日本地質学会学術大会講演要旨
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第130年学術大会(2023京都)
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G-4. ジェネラル サブセッション地学教育・地学史
  • 【ハイライト講演】
    川村 教一
    セッションID: G4-O-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    兵庫県豊岡市赤石には,国の天然記念物「玄武洞」があり,玄武洞に見られる岩石は玄武岩である.玄武岩は中学校1年生の理科で必ず学ぶ火山岩で,我が国ではもっとも親しまれている岩石の名前の一つであろう.ヨーロッパでbasaltと呼ばれていた岩石に玄武岩の和名をあてたのは,小藤文次郎博士(以下,小藤博士)で,明治17年8月発行の『金石学 一名鉱物学』(小藤,1884)が初出である.ただしこの本に命名理由は記されていない.明治19年発行の「東洋学芸雑誌」第3巻58号掲載の小藤博士の講演記録において,「但馬ノ玄武洞ニアル玄武岩バサルト」と記されている(小藤,1886).小藤博士以外では,明治21年に西山正吾は「小藤氏『バサルト』ニ譯名ヲ下スニ著名ナルコノ洞ヲ採リシカ」と命名理由について触れている(西山,1888).明治24年にも,巨智部忠承が玄武岩は小藤博士が玄武洞の字を取って玄武岩を命名した旨を述べている(巨智部,1891).これらのことから,小藤博士が玄武洞にちなんで玄武岩を命名したことが推察される.問題は,小藤博士は明治17年までに玄武洞において地質調査をした記録は知られておらず,和名選定にあたり小藤博士は玄武洞の岩石がbasaltであることをどのようにして知ったのかにある.玄武洞の岩石が小藤博士の目に触れなければ,basaltの和名は別の名称が定着していたかもしれない. 以上のことを踏まえ,本発表では玄武洞の命名に関する現状の知見を整理して今後の研究のための基礎資料とする.また,我が国における近代的な岩石学の普及のもと,basaltの和名の命名状況を整理するとともに,玄武岩と命名された後,この和名が定着するようになった経緯について若干の推論を試みる. 文献巨智部忠承(1891)但馬名所玄武洞の記.地学雑誌,3,194-200. 小藤文次郎(1884)金石学 一名鉱物学.小藤文次郎,163p. 小藤文次郎(1886)地文學講義四回.東洋學藝雑誌,第3巻,第58号,589-599. 西山正吾(1888)敦賀姫路間地質報告.地質要報,明治二十一年第3号,249-251.

  • 田原 敬治
    セッションID: G4-O-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    1.はじめに 筆者は、地学分野の授業において空間と時間の概念を生徒達が身につけることは、学習指導要領に記述された目標を実現するための素養であると考えている。しかし、通常の授業において野外観察でそれらの概念を体感的に養うことは、時間や予算・体制などの制約により実施することが難しい。特に定時制(夜間部)においては困難な状況である。 そこで、今回の取り組みでは教室内でも地学的な空間の概念を、視覚的・直感的に伝え、学習対象となる地形・地質・構造・現象などを理解しやすい映像資料の作成と活用を試みた。2.使用機器及びソフトウェア ドローンによる空撮にはParrot社製ANAFI(4K及びthermal)を使用した。この機体を対象の周囲を手動および自動(Pix4Dcaptureで制御)で飛行させ映像資料の元になる写真及び動画を撮影した。また、3DモデルはPix4D社製Pix4Dmapperを用いたフォトグラメトリーにより作成した。3.作成した映像資料 現在、下記の8つの映像資料を作成済みである。なお、①・②・④・⑧は南紀熊野ジオパークのジオサイトである。①橋杭岩(和歌山県串本町):熊野カルデラの活動に伴う岩脈であり、周囲には津波で移動された漂礫が分布している。上空からの視点では、岩脈の配列や漂礫の分布状況が見て取れる。岩脈の配列から、マグマが貫入した際に通った経路を推測することができる。②フェニックス褶曲(和歌山県すさみ町):褶曲構造の背斜と向斜をはっきりと見ることができる海食崖の露頭である。ただし、安全上の問題のためガイド同伴でないと立ち入ることはできず容易に観察することが難しい。空撮映像をみると、周囲の海食崖の地層との連続性がよくわかる。③天鳥の小褶曲(和歌山県すさみ町):褶曲(背斜)の断面をはっきりと見ることができる。周囲の地層と褶曲部の地層の比較から、褶曲が形成される際に起きる地層の屈曲や破断の状態を観察することができる。国道42号線からも観察でき、比較的安全かつ容易に訪れることができる。④和深海岸(和歌山県串本町):砂岩泥岩互層が明瞭に観察できる露頭があり、周辺の岩礁も岩質によって浸食の受け方が異なっている。岩礁上には浸食の違いによる凹凸をはっきりと観察することができる。海食崖の露頭と岩礁上に現れた層の傾きの関係や連続性がよくわかる。⑤ヒキ岩群(和歌山県田辺市):傾斜した砂岩層が浸食により、何匹ものヒキガエルが並んだように見える岩峰を作っている。ハイキングコースが設置されており現物に触れることができるが、上空からの視点で見ると地層の連続性や傾く角度などの地形の形成要素がより一層理解できる。⑥下里大浜(和歌山県那智勝浦町):河口域での沿岸流の影響を受けた砂州の形状がよくわかる。ビーチカスプにおける波と沿岸流による砂の移動を観察することができる。規模が数百mあるため、3Dモデルを使うことで、全体の形を把握することができ、砂州上では台風などの大波によって、砂が海側から陸側へと運ばれることを地形から読み取ることができる。⑦玉の浦(和歌山県那智勝浦町):熊野灘から内湾へと続く遠浅の海域である。海水の透明度が高く、砂地の海底にはアマモの仲間が生育しており、藻場が形成されている。空撮を行うことによって、沿岸域における藻場の広がりを面的にとらえることができる。⑧ゆかし潟(和歌山県那智勝浦町):熊野灘沿いにある汽水湖である。2本の小河川が流入しており、湖奥から埋積が進行している。流出口付近は他の小河川による埋積で干潟化している。湖水の澄んだ日の空撮情報から、湖底地形や底質の状態を読み取ることができる。 4.生徒たちの反応 現在、上記の8つの映像資料を作成し、これらのうち①~⑤を授業で使用した。これらの資料についての生徒たちの感想は以下のようになった。・本物を見ていないので大きさや質感ははっきりとは感じられない。だけど、地層のつながりや広がりはわかりやすい。・地層の色の違いを追いかけると、つながり方がわかった。・角度を変えて見られたので、方向によって地層の見え方が違うのが分かった。5.今後の改善点 対象の空間的広がりを体感し学ぶには、生徒たちが現地に行くことが一番である。それを補うため、生徒たちの声を聴き、より直感的に理解しやすい資料に改良する必要がある。 前述の生徒たちの反応を踏まえ、現場の岩石標本の利用との組み合わせ方や、わかりやすいスケールの導入を試したいと考えている。

G-P. ジェネラル ポスターセッション
  • 阿部 なつ江, McCaig Andrew, Lang Susan, Blum Peter, 野坂 俊夫, IODP Exp.399 Par ...
    セッションID: G-P-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    大西洋中央海嶺の北緯30度付近にあるアトランティス岩体は、海洋下部地殻〜最上部マントルの構成岩と考えられる斑れい岩および蛇紋岩化かんらん岩が、海底付近まで露出する海洋コアコンプレックスである。このアトランティス岩体では、これまでに国際深海科学掘削計画(以下IODP)による4回の航海(Exps.304 305、340Tおよび357)にて掘削が行われている。IODP Exp. 399(2023年4月12日から6月12日実施)では、このアトランティス岩体において、海洋コアコンプレックスの形成過程の解明や、海洋地殻や上部マントルと海水との反応過程、地球上の生命に先立つ太古のシステムを示すと思われる水と岩石の間の非生物学的反応の探求、海底下の生命活動を評価することなどを目的とした掘削を行い、岩石コア試料や流体試料の回収を行った。  その結果、既存のhole U1309Dを83m延伸し、1498mbsfまで到達し、さらに孔内からの流体採取に成功した。回収された岩石は下部海洋地殻の典型的な斑れい岩であり、また孔底付近の温度は約140℃で、Exp. 340Tによる測定結果とイほぼ一致した。岩体の南側における蛇紋岩サイト(Hole U1601C)では、予想を大きく上回る掘進率で新たに海底から1267.8mbsfまで掘削し、IODPにおける基盤岩掘削では5番目に深い掘削を成功させた。またこの孔は、これまでの科学掘削における蛇紋岩掘削の200mbsf (Hole 920D)を大きく上回り、71%という高いコア回収率で、手付かずで連続的な岩石試料の回収にも成功した。Hole U1601Cのコアは、少量の斑れい岩の貫入を伴う蛇紋岩化かんらん岩で構成されている。また孔内計測による、温度、密度、気孔率、地震波速度などの連続的なデータ回収、さらに孔内の複数の深さから流体試料を採取した。  今回の掘削により得られた試料やデータを今後分析や解析することで、海洋リソスフェアの構造や海洋コアコンプレックス形成過程の解明、海洋地殻の変質過程、そして地下生命圏における重要なエネルギーとなる水素やメタンなどの発生システムの解明が期待される。さらにアトランティス岩体における1000mを越えるこの2本の掘削孔は、今後も孔内温度や流体組成の変化などの観測の為に利用することが期待される。

