日本地質学会学術大会講演要旨
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T10.文化地質学
  • 【ハイライト講演】
    加藤 友規
    セッションID: T10-O-19
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    『作庭記』は橘俊綱により平安時代中期に編纂されたとされる作庭書であるが、『作庭記』の書名は江戸時代に塙保己一編纂『群書類従』に収録された際につけられたものである。造園技術を伝える本書は国内最古の資料であり、その中では庭の石組を「石立」と呼んでいる。鎌倉や室町時代には作庭に僧侶が関わることも多く、彼らを「石立僧」とも称し、石を立てることはすなわち庭を作ることと同義であった。当時の造園技術を具体的にみることができ、現在でも同じ工法技法を採っている事例も少なくない。造園の歴史を考え、その技術を現代に活かす上で大変興味深い貴重な資料である。 森蘊『「作庭記」の世界 平安朝の庭園美』(日本放送出版協会,1985年)では、内容を11項目に大略し、原文を795行に整理し現代語訳を併記されており、現代の読者が理解を進めるのに大きな役割を担ったといえる。「作庭記」では一貫して、庭に石を用いる際には自然に倣うことを基本とする姿勢がみられ、そのうえで、「人のたてたる石は生得の山水にはまさるへからず」と、人間の立てた石は自然の風景には敵わないとも述べており、はるか昔の先達と現代の私が抱く同じ想いに、造園技術の奥深さを感じずにはいられない[1]。  ところで、森は前掲書中で「京都周辺はその地質から見て、昔から庭石の豊富な産地として知られ、平安時代の貴族たちはそれを購入して作庭に利用している」[2]と述べている。当時の主流であった寝殿造庭園では石組が重要視されていたが、「いかめしくおほきなる山石のかとあるをたてしむへきなり」とあるように、「非常に大きな山石の稜角のあるものを立てさせるがよい。」[3]と、かどのある見栄えのある角張った石が好まれたといえる。「山石」とは京都盆地を囲む山々で産出するチャート(chert)(図1)のことで、こうした稜角のある石材が京都近郊の山や谷から産出されていた。 一方で、京都では遠方から運ばれた石は「名石」とされ、「青石」と称される紀州や阿波に産する結晶片岩や小田原の根府川石などが珍重された。一例をあげると室町時代の枯山水庭園の大仙院書院庭園には、阿波の「青石」を舟に見立てており、江戸時代には藪内家・燕庵の大きな踏分石の「三つ小袖石」、表千家露地の空堀に掛かる石橋など、茶庭での根府川石の使用が知られている[4]。『和漢三才図会』(1713年)には、根府川石が当時の京都では貴重であったことが伝わり、その理由として高い運搬費があげられている。 石の移動が難儀であるため庭石は近隣に産するものを使用することが常で、庭園においては永らく地産地消の原則が大前提であった。土地の性質を活かして人の手によって創り出された代表的なものとして、京都慈照寺の「向月台」と「銀沙灘」(図2)を挙げることができる。これらの石材は、庭園の背後に連なる山から、風化して流出細粒化した花崗岩(コス)が園池に溜まったものである。それを浚渫して蓄積した「白川砂」を利用して造形したものと考えられている。「白川砂」は比叡山から如意ヶ岳間より産出する花崗岩由来の砂で、慈照寺はまさにその産地の最南端に位置している。 さらに興味深いことに、慈照寺参道の石畳には加茂七石の1つ、「八瀬真黒石」(図3)としても知られるホルンフェルスが使用されている。京都市においてホルンフェルスの産出地は比叡山の北側と如意ヶ岳の南側の2か所あるが、この石畳で使用されている石は川石である。背後の山から直接運ばれたわけではない。この石は泥岩が熱変性したホルンフェルスが山から川へ運ばれ表面が滑らかとなり、かつては高野川の渓流に見られた。慈照寺に「八瀬真黒石」の石畳が作られており、ここにも地産地消を原則とした作庭の際の石材選択を見ることができる。 平安時代には、「かどある山石」としてチャートのゴツゴツとした風情が最も愛されてきたが、室町時代になると、結晶片岩の青色が庭のアクセントとして好まれるようになる。近代においては赤銅色の鞍馬石や縞目のある守山石(図4)が流行するなど、時代の潮流があった。 現在のように地質や岩石の性質が明らかになる前から、昔の人も石を自然に倣いながら庭づくりを行ってきた。石は何億年もの歳月、壮大な自然の輪廻を感じ取れるものであり、先達の仕事の偉大さが大変感慨深く思われる。 [1] 加藤友規(2022)「作庭記における「石」について-先行研究にみる内容大略に関する一考察」日本造園学会 日本庭園の「こころ」と「わざ」に関する研究推進委員会 2021年度成果報告 [2] 森蘊(1986)『「作庭記の世界」』,日本放送出版協会,p117 [3] 前掲書,p45 [4] 中村一・尼﨑博正(2001)『風景をつくる』,昭和堂,p334

  • 鈴木 寿志
    セッションID: T10-O-20
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    日本に古くから伝わる伝説や伝承の中に,岩石などの地質や自然災害に関わる話がしばしば見られる。その内容にはありえないような記述がある一方で,史実を含蓄しているとみられるものも存在する。アイヌのウポポ(歌)に伝わる火山噴火災害では,山の形状を比喩的に表現していたり(地徳,2019),与那国島の大津波伝説では場所の特定が可能で,津波の襲来方向の記述から実際に起こった災害と分析された(大橋,2023)。伝説や伝承から地質に関わる事象を分析することは,決して滑稽なことではないと言えよう。 民俗学者の石上堅は1963年出版の『石の伝説』にて,日本全国の石に関わる伝説・伝承を収録した。その中では,石から音がしたり泣き声が聞こえたり,石が生き物のように振る舞う話がある。そこには日本古来の人と自然(しぜん)が一体であるという「自然(じねん)」の哲学が根底にあると思われる(徳永,2002)。また現代都市のように騒音もなく灯もなかった時代には,人々の感覚は自然(しぜん)との交感に優れていた可能性も指摘できる。『石の伝説』の現象は,架空のおとぎ話に過ぎないのだろうか。 一方,あくまで生物に関わる話であるが,近年意味がないと思われてきたものに意味づけが可能になった研究がいくつか挙げられる。東京大学の鈴木俊貴によれば,シジュウカラなどの小鳥の囀りは,お互いに意思疎通する言語であることが明らかにされた(例えばSuzuki, 2014)。京都大学の高林純示の研究グループは,キャベツがただ青虫にかじられ食べられるだけでなく,青虫を捕食する昆虫を化学物質の発散によって呼び寄せているという(Shiojiri et al., 2000)。イギリスの神経科学者であるエイドリアン・オーウェンは,植物状態にある患者の脳をfMRIでスキャンすることで会話が成立したという(オーウェン,2018)。では,無生物である岩石から音が聞こえたり泣き声がするといった現象は,科学的に解明可能なのだろうか。 放散虫研究で日本の地質学者に馴染みのあるエルンスト・ヘッケルは,単純な単細胞生物が進化してヒトに至った過程を遡れば,心や精神の進化も原生生物まで遡ることができると考えた。さらに生命を構成する物質にさえも心が宿るという,物質と精神を区別しない一元論を唱えた(例えば佐藤,2015の解説)。オーウェンが実施した脳のfMRIは,私たちの精神活動が神経細胞を流れる電流であるからこそ検出できた。岩石に流れる微弱な電流,紫外線や圧力による鉱物の物理的反応も,岩石の精神活動の一環と見ることができるのかもしれない。石から音がしたり泣き声が聞こえたりするのは,岩石の物理的精神活動なのか,岩石をも含めた自然(じねん)の中に人が存するという日本人の研ぎ澄まされた感性が,岩石の物理現象との交感を可能にしているのか。『石の伝説』に収録された話と似た伝承が,日本各地に数多くあることを考えると,岩石に精神が宿るという見方は必ずしも否定されるものではないと思われる。文献 地徳 力(2019):地球科学,73 (1), 35–45。 石上 堅(1963):『石の伝説』,雪華社。 大橋聖和(2023):日本地球惑星科学連合2023年大会講演要旨,MZZ42-03。 オーウェン,エイドリアン(2018):『生存する意識』,みすず書房。 佐藤恵子(2015):『ヘッケルと進化の夢』,工作舎。 Shiojiri, Kaori et al. (2000): Applied Entomology and Zoology, 35 (1), 87–92. Suzuki, Toshitaka N. (2014): Animal Behaviour, 87, 59–65. 徳永道雄(2002):日本佛教學會年報,第68号,1–13。

  • 高橋 直樹, 赤司 卓也
    セッションID: T10-P-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    千葉県は表層のほとんどが新第三紀以降の堆積層から成り,硬質岩石の産出に乏しく,石材として使用される岩石は限られている.その中では,房総半島南部の鋸山で採掘されていた「房州石」(上総層群竹岡層)を代表とする新第三紀ないし第四紀初頭の凝灰質岩が,石垣や石塀,石蔵など主として建築材料として細々と使用されている.これらは,石仏や墓石などの石造文化財として使用されるケースは極めて少ない.それらの用途に使用される石材の多くは県外からの搬入であり,県内産では,房総半島南部の嶺岡山系に産出する蛇紋岩など限られた地域に存在する程度である. 房総半島北部に広く分布する第四系は,海成層から成るもののほとんどが未固結であり,石材として利用されることは基本的に考えにくいが,この第四系の堆積岩からなる石材がいくつか存在する.それらは,いずれも石灰質成分によって硬く固結したもの(いわゆるノジュール,コンクリーション)である.それらの石材の分布や使用状況を詳しく調査したので,報告する. 1つは,房総半島東北部に分布する「飯岡石」(犬吠層群春日層:第四紀前期更新世)で,古くは巨智部(1887−1888)によって報告され,その後,鎌田(1988)によって詳しい研究がなされている.ある特定の単層が層状にノジュール化したもので,薄い板状の石材として産出し,その形状を活かして,石造文化財の板碑,建築材料として石垣や土台石として使用されている.多量の有孔虫化石が含まれ,ノジュール化の要因と推測される.産地は千葉県銚子市から旭市にかけて伸びる海食崖「屏風ヶ浦」で,波蝕によって削り出された岩塊が海流や波浪によって旭市飯岡の海岸に多量に打ち上げられたもので,使用範囲は飯岡地域を中心に千葉県北東部の割合に広い範囲に及んでいる(九十九里平野北部に加えて,利根川流域にも分布が見られる). 次に,同様に巨智部(1887-1888)によって報告されたが,その後,ほとんど調査・研究がなされていなかった石材に,「成東石」が存在する.下総台地東縁部(九十九里平野と下総台地との境界部)に産出する岩石で,上総層群最上部の金剛地層(第四紀中期更新世)の砂層の一部が,石灰質成分で固結したものである.砂粒子間を石灰質物質が埋めている.貝類化石や生痕化石を含む場合がある.山武市成東の浪切不動院の土台を形成しているほか,平野の中に孤立した大型の岩塊として存在し,市の天然記念物となっている例もあるが(山武市柴原地区岩塊),そのほかにも,石碑の土台石として広く使用されている.ただし,近代に産業として採掘された記録は見られない(地質調査所編, 1956に記載なし).これらは,下総台地が海洋に面していた時代に波浪によって削剥され後退していく過程で,硬質な部分が侵食から免れて残留したものと推測される.大型の岩塊はその場に残され,小型の岩塊は石材として使用されたと考えられる.このように固結した部位は,金剛地層の分布域の中でも,山武市成東町から同松尾町にかけての地域に限られる.同じ露頭でも単層によって固結した層と未固結の層が存在することから,地層形成時の作用が起因していると推測される.石材としての使用例は,山武市成東町・松尾町地区を中心に九十九里平野西縁部に沿って北部は旭市まで,南部は東金市まで分布が見られる. さらに,房総半島北部に広がる下総層群木下層(第四紀後期更新世)は多量の貝化石を産出することで有名だが,これらの貝化石密集層の中に堅く固結した部分が存在し,古墳の石室や石灯籠などの石材として使用されている(印西町町史編さん室, 1988). 以上のように,時代の新しい第四紀の堆積層であっても,ノジュール化によって地層が硬く固結し,石材として使用されるケースが意外に多いことが明らかとなってきた.[引用文献]地質調査所編, 1956, 日本鉱産誌 Ⅶ 土木建築材料.東京地学協会, 293p. 印西町町史編さん室, 1988, 木下貝層—印西の貝化石図集—.印西町町史編さん室, 102p. 鎌田忠治, 1988, 郷土誌再考 飯岡石.崙書房, 183p. 巨智部忠承, 1887-1888, 20万分の1地質図幅「千葉」および同説明書.農商務省地質局, 65p.

  • 柚原 雅樹, 梅﨑 惠司, 川野 良信, 森 貴教
    セッションID: T10-P-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    北部九州に広く流通した弥生石器には,今山系両刃石斧(武末,2001),層灰岩製片刃石斧,立岩系石庖丁(武末,2001)がある(森,2018).今山系両刃石斧は,福岡市西区の今山に露出する玄武岩が石材として採取・加工され,主に九州の北西部を中心に流通している.これに対し,北東部においては,北九州市八幡東区の高槻遺跡を中心に安山岩質の石材の加工が行われ,石斧として流通し(土屋,2004など),高槻型石斧と呼ばれている.今山系両刃石斧は,全岩化学分析(主成分・微量成分元素,希土類元素)などによって,大部分が今山産であるが,一部他地域の玄武岩が含まれていることが明らかになっている(足立ほか,2015).したがって,石材の産地同定や流通経路の検討には,石材の地球科学的分析が有効である.今回,北九州市小倉南区の貴船神社で表層採取した高槻型石斧5資料の化学分析の機会を得た.本報告では,それらの岩石学的特徴を報告する.石斧は,変質安山岩(4資料)と細粒の直方輝石-普通角閃石-黒雲母トーナル岩(1資料)からなる.いずれも風化のため,表面は黒色〜暗灰色を呈し,ざらついている.変質安山岩のSiO2含有量は,53.0〜53.8 wt.%で,細粒トーナル岩のSiO2含有量は58.5 wt.%である.変質安山岩は,高いMgO(8.1〜9.9 wt%),Cr(495〜562 ppm)およびNi(248〜291 ppm)含有量を示し,FeO*/MgOは0.70〜0.80である.この組成は,高Mg安山岩マグマに由来する香春花崗閃緑岩牛斬山岩体の斑状細粒閃緑岩(江島ほか,2019)に類似する.C1コンドライトで規格化した石斧の希土類元素パターンは軽希土類元素に富み,重希土類元素に乏しい.パターンは類似するが,細粒トーナル岩の方が変質安山岩より希土類元素含有量が高い.今回分析した高槻型石斧は,変質安山岩と細粒トーナル岩からなる.このことは,佐藤(2017)などですでに指摘されているように,高槻型石斧の石材の多様性を示唆する.文献足立達朗ほか,2015,日本文化財科学会第32回大会研究発表要旨集,236-237.江島圭祐ほか,2019,地質学雑誌,125,237-253.森 貴教,2018,九州大学人文学叢書13,九州大学出版会,238p.武末純一,2001,筑紫野市史 資料編(上)考古資料,528-555.佐藤由紀男,2017,岩手大学文化論叢,9,83-93.土屋みずほ,2004,考古学研究,50,34-54.

  • 中条 武司
    セッションID: T10-P-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    京都や大阪などの古い集落を歩くと、壁や軒に自動車がこすらないように路傍に置かれている人頭大程度の大きさの石をよく見かける。これらの石は、通称で「いけず石」と呼ばれている(杉村,2018など)。いけず石は古い集落に多くあることや、容易に持ち運べる大きさではないことから、かつての建築資材や石製品を転用していることが多い(中条,2020)。それゆえに、いけず石はその地域のかつての石文化や周辺地域の地質をある程度反映していることが予想される。また、いけず石はそのほとんどが市街地にあるため、岩石の観察が容易であるため、報告者は市民科学(citizen science)の手法を用いていけず石の調査を行っている。本発表では、これまでの途中経過ではあるが、いけず石の分布といけず石を構成する岩石種の地域性について報告する。 いけず石調査では、いけず石を以下のように定義した。「私有地と公道の境界付近に置かれている、駐停車や車の幅寄せの防止、軒などへの接触を避けるために置かれた天然もしくは天然の岩石を加工した岩石で、それ以外の目的を持たないもの。コンクリートなどで固定されていても構わない。」定義にあるように、いけず石は何らかの加工をされていても構わず、実際にいけず石には間知石や石臼などが多く用いられている。また、この定義における「それ以外の目的」を持つ岩石とは、道標・地蔵尊・道祖神・石塔・石敢當・灯籠・花壇の囲いなどを指す。 いけず石調査は2022年10月下旬から行っている。情報提供の呼びかけは、発表者が所属する大阪市立自然史博物館の行事、友の会会誌、ホームページ(https://sites.google.com/view/ikezuishi-shirabe/)、発表者個人のツイッターなどで行っている。調査方法は、特定の地区(■■市○○ ×丁目)の代表的な道路を歩いて、その区間にあるいけず石の個数とその岩石種および石製品が用いられていた場合はその石製品の名称とその石材について報告することとした。市民科学という面を鑑み、岩石の種類については厳密性を重視せず、目視で識別できる範囲とし、花こう岩、はんれい岩、火山岩、凝灰岩、礫岩、砂岩、泥岩、チャート、石灰岩、結晶片岩、片麻岩、その他、わからない、の中から選ぶことにした。2023年6月30日時点で、情報提供者数は44人・団体、提供データ数は1,505件15,835個である。 これまで東北地方から沖縄までの情報が寄せられているが、そのほとんどは近畿地方である。そのうち、1地区に50〜100個の「いけず石」がある地区が50地区、さらに1地区100個を超えるような地区も13地区ある。一方で、50個を超える地区と5個以下の地区が隣接することがあり、その個数分布には大きな偏りがある。このような地域によるいけず石の個数の偏りは、集落の継続年数や近年の都市開発を反映していると考えられる。 いけず石の岩石の種類も地域によって大きく違いがある。報告数が多い大阪市住吉区・東住吉区(住吉)、大阪府茨木市・高槻市(高槻)、大阪府泉佐野市・阪南市・泉南市・岬町(泉南)、兵庫県西宮市(西宮)、兵庫県姫路市(姫路)で比較すると、花こう岩は西宮では93%、住吉では76%と高い割合を占めるのに対し、高槻では50%、泉南では24%、姫路では14%と低くなる。それに対し、泉南では砂岩が60%、姫路では凝灰岩が80%といけず石の中に占める割合が最も高率となる。また、高槻は砂岩・チャート・泥岩・火山岩(緑色岩)など、付加帯の岩石が母材と考えられるいけず石が30%以上を占めている。これらいけず石の岩石種の偏りは、その分布域周辺の地質をある程度反映していることが考えられる。  このようにいけず石調査によって、その分布の偏りや用いられる岩石種の地域性を把握することができることがわかってきた。さらに多くの情報を得ることで、いけず石文化の広がりと、いけず石の岩石種と周辺の地質との関係について知ることができるであろう。一方で、いけず石に用いられる石製品についてはまだ十分にデータの整理ができておらず、今後の課題である。また、いけず石調査は広範囲からのデータ収集が必要なことと同時に、市街地で行えることから、市民科学を用いた調査に非常に適している。調査に参加した市民は様々な岩石を観察することで、岩石の同定能力が向上し、ひいては地質学リテラシーの向上につながることが期待できる。この発表を通じて、いけず石調査に興味をもった地質学関係の方々にも、ぜひいけず石調査に参加してもらいたい。文献中条武司,2020,「いけず石」、種類を見るか?元の用途を見るか?Nature Study, 66,162-163.杉村 啓,2018,いけず石観察手帳.私費出版,24pp.

  • 河尻 清和, 山本 菜摘, 鈴木 汐歩音
    セッションID: T10-P-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    2023年(令和5年)は,1923年関東地震(以下、関東地震と呼ぶ)が発生して100年にあたる.関東地震は1923年(大正12年)9月1日に発生し,東京都および神奈川県に甚大な被害を及ぼした(宇佐美,1996;国立天文台,2022).神奈川県内では川崎から小田原にかけての県南部での被害が大きく(神奈川県,1982),さらに神奈川県中南部では1924年(大正13年)1月15日に発生した余震による被害も重なった(宇佐美,1996).この余震は丹沢地震または丹沢山地震とも呼ばれ,関東地震の最大余震とされている(宇津,1979;国立天文台,2022).相模原市内では神奈川県南部に比べ被害は大きくなかったものの,多くの建物が倒壊し,土砂災害が発生している(相模原市,1971;山口,2015).関東地震に係る記念碑や慰霊碑などは神奈川県各地に残されており(例えば,武村ほか,2014),自然災害を後世に伝えるための有効な手段の一つとなっている.演者らは相模原市および周辺地域の関東地震・丹沢地震に係る石碑などの石造物について現状を確認するために現地調査を実施している.相模原市内に残されている関東地震に係る石碑などについては,岡本(1989),相模原市(2009;2010)および武村ほか(2014)を参照した.このうち,自然災害伝承碑(国土地理院HP 自然災害伝承碑)に記載されているものは2つのみで,ほとんどのものは,震災記念植樹碑や植樹標柱である.自然災害伝承碑とされているものは相模原市緑区鳥屋と相模原市南区下溝に建立されたもので,どちらも土砂災害が発生した場所である.相模原市緑区鳥屋の土砂災害発生場所付近は地震峠と呼ばれ,斜面崩壊による土砂のため16人の方が犠牲になり,また,付近を流れる串川を堰き止めた(山口,2015).崩落土砂に含まれる岩塊から判断して,新第三系丹沢層群の火山砕屑岩からなる山腹斜面が崩壊したと考えられる.相模原市南区下溝の土砂災害発生場所は宮坂と呼ばれ,十二天社に立つ石碑によると地震により坂道が土砂崩落のため通行できなくなったとのことである.この十二天社は段丘崖の麓に位置し,段丘崖を構成する関東ローム層が崩落したと考えられる.そのほか相模原市内で多く見られる記念植樹に関する石碑や石柱は,「関東大震災記念植樹」などの文字や日付,建立者の名前が刻まれているだけである.また,植樹された樹木そのものがすでに伐採されていたり,花崗岩製の標柱に刻まれた文字は、風化により判読が困難になっている場合もある.丹沢地震は情報に乏しく,伝承碑については地理院地図 自然災害伝承碑(地震)を参照し,現在のところ4か所を現地で確認している.これらの石碑の場所は藤沢市が2か所,伊勢原市と厚木市がそれぞれ1か所づつである.いずれも丹沢地震単独ではなく,関東地震の石碑に併記する形で丹沢地震について地震発生時の様子や被害状況が記述されている.石碑の文面から関東地震と丹沢地震を一連の地震として当時の人々がとらえていたことが窺える.相模原市内では丹沢地震関連の石碑などは確認されていないが,家屋の倒壊などの被害が大きく,関東地震よりも揺れが大きかったと証言する人もいたようである(山口,2015).相模原市内では自然災害伝承碑とされているものは少なく,多くのものは記念植樹の石碑・石柱である.これらは直接被害状況が刻まれておらず,後世の人々に災害を伝承する効果は小さいかもしれない.しかしながら,相模原市内は比較的被害が小さかっただけで,被害は受けている.震災を記念して石碑などを建立したり,植樹した先人たちの思いを文字通り“風化”させないためにも,これらのモニュメントを後世に残す取り組みが必要であろう.神奈川県,1982,神奈川県史 通史編5,231-292.国土地理院ホームページ 自然災害伝承碑,https://www.gsi.go.jp/bousaichiri/denshouhi.html.国立天文台,2022,理科年表2023,774-811. 岡本芳雄,1989,郷土相模原,no.15,114-129.相模原市,1971, 相模原市史第四巻,1-62. 相模原市,2009,旧相模原地域石造物・景観調査報告書(20年度),p133.相模原市,2010,旧相模原地域石造物・景観調査報告書(21年度),p150.武村雅之・都築充雄・虎谷健司,2014,神奈川県における関東大震災の慰霊碑・記念碑・遺構(その1 県中央部編),p100.宇佐美龍夫,1996,新編日本被害地震総覧,31-493. 宇津徳治,1979, 東京大學地震研究所彙報,54,253-308.山口 清,2015,津久井町史 通史編 近世・近代・現代,659-678.

