3SI.砂岩C:細粒砂岩~微粒砂岩で粒度が揃っている.帯磁率は0.02~0.09×10-3SI.  土佐清水市で塊状の砂岩がまとまって産する地層としては竜串海岸周辺に分布する新第三紀の前弧海盆堆積物からなる三崎層群があげられる.海岸に沿った露頭でできる限り広範囲で無作為に測定した60地点の帯磁率は0.032~0.178×10-3SIの範囲を示し,砂岩Cの大部分がこの範囲に含まれる.一方,歴史的に見て中世~近世の西日本で盛んに採石され各地に流通された砂岩としては和泉層群の砂岩があり,その産地として大阪府南部の阪南市が知られている(三好,2012).阪南市周辺の和泉砂岩露頭および転石111点での帯磁率は0.22~0.46×10-3SIの範囲を示し,砂岩Aおよび砂岩Bの値の多くはこの範囲に入る.また和泉砂岩はしばしば2~3㎜の礫を含む点でも砂岩A・Bと類似する.以上から,砂岩A・Bは和泉層群であり,砂岩Cは三崎層群である可能性が高い.ただし砂岩Bのうち低い帯磁率のものは三崎層群の可能性も残される。 次に考古学的立場から見ると,一石五輪塔はその形態によってⅠ類・Ⅱ類・Ⅲ類の3種類に分けられる.Ⅰ類は畿内に多く存在する一石五輪塔に類似の形態,Ⅱ類は他地域では見られない土佐清水特有の形態で,Ⅲ類は両者の中間の形態を有する.このことと前述の石材との対応を見ると必ずしも1対1で対応しているわけではないが,その中でⅠ類とされたものは全て砂岩AまたはBで製作されており,砂岩Cで製作されたものは見られない.一方形態ⅡとⅢのものは,砂岩Cを主体としながらも一部に砂岩AやBで製作されたものも存在する.このことと石材についての岩石的知見を加えると,以下の結論となる.(1)形態Ⅰ類の一石五輪塔は畿内で製作された和泉砂岩製の製品が搬入されたと考えられる.(2)Ⅱ類とⅢ類の形態で砂岩Cからなるものは,地元の石工によって地元の石材を使用して製作された.(3)Ⅱ類・Ⅲ類のうち砂岩A・Bで作られたものは,石材として搬入された和泉砂岩が地元石工によって加工された,または地元の石工が畿内に出張して製作したものの可能性がある. 土佐清水には一石五輪塔とともに砂岩の石仏が多量に存在する.また花崗岩製の五輪塔も大量に存在している(市村,2013).それらとの関係も含めて総合的に検討することで石材と技術の流通の変遷をたどることができる。 文献市村高男(2013)御影石と中世の流通.高志書院,282p.三好義三(2012)和泉砂岩に関する研究の現状と諸問題.石造文化財,4号,21-34. 土佐清水市教育委員会(2010)加久見城館遺跡群-試掘確認調査報告書-.土佐清水市埋蔵文化財報告1,土佐清水市,93p.

  • 乾 睦子, 西本 昌司, 梅村 綾子, 中澤 努
    セッションID: T10-O-8
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    明治維新後の日本において盛んに建てられた西洋式の建築物に使われた石材の中には,国内で採掘されていたものも多いことはあまり知られていない。実際には明治時代後半から昭和中期にかけて国内で数多くの採石場が開発され産業的に採掘・出荷されていた。全国で石材資源の探索・開発を進める契機になったとされているのは,1936(昭和11)年に完成した国会議事堂の建設工事がすべて国産材を用いる方針を取ったことである(大蔵省営繕管財局編纂,1938)。しかし,今ではそのほとんどが閉山し石材が入手不可能となっているために忘れられている。これらの国産石材が実際にはどのような石材で,どのように建築物に使用されたのかは,日本の地質資源がどのように近代日本の社会基盤形成に貢献したかということでもあり,分かる限り記録しておくことが重要であると考えている。石材の出自は建築物の文化財としての評価にも関係する重要な資料でもある。ところが,個々の建物の石材を見ていくと詳しい産地の記録がないことが多く,そのような石材の産地推定は関係者の証言や目視観察に頼るしかなく科学的とは言い難い。さらに,現在既に入手不可能でどのような色・柄だったのかが不明な石材もある。そこで,より科学的な石材産地の同定を可能にするための基礎的なカタログを作成することが本研究の目的である。そのためには産地が正確に分かっている石材を用いて,岩石薄片観察やX線分析顕微鏡観察,ラマン分光分析等を行い石材の見た目の模様と鉱物分布の関係を明らかにすることが第一歩である。  今回,産地と石材名が確実なサンプルを,矢橋大理石株式会社(本社:岐阜県大垣市)が保管している当時の国産石材の原石から入手することができた。矢橋大理石株式会社は明治時代後期から現在まで多くの建築物において石工事を請け負ってきた石材会社であり(長谷川,1986),実際に近代建築物に用いられたものと完全に同等なサンプルであると言える。今回入手した石材は石灰岩(結晶質石灰岩を含む)27種類,蛇紋岩3種類,深成岩5種類の計35石種である。近代建築物に実際に使われた事例が多い石材と,名前は知られているが色柄が不明な石材を主に選定した。これらの石材について板材の研磨サンプルの目視観察を行い,色や柄を確認した。