  • 筬島 聖二, 吉田 孝紀
    セッションID: G-P-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    はじめに 沖縄島の北部には,国頭マージと呼ばれる赤色から黄色を呈する風化土壌が分布する.国頭マージの母材は,国頭礫層と呼ばれる段丘堆積物のほか,砂岩,頁岩,千枚岩,緑色岩等の基盤岩類の強風化部など多岐にわたる.今回沖縄島北部において,国頭マージの形成プロセスを探るために,母材のうち四万十帯相当層である名護層砂岩露頭を対象に風化の特徴を記載した. なお、四万十帯砂岩の風化の特徴については,南部九州における西山・松倉(2002)などの研究があるが,南西諸島ではなされていない. 地質概要 四万十帯は相当層も含めると、関東から南西諸島まで分布する付加体である.沖縄島の北部には,北帯に属する白亜紀後期の名護層と南帯に属する古第三紀の嘉陽層が分布している.名護層の分布や名称は研究者によって異なるものの(馬場・内間,2016),岩相は千枚岩,緑色岩,砂岩などからなる.名護層からは,堆積年代を示す化石の産出報告はないが,再結晶白雲母のK-Ar年代が測定され,77.0~61.1Maおよび54.~37.1Maの変成年代が報告されている(小島ほか,1999).この変成年代より,名護層の堆積時代は後期白亜紀とみなされている(中江ほか,2010).名護層の泥質片岩や砂岩は新鮮部では暗灰色を呈するが,地表近くでは厚い風化殻を形成する.筆者らは沖縄島北部の大宜味村南部で確認された風化砂岩露頭を名護層に属するものと考え,研究対象とした.研究手法  研究対象の露頭は,標高約160mの丘陵地帯に位置する比高約10mの切土斜面であり,強風化した中粒砂岩が露出する(添付写真).現地では肉眼観察により,地質構造や粒度,色調を記載した.また,風化の程度を硬さとして定量的に評価することを目的として,斜面長1m毎に山中式土壌硬度計を用いて地盤工学会基準に従い土壌硬度を計測した.なお,室内試験に供する試料を斜面長で約0.5m毎に採取した.室内では,現地で採取した試料より作成した岩石薄片で鏡下観察を行い,同時代の比較的新鮮な砂岩試料(大分県,佐伯亜層群堅田層)との比較を行った. 調査結果  調査対象露頭の頂部では,ほぼ南北の走向と約20°で西側へ傾斜する片理構造が確認され,この構造は一般的な名護層の片理面構造(北東-南西走向,北西傾斜)に近似する.砂岩を構成する砂粒子は中粒であり,露頭の上部から下部まで大きな変化は認められない. 調査対象の露頭では,風化作用は低標高部から高標高部へ向けて強くなる.風化砂岩の色調は,頂部より約3.5m(斜面長,以下同じ)までは,オレンジを基調とし黄色の斑状模様を含み,黄色の斑状構造にはスポットとして直径数mmの白色の粘土を伴うことがある.3.5m以深は次第に赤褐色へと変化する.また,亀裂沿いは黄色となる.土壌硬度は風化が進行する高標高部では約25mmであるが,標高を下げるにつれ次第に増加し最終的には約30mmに達した.  頂部より1.3m,4.1m,6.5m,8.5m,10.8mの5試料で薄片を作成して鏡下観察を行った.鏡下では,古土壌組織の一つであるIntertextic組織を示し,石英,粘土鉱物化した岩片もしくは長石類が認められる.基質は,低標高部では鉄-マンガン酸化物が顕著であるが,高標高部になると粘土鉱物となる.石英粒子は長軸が定方向に配列する傾向がある.また高標高部では,内部を集積粘土と石英粒子で充填される,直径約1~2mmの同心円状の配列が確認される.これは植物根の痕跡と考えられる.考 察 当該露頭における名護層砂岩は,風化の進行に伴い長石類及び岩片が粘土鉱物に変化することで,岩石の組織や組成が大きく変化し,最終的に国頭マージと呼ばれる風化土壌へと進行する.粘土鉱物への変化は土壌硬度の減少として現れる.また,風化が進行することにより植物が育成することが可能となり,植物根の侵入がさらなる粘土鉱物の生成を助長していると考えられる. 今後は,X線分析による粘土鉱物の同定を行い,風化の進行過程との関係の整理を進める. 引用文献馬場・内間,2016,沖縄島北部・名護層に産する含ザクロ石泥質片岩.地質学雑誌,122,127-132.小島ほか, 1999,沖縄諸島, 名護層の変成作用とK–Ar 年代.日本地質学会関西支部会報No.125・西日本支部会報No. 113 合併号.中江ほか,2010,20万分の1地質図幅「与論島及び那覇」,産総研地質調査総合センター. 西山・松倉,2002,風化による砂岩の岩石組織の変化:南九州における四万十帯砂岩の例,地質学雑誌,108,410-413.

  • 羽田 裕貴, 中谷 是崇, 水野 清秀, 納谷 友規, 中島 礼, 西山 賢一
    セッションID: G-P-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    徳島平野は紀伊水道西岸に位置し,海岸部では南北に約10 km,西方へ約75 kmの奥行きを有する.平野北縁は東北東-西南西方向に伸びる中央構造線断層帯によって,讃岐山脈を形成する上部白亜系和泉層群と区切られる.その平野地下は,上位から第四系の徳島層および北島層,三波川変成岩類ないし和泉層群による基盤岩から構成される.徳島層は沖積層に相当し,その堆積環境や年代について,先行研究によって議論されてきた.一方,徳島層の下位に分布する北島層については,年代や堆積環境についての記録に乏しい.そのため,北島層の層序を明らかにすることは,中央構造線断層帯の活動履歴や徳島平野の発達史を議論する上で重要である.近年,徳島平野地下の北島層の分布を明らかにする試みがなされている.西山ほか(2017)は,既存ボーリング資料を用いて北島層の分布を検討し,北島層中に平野南部から北に向かって分布深度が大きくなる3枚の海成泥層を認めた.佐藤・水野(2021)は,平野北部の徳島県鳴門市から掘削された坂東観測井コアの深度90 m以深から,海洋酸素同位体ステージ(MIS)13〜5に対比される海成層を報告した.中谷ほか(2021)は,中徳島町から掘削された80 mオールコアボーリングの層序を検討し,吉野川南岸における北島層の堆積開始がMIS 13まで遡る可能性を示した.羽田ほか(2022a; 2022b)は,徳島平野沿岸部に位置する沖洲地区から掘削した131 mオールコアボーリング(GS-TKS-1)について,層相観察,放射性炭素年代測定,火山灰分析,珪藻・花粉化石分析を行い,MIS 11,9,7,5eに相当する泥層の存在を報告した.しかし,珪藻化石や貝化石の産出に乏しいことから,これら泥層の堆積環境については議論の余地があった.さらに,北島層では後期更新世以前のテフラの報告に乏しい(西山,2022).そこで本発表では,GS-TKS-1コアの泥質層を対象に懸濁液の電気伝導度(EC)分析およびpH分析を行い,その堆積環境を検討した.加えて,四国横断自動車道事業で掘削されたボーリング試料から発見した火山灰層についても報告する.GS-TKS-1コアの深度50 m以深の泥質層を対象に,32層準から試料を分取した.試料処理は横山・佐藤(1987)に準拠して行った.分析の結果,ECは0.25〜1.87 mS/cm,pHは3.2〜7.5の間で変動し,その相関係数は−0.84である.そのため,GS-TKS-1コアの懸濁液のECは泥質層中の陰イオンを反映しており,堆積環境の推定に有用であると考えられる.海生珪藻化石と貝化石が産出する深度115.10〜110.72m(MIS 11)および65.1〜53.2 m(MIS 5e)では,ECはそれぞれ0.87〜1.84 mS/cm,0.73〜0.86 mS/cmである.ECによる堆積環境の推定について統一的な閾値は得られていないが,本研究では暫定的に0.73 mS/cm以上を海成層とした.ECは,深度124.82〜110.72m(MIS 11),100.2〜95.2 m(MIS 9),71.42 m(MIS 7),66.02〜53.2 m(MIS 5e)において,それぞれ0.87〜1.84 mS/cm,0.27〜1.16 mS/cm,0.29〜1.14 mS/cm,0.35〜0.86 mS/cmの間で変動する.また,これらの泥質層では最下部あるいは最下部と最上部でECが最小となる.そのため,これらの泥質層は海水の影響下で堆積し,ECの変動は海水準変動を反映している可能性がある.一方,深度約92〜74 mの礫層中に挟在する泥質層のECは0.25〜0.38 mS/cmであり,淡水での堆積を示す.以上より,吉野川南岸における徳島平野沿岸部では,北島層中にMIS 11〜5eに相当する少なくとも4枚の海成層が存在すると考えられる.今後は,既存ボーリング資料との対比を進めるともに,徳島平野地下第四系の模式層序の構築を目指す.羽田ほか,2022a,GSJ速報, 83, 41–59; 羽田ほか,2022b,日本地質学会第129年学術大会講演要旨集,845; 中谷ほか,2021,GSJ速報, 82, 7–20; 西山,2022,日本地質学会第129年学術大会講演要旨集,845; 西山ほか,2017, 日本地質学会第124年学術大会講演要旨集,135; 佐藤・水野,2021,GSJ速報,82,21–27; 横山・佐藤,1987,地質雑,93,667–679.

  • 和田 卓也, 槇納 吏袈, 吉田 健司, 橋本 和茂, 田代 誠士
    セッションID: G-P-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    大山北西麓の淀江地域の地質構造については,既往研究1)2)3)において,主として地表露頭で確認可能な大山火山を噴出源とする降下火山灰や火砕流堆積物,火山泥流堆積物に関する地質分布や地質層序が示されている.また,別の既往研究4)では,水源調査用のボーリング調査等も加えて,同地域のさらに詳細な地質分布,地質層序,地質構造について示されている.  筆者らは,鳥取県が同地域の地下水流動状況を明らかにする目的で新たに実施した,全12地点・計902.96m(同地点での重複掘削含む・最長掘削深度:100m)の高品質オールコアボーリング調査のデータ5),既存の土木工事や水源調査用のボーリング調査のデータ,さらに地形判読や地表地質踏査の結果などを合わせて解析することにより,同地域一帯の地質構造について,より詳細に明らかにした. 本地域の主要な地質について,上位層から順に以下に記載する.なお,各地層の層厚は,上記のボーリング調査データに基づいている.また,地質平面図を図1,地質断面図を図2に示す. 【中期~古期大山噴出物】溝口凝灰角礫岩が形成する台地の最上位に位置し,複数の黒ボク土層,火山灰層,軽石層や火砕流堆積物を挟む.最大層厚:12.5m. 【古期扇状地Ⅰ面堆積物】溝口凝灰角礫岩の上位を覆う,火山泥流堆積物.デイサイトの亜円礫~亜角礫を多く含むが風化が進み,一部でクサリ礫化している.最大層厚:5.5m. 【溝口凝灰角礫岩】大山火山北西部の火山麓扇状地において,開析された台地面を形成する火山泥流堆積物.マトリックスは淡黄褐色の粗粒砂主体で新鮮部は固結している.デイサイトの亜円礫~亜角礫(直径:概ね0.5m以下)は,高温酸化により暗赤褐色を呈すもの,酸化されず灰色~暗灰色を示すものが混在する.最大層厚:35.5m.ボーリング調査地点では,EL.-10~+40m付近に分布する. 【火山灰質砂層(大山系)】中粒砂~細粒砂主体の未固結堆積層で,平行葉理・斜交葉理,火山灰薄層の挟みが頻繁に認められる.壷瓶山の南側を中心に広く連続して分布し,層厚は概ね10m前後だが,壷瓶山の南側で層厚が約30mと部分的に厚く,しかも上に凸な地形面を形成している(図2 A-B断面参照).このことは,本層堆積時に壷瓶山が内湾あるいは湖に浮かぶ島の状態にあり,大山山麓裾野の陸地との間で陸繋砂州を形成していた可能性を示唆している. 【火山灰質固結粘土層】一部で風化した軽石を含む火山灰質粘土層.最大層厚:約3m程度の薄層でありながら,下位の安山岩質火砕岩の上位に,調査地一帯に連続的に分布することから,同火砕岩堆積時のco-ignimbrite ashが粘土化したものと考えられる. 【安山岩質火砕岩】安山岩質の角礫を主体とする火砕岩で,礫径は概ね直径:0.5m以下(最大1.5m).同質の岩片・マトリックスで構成され,ともに高温酸化により暗赤褐色を呈している(稀に暗灰色の非酸化岩片が混入).さらに,本地層の下面形状が下位の未区分火砕岩類上の地形の起伏を埋めるように堆積している一方,上面形状はなだらかな緩斜面で大きな起伏が無い(図2参照).これらから,本層は溶岩ドームの崩壊によって形成されたblock and ash flow型の火砕流堆積物であると考えられる.また,マトリックスは未固結で,その一部には地下水の通り道となるような小空隙が頻繁に認められる.調査地一帯に広く連続的に分布し,ボーリング調査地点ではEL.-50~-20m付近と深部に分布し,その最大層厚は50m以上に及ぶ.本層は調査地域周辺の鍋山など,孝霊山の周辺に広く分布している状況から,その噴出源は現在の大山山頂付近ではなく,側火山の一つである孝霊山付近と考えられる. 【安山岩質火砕岩(塊状部)】安山岩質で塊状無層理な半固結の火砕岩で,高温酸化により赤褐色~暗赤褐色を呈し,上位の安山岩質火砕岩と類似した岩質であることから,一連の火山活動で形成された堆積物であると考えられる.調査地一帯から大山火山の北西側山腹に至るまで広く分布しており,層厚は厚いところで100mを超える.ボーリング調査地点では,EL.-70~-40m付近と比較的深部に分布する. ●参考文献 1) 津久井雅志(1984):大山火山の地質, 地質学雑誌, 90巻9号p.643-658. 2) 荒川 宏(1984):大山火山北西部における火山麓扇状地の形成, 地理学評論,57 巻12 号p.831-855. 3) 山元孝広(2017):大山火山噴火履歴の再検討,地質調査研究報告,第68巻,第1号,p.1–16. 4) 米子市水道局・大山山麓西部域の水資源懇談会(2011):大山山麓西部域の水資源 報告書. 5) 鳥取県(2020~2022):第1~9回 鳥取県淀江産業廃棄物処理施設計画地地下水等調査会 資料.