T11.南極研究の最前線
  • 外田 智千
    セッションID: T11-O-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    日本列島の約37倍の面積を持つ南極大陸は、太古代のクラトンから現在の活動中の火山まで、様々な地質・岩石で構成されている。そのうちインド洋に面した日本の南極観測の関わる東南極ドロンイングモードランドからエンダビーランドにかけての地域には、ゴンドワナ超大陸形成に伴う約6~5億年前の変成岩地域が広がる(中央ドロンイングモードランド、セールロンダーネ山地、やまと-ベルジカ岩体、リュツォ・ホルム岩体、西レイナー岩体)。その東には、中期原生代のレイナー岩体(約16~9億年前)、太古代のナピア岩体(約38~25億年前)が分布し、これらの地域では長大な時間軸をカバーする地殻形成発達と高温~超高温変成作用を含めた深部地殻プロセスをターゲットとする様々な研究がすすめられている。この地域の基盤地質の最新の理解と、日本の南極観測による研究成果ならびに現在ホットなテーマ、また今後の調査・研究の展開を紹介する。

  • 【ハイライト講演】
    野木 義史
    セッションID: T11-O-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    南極大陸、特に東南極は、約40億年前までさかのぼれる古い地殻が存在しており、地球システムの中での超大陸の形成分裂の過程を解明する絶好の場である。しかしながら、南極大陸の98%は氷に覆われており、超大陸の形成過程を解明するために必要な、南極大陸の基盤地形や地質は、ほんの一部しか明らかでない。氷下の構造を広範囲に明らかにするためには、航空機による氷床レーダー観測、地磁気や重力異常等の地球物理学的マッピングが有効な手段である。航空機の地球物理学的マッピングと一部で得られる地質情報を組み合わせることにより、氷下の地質構造等の推測が可能となる。「ゴンドワナ大陸の形成と分裂」および「しらせ氷河流域を例とした東南極氷床の流動機構」の解明を目的として、第47次南極地域観測夏隊(2005年11月-2006年12月)において、日独共同で昭和基地周辺地域の航空機観測を行った。この観測により得られた、内陸部の地磁気異常、重力異常および基盤地形データをもとに、海岸付近や内陸部で得られている地質情報と組み合わせて、昭和基地周辺の地質構造の推定を行った。一例として、この航空機地球物理観測の結果をもとに推定された地質情報とともに、リュツォ・ホルム湾周辺のテクトニックな特徴と、推定される形成過程を紹介する。また、最新の南極域全域の地磁気異常マップや基盤地形等や、地球物理観測結果に基づく地質構造の推定やテクトニックな解釈等も紹介する。さらに、航空機による地球物理観測は、南極昭和基地周辺で未だ観測地域を拡大した調査は実施されていないが、今後の地球物理観測の展望や、地質調査との連携に関しても議論を行う。

  • 森 祐紀, 池田 剛, 宮本 知治, 外田 智千, 堀江 憲路, 竹原 真美
    セッションID: T11-O-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    東南極のプリンスハラルド海岸からプリンスオラフ海岸の約400 kmに渡る沿岸地域の露岩は,角閃岩相~グラニュライト相の変成作用とEdiacaran–Cambrianの変成年代で特徴づけられる「リュツォ・ホルム岩体(LHC)」であると考えられてきた。プリンスオラフ海岸の日の出岬は例外的にTonianの変成年代を示すことが知られており(Shiraishi et al., 1994 J. Geo.; Dunkley et al., 2020 Polar Sci.),最近Dunkley et al. (2020) によって「日の出ブロック」としてLHCから区別された。さらに日の出岬のすぐ東側のあけぼの岩(Baba et al., 2022 GR)とすぐ西側の二番岩の二番西岩(Kitano et al., 2023 JMPS; Mori et al., 2023 JMPS)からもTonian年代の変成作用が報告されている。従って,Tonian年代の変成岩の分布やLHCとの関係性を再検討する必要がある。我々は二番岩を広域的にかつ詳細に研究する中で,「二番東岩」という二番西岩のすぐ東隣の露岩の泥質片麻岩1試料中から,TonianとEdiacaran–Cambrianの複変成作用を初めて検出し,それぞれのイベントの温度圧力条件について制約した。 本研究に用いた試料はJARE52で採取された泥質片麻岩であり,直径1.5 mm程度の斑状変晶のガーネットを多く含む。ガーネットの主要成分は逆累帯構造を示し,微量成分リンのゾーニングおよび包有物の量と種類に基づき,コアからリムに向かってドメイン1,2,3に分類した。そのため,本試料は,各ドメイン形成時と後退変成作用の4つのステージを記録していると判断した。アルミノ珪酸塩の種類は,ドメイン1と3で藍晶石,ドメイン2とマトリクスで珪線石である。マトリクスにも藍晶石は存在するが斜長石に取り囲まれており,累進変成作用時の残存鉱物と考えられる。リンの特性X線強度は,ドメイン1で小さく,ドメイン2でリムに向かって急激に上昇し,不連続的にドメイン3ではかなり小さい。 EMPモナザイト年代測定は薄片上で実施し,得られた年代は明瞭な2つのピークに分かれ,加重平均で970 Maと577 Maであった。ガーネットのドメイン1と2には分析可能な大きさのモナザイトが多数見られ,これはすべてが古い年代(~970 Ma)を示した。マトリクスに産するモナザイトは多くが若い年代(~577 Ma)のみで構成される粒子であるが,古い年代の周りに成長した若い年代の領域を持つものもあった。ドメイン3ではモナザイトは確認されなかったが,ドメイン3はリンのゾーニングが明らかにドメイン2と不連続であること,マトリクスと接していることから,ドメイン1から2の形成が970 Ma,ドメイン3の形成が577 Maと考えられる。さらに,SHRIMPジルコン年代測定を分離したジルコン粒子に実施し,Th/Uが高くCL像で明るい砕屑性コアからは1112 Ma (n=1),Th/Uが低く暗い変成マントルからは加重平均で952 Ma,Th/Uが低くやや明るい変成リムからは加重平均で537 Maを得た。これらの変成年代はモナザイト年代と調和的である。 ドメイン1の温度圧力はZr-in-Rt温度計とQz-in-Grtラマン圧力計で650–676 ℃/6.5–8.4 kbarとなった。この温度圧力はシュードセクションでドメイン1の包有物の鉱物組み合わせが現れる温度圧力領域と一致している。ドメイン2の温度圧力は包有物の鉱物組み合わせがシュードセクションに現れる領域から710–790 ℃/5.0–7.3 kbarと決定した。ドメイン3の圧力はQz-in-Grtラマン圧力計で温度は包有物の鉱物組み合わせがシュードセクションに現れる領域で決定し,665–707 ℃/6.8–8.7 kbarであった。各ドメインの推定温度圧力条件は,包有されるアルミノ珪酸塩の安定領域と調和的である。後退変成作用の条件はGrt–Bt温度計とGrt–Sil–Pl–Qz圧力計を用いて654–688 ℃/4.4–5.4 kbarと決定した。SHRIMPによるジルコン中のTi濃度の測定も行い,Ti-in-Zrn温度計の結果は~952 Maは701–813 ℃,~537 Maは702–812 ℃であり,それぞれドメイン1・2とドメイン3に対して求めた温度と調和的である。 以上のことから,二番東岩はTonianとEdiacaran-Cambrianの2度の時期に,ともに藍晶石から珪線石へ変化する昇温変成作用を受けたことがわかった。

  • 【ハイライト講演】
    中野 伸彦, 馬場 壮太郎, 加々島 慎一
    セッションID: T11-O-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    東南極・リュツォ・ホルム岩体は,東西400 km以上にわたって分布する巨大な変成岩体であり,ゴンドワナ超大陸形成期の変動を被った地質体として,日本の南極地域観測隊を中心に研究が行われてきた.近年では原岩形成時期や砕屑性ジルコン年代に基づいた詳細な岩体区分(Takamura et al., 2018; Dunkley et al., 2020)や広域的な温度・圧力見積もり(Suzuki and Kawakami, 2019)など,年代学的・岩石学的研究が進んでおり,これまでのデータを包括的に解釈する形成テクトニクスの構築が急務である.本発表では,リュツォ・ホルム岩体のテクトニクスの制約を目的とし,岩体西部に位置する小露岩域(〜700 m x 700 m)であるベルナバネについて,特に原岩構成と変成年代の多様性からその形成過程を考察する. ベルナバネは,リュツォ・ホルム湾西岸,アウストホブデの東南東約7 kmに位置し,Dunkley et al. (2020)の区分ではルンドボークスヘッタ小岩体を構成する.主に珪長質片麻岩と泥質変成岩から構成され,西北西−東南東の単調な構造をしめす.これらは,全岩化学組成・U–Pbジルコン年代・Hf同位体比からは大きく3ユニットに区分される.北部と南部ユニットには,角閃石–黒雲母珪長質片麻岩が分布するが,北部は約1.0 Gaの原岩年代を持つ島弧花コウ岩〜トーナル岩質片麻岩で特徴づけられる.一方南部は,2.5 Gaの原岩年代をしめすアダカイト質花コウ岩〜トーナル岩質片麻岩である.変成超苦鉄質岩ブロックを含み,珪長質片麻岩の一部が高Cr, Ni含有量をしめすことから原岩はスラブ溶融により形成されたと解釈できる.両者に挟まれた中央部は主に泥質片麻岩から構成され,約1.9 Gaの原岩年代をしめす苦鉄質グラニュライトや珪長質片麻岩を狭在する.泥質片麻岩の堆積上限年代は約1.8 Gaである.化学的・同位体的特徴から,中央部は1.9–1.8 Gaに形成された2.5 Ga地塊の大陸縁に相当すると考えられる. 中部(1.9–1.8 Ga)・南部(2.5 Ga)の珪長質片麻岩・泥質片麻岩・苦鉄質グラニュライト中のジルコンリムは610 Maから510 Maまでの多様な年代をしめし,その238U–206Pb加重平均年代(555±8 Ma: n=102, N=9)のMSWDは10に達する.この幅広い年代分布と高いMSWDは泥質片麻岩中のモナズ石のU–Th–Pb化学年代と同様の傾向である(556±5 Ma: MSWD = 5.3: n=259,N=4).また,ジルコンのTh/U比も0.01–1.54と多様である.このことは,これらの変成岩類が複数のイベントで形成されたことを強く示唆している.仮に,Isoplotを用いてピーク分離すると,579±3 Maと538±3 Maとなる.一方で,1.0 Gaの原岩をしめす北部の珪長質片麻岩のジルコンの多くはリムが発達せず,現時点で測定できたリムは546–530 Maに集中する(537±7 Ma: MSWD = 1.2: Th/U = 0.09: n=4, N=1).この年代は,中央部と南部に認められる若い年代ピークに類似する. 北部(1.0 Ga)と南部(2.5 Ga)の珪長質片麻岩中の角閃石や斜長石の化学組成はほぼ一致し,これらは両者が約540–530 Maのピーク〜後退変成作用までの一連の変成作用を共有したことをしめす.この変成作用はリュツォ・ホルム岩体全域に認められる主要な衝突イベントによるものと考えられる.一方で,中部および南部にのみ認められる580 Ma程度の古いジルコンリムは,約1.8 Gaの大陸縁辺をもつ2.5 Gaの地塊が主要な衝突に先行する局所的な衝突イベントを被ったことを強く示唆する.このことは,1.8 Gaよりも古い原岩年代をしめすルンドボークスヘッタ,スカレビークスハルセン,スリランカ・ハイランド岩体が幅広い変成年代をしめす(Dunkley et al., 2020; Kitano et al., 2018)ことと調和的であり,これらの地質体を特徴づける高温〜超高温変成作用の要因となった可能性も指摘できる.講演では,追加分析結果も加えて議論する予定である.引用文献:[1] Dunkley et al. (2020), Polar Sci., 26, 100606. [2] Kitano et al. (2018), JAES, 156, 122–144. [3] Suzuki and Kawakami (2019), JMPS, 114, 267–279. [4] Takamura et al. (2018), Geosci. Frontiers, 9, 355–375.

  • 亀井 淳志, 市田 花歩, 粟田 晶, 外田 智千, 堀江 憲路, 竹原 真美, 馬場 壮太郎, 北野 一平, Setiawan Nugro ...
    セッションID: T11-O-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    原生代はKenorland (2.7~2.4 Ga),Columbia (1.8~1.5 Ga),Rodinia (1.2~0.7 Ga),Pannotia (6.0 Ga)の超大陸が相次いだ(Hoffman, 1991など).超大陸研究は古いものほど北アメリカ・北ヨーロッパが中心で(Goodge et al., 2008など),その「外側」には未解明が多い.我々はその「外側」にある東南極リュツォ・ホルム複合岩体(全長約450km)の研究を進めている.最近,本岩体のジルコンU-Pb年代で約2.5 Ga, 1.85 Ga, 1.0 Gaの火成活動が示された(Dunkley et al., 2020).ただし成因や活動場の情報は限られている.本報告では当岩体のあけぼの岩に産する変花崗岩類の記載的・年代学的特徴について述べる.  あけぼの岩は約4×1 km2の範囲で露出し,Bt-Hbl片麻岩,Grt-Bt片麻岩,Bt片麻岩,角閃岩類,桃色片麻状花崗岩類が主な構成岩石である(Hiroi et al., 1986など).我々はBt-Hbl片麻岩の分布域より,正片麻岩のHbl-Bt変トーナル岩およびBt-Hbl変トーナル岩を見出し,また桃色片麻状花崗岩類よりBt変トーナル岩を見出して,それぞれ試料採取した. 各岩石のジルコンU-Pb年代を測定した結果,それぞれの原岩のマグマ活動は,Hbl-Bt変トーナル岩が1100.2 ± 8.8 Ma,Bt-Hbl変トーナル岩が1107.8 ± 4.9 Ma,そしてBt変トーナル岩が1101.0 ± 10.0 Maとなった.すなわち,各活動年代は約1.1 Gaでほぼ共通する.一方,本複合岩体に広く知られるPannotia期の変成年代(600~500 Ma付近:Shiraishi et al., 1994など)はいずれにも痕跡が無く,Baba et al. (2022)やKitano et al. (2023)が準片麻岩より報告した,あけぼの岩のトニアン期変成作用を支持する. 地球化学的特徴では,Hbl-Bt変トーナル岩はK2Oが1.5wt%未満でやや乏しくMedium-K~Low-Kシリーズとなる.微量元素のMORB規格化パターンはLILに富み,Ta・Nb・Tiに負異常があってY・HREEが枯渇する.すなわち火山弧的である.ただし,高Al2O3 (av. 16.64 wt%),高Na2O (av. 4.10 wt%),高Sr/Y (av. 44)でアダカイト質でもある.同位体組成はSrI(1.1Ga)が約0.7028,イプシロンNd(1.1Ga)が+4.1~3.3と枯渇する.これらより原岩は海洋地殻起源のアダカイト質岩と考えられる. Bt-Hbl変トーナル岩は,他の2岩相に比して著しくK2O量 (av. 0.34 wt%)が低く,多くの微量元素がN-MORB規格化パターンで1に近い.ただしTa・Nb・Tiは枯渇する.同位体組成はSrI(1.1Ga)で約0.7032,イプシロンNd(1.1Ga)で+2.7~2.1で枯渇している.これらより原岩は未成熟な海洋島弧型花崗岩と考えられる.  Bt変トーナル岩はN-MORB規格化パターンでLIL・HFS・REEに富み,一方でK・Rb に富みNb・Ta・P・Tiに枯渇する.Pearce et al. (1984)の判別図では海嶺型花崗岩となる.同位体組成はSrI(1.1Ga)で約0.7036,イプシロンNd(1.1Ga)で+4.8~1.2と枯渇する.ただし,Kに富み,Nb等に枯渇する部分で火山弧要素も持つ.したがって単純な海嶺型花崗岩ではなく,未成熟弧の背弧拡大に伴う特殊な海嶺型花崗岩と解釈される.  以上より,あけぼの岩の変花崗岩類はトニアン期の未成熟な海洋火山弧の構成岩類が挟み込まれたものと解釈され,Rodiniaを含めた以前の超大陸とは直接関係しないと言える.本報告ではこれらの結果に近年の既存報告も含め,あけぼの岩の変花崗岩類の位置づけを議論したい.Baba et al. (2022) Gondwana Res. 105, 243–261. Dunkley et al. (2020) Polar Sci. 26, 100606. Goodge et al. (2008) Science 321, 235–240. Hoffman (1991) Science 252, 1409–1412. Hiroi et al. (1986) Geological map of Akebono Rock, Antarctica. NIPR, Antarctic Geol. Map Ser. 16. Kitano et al. (2023) JMPS, 118, 221220.

  • 足立 達朗, 河上 哲生, 東野 文子, 宇野 正起
    セッションID: T11-O-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    東南極セール・ロンダーネ山地は,ゴンドワナ超大陸形成に伴う造山活動で形成された高度変成岩類や貫入岩で構成される(Shiraishi, 1997 Antarctic Geol. Map Ser.).変成岩類は,変成履歴および砕屑性ジルコンの年代分布によって北東テレーンと南西テレーンに区分され,両者はMain Tectonic Boundaryを境界として約650-600Maに衝突したと考えられている(Osanai et al., 2013 Precambrian Res.).最近南西テレーンに位置するブラットニーパネにおいて,異なるP-T-t履歴を示す変成岩同士が接する境界が見出された(Adachi et al., in review JMPS).ここでは構造的上位の泥質片麻岩からは620-550Maが検出される一方,下位の珪長質片麻岩からは約570-550Maのみが検出され,これに両者の変成経路を組み合わせた結果,約570-550Maにも地殻衝突イベントがあった可能性が示唆されている.本発表では,ブラットニーパネの東方に位置するメーニパにおいて同様の関係性が認められるかを検証した. メーニパには珪長質変成岩や泥質変成岩が分布し,全体として東西方向の走向と低角の傾斜を示す.本発表では,当地域において構造的上位に位置する珪線石-ザクロ石-黒雲母片麻岩(試料番号1302B)と,構造的下位のザクロ石-カミングトン閃石-黒雲母片麻岩(1902A)の解析結果を示す. 1302Bに含まれるザクロ石はPの濃度の違いで,Pが高いリム,低いマントル,やや高いコアに区分でき,コアからリムにかけてCaとMnが減少しMgが増加する組成累帯構造を示す.また,コアにはチタン鉄鉱・斜長石(An=51-65)が,マントルにはチタン磁鉄鉱・ルチル・斜長石(An=44-58)が,リムにはルチル・斜長石(An=35-39)がそれぞれ含まれる.この包有物の組み合わせや化学組成の変化は,   チタン磁鉄鉱+灰長石+石英⇒鉄ばんザクロ石+灰ばんザクロ石+ルチル (Ghent&Stout, 1984 CMP)の反応が起きたことを示唆し,この岩石が圧力上昇を経てピーク変成条件に達したことを示唆する.ザクロ石のリムに含まれるルチルと,ザクロ石のリムおよびマトリックス中の斜長石のコアの化学組成を用いて,Zr-in-Rt温度計(Tomkins et al., 2007 JMG)とGASP圧力計(Holdaway 2001, Am. Mineral.)をそれぞれ適用すると,720-810 ℃,0.7-0.9 GPaが見積もられる.また,この岩石に含まれるジルコンの変成リムからは,618 ± 7 Ma (n=11; MSWD=1.7; Th/U: 0.05-0.00; Ybn/Gdn: 66-1.3)が得られた.ザクロ石のコアに含まれるジルコンにも変成リムが認められることから,この年代はザクロ石が成長する昇温期の時期であると考えられる.これらの変成条件・年代は,Kawakami et al.(2021, GEOSEA abstract)によって1302Bの近傍に産する変成岩類から見積もられた結果とおおむね一致する. 1902Aに含まれるカミングトン閃石は集片双晶が発達し,そのリムにホルンブレンドが薄く産している.これらの角閃石中には残晶として直方輝石と単斜輝石が認められることから,角閃石は加水反応生成物であると考えられる.一方でザクロ石には加水反応の痕跡はほとんど認められない.この岩石中のザクロ石のリム,マトリックスの斜長石・直方輝石のコアの化学組成を用いてザクロ石-直方輝石地質温度計(Ganguly et al.,2004 CMP)およびザクロ石-直方輝石-斜長石-石英地質圧力計(Eckert et al., 1991, Am. Mineral.)を適用すると,約780 ℃,0.7 GPaが見積もられた.この岩石に含まれるジルコンの変成リムの年代は566 ± 5 Ma (n=13; MSWD=1.3; (Th/U: 0.10-0.00; Ybn/Gdn: 320-4.4)を示す.ザクロ石のコアに含まれるジルコンにも変成リムが認められることから,この年代はザクロ石が成長する昇温期変成作用の時期を示していると解釈できる. 今回の結果に基づくと,メーニパの変成岩類は,構造的上位と下位で昇温期変成作用の時期が異なる可能性がある.また構造的上位および下位の変成岩が記録するそれぞれの昇温期変成作用の時期は,ブラットニーパネに分布する構造的上位および下位の岩相の年代と一致する.このことはブラットニーパネで観察された地質境界がメーニパにも延長される可能性を示唆する. ただし,1902Aの年代については,後退変成作用の時期である可能性もあるため,今後ザクロ石中の変成ジルコンの年代をin-situで分析してその意味を確認する予定である.