次にそれらの一部について偏光顕微鏡による薄片観察,X線分析顕微鏡観察,ラマン分光分析を行い鉱物記載を進めたのでこれまでに得られた知見を報告する。  国産の白大理石石材としては,白地に暗緑色の筋が入る柄を特徴とするものがいくつか知られており,肉眼での区別が困難であることがある。そのうち「白雲」(岩手県産,今回入手)と「渓流」(高知県産,今回入手)および「水戸寒水」(茨城県産)を上記の手段で観察したところ,暗緑色の筋をつくっている鉱物組成に違いがあることが分かった。多様な有色鉱物(緑泥石,緑泥石,蛇紋石,磁鉄鉱など)を含む薄層を挟んでいることによる筋の他に,炭酸塩鉱物の粒度の違いによって暗色に見えている筋もあった。挟まれている薄層と方解石主体の母岩の部分の境界の明瞭度にも違いが見られた。一方,肉眼では白く見える炭酸塩鉱物層中に含まれるケイ酸塩鉱物の割合も石材によって異なっていることが分かった。これらの観察は,全岩化学組成分析では得られない化学的なばらつきであることから,化学組成の非破壊分析が同定に使える可能性を示している。今後は近代建築物に使われている各石材の岩石学的データを積み上げていくことによって,建築物中の石材をその場で非破壊分析して同定する可能性を探りたいと考えている。  本研究は科学研究費補助金(課題番号22H01674)の助成を受けて実施されている。 〈引用文献〉長谷川 進(1986):『石材 本邦産』133ページ,矢橋大理石株式会社(社内資料)。大蔵省営繕管財局編纂(1938):『帝国議会議事堂建築報告書』710ページ,営繕管財局,東京市。

  • 三上 禎次, 貴治 康夫
    セッションID: T10-O-9
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    1. はじめに京都市伏見区にある伏見稲荷大社の背後にそびえ立つ稲荷山には,数多くの岩石によるお塚が祀られている.稲荷山には七神蹟と呼ばれる神蹟があり,それぞれのお塚の御親石には祀られている神名が刻まれている.これらのお塚の岩石を観察すると,お塚ごとに使用されている岩石種が違い,また稲荷山を構成しているジュラ紀付加体丹波帯の堆積岩類やそれらに貫入している火成岩類とは異なった岩石も多数あることが窺える(三上・貴治,2022).ここでは,七神蹟(田中社,下社,荷田社,中社,上社,御剣社,御膳谷)のお塚の岩石やその周囲の玉垣,眷属(狛狐)などの石材について調べ,その産地についても調査した. 2. 各神蹟の石材と産地 稲荷山の四ツ辻から荒神峯に至る途中に,田中社がある.ここに祀られているお塚の御神石は砂岩で,またその御神石の台座となっている神石台・四ツ石・石垣は緑色片岩や石灰岩,砂岩,石英閃緑岩(鞍馬石),石英片岩,玄武岩(緑色岩),層状および塊状チャートから構成されている.さらに下の台座には花崗斑岩が使用されている.田中社での構成岩類の特徴は多種多様で,特にお塚の中では唯一石灰岩が含まれている.周囲の石玉垣は花崗岩が使用されている.下ノ社(三ノ峯)の御神石は砂岩であり,御神石の台座となっている神石台・四ツ石,石垣は玄武岩(緑色岩)や泥質岩,層状チャート,石英閃緑岩(鞍馬石)からなり,最下部石垣の花崗岩には淡桃色のアルカリ長石を含む花崗岩が使用されている.眷属や神石台の鳥居は花崗岩(北木島産)である.荷田社(間ノ峰)の御神石には石英閃緑岩(鞍馬石)が使用され,神石台・四つ石,石垣には石英閃緑岩の他,泥質岩類,層状チャート,最下部石垣には層状チャート,砂岩,泥質岩が使用されている.中社(二ノ峯)では御神石に砂岩,神石台・四ツ石・石垣には富士山の玄武岩が用いられているのが特徴である.上社(一ノ峯)も岩石種が多様で,御神石は砂岩および石英閃緑岩,神石台・四ツ石および石垣には,石英閃緑岩,緑色片岩,チャート,玄武岩(緑色岩),砂岩が用いられている.長者社(御剣社)については,御神石は現地性の大きな磐座にしめ縄を施して祀られている.これは稲荷山の層状チャートである.奥村社(御膳谷)の御神石は石英閃緑岩が,祭事に使用される御饌石には稲荷山の層状チャートが用いられている.また産地については伏見稲荷大社から修繕の依頼を受けた石材店の職人や各神蹟茶店の方の話から産地が確かめられた.御神石に使用されている砂岩の多くは和泉層群の砂岩で,和泉石の特徴とも一致する.ただし台座や石垣に使用されているものは一部付加体起源(丹波帯)と思われるの砂岩もある.中社(二ノ峯)の石垣については茶店の方からの話で産地が富士山であることが判明し,岩石種の様相に一致する.石玉垣や眷属の花崗岩については,建立年代の古いものは白川花崗岩が使用されており,比較的建立年代が新しい(昭和以降)のものは北木島産の花崗岩が使用されているものが多い.ただし下社(三ノ峯)最下部の花崗岩は万成石や六甲などの淡桃色のアルカリ長石を特徴的に含む花崗岩である可能性がある.3. まとめ 以上のことから,稲荷山のお塚の石材は,稲荷山を構成している丹波帯やそれを貫く火成岩などの構成岩類とは異なる岩石種も多い.このことは,地元の稲荷山周辺の石材よりも,建立した石材商の流通や取引に関係の深い地域の石材が使用されている可能性が高いことを示している. <文献> 三上禎次・貴治康夫(2022),伏見稲荷大社「朱」第65号,p154-167.