  • 千徳 明日香, 冨田 恭平, 宋 科翰, 新城 竜一, 相澤 正隆, 徳田 悠希, 奥村 大河, 市村 康治
    セッションID: G-P-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    沖縄本島勝連半島沖の島々には,島尻層群,知念層,琉球層群が分布している.島尻層群はシルト岩を基本に砂岩層と凝灰岩層を挟み下位から豊見城層,与那原層,新里層の3つに区分され,地質年代は後期中新世-前期更新世である(兼子,2007,地質ニュース).これまで勝連半島及び周辺離島では,岩相や微化石に着目した研究が行われてきた(e.g.,大清水・井龍,2002,地質学雑誌;花方,2004,瑞浪市化石博物館研究報告;千代延ほか,2009,地質学雑誌).一方,この地域で産出する大型化石については,MacNeil(1960,U. S. Geol. Surv. Prof. Pap.)やNoda(1988,Sci. Rep. Inst. Geosci., Tsukuba Univ., Sec. B)において軟体動物が,大塚(2020MS,琉大卒論)や稲葉(2021MS,琉大卒論)においてイシサンゴが検討されている.宮城島南西部の海岸には大規模露頭が露出しており,花方(2004,瑞浪市化石博物館研究報告)が詳細な浮遊性有孔虫化石層序を研究している.しかし,この地域からの数値年代の報告はない. そこで本研究では当露頭で地質調査を行い,岩相と産出化石を詳細に検討し,凝灰質岩層から採取したジルコンのU-Pb同位体比と二枚貝化石のSr同位体比をレーザー・アブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置(LA-ICP-MS)で分析し,絶対年代測定を行った. 本研究露頭は,激しく生物撹拌されたシルト岩-砂質シルト岩を主体とし,下位では,層厚10 cm以下の火山噴出物を主体とした凝灰質細粒砂-極細粒砂岩層が多数認められた.その上位では砂岩層の出現頻度は減少するが,直径数cmの軽石を含む層厚10–30 cm程度の比較的厚い凝灰質細粒-極細粒砂岩層が認められた.砂岩層中には平行葉理,クライミングリップル葉理や,正級化構造などが確認されることから,これらの砂岩層は混濁流などにより浅海域から流入した堆積物により形成された可能性が高い.Sr同位体年代測定では最下位から8 m上位の砂質シルト岩層から採集した二枚貝化石Acila sp.1個体およびLucinoma acutilineatum 2個体の計3個体を用いた.測定の結果,それぞれ2.04 Ma,1.81 Ma,1.45 Maという値を得た.また,最下位より1.5 m上位の初生的な堆積構造が残存している凝灰質砂岩層から採集された32粒のジルコンのU-Pb年代測定法によるTera-Wasserburg図でのintercept年代(T-W年代)は3.14 ± 0.05 Maであった.また,最下位より6.4 m上方の軽石を多数含む砂岩層から採集された8粒のジルコンのT-W年代は2.89 ± 0.10 Maであった.花方(2004,瑞浪市化石博物館研究報告)は本研究露頭であるT07a地点においてGloboquadrina (= Dentoglobigerina) altispira(LAD=3.47 Ma in Pacific; Raffi et al., 2020, Geol. time scale)の産出を報告した.Sr同位体年代測定結果は最も古い年代が2.04 Maであり,有孔虫化石から推定した年代より若い.しかし今回の測定誤差の下限は4–2.8 Maの年代決定が困難な範囲が含まれるため,少なくとも4 Maまでの年代幅を想定する必要がある.一方,当露頭ではメタン湧水などの痕跡も見つかっており,本測定に用いた二枚貝骨格が二次的な続成作用により化学組成が変化していた可能性もある. また,本研究のジルコンU-Pb年代測定では本露頭は下位で3.14 ± 0.05 Ma,その上位で2.89 ± 0.10 Maの年代を示した.この年代も化石から推定された年代より若い結果となった.本露頭では浅海域からの流入と考えられる砂岩層が多数含まれ,それらの中には生物撹拌により上下の地層との境界が不明瞭なものもあった.今後は,有孔虫化石の再堆積などの可能性なども考慮し,化石群集解析を再検討する必要がある.

  • 溝口 一生, 飯田 高弘, 飯塚 幸子
    セッションID: G-P-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    河川礫や海浜礫などの砕屑物粒子の形状は,それらの堆積環境を知る上で重要な情報源であり.これまで視覚印象図を利用した定性的な検討や写真を使った2次元の画像解析による手法が主に用いられてきた(石渡ほか, 2019).本発表では,医療用CTを用いて,従来の手法では把握することが困難な粒子の実際の3次元形状を短期間且つ大量に取得する方法を検討し,実際に採取した河川礫及び海浜礫の形状測定及び比較を実施したので,その結果を報告する. 今回の測定には,静岡県・大井川沿いの5地点の河床から採取した河川礫と,その大井川から流出する河口及び河口より東側に位置する駿河海岸沿いの5地点から採取した海浜礫を用いた.地点毎に礫の大きさに偏りが生じないように,目開き75mmの篩を通り,且つ目開き19mmの篩を通らない礫(礫径としては中礫に相当)を240~270個選んで採取した.大井川の後背地である赤石山地は,白亜紀~中期中新世の付加体の四万十帯からなるが,採取された礫の種類としては砂岩や泥岩が大半を占め,それ以外に礫岩や頁岩,粘板岩が見られた.実験室に持ち帰った礫は,水道水で軽く洗浄し,礫表面に付着している泥や砂を除去した後に,一つ一つ礫を木箱に並べて数日間自然乾燥させた.礫試料のCT撮影には,東芝メディカルシステムズ社製医療用高精細CT装置 Aquilion Precisionを用いて行い,空間分解能0.25mmのCT画像を0.5mm間隔で撮影した.前述の撮影精度であれば,CT装置の撮影寝台上の横30cm縦90cmの範囲に置かれた試料を一回で撮影できるため,最大百数十個の礫形状データを一度に取得することが可能となっている.今回おこなった礫の測定数は計2400個にもなったが,CT撮影日数は2日と非常に短い期間で済ませることができた.撮影されたCT画像データ群から各礫粒子の3次元形状モデルを構築するための画像処理(礫固体部分とそれ以外の空気を区別する閾値による二値化処理や,礫内の実際の空隙やCT撮影時に生じてしまう偽像による穴空きを埋める処理や,画像内の画素同士の連結性とその連結部分の境界を求める輪郭追跡の解析,連結する画素同士を一つのグループと認識するためのラベリング処理など)や形状パラメータの取得は,ソフトウェアMATLABおよび同ソフトの Signal Processing Toolboxを用いて行った. 河川礫及び海浜礫の形状比較では,従来手法で形状指標としてよく用いられる扁平度や伸長度(ただし従来の2次元での求めた方とは異なり,実際の礫形状に近似させた回転楕円体の各軸の比より求めた)に加えて,3次元形状を計測できたことで計算可能となる球形度や凸包絡度(凹みの少なさ)について,本研究で取得した礫形状データをもとに算出した.すべてのパラメータで礫毎に値がかなりばらつくが,各地点での平均値でみると以下の傾向が見られた.扁平度は河川礫で0.62~0.66の値が得られている一方で,海浜礫では0.67以上の高い値が得られた.伸長度に関しても,海浜礫は河川礫に比べて0.01以上高い値を示した.ただし河川礫よりも低い扁平度や伸長度を示す海浜礫の地点も見られた.一方で礫の球形度と凸包絡度に関しては,河川の上流から下流に向かってそれぞれ0.81から0.84,0.91から0.94へ徐々に増加していき,さらに続いて海岸礫では,大井川河口からの距離に応じて球形度と凸包絡度がそれぞれ0.84から0.88,0.94から0.955と増加する傾向が見られた. 今回紹介した方法により,粒径や扁平度などの従来の形状指標に加えて,3次元形状データに基づいた球形度や凸包絡度などより多くの指標データについて,比較的短期間で数千粒子のデータを取得し,河川礫と海浜礫の形状を比較・検討することができた.このような良質で大量な形状データは,礫の堆積環境や運搬過程における破砕・摩耗作用を理解する上で欠かすことができない重要な情報となる. <参考文献> 石渡明・田上雅彦・谷尚幸・大橋守人・内藤浩行(2019)海岸礫は河川礫より円くて扁平である。日本地質学会News, 22(10), 6-7.