  • 土屋 範芳, Mindaleva Diana, 宇野 正起, 奈良 拓実
    セッションID: T11-O-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    JARE-25の予備偵察以降,東南極セール・ロンダーネ山地は,地学,生物,隕石等の地球科学研究の拠点地域として,多くの隊次で調査が進められてきた.これらの成果として,セール・ロンダーネ山地の地質図の刊行がされ,地域地質研究はもとより,ゴンドナワナ大陸の成長モデルの提案など地質学的研究の展開に大きく貢献してきた.さらに,我々の研究グループでは,セール・ロンダーネ山地の下部地殻高度変成岩の,特に加水反応組織の解析から,下部地殻環境下における流体移動の解析を行ってきている. Uno et al.(2017)は超苦鉄質岩に貫入する花崗岩質マグマからの流体の放出により,貫入部周辺に加水反応体が形成され,その流体の固定量と花崗岩質岩脈からの放出量とのバランスから地殻中に放出される過剰な流体量を見積もっている. Mindaleva et al.(2020)では,セール・ロンダーネ山地の中央部のメーフェル岩体での岩脈とその周辺の反応隊の解析から,流体圧,流体の移動様式,流体(および貫入岩脈)の活動時間の制約を進め,母岩の浸透率は極めて低く(10^-20~10^-22 m^2),一方,き裂の浸透率は(10^-10~10^-16 m^2)で,下部地殻での流体移動は主としてき裂が担っていること,さらにき裂からの流体移動形式をPやClの挙動から明らかにしている.この研究により,流体圧の推定方法が示されている.またMindaleva et al.(2023)では,流体圧に加えて,流体量およびその活動時間の見積もりを行って,流体移動形式が,地震発生のメカニズムとよく一致していることを見出している.これらの研究成果は,現在の地殻で生じているさまざまな地震現象のある種のナチュラルアナログであり,地震発生の化石の地質学的に証拠として解析していることを意味している.さらに,同じくセール・ロンダーネ山地の中央部のブラットニーパネでのマグマ貫入の応力解析から,下部地殻での火山性深部低周波地震との関係を解析する試みが進められている.本発表では,セール・ロンダーネ山地の地域地質学の展開に加えて,岩石学,移動現象論的解析,応力解析などさまざまな手法を適用して,下部地殻での流体移動とその結果の地震等の地球科学現象の解明に関する研究の展開について紹介する.Uno, M. , Okamoto, A., Tsuchiya, N. (2017), Excess water generation during reaction-inducing intrusion of granitic melts into ultramafic rocks at crustal P–T conditions in the Sør Rondane Mountains of East Antarctica, Lithos, 284–285, 625–641, doi.org/10.1016/j.lithos.2017.04.016 Mindaleva, D., Uno, M., Higashino, F., Nagaya, T., Okamoto, A., and Tsuhciya, N. (2020), Rapid fluid infiltration and permeability enhancement during middle–lower crustal fracturing: Evidence from amphibolite–granulite-facies fluid–rock reaction zones, Sør Rondane Mountains, East Antarctica, Lithos,372–373, doi.org/10.1016/j.lithos.2020.105521Mindaleva, D., Uno, M., and Tsuchiya, N. (2023), Short-Lived and Voluminous Fluid-Flow in a Single Fracture Related to Seismic Events in the Middle Crust, Geophysical Research Letters, 50, doi.org/10.1029/2022GL099892

  • 奥野 淳一, 石輪 健樹, 菅沼 悠介
    セッションID: T11-O-8
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    温暖化による極域氷床の融解と海水準上昇の正確な将来予測のためには,地球が過去に経験した温暖期における氷床変動の理解が必要不可欠である.産業革命前よりも僅かに温暖であった最終間氷期(約12.5万年前)は,現在より6-9 m も海水準が高く,グリーンランド・南極両氷床が現在より大幅に縮小していたと考えられている.これはローカルな地形・地質データに基づいて求められているが,一般的に過去の海水準を示す地形・地質学的データには,海水の器としての固体地球の変形成分が含まれるため,地形・地質データから氷床量変動の情報のみを正確に読み取ることは大変難しい.この固体地球の変形は,氷期−間氷期サイクルにおける氷や海水の荷重変化に対するアイソスタシー回復(Glacial Isostatic Adjustment: GIA)によって引き起こされ,さらに粘弾性的に変化する特徴をもつ.つまり,このようなアイソスタシー変動の見積もり次第では,氷床量変動のシナリオが書き換わる可能性がある.本研究では,最終間氷期(約12.5万年前)を対象として,アイソスタシーの効果を高精度に求めるモデルを構築した.そして,GIA数値モデルを用いた相対的海水準の再現を行い,氷床域より離れた地域の海水準データとの比較を通じて,最終間氷期における全球的な氷床量,およびその時間変化について,その数値的特徴を整理した上で,南極氷床の寄与について考察する.

  • 【ハイライト講演】
    石輪 健樹, 奥野 淳一, 徳田 悠希, 板木 拓也, 佐々木 聡史, 菅沼 悠介
    セッションID: T11-O-9
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    将来の地球温暖化が危惧されている現在、全球的な気候変動に対する南極氷床の応答を理解することは学術的にも社会的にも喫緊の課題である。東南極氷床は50メートル以上の海水準相当の氷を有し、過去の温暖期には部分的に融解していた可能性が地質データから示唆されおり(Wilson et al., 2018)、西南極氷床と同様に気候変動に対して敏感に応答している可能性が高い。様々な時間スケールの現象が重なる東南極氷床変動を理解するには、数百年以上の長期にわたるデータ解析が不可欠であるため、地質試料分析とモデルシミュレーションを組み合わせたアプローチが必要となる。特に堆積物試料から示される海水準データとGIA(Glacial Isostatic Adjustment)モデルの計算結果を統合的に解釈すると、過去の氷床変動を推定することができる(e.g., Ishiwa et al., 2021)。東南極インド洋区の西側では、約9,000年前から6,000年前に氷床高度低下が起きたことが報告されているが(Kawamata et al., 2020; Suganuma et al., 2022; White and Fink, 2014)、従来のモデルと比べて有意に遅い。そこで本研究は、第61次南極地域観測隊で採取した堆積物試料の分析結果と、東南極のリュツォホルム湾とプリッツ湾で既報告の海水準データを再評価し、海水準データセットを構築した。さらに、GIAモデルによる解析を行い、完新世における東南極氷床変動を推定した。本研究の海水準データセットでは、完新世の高海水準期において、リュツォホルム湾で現在の海水準より約30 m、プリッツ湾で約10 m高く、地域差が20 m以上あることが示された。GIAモデルによる解析では氷床変動史と地球の内部構造が主要な入力値であるが、本研究では表面露出年代から示される氷床高度低下の時期を考慮した氷床変動史を構築した。さらに、地球の内部構造に対する海水準変動の応答を評価するため、複数の内部構造を入力値として解析を行った。その結果、GIAモデルにより計算される海水準変動は、堆積物試料から示される海水準データと整合的であった。これらの結果から、完新世の高海水準期における両地域での海水準の差異は、東南極インド洋区の東西での氷床高度低下時期の違い、すなわち氷床質量の減少時期の違いが支配的な要因となり生じたことが示唆された。今後、より広範な地域で、より古い海水準データを取得することで、本研究で着目した空間・時間スケール以上の氷床変動復元が期待される。

  • 【ハイライト講演】
    板木 拓也, 菅沼 悠介, 関 宰, ⼤森 貴之, 石輪 健樹, 奥野 淳一, 中山 佳洋, 小長谷 貴志, 天野 敦子, 清家 弘治, 山 ...
    セッションID: T11-O-10
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    __近年、南極では外洋の温暖な深層水が棚氷の下面に入り込むことによる棚氷の融解/氷床の海への流出が懸念されている。特に巨大氷冠を有する東南極トッテン氷河の流出は、世界の海水準上昇に与える影響が大きく、その動態が注視されている。しかし、この海域は厚い海氷に覆われているために十分な観測が行われていない。第61次日本南極地域観測隊(2019-2020年)は、トッテン氷河前縁の大陸棚において南極観測船「しらせ」を用いた観測を展開し、この海域においては世界初となる海底コアの採取にも成功した。本講演では、これらの海底コアのマルチプロキシ分析(堆積相解析、微化石、10Be/9Be比、バイオマーカー等)から明らかにされつつある完新世のトッテン氷河後退プロセスについて議論する。__計5本の海底コア(コア長:1.8〜3.9m)は、トッテン氷河前縁大陸棚の水深403〜842mでグラビティーコアラーを用いて採取された。いずれもコア上部は、生痕の認められる泥質堆積物で構成され、棚氷に覆われていない環境を示す珪藻や放散虫などの珪質微化石が多産している。一方、その下位は礫質の砂あるいは泥で特徴付けられ、時にはコア先端の鉄製ビットが固い礫層に当たって大きく変形してしまう事があった。これらは、氷河性の礫質堆積物と考えられ、棚氷下の環境で近傍には氷床の接地線が存在していたことを示唆している。棚氷下から開氷面への移行(カービングラインの通過)は、銀河宇宙線により生成された10Beと9Beの比率からも支持され、放射性炭素年代測定の結果によると、そのタイミングが大陸棚中央部付近では約11〜9千年前、氷河前縁付近では約6〜4千年前であることが示された。また、約4.5〜4千年の期間には、棚氷が一時的に前進していた可能性がある。__最終氷期に南極周辺の大陸棚を広く覆っていた氷床は、前期〜中期完新世で急速に後退し、それと共に氷床高度が低下したことが知られている。前期完新世におけるトッテン氷床の後退は、他地域のタイミングともほぼ一致しており、最終氷期から完新世にかけての海水準上昇と棚氷下への温暖深層水移入が関連していたと考えられる。一方、中期完新世の終盤まで続いたトッテン氷床後退は、これまでの他地域からの報告と比べても最も若い記録のひとつとなっている(但し、産業革命以降を除く)。__何故、トッテン氷床の後退が約4千年前まで続いたのかは、現段階で海底コアの解析やモデル実験のみから読み取ることは出来ない。一方、過去の氷床接地線が地形的な高まりによって制約されていたと考えられ、起伏に富んでいる現在のトッテン氷河前縁域も過去に氷床が接地していた痕跡が残されている。すなわち、中期完新世頃まで接地していた氷床が地形的制約から解放されて現在の位置にまで後退していった可能性があり、氷床後退メカニズムの解明には棚氷下への温暖深層水移入と合わせて海底地形も重要な要素として考慮する必要がある。

  • 鈴木 克明, 板木 拓也, 菅沼 悠介, 天野 敦子, 清家 弘治, 大森 貴之, 石輪 健樹, 尾張 聡子
    セッションID: T11-O-11
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    2019年度の第61次日本南極地域観測隊では2代目「しらせ」による初めての本格的な海底地質調査が実施された。本調査で東南極トッテン氷河前縁陸棚域で大口径グラビティコアラーにより取得された柱状堆積物試料には、堆積相や粒度分布、放散虫含有量およびAuthigenic ベリリウム同位体データから、トッテン氷河流域における氷床/棚氷の後退プロセスが記録されていることが示唆されている(板木ほか、2022、地質学会)。本研究ではこのコア試料について、XRFコアスキャナーにより取得した元素組成に対して主成分分析を中心とした統計解析を行い、堆積物組成の特徴づけを試みた。解析には対数変換した元素カウント値を用いた。また解析の際、表面状態に応じて極端に総線量が下がる影響を除去するため、区間あたりの線量変動がある閾値より大きな層準は除去して解析したため、結果として主に堆積物の細粒部分に着目した解析となっている。 トッテン氷河前縁陸棚域で取得した柱状堆積物の主要元素組成は、主成分分析に基づけば主に砕屑物、生物源物質、鉄酸化物と解釈できる成分の混合および堆積物のかさ密度(単位空間あたりの元素存在度)で説明できる。 Siが正、Tiがゼロないし負の寄与を持つ成分(多くのコアで主成分分析の第二から第四成分のいずれかに表れる)は生物源物質の存在度を示すと考えられ、多くのコアで放散虫含有量と一致した挙動を示す。この成分はCaも正の寄与を持つ場合があるが、本海域の堆積物は珪質微化石に富み、石灰質微化石をほとんど含まれないため、Caの変動は空隙率の高い生物源物質に富んだ区間に多く含まれる間隙水由来成分の可能性がある。 Rb、Srなど砕屑物に含まれる微量元素のカウント値変動に着目すると、生物源粒子をわずかに含む泥質堆積物から構成される堆積相(棚氷下にあったと考えられる)では、現在のトッテン氷河縁辺付近の試料においてRb/Sr比が高く、また変動が激しい傾向が見られた。この組成変動は、現在の氷河縁に近いほど明瞭な傾向があり、氷床が離底した後の海水流入による局所的な流速増大や、氷床底からの堆積物供給など、特殊な堆積環境が一定期間継続したことにより形成された可能性がある。今後、鉱物組成や粒子組成解析等の分析や、トッテン氷河前縁部のより多くの海域堆積物試料において同様の検討を行うことで、こうした仮説を検証することが期待される。

  • 池原 実, Weber Mike
    セッションID: T11-O-12
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    南極底層水(Antarctic Bottom Water: AABW)は、全球の海洋深層を占める底層水の主要な起源であり、低温かつ高密度で大量の化学物質を蓄えている。南極底層水の形成場の一つであるウェッデル海南部で生成されたウェッデル海底層水(Weddell Sea Bottom Water: WSBW)は、AABWの主要な4つの形成場のうちで最大規模であり、ウェッデル海の西岸境界流としてウェッデル循環の北西端を流れている(Gordon et al., 2001)。AABWの強弱は全球的な熱塩循環にとっても重要であることから、氷期スケールでのAABW変動が注目されている。例えば、過去2回の氷期の最盛期には、ウェッデル海起源のAABWが南大洋大西洋区のODP Site 1094地点(53.2°S)まで到達していなかったことがネオジム同位体と鉛同位体の分析によって提唱されている(Huang et al., 2020)。しかし、ウェッデル海内での最終氷期の底層水の動態はよくわかっていない。ウェッデル海の北端に位置するパウエル海盆はウェッデル海底層水がスコチア海に流出する際に通過する海盆であるが、これまで古海洋研究の例がほぼ無い。白鳳丸 KH-19-6次航海において、我々はパウエル海盆からピストンコアの採取に成功した。ピストンコアKH-19-6-PC06の帯磁率変動は、先行研究によって明らかにされているパウエル海盆とスコシア海の年代制御された堆積物コアであるGC04-G03およびMD07-3134の帯磁率変動(Kim et al., 2018, Weber et al., 2012)と良い相関があることがわかった。これらの帯磁率変化は、氷床コアの非海塩Ca2+濃度(ダスト量)と強い相関を示し、南大洋における大気循環の影響を強く受けているためコアの年代推定に利用出来る(Weber et al., 2014)。このダスト年代法をPC06に適用すると、先行研究も含めてパウエル海盆の少なくとも2地点においては、氷期の堆積物が回収されたが完新世の堆積物は存在しないことが明らかとなった。このことは、2地点のコアの最表層部における有機物の放射性炭素年代からも支持された。これらの古環境記録は、最終氷期のウェッデル海では砕屑物が沈積する程度まで南極底層水の流れが弱まっていたが、最終融氷期にはその流れが強くなったことを示している。(引用文献)Gordon et al. (2001) Journal of Geophysical Research, 106, 9005-9017. Huang et al. (2020) Nature Communications, DOI: 10.1038/s41467-020-14302-3.Kim et al. (2018) Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology, 505, 359-370. Menviel et al. (2015) Earth and Planetary Science Letters, 413, 37-50. Smith et al. (2010) Earth and Planetary Science Letters, 296, 287-298. Weber et al. (2012) Quaternary Science Reviews, 36, 177-188. Weber et al. (2014) Nature, 510, 134-138.

  • 豊島 剛志
    セッションID: T11-P-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    東南極リュツォ・ホルム岩体では、ジルコンU-Pb年代データなど多様なデータに基づいて、ユニット区分やテクトニクスが議論されている(Nogi et al. 2013; Takahashi et al. 2017; Toyoshima 2017; Dunkley et al. 2020など)。しかし、岩体全体の地質構造や各ユニットの接触関係(不整合・整合、断層、貫入、上下関係など)の理解、地質構造解析に基づいたテクトニクスの議論が不足している。本岩体には、岩石層序によるYoshida(1978)の区分、地球物理学的データによるNogi et al. (2013)の区分、岩石学的・地球化学的データとジルコンU-Pb年代データによるTakahashi et al.(2017)の区分、形態線図によるToyoshima (2013, 2017)の区分、主に原岩年代によるDunkley et al. (2020)の区分などがある。これらには共通点も多いが、相違点・問題点も多い。本論文では、本岩体のテクトニクスの理解にとって不可欠な大構造やユニット区分等の問題点について議論したい。本報告ではToyoshima (2017)による本岩体の形態線図を改訂し、次のユニットに再区分した:インホブデ、ルンドボークスヘッタ、スカーレン、オングル島-ラングホブデ、日の出岬、奥岩-新南岩、明るい岬の7ユニット(Fig. 1)。構造による本報告のユニット区分は原岩年代によるDunkley et al. (2020)のスイート区分との共通点も多い。形態線図は、本岩体に、1)ほぼE-W走向の面構造が卓越する地域、2)NW-SE走向の面構造が卓越する地域、3)N-S走向の面構造が卓越するが多時相褶曲を被っている地域があることを示している。1)の地域として、竜宮岬、かすみ岩、びょうぶ岩、奥岩と、本岩体南部の地域がある。2)の地域には新南岩や日の出岬、明るい岬、たま岬がある。3)の地域はオングル諸島、ラングホブデ、スカルブスネスなどである。1)の地域にはE-Wトレンドの褶曲が発達し、2)の地域にはNW-SEトレンドの褶曲が発達している。3)の地域にはほぼN-SからNE-SWトレンドの褶曲とE-Wトレンドの褶曲が発達している。1)の地域は本岩体の西部に多い。プリンスオラフ海岸地域ではE-W走向からNW-SE走向へと面構造・褶曲が湾曲している地域があり、NW-SE走向の層平行右横ずれ剪断帯によって面構造が引きずられているように見える。これらユニットが作る大構造は、上盤南西移動の衝上断層運動によって形成された褶曲・衝上断層帯であると予想されている(Toyoshima, 2017)が、証明されていない。また、形態線図や各露岩の地質図から見ると、本岩体の大構造は、多時相褶曲によって強く曲げられているものの、基本的に北-北東に緩傾斜あるいはほぼ水平に近い姿勢を持つと考えられるが、野外調査に基づく実証が必要である。さらに、各ユニット(またはスイート)の接触関係のタイプと形態・姿勢、各ユニットにおける別のユニットとの混在関係の有無(包有関係など)についてほとんど情報がない。今後の調査研究によりこれらを明らかにする必要がある。ところで、変成帯において形態線図に示される地質構造的不連続は、変成帯がある程度上昇した後の脆性変形領域にて形成された断層であることも多い。そこで、本岩体における脆性断層パターンとそのテクニクスについても検討した。Toyoshima et al. (2019, 2020, 2021)は本岩体において初めてシュードタキライトを報告し、シュードタキライトを伴う2系統の脆性断層を識別した。そして、Ishikawa (1976)とYoshida (1978)による断層系・応力場の解析を参照し、シュードタキライトを伴う脆性断層の構造解析から、2ステージの応力場を求めた:ENE-WSWトレンドとWNW-ESEトレンドの共役断層を形成させたE-W圧縮応力場と、NW-SEトレンドとほぼN-Sトレンドの共役断層を形成させたNNW-SSE圧縮応力場(Toyoshima et al., 2021)。前者の応力場はNogi et al. (2013)のテクトニック・モデルにおけるENE-WSWトレンドの右横ずれ断層形成時の応力場と考えることが可能である。この断層運動は、本岩体の褶曲・衝上断層帯のtear断層であるとも考えられる。後者の応力場は、Toyoshima et al. (2013, 2017)やTakahashi et al. (2017)のユニット境界断層を形成させた応力場であると考えらえる。しかし、その妥当性の検証のためにも、今後、広域的な調査とデータ収集が必要である。

  • 加々島 慎一, 遠藤 美空, 谷 健一郎, 野原 里華子
    セッションID: T11-P-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    地球史を解く上で重要なテーマの一つに,太古代〜原生代の大陸地殻の形成と発達過程の解明がある. 東南極エンダビーランドのナピア岩体は,太古代の地殻熱イベントを記録しており (James and Black, 1981など),原太古代の年代値が報告されている:ca. 3840–3770 Ma (Mt. Sones,Harley and Black, 1997),3850 Ma (Gage Ridge,Kelly and Harley, 2005),>3700 Ma(Mt. JewellとBudd Peak,Król et al., 2020)など. しかし,これら「古い」は一般的ではなく,ナピア岩体の大部分では3300-2600 Maにかけて原岩が形成したと考えられている(Horie et al., 2012; Takehara et al., 2020). Król et al. (2020)は,アムンゼン湾東方Tula Mountainsの正片麻岩について,太古代のマグマ活動が単純な若い地殻の形成だけでなく,様々な地殻成分の再溶融とリサイクルによって多様性が生じていることを示している.本発表では, Mt. Cronusの珪長質岩の地球化学的特徴から推定される成因とジルコンU-Pb年代結果から,新太古代〜古原生代にかけての地殻熱イベントの解明を試みる. Mt. Cronusはナピア岩体の中心付近に位置し,超高温変成作用の領域の中にある.本研究は,JARE46において採取された珪長質岩,変ハンレイ岩,およびサフィリン含有グラニュライトを用いている.珪長質岩は中〜細粒で,石英,斜長石,直方輝石,メソパーサイト,少量の黒雲母,ザクロ石,ジルコン,アパタイト,モナザイト,不透明鉱物を含み,一部に極弱い片麻状構造をもつ.変ハンレイ岩は中〜細粒で,角閃石,斜長石,直方輝石,単斜輝石,不透明鉱物を含み,弱い片麻状構造をもつ.グラニュライトは,サフィリン,直方輝石,珪線石,ざくろ石,石英,金雲母を含む.サフィリンと石英の間に直方輝石+珪線石の共生が確認される. 珪長質岩は長石のソルバス温度計より約1,000℃の温度が見積もられ,グラニュライトの鉱物共生関係からは1,050℃以上の温度条件からの等圧減温反応を示す.珪長質岩のSiO2は77.2〜78.7 wt.%,主要・微量元素ともに均質な値を示し,太古代以降のTTGの性質をもつ.微量元素の判別図ではプレート内花崗岩の領域にあり,高いεSr値と低いεNd値をもち,大陸地殻物質起源を示唆する.Tula Mountainsの高Y-HREEタイプと似たREEパターンを示すが,正のEu異常を持ちHREEがより高い値を示す.斜長石を主体とし残渣にザクロ石を持たないような部分溶融過程や珪長質地殻の再溶融が示唆される.一方,変ハンレイ岩のSiO2は約49 wt.%で,E-MORBに近いREEパターンを示す. 珪長質岩のジルコンU-Pb年代は,oscillatory zoningコアから2780 Maの年代ピークが得られ,その他のコアおおよびリムからは2630 Ma,2490-2440 Maのピークが得られる.2780 Ma は変成温度が超高温までは達しないが, 900-1000 ℃ 程度の高度変成作用が起こった年代と解釈されており(Hokada et al., 2008),原岩または珪長質岩の形成はこの熱イベント時に地殻の部分溶融により生じたと考えられる.2630 Maは同様な年代値がナピア岩体の他の露岩からも得られており,大規模なテクトニックイベントがあったことが示唆される.2490-2440 Maの年代値は最も集中しており,主にCL像において明るく幅の広いリムや overgrowthしたリムにみられる. これは太古代末期に起こった超高温変成作用を被ったためと考えられる.<引用文献>James and Black(1981)Sp. Pub. Geol. Soc. Australia, 7, 71-83.Harley and Black(1997)Antarctic Sci., 9, 74-9.Kelly and Harley(2005)Contrib. Min. Pet., 149, 57-84.Król et al.(2020)Gondwana Res., 82, 151–170.Horie et al.(2012)Gondwana Res., v. 21, 829-837.Takehara et al., 2020 Minerals, 10, 943.Hokada et al.(2008)Geol. Soc. London Sp. Pub., 308, 253–282.