  • 【ハイライト講演】
    貴治 康夫
    セッションID: T10-O-10
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    京都盆地は基盤の地質区分からみると丹波帯に位置する.東は花折断層系,西は西山断層系の活動による断層崖が発達する.京都盆地には北東から高野川,北西から賀茂川が流入する.東山丘陵を隔てて盆地の東方には山科盆地がある.京都盆地南東の宇治地域は茶どころであり,さらに滋賀や奈良を結ぶ水陸路の要衝として都との結びつきが強い.人々が集住する盆地の中で,平安時代から1000年以上続いた古都の長い歴史が伝統的な手工業を発達させた.現在まで育まれてきた高い技術と技法は日本文化を象徴するものとして海外からも高く評価されている.今回は京都盆地周辺の地質と伝統産業との関わりについて,資源の主な利用例を挙げながら概観する. 京都が発祥地とされる仏壇・仏具は多くの細かな工程を経て製作される.作業に必要な鋸,鉋,のみ等,種々の鉄製工具の調整には砥石が必要である.天然砥石として名高いのが鳴滝砥である.鳴滝砥の合砥で刀剣の刃先を鏡面に仕上げることができる.京都盆地の北西に分布するジュラ紀付加体・丹波帯Ⅰ型地層群の最下位に位置する珪質頁岩およびその上位の層状チャートに漸移する部分の風化層が主に採掘された.調理用の庖丁,西陣織や華道で使う鋏の研磨はもちろん,京指物(硯箱,飾り棚など)や菓子木型の製作,京銘竹や北山丸太の原木の切断,能面打ちにいたるまで鉄製工具の使用に伴って,砥石の必要な場面は多い.鉄製工具は京町屋の建築にも欠かせず,都では宮殿,社寺,城郭,殿舎,茶室などの精密な伝統建築の作業現場で高品質の砥石が使用された.  建築用の壁土として,伏見地域に分布する大阪層群の海成・淡水成粘土層や火山灰層を採掘して精製した様々な色土が使用されてきた.屋根瓦用の粘土も同地域で採掘され,鬼瓦に代表される装飾性の高い様々な棟飾りが製作された.木材表面をなめらかに仕上げる(目止めする)ためには砥粉が使われる.砥粉は岩石の粉末であり,漆器の下塗りに使用されることもある.山科地域では東山丘陵に分布する丹波帯Ⅰ型地層群の風化した頁岩を粉砕して砥粉が生産された.もともと,京都盆地の周縁部では土器を製作するために,古代から粘土の利用はあった.やがて,豊臣秀吉による伏見城築城や方広寺大仏殿の建設など,大規模な都の整備・改造が建築関連産業を大きく発展させた結果,京都盆地東部の建築用資源の利用が著しく増加した.伏見地域では良質の粘土を用いた素焼きの人形(伏見人形)も製作され,稲荷大社に参詣する人々の土産物として全国に知られた.壁土と共に重要な建築材料には漆喰がある.水酸化カルシウムを主成分とする漆喰の原料は石灰岩である.京都盆地周辺の中・古生層から石灰岩は産するが,灰方地域(京都市西京区)が漆喰の生産地として知られた.西山に分布するジュラ紀付加体に含まれるブロック状のペルム紀~三畳紀の石灰岩が採掘され,ふもとの灰方地域で石灰岩が焼かれた.当地の漆喰は古くから朝廷に献上されていたという. 京焼は,洛中・洛外に点在した窯元の焼き物の総称である.既に奈良・平安時代に焼き物は製作されていたが,安土桃山時代から発展した.特に清水坂や五条坂界隈の窯元による清水焼が,デザイン性や絵柄が豊富なことで有名になった.実際には東山地域には焼き物に適した土は乏しい.茶聖・千利休が陶工の長次郎に依頼し,製作された樂焼は,華やかな絵柄とは無縁のわびの世界に通ずる焼き物である.土は聚楽第建設に伴う堀り土(聚楽土)が使われ,釉薬は賀茂川河原の転石である加茂川石を粉砕して開発された.加茂川石は丹波帯Ⅱ型地層群のペルム紀緑色岩である.宇治にも窯元が現れ,宇治川近傍の白亜紀後期の岩脈から採石された安山岩製の茶磨が生産されるようになり,江戸時代には全国に普及した. 都が置かれた平安時代以降,京都では宮廷や寺院の建築とともに自然の風景を写し取った庭園や茶庭造り,意匠を凝らした石工芸(石仏,灯籠,蹲踞など)製作がさかんになった.京都盆地東北の中・古生層を貫く白亜紀の比叡花崗岩(白川石)や石英閃緑岩(鞍馬石)は庭石のほか,工芸品の素材として用いられてきた.白川砂は白川石のマサで,庭園の敷き砂として名高い.秀吉の時代,比叡花崗岩体の一部で採石された石材(太閤石)から主に灯籠がつくられた.丹波帯のチャートや緑色岩(貴船石),接触変成作用により硬化した泥質岩(例えば八瀬真黒石など)は,形状を活かして自然石のまま庭に据えられることが多い.文献林屋辰三郎・村井康彦・森谷尅久[編](1979)日本歴史地名大系第27巻京都市の地名初版.平凡社,1201p.京都府自然環境保全課[編](2015)京都府レッドデータブック2015 第3巻 地形・地質・自然生態系編.京都府自然環境保全課,430p.瀧本 清[編](1973)日本地方鉱床誌 近畿地方.朝倉書店,436p.