  • 相澤 正隆, 峯田 祥太朗, 屋冨祖 淳史, 宋 科翰, 中西 諒, 新城 竜一
    セッションID: G-P-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    はじめに2018年6月5日~27日,台湾周辺における甚大な熱帯性の気象災害(台風・大雨・高潮など)やテクトニックイベント(地震・津波など)による地質記録をアーカイブすることを目的として,フランス国立海洋開発研究所(IFREMER),国立台湾大学(NTU),台湾国立中央大学(NCU),台湾海洋科技研究センター(TORI)などが共同で,R/V Marion Dufresneによるピストンコアリング調査などを実施した[1]。本航海はEAGER(Extreme events Archived in marine GEological Records off Taiwan)航海と命名され,日本からは琉球大学の新城・相澤(当時)の2名が参加した。本航海では,琉球列島の先島諸島周辺および台湾近海において,最大層厚が数十cm~1 mに達するいくつかの火山灰層を発見した。本発表では,沖縄県西表島南方の海底堆積物中から発見された未知の火山灰層について,基本的な記載と化学組成分析の結果を報告する。試料コアサイトMD18-3530およびMD18-3531では,それぞれ22.68 mおよび23.59 mのピストンコアが得られた。大部分はシルト質であるが,MD18-3530の1074–1114 cm bsf(below seafloor)から灰白色の火山灰層(以下,MD-Aテフラと呼ぶ)を発見した。火山灰はシルトを挟みながら,断続的に1200 cm bsfまで確認されている。また,MD18-3531の600–603 cm bsfから暗灰色~灰色の火山灰層(以下,MD-Bテフラ),1495–1696 cm bsfから暗灰色~灰色の火山灰層(以下,MD-Cテフラ)を発見した。MD-Cテフラは所々にシルトとのラミネーションがみられ,正級化構造を繰り返す。 分析結果これらの火山灰は火山ガラスに非常に富み,鉱物および岩片は極めて少ない。軽鉱物は石英と斜長石,重鉱物は普通輝石,シソ輝石,普通角閃石,黒雲母を含む。火山ガラスはいずれも完全に水和しており,水和層と非水和層の二重構造はみられなかった。軽石型とバブルウォール型がほぼ半々の割合で含まれている。量としてはごく少量だが,褐色ガラスも含まれる。MD-Bテフラ中の火山ガラスは,未脱水状態で1.499–1.502の屈折率を有し,EPMA分析では,全分析点の平均がSiO2 = 79.53 wt%,TiO2 = 0.13 wt%,Na2O = 2.02 wt%,K2O = 3.46 wt%で,かなりシリカに富む流紋岩組成であった。MD-AとMD-Cテフラの化学組成は類似しており,未脱水状態の火山ガラスの屈折率は1.507–1.513と極めて高く,EPMA分析では,SiO2 = 75.21–77.69 wt%,TiO2 = 0.45–0.53 wt%,Na2O = 1.49–3.58 wt%,K2O = 2.16–3.20 wt%で,MD-Bテフラに比べるとシリカに乏しい流紋岩組成を示した。火山ガラスのみを集め,酸分解法により微量元素組成を測定したところ,いずれの火山ガラスにおいてもNb-Taの負異常とPbの正異常,高いLILE/HFSEを示した。また,REEパターンはLREEからMREEにかけては左上がりで,Euの負異常が明瞭に認められ,MREE~HREEはほぼフラットである。ただしMD-Bテフラは,他のテフラに比べてCsに富み,高いLREE/MREEおよび顕著なEuの負異常を示す。 屈折率および主要元素・微量元素組成の類似性より,コアサイトMD18-3530のMD-AテフラとコアサイトMD18-3531のMD-Cテフラは,同一のテフラ層と考えられる。MD-Bテフラは,MD-A, -Cテフラとは異なる給源あるいは噴火イベントに由来する。 南西諸島の周辺には,北東に九州のカルデラ群,北に沖縄トラフ,北西に台湾の活火山群(大屯火山群,亀山火山),南西にフィリピン諸島がある。本発表では,これらの地域で報告されている火山岩や火山灰の化学組成などに基づき,給源の可能性がある火山地域についても議論する。引用文献[1] Babonneau, N. and Ratzov, G., 2018, MD214/EAGER cruise, RV Marion Dufresne.

  • 松原 典孝, 佐野 恭平, 中嶋 灯奈, 藤原 泰誠, 八木 公史, 高橋 崚, 川合 功一
    セッションID: G-P-8
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    兵庫県北部,豊岡市の円山川沿いには,松山基範博士が世界で初めて地磁気逆転現象を提唱するきっかけとなる研究が行われた玄武洞がある(Matuyama, M., 1929).玄武洞周辺にはアルカリ玄武岩からなる溶岩やスコリアが分布し,それらは大きく玄武洞玄武岩と赤石溶岩に分けられる(玄武洞団体研究グループ,1991).また,これら玄武岩の絶対年代は,川井・広岡(1966)によって1.61 MaのK-Ar年代が,先山ほか(1995)によって玄武洞溶岩のかんらん石玄武岩について1.53±0.06Ma, 玄武洞対岸の伊賀谷の無斑品質玄武岩について1.75±0.14MaというK-Ar年代が報告されている.  これらの玄武岩溶岩は,その分布から玄武洞の対岸に噴火口があり,そこから流れ出した溶岩か当時の谷の地形に沿って流れ下ったものと考えられている(鈴木,1925;玄武洞団体研究グループ,1991).しかし,玄武洞玄武岩が活動する直前の古環境についての具体的な議論については不十分である.また,玄武洞の対岸にあるスコリアが,玄武洞玄武岩の活動に関連して形成したかどうかも十分議論されていない. 今回,玄武洞において,玄武洞溶岩と考えられている玄武岩溶岩と,その基盤となる河川堆積物と考えられる上方に細粒化する未固結礫岩砂岩シルト岩互層の境界付近において,ペペライトと考えられる玄武岩と砂の混在相が,玄武洞の対岸に原地性ハイアロクラスタイトと考えられるジグソーフィット構造のある玄武岩を見出した.また,玄武洞周辺において,下部に砂との混在相を有する溶岩が玄武洞溶岩と別のユニットであり,玄武洞溶岩の下部に溶岩の境界があることを見出した.そこで,玄武洞溶岩と玄武洞溶岩の下位に当たるものと考えられる下部に混在相を有する玄武岩,玄武洞の対岸に露出するジグソーフィット構造のある玄武岩,そして玄武洞の対岸二見山付近に分布するスコリアを対象にK-Ar年代を行った.その結果,玄武洞玄武岩からは今までと矛盾しない年代値(1.64±0.09Ma)が出たが,それ以外では玄武洞玄武岩から報告されていたものより古い,約2Ma前後のまとまった年代値(玄武洞下玄武岩・砂礫互層混在相2.19±0.10Ma, 玄武洞対岸ジグソーフィット構造のある玄武岩2.10±0.09Ma, 二見山付近に分布するスコリア2.04±0.23Ma)が見いだされた.これは,玄武洞玄武岩が活動する以前にも玄武岩が噴出する火山活動があり,スコリア丘はその活動で形成したことを示唆している.また,ハイアロクラスタイトや,母岩と火山岩の同時性を示す混在相,ペペライト(Skiling, et. al., 2002など)が河川堆積物中に存在したことは,これら火山活動が起きた際の古環境が,一部水域を伴う河川環境だったことを示唆している. <引用文献>玄武洞団体研究グループ(1991)兵庫県北部玄武洞地域の第四紀火山岩の地質と岩石, 地球科学. 45, 131-144.川井直人・広岡公夫(1966),西南日本新生代火成岩類若干についての年代測定結果(演旨),総合討論会資料:年代測定結果を中心としてみた日本の酸性岩類の形成時期,日本地質学会関連4学会連合学術大会総合討論会資料集, 5-5.Matuyama, M. (1929) On the direction of magnetization of basalt in Japan, Tyosen and Manchuria, Proc. Imp. Acad. Japan, 5, 203-205. 先山徹・松田高明・森永速男・後藤篤・加藤茂弘(1995)兵庫県北部の鮮新世~更新世火山岩類-K-Ar年代・古地磁気・主化学組成-,人と自然,6,149-170. Skilling, I. P., White, J.D.L. and McPhie, b, J.(2002)Peperite: a review of magma–sediment mingling, Journal of Volcanology and Geothermal Research, 114, 1–2, 1-17. 鈴木醇(1925)但馬玄武洞附近の地形に就いて,地理学評論,1,4,356-365.

  • 川口 健太, 木村 光佑, 中野 伸彦, 足立 達朗
    セッションID: G-P-9
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    鳥取県西部に分布する江尾構造帯[1]は最大で東西約5 km、南北約1.5 kmの楕円形分布域を有し、堆積岩を主体とし一部に安山岩–デイサイト質の火山角礫岩、貫入岩が認められる。江尾構造帯はその北縁部でマイロナイト化とカタクラサイト化を被った花崗閃緑岩と接し、それらはジュラ紀を主体とする江尾花崗岩[2][3]と考えられている。江尾構造帯の南縁部はジュラ紀の高P/T型智頭変成岩と走向N82°W傾斜82°Nの断層で接する。また江尾構造帯はその北西–西側において白亜紀–古第三紀花崗岩に貫入され、北東側では第四紀の火山噴出物に被覆される。江尾花崗岩とそれに随伴する片麻岩類は飛騨帯の西方延長部と考えられており[3][4]、その南縁に位置する江尾構造帯は、その岩相や飛騨地域における飛騨帯と飛騨外縁帯との構造的関係に類似することから、古生代の飛騨外縁帯や長門構造帯との関連が指摘されてきた[1]。 江尾構造帯の堆積岩は礫岩と砂岩を主体とし泥岩を含む。これらには共通して黒雲母が定向配列せずに成長しており、一部にはざくろ石を伴うことから、接触変成作用の影響が強く認められる。礫岩には極めて淘汰不良な石英砂岩角礫が卓越する。石英砂岩はその強固な物理的性質から風化を免れ礫として残存しやすいため、後背地地殻物質にあって選択的に濃集している可能性が高い。5 mm以上の石英砂岩のクラストを含まない石英質ワッケ2試料の砕屑性ジルコンのうち、コンコーダントなポイント(n = 93+82)はそれぞれ72、62 %の先カンブリア時代のジルコンを含み、2000–1800 Ma (48–50 %)に最大のピークを持つ。中–新原生代のジルコンは5 %以下しか含まない。副次的なピークは共通して〜270–230 Ma (3–12 %)、〜200–175 Ma (15–19 %)、〜110–100 Ma (3–6 %)で、最若ジルコン年代はそれぞれ99.6 ± 4.0 Ma、98.8 ± 2.4 Maを示す。原日本列島を含む東アジア東縁部において、火山岩の形成を含む火成活動が約110 Ma以降に活発化したことを考慮すると、堆積年代はおよそ100 Ma頃と推定できる。一方、石英質アレナイトの砕屑性ジルコン(n = 108)は先カンブリア時代のジルコンに極めて乏しく(2.8 %)、最若ジルコン年代は160.5 ± 3.8 Maを示すことから、ジュラ紀後期、もしくは白亜紀前期に堆積したと推察できる。 江尾構造帯南部では安山岩–デイサイト質の火山砕屑岩が卓越し、その一部は石英砂岩–石英質砂岩と礫岩の角礫-亜円礫を多量に含む。デイサイト質火山砕屑岩の基質部分に含まれるジルコンは90.9 ± 1.0 Ma (MSWD = 2.2, n = 13)の重み付き平均年代を示す。江尾構造帯の堆積岩類に貫入する堆積岩角礫–亜円礫を含まない安山岩質貫入岩のジルコンは77–69 Maを示す。 江尾構造帯北縁部では、江尾構造帯の礫岩が江尾花崗岩の花崗閃緑岩と走向N58°W傾斜88°Nの断層で接し、両者は共通してカタクラシスを被っている。花崗閃緑岩2試料のジルコンの重み付き平均年代は68.1 ± 0.8 Ma (MSWD = 1.3, n = 20)、68.6 ± 0.8 Ma (MSWD = 1.9, n = 23)を示す。また江尾構造帯北西部における非変形花崗岩のそれもほぼ同時代の68–64 Maを示す。 以上の結果をまとめると、①江尾構造帯の主体をなす砂岩はジュラ紀後期から白亜紀中頃の約100 Maに堆積したこと、②白亜紀中頃の砂岩には約60%を超える割合で先カンブリア時代の年代を持つ砕屑性ジルコンが含まれること、③江尾構造帯南部では約91 Maに安山岩–デイサイト質の火山砕屑岩の形成を主体とする火成活動が生じたこと、④白亜紀末期にかけて安山岩質から花崗岩質マグマが貫入したことが判明した。これらのことから、江尾構造帯がこれまでに考えられてきたような飛騨外縁帯や長門構造帯に対比可能な古生代の構造帯ではなく、むしろ白亜紀の関門層群に年代、岩相ともに類似することが明らかとなった。また従来ジュラ紀に貫入したと考えられてきた江尾花崗岩のうち、江尾構造帯の北縁部で接するものは白亜紀末期の68 Maに貫入したことが明らかとなった。これは白亜紀の江尾構造帯の礫岩と断層で接しており、両者ともにカタクラサイト化を被っている。このことは、両者が接触する断層運動が少なくとも68 Ma以降に生じたことを示している。引用文献: [1] 石賀ほか (1991) 島根大学地質学研究報告, 10, 53–56. [2] 石原ほか (2012). 地質調査研究報告, 63, 227–231. [3] Kawaguchi et al. (2023) Gondwana Research, 117, 56–85. [4] 石賀ほか (1989) 地質学雑誌, 95, 129–132.