  • 馬場 壮太郎, 中野 伸彦, 加々島 慎一, 亀井 淳志, 外田 智千
    セッションID: T11-P-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    東南極のドロンイングモードランド東部(35°E) からエンダビーランド西部(45°E)にかけての地域には,エディアカラ〜カンブリア紀の変動帯であるリュツォ・ホルム岩体が分布する(Hiroi et al., 1991; Shiraishi et al., 1994; 2003).近年,U-Pbジルコン年代,岩相に基づきいくつかのユニット区分(Takahashi et al., 2018; Takamura et al., 2018; Shiraishi et al., 2019; Dunkley et al., 2014; 2020)が提案されているが,これらはリュツォ・ホルム湾岸周辺の露岩を対象にしたものであり,東部地域については未踏査露岩,年代未測定露岩もあり,十分に理解されていない. Baba et al.(2022)は,プリンスオラフ海岸のあけぼの岩の角閃岩相片麻岩について二次イオン質量分析計を用いて変成年代の解析を行い,ジルコンのTi含有量とその年代値に基づき,角閃岩相の変成作用が937 ± 6 Maのトニアンに生じたことを明らかにした.これはリュツォ・ホルム岩体の変成度がカンブリア紀の広域変成作用で,累進的に上昇したという従来の考えを否定する結果である.最近,トニアンを示す変成作用は,日の出岩の西方に位置する二番岩からも,報告されており(Mori et al., 2023; Kitano et al., 2023), この岩体がまとまって分布することを暗示している.しかし,あけぼの岩の東方には未踏査露岩が多く,その変成作用,変成年代,原岩の情報はトニアンの年代を示す変成岩体の延長とその範囲を明らかにするうえで重要である.本報告では,63次南極地域観測隊で実施したちぢれ岩に分布する変成岩類を対象に変成作用の特徴と予察的な年代測定結果について報告する. ちぢれ岩は昭和基地に東方,約100マイルに位置する.2つの露岩から構成されるが,西に位置する露岩(1.4 × 0.6 km)について調査を実施した.片麻岩の片理面は,北西方向にトレンドを示し,南に70〜80°傾斜する.構造的下位から上位に向かって,黒雲母に富むザクロ石珪質片麻岩,角閃石に富むザクロ石珪質片麻岩,ザクロ石珪質片麻岩,層状片麻岩(巨晶ザクロ石角閃岩を含む),角閃石黒雲母片麻岩が分布する.これらに角閃岩,ペグマタイト,玄武岩などが貫入している.層状片麻岩は,ゼードル角閃石,ホルンブレンド,カミングトン閃石,ザクロ石,黒雲母などをさまざまな割合で含む酸性〜塩基性片麻岩の互層から構成される.層状片麻岩以外の岩相は塊状を呈するが,ところにより黒雲母の配列による片理が発達する.泥質片麻岩は稀で,層状片麻岩とザクロ石珪質片麻岩の境界付近の一箇所に確認された.泥質片麻岩は主に,石英,斜長石,黒雲母,アルカリ長石,ザクロ石,藍晶石,十字石から構成され,イルメナイト,ルチル,モナザイト,緑泥石を伴う.十字石は藍晶石の濃集部やマトリクス中に石英とともに産する.藍晶石の一部は黒雲母とともに,微細な結晶として片理を形成する.この泥質片麻岩を対象にシュードセクションモデルを作成したところ,約680-700 ℃,7.5 kbar以上の条件が見積もられた.また,薄片内に含まれるモナザイトを用いてEMP年代測定を実施したところ,1000 Ma前後の年代のみが得られた.この結果はプリンスオラフ海岸において,トニアンの年代を示す角閃岩相の変成岩体の東端は,少なくとも,ちぢれ岩に及ぶことを示している. 引用文献: Baba et al. (2022) Gondwana Res. 105, 243–261. Dunkley et al. (2014) 7th International SHRIMP Workshop, Abstract. Dunkley et al. (2020) Polar Sci., 26, 100606. Hiroi et al. (1991) Geological Evolution of Antarctica, 83-87. Kitano et al. (2023) J. Min. Petrol. Sci., in press. Mori et al. (2023) J. Min. Petrol. Sci., 118, 221124. Shiraishi et al. (1994) Journal of Geology, 102, 47–65. Shiraishi et al. (2003) Polar Geosci., 16, 76-99. Shiraishi et al. (2019) Int. Symp. Antarctica Earth Sci., Abstract. Takahashi et al. (2018) Journal of Asian Earth Sciences, 157, 245–265. Takamura et al. (2018) Geoscience Frontiers, 9, 355–375.

  • 宮本 知治, 山下 勝行, Dunkley J. Daniel, 角替 敏昭, 加藤 睦実
    セッションID: T11-P-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    東南極Dronning-Maud Landに位置するLützow-Holm Complex (LHC)は、Rayner 岩体の西、Yamato-Belgica岩体の東に位置する、高温変成岩を主とする岩体である。変成度は北東部の角閃岩相より南西部のグラニュライト相まで推移し、Rundvågshettaにて変成度のピークを迎える(Hiroi et al., 1991)。二番岩は日の出岬の南西約 15 km に位置する2.5 km×3.5 km の露岩で、二番東岩と二番西岩から構成され、Hiroi et al. (1991)により定義された角閃岩相帯に位置する。Dunkley et al. (2014) は、二番岩の変成岩について火成年代と変成年代がそれぞれ 551±11 Ma と 532±7 Ma であり940±6 Ma の物質が含まれることを報告した。それらの結果を基に、二番岩はAkarui Suite (AKR, 970–800 Ma)に分類された(Dunkley et al., 2020)。最近、二番西岩のザクロ石-珪長石-黒雲母片麻岩から、変成年代として 998±9.7 Ma、砕屑年代として 1940~1760、1300、および 1160~1040 Ma のU-Pb ジルコン年代が報告された(Kitano et al., 2021)。Mori et al.(2023)はNiban-Nishi Rockの変成相解析と新たな年代測定の結果を基に、Cape Hinodeを主とするHinode Block (Dunkley et al., 2020)との関連を強調している。 LHCには変成作用と同時期もしくはその後に貫入した様々な火成岩も点在する。苦鉄質火成岩もその一つで、マントルを起源とし、地下深部より地上に達していると考えられる(e.g., Murphy et al., 2002)。それゆえ、変成岩体を貫く火成岩の解析を通じて、貫入当時のマグマ供給源深度の情報、地殻下部の状況の推定が期待される。二番岩にも主要な変成構造と交差してN70W方向に貫入する苦鉄質岩脈が産した。厚さは10~20cm、少なくとも10mは連続した。完晶質で構成鉱物は斜長石・カリ長石・黒雲母・角閃石・石英・燐灰石で、少量のチタン石・ジルコン・方解石・磁鉄鉱をともなった。黒雲母は、定向配列する傾向があった。化学組成はアルカリ玄武岩的で、ノルム計算結果ではカンラン石と斜方輝石を算出した。Primitive mantleで規格化したSpider図では、右下がりの傾向を示すとともに、K・Pbに正のスパイクと、Nb・Srに深い谷、Tiに弱い谷が認められた。周囲の苦鉄質片麻岩とは、相対的にIncompatible elementsに富む点で、組成的に差異があった。その成因として、島弧的環境で苦鉄質マグマが活動し、その際に地殻物質を同化した可能性がある。 この苦鉄質岩脈試料の全岩・長石・苦鉄質鉱物(主に黒雲母と少量の角閃石)について、Rb-Sr同位体分析した。その結果をIsochron図に投影すると、500.9±0.2Ma、Initial ratioは0.704665±0.000016(いずれも1σ)の結果が得られた(宮本ほか、2023)。この岩脈は主変成作用の後に貫入し冷却したと考えられる。初期同位体組成が当時の全地球、或いはDepleted mantle valueより高いのは、苦鉄質マグマ形成時およびその後に地殻物質を同化した可能性を支持する。 LHCの変成作用後に貫入した苦鉄質岩について、二番岩の苦鉄質岩の貫入方向はNW-SE方向だったが、LHC東部のAkebono RockではN-S方向或いはNW-SE方向に貫入する苦鉄質岩脈が報告されている(Hiroi et al., 1986)。同じくLHC東部のCape Hinodeに貫入する苦鉄質岩脈はNE-SW方向或いはN-S方向に貫入する(Yanai and Ishikawa, 1978)。一方、LHC西部(Innhovde、Rundvågshettaなど)の苦鉄質貫入岩の貫入方向は概ね南北であであり、LHC東部とは異なる。それらの詳細な貫入時期には不明な要素も有るが、貫入方向は当時の応力場と密接に関係することを考えると、LHCの東部と西部とで変成作用直後の応力場が異なっていた、或いは貫入後に地帯構造的に変化した可能性がある。

  • 東野 文子, 河上 哲生, 坂田 周平, 平田 岳史
    セッションID: T11-P-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    東南極セール・ロンダーネ山地は、東アフリカ造山帯 (EAO; 750-620 Ma) と、それに続くクンガ造山帯 (570-530 Ma) が見かけ上交差する場所に位置しており [1]、東西約200kmにわたり高度変成岩類と火成岩類が広く露出する。一方、クンガ造山帯は、EAOが南極まで伸びた東アフリカ―南極造山帯(EAAO)に含まれ、1つの造山帯で一連の変成・火成作用は説明できるとする説もある [e.g., 2-4]。同山地はMain Tectonic Boundary (MTB) と呼ばれる構造境界によって、北東テレーンと南西テレーンに区分される [5]。両テレーンは、650-600 Maにピーク変成作用、590-530 Ma に紅柱石安定領域の後退変成作用を被ったとされてきた [5]。また、北東テレーンは時計回り、南西テレーンは反時計回りの温度圧力履歴を示すとされてきたが [5]、それに一致しない温度圧力履歴の報告も出てきており、同山地の形成テクトニクスは再考の機運が高まっている [e.g., 6, 7]。そこで本研究では、先行研究の変成年代がペトロクロノロジー的解析に基づいていないことに着目し、ザクロ石とジルコンの平衡共存関係を調べることで、年代値の意味付けを明確にし、同山地形成テクトニクスの再考を試みた。 本研究では、セール・ロンダーネ山地西部パーレバンデから東部バルヒェン山にかけて広域に、計7試料のザクロ石を含む高度変成岩を扱った。詳細な岩石記載は Higashino et al. [8]を参照されたい。各試料に対して、LA-ICPMSを用いたジルコンの局所U-Pb年代分析および希土類元素(REE)分析、ザクロ石の局所REE分析をおこなった。岩石の微細組織観察に基づき、共存関係にあると考えられるザクロ石とジルコンの分析点に対して、ザクロ石―ジルコン間のREE分配係数 [DREE(Zrn/Grt)]を計算した。これをTaylor et al. [9]に基づき判断することで、ザクロ石がジルコンと平衡共存していた時期を制約した。その結果、北東テレーンと南西テレーンの両方から、>600 Ma および <580 Maのザクロ石形成年代が得られた。また、ザクロ石と平衡共存するジルコンは、フラットなREEパターンを持つとされる [10]。そこで、ジルコンのREEパターンに着目したところ、一部試料では、DREE(Zrn/Grt)によりジルコンとザクロ石が平衡共存したと制約できた時期以前にも、ジルコンがザクロ石と平衡共存していたことが示唆された。単一試料内で複数のザクロ石形成時期が存在することは、(i) 単一の広域変成作用の中で複数回のザクロ石形成イベントが起きた可能性、または、(ii) 複変成作用で各々のザクロ石が形成された可能性を意味する。(i)の場合、EAAOの存在を支持する一方で、地殻深部ではEAOから漸移的にクンガ造山運動に変化した可能性もある。また、(ii)の場合は、直近の広域変成作用はEAAOまたはクンガ造山運動によるものと考えられる。ただし、複数回のザクロ石形成時期の間の温度低下は確認できていないため、本研究結果から複変成作用を積極的に主張することは難しいが、これは2つの造山帯が存在するとするMeert [1]の主張を否定しない。また、両テレーン内において複数回のザクロ石形成時期が確認できたことは、MTBに加えて別の構造境界が存在することを示唆するかもしれない。したがって、各試料に対して温度―圧力―変形―時間履歴を明らかにし、ペトロクロノロジーに基づいた研究を進めることにより、同山地の形成テクトニクスの解明、さらにはゴンドワナ超大陸形成メカニズムを解明することが可能となるであろう。 引用文献 [1] Meert 2003 Tectonophysics [2] Jacobs & Thomas 2004 Geology [3] Ueda et al. 2012 J. Geol. [4] Jacobs et al. 2015 Precam. Res. [5] Osanai et al. 2013 Precam. Res. [6] Kawakami et al. 2017 Lithos [7] Tsubokawa et al. 2017 JMPS [8] Higashino et al. 2023 Gondwana Res. [9] Taylor et al. 2017 JMG [10] Rubatto 2017 RiMG

  • 中野 美玖, 東野 文子, 河上 哲生, 足立 達朗, 宇野 正起
    セッションID: T11-P-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    東南極セール・ロンダーネ山地は、6.5-5.2 億に起きた東西ゴンドワナの衝突境界に位置し、東アフリカ造山帯とクンガ造山帯が見かけ上交差する場所であるとされる[1-4]。よって、この地域の変成岩類の温度-圧力-時間-変形履歴を読み解くことは、ゴンドワナ超大陸の形成プロセスを理解する上で重要な意義がある。同山地は、主にグラニュライト相の変成岩からなり、時計回りの温度-圧力-時間(P-T-t)履歴を示す北東テレーンと、より低変成度の変成岩からなり、反時計回りのP-T-t履歴を示す南西テレーンに分けられる [1]。同山地中央部に位置するメーフィエルは南西テレーンに属するが、近年、時計回りのP-T-t履歴が報告された[5]。Nakano et al. [6]は、メーフィエルで採取された珪線石―黒雲母-ザクロ石片麻岩中のザクロ石斑状変晶に着目し、先行研究で用いられた地質温度計よりも、鉱物形成後の元素拡散や再平衡の影響を受けにくいZr-in-rutile地質温度計[7]を用いることで、時計回りのP-T履歴を裏付けた。また、先行研究では、マトリクスに産するモナズ石の電子線マイクロプローブU-Th-Pb 年代測定により、7.0-5.4億年前を変成ピークの年代を報告した [5]。Nakano et al. [6]の研究試料では、モナズ石がマトリクスに加えてザクロ石の包有物としても産し、その微細組織と産状に体系的な関係性が確認できたため報告する。本研究試料のザクロ石は、ザクロ石中の拡散が遅いPで不連続な組成累帯構造が確認でき、内側から順に、P濃度が低いインナーコア、P濃度が高いアウターコア、P濃度が低いマントル、P濃度が高いリムに分けられる。アウターコアにはP濃度が不連続に低いパッチ状の部分が存在する。このパッチ状の組織は、アウターコア形成後にザクロ石の融食が起き、その後の再結晶でマントル部分が埋めることで形成されたと解釈できる [6]。モナズ石はザクロ石のインナーコア、アウターコア、マントル、リム全てに包有されるほか、ザクロ石とマトリクスにまたがるもの、マトリクスに産するものがある。ザクロ石インナーコアに包有されるモナズ石は短径2-22 µm、長径3- 28 µmである。小さい粒子はBSE像でゾーニングが見られないが、比較的大きい粒子ではコアとリムの2段階の弱いゾーニングが認められる。 アウターコアに包有されるモナズ石は、短径3-20 µm、長径5-100 µmであり、BSE像でゾーニングを示さない。 マントルに包有されるモナズ石は1粒子しか見つかっていないが、短径10 µm、長径50 μmの柱状で、BSE像で暗いコアと明るいリムが見られる。 ザクロ石リムに包有されるモナズ石は、コア・マントルに包有されるものよりも有意に粗粒なものが増え、短径12-85 µm、長径20-140 µmであり、BSE像の輝度で2段階以上のゾーニングが見られる。一部の粒子は、BSE像で明るく丸いパッチを有し、包有物に富む暗いコアを持つ。このコアは不規則な外形を呈し、パッチと同輝度で包有物の少ないリムに囲まれる。 ザクロ石とマトリクスにまたがるモナズ石は、短径12-230 μm、長径20-280 μmであり、ザクロ石リムに包有されるモナズ石と類似した微細組織を有する。明るいパッチを有する粒子では、パッチ部分に珪線石が包有される。 また、ザクロ石のどの段階に包有されているか決定できていないモナズ石の中には、包有物に富む粒子があるが、その外側に包有物が少ないリムは見られない。 マトリクスに産するモナズ石は、短径3-180 µm、長径4-240 µmであり、BSE像で明るいコアと暗いリムの2段階のゾーニングが卓越する。この傾向はTsubokawa et al. [5]と類似する。包有物に乏しいが、存在する場合はコア・リム境界付近やリムに包有される傾向があり、珪線石、黒雲母、石英、硫化鉱物の包有物が確認された。マトリクスに産するモナズ石の一部は、ザクロ石リムに包有される粒子と似たBSE像で明るく丸いパッチを有する。 以上の観察から、多段階のモナズ石成長が示唆され、包有物と産状を総合的に考察することで変成履歴の構築に貢献できると考えられる。引用文献[1] Osanai et al. 2013 Precam. Res. [2] Jacobs et al. 2003 Precam. Res. [3] Meert 2003 Tectonophysics [4] Satish-Kumar et al. 2013 Precam. Res. [5] Tsubokawa et al. 2017 JMPS [6] Nakano et al. 2023 JpGU abst. [7] Tomkins et al. 2007 JMG

  • 志村 俊昭, 宮脇 律郎, 門馬 綱一, 亀井 淳志, 束田 和弘, 柚原 雅樹, 大和田 正明
    セッションID: T11-P-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    ジルコノライト(zirconolite, 以下略号Zrc)は理想構造式CaZrTi2O7で表される酸化鉱物で(Bayliss et al., 1989),SiO2に乏しく高温で形成された岩石に産する.地球では希少な鉱物で,苦鉄質~超苦鉄質岩・サフィリングラニュライト・エメリー・スカルンなどに産する.月面では普遍的に産し,アポロ計画・ルナ計画・嫦娥5号による全ての着陸地点の岩石試料から報告されており,玄武岩・斜長岩・インパクトメルト角礫岩などに含まれている.月起源の隕石中からも報告されている.ジルコノライトはUやThを多く含むことから,月の年代学に用いられているほか,人工のものは高レベル放射性廃棄物の固定(SYNROC)にも利用されている. 河辺石(こうべいし)[ kobeite-(Y) ] は京都府中郡河辺(こうべ)村(現:京丹後市大宮町河辺)から発見された新鉱物である(田久保ほか, 1950).長石に富むペグマタイト中に,パーサイトと共生した柱状・樹枝状結晶として産する.現状では河辺石の化学式は(Y,U)(Ti,Nb)2(O,OH)6とされている.メタミクト化しているため,結晶構造は原記載では報告されていない. 第50次日本南極地域観測隊(2008-2009)により,東南極大陸 セール・ロンダーネ山地,ブラッドニーパネ地域 小指尾根の変成スカルン中から,新鉱物マグネシオヘグボマイト2N4S (magnesiohögbomite-2N4S, IMA#2010-084)(以下略号Hög)が発見された(Shimura et al., 2012).本発表で述べるジルコノライトは,その同じ岩石中に含まれ,Högとも共生している.この変成スカルンは,ドロマイトマーブルと黒雲母片麻岩との間に3~10 m程度の幅で狭長に分布している(Shimura et al., 2012).ジルコノライトはこのスカルン帯内の,以下の3種の岩石中に産する.・Dol + Fo + Spl ± Phl + Gk + Rt + Zrc スカルン・Spl + Phl ± Tr + Zrc スカルン・Hög + Crn + Spl + Clc + Zrc スカルン この露頭の各種岩石の解析から,このスカルン帯は最高変成温度850 ℃程度以上で形成され,その後700 MPa以上・700 ℃程度の条件を経て温度低下してゆくような,反時計回りの変成P-T-t 経路を経てきたと思われる.また,スカルン中のジルコノライトやウラニナイトなどから約528 MaのCHIME年代が得られている(志村ほか, 2018). このジルコノライトについて,山口大学のEPMA(JEOL JXA-8230)により,33元素の定量分析をおこなった.その結果,Y2O3は最大約9.1 wt%,REE合計では最大約20.7 wt%含まれていた.そして,(REE, U, Th) (Zr, Hf) (Ti, Al, Fe2+, Mg)2 O7のような化学組成である事がわかった.また,ThO2を2~3 wt%, UO2を3~7 wt %含んでいる.メタミクト化しており,現段階では結晶構造は不明である. 一方,河辺石については,国立科学博物館所蔵の原記載産地産標本,NSM-M32642(櫻井標本)の母岩から暗褐色の河辺石の小片を分離した.さらにその微小片を用い,前述と同様に山口大学のEPMAにより,31元素の定量分析をおこなった.その結果,河辺石にはSc2O3最大約3.6 wt%,Y2O3最大約18.3 wt%,REE合計では最大約32.6 wt%含まれていた.そして,(REE, Ca) Zr (Ti, Fe3+)2 O7 のような化学組成であることがわかった.また,先述の小片を国立科学博物館において粉末X線回折と示差熱分析をおこなった.その結果,メタミクト化前の河辺石の原構造は,加藤(1989)が指摘したように,三方晶系ジルコノライト型である事がわかった(宮脇ほか, 2019). したがって,南極産ジルコノライトと河辺石は,どちらもジルコノライト(Ca2+ Zr4+ Ti4+2 O7)の希土類置換体であり,◆南極産のものは,ジルコノライトの REE3+・Al3+ 置換体で,Y3+ Zr4+ (Ti4+, Al3+)2 O7◆河辺石  は,  ジルコノライトの REE3+・Fe3+ 置換体で,Y3+ Zr4+ (Ti4+, Fe3+)2 O7であると再定義されるべき鉱物である.文献Bayliss, P. et al. (1989) Mineral. Magazine, 53, 565-569.加藤 昭 (1989) 日本鉱物学会要旨, 103.宮脇律郎ほか (2019) 日本鉱物科学会要旨, R1-11.Shimura, T. et al. (2012) Amer. Mineral., 97, 268-280.志村俊昭ほか (2018) 日本地質学会要旨, R4-P4.田久保實太郎ほか (1950) 地質学雑誌, 56, 501-513.