  • 此松 昌彦
    セッションID: T10-O-11
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    1.はじめに  紀伊半島南部に位置する和歌山県那智勝浦町や新宮市の間には大雲取山(標高966m)を中心にした標高400m以上のまとまった山地がある。この高い大雲取山周辺の高い山の南山麓地域で、なだらかな地形が広く分布しているが、1m DEM のレーザー測量結果を利用した陰陽図による解析の結果、そこには2万5千分1地形図ではわからなかった棚田地形がひろく分布していることが明らかになった(此松・秋山, 2020)。航空写真などによっては一部では明らかにできるが、時代とともに棚田地形は棚田をしないことで棚田地形に植林がされたりしているため、写真上では見えない状態になっているものも多数あった。今回の研究では、さらに大雲取山周辺の熊野酸性岩類の分布地域全体の山麓を含めた棚田地形の分布をデータを増やして陰陽図から明らかにすることができたので報告する。2.地形・地質概要 紀伊半島には紀伊山地という大きくまとまった山体がある。それから外れた独立した標高500m以上の小さな山が紀伊半島南東部の沿岸に沿って並んでいる。その南端部にの大雲取山(標高966m)をメインとした山体が和歌山県那智勝浦町、新宮市にも分布して、独立した山体になっている(図1)。この大雲取山周辺の高い山体は図1のように地質的には新第三紀中新世の火成岩体(熊野酸性火成岩)からなり、その周りの低い山地は新第三紀中新世に堆積した海成層(熊野層群)からなり、泥岩層、砂泥互層からなる地質であり、火成岩とは貫入関係である。相対的に火成岩より侵食しやすい堆積岩が周りで低くなることで、大きな山体になっている。地質の違いが地形に現れていて、緩やかな堆積岩の地形に棚田や集落が分布している。3.陰陽図による地形解析と現地調査  レーザー測量1mメッシュD E Mは近畿地方整備局から借用したデーターを使い、陰陽図は朝日航洋株式会社によって作成された。これでは尾根は赤系、谷は青系で示され、急傾斜では色が濃くなり、平坦なら白くなって示され、立体的にも見えるようになる。それで解析したところ棚田地形が山麓で広く分布し、それ以外の場所ではあまり分布していない。4.結果 棚田地形は酸性岩類の周りの山麓に分布する堆積岩分布地域だけに広く分布して、そこから離れた堆積岩の地形には棚田地形はほとんど見ることができない。また棚田地形は北側山麓より南側山麓の方が広く分布している。この山麓の堆積岩の分布では川幅が広かったり、川を伴う谷地形の幅が広く、そこに棚田地形が広く分布している。このように傾斜が急傾斜の酸性岩類(流紋岩類)から緩傾斜の堆積岩(熊野層群)のような地質の違う不整合周辺で広く分布していることを明らかにした。現地調査も含めると、ここで示す棚田地形には厳密に棚田として稲を栽培しているだけでなく、茶葉の栽培や植林地として利用されている。棚田地形は土石流後の谷に造られている場合と尾根などを切って切土状で造られたテラスがあることも明らかにできた。擁壁には丸い酸性岩類(流紋岩)のコアストーンの石を利用して作られている。5.考察 山麓の広い川幅の谷地形にはかつての土石流堆積物が堆積し、その上に棚田地形が作られていると考えられる。そのため山麓には幅の広い谷が観察される。尾根を切ったテラス地形は集落跡の可能性がある。かつて山麓周辺は鉱山もあったことから多くの人が居住していたとも言われている。江戸時代から土石流堆積物の上に棚田地形を作るのが当時に絵図(熊野名所図絵)でも描かれていることから、土石流堆積物の上に意図的に棚田地形を作っている可能性もある。そのため土石流分布と棚田地形の分布がほぼ一致している。中島他, (2017)によると2011年の台風12号の紀伊半島大水害を被った棚田を調査したところ、土石流の被害が棚田のある所で軽減していたことを明らかにしている。このことは日当たりの悪い北側斜面でも棚田地形が存在することから米作りだけでなく、防災の観点からも棚田地形を積極的に作った可能性が示唆される。謝辞本研究の一部はJSPS科研費17K01033の助成を受けたものです。文献此松昌彦・秋山幸秀(2020)陰陽図を利用した仮想空間による地形認識の研究:和歌山県那 智勝浦町での事例, 和歌山大学教育学部紀要. 自然科学, 70, 47−50.中島敦司・中野慎二・Ganeindran Rainoo Raj・水町泰貴(2017)棚田地形が土砂崩落の軽減に与える影響: 日緑工誌, 43, 199-202.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    猪股 雅美
    セッションID: T10-O-12
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    はじめに平成30年7月豪雨では広島花崗岩類が分布する東広島市において,中世城館跡の下部斜面で土砂移動が多発した.築城のための人為的地形改変が土砂移動の発生要因の一つとなることが,これまでに指摘されている1.本講演では,花崗岩以外の地質に立地する中世城館跡についても調査をおこない,中世城館跡で発生した土砂移動への地質の影響について,GISと遺構図(城跡の略測図)23を用いて検討した.調査対象中世の城跡が165件残る東広島市2と,東広島市に近接する呉市・竹原市・安芸高田市の三市,および岡山県に立地する中世城館跡を調査対象とした.東広島市・呉市・竹原市は花崗岩類が広く分布し4,平成30年7月豪雨でも多数の土砂移動が発生していたことが報告されている5.安芸高田市は流紋岩類が広く分布し4,毛利氏の拠点の郡山城跡を含む115件の中世城館跡が残る2.岡山県には中世に築城された城跡が1,126件と多く残る3が,四市と異なり,特定の地質が顕著に偏って分布しているわけではない4.そして四市および岡山県とも100年以内に複数回の豪雨を経験している67. GISによる城跡の地質別立地分析それぞれの城跡をGISにより地質ごとに分類した.