  • 髙橋 啓太, 松岡 篤
    セッションID: G-P-10
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【はじめに】 新潟県の糸魚川市には様々な年代の地質体が複雑に分布しており,ペルム系の地質体の1つとして小滝層が定義されている.ヒスイ峡として知られる小滝川や青海川周辺に分布し,秋吉帯の青海石灰岩や中生代の来馬層群,赤禿山層とは断層で接している.小滝層は層序や形成過程について不明な点が多く,宇次原(1985)や河合・竹内(2001),田沢ほか(2002)は付加体として認識している一方で,長森ほか(2010)は岩相や産出化石が飛騨外縁帯と類似している点や付加体の特徴が見られない点を指摘し,飛騨外縁帯の正常層であると述べている.そこで,本研究では小滝層の岩相や構造について調査し,形成過程を明らかにすることを目的として設定した.【研究手法】 小滝層の模式地である小滝地域の小滝川沿いと、青海川が流れる橋立地域,青海川の支流である尻高沢を対象とした野外調査を実施した.岩相や構造について記載し,ルートマップや柱状図,地質図を作成した.露頭からは適宜岩石サンプルを採取し,薄片を作成して観察した.【調査結果】 小滝層の岩相は混在岩を主体として,砂岩,礫岩,凝灰岩,石灰岩のほかに,玄武岩やドレライトといった緑色岩類からなる.混在岩は黒色泥岩を基質とし,緑色岩,砂岩,石灰岩を含む.多くが緑色岩ブロック主体であるが,小滝川沿いの西側には石灰岩ブロック主体のものが一部存在する.混在岩についてはブロックの伸張度合いから変形の基準を設け,変形の強弱に応じて露頭を分類した.その結果,いずれの混在岩についても露頭スケール,顕微鏡スケールともに変形構造が確認できたが,小滝川沿いの露頭については,東側では変形の激しい混在岩が,西側ではほとんど変形を受けていない混在岩が見られるなど,場所によって変形の度合いに大きく差があることが分かった.礫岩の露頭は小滝川,尻高沢の両地点で確認している.いずれも砂岩や泥岩,凝灰岩などの堆積岩礫主体であり角礫もしくは亜角礫を示すが,尻高沢の礫岩はほとんど変形を受けていない点,小滝川沿いの礫岩には石灰岩礫が含まれ,フズリナなどの化石が見られる点が相違点として挙げられる.橋立地域には赤色チャートの露頭が存在するほか,下位から層状チャート,凝灰岩,珪質泥岩,泥岩で構成されるチャート砕屑岩シーケンスが確認できた.【考察】 小滝層に広く分布している混在岩は,付加体を特徴づける岩石の1つである.そこで,本研究では小滝層の混在岩の特徴に着目した.小滝層の混在岩は全体的に変形構造が見られ,ブロックも伸張している.また,方解石の脈も観察できる.このことから,小滝層の混在岩は造構性メランジュの特徴を有していると言える.ただし,小滝川沿いで観察したほとんど変形していない混在岩露頭の存在や場所による変形度合いの差異から,すべて造構性メランジュであると断定することはできない.橋立で観察されたチャート砕屑岩シーケンスもまた付加体を特徴づける産状の1つだが,本調査で観察した混在岩中に赤色チャートのブロックは含まれていなかった.よって,露頭の位置は小滝層の分布域内ではあるが,小滝層には属さないものとして判断した.こうして得られたデータをもとに,長森ほか(2010)で示された小滝層の分布域を,小滝川沿いの来馬層群を境として西側地域と東側地域,橋立地域の計3つのユニットに区分した.本調査で確認できた岩相を基に周辺の他のペルム系と比較すると,岩相の多くは白馬岳地域の栂池コンプレックス(中野ほか,2002)と類似している.国内のペルム系と比較した場合,超丹波帯の大飯層は泥質混在岩や堆積岩礫主体の礫岩が見られる,変形が全体的に延性かつ程度の差が見られるといった点で共通している.  文献:河合政岐・竹内 誠,2001,大阪微化石研究会特別号,12,23-32. / 竹内誠, 2010, 5万分の1地質図幅「小滝地域の地質」,6.飛騨外縁帯,産総研地質調査総合センター, 37-41. / 竹内誠,2002,5万分の1地質図幅「白馬岳地域の地質」,3.古生界,産総研地質調査総合センター,9-21. / 田沢純一ほか,2002,日本地質学会第109年学術大会見学旅行案内書,27-39. / 宇次原雅之,1985,総合研究「上越帯・足尾帯」研究報告,2,159-168.

  • 大橋 聖和, 澁谷 奨, 改原 玲奈, 辻 智大
    セッションID: G-P-11
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    2016年熊本地震を引き起こした布田川断層の後期更新世以降の活動史解明,および地下浅部の断層帯におけるルミネッセンス年代のリセットを検証することを目的に,布田川断層の浅部ボーリング掘削を行った.本発表では掘削の概要を説明するとともに,コア試料中に認められる変形構造と阿蘇火砕流堆積物の層序について予察的に発表する.掘削地点は2016年熊本地震において最大の右横ずれ変位量が認められた益城町堂園地区で,京都大学(2018)において最大深度G.L.–691.7 mを含む3孔(FDP-1, FDP-2, FDB-1)のボーリングが掘削された場所である.本研究で実施したボーリング掘削(FFD-1)は,掘削孔径φ86 mm,掘削角度69°,断層との離隔距離54 m,掘削長131 mで,京都大学(2018)の地下断面図においてG.L.–100 m付近で断層と交差するように計画した.コア採取は全区間で実施し,断層に近い80〜131 m区間ではルミネッセンス信号がリセットしないよう,コアフロー全体を通して遮光状態を維持した.コア試料の観察の結果,試料中には複数の阿蘇火砕流堆積物が含まれることが分かった.49.8 m以浅の区間は軽石を多く含む白色〜淡褐色の非溶結凝灰角礫岩であり,Aso-4火砕流堆積物(小谷軽石流)に相当する.49.8〜131 m区間はスコリアを多く含む暗灰色〜灰色の溶結凝灰岩を主とし,Aso-3火砕流堆積物もしくはより下位層に相当する.溶結の程度には強弱が認められ,またシルトの薄層を挟むなど複数のユニットもしくは阿蘇火砕流堆積物からなると考えられる.これに対応する層準が得られているFDP-1および FDP-2を含めて,コアのかさ密度および帯磁率を測定した結果,これらの値が溶結の程度を表す指標として有効であり,コア間の対比が可能であることが分かった.一方,102.1〜102.3 m区間には複合面構造を有する傾斜した断層ガウジ帯が認められ,これを境に堆積物の層相が変化する.本ボーリング掘削は全区間において回収率がほぼ100%であり,他に明瞭な断層ガウジは認められないことから,本区間の断層ガウジ帯が布田川断層本体であると考えられる.【謝辞】本研究では,原子力規制庁の委託業務として京都大学より実施された布田川断層掘削プロジェクトで取得されたデータおよびコア試料を使用させて頂きました.記して感謝申し上げます.【引用文献】京都大学 (2018), 追加ボーリングコアを用いた断層破砕物質の分析 ボーリングコア及びボーリング孔を用いた応力測定 ②布田川断層(3/3). 平成29年度原子力規制庁委託成果報告書, 平成30年3月.

  • 天野 敦子, 清家 弘治
    セッションID: G-P-13
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    人口が集中する都市と工業地帯を後背地に持つ伊勢湾,三河湾は湾口部が狭く,閉鎖性の強い内湾である.1950年代から1970年代にかけての高度経済成長に伴う産業生産の急増の影響を受けて,伊勢湾,三河湾の海洋環境の汚染,汚濁が顕著となり,海洋観測や海水,堆積物などの試料採取による実態把握と物質収支を目的とした研究が行われてきた(例えば,陶ほか,1982;西村,1976).特に,夏季に発生する貧酸素水塊は漁業資源に被害を及ぼす深刻な問題となっている(中村・黒田,2005).物質循環を定量的に捉える上で,堆積過程の時空間変化は海底への移動,蓄積量を評価する情報となる.そこで本研究では,海底表層堆積物を用いて粒度,有機化学特性,鉱物組成の空間分布を明らかにし,現在の堆積過程と海底環境について検討した.  産業技術総合研究所では伊勢湾,三河湾において2006年に26地点でスミスマッキンタイヤ―グラブ採泥器を用いて,2018年には18地点で最大コア長40 cmのマルチプルコアラ―を用いて表層堆積物を採取した.これら表層堆積物を用いて,粒度,全有機炭素(TOC)・全窒素(TN)・全硫黄(TS)濃度,有機炭素・窒素安定同位体比(δ13Corg,δ15N),XRDによる鉱物組成の分析を行った. 粒度結果は伊勢湾,三河湾の湾奥,湾央部では6φ以上のシルトが堆積し,湾口部に向かって粗粒化することを示す.この粒度分布パターンは湾奥,湾央部では潮流は遅く,停滞的な水理環境で,湾口部では潮汐流が速くなることを示す.TOC,TN,TS濃度は湾奥,湾央部で高いことを示す.これら結果は,停滞的な環境であるため,有機物負荷量が多く,酸素の少ない還元的な海底環境であることを示す.堆積物中の有機物起源の指標となる全有機炭素全窒素量比(C/N比)とδ13Corg,δ15Nは湾奥部では海洋プランクトン起源の有機物が大部分を占めるが,河口沖合や湾口部では陸上植物起源の有機物の寄与が増加することを示す.鉱物組成の変化は粒度との関係が強いが,松阪―伊勢沖合では白雲母の割合が高くなり,伊勢湾南西部からの流入河川の供給作用の影響を受けていることを示す. さらに,1973年から1984年にかけて採取された堆積物を用いて作成された土地沿岸利用図の粒度結果を基に1970年代の伊勢湾,三河湾における表層堆積物の粒度分布と本結果を比較した.その結果,1970年代から2000年代にかけて鈴鹿市沖と知多半島西方海域の表層堆積物が細粒化したことを示す.これら細粒化の原因として,潮流速度の減少や河川からの供給物の細粒化などが考えられ,今後,柱状試料を用いて検討する.引用文献:陶ほか(1982)水路部研究報告,17,379-393;西村(1976)地質調査所月報,27,789-805;中村・黒田(2005)綜合郷土研究所紀要,50,239-252