  • Sreehari Lakshmanan, Keisuke Suzuki, Tsuyoshi Toyoshima, Hayato Ueda, ...
    セッションID: T11-P-8
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    Dharwar Craton (DC, 3500–2500 Ma) is one of the well-studied Archean terrane in the world. The DC divided into three Western Dharwar Craton (WDC), Central Dharwar Craton (CDC), and, Eastern Dharwar Craton (EDC) based on various geological and geophysical parameters. Volcanosedimentary sequences in the DC is divided into the Sargur Group and Dharwar SuperGroup. The Dharwar SuperGroup further divided into the Bababudan, Chitradurga and Hiriyur Groups. In this presentation we will discuss about the evolutionary history and tectonic significance of each Group within the WDC. We will discuss the detailed geochronological results and structural relations from each stratigraphic unit and highlight their tectonic significance.Our study propose that the Sargur and Bababudan Groups were formed through distinct rifting events associated with mantle plumes. The Chitradurga and Hiriyur Groups, on the other hand, represent back-arc rifts associated with the convergence process in the far east. However, it is evident that none of these rifting processes resulted in the formation of a complete oceanic sequence, indicating multiple failed rift events. In this presentation we will present the detailed geochronological data about the initiation and termination of each rifting events within the WDC.Regarding deformation, our study identified five episodes, with D2 and D3 representing regional-scale events. D2 corresponds to a fold-and-thrust belt characterized by NNW–SSE trending axial planes and parallel reverse faults dipping to the east. The D3 event indicates strike-slip deformation with a transpression component, signifying the later reactivation of D2 faults and other geological contacts. The fold-and-thrust belt observed in the area likely evolved from a back-arc fold-and-thrust belt, with the D3 event representing late-stage orogenic strike-slip escape or transpression associated with oblique convergence. The present structural architecture of the WDC thus probably represent hinterland fold-and-thrust belt after the NeoArchean collisional event.

  • 菅沼 悠介
    セッションID: T11-P-9
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    近年,南極氷床融解の加速が相次いで報告され,近い将来の急激な海水準上昇が社会的に強く懸念されている.一方,このような氷床の融解傾向は,過去数十年の観測から得られたもので,短周期の揺らぎである可能性もあり,長期的に継続し,やがて地球環境の激変に至るような現象であるかについては,まだ不明な点も残されている.また,南極氷床融解の予測には精密な大気-海洋および氷床モデルシミュレーションが不可欠であるが,現状の氷床融解メカニズムの理解は充分とはいえず,いまだ海水準上昇の将来予測には不確実性が大きい.この問題を解決する方法の一つとして,南極現地で直接得た地質データに基づく精度の高い過去の南極氷床融解の復元や,現在の観測のみでは見通せない大規模かつ急激な氷床融解のメカニズムの解明することが強く求められている.そこで,2022年度から開始した南極観測事業第Ⅹ期重点研究計画では,サブテーマ1-2「東南極氷床変動の復元と急激な氷床融解メカニズムの解明」として,砕氷船「しらせ」による本格的な海底堆積物掘削や,新開発の地層掘削システムを用いた凍結湖沼上からの湖底堆積物掘削,さらには露岩域での陸上ボーリングなどを実施することで,過去数十万年間における長期的な東南極氷床変動の復元と,さらには最後の氷期から現在の間氷期への移行期におきた急激かつ大規模な氷床融解の実態とそのメカニズム解明を目指している.さらに,本計画では東南極内陸部での永久結氷湖掘削や西南極ロス棚氷下掘削などの国際プロジェクトに参画し,国際的な連携の中で南極氷床変動メカニズムの総合的理解にも貢献する.これまでに第64次(2022-2023シーズン)の南極地域観測隊の活動では,DROMLAN(東南極ドロンイングモードランドでの国際共同運行航空網)を用いた早期の南極入りにより,通常より1ヶ月以上早い11月から南極での調査が可能となり,宗谷海岸北部において初の本格的な浅海-湖沼掘削を実施することができた.また,第65次では,リュツォ・ホルム湾とトッテン氷河沖において重点的な海底堆積物掘削調査を計画している.本発表では,これらの調査も含め,南極観測事業第Ⅹ期重点研究計画サブテーマ1-2の調査計画の概要について紹介する.

  • 香月 興太, 菅沼 悠介, 石輪 健樹, 川又 基人, 佐々木 聡史, 徳田 悠希, 板木 拓也, 瀬戸 浩二
    セッションID: T11-P-10
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    南極氷床の融解は,おもに氷床縁における比較的温かい深層水の流入に支配されている.一方,南極沿岸の露岩域は最終氷期以降の氷床質量損失に伴って隆起したと考えられるため,その隆起量と速度は氷床後退後の氷床安定性を考える上でも重要である.最終氷期後における東南極氷床の大規模融解後の隆起速度を求める手法の一つとして,沿岸湖沼の堆積物中の珪藻遺骸から,堆積環境が海成から湖成に変化する時期を用いる方法が用いられてきた.しかしながら,沿岸湖沼における湖内の珪藻分布に関する知見が少なく,先行研究における珪藻群集を元にした隆起速度推定には論文間で齟齬がみられた(Takano et al., 2012; Verleyen et al., 2017).そこで我々は,同一の沿岸湖沼から得られた複数の柱状堆積物コア中の珪藻群集を分析し,その群集組成の違いから珪藻群集を制約する環境要因の検討を行った.第61次南極地域観測隊では宗谷海岸・ラングホブデ露岩域の沿岸湖沼ぬるめ池において深度別に4本のコアを採取した.これらの試料中の珪藻群集は,現在の塩分躍層下にある深度16m地点で採取されたコアと塩分躍層上にある深度5-8mのコアでまったく異なった傾向を示した.水深が浅い地点では珪藻群集の多様性が高く,湖の閉塞化に従って海生種から汽水種,更により低塩分の汽水性種への移行が明瞭にみられるが,水深が深い地点では多様性が低く閉塞後も海生種の割合が高い.そのため水深が深い地点では閉塞化に対する応答性が悪いと考えられる.この水深に応じた珪藻群集の違いは他の沿岸湖沼における珪藻群集を用いた堆積環境推定の齟齬を説明づける.ラングホブデより南方の露岩域スカルブスネスでは,海面下の湖沼であるすりばち池や舟底池ではぬるめ池の水深が深い地点の珪藻群集と類似の傾向を示し,水深が浅い沿岸湖沼親子池ではぬるめ池の水深が浅い地点と同様に低塩分化に伴う顕著な群集変動を示した.これらの結果は南極沿岸の露岩域のより精緻な隆起速度を求めるための新たな情報を提供する.引用文献 Takano et al. (2012) Applied Geochemistry 2, 2546-2559. Verleyen et al. (2017) Quaternary Science Reviews 169, 85-98.

  • 山﨑 友莉, 菅沼 悠介, 板木 拓也, 天野 敦子, 山口 耕生
    セッションID: T11-P-11
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    近年,衛星観測から南極氷床は急速な融解傾向を示すことが明らかになってきた。このような傾向は比較的温暖な周極深層水(CDW)流入による棚氷の底面融解が原因とされるが、CDWの役割や中・長期的変化傾向には未だ不明点が多く残されている。一方,近年南極沿岸堆積物中の10BeはCDWの流入、9Beは南極大陸からの砕屑物供給に対応して変化することが明らかになりつつあり,海洋環境と氷床変動のプロキシとして注目を集めている(Valletta et al., 2018 ; Iizuka et al., 2023)。そこで本研究は、東南極に位置するトッテン氷河沖の表層海底堆積物のBe同位体分析から、過去130〜170年間におけるCDW流入および南極氷床変動の復元を試みた。用いた表層海底堆積物試料は、第61次南極地域観測隊によってトッテン氷河沖の2地点(St.14BとSt.26)から採取されたもので、St.14Bはトッテン氷河のカービングフロント近傍、St.26はダルトンポリニヤに位置する。本研究では、前者22cm、後者20cmの試料に対して210Pb年代測定、粒度分析、およびBe同位体測定を行った。210Pb年代測定からSt.14BとSt.26の表層堆積物試料はそれぞれ1890年と1850年以降の記録を保持していることが示された。両地点の粒度は、概ね深度方向に大きな変化はなく、比較的安定した堆積環境であったと考えられる。10Be濃度は両地点で比較的一定であり、9Be濃度はSt.26では一定であったものの、St.14Bは現在に向かって増加傾向を示した。これらのデータから、トッテン氷河カービングフロントへのCDWの流入は、過去130〜170年間安定していたことと考えられる。一方、南極氷床起源の砕屑物供給は増加していることから、南極氷床・棚氷は、約130年前以降融解傾向であることが示唆された。これらのデータは、近年の温暖化傾向と南極氷床の融解傾向を理解する上で重要なデータを提供するものであるが,データの空間分布や時間分解能は十分ではない。今後、過去のCDWと南極氷床変動ダイナミクスを詳しく明らかにするため、さらなる試料の分析が必要である。 参考文献 Iizuka, M., Seki, O., Wilson, D., Suganuma, Y., Horikawa, K., van de Flierdt, T., Ikehara, M., Itaki, T., Irino, T., Yamamoto, M., Hirabayashi, M., Matsuzaki, H., Sugisaki, S.(2023), Multiple episodes of ice loss from the Wilkes Subglacial Basin during the Last Interglacial, Nature communications,14(1) Valletta, R., Willenbring, J.,Passchier, S.,Elmi, C., (2018) 10Be/9Be Ratios Reflect Antarctic Ice Sheet Freshwater Discharge During Pliocene Warming. Paleoceanography and Paleoclimatology, 33, 9, 934-944

T12.地球史
  • 冨松 由希, 野崎 達生, 尾上 哲治, 松本 廣直, 佐藤 峰南, 高谷 雄太郎, 木村 純一, 常 青, Rigo Manuel
    セッションID: T12-O-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    今からおよそ2億3200万年前に起こったカーニアン多雨事象は,後期三畳紀における短期間の極端な降雨で,海洋生態系に大きな変化をもたらしたことが知られている.テチス海や大陸縁辺部では,炭酸塩プラットフォーム形成の停止や,陸源砕屑物の流入量の増加,海水温の上昇などによってCPEの存在が認識されてきた(Simm et al., 1989; Dal Corso et al., 2020).これらを引き起こした原因として,前期カーニアン(ユリアン)のパンサラッサ海で起こったWrangellia火山活動が提案されており,テチス海域ではWrangellia火山活動の最盛期であるユリアン/チュバリアン境界において,温暖化や海洋無酸素化に伴ってアンモナイト,コノドントなどの遠洋性生物の絶滅が起こった可能性が示唆されている(Dal Corso et al., 2015, 2020).しかし,遠洋環境におけるその規模や期間,実際の遠洋性生物に与えた影響についてはわかっていない. そこで本研究では遠洋性堆積岩である層状チャートを用いて,海洋オスミウム同位体,海洋酸化還元状態およびコノドントと放散虫化石層序に着目し,CPEにおけるパンサラッサ海遠洋域の海洋環境変動の期間・規模,それに応答する海洋生態系について明らかにすることを目的として研究を進めた.研究対象地域として,ジュラ紀付加体中の後期三畳紀カーニアン層状チャートが露出する秩父帯(高平),丹波帯(玉岩),美濃帯(神崎,坂祝),北部北上帯(大谷山)の5つのセクションを選定し,コノドントー放散虫化石層序の検討,MC-ICP-MSによるオスミウム同位体分析,XRFおよびICP-QMSによる主要・微量元素濃度分析を行った. 本研究の結果,すべての研究地域において,オスミウム同位体比はユリアンを通じて低い値を示し,ユリアン末で最も低い値を示したのち,ユリアン/チュバリアン境界以降でオスミウム同位体比は上昇する傾向が認められた.このことから,Wrangellia 火山活動はユリアン末に活動の最盛期を迎え,低い同位体比を持つオスミウムが海洋に大量に供給されたと考えられる.また主要微量元素濃度分析の結果,酸化還元状態に鋭敏な元素(V, U)は,ユリアン末に異常濃集が認められたことから,Wrangellia LIP火山活動の最盛期と同時に海洋無酸素環境がパンサラッサ海遠洋域でも広く発達していたことが明らかとなった.また,化石層序の検討から,ユリアン末からユリアン/チュバリアン境界にかけて海洋無酸素環境の発達に伴い,深海に生息していたことが知られるGladigondolella属を含めたユリアンに特徴的なコノドントの絶滅が起こっていたことが明らかとなった.一方で,放散虫はユリアン/チュバリアン境界を通じて,ユリアンにおいて産出する種数の減少が見られたものの,チュバリアンを示す放散虫の多様性はユリアン/チュバリアン境界後に劇的に増加していることがわかった.この結果はパンサラッサ海に生息する放散虫は海洋無酸素環境の影響をさほど受けなかったことを示している.また,多様化が起こった原因として,パンゲア大陸の湿潤化および温暖化に伴い化学風化が強まったことにより,海洋への栄養塩が増加したことが考えられる.海洋無酸素化と選択的なコノドントや放散虫の絶滅との関係を明らかにするためには,パンサラッサ海遠洋域におけるカーニアンのコノドントや放散虫の生息環境(水深や水温など)を理解するためのさらなる研究が必要である. 【引用文献】Dal Corso, J. et al. 2015, Carbon isotope records reveal synchronicity between carbon cycle perturbation and the “Carnian Pluvial Event” in the Tethys realm (Late Triassic). Glob. Planet. Chang. 127, 79–90.Dal Corso, J. et al. 2020, Extinction and dawn of the modern world in the Carnian (Late Triassic). Sci. Adv. 6, 1–13.Simms, M.J., Ruffell, A.H., 1989, Synchroneity of climatic change and extinctions in the Late Triassic. Geology 17, 265–268.

  • 高橋 聡, 山北 聡, 武藤 俊, 小嶋 智, 海保 邦夫, 山崎 慎一, 土屋 範芳, 熊 怡俊, ポールトン サイモン, ポール ウィグ ...
    セッションID: T12-O-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    前期三畳紀のスミシアンとスパシアンの境界期は,ペルム紀末大量絶滅事変後の回復期において環境悪化が顕著に起きた時期であり,火山活動の増加 (Saito et al., 2023),海水温の上昇 (Sun et al., 2012), 海洋の酸化還元環境の変化 (Song et al., 2016) が主に古テチス海から報告されている.本発表では,低緯度パンサラッサ海遠洋域深海のスミシアンとスパシアンの層序と溶存酸素環境の記録を示す.さらに,古テチス海の表面海水温記録と比較して,この極端温暖期とその直後の海洋酸化還元構造に関して議論する. 本研究が対象としたのは,愛知県犬山地域に露出する美濃帯の桃太郎神社セクションである.このセクションは,山北ほか(2010, 2016)などによって地質構造とコノドント化石年代が明らかにされ,スミシアン後期からスミシアン—スパシアン境界までの範囲とスパシアン中期の連続層序の存在が明らかにされてきた.これらの層序に沿って有機炭素同位体比の変化を示すと,スミシアン—スパシアン境界期付近の厚さ30−40 cmの黒色粘土岩層中に顕著な増加が見出され,これはこの時代境界期に見られる炭素同位体比の正異常(P3;Song et al., 2014)に対比される.低緯度古テチス海浅海域から報告されたコノドントの酸素同位体比のデータによると,この炭素同位体比の正異常を境にそれまで高温であった表層海水温(38—40℃程度)が約80万年後までに4℃程度低下したことが示されている(Sun et al., 2012). 桃太郎神社セクションから採取したサンプルを基に,主要元素・微量元素組成,鉄化学種の分析,および黄鉄鉱の観察を行い,古環境記録の検討を行った.スミシアン期中期から後期にかけては,鉄化学種の記録が海洋無酸素化の傾向を示すようになり還元的な環境への変化を示すが,モリブデンなどの酸化還元鋭敏元素の増加が顕著ではない.したがって,強い還元状態である硫化水素環境の発生までは起こらなかったことを示唆する.スミシアン—スパシアン境界期近傍の黒色粘土岩層は,鉄化学種,モリブデン,粒径の小さいフランボイド黄鉄鉱の証拠から無酸素環境の発達が示される.ただし,ウランの増加が大きくないため,無酸素海水の発達は深層水では起きておらず,中層水において酸素極小層が存在した可能性が高い.この無酸素中層水の発達の後,スパシアン中期には酸化的な海洋環境に変化したことが各酸化還元環境指標から示される. このパンサラッサ海遠洋域の酸化還元環境記録とSong et al. (2019)による古テチス海浅海域の海洋鉛直構造のモデルを統合することにより、同時の低緯度海洋の酸化還元水塊の変動を以下のように推定した.スミシアンの中期から後期の時期には無酸素・硫化水素環境までには及ばない貧酸素環境であった.当時の海洋表層水の高温化を起点に海洋が成層化し表層生物生産が停滞するような貧酸素化が起きた.その後のスミシアン—スパシアン境界期においては無酸素・硫化水素環境が浅海域と遠洋域の両方で起きており,表層水温の低下などによって海洋の鉛直混合が進み表層の生産性が増加,海洋の有光域深度における酸素消費(無酸素化)や有機物沈降フラックスの増加による硫化水素の発生が顕著に起きた.このような極端温暖化と直後の寒冷化に駆動された海洋無酸素化が,ペルム紀末の大量絶滅事変後の動物多様性回復の遅れを招いたと推定する.文献:Saito et al., 2023, Ear. Planet. Sci. Lett. 614, 118194. Song et al., 2014, Geochim. Cosmochim. Acta 128, 95–113. Song et al., 2019, Earth-Science Rev. 195, 133–146. Sun et al., 2012, Science 338, 366–70. 山北ほか, 2010 日本古生物学会 C23, 47. 山北ほか 2016, 日本古生物学会B13, 31.

  • 塩原 拓真, 尾上 哲治, 曽田 勝仁
    セッションID: T12-O-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    三畳紀の気候は総じて乾燥から半乾燥の時代と考えられているが, 中期三畳紀の後期アニシアン(ペルソニアン)と後期ラディニアン(ロンゴバルディアン)では,それぞれ湿潤化イベントの存在が知られている. これら2回の湿潤化イベントの原因は不明であるが, これらが放散虫やコノドントといった中期三畳紀の主要な遠洋性・外洋性生物の多様化につながった可能性が示唆されている.そこで本研究では, 中期三畳紀の湿潤化イベントに対する放散虫およびコノドントの群集組成の変化を調べるために, 岐阜県坂祝町に分布する美濃帯の中部三畳系層状チャート(セクションO:Sugiyama, 1997)を対象に放散虫, コノドント化石層序と化学層序を検討した.セクションOの層状チャートは,パンサラッサ海赤道域の深海底堆積物と考えられている.セクション全体の層厚は,約21 mである.採取した試料は,層状チャートの珪質部(チャート)65試料と,頁岩部の43試料である.化学層序については,頁岩部の試料を用いて蛍光X線分析(XRF)を行い,主要・微量元素濃度について測定した. 本研究の結果,セクションOからはTR-2C帯(Triassocampe deweveri帯)からTR-5A帯(Capnuchosphaera帯)までの6つの放散虫化石帯が認められた.これらの放散虫化石帯が示す年代は,後期アニシアンから前期カーニアンに比較される.また, 前期ラディニアン(ファッサニアン)から後期ラディニアン(ロンゴバルディアン)にかけて,顕著な放散虫化石群集の変化が確認された.岩相層序からは,この放散虫群集の変化は, セクションOの基底から10.5 mに位置する厚い頁岩層(4 cm厚)付近で発生したと考えられる. この頁岩層を境にして, Muelleritortis noblisからMuelleritortis cochleataへの棘(spine)の形態変化および,Tritortis integritaからTritortis kretaensisへの形態変化が特徴的にみられた。 化学層序を検討した結果, 調査区間では顕著な海洋酸化還元状態の変化は見られなかった.一方, コノドントや魚類などの海洋性脊椎動物に由来すると考えられる生物起源アパタイトの濃度が, 前期ラディニアン/後期ラディニアン境界を越えて増加した. さらに, WやCIA(Chemical Index of Alteration)などの大陸風化指標(Nesbitt et al., 1982 ; Ohta et al., 2007)は, 後背地の化学風化が後期ラディニアンに強まったことを示唆する. 以上の結果は,後期ラディニアンの湿潤化イベントが,パンサラッサ海の海洋性脊椎動物の生産性の増加と放散虫の群集変化のきっかけとなった可能性を示唆する. 今後はそれらの因果関係について,詳細な検討を進める必要がある.引用文献 ・Nesbitt, H.W., Young, G.M., 1982, Nature, 299, 715-717 ・Ohta, T., Arai, H., 2007, Chemical Geology, 240, 280-297 ・Sugiyama, K., 1997, Bulletin of the Mizunami Fossil Mus., 24, 79-193

  • 松岡 篤, 木元 克典
    セッションID: T12-O-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    放散虫が内骨格として形成する生物源シリカはオパールA(アモルファスシリカ)からなる。オパールAは地層中でオパールCTをへて、最終的には石英へと変化する。この続成作用による相転移に関係して、放散虫骨格の保存状態が変化することが知られている。一般に、続成作用の進行とともに保存状態が劣化する。熱による変成作用が加わると骨格を構成する石英の粒度が大きくなり、さらに保存状況が悪化し、同定が困難あるいは不能となる。放散虫骨格のシリカ相の変化は、放散虫の群集組成にも影響を与え、その組成変化からもたらされる古環境解析の結果へも影響がある。しかしながら、放散虫骨格のタフォノミーについての研究例は多くはない。  X線マイクロCT技術は、放散虫骨格の形状を明らかにするうえで画期的な方法である。3Dプリンターを使って模型を作成することにより、手のひらに載るサイズの標本を作成することができる。このことにより、大型化石の研究と同様に、目視で形状の特徴を認識できるようになった(Matsuoka et al., 2012)。このように放散虫骨格の形態解析の手法としてX線マイクロCT技術を適用してきたが、本研究では骨格の物性についての情報を得ることによりタフォノミー解明に資する新たな手法を見出したので報告する。 X線マイクロCTにより得られた透過強度には、放散虫骨格の密度の情報が含まれている。現生放散虫および化石放散虫の骨格について、系統的に透過強度を測定したところ、シリカ相変化に対応する強度の違いが明らかになった。この強度の違いは骨格を構成するシリカの相対密度を示しているとみなされる。本手法では相対密度を定量的に表現できるだけではなく、密度の空間分布も認識できるところが優位な点としてあげられる。なお、本手法は放散虫の骨格のみならず、ケイソウやカイメンなど生物源シリカの殻・骨格の密度測定にも適用可能である。 文献:Matsuoka, A. et al., 2012. Exact number of pore frames and their configuration in the Mesozoic radiolarian Pantanellium: An application of X-ray micro-CT and layered manufacturing technology to micropaleontology. Marine Micropaleontology, 88-89.