地質は,白亜紀後期に形成された花崗岩と花崗閃緑岩および花崗斑岩の広島花崗岩類を「花崗岩」,白亜紀後期に大規模火砕流として噴出した高田流紋岩類を「流紋岩」,中生代の玄武岩質安山岩など流紋岩類以外の「火山岩」,古生代の斑れい岩など花崗岩類以外の「深成岩」,三郡変成岩類などの「変成岩」,「付加体」,第四紀に形成された堆積層の西条層などを「第四系」,それ以外の「堆積層その他」,の8種類に分類した.その結果,東広島市・呉市・竹原市では「花崗岩」に立地する城跡が,それぞれ68.5%,71,4%,60.0%と最も多かった.安芸高田市では「流紋岩」が66.1%と最も多かった.岡山県の城跡が立地する地質は,「花崗岩」が26.0%と最も多かったが,その他の4種類の地質にも11~17%程度の城跡が立地していた.遺構図による調査遺構図に土砂崩れ跡が記載された城跡を抽出した結果,遺構図が有る城跡のうち,土砂崩れ跡が記載されている割合(土砂崩れ跡記載率)は,東広島市が45.1%,呉市や竹原市もそれぞれ30.8%,58.3%であった.しかし,安芸高田市では6.8%と記載率が低い結果となった.さらにそれらを立地する地質別に分類すると,東広島市・呉市・竹原市では「花崗岩」が80.4%・100%・42.9%で,安芸高田市は「流紋岩」が83.3%であった.また,立地する地質が偏っていない岡山県の城跡について同様に調査をおこなったところ,土砂崩れ跡記載率は25.8%で,地質別では「花崗岩」が最も高かった.しかし,「深成岩」や「火山岩」,「堆積層その他」に立地する城跡は,城跡数に対しての遺構図を持つ割合は「花崗岩」に立地する城跡よりも高いが,土砂崩れ跡記載率は低かった.これらの結果より,過去にも城跡では土砂移動が発生していたことがわかった.また,城跡が立地する地質で土砂崩れ跡が記載された数に違いがあること,特に「花崗岩」に立地する城跡が多いことがわかった.引用文献1.猪股雅美(2023)中世山城の特徴的な地形改変が土砂移動に与える影響.地質と文化,6巻1号,1-17.2.村田修三・服部英雄(2003)都道府県別日本の中世城館調査報告書集成18中国地方の中世城館(広島1・2).東洋書林,390p.3.岡山県教育委員会(2020)岡山県中世城館総合調査報告書.岡山県教育委員会,462p.4.産総研地質調査総合センター(2023)20万分の1日本シームレス地質図V2 GISデータ.https://gbank.gsj.jp/geonavi/geonavi.php#9(2023年6月閲覧)5.広島大学平成30年7月豪雨災害調査団 地理学グループ(2019)平成30年7月豪雨による広島県の斜面崩壊の詳細分布図(最終報告).日本地理学災害対応委員会.http://ajg-disaster.blogspot.com/2018/07/3077.html(2023年6月閲覧)6.伊達裕樹ほか(2010)広島県の災害データの解析による土石流・がけ崩れの特徴.公益社団法人地盤工学会中国支部論文報告集 地盤と建設,28巻1号,79-86.7.岡山県土木部防災砂防課(2023)過去の主な土砂災害一覧.岡山県,https://www.d-keikai.bousai.pref.okayama.jp/pc/kanren/kako.html(2023年6月閲覧)

  • 小滝 篤夫
    セッションID: T10-O-13
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    はじめに   考古学において,土器を作る材料として使われた土(胎土)の産地の推定には,胎土の可能性のある土と土器の化学組成を蛍光X線分析によって調べ,ハーカー図上のデータの分布や,統計学的に,胎土の土器の元素組成の同一性を推定する方法が試みられてきた(例えば,三辻ほか2013,清水1986).この方法では,統計的処理に必要な多数の土器試料の分析が必要になる.一方,土器と胎土中の鉱物を比較して対比ができれば,1点の土器でも胎土の推定が可能になる可能性がある.  須恵器など1000℃以上の高温で焼成するとされている土器中の鉱物は熱で変質していて同定が難しいとされ,土器中の鉱物観察から胎土を推定する方法はあまりとられてこなかった.ところが増島(2009)では電気炉による焼成実験によって胎土中の鉱物の光学的性質の残存状況を検討し,800℃以下の場合普通角閃石が本来の光学的性質を維持していると推論している. そこで,筆者は,京都府福知山市夜久野町末地区で表採された,京都府立大学考古学研究室と福知山市文化財保護係が保管される須恵器片のうち「焼きが甘い」と思われる試料の岩石薄片を作成・鉱物観察をし,末地区周辺の地質分布と比較をして,胎土を推定する方法を試みた.須恵器窯跡の地質  末地区には夜久野オフィオライトのメンバーであるはんれい岩が分布し,地表下数m以上の深さまで風化が進みマサ土状になっている.その中には斜長石,直方輝石,普通角閃石,粘土鉱物が確認できる.須恵器を焼いた窯跡の多くはこのはんれい岩域に分布している.一部の窯跡は,三畳系夜久野層群の砂岩・頁岩の分布域にある. 須恵器片中の鉱物   上記の2地域に産する須恵器片の薄片を偏光顕微鏡下で観察した.ほとんどの薄片で粗粒砂サイズの斜長石や普通角閃石,直方輝石が観察された.胎土の推定 末地区に砕屑物を供給する周辺地域の地質としては,はんれい岩,砂岩・頁岩以外に,第四紀玄武岩火山(斜長石,単斜輝石,かんらん石の斑晶),古第三紀の花こう岩(石英,斜長石,黒雲母),白亜紀の流紋岩質火砕岩が分布している(石渡,2005)が,いずれも普通角閃石.直方輝石は含んでいない.これらのことから末地区の須恵器の胎土は窯が立地した場所で採取されたものと推察する.また,夜久野層群分布地の窯でも.はんれい岩の風化土が胎土である可能性が高い. 文献 ・石渡 明・市山祐司(2005)夜久野町史第1巻,159-180.・増島 淳(2009)静岡地学,No.100,51-59.・三辻利一ほか(2013)分析化学,62(2),73-87.・清水芳裕(1986)京都大学構内遺跡調査研究年報,1983,49-60.