  • 渡邉 和輝, 小俣 雅志, 渋谷 典幸, 杉本 淳, 足達 健人
    セッションID: G-P-14
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    1.はじめに  2016年熊本地震で大きな被害を与えた布田川断層沿いには明瞭な変位を伴う地表地震断層が出現し、多くのトレンチ調査が実施されている(堤ほか,2018,上田ほか,2017など)。これまで我々は、メイントレースから離れた箇所での変位(副断層)を対象としたトレンチについても実施してきた。今回、LC-InSARによる「位相不連続ライン」(小俣ほか, 2017)が検出された熊本県阿蘇郡西原村小園地区において、メイントレースから離れた箇所での副断層の性状把握をおこなうためにトレンチ調査を実施した。また、フィールド調査で用いられる場合が多い構造解析をトレンチサイト内で実施し、断層メイントレースから離れたトレンチ地点における変位形成場の検討をおこなった。2.断層と地層の概要  トレンチ内に認められる断層について、それぞれの性状よりF1、F2、F3に分類した。F1は1~8cm程度の開口部をもち、開口部には充填物を含まない。F2は剪断面の間隙に物質が充填する構造で、充填物は周囲の堆積物から構成される。F3は地層に変形を与え、密着した剪断面をもつ。見かけ10~30cmの変位を地層に与えており、フラワーストラクチャーが発達する箇所もみられる。3.構造解析  トレンチ内で見出されたF1およびF3の断層データについて、シュミットネットによる下半球等面積投影を実施し、トレンドの解析を実施した。F1およびF3は概ねWNW-ESEからE-W走向(N80°W±10°)のものが多く、LC-InSARによる位相不連続ライン(約N60°E方向)とは斜交する。また、シュミットネットからは、F1はF3に比べて剪断面の傾斜角が大きい傾向が読み取れる。4.活動履歴と変位形成場について  トレンチ内で見出された断層は不連続ラインと同様の方向のものは少なく、40°〜80°程度で斜交する方向が卓越する。これは剪断作用によって形成される複合面構造と類似しており、F1はT面、F3はR面に相当すると考えられる。よって、メイントレースから離れた箇所における副断層でも横ずれ変位が形成されていると考えられる。また、F1(熊本地震イベント)の構造解析から南北に近い引張応力方向が推定され、熊本地震の震源断層と同様に現在の九州中部の一般的な応力場(Matsumoto et, al. 2015)において形成されたと考えられる。 [引用] Matsumoto et, al.(2015) Earth, Planets and Space, 67:172. 小俣ほか (2017) 日本活断層学会2017年秋季学術大会講演予稿集 P-4. 堤ほか(2018)活断層研究49, P.31-39. 上田ほか(2017)日本地質学会第124 年学術大会講演要旨,p253.

  • 相馬 朱里, 北沢 俊幸
    セッションID: G-P-15
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    1.はじめに 関谷断層は栃木県北部を南北に縦断する全長約38㎞の活断層で,西傾斜の逆断層である.旧黒磯市百村地区でのトレンチ調査から最新の断層活動は14~15世紀以降で,それ以前の4000~5000年前頃にも断層活動があった(宮下ほか,2002a).また旧塩原町関谷地区でのトレンチ調査から,断層活動は新しい方からイベント1(最新活動):AD1000年頃以降,イベント2:BC800~3600年,イベント3:BC4000~6400年の3回認められる(宮下ほか,2002b).このように活動年代について理解が進む一方で,関谷断層を観察できる露頭がないため断層面の記載に乏しく,断層の基本的特徴について不明なことが多かった. 今回,上記2つのトレンチ調査地点の中間地である蛇尾川で関谷断層露頭を3箇所で発見した.先第四系を切っている関谷断層が確認されたのは初めてで,断層面の走向傾斜,変位量,横ずれ成分,破砕帯幅などの基本情報を得ることができた.また断層ガウジの熱ルミネッセンス(TL)年代測定を行い,断層活動履歴について新しい知見が得られたので報告する. 2.断層露頭 発見された3箇所の断層露頭は蛇尾川右岸に位置し,活断層詳細デジタルマップ(中田・今泉,2002)で関谷断層の位置が推定されている付近である.都市圏活断層図「塩原」(今泉ほか,2005)ではこれより東側(下流側)に関谷断層の位置を推定しているが,断層露頭から下流は約500m以上の連続露頭で低位段丘堆積物が露出し,断層は見られない. 関谷断層が最も明瞭な露頭(写真)では,東側(下盤)の低位段丘堆積物と西側(上盤)の珪長質火山岩が断層で接している.珪長質火山岩は断層面からの垂直距離が約13mの幅で破砕されており,粘土鉱物化が進んだ断層ガウジは青緑色か白色を呈している.それ以上離れた西側では破砕されていない珪長質火山岩がみられ,中期中新世のものとされる(吉川,2006).断層東側の低位段丘堆積物には破砕や変形は認められない.断層両側の低位段丘堆積物と破砕された珪長質火山岩を覆う,厚さ約30cmの沖積礫層は断層で切られていないことから,断層の最新活動以後の蛇尾川河床堆積物と推定される.低位段丘堆積物の基底面とその下位の珪長質火山岩は露出していないが,断層面は約3m露出することから,傾斜変位はそれ以上である. 今回発見した3箇所の露頭は約100mの範囲でほぼ一直線上に並んでおり,これらを繋いで推定される断層の走向はN27°Wである.ひとつの露頭では明瞭なスリッケンサイドが見られ,その走向傾斜はN9°W54°Wで,スリッケンラインのレークは82-84°だった.この露頭で見られる関谷断層の最新の活動は,わずかに右横ずれを伴う逆断層運動であったと言える.3.熱ルミネッセンス(TL)年代測定 断層面から0〜10cm の範囲で断層ガウジを採取し,断層運動の摩擦熱で加熱されてから現在までの蓄積線量を求めた.水洗による粘土除去,篩い分けによるシルトの抽出,塩酸処理,フッ酸処理の後,ルミネッセンス(TL/OSL)自動測定システム(Hashimoto et al., 2002)でTL強度を測定した.測定により得られたグローカーブのピークを含む250~350℃で付加線量法による解析を行ったところ,16392±481mGyの蓄積線量が得られた.断層ガウジの年間線量は,ゲルマニウム半導体検出器により求めたU,Th,K含有量と,宇宙線量から算出し,2.24±0.15mGyが得られた.断層面から10cmまでの範囲が断層運動による摩擦熱で250~350℃まで昇温した活動年代は蓄積線量/年間線量で求められ,7320±531年と見積もられる. 宮下ほか(2002b)によるイベント3の年代はBC4000~6000年であり,今回のTL年代もこの期間内に含まれる.250~350℃の摩擦熱を発生するほどの大規模な断層活動はイベント3が最後で,それより後には起こっていないと考えられる.この露頭から約7300年前以降の新しい断層活動を示す根拠はないが,宮下ほか(2002a,2002b)のイベント1,イベント2は摩擦熱が250~350℃より低く,イベント3に比べて小規模な断層活動だったと考えられる.文献Hashimoto T. et al., 2002. J. Nucl. Sci. Technol, 39,108-109.今泉俊文ほか,2005.1:25,000都市圏活断層図「塩原」.宮下由香里ほか,2002a.活断層・古地震研究報告,2,1-11.宮下由香里ほか,2002b.活断層・古地震研究報告,2,13-23.中田 高・今泉俊文,2002.活断層詳細デジタルマップ.吉川敏之,2006.地質学雑誌,112,760-769.

  • 廣瀬 亘
    セッションID: G-P-16
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【はじめに】 2018年9月6日午前3時6分に発生した平成30年(2018年)北海道胆振東部地震(以下,胆振東部地震:Mjma6.7)では,安平町,厚真町およびむかわ町の丘陵~山地で地震直後にテフラ層すべりが発生した.テフラ層すべりの大半では,斜面に堆積していた後期更新世~完新世テフラが成層構造を保ったまま滑落したことが指摘されている(廣瀬,2019;石丸ほか,2020など).一方,テフラ層すべりは必ずしも崩壊発生域の斜面全面で発生したわけではなく,斜面上部の遷急線より下位で,斜面の凹状地形において顕著に発生した傾向が認められる.本研究では,崩壊に寄与した地質体の斜面における物性の不均一について地質学的アプローチにより解明することを目指している.【崩壊に関与した地質】 テフラ層すべりが多発した厚真町,安平町(旧早来町),むかわ町と,テフラ層すべりが発生しなかった千歳市・苫小牧市・安平町(旧追分町)で,Ta-dテフラを中心に,後期更新世~完新世テフラを対象に現地調査を実施した.テフラ層すべりが発生した斜面では,Ta-dテフラは下位から白色~灰白色細粒火山灰(i層),細粒で淘汰の極めてよい降下軽石堆積物(ii層),灰褐色で緻密かつ細粒の気泡を有する降下軽石堆積物(iii層),赤褐色で細粒~やや粗粒な気泡を有する降下軽石堆積物(iv層),暗灰~茶灰色でやや比重の大きな降下スコリア堆積物(v層)で構成される.層厚分布および軽石の特徴から,iii~iv層は古川ほか(2010)のTa-d2,v層はTa-d1に相当する.Ta-d中には白色で極めて高含水な粘土化軽石(argillized zone:az)が認められ,千木良ほか(2019)の粘土化軽石層(argillized pumice),雨宮・中川(2019)の粘土化帯に相当する.一部の例外を除き,azはiii層中に形成されている.斜面の凹部では側方連続性がよい一方で,斜面の尾根部ではあまり発達しない傾向がある.Ta-d中,ii層の上面~iii層下部にすべり面が形成されている場合が多い.テフラ層すべりが発生しなかった千歳市,追分町などでは,iii層はよく発達するものの,azは規模が小さく,認められないことも多い.【斜面に堆積したTa-dテフラ層の物性】 厚真町幌内の,テフラ層すべりが発生した斜面に隣接し崩落を免れた谷頭凹地でテフラ層の物性を検討した.この谷頭凹地におけるTa-dテフラの層厚は100~130cm前後(検土杖で確認)であり,凹地の底付近では極めて高含水で荷重により泥濘化するazが厚さ25cm前後発達している.Ta-dテフラの直下には,厚さ数cm程度の火山灰土を挟んでこの地域の基盤を構成する川端層の砂岩が分布する.Ta-d最下部付近(貫入不能深度から10cm程度上位)において,せん断強度を土研棒(土壌強度検査棒:佐々木,2010)によるベーンコーンせん断試験で求めた.結果は,凹地底部ではCdk=4.8~10.9kN/m2,φdk=4.6°,凹地縁辺をなす比高1~2mの低尾根部ではCdk=3~10.2kN/m2,φdk=9~21.3°となった.一方,テフラすべり発生箇所の側端崖でiii層(非粘土化部)を対象に水平方向に実施したせん断試験では,Cdk=13.5kN/m2,φdk=9.9°となった.azにおいて粘着力・内部摩擦角ともに小さくなる傾向が認められるが,低加重時の最大回転トルクに関するデータが不足しており,引き続き検証を進める. 本研究で科学研究費補助金(基盤B一般:課題番号20H02404)を使用した.【引用文献】雨宮和夫・中川雄平(2020)地震によるテフラ層の高速地すべり機構.地震による地すべり災害-2018年北海道胆振東部地震,「地震による地すべり災害」刊行委員会,210-219.古川竜太・中川光弘(2010)樽前火山地質図.1 : 30,000. 地質調査総合センター.千木良雅弘・田近 淳・石丸 聡(2019)2018年胆振東部地震による降下火砕物の崩壊:特に火砕物の風化状況について.京都大学防災研究所年報,62B,348-356.廣瀬 亘・川上源太郎・加瀬善洋・石丸 聡・輿水健一・小安浩理・高橋 良(2018)平成30年北海道胆振東部地震に伴う厚真町およびその周辺地域での斜面崩壊調査(速報).北海道地質研究所報告,90,33-44.石丸 聡・廣瀬 亘・川上源太郎・輿水健一・小安浩理・加瀬善洋・高橋 良・千木良雅弘・田近 淳(2020)北海道胆振東部地震により多発したテフラ層すべり:地形発達史的にみた崩壊発生場の特徴.地形,41,147-167.佐々木靖人(2010)土層強度検査棒による 斜面の土層調査マニュアル(案).土木研究所資料,第4176号,40p.