  • 尾上 哲治, 冨松 由希, 堀 早紀子, リゴ マニュエル
    セッションID: T12-O-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    中・古生代の時代決定に重要な放散虫は,ケイ酸質な骨格をもつ海生動物プランクトンであり,石英を主体とした硬く緻密な堆積岩である層状チャート中に含まれる.層状チャートからの放散虫化石の抽出には,従来フッ化水素酸(HF)を用いた処理法(林, 1968)が用いられてきた.放散虫と同様に,コノドントも5〜15%HF溶液を用いて層状チャートから抽出されてきた(林, 1969).しかし,HF溶液は,どのような濃度であっても毒物に指定されるため,処理は必ず高排気量のドラフト内で行う必要があり,薬品上・健康上の問題も多い.そこで本研究では,HF溶液を用いる方法より,安全且つ効率的に放散虫・コノドント化石を層状チャート中から抽出する方法について検討を進めた.シリカは高pH溶液に高い溶解性を示すことが知られている. 例えば,水酸化ナトリウム(NaOH)溶液は, 珪藻土や放散虫軟泥中の生物源オパールの溶解実験にしばしば利用されてきた.一方,珪酸塩鉱物を用いた実験からは,NaOH溶液による溶解反応は,室温ではほとんど進行しないことが示されている(Choquette et al., 1991).しかし,石英に対するNaOH溶液の溶解度は,温度の上昇とともに著しく増加する.そのため本研究では,NaOH水溶液を用いて層状チャートの溶解実験および微化石の抽出実験を行った.本研究では,美濃帯犬山地域の三畳紀およびジュラ紀の赤色層状チャートを用いて溶解実験を行った.実験に用いる粉末試料は4.0 g, 溶液は40 mlに統一し,濃度は 1-4 mol/L,温度は 60-100℃,時間は 1-5時間という条件で進めた.これらの条件で溶解実験を行った後,中和・乾燥を経て,残さ試料の電子顕微鏡(SEM)観察,質量の測定,X 線回析分析(XRD), 蛍光X 線分析(XRF)を行い,NaOH 溶液が層状チャート試料に与える影響を調べた.減量測定の結果からは,NaOH水溶液の濃度が高く,温度が高いほど,溶解後のチャートの減少量は大きいことが明らかになった.特に100℃で加熱した場合は,どの濃度でも減少量が大きかったのに対し,80℃や60℃では,濃度に関わらず減少量が少なかった.XRDやXRF分析の結果からは,NaOHは粘土鉱物(イライト等)よりも石英を効果的に溶解していることが明らかになった.また本研究では,1 mol/lの低濃度であっても,保存状態の良好な放散虫やコノドント化石を層状チャートから抽出することができた(Rigo et al., in press).1 mol/lのNaOH溶液は,劇物にも指定されないため取り扱いが容易である.また低コストでもあることから,従来のHF 溶液を用いた方法よりも安全で効率的な微化石抽出法であると結論づけられる.引用文献Choquette, M., Berube, M.-A., Locat, J., 1991. Behavior of common rock-forming minerals in a strongly basic NaOH solution. The Canadian Mineralogist 29, 163-173; 林信悟, 1968, 栃木県葛生町のあど山層から産出したコノドントについて.地球科学,22, 63-77; 林信悟, 1969. HF法によるコノドントの抽出. 化石研究会会誌, 2, 1-9; Rigo, M., Onoue, T., Wu, Q., Tomimatsu, Y., Santello, L., Du, Y., Jin, X., Bertinelli, A. 2023. A new method for extracting conodonts and radiolarians from chert with NaOH solution. Palaeontology, in press.

  • 早川 万穂, 中村 英人, 池田 雅志, 沢田 健, 高嶋 礼詩, 西 弘嗣
    セッションID: T12-O-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    堆積岩中の有機物、特に有機質微化石の色は、堆積岩の熟成度により変化する。これを利用した熟成度指標として、有機質微化石の色の変化を目視によって評価する指標Thermal Alteration Index (TAI; [1]) や、有機質微化石の明度を定量的に評価する指標 Palynomorph Darkness Index (PDI; [2]) が開発され、応用されてきた。有機質微化石の色や明度は、熟成度のほか微化石の壁の厚みや組成、構造により変化することが知られており、熟成度指標として利用する際には、同系統かつ膜の厚みが同程度で装飾の少ない微化石を選んで分析を行い、試料間の比較に用いることとされる。すなわち、同一の堆積岩試料中に見られる微化石の色や明度の多様性には、有機質微化石の膜構造や組成、有機質微化石が被った続成変化の違いなどの多様な情報が反映されている可能性がある。そこで、本研究では、花粉・胞子化石の色から熱熟成度以外の古生物学的・地質学的情報を抽出することを目的に、熱熟成度が同等の堆積岩試料中の花粉・胞子化石の明度および色相を定量的に比較し、それらの関係から、色の変化の要因を考察した。Takashima et al. (2019)[3] で採取された北海道苫前地域古丹別川沿いに分布する上部白亜系蝦夷層群羽幌川層の Coniacian 期の泥岩から酸処理・アルカリ処理によって花粉・胞子化石を分離し、花粉・胞子化石を鑑定した。花粉・胞子化石の画像の取得と花粉・胞子壁の厚さの測定には、オリンパス生物顕微鏡CX-43、顕微鏡用カメラBig Eye KP10000および撮影ソフトRisingViewを用い、取得した花粉・胞子化石の画像のうち、花粉・胞子壁の折れ込みなどがない部分を選び、Digital Color Meter (Apple Inc.) により色情報(RGB値)を取得した。RGB値をもとに、有機質微化石の明度を示すPDIと、明度と独立した色情報として色相 (hue) を算出し、花粉・胞子粒子のそれぞれの値を比較した。PDIと色相の間にはよい相関が見られ (R2 = 0.8768, n = 31)、明度が高い (PDIが低い) 花粉・胞子化石ほど黄色に、明度が低い (PDIが高い) 花粉・胞子化石ほど赤色に近づく関係が示された。さらに、花粉と胞子の比較では、花粉化石は明るく黄色い領域(低PDI、高hue)に、胞子化石は暗く赤い領域(高PDI、低hue)に分布する傾向を示した。熱熟成度が同等の堆積岩中の花粉・胞子化石にPDIおよびhueの違いをもたらす要因として、1) 形態(花粉・胞子壁の厚さ)の違い、2) 続成過程の違い、3) 花粉・胞子壁を構成する成分の違いが考えられる。1) に関して、花粉・胞子壁の厚みが増すほど暗く赤くなる弱い傾向 (thickness vs PDI: R2 = 0.28, thickness vs hue, R2 =0.22) が認められるものの、花粉や胞子のPDIとhueの大幅な差異は厚みの違いのみで説明することはできない。2) に関して、風媒の花粉は飛散により堆積場近傍まで運搬され得る一方で、胞子は主に流水により運搬され、蝦夷層群の堆積場に到達するまでにより重度の初期続成作用を被った可能性があり、これが胞子化石のPDIが高く赤い色相を示す要因となった可能性がある。ただし、胞子同様の運搬経路を経た花粉が存在しないとは考えにくく、現時点での予察データにおいて暗く赤い色相を示す花粉化石がないことが説明できない。3) については、花粉・胞子壁を構成するスポロポレニンの成分が花粉と胞子で系統的に異なることが報告されており [4]、この差異が熱熟成や初期続成作用を受けた際のPDI・色相の変化の程度に違いを生じさせている可能性が考えられる。[1]Staplin, F.L., 1969. Bull. Can. Pet. Geol., 17 47–66.[2]Goodhue, R. and Clayton, G., 2010, Palynology, 34 (2) 147–156[3]Takashima, R. et al., 2019, Newsl. Stratigr., 52 (3) 341-376[4]Xue, J. et al., 2020, Mol. Plant., 13 (11) 1644-1653

  • 池田 雅志, 沢田 健, 安藤 卓人, 中村 英人, 高嶋 礼詩, 西 弘嗣
    セッションID: T12-O-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    [はじめに] “超温室期”であったといわれている中期白亜紀には、海洋無酸素事変(OAE)と呼ばれる大きな環境擾乱イベントが複数回発生したことが知られている (Takashima et al., 2006 など)。OAE期には海洋表層の成層化や基礎生産の増大が発生し、無酸素水塊の発達、大量の有機物が海底に沈積したと考えられている。この大きな炭素循環の変動は陸上環境にも大きな影響をもたらした可能性が示唆されてきたが、OAE期における詳細な陸上植生の変動を報告した例は限られてきた (Boudinot & Sepúlveda, 2020; Heimhofer et al, 2018)。本講演では苫前地域大曲沢川に分布する上部白亜系蝦夷層群佐久層、および北米カリフォルニア州北部North Fork Cottonwood Creek(NFCC)に分布するGreat Valley Sequence, Budden Canyon Formationに分布するCenomanian-Turonian境界期(CTB)の堆積岩に含まれる有機物から炭素同位体比変動と植生変動を復元・対比し、OAE2期における両地域の陸上植生への影響とその差異を議論する。[試料と方法] 試料には北海道苫前地域大曲沢川に分布する上部白亜系蝦夷層群佐久層、およびアメリカ・カリフォルニア州北部 North Fork Cottonwood Creek に分布する Great Valley Sequence, Budden Canyon Formation の CTB の堆積岩に含まれる有機物から、陸上植生の挙動を調べた。CTB では環境擾乱イベントである OAE2 が発生したことが知られており、各サイトにおける OAE2 の区分 (1st build-up, Trough, 2nd build-up, Plateau, Recovery) は木片の δ13C 値から決定した。バイオマーカー分析は粉砕した泥岩試料を有機溶媒で抽出し、GC-MSを用いて分析した。[結果と考察] 両サイトにおいて、環境擾乱期 (1st build-up~2nd build-up) に針葉樹の植生変動を示す Higher Plant Parameter (HPP; van Aarssen et al., 2000)の激しい変動が記録されており、炭素循環の強い摂動に対して針葉樹種が鋭敏に反応したことが示唆された。一方で、各サイトにおいて HPP の変動が同調的ではない時期も見られた。例えば、大曲沢セクションでは 2nd build-up 終盤に針葉樹の拡大がみられるが、NFCCでは中盤に一時的な拡大がみられた。燃焼起源多環芳香族化合物を用いた火災の頻度を示す指標からは、両サイトにおいて 2nd build-up 終盤に火災頻度の増加がみられることから、これらの違いは気候変動のずれではなく、後背地の植生タイプに起因する植生応答の違いが大きく影響していることが考察された。両サイトにおいて、高等植物起源のテルペノイド組成は大きく異なっており、大曲沢セクションにおいては被子植物起源のトリテルペノイドが卓越することから被子植物が優勢な植生、NFCCセクションでは高等植物に普遍的に含まれるセスキテルペノイドの割合が高いことから典型的なジテルペンやトリテルペン生産者である針葉樹類や被子植物以外の分類群(例えばシダ植物など)が優勢な植生であったことが示唆され、この植生タイプの結果は、花粉分析および気候シミュレーションを用いた植生区分の先行研究 (Sewall et al., 2007) とも調和的であった。前者ではOAE2の環境擾乱が被子植物優勢の植生の中で針葉樹林の拡大に有利にはたらき、後者では種子植物以外の維管束植物が優勢な植生の中で被子植物や針葉樹の一時的な拡大に有利にはたらいたことが示唆された。[引用文献] Boudinot, F.G. & Sepúlveda, J., 2020. Nature Geoscience, 13, 693–698. Heimhofer, U. et al., 2018. Nature Communications, 9. 3832. Sewall, J.O. et al., 2007. Climate of the Past, 3, 647–657. Takashima, R. et al., 2006. Oceanography, 19, 82–92. van Aarssen, B.G. et al., 2000. Geochimica et Cosmochimica Acta, 64, 1417–1424.

  • 藤野 滋弘, 前田 晴良
    セッションID: T12-O-8
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    火山噴火などと同様に,津波には高頻度で発生する比較的小規模なものもあれば,低頻度ながら非常に規模の大きなものもある.例外的に規模の大きな津波は低頻度であるがゆえに人類が経験したことがないか,または経験していたとしても記録を残していない.一方,地球表層で起きた事象の記録媒体である堆積岩には,しばしば大規模津波によってできた堆積物が残されている. 講演者らは以前,岩手県下閉伊郡田野畑村の下部白亜系宮古層群から海底津波堆積物を報告した(Fujino et al., 2006).津波堆積物が報告された田野畑地域から現在の水平距離にして約15 km南に位置する宮古市田老でも新たに津波堆積物の露頭を発見した.この新たに発見された堆積物は,岩相層序学的に田野畑地域の津波堆積物と同層準に位置しており,高領域の流れでできた堆積構造を持ち,下位の砂岩層の偽礫を含む.層厚は1.5–5.5 mで,露頭で観察できる範囲だけでも下位の砂岩層を約4 m侵食している.Fujino et al. (2006) によってすでに報告されていた田野畑地域においても津波堆積物の層厚は2.3–9.5 mで,下位の堆積物を1.5 m以上侵食していた. 東北地方太平洋沖地震津波など近年発生した海溝型地震津波の場合,地形的狭窄部や人工物周辺などの一部を除き海底における侵食の深さと津波堆積物の層厚はどちらも数十cmから1 m程度であった(e.g. Yoshikawa et al., 2015; 横山ほか, 2021).宮古層群の津波堆積物の層厚と侵食の程度は海溝型地震津波の事例をはるかに上回っている.一方,K/Pg境界の津波堆積物のように,天体衝突や巨大海底地滑りなどに伴って発生した地質時代の中でも例外的に大きな津波の堆積物には層厚や侵食の程度が宮古層群の津波堆積物に比較できる事例がしばしばある.また,砂岩層の偽礫の存在は,この津波が下位の地層を深く侵食したことを暗示している.下位層からもたらされた砂岩の偽礫もまたK/Pg境界の津波など地質時代の巨大津波の堆積物から見つかっている. 層厚や侵食の程度を考えると,宮古層群で堆積物が見つかった津波は百年から数百年程度の間隔で発生する海溝型地震津波に比べてずっと規模が大きかったと考えられる.そのため津波の波源となった現象もまた地質時代の中で例外的に大きな現象であった可能性が高い.宮古層群におけるアンモナイト生層序の結果は,津波堆積物の層準から50–100m上位にAptian/Albian境界があることを示している(Obata and Matsukawa, 2018).宮古層群は主に浅海底の堆積物で構成されており,堆積速度は比較的早かったと考えられる.したがって津波堆積物の時代はlate Aptianと考えて問題ないだろう.宮古層群分布域から現在の水平距離にして約400 km北に位置する蝦夷層群中には,層厚100–500 mで数十kmにわたって分布する崕山オリストストロームがあることが知られている(e.g. Takashima et al., 2004).崕山オリストストロームに含まれる石灰岩オリストリスは陸棚上で堆積したものと考えられており,宮古層群内の“オルビトリナ砂岩”と同じ化石群を含んでいる (Sano, 1995; Takashima et al., 2007).浮遊性有孔虫生層序の結果は,崕山オリストストロームの形成がAptian/Albian境界前後であることを示している(Nishi et al., 2003; Takashima et al., 2004).山体崩壊や大規模海底地滑りによって波高が100 mを超える津波が発生した事例は複数知られている.宮古層群で見つかった津波の波源として,崕山オリストストロームの形成は現時点で最も有力な候補ということができる. Fujino et al., 2006. Sediment. Geol., 187,127–138. Nishi et al., 2003. Jour. Asian Earth Sci., 21, 867–886.Obata and Matsukawa, 2018. Cretaceous.Res., 88: 227–272.Sano, 1995. Sediment. Geol., 99, 179–189.Takashima et al., 2004. Cretaceous Res., 25, 365–390.Takashima et al., 2007. J. Geol. Soc., 164, 333–339.横山ほか, 2021. 堆積学研究. 79, 47–69.Yoshikawa et al., 2015. Geo-Mar. Lett., 35, 315–328.

  • 固本 悠杜, 中村 英人, 沢田 健
    セッションID: T12-O-9
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    ソテツ類は石炭紀後期に出現した裸子植物の分類群で、シダ植物、針葉樹類、ベネチテス類とともに中生代に繁栄した。しかし、絶滅ソテツ類の地質時代を通じた多様性変動・植生史は、その知名度と長い歴史、潜在的な古環境学的・生態学的な重要性に比して、十分に解明されたとは言いがたい。その背景には、ソテツ類化石のほとんどは栄養器官で、系統学的情報に富む生殖器官の化石記録が乏しく、類似した葉形態をもつベネチテス類との判別にもクチクラの保存を要する場合があること。また、ソテツ類、ベネチテス類、イチョウ類の花粉形態が類似し、光学顕微鏡での判別が困難な場合が多いこと (Hill, 1990)等の問題がある。本研究では、地質学的記録からソテツ類を含む古植生情報を解読するための有機地球化学的手法の開発に向けて、絶滅ソテツ類の化学分類学的特徴を明らかにすることを目的に、蝦夷層群函淵層産絶滅ソテツ類化石のバイオマーカー分析を行った。 北海道むかわ町穂別富内の鵡川沿いに分布する蝦夷層群函淵層の植物化石多産層準の葉化石を含む堆積岩を採取した。葉化石の多くは、葉軸の上に跨る平行脈を持つことや、葉脈密度、葉の外形などの形態学的特徴から、ソテツ類ソテツ目ニルソニア属(Nilssonia spp.)と同定された。ニルソニア属の葉化石のうち、炭質部がよく保存された4試料について、炭質部を含む化石表面を切削した粉末(化石試料)と、各葉化石を含む堆積岩試料の基質部分の粉末(母岩試料)をそれぞれ有機溶媒で抽出し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで分画した後、脂肪族及び芳香族炭化水素画分をガスクロマトグラフ質量分析計で測定し、バイオマーカーの同定と定量を行った。脂肪族炭化水素画分のn-アルカン組成やホパン、ステラン組成に基づく熟成度指標から、一連の試料中の有機物が未熟成であることが示唆された。化石試料の芳香族画分からは、カダレン等のセスキテルペノイド、アビエタン型のジテルペノイド、オレアナン型又はウルサン型のトリテルペノイドが検出された。テルペノイド濃度はほとんどの成分について化石試料が母岩試料を上回ったが、全ての成分がニルソニア属化石の生体に由来するとは限らない。化石試料と母岩試料から検出されたテルペノイド組成の比較により、ニルソニア属化石はカダレンに代表されるセスキテルペノイドに乏しく、堆積物中に見られるセスキテルペノイドの主要な供給源ではなかったと考えられる。一方で、裸子植物の中でも典型的に針葉樹類に豊富に含まれるアビエタン型のジテルペノイドとして、シモネライト、デヒドロアビエタン、レテンが検出された。また、これらのジテルペノイドのピークと前後して、4種のライブラリ未収録化合物が検出され、うち2種の化合物はニルソニア属化石試料で母岩試料より高い割合で含まれたことから、絶滅ソテツ類ニルソニア属の生体成分に由来する分子化石である可能性がある。マススペクトルの特徴から、これらの化合物はアビエタン型または類似のフラグメントパターンを持つ芳香族ジテルペノイドであると推定された。一方で、被子植物由来とされるオレアナン型やウルサン型のトリテルペノイドは、母岩試料で化石試料より高い割合で検出されたことから、ニルソニア属化石に自生の成分ではなく、被子植物由来の成分がニルソニア葉化石に吸着した、または化石試料の切削時に部分的に混入したことを示すと考えられる。植物化石多産層準では巨視的にはニルソニア化石が卓越するが、未同定の被子植物葉化石も産出する。母岩の分析結果から、母岩基質中には被子植物の葉の断片や、被子植物成分を吸着した鉱物粒子が豊富に含まれることが推察された。 多様な絶滅分類群が繁栄した地質時代における分子化石相の解読には、形態学的にも有機地球化学的にも保存のよい植物化石の分析による古化学分類学的な検討が不可欠である。本研究の結果、ニルソニア属が白亜紀の陸上植生において、特有の組成を持つジテルペノイドの生産種であった可能性が示唆された。今後、検出された分子化石候補分子の構造決定と分子化石ライブラリ(Nakamura 2019)への登録を進め、多様な植物化石・堆積岩試料における分布を確かめることで、その起源指標性の理解が深まると期待される。 引用文献・Hill, 1990, Rev. Palaeobot. Palynol., 65, 165-173. ・Nakamura, 2019, Res. Org. Geochem., 35, 11-35.