  • 久田 健一郎, 藪崎 志穂, 唐田 幸彦, 工藤 菜々子, 奥田 将生, 上用 みどり, 寺本 聡子, 向井 伸彦
    セッションID: T10-O-14
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    酒の四つの原材料(水,米,酵母,米麹)のうち,水と米だけが生産地に関わる物理的条件の要素として用いることができ,その中でも水は最も決定的な要因である.水は場所を移すことができず,その水質は酒の味に反映することから酒テロワールの代表と見なされている(ボーメール[日本語訳],2021).久田ほかは2021年に「日本酒仕込水の水質と地質」と題したポスター発表を行った.これは,全国およそ1400ある酒蔵のうち,仕込み水として使用している水274点(地下水200点,その他74点;ひとつの酒蔵から複数試料の場合あり;各50 mL)を入手した.仕込み水以外の参考水試料(9点)をあわせて分析総数は283点であった.東北日本,西南日本内帯,外帯の分析試料数は,それぞれ130,147,6であり,溶存イオンの成分比をあらわすキーダイアグラムの全ての領域に分散している.特に東北日本ではアルカリ土類炭酸塩型が50%,中間型が37%,内帯ではそれぞれ64%,24%となっていた.このような水質分析結果から,花崗岩がより広く分布する内帯の地域に位置する酒蔵の仕込み水は,Ca-HCO3 型がより卓越するものと推察した.一方,東北日本の水質ではより中間型の水が多く,これは広く分布する第四紀・新第三紀の地層中の地下水流動に起因するものと推定した.  今回,その後に分析した仕込み水試料13点を加えて(総計277点の仕込み水のみ),クラスター分析(溶存イオン8成分の濃度を利用)を試み,10のカテゴリーを見出した.その結果,2021年の発表における9のカテゴリ-分類よりもいっそう仕込み水の溶存イオンの特徴が明らかとなった.10のカテゴリーは,基本的には溶存成分量の少ないCa-HCO3 型と比較的多いCa-HCO3 型にわけられる.後者のうち,Ca2+とHCO3-が陽イオン・陰イオンで卓越するもの,Cl-が卓越するもの,SO42-とNO3-が比較的卓越するもの,Na+とK+が比較的卓越するものとなる.このように溶存成分量の多いグループはCa-HCO3タイプとNa(K)-Cl タイプで特徴づけられる.これらの地理的分布を見ると,溶存成分量の少ないグループは全国的に広がり(北海道を除く),多いグループは西南日本内帯に偏る傾向がある.花崗岩・斑レイ岩でできた筑波山の麓ではCa-HCO3タイプが確認されており,岩石による影響を強く受けている(藪崎他,2007).一般に水質は,岩石の種類・滞留時間などに強い影響を受けるといわれており,溶存成分量の少ないCa-HCO3 型を示す地点は,降水後まもなく地表水・地下水流動し滞留時間が比較的短時間であった可能性がある(急峻地形による).あるいは火山岩地帯の地下水のように,岩石-水反応が十分でなかったことが示唆される(火山岩の特性による).  仕込み水の水質が清酒醸造に及ぼす影響を明らかにするため,国内清酒製造場の仕込み水11種と超硬水と純水の合計13種類の水と精米歩合40%,60%,70%の原料米を用いて清酒小仕込み実験を行ない,水質と清酒成分等との関係を解析した(奥田ほか,2022).すなわち仕込み水と原料米の無機元素含量から,もろみに投入される仕込み水の影響が大きい元素の特定を行った.清酒小仕込み試験の結果,発酵過程や製成酒成分は超硬水とそれ以外では顕著に異なったが,11種類の清酒仕込み水間においてもバラツキがみられた.製成酒の味覚センサー解析では酸味,苦味雑味・旨味コク,渋味刺激・渋味センサー応答において,仕込み水のMg, Ca, SO42-濃度に相関がみられた.とくに各仕込み水中で米の消化性を調べたところ,仕込み水のCa,SO42-濃度が高いと消化液のα-アミラーゼ活性が高くなることが認められた.すなわち,α-アミラーゼの無効吸着が仕込み水の無機成分含有量によって左右され,その結果米の溶解性に影響を及ぼすことが示唆された.一方,消化液のアミノ酸濃度は,仕込み水のCa, SO42-濃度が高いと低くなる傾向が見られた.そして各仕込み水での消化特性は,アミノ酸濃度,香気成分,発酵速度など清酒醸造特性にも高い相関を示した.このように奥田ほか(2022)は,仕込み水のSO42-のような無機成分が,α-アミラーゼの蒸米への無効吸着を抑制し,米の溶解性を向上させる一方で,アミノ酸の生成を抑制する可能性を指摘した. 【文献】 ボーメール(Baumert,2021) [寺尾監訳] 酒 日本に独特なもの276pp,晃洋書房. 久田ほか(2021)地質学会第128年学術大会T5-P-1. 奥田ほか(2022)日本醸造協会誌 117(8) 580-608. 藪崎ほか(2007)地下水学会誌,49,153-168

  • 松原 尚志
    セッションID: T10-O-15
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    北海道釧路地域南東部には,上部白亜系-中部始新統根室層群および中-上部始新統浦幌層群を貫く砂岩脈が多数存在していることが知られている(e.g. 徳田, 1930; 河合, 1956; 岡崎・杉山, 1958; 長浜, 1962).釧路市興津海岸に見られる「春採太郎」(永淵, 1952)はその中でも最大のもので,1970年代以降,道東におけるジオサイトの一つとして研究者や市民に親しまれてきた(e.g. 岡崎ほか, 1971; 道東の自然史研究会, 1999編; 前田, 2022).今回,これらの砂岩脈について文化地質学的観点から調査を行った結果,以下のことが明らかとなった:1) 釧路の砂岩脈について初めて図示・解説したのは大内餘庵による『東蝦夷夜話 巻之中』(大内, 1861)で,釧路市知人でかつて見られた砂岩脈(通称「義經橋杭岩」/「カムイルイカ」/「辯天そり」)をアイヌに伝わる義経伝説とともに図示・記述している.2) 釧路の砂岩脈(「釧路のサンドストン・ダイク」)を地質学的観点から始めて図示・解説したのは徳田貞一(1930)である.3) 1930年代〜1950年代の国指定史蹟名勝天然記念物指定に向けての運動の中心となったのは地元の民俗学者たちであった.4) 「釧路新聞」には1938年と1941年の文部省の史蹟名勝天然紀念物調査会の委員,脇水鐵五郎による現地調査に関する記事があり,その時の模様については脇水 (1939)や片岡 (1947)が述べている.