  • 森 啓悟, 改田 行司, 万木 純一郎, 畠中 与一, 原 大輔, 和田 茂樹, 水野 貴文, 山崎 智美, 棟方 有桂
    セッションID: G-P-17
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【1.はじめに】 微生物はあらゆる環境に生息しており、地下水においても存在が報告1)されている。細菌叢解析は、地下水に含まれるDNAから生息する細菌を検出・分類することができ、地下水の流動経路・混合率等を把握する先端技術として発展が期待されている。 本稿では、建設工事(トンネル、地すべり対策工)が予定されている周辺地下水を対象に細菌叢解析を行うことで、地下水の水質分類および流動検討に基づいて地下水影響を予察した事例を紹介する。【2.トンネル工事による地下水影響の予察(水質分類)】 トンネル工事による渇水・減水の可能性を検討するため、湧水・井戸水・河川水を対象に主要イオン分析および細菌叢解析を実施した。当該地区は花崗閃緑岩を基盤とし、土石流堆積物・段丘堆積物が覆っている。イオン分析結果は、殆どの地点で炭酸カルシウム型(一般的な河川水~浅い地下水タイプ)に分類され、明瞭に区分することが困難であった。次に細菌叢解析を実施し細菌叢の門における相対存在量を比較した結果、河川近傍に位置する井戸水と河川の細菌叢パターンに類似性が見られ、河川水の地下水への混入が示唆された。これらの分析結果より、トンネル工事による井戸への影響は軽微と結論づけた。【3.地すべり対策工による地下水影響の予察(地下流動検討)】 地すべり対策予定地の上流に位置する池水への工事影響を検討するため、細菌叢解析を実施し主座標解析を用いて池と地下水の関係性を把握し地下水流動を考察した。主座標解析の結果、細菌叢の特徴は第1と第2主成分に縮約され、第1主成分得点は池の水の寄与を反映していると考えられた。池より南側に位置する地下水サンプルは池サンプルの近くに配置された。北から南側への地下水の流動が推察でき、これは、地形および地下水等高線図による地下水流動方向と調和的である。一方、南東側に位置する地すべりブロック周辺では池とは大きく異なる得点であった。池の浸透水は地すべりブロックへの流向は想定されないものと考えられ、地すべり対策工事による地下水影響は軽微と結論づけた。【4.まとめ】 地下水中の細菌叢を詳細に分類することにより、地下水の起源や分類の検討に適用できることが示された。また、特徴的な生物種に着目することにより、地下水流動(浸透経路)の検討にも適用可能であることが示された。今後、同様の細菌叢解析が数多く実施され、知見が更に蓄積されることで、有用な地下水流動検討手法として確立されることが期待される。 文献杉山歩、辻村真貴、加藤憲二 2020 地下水流動系という視点からみる微生物動態研究の課題と展望 地下水学会誌 第62巻第3号p431~448

  • 宮崎 一博, 阿部 朋弥, 水落 裕樹
    セッションID: G-P-18
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    凡例を構造化したシームレス地質図V2*1(以下,シームレス)を用いて地すべり発生面積分率とサイズ分布の地質依存性の解析を行った.以下では,地すべりをそのサイズ・速度等を問わず広義の斜面崩壊の意味で使用する.今回対象とした地域とデータは,九州北西部佐世保市を中心とした南北及び南北約100キロの矩形領域の比較的規模の大きな地すべり移動体*2と,北部九州で近年の豪雨により形成された比較的規模の小さな地すべり崩壊域面積(以下,移動体面積と同一として扱う)である.前者は後者にくらべ十分長い時間内に累積して形成されている. 地質図の凡例を単一の変数とした場合,その値は離散的となる.シームレスの凡例はそのままでは,約2000の離散値を持っている.この凡例を,年代(地層岩石ができた年代),岩石(岩石の種類),岩相(地層岩石の形成環境)の3つの変数に分解し構造化した.そうすることで,それぞれの変数が取り得る離散値の数は高々数10と大幅に減じることができる.すなわち,地質と地すべり地形発達の因果関係の見通しを良くすることができる. 解析では,地質図ポリゴン,地すべり移動体ポリゴン(小規模な地すべりの場合は,崩壊領域のポリゴン),及び両者の交差を計算し移動体ポリゴンに各変数の離散値を割り振った.各離散値iごとに,移動体ポリゴンの総面積Ai,地質ポリゴンの総面積Giを集計した.ある離散値iに対し,Fi = Ai/Giはそのiに対して地すべり移動体がどの程度発達するかを表す.北西九州でFiが高かったのは,年代離散値では前期漸新世から後期中新世前期,岩石離散値では砂岩・泥岩・互層,玄武岩,岩相離散値では非海成層,汽水成層ないし海成・非海成混合層であった.これらは,いわいる北松型地滑り地域に分布する佐世保層群や北松浦玄武岩に相当する.それ以外では.西彼杵半島の蛇紋岩と泥質片岩でやや高かった.  地すべり発生頻度と発生規模を見積もる上で,地すべりサイズ分布を求めることが有益である.そこで,各変数の離散値iごとに集計した地すべり移動体のサイズ(面積s)分布を求めた.面積sの累積分布Hi(s)を両対数プロットすると,sの大きなところで直線になるものと,だらだらと減少する2つのタイプが求められた.前者はべき分布に,後者は対数正規分布にフィッティングできる.非線形最小二乗法でのフィッティングにより,べき分布ではべき指数-bが,対数正規分布では平均値と標準偏差が求まる.離散値ごとにサイズ分布の特徴を見ると,蛇紋岩,花崗閃緑岩,花崗岩,泥質片岩では,べき分布を示し,b = 1.0前後の値を示した.一方,北松地滑り地域に分布する砂岩・泥岩・互層,玄武岩では,対数正規分布を示した. 近年に発生した1953年西日本水害(門司),1982年長崎豪雨(長崎),2017年九州北部豪雨(朝倉)の3つの豪雨災害に伴う規模の小さな地すべりに対しても同様の解析を行った.白亜紀堆積岩地域(門司*3),新生代火山岩地域(長崎*4),白亜紀花崗岩・三畳紀〜前期ジュラ紀高圧型変成岩(朝倉*5)では,いずれもべき型を示し,前二者はb = 1.5〜1.8と比較的大きな値を示した.ただし,朝倉では,b = 1.2で,前述の規模の大きな地すべりで離散値i =深成岩及び変成岩で求められたb値に近い値となった.両者では,地すべりのサイズに大きな隔たりがあるが,背後にある形成プロセスには共通点があるのかも知れない.一方,カルデラを形成する活火山である阿蘇地域の小規模地すべり*6は,対数正規型のサイズ分布を示した. サイズ分布がべき分布になる現象は自然界によく認められる.そのような現象では,系が自己組織化臨界状態(SOC)になっているのが特徴である.地すべりについても,系がSOCになっていれば,今後発生する地すべりもべき分布に従い発生すると予想できる.すなわち,異なる地質離散値ごとに今後の地すべり発生に関して以下のリスク評価が行える.べき分布の値が大きい地域では,相対的に規模の小さな地すべりが多発する傾向が強い.一方で,値が小さい地域では,発頻度は低いが,相対的に規模の大きな地すべりが発生する傾向が強く,ひとたび発生すれば,甚大な被害が発生するリスクが高い.このように,地すべりの発生頻度・規模と地質との関係を明らかにしていくことは,地すべりのリスク評価において重要であると思われる. 引用文献 *1産総研(2022)シームレス地質図v2;*2防災科研(2014)地すべり地形分布図;*3土木学会西部支部(1957)昭和28年西日本水害調査報告書;*4国土交通省国土政策局(2017)土地履歴調査(長崎地域);*5国土地理院(2017)国土地理院技術資料D1-No.87;*6阿蘇地域土砂災害対策検討委員会(2013).

  • 辻 隆司, 小沢 光幸, 八木 正彦, 上田 良, 齋藤 雄一
    セッションID: G-P-19
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    はじめに:CCSにおける重要な検討事項の一つに遮蔽岩能力評価があり,通常コア分析によるスレショルド圧力(CO2コア貫通最低圧力:Core_Pth)で評価される。しかし,CCSは既存油ガス田で展開される場合が多く,遮蔽岩コアの存在は稀である。そこで不定形カッティングス試料を用いた水銀圧入毛細管圧力(MICP)測定結果からスレッショルド圧力(MICP_Pth)を推定し,それをCore_Pthの代用とすることがある1)。MICP測定は1試料数時間でできる。よって,MICP_PthがCore_Pthと実用的に同値とみなせるなら評価は効率化する。しかし,既報告の実データ2~4)を見ると,[Core_Pth /MICP_Pth]は0.4~31で,MICP_PthとCore_Pthは大きく乖離する場合があった。より乖離の少ないMICP_Pth推定法を探るためには,同一試料でのコア分析とMICP測定を多数行い,その関係性を整理する必要がある。ところが,コア分析は1試料数日間を要しデータ収集は容易ではない。そこで,コア分析とMICP測定を模した簡易モデルを構築し,まず乖離の再現を試みた。 モデル:二次元正方格子モデルとし,パイプ状孔隙(孔口径が各孔隙内で一定)を19800個分布した。孔隙サイズ(孔口半径r)は61種(101.30, 1.35・・・4.30Å)とし,r分布は正規分布,分布頻度はrを持つ孔隙の総面積で与えた。各孔隙面積は(2r)2とした。平均r 5000Åとし,標準偏差(SD)10000~1400間で9種選択し,入力r分布を設定した。孔隙はランダムに配置した。 Core_PthとMICP_Pthの推定:9モデルそれぞれでコア分析とMICP測定を模し,Hg圧力を徐々に増すことで大孔隙から小孔隙へと順次Hgが圧入していく様子を再現した。コア分析ではモデルの一辺からHgが圧入し対辺に最初に貫通するときのHg圧力をCore_Pthとした。MICP測定ではモデルの周囲(四辺)からHgを圧入してHg圧力(毛細管圧力Pc_Hg)-Hg飽和率(SHg)カーブを求め,カーブ形状からMICP_Pthを推定した。さらにMICP測定モデルではHgが孔隙に圧入するときのHg圧力(rに変換)と圧入Hg量から,出力r分布を求めた。 結果: 乖離規模[Core_Pth /MICP_Pth]は1.2~4.2と実データに比べて小さかった。しかし,乖離規模とSDほかに関連性が認められた。SD1800~1450間では乖離規模1.3~4.2と,その他区間(乖離規模1.2~1.5)に比べ大きい傾向がある(図A)。また,このときMICP測定モデルによる出力r分布のr淘汰度が低下した(図A)。一方,Core_Pthに対応する入力累積孔隙数fractionは全体を通じて0.50~0.53(図A)とほぼ一定,すなわちCore_Pthに対応するrは入力r分布のほぼ中央値であった。 解釈:モデルではr分布を持つ孔隙をランダムに配置した。このとき中央値rよりも大きな孔隙はモデルの対辺間を連続する。今回平均r(5000Å)をr分布範囲(20~20000Å)の比較的大きい値に設定したので,SDが小さくなるのに伴う平均r付近の孔隙数増加は中央値rを大きくする。今回この効果がSD1800~1450区間で大きくなる。したがって,この区間でSDが小さくなるのに伴い,Core_Pthに対応するrが60Å⇒2000Åと急激に平均rに近づく(図A)。このとき出力r分布(MICP測定モデル)が広がるとともに多峰化し,r淘汰度が低下する(図A,B)。この多峰化はPc_Hg-SHgカーブの形状を階段状にするのでMICP_Pthの読み取り位置が不安定となり,Core_Pth とMICP_Pthの乖離が大きくなる(図A,B)。 今後の課題:今回の孔径分布や孔隙面積などの設定は現実の岩石とは大きく異なる。これらを改定することにより実データで認められたような大きな乖離を再現し,その乖離要因の検討を通じてMICP_Pth推定手法の改善を試みたい。 参考文献1)徂徠・古宇田, 2012:地学雑誌, 121, 13-30. 2)Guiseほか, 2017: Paper SCA2017011. 3)日本CCS調査株式会社, 2021: 平成31年度二酸化炭素貯留適地調査事業委託業務報告書,p.860. https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2019FY/030267.pdf 4)日本CCS調査株式会社, 2022: 令和2年度二酸化炭素貯留適地調査事業委託業務報告書,p.667. https:www.meti.go.jp/meti_lib/report/2020FY/000684.pdf