  • 【ハイライト講演】
    千葉 謙太郎, 実吉 玄貴, 青木 一勝
    セッションID: T12-O-10
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    モンゴル・ゴビ砂漠に分布する上部白亜系からは数多くの陸上脊椎動物化石が発見されている.特に恐竜類に代表される脊椎動物化石群は,世界でも有数の保存状態と量を誇り,様々な陸生動物の生理・生態,進化の理解に極めて重要な役割を果たしてきた.これらの豊富な化石産地は,東西約1000 km,南北約400 kmにわたってゴビ砂漠に散在しているが,各産地に露出する地層の層厚は非常に薄く,また,年代決定に有用な微化石を含む海成層や絶対年代の測定対象となる鉱物を含む火山灰層も挟在されない.このため,モンゴル上部白亜系の年代層序に統一的な見解が得られておらず,そこに含まれる脊椎動物相の時間的変遷に対する議論を困難にしている.そこで,岡山理科大学–モンゴル科学アカデミー古生物学研究所の合同調査隊では,2015年より上部白亜系バインシレ層,ジャドフタ層,ネメグト層の分布する多くの化石産地にて地質・発掘調査を行ってきた.さらに,現地調査で得られたカリーチや恐竜類の歯化石を用いた絶対年代決定を行うことで,モンゴル上部白亜系の年代層序の確立とそこに含まれる脊椎動物相の時空間的変遷を明らかにすることを目指している. これまでの研究により,モンゴルに分布する上部白亜系の堆積年代はカリーチや歯化石の絶対年代決定により制約できる可能性が見出されている.バインシレ層より採取されたカリーチのカルサイトU-Pb年代測定からは,95.9 ± 6.0 Ma,89.6 ± 4.0 Maとの年代値が得られており,同層に含まれる玄武岩のK-Ar年代や北米産淡水性軟体動物化石との比較から想定される相対年代と調和的である(Kurumada et al. 2020).また,ネメグト層から産出したティラノサウルス科タルボサウルスの歯化石を用いて行ったアパタイトU-Pb年代測定からは,66.7 ± 2.5 Maとの年代値が得られており,同層から産出する淡水性軟体動物化石や恐竜類,特に北米からも発見されている大型植物食恐竜サウロロフスから想定される年代と整合的である(Tanabe et al., 2023).以上の結果から,今後,現地調査とカリーチや歯化石のU-Pb年代測定を継続的に行い,対象範囲を拡大していくことで,モンゴル・ゴビ砂漠に分布する各化石産地の時間的な分布を明らかにできる可能性が高い.  また,年代を測定したバインシレ層産カリーチとほぼ同層準から,小型脊椎動物化石を比較的高密度で多産する層準が,本研究チームによって複数発見されている.この化石群集には,これまでバインシレ層からほとんど報告のなかった魚類,哺乳類,有鱗類爬虫類などの標本が多く含まれている.この時代,被子植物が多様性を増加させ,それにともない昆虫や哺乳類,爬虫類なども多様性を増加させたとするCretaceous Terrestrial Revolution(KTR)と呼称される陸上生態系の変遷が起きていたと考えられている.この時期の化石記録は全球的に限られているため,前述した化石群集に対する分類学的検討をすすめることで,アジア内陸部におけるKTR期の脊椎動物相の理解に大きく貢献できるだろう.  近年のモンゴル上部白亜系の地質学的研究と,本研究グループの堆積学的・年代学的検討から,モンゴルの上部白亜系は,後期白亜紀(100.5 ­– 66.0 Ma)のほぼ全期間にわたる化石記録を比較的連続的に保存している.さらに,河川成層を主体とする下位のバインシレ層や上位のネメグト層は,その間に存在するジャドフタ層やバルンゴヨット層などの風成層を主体とする層準と,一部が同時異層関係にあることから,モンゴルの上部白亜系は,大陸内陸部における湿潤から乾燥までの多様な環境とそこに生息する脊椎動物相の変遷史を記録した貴重な地質学的遺産である.後期白亜紀は,前述のKTRや白亜紀末大量絶滅イベントなど,陸上生態系の変遷において非常に重要なイベントが起きている.現在,後期白亜紀の陸上における脊椎生物相の変遷の理解はほとんどが北米の地層と化石記録に基づいているが,内陸部という特殊な環境を記録しているモンゴル上部白亜系とそこに含まれる化石標本群の検討から,後期白亜紀における重要なマクロ進化的イベントへ対するより多面的な理解に寄与することができるだろう.引用文献:Kurumada et al., 2020. Terra Nova, doi.org/10.1111/ter.12456; Tanabe et al., 2023. Island Arc, doi.org/10.1111/iar.12488.

  • 半田 直人, 樽 創
    セッションID: T12-O-11
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    本邦における中新世哺乳類化石は前期中新世の記録が多数知られるものの、中期~後期中新世のそれらは著しく乏しい。このことは中新世に生じた日本海拡大による堆積場の変遷や火山活動など、様々な要因が影響すると考えられている (例えばTomida et al., 2013)。いずれにせよ限られた化石記録に対してより確からしい評価をもってそのような議論を行う必要がある。サイ科化石に関しては、後期中新世堆積物から3例の報告があり、このうち神奈川県大磯町に露出する上部中新統大磯層から Brachypotherium sp. が記載されている (Zin Maung Maung Thein et al., 2009)。 近年、サイ科化石に対する分類体系が再考されており、それによればアジアにおける Brachypotherium 属の産出記録が疑問視されつつある (例えばHanda et al., 2021)。そこで本講演で上記の標本に対する分類を再検討する。検討に当たって、ユーラシアおよびアフリカから産出した Brachypotherium 属8種と比較し、KPM-NNV 50の分類群を再同定した。 KPM-NNV 50は上顎臼歯の破片3点からなり、歯冠は著しく咬耗している。観察の結果、以下のような形質が認められた;白色の歯冠セメント、発達の弱いpraracone fold、伸長したcrochet、cristaおよびcristellaの発達、antecrochet、くびれのあるprotocone。これらのうち、antecrochetおよびparaconeの発達程度は Brachypotherium 属と類似する。一方で比較した Brachypotherium 属各種において歯冠セメントは認められず、またcristellaは発達していなかった。crochetの発達は類似するものの、Brachypotheium 属の場合は臼歯が咬耗するとcrochetは短縮していた。以上の結果から、KPM-NNV 50を Brachypotherium 属に同定できる明確な形質が認められなかった。サイ族の臼歯にprotoconeのくびれは未発達であることから、KPM-NNV 50はこれと区別される。一方、くびれたprotoconeや歯冠セメントは、その発達程度はさまざまであるが、アセラテリウム族やエラスモテリウム族の種にも認められる形質である (例えばAntoine, 2002)。エラスモテリウム族の場合、後期中新世の種はその臼歯に著しいエナメル褶曲を呈するが (Antoine, 2002)、KPM-NNV 50にはその特徴が発達しない。Zin Maung Maung Thein et al. (2009) でアセラテリウム族の種と比較しているが、その過程で検討しているprotoconeのくびれの程度は、咬耗段階によって変化しやすい形質である。上記で観察した形質のうち、antecrochet、crista、および発達の弱いparacone foldはアセラテリウム族にも認められる。伸長したcrochet、cristaの発達は中国南部の上部中新統から産出するアセラテリウム族の一種、Acerorhinus yuanmouensis にも認められる (Lu, 2013)。したがってKPM-NNV 50はアセラテリウム族の可能性があり、とくにAcerorhinus属との比較が今後必要である。引用文献: Antoine, P.-O. (2002) Mémoires du Muséum National d’Histoire Naturelle, 188, 1–359.; Handa, N. et al. (2021) Historical Biology, 33, 1642–1660; Lu, X. (2013) Geobios, 46, 539–548; Tomida, Y. et al. (2013) Fossil Mammals of Asia, 314–333; Zin Maung Maung Thein et al. (2009) Paleontological Research, 13, 207–210.

  • 吉丸 慧, 清川 昌一, 伊藤 孝, 堀江 憲路, 竹原 真美, テテ ジョージ M., ニャメ フランク K.
    セッションID: T12-O-12
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    西アフリカに分布するビリミアン超層群は約23-20億年前に形成され,大気酸素濃度上昇イベントの過渡期にあたると考えられる.我々は当時の海底堆積物を保存するアシャンチ帯ケープスリーポイント(以下,CTP)地域に注目して岩相層序の復元と堆積年代の制約を行った. アシャンチ帯は海洋性島弧起源の塩基性-中性の火山岩・火山砕屑岩(ビリミアン火山岩系:約2.17Ga以前),浅海堆積物(タルクワ系:約2.10-2.09Ga),TTG型花崗岩類(約2.17Ga)で構成される1,2.本地質帯は始原的な海洋性島弧環境(2.2Ga以前)から,エボニアン造山運動(2.2-2.1Ga)を経ており,緑色片岩相,また一部で角閃岩相の変成作用を被っている1. 本研究対象地域のアシャンチ帯南部海岸線CTP地域には,上記のビリミアン岩系に属する火山岩・火山砕屑岩および花崗岩類が露出する.特に連続性の良いビリミアン岩系の地層が,KutikeからAkwidaaまでの東西約4㎞のセクションで四か所確認され,それぞれから層序ユニットを復元し西から順にKu ユニット(350m),At-Wユニット(600m),At-Eユニット(850m),Ak ユニット(200m)とした.各層序ユニット内では東側上位で地層が分布する.【ユニット内の岩相】Kuユニットは,暗灰色‐暗緑色の火山砕屑物で構成される厚さ数十センチメートルの定調な混濁流堆積物が支配的である.細粒凝灰岩優勢層から細礫(稀に中礫)を含む粗粒凝灰岩優勢層へと上方粗粒化する.厚さ数㎝の特徴的な白色細粒凝灰岩層が頻繁に挟まれる.At-Wユニットは,Kuユニットの岩相と類似し,細粒凝灰岩優勢層と粗粒凝灰岩優勢層が繰り返し,薄い白色細粒凝灰岩層が挟まれる.At-Eユニットは層厚が厚い火山岩・粗粒凝灰岩の堆積により特徴づけられる.下部においては,玄武岩質溶岩層が粗粒凝灰岩優勢層に挟まれて産出する.この粗粒凝灰岩優勢層は明緑色から暗緑色へと色を変化させながら上方細粒化し,下部上位ではKu/At‐Wユニットに類似する岩相の薄い白色細粒凝灰岩層を挟む暗灰色‐暗緑色の細粒‐粗粒凝灰岩へと変化する.中部は,層厚がメートルスケールに及ぶ無構造の凝灰質火山砕屑岩層優勢部(厚さ10m以上)が上方細粒化するパターンを二回繰り返す.上部には斜交層理が発達する粗粒凝灰岩や,暗緑色の基質と緑灰色の円礫からなる礫質凝灰岩が堆積する.Akユニットは,下部には分厚く均質な粗粒凝灰岩層が堆積し,上部には黒色泥岩と火山灰層の薄層(1cm以下)が互層しており,下部から上部にかけて上方細粒化を示す.凝灰岩層は,短冊状斜長石を多く含み,砂サイズの石英を含む. 【U‐Pb年代】本地域では2カ所においてSHRIMPを用いたジルコンU-Pb年代測定を行った.At-Eユニットの火山砕屑岩中に貫入する小規模な石英斑岩からは,2265.6±4.6Ma(MSWD=0.95,n=48),Akwidaaユニット中の均質な粗粒凝灰岩層からは,2172.0±6.1Ma(MSWD=1.05,n=40),2172.6±8.8Ma(MSWD=1.07,n=35)という代が得られた.  At-Eユニットで貫入岩から得られた年代値により,堆積岩は約2265 Maよりも古い堆積年代を持つと考えられる.また,均質な粗粒凝灰岩層が挟まれるAkユニットの堆積年代は約2172 Maと推定される.これらの年代からAt-EユニットはAkユニットより約100 Ma古い可能性がある.【まとめ】ビリミアン超層群CTP地域の火山砕屑岩層は約22.7億年前から約21.7億年前に形成された.KuユニットからAt-Wユニットまでの火山砕屑岩層の特徴から,火山砕屑岩の層厚は最大でも1メートル程度で変化に乏しいため,定調な砕屑物流入が長期間継続する堆積環境だと考えられる.At-Eユニットでは,玄武岩質溶岩の産出や,層厚が10m以上ある凝灰質火山砕屑岩優勢部の複数回にわたる産出により示される通り,比較的急速な堆積を示す地層が多く含まれる.このことから,火山噴火による供給物質の増加が強く反映される堆積環境だと考えられる.Akユニットでは,急速な堆積が考えられる下部の特徴から,At-Eユニットに類似した堆積環境が考えられる.以上の堆積相の特徴からKu/At-Wユニットは,比較的深い水深の堆積場である海洋性島弧火山エプロンの末端部における堆積層であると考えられる.一方でAt-E/Akユニットは,比較的浅い水深の堆積場である海洋性島弧火山の供給源に近い火山エプロン中腹部における堆積層であると考えられる.1 Loh et al. (1999) GS of Ghana.2 Perrouty et al. (2012) PR.

  • 三堀 遼太, 牛久保 孝行, 清水 健二, 澤木 祐介, 小宮 剛
    セッションID: T12-O-13
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    太古代の堆積岩中の含硫黄鉱物の硫黄同位体組成が質量非依存同位体分別(S-MIF)のシグナルを有することは広く知られている1。この特異な同位体分別は酸素の乏しい大気中でのSO2ガスの光化学反応によって生じ、堆積物中に保存されると考えられている2。加えて太古代の大気化学のトレーサーとしてΔ33SとΔ36Sのバリエーションが注目されている。このバリエーションは強い負の相関を示し、Archean Reference Array (ARA)と呼ばれ、傾き(Δ36S/Δ33S)は典型的には-0.9に近い値をとるが3,4、新太古代において値が-1.5まで変動することが報告されており5、変動の要因としては有機ヘイズの形成やSO2分圧の変化が提案されている。したがって、Δ36S/Δ33Sは太古代における大気化学の変化を探る上で重要な指標であるが、原太古代(40~36億年前)の堆積岩中の含硫黄鉱物に対して局所4種硫黄同位体分析はこれまでに行われていない。本研究では、ヌリアック表成岩の硫化鉱物に対して局所4種硫黄同位体分析を行った。ヌリアック表成岩はカナダ、ラブラドル地域のサグレック岩体に存在し、ウラン-鉛年代測定より約39億年前の年代が与えられている6。堆積岩はチャート、BIF、炭酸塩岩、泥質岩、礫岩から成り、角閃岩相からグラニュライト相の変成作用を受けている。硫化鉱物は主に黄鉄鉱及び磁硫鉄鉱であり、黄鉄鉱は自形から半自形で磁鉄鉱のリムを有する一方、磁硫鉄鉱は不定形で磁鉄鉱のリムを有さない。これら硫化鉱物を対象として計78点の局所4種硫黄同位体分析を行った。分析にはJAMSTEC高知コア研究所のマルチコレクター型二次イオン質量分析計CAMECA IMS 1280HR を使用した。全試料のδ34Sは-3.47〜+31.60‰、Δ33Sは-1.45〜+1.14‰、Δ36Sは-1.68〜+1.92‰だった。チャート1試料(LAF0362)のみδ34S=+28.85〜+31.60‰という大きな正の値を有した。また同試料はΔ33S=-0.04~+0.01‰、Δ36S=-1.53~-0.79‰だった。岩相と同位体組成は顕著な相関を示し、LAF0362を除くチャートの多くはΔ33S<0, Δ36S>0だったのに対し、全ての炭酸塩岩はΔ33S>0, Δ36S<0だった。泥質岩はΔ33S,Δ36Sともに0に近い値をとった。また、BIFはΔ33S=+0.64〜+0.67‰、Δ36S=+0.03〜+0.19‰だった。チャートの同位体的特徴は、硫化鉱物の主な硫黄源が硫酸イオンであり、堆積場として想定される熱水環境下での硫酸還元を示す。一方、炭酸塩岩の同位体的特徴は、硫化鉱物の主な硫黄源が元素硫黄であり、堆積場として想定される浅海域での硫黄不均化反応を示す。LAF0362の特異な同位体的傾向は生物硫酸還元(MSR)による質量依存分別則からの偏差に見られ7、また大きな正のδ34S値はレイリー分別によって生じたと解釈されるため、同試料の硫化鉱物は閉鎖系におけるMSRによって生成された可能性がある。BIFにおいてはΔ33Sのみ正異常が確認され、光化学反応による生じるS-MIFの特徴と異なる。一方で有機物を還元剤とする熱化学的な硫酸還元は原理的にΔ33Sのみ異常が生じる8。したがって、BIFが堆積するような熱水環境下において有機物を消費する非生物的な硫酸還元が起きていた可能性がある。これら同位体的に特異な特徴を示すチャート1試料(LAF0362)とBIFを除いた試料群のΔ36S/Δ33Sは-1.308(R2=0.933)だった。これはARAの傾き-0.9と比べて顕著に低く、-1.5に近い。したがって、古太古代から新太古代の典型的な大気とは異なる特徴を原太古代の大気が有していたことが示唆される。1. Farquhar et al. Science 289, 756-758 (2000) 2. Pavlov and Kasting Astrobiology 2, 27-41 (2002) 3. Ono et al. South African Journal of Geology 109, 97-108 (2006) 4. Ueno et al. Geochim. Cosmochim. Acta 72, 5675-5691 (2008) 5. Zerkle et al. Nature Geoscience 5, 359-363 (2012) 6. Shimojo et al. Precambr. Res. 278, 218-243 (2016) 7. Ono et al. Geochim. Cosmochim. Acta 70, 2238-2252 (2006) 8. Oduro et al. PNAS 108, 17635-17638 (2011)

  • 小宮 剛
    セッションID: T12-O-14
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    真核生物の起源と進化は、地球生命進化の重要な問題とされる。特に、真核生物の進化は、多細胞生物・多細胞動物の出現と進化の前提・必須条件となるため、高等生物の存在に特徴づけられる地球を形作る上で欠かすことのできない最重要事象である。 真核生物はヒューロニアン全球凍結とそれに続く大酸化イベント(GOE)・オーバーシュート後に出現したとされ、多細胞真核生物、すなわち藻類は、原生代中期に出現したとされる。 特に前者は、化石記録では19億年前、分子時計では21億年前頃とされ、後者は化石記録では16.5億年前、分子時計では17~16億年前頃とされる。真核生物は好気呼吸をするため、従来の考えでは大気酸素濃度(pO2)は、原生代を通じ、好気呼吸の閾値(パスツール点)よりも高かったと考えられてきた(例:Kasting 93; Lyons et al. 14)。 しかし最近、それは見直されつつあり (Lyons et al. 21)、黒色頁岩のCr同位体の経年変化 (Planavsky et al. 18)や湖沼堆積岩の3種酸素同位体値 (Planavsky et al. 20;c.f. Liu et al. 21)から、オーバーシュート後の原生代前期や中期の酸素濃度はパスツール点以下であったことも示唆されている。 さらに、後生動物でさえも、パスツール点以下の条件で生存できることが示され、パスツール点自体にも議論がある (Mills & Canfield 14)。 一方、原生代のpO2が、(いくつかの時代で)高かったことが、炭酸塩鉱物のヨウ素含有量(例:Lu et al. 18)、黄鉄鉱中のSe/Co 比(例:Large et al. 19)及び炭酸塩岩、黒色頁岩および縞状鉄鉱層のCr同位体値(Canfield et al. 18)から示唆されてもいる。 本研究では、従来の原生代の大気酸素濃度の推定結果を整理するとともに、大気酸素濃度変動が生命進化を駆動したとする新しい生命進化モデルを提案する。 原生代を通じた 海洋の酸化還元度(pO2の指標となる)を推定するために、黒色頁岩の酸化還元鋭敏元素 (RSE) 含有量、炭酸塩岩のヨウ素含有量および炭酸塩岩の Cr 同位体比の経年変化をまとめた。特に、黒色頁岩のRSE 含有量は先行研究に比べて大幅にデータ数を増やし、より詳細に変動を推定できるようにした。それらのデータは海洋の酸化還元度が原生代を通して、細かに変動したことを示しており、特に、 酸化度は22、15および8 億年前に高く、17 と 12 億年前頃に低かったことを示唆する。一方、上述のように分子時計や化石記録は、真核生物、多細胞真核生物(藻類)およびアルベオラータの出現がそれぞれ21~19億年前、17~16億年前および12 億年前頃であったことを示唆しており(Strassert et al. 21; Baludikay et al. 16; Javaux & Lepot 18)、真核生物の出現は大気酸素濃度の高かった時期、一方多細胞真核生物(藻類)やアルベオラータの出現は大気酸素濃度の低い時期と一致する。 近年では、生物と地球の共進化は広く議論されており (例: Williams & Da Silva 03)、地球生命進化史において多くの事例が挙げられている。その一つとして、原生代においてpO2 の増加が真核生物を進化させたとする仮説が提案されている(例: Condie & Sloan 98)。 しかし、本研究は、地球環境進化と生命進化において、従来とは大きく異なる二つの新たなことを明らかにした。一つは原生代の大気酸素濃度は低い状態が続いたわけでも、単調に増加したのでもなく、非常に大きくかつ細かに変動していたこと、もう一つは真核生物の出現は高い大気酸素濃度期に、一方藻類やアルベオラータの出現は低い大気酸素濃度期に起きたことである。一般に真核生物の出現は大気酸素濃度の増加と調和的とされるが、前駆生物の生息環境を考えると、生物進化と環境の間には矛盾があるように思われる。つまり、真核生物と藻類・アルベオラータの前駆生物はそれぞれ嫌気性古細菌と好気性真核生物であり、それぞれ無酸素環境と有酸素環境を必要とする。私たちはこのような矛盾(危機)が生物進化を駆動したと考えている。つまり、真核生物の出現がミトコンドリアの獲得によるならば(Hampl et al. 19)、嫌気的環境を嗜好した前駆生物(嫌気性古細菌)は酸素濃度増大期を、酸素を消費するミトコンドリアの獲得によって乗り越え、藻類の前駆生物である葉緑体を持たない真核生物は、低酸素期に酸素発生生物を獲得することで、その危機を乗り越えたと考えられる。本研究ではこのように危機が生物進化を駆動したとする新たな仮説「危機進化仮説」を提案する。

  • 小松 俊文, 川島 大稀, 森 晃太郎, 児子 修司, 山田 敏弘, グエン ダック フォン, フン ザン ディン
    セッションID: T12-O-15
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    北部ベトナムハーザン省の北部には,下部〜中部デボン系のシーファイ層と上部デボン系~石炭系のトックタット層が分布している.本研究の主な調査地域は,Komatsu et al. (2018)で報告されたシーファイ峠(Si Phai Pass)地域とマーピーレン(Ma Pi Len)地域,シャウホー(Seo Ho)地域で,調査対象であるトックタット層の下部は,マールと石灰岩の薄互層,層状石灰岩,石灰角礫岩からなり,マーピーレン地域やシャウホー地域では珪質石灰岩と石灰岩,頁岩,チャートからなるシーファイ層をトックタット層が整合に覆っている. 本研究ではこれらの地域で地質調査を行い,コノドント生層序と安定炭素同位体比層序を明らかにした上で,フラニアン・ファメニアン境界(F-F境界)や5大大量絶滅の一つとして知られている上部・下部ケルワッサー事変層を特定することを研究の目的とした. これら3つの調査地域では,保存状態の良いコノドントやテンタキュリトイドが多産し,その他にオストラコーダや小型の腕足類などが産出した.シーファイ峠やシャウホー地域では,5属26種ほどのコノドント化石を同定して,国際的に用いられているPa. rhenana帯,Pa. linguiformis帯(フラニアン階最上部),Pa. triangularis帯(ファメニアン階最下部)を区分することができ,マーピーレン地域では,Pa. rhenana帯,Pa. linguiformis帯,Pa. delicatula帯を識別することができた.上部ケルワッサー事変に相当するフラニアン・ファメニアン境界は,Pa. linguiformis帯とPa. triangularis帯の境界あるいはPa. linguiformis帯とPa. delicatula帯の境界に相当する.なお,シャウホー地域では,Pa. rhenana帯を下部のPa. rhenana nasuta亜帯,上部のPa. rhenana rhenana亜帯の2つに,Pa. triangularis帯を下部のPa. triangularis亜帯と中部のPa. delicatula platys亜帯,上部のPa. minuta minuta亜帯の3つに区分する事ができた. ケルワッサー事変を含む層準では,安定炭素同位体比の顕著な正のシフトが報告されており,下部ケルワッサー事変はPa. rhenana帯の正のシフトと一致し,上部ケルワッサー事変はフラニアン・ファメニアン境界,すなわちPa. linguiformis帯とPa. triangularis帯の境界あるいはPa. linguiformis帯とPa. delicatula帯の境界で生じた正のシフトと一致する.これらの正のシフトは,シーファイ峠地域とマーピーレン地域で顕著であるが,シャウホー地域の下部ケルワッサー事変に相当する正のシフトは今後も検討する必要がある. ケルワッサー事変に伴って世界各地から報告されている黒色頁岩については,マーピーレン地域とシャウホー地域で確認されている.これらの黒色頁岩は,有機物に富み,平行葉理が発達しているが,層厚については地域差があり,シーファイ峠地域では有機物に富む黒色頁岩層を確認する事ができなかった.なお,シャウホー地域のPa. rhenana帯とこれよりも下位の層準では複数の黒色頁岩層が発達しており,ファルシオバリス事変などのイベントが記録されている可能性もある. テンタキュリトイドについては,HomoctenusStyliolina,Viriatellina,Nowakiaなどを中心とする6属7種を識別した.シーファイ層やトックタット層最下部のテンタキュリトイドは,一般的に厚さ数㎜~1㎝ほどの層状あるいはレンズ状の貝殻密集層(shell concentration)を形成している.このような貝殻密集層は,下部ケルワッサー事変層の4mほど下位の層準で見られなくなるが,HomoctenusStyliolinaなどのいくつかの種は,Pa. triangularis帯よりも上位のPa.crepida帯からも散在的に産出する.引用文献  Komatsu et al. (2018)Island Arc, e12281.