しかしながら,太平洋戦争の勃発や脇水の逝去もあり,正式な申請は行われなかった模様である.5) 1950年代までは「義經橋杭岩」の方が「春採太郎」よりも有名であったが,前者は1950年代後期には干潮時に出現しなくなり,忘れ去られてしまった.6) 『釧路港案内』(釧路市役所港灣課, 1949-1952)の1: 1万 釧路港全圖には名勝の一つとして2本の「水成岩脈(義經橋杭岩)」が表記されているが,地図が1:5,000となった改訂版(釧路市, 1958-1963)ではその表記はなくなっている. 7) 「春採太郎」の命名者である永淵正叙 (1894-1970) は1916年に東京帝國大學地質学科を卒業後,三井鉱山に入社.命名当時は三井鉱山系列の太平洋炭礦の専務であった.8) 初めて公開された「春採太郎」の写真は,地質調査所 所内第4回写真コンクール入選作「サンドダイク」(柴田, 1958)である.9)「春採太郎」についてこれまでに最も詳しく調査しているのは『1/5万 地質図幅説明書 釧路』(長浜, 1962)である.10)「春採太郎」が釧路市の天然記念物に指定されたのは1975年12月12日で,正式名称は「砂岩脈(サンド・ストーン・ダイク)」である.当時の「釧路市立博物館館報」にこの天然記念物指定に関する記事はない.[文献] 道東の自然史研究会, 1999 (編), 道東の自然を歩く 地質あんない; 片岡, 1947, 史蹟名所 釧路; 河合, 1956, 1/5万 地質図幅説明書 昆布森; 釧路市, 1958-1963, 釧路港案内; 釧路市役所港灣課, 1949-1952, 釧路港案内; 前田, 2022, 見る 感じる 驚く! 道東の地形と地質; 永淵, 1952, 炭砿技術, 7(12); 長浜, 1962, 1/5万 地質図幅説明書 釧路; 岡崎・杉山, 1958, 釧路博物舘新聞 (79); 岡崎ほか, 1971, 地質ニュース, (203); 大内, 1861, 東蝦夷夜話 巻之中; 柴田, 1958, 地質ニュース(44); 徳田, 1930, in 山本(編)日本地理体系 10. 北海道,樺太篇; 脇水, 1939, 史蹟名勝天然紀念物, 14(1).

  • 栗原 行人, 中川 良平
    セッションID: T10-O-16
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    三重県津市西部に分布する下部中新統・一志層群は貝化石を産出することで古くから有名である.『榊原の貝石山』および『柳谷の貝石山』はいずれも一志層群大井層の化石産地であり,それぞれ昭和12年12月27日,昭和16年2月13日に三重県天然記念物に指定された.これらは化石産地が天然記念物に指定された例としては,全国的に見ても最初期のものである.本研究では,これらがどのような経緯で天然記念物に指定されたかを検討した.まず,天然記念物指定にあたっては,県の審議会などで審議されたはずであり,その当時の文書があれば指定の経緯がわかるはずであるが,三重県の公文書には該当するものがなかった.したがって,指定の経緯を正確に理解することはできない.しかし,『榊原の貝石山』については,三重県(1940)『三重県知事指定史跡名勝天然記念物』の中の松山外治郎による文章からその概要をうかがい知ることができる.それによると,昭和11年に榊原に豪華な温泉場が開発されるなどの理由で多くの観光客が榊原の貝石山を訪れ,化石採集した結果,崖の表面には化石がほとんど見られないようになってしまった.そのため,化石採集を厳禁にして保存につとめ,その価値を一般に知らしめる必要があると述べられている.産出する化石としては,以下が挙げられている.Nuculaオオキララガイの類,Arcaアカガイの類,Ostreaカキの類,Pectenホタテガイの類,Carditaトマヤガイの類,Cardiumトリガイの類,Tellinaサラガイの類,Solenマテガイの類,Dentaliumツノガイの類,Patelloidaコウダカアオガイの類,Turritellaキリガイダマシの類,Naticaエゾタマガイの類,Volutaヒタチオビの類,Bullaナツメガイの類.また,榊原村提出の写真として,Fulgoraria, Macoma, Periplomaらしき化石が掲載されている.しかし,三重県に県立博物館が設置されたのは1953年で,当時の標本は保存されていないようである.以上をまとめると,『榊原の貝石山』および『柳谷の貝石山』は県の天然記念物に指定されているものの,当時はいずれも基本となる古生物学的研究が十分になされず,現在でも未解明な点が多い.今後,産出する化石の詳しい研究が望まれる.

  • 田口 公則
    セッションID: T10-O-17
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    文化地質学の視点の理解には、それぞれの地域での地形・地質と人間生活の営みを重層的に解釈していくことが重要と考える。 自然科学(地形や地質)からの視点、人文科学(歴史学や社会科学)からの視点など、多面的な視点をもって地元の土地を重層的に捉えることで、そこには何かいくつもの文脈ともいえる関係性が見えてくるはずだと考えるからである。人々が生活する土地の基盤には、地球の仕組みの下に地質と地形が存在し、その土地に適応すべく生活してきた人の歴史、街の歴史がある。ふだんは地学巡検で地質や地形にフォーカスしてきたが、ここで多面的な視点、参加者の複数の視点でその土地を見直すことを試みたい。 以上をふまえて、発表者は、科研費研究「岩石・石材を素材とした歴史系および自然系博物館による地域学習プログラムの協働開発」において、神奈川県立歴史博物館の丹治雄一学芸員と歴史学と地質学の「協働研究」によって自然史と歴史を一体的に捉えた新たな地域の歴史像が地域理解の促進につながる、と考え新しい学習プログラムの試行をすすめている。 これまでに神奈川県内各地で地質学と歴史学を融合させた講座や野外観察会を実施した。