  • 佐藤 峰南, 石川 晃, Lowery Christopher, Gulick Sean, Morgan Joanna
    セッションID: T12-O-16
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    約6600万年前の白亜紀-古第三紀(K-Pg)境界における巨大天体衝突イベントは,メキシコ・ユカタン半島沖に直径約200 kmのChicxulubクレーターを形成した(Gulick et al., 2008).衝突した小惑星物質に含まれていたオスミウムが海洋中に放出されたことにより,衝突直後の約20万年間に堆積した遠洋性石灰岩中には負のオスミウム同位体異常(187Os/188Os)が記録されている(Ravizza and VonderHaar, 2012).衝突後の187Os/188Os比の回復は,時間スケールを制約する有用な指標となることが提案されているが,K-Pg境界における天体衝突後の187Os/188Os比変動を報告した例は遠洋域の3地点にとどまっている.そこで本研究では,IODP-ICDP第364次研究航海により採取されたChicxulubクレーター内掘削試料(Morgan et al., 2016)を用いて,衝突起源堆積物の上位に累重する古第三紀のミクライト質石灰岩に記録された強親鉄性元素濃度および187Os/188Os比変動を報告する. 強親鉄性元素濃度分析の結果,オスミウム濃度は石灰岩全体を通して上方に向かって緩やかに減少する.一方,イリジウム濃度は石灰岩の基底部で高い値を示し(~0.49 ppb; Goderis et al., 2021),その後急激に減少した後,ほぼ一定の低い値を示した.また対象試料中の強親鉄性元素濃度は,石灰岩の基底部を除き,全体としてイリジウムやルテニウムが著しく乏しい特徴を示すのに対し,白金やパラジウムに関しては比較的富む傾向にあり,地球起源の岩石と調和的なパターンを示すことが明らかとなった.これらの結果は,隕石物質の混入が衝突起源堆積物の最上部に限られることを示している. オスミウム同位体分析の結果からは,年代補正された187Os/188Os 比は石灰岩の基底部では低い値を示し(187Os/188Os ~0.19; Goderis et al., 2021),衝突後約250 万年かけて徐々に増加し定常状態(187Os/188Os ~0.45)へ回復することが明らかとなった.本研究の結果は,衝突後の低い同位体比(187Os/188Os ~0.17–0.2)から定常状態(187Os/188Os ~0.4−0.45)へと回復するという点で,先行研究により報告されている遠洋域の変動記録と一致する(Ravizza and Peucker-Ehrenbrink, 2003; Ravizza and VonderHaar, 2012).しかし,187Os/188Os比の回復時間は大きく異なり,Chicxulubクレーター内の187Os/188Os比は,少なくとも古第三紀最初期の約100万年間は,遠洋域よりも低い値を示すことが明らかとなった. Chicxulubクレーター内で187Os/188Os比の回復が遅れたメカニズムとして,(1)外洋からメキシコ湾への比較的高い187Os/188Os比の流入量が減少し,(2)ユカタン半島周辺に堆積した衝突由来の低い187Os/188Os比を持つ堆積物がメキシコ湾へ流入した可能性が挙げられる.K-Pg境界では,巨大天体の衝突によりメキシコ湾周辺に厚さ数100 mの津波堆積物が堆積したことが知られており(例えばScott et al., 2014),メキシコ湾周辺が衝突由来の堆積物で覆われたことにより,外洋からメキシコ湾への海水の流入量が著しく減少した可能性が高い.古第三紀を通じたメキシコ湾の海洋環境の変遷は,衝突地点周辺域における生態系の回復過程にも大きく関わっており,今後さらなるデータをもとに議論を深める必要がある.引用文献Goderis et al., 2021, Sci. Adv. 7, eabe3647.Gulick et al., 2008, Nat. Geosci. 1, 131-135.Morgan et al., 2016, Science 354, 878-882.Ravizza and Peucker-Ehrenbrink, 2003, Science 302, 1392-1395.Ravizza and VonderHaar, 2012, Paleoceanography 27, PA3219.Scott et al., 2014, GCAGS Journal 3, 41-50.

  • 【ハイライト講演】
    梶田 展人
    セッションID: T12-O-17
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    房総半島から関東平野にかけて分布する鮮新ー更新統(安房層群・上総層群・下総層群を中心とする)は、深海および浅海で堆積した陸源砕屑物と微化石を多く含む海洋堆積物から構成されている。これらの堆積年代は、テフラ対比、地磁気逆転境界、微化石層序によって制約されるほか、後期鮮新世以降に顕著になった氷床量変動に基づく酸素同位体比層序によって高精度に決定可能である。このような新しい時代の海底堆積物が、これほどの層厚にわたって連続的に露出しているのは、激しい変動帯である房総半島周辺以外には希少である。房総半島は黒潮の北限域に位置しており、過去の海洋環境を高時間解像度で復元することは、氷期間氷期サイクルをはじめとする地球規模のシステム変動を解明する重要な情報となる。これまでに発表されてきた古気候・古海洋学的な先行研究では、主に、有孔虫・石灰質ナノ化石・放散虫といった微化石の指標が主に用いられてきた。一方で私は、殆ど扱われてこなかった有機分子化石に注目している。特に、円石藻が合成する長鎖不飽和ケトン化合物(アルケノン)を用いた古水温復元法は、高い定量性が担保されており、円石藻の進化過程におけるバイアスも少ないことから、異なる時代の古水温を統一的な手法で比較できる優れた手法である。さらに、有機分子化石の指標は微化石に比べて分析に要する時間が短く、層厚3000mを超える房総の地層を網羅的に分析することも現実的に可能である。これまでの研究で、更新世における重要な間氷期(海洋酸素同位体比ステージ5,7,9,11,19,31)に該当する地層を中心に分析を行ってきた。今回の講演では、明らかになったアルケノン温度変動に対する解釈および、アルケノン温度復元法の課題について発表する。さらに、鮮新世の環境復元を含めた今後の研究展望について紹介する。

  • 竹内 美優, 岩谷 北斗, 天野 敦子, 入月 俊明, 有元 純, 鈴木 克明, 板木 拓也
    セッションID: T12-O-18
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【はじめに】紀伊水道は、瀬戸内海がフィリピン海と合流する海域にあたり、黒潮の動態やその流域の生物相や生物多様性の実態を解明するために重要な海域である。そこで、本研究は貝形虫をモデル生物として用い、紀伊水道における海洋生物相の時空間分布とその規制要因を明らかにすることを目的として研究を行った。貝形虫は、石灰質の2枚の殻を持つ体長1 mm程度の微小な甲殻類であり、生息する場所の水温や塩分などの変化に敏感に反応し、その個体数や種構成を変える(安原, 2007)ため、多変量解析に基づく古環境復元を適応できるほぼ唯一の後生動物である。調査海域の貝形虫(化石)相の研究は、紀伊水道南部の和歌山県沿岸においてZhou(1995)により行われ、紀伊水道北部の紀淡海峡周辺では、完新世コアを用いた貝形虫相の鉛直変化について検討が行われている(Yasuhara et al., 2002)。しかしながら、紀伊水道における現生貝形虫相の分布に関する知見は限定的であり(竹内ほか,2022)、近現代における貝形虫相の時系列変化の詳細も十分に明らかにされていない。本研究では、紀伊水道全域の貝形虫相の分布の詳細と、近現代における変遷史を報告する。 【結果と考察】貝形虫分析は地質調査総合センターにより実施されたGKC21航海にて、K-グラブ採泥器により採取された表層堆積物試料およびアシュラ式採泥器により採取された柱状堆積物試料を用いた。結果として、表層堆積物26試料及び柱状堆積物6試料から62属119種の貝形虫が産出した。これらは日本の内湾域で普遍的に認められる種や黒潮流域に認められる種が主であった。 表層堆積物から得られた貝形虫群集に対し、Q-modeクラスター分析を行った結果、調査海域の現生貝形虫相は、内湾泥底種が卓越する湾奥部から西部沿岸域、内湾泥底種と暖流系種の混在群集によって特徴づけられる東部の湾中央部、暖流系種が優先的に産出する南部の湾口部の3つに明瞭に区分された。紀伊水道は、高温・高塩分の外洋水が湾口部から東岸に沿って流入し、低温・低塩分の沿岸水が西岸に沿って南下する水塊構造を持つことが知られる(藤原,2012)。黒潮由来の外洋水の流入経路と対応するように生物相が分布していることから、紀伊水道の生物相の分布は外洋水と沿岸水の水平・鉛直分布によって規制されている可能性が高い。 柱状堆積物から得られた貝形虫群集に対し、本研究により表層堆積物試料から得られた現生貝形虫の群集データとその試料採取地点において測定された各種環境項目(水温、塩分、溶存酸素、濁度など)(天野ほか,2022)を用い、モダンアナログ法による古環境解析を行った。結果として、調査層準の底層水温、塩分、溶存酸素は、それぞれ18―19℃、33―34、3.9―4.0 ml/Lと復元され、調査層準全体として、大きな変動を持たない安定した底層環境であったことが明らかになった。しかし、コア深度0―2.2、15.4―17.6 cmでは、復元された底層水温と底層塩分ともに増加した。また、これらの層準のアナログとして選出された現生貝形虫群集の得られた地点は外洋水の影響を強く受けていると考えられる。ゆえに、これらの調査層準に復元された底層水温と塩分の上昇は、強化された黒潮由来の外洋水の影響を反映している可能性がある。 【引用文献】 天野ほか, 2022, 地質調査総合センター速報83, 令和3年度沿岸域の地質・活断層調査報告, p.13―26. 藤原, 2012, 紀伊水道・豊後水道・響灘と瀬戸内海. 瀬戸内海. 64. 4―9. 竹内ほか, 2022, 日本地質学会第129年学術大会講演要旨集. Yasuhara et al., 2002, Paleontol. Res., 6, 85―99. 安原, 2007, 人間活動による自然の変化, 161―266. Zhou, 1995, Mem. Fac. Sci., Kyoto Univ. 57, 21―98.

  • 鈴木 寿志
    セッションID: T12-O-19
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    2004年にGradsteinたちは新生代をPalaeogeneとNeogeneのみに二分し,第三紀(Tertiary)と第四紀(Quaternary)を国際的な地質年代区分から削除した。その後,第四紀は復活したものの,第三紀はよみがえらずに,新生代はPalaeogeneとNeogeneのみに区分されることとなった。すでに鈴木・石田(2005)で詳述したように,PalaeogeneとNeogeneの単語に「第三」の意味は含まれない。これらの英語の語源はギリシャ語で,palaeoは「古い」「旧の」を意味し,neoは「新しい」を意味する。そしてgeneは「起源」「由来」「系統」「種」などを意味する言葉である。これらの語源の意味を汲んだ上で,横山又次郎(1896)はPalaeogeneを「旧成紀」,Neogeneを「新成紀」と訳した。一方で,日本地質学会執行理事会(2010)は地質系統・年代の日本語記述ガイドラインの中で,「第三紀」を使用しないものの「古第三紀」と「新第三紀」を用いるという不思議な決定をし,会員に従うように勧告した。 地質学会執行理事会の勧告がおかしなことは,誰の目にも明らかである。「古第三紀」と「新第三紀」という用語は,「第三紀」が存在して初めて成立する言葉だからである。これに疑問を感じた筆者は,翻訳書『要説 地質年代』の中で横山又次郎の訳語を支持し,Palaeogeneを「旧成紀」,Neogeneを「新成紀」と訳した(オッグほか,2012)。ただしこの用語選定に際しては,横山又次郎が著した他の訳語例との比較検討を行っている(鈴木,2013)。横山又次郎は彼が執筆した複数の教科書の中で,Palaeogeneに対しては「始成紀」「古成紀」の訳語例も,またNeogeneに対しては「近成紀」の訳語も示していた。「始成紀」は「始生累代」と間違えると大きな時代の隔たりがあること,「古成紀」は「古生代」と間違えると同様に大きな時代の隔たりが生じ,また「湖成層」とも混同しやすい。また「近成紀」については,「古」「旧」の対語としては適切でない。「新成紀」は「新生代」と間違えやすいかもしれないが,同じ時代ではある。その結果,「旧成紀」と「新成紀」の組み合わせが,最も誤解を生じにくく適切であると判断された(図)。 国際的な地質年代区分においてTertiaryが用いられなくなった以上,「第三紀」を包含する「古第三紀」と「新第三紀」の日本語での使用は慎むべきである。ただし,それはあくまでPalaeogeneとNeogeneに対応する日本語としての話である。「第三紀」の区分が調査地域の地質に最も適合しているならば,むしろ積極的に使用すべきである。元来研究者は,自身の論文や書籍などの著作物において,適切な表現は何かを常に考えて執筆している。それは専門用語においても然りである。決められた用語に従わなくてはならないというのは,著者が何も考えずに用語を使用しているならばともかく,深い洞察の上での用語使用に学会が介入すべきではない。近年,学術雑誌の査読において,地質学会の地質年代ガイドラインに従うように修正を求められることがあると聞く。査読者には論文などの著作物が「規格品」ではないことを充分認識するよう求めたい。そしてこれから活躍する若手研究者には,自分が使う用語にどういう意味があるのか,よく考えた上で執筆に取り組んでいただきたい。文献 Gradstein et al. (2004): Episodes, 27 (2), 83–100. 日本地質学会執行理事会(2010):日本地質学会ニュース,13 (6), 8–9。 オッグ,J. G.ほか(2012):『要説 地質年代』,京都大学学術出版会。 鈴木寿志(2013):地質学史懇話会会報,第40号,3–10。 鈴木寿志・石田志朗(2005):地質学雑誌,111 (9),565–568。 横山又次郎(1896):『地質学教科書』,冨山房。

  • 伊規須 素子, 田中 健太郎, 高畑 直人, 小宮 剛, 佐野 有司, 高井 研
    セッションID: T12-P-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    太古代(25億年前以前)の岩石から生命の痕跡を検出することは、地球の初期生命史を解明するための最も直接的な方法である。従来、生命活動を認定する指標として堆積岩に保存される炭質物の安定炭素同位体比が用いられてきた(例えばSchidlowski, 2001)。地球上で最古の表成岩とされる約39.5億年前のカナダ・ラブラドル地域から採取された堆積岩から、生命由来と考えられる低い炭素同位体比を持つ炭質物が発見され、約39.5億年前に生命活動が行われていたことが示唆された(Tashiro et al., 2017)。しかし、炭素同位体比は主に全岩から得られたものであり、個々の炭質物については2試料からしか得られていない。そして、その2試料のうち一方の試料は個々の炭質物の炭素同位体比が全岩のそれと調和的であり、もう一方は一致しなかった(Tashiro et al., 2017)。本研究では、カナダ・ラブラドル地域の堆積岩に対し、薄片内でのグラファイトの空間分布やラマンスペクトルを考慮し、初生的なグラファイトの炭素同位体比を得ることを目的とする。Tashiro et al. (2017)において全岩の炭素同位体比が報告された堆積岩29試料から、光学顕微鏡観察および顕微ラマン分光分析の結果を基に、泥質岩5試料、礫岩3試料、炭酸塩岩2試料、炭酸塩岩中のチャートノジュール2試料を選定した。ラマンスペクトルから初生的な炭質物(グラファイト)と判断した粒子を鉱物に包有されるもの・鉱物粒間に存在するものに分類し、二次イオン質量分析計(NanoSIMS)でスポット分析を行った。その結果、全体として炭素同位体比は-30‰~7‰であった。炭素同位体比は、泥質岩、礫岩、チャートノジュールで鉱物に包有されるか否かに関わらず不均質であった。その一方、炭酸塩岩では比較的均質であった。また、大局的に見ると、岩相ごとに、泥質岩 < 礫岩 = 炭酸塩岩 = チャートノジュールの大小傾向があった。先行研究(Tashiro et al., 2017)で報告された全岩の炭素同位体比に比べ、礫岩では重い値を示す傾向があり、泥質岩、炭酸塩岩とチャートノジュールでは概ね調和的だが一部で重い値が観察された。以上の結果から、ラブラドル地域における堆積岩中の個々のグラファイトの炭素同位体比は大きなバリエーションを持つことがわかった。本地域の炭酸塩の炭素同位体比は-3.8‰~-2.6‰と報告されている(Tashiro et al., 2017)ことから、炭酸塩とグラファイト間の炭素同位体比の差が20‰を超える粒が存在する。これらのことから、本地域のグラファイトの一部は無機的に生成された可能性があるが、一部は生物起源であると考えられる。引用文献 Schidlowski (2001) Carbon isotopes as biogeochemical recorders of life over 3.8 Ga of Earth history: evolution of a concept. Precambrian Research 106, 117–134. Tashiro et al. (2017) Early trace of life from 3.95 Ga sedimentary rocks in Labrador, Canada. Nature 549, 516–518.

  • 井口 祐輔, 清川 昌一, 武田 侑也, 上原 誠一郎
    セッションID: T12-P-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    1. 緒言 太古代BIFの形成作用について,光合成による酸化作用や異化鉄還元作用(DIR)などの鉄還元菌による2価鉄の沈殿作用など議論されている (eg. Bekker et al. 2012) .しかし近年,太古代BIFの鉄沈殿物の形成は,生物活動を伴わなず,初生鉱物としてグリーナライト(Greenalite:Fe2+2 Si2 O5 (OH)4)として沈殿した報告がなされてきた (Rassmussen et al. 2013, Rasmussen et al. 2023) .本研究では,32~31億年前において世界で最も保存状態が良いデキソンアイランド層(DX層)・クリバービル層(CL層)中のチャート・BIF中に含まれる鉱物について, 電子顕微鏡観察および化学分析を行こない鉱物同定し,当時の海底堆積物に含まれる物質を明らかにした. 2. 層序  西オーストラリア,ピルバラ海岸グリーンストーン帯のクリバービル海岸地域では,32億年前の熱水系チャート層(DX層)から黒色頁岩からBIFに移り変わる31億年前の連続層(CL層)が存在する.本地域は低変成作用で,変形作用も比較的弱く堆積時の地層状態が記録されている(Kiyokawa et al. 2012) .特に,DX層は,下位からコマチアイト-流紋岩部層,黒色チャート部層,多色チャート部層からなり,珪化した火山岩からチャート層に移り変わる32億年前の熱水活動が復元できる(Kiyokawa et al., 2006).またCL層は,下位から黒色頁岩部層,BIF部層に区分され, 黒色頁岩層からBIF層に移り変わる31億年前の連続層が保存良く残っている. 3. 方法 DX層BC部層のデキソン島の海岸線に露出する岩石,CL3掘削コアの薄片を作成し,肉眼及び偏光顕微鏡観察を行った.化学組成分析及び微細構造観察はSEM(JEOL JSM-6500M),EPMA(JEOL JXA-8200)を用いた.また,一部の試料に対し九州大学超顕微解析研究センターのFIB-SEM(FEI Quanta 3D 200i,HITACHI MI4000L)を用いて針状結晶を含むチャート中の石英より薄膜試料を作成し,電子顕微鏡(JEOL JEM-ARM300F2)を用いて組織観察,鉱物種の同定を行った.4. 結果 DX層についてはSEM観察により,パイライトが濃集し層として並んでいることがわかり,またバイオマット層直上の黒色チャート層よりアパタイト(直径約3 μm)の結晶が見つかった.DX層のチャート中のアパタイトは熱水環境下において生物の活動が行われていた可能性を示唆しており,地層中に残されているバイオマット化石や微生物の化石(Kiyokawa et al. 2006)とも整合性がある. CL層について層状チャート層は,1 cm以下の淡緑色の粘土質ラミナと白色のチャート質ラミナの互層になっている.XRDの結果から,構成鉱物はシデライトと石英,マグネタイトであった.偏光顕微鏡およびSEM観察により粘土質ラミナは,細粒のシデライトによって構成され,続成作用により堆積構造を失っていた.一方,チャート質ラミナは,主に直径2~10 µm石英によって構成されているが,一部自形結晶のシデライト,10~50 μm程の板状結晶の緑泥石がみられ,シリカ基質中には5 μm以下の針状結晶が観察できた. FIB-SEMで観察した針状結晶を含む試料は,石英のほか,球状で直径約2 µmの鉄酸化物,石英中や石英の粒界に数μmの針状結晶が観察でき,これらの針状結晶は14 Åの底面反射の緑泥石鉱物からなる.これらは,STEM-EDSマッピングにより化学組成は(Fe2+3.92, Al1.49, Mg0.64)Σ6.05 (Si2.43Al1.57)Σ4.00O10(OH)8であり,鉱物種はシャモサイトであった.また,薄膜試料中の石英粒の一部に1 μm以下の空隙が多数存在するものがある.この石英中に500 nm以下の針状結晶がいくつか見られた.これらの針状結晶は7 Åの底面反射の蛇紋石鉱物で,STEM-EDSマッピングより化学組成は(Fe2+1.94, Al0.73, Mg0.28)Σ2.95 (Si1.38Al0.62)Σ2.00O(OH)4であり,鉱物種はベルチェリンであった.ハマスレーで報告されるグリーナライトと本地域で見つかったベルチェリンとは,分布やその惨状は非常によく似ている.このことはBIF形成時に,ベルチェリンも沈殿している可能性を示唆する.今後,当時の海洋に大陸由来のAlもすでに供給されていた可能性について,大陸形成作用も含めて考察する.5.引用文献・Kiyokawa, S., et al., 2012, Island Arc, 21, 118–147. ・Rasmussen, B.et al., 2013, Geology, 41, 435–438.

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