とくに、秦野市本町地区(旧曾屋村)をフィールドにして、2021年に講座『秦野まち歩き:ジオでみつめてみよう』を、2023年に秦野街歩き『水の力が育んだ秦野〜関東大震災から100年、台地の街並みをめぐるジオ散策〜』の2回を実践に至っている。 1回目の講座実践では「地域の事物・現象を重層的に捉えさせ、深い学びを促すにはどのような手立てがあるのか」という問いのもと、「領域をまたぐ多様なキーワード」と「地域文脈の発見」という2つのステップが有効であることがささやかながら見えてきた(田口, 2022)。さらに2回目の実践により、いわゆる地域資源の活用についていくつかの段階が見えてきた。すなわち、<レベル1>地域資源の発見と顕在化<レベル2>地域資源のグループ化とストーリー<レベル3>領域を越えた地域資源の組み合わせによる有意味的深化である。 本発表では、この地域資源を重層的に捉え活用していく段階的な活用について触れてみたい。 いわゆる「街歩き」がブームである。発表者もコロナ禍をきっかけに神奈川県秦野市の一地区を歩くことをスタートさせた。たとえば、坂道の存在を足で感じ地図で確かめることで、見落としていた微地形に意識が働くようになった。段丘面と段丘崖を意識しながら擁壁や石垣、坂道、階段の存在を見ることで言わば地域資源の要素が顕在化する。さらに、そこに地形を巧みに拓いてきた人々の生活が見えてくることで、たとえば古い道が地形と密接していることが有意味可を伴って顕在化してくる。水の豊かな秦野でも、台地の地形と地質は、水の不自由を生み出した。その不自由さが、先人たちの巧みな水利を築き、巧みな農業を培っている。変動帯日本は自然災害の多い土地である。秦野も火山噴火や大地震の災害からの復興を重ねてきた。その復興が街づくりや産業の発展につながっている。 秦野市の一地区である本町地区(旧曾屋地区)を歩くことからスタートし学習プログラムの試行として2回の講座を実施した結果、地域資源の発見と活用レベルに関する段階があることが見えてきた。 各地域の地域資源のベースには、地域の地形や地質の上に人々の生活が成り立っているという文脈がある。その地域に存在する地域資源の要素を顕在化し、多面的・多角的に捉え考察し、地域文脈を見出していく作業について、いわゆる「まちあるき」が大きな可能性をもつことを示唆している。これからは従来の講座、観察会の学習プログラムに加えて、領域を越えた視点、地域の視点を融合する方法を考えていく必要がある。文献田口公則・山下浩之・丹治雄一(2022)講座「秦野まち歩き:ジオでみつめてみよう」の実践―まち歩きで取り上げる「観る要素」の取捨選択―.神奈川県博物館協会会報,93,20-25. 本実践及び発表には、JSPS科研費 JP18K01111を使用した。

  • 森野 善広
    セッションID: T10-O-18
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    1. はじめに 京都府北部日本海に面する京丹後市は、山陰海岸ジオパークエリアにあり、「丹後王国1300年」や「京丹後七姫伝説」など古くからの歴史や伝承を観光資源として活用している地域である。これらの文化・観光資源と地質資源との融合によるジオツーリズムとして、「細川ガラシャ」の“隠棲の地”である京丹後市弥栄町味土野地区に向けたツーリズムを展開する。 2. 地質概要 山陰海岸ジオパークは、「日本海形成に伴う多様な地形・地質・風土と人々の暮らし」をテーマとし、そこで形成された様々な地質が分布するが、それらの形成過程を一定のエリアで系統的に見ることのできる場所は限られている。京丹後市内陸エリアでは、ジオパークのテーマの中で日本海形成における「大陸の時代」とそれに引き続く「日本列島形成の時代」に関する地質が分布している。対象地域の弥栄町等楽寺~味土野ルートでは、延長約4kmのルートにおいて大陸の時代(花崗岩類)から火山活動の時代(安山岩類)を経て、湖・海の時代(堆積岩類:礫岩、砂岩、泥岩、緑色凝灰岩など)の地質を連続的に見ることができ、日本海拡大を“観る”ジオツーリズムコースとして適している(図1 なお、このルートは丹後天橋立大江山国定公園内である)。3. ツーリズム構成資源とジオストーリー1) 地質資源(日本海拡大期の地質)(古橋,1982)① 宮津花崗岩 ② 北但層群高柳層(等楽寺層;礫岩(含ウラン))、八鹿層(安山岩溶岩、火山砕屑岩ほか)、豊岡層(陸成・湖成・海成の礫岩・砂岩・泥岩・凝灰岩)ジオストーリー:大陸の時代の花崗岩の直上に日本海形成に関わる火山活動があり、さらに湖から海域への環境変遷が見られる(主な地質資源;不整合、亜炭層、植物化石、緑色凝灰岩など)。 2) 自然・景観資源 ① 湿地の水生植物群落(フトヒルムシロ、ヘラオモダカ、カンガレイ、ガマなど)② 味土野大滝ジオストーリー:日本海に流れ込む宇川は、最上流の堆積岩地域を源流とし、安山岩の急崖を流下する過程で湿地や滝などの水辺環境が形成されている。3) 文化資源① 細川ガラシャ隠棲の地(明智光秀の娘、細川忠興の妻、名物ガラシャ蕎麦)② 吉津の穴地蔵伝承③ 廃村跡(畑集落、吉津集落) ジオストーリー:高地の地すべり様地形や堆積岩分布域のなだらかな地形上に発達した集落であるが、昭和38年の豪雪(三八豪雪)の影響で、吉津集落は昭和41年(1976年)に集団離村で廃村となる。4. まとめと課題 山陰海岸ジオパークにおいて、京丹後七姫伝説細川ガラシャ隠棲の地をめぐるツーリズムコース案として、弥栄町等楽寺~味土野ルートを展開した。このルートは日本海拡大期の地質形成過程を、順を追って観ることができるほか、この地域の暮らしの移り変わりとしての集落の消滅や、流水が作り出す水辺環境(湿地の貴重な水生植物や滝)を見渡すことができる。また、ツーリズムルートの延長として金剛童子山登山(弥栄平野を一望)に繋げることができる。課題として、国定公園内における林道の整備・補修(積雪や豪雨による被災)や露頭の保全・修復が挙げられる。 本発表で示したジオツーリズムコースは、京都府立峰山高等学校の地学実習のフィールドでした。当時ご指導いただいた故古橋喜博先生に感謝申し上げます。引用文献:古橋喜博,1982,探求の科学学習による地学教育の実践. 地学教育と科学運動11,39-58.

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