  • 加瀬 善洋, 小安 浩理, 仁科 健二, 石丸 聡, 藤原 寛, 宇佐見 星弥
    セッションID: G-P-20
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    【はじめに】 2018年北海道胆振東部地震で改めて認識された降下火砕堆積物のスライド(テフラ層すべり)の特徴は,移動体の大部分が崩壊前の層序を保ったまま移動・堆積していることである.一方,豪雨による斜面崩壊では移動体が流動化する場合が多いため,元の層序が保たれる可能性は低い.このような観点から,地すべり移動体の内部構造は,その成因を反映していると考えられるが,内部構造を露頭断面で確認できる機会は少ないため,検討例は少ない(田近,1995).著者らは,地すべり移動体の内部構造を非破壊かつ三次元的に可視化することを目的に,北海道中標津町武佐で見出されたテフラ層すべりの移動体を対象に,地中レーダー(Ground Penetrating Radar: GPR)探査ならびに地形・地質解析を行った. 【手法】  まず,テフラ層すべりの規模および移動体の形状を把握するため,UAVを用いたSfM-MVSによりDEMを作成し,地形解析を行った.次に,移動体末端付近を縦断する方向に露頭断面の一部が露出している箇所で詳細な露頭観察を実施し,移動体を構成する地質,層序,内部構造の記載を行った. GPR探査は,pulseEKKO Proを使用し,100 MHzのアンテナを用いた.調査測線は,移動体を縦断・横断するように設定した(Fig. 1).a-a´測線は,GPR探査で得られた深度プロファイルと露頭で観察された移動体の内部構造の対比を行うため,露頭断面に沿うように設定した.【結果】 地すべりの規模は,幅約150 m,長さ約350 m,高さ約30 mである.地すべりの最上部では比高数mの明瞭な滑落崖,その背後には後背亀裂,滑落崖直下には凹状地形(池),移動体中腹部には横断亀裂,末端部付近には現地表面からの比高2.5 m程度の圧縮リッジ,尖端部にはローブ状の地形がそれぞれ認められる. 露頭観察の結果,斜面下方の移動体(前方移動体と呼ぶ)が,斜面上方の移動体(後方移動体と呼ぶ)に逆断層を介して乗り上げる産状が複数認められる.この逆断層は,直線的に斜面下方へ25°程度で傾斜するものや,円弧を描いて直立に近い形態を示すものがある.後方移動体は,摩周l降下火砕堆積物(Ma-l; 14 ka)とそれ以降の摩周テフラ(Ma-k; 12 ka, Ma-i–j; 7.7–7.8 ka)を挟在する黒色土で構成され,変形を受けずに成層構造を示す.移動体の最下部には,粘土化した白色風化部が最大層厚10 cm程度で発達し,下位の礫混じり火山灰質土を覆う.移動体の最上部は排土・整地されているが,確認できるだけで層厚約2.5 mである.前方移動体は,逆断層付近の区間では,層理面が断層の傾斜方向に沿うように傾斜するが,それ以外の区間では局所的な斜面上方へ傾斜する逆断層が認められるものの,全体として変形は受けておらず,成層構造は保たれる.層序は後方移動体と同様である. 測線a-a´におけるGPR探査の結果,(1)深度約3 m以浅では,斜面なりに側方への比較的連続性の良い反射面群(Continuous reflective surfaces: CRSs),(2)CRSsの基底には,特に連続性の良い反射面(Continuous base surface: CBS)が認められる(Fig. 2).また,CRSsの不連続性が複数の境界面(Boundary surface: BS)を介して認められるが,CBSはBSに切られていない.CBSよりも深い深度では,放物線を描く反射面が卓越する. 他の測線においても,測線a-a´と同様,移動体の大部分でCRSs,一部で斜面下方・上方へ傾斜するBSが認められる.また,圧縮リッジやローブでは,CRSsがBSを介して積み重なる.【考察】 測線a-a`の深度プロファイルと露頭観察の地質構造の対比に基づくと,CRSsは成層したテフラ構造,CBSは移動体とその下位の礫混じり火山灰質土との境界にそれぞれ対応する.BSは,露頭で観察される断層の位置・深度・傾斜方向が一致すること,移動体の下限であるCBSを切っていないことから,逆断層に対応する.CBSよりも下位に見られる放物線は,礫を特徴づける反射面としてよく知られており,礫混じり火山灰質土の層相と整合する.  他の測線で得られた深度プロファイルにおいても,CRSsが卓越することから,移動体の大部分は成層したテフラ構造を保っていると理解される.BSは,(1)滑落崖の後背や移動体中腹部の引張場では正断層系の変形でホルスト-グラーベン構造,(2)圧縮リッジやローブの圧縮場では逆断層系の変形で覆瓦構造を示すと解釈される.講演では,これらの結果からGPR探査の有用性やテフラ層すべりの成因について議論する予定である. 【文献】田近,1995,所報告.

  • 大河内 誠, 西 智宏, 森 千裕, 山本 高之
    セッションID: G-P-21
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    はじめに硬質な岩盤の掘削では、発破掘削がおこなわれる事が一般的である。一方、掘削範囲以深、すなわち基礎掘削面以深には発破影響がないことも望まれる。本報告では、基礎掘削面以深における発破影響の確認事例を紹介する。紹介する内容は、以下の2点である。① 基礎掘削面以下の状況確認は、ボアホールカメラを用いたが、この際の観察孔は、装薬孔削孔に用いられるパーカッション削孔機による孔である。 ② 側方解放面がない場合は、掘削範囲以深へも一定の影響があったが、側方解放面がある場合は、基礎掘削面以深への影響は極微少であった。 パーカッション削孔機による孔を用いた意味一般にボアホールカメラによる調査・観察は、調査ボーリング孔(φ66mm~)が用いられる。しかし、これから掘削しようとする現場で仮設足場などを必要とする通常のボーリング調査の場合、迅速性、費用の面で大きな負担となる。一方パーカッション削孔機は、発破掘削の装薬孔を削孔するため、現場にすでに存在する機器であり、これがボアホールカメラ観察孔として使用できるということであれば、迅速性、費用の面で有利である。今回、十分に使用可能であることが確認された。未公表の事例が存在する可能性はあるが、有用な情報と考えこの状況を報告する。 発破影響確認結果発破影響の確認結果は、図-1のとおりである。 ① 側方解放面がない場合は、掘削範囲以深へも一定の影響があった。 ② 側方解放面がある場合は、基礎掘削面以深への影響は極微少であった。

  • 中村 貴子
    セッションID: G-P-22
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    近年日本国内において、台風、ゲリラ豪雨、地震などに伴う洪水や土砂災害が毎年のように発生している。本研究は、主にDEM とSARデータを用いて土砂災害に関する防災・減災に寄与する方法を考察するものである。具体的には、干渉SAR解析の結果とDEMデータを用いた土砂災害発生前後の地盤変動の抽出とモニタリングの可能性を考察するものであり、発災危険地域の迅速な把握を目指すものである。これまで、2021年7月3日に土石流が発生した静岡県熱海市伊豆山地区の逢初川周辺地域や平成30年北海道胆振東部地震により被災した北海道厚真町などを中心に、過去に土砂災害が発生した場所で、さらに台風19号の被災地である宮城県、関東北部地域、長野県、愛知県、広島県南西部、岡山県南部、愛媛県、佐賀県などをテスト解析地として選定してきた。これらの地域は、近年、地震や台風による豪雨などが引き金となって土砂災害が発生または河川の決壊や砂防ダムの放水などで洪水に見舞われた地域である。これらの地域は、土砂災害の原因やタイプなどにより分類することもできる。使用データは各種DEMデータとALOS-2/PALSAR-2(レベル1.1,偏波:HH,入射角:34.3°)、Sentinel-1A/1B(VV:水平偏波とVH:クロス偏波)などを用いた。解析結果からは、崩壊跡だけでなく、未崩壊の変位地点を抽出できる可能性がある。また、Sentinel-1A/1BのVHクロス偏波画像からは水害の分布区域がかなり正確に抽出され、ハザードマップとの対比でもよい一致を示していることが分かっており、これらの画像データは土石流などの水分を多く含んだ土砂の流出域、つまり崩壊の危険性が高い地点の抽出にも大変有効である。また、解析結果の表示手法においてHISカラーモデルを応用することによって、単純でわかり易く直感的理解が可能な表示を目指し表現方法の工夫を試みることで、その効果を確認した。データ解析を用いたモニタリングを実運用するためには、対象地域の地質や地形、起こりうる地質現象や気象現象の特徴を十分考慮し、平時から対象地域に関するベースとなる情報を蓄積整備し、またそれらの地域的特性に合った解析パラメータを決定することが重要であると思われる。しかし、特にSARデータなどはデータ取得時の地形や天候など様々な要因がデータの質に及ぼす影響が強く、例えば崩壊地と非崩壊地の分離性が不安定で誤検出が多いことなどいまだ問題点も多く、改善の余地がありそれらは今後の課題である。

  • 川勝 和哉
    セッションID: G-P-23
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    兵庫県立姫路東高等学校は、2020年に「世界を牽引する人材育成のための国際的な課題研究と科学倫理探究のロールモデル作成」を研究開発目標として、文部科学省からSSH指定を受けた。本年度はⅠ期4年目にあたる。具体的な研究開発テーマは、①地球科学を中心にした国際的な活動への挑戦、②科学倫理教育のロールモデルの作成と県内外への発信、③理系女子の育成と国際的な活動への挑戦、④科学部の国際的な活動への支援、である。 ①の「地球科学を中心にした国際的な活動への挑戦」については、地球科学(地学)を基礎として理科4分野を統合し分野横断的に学ぶ「理数探究基礎Ⅰ」および「理数探究基礎Ⅱ」を学校設定科目として学んでいる。このため、課題研究においても地学分野のテーマが多くみられる。令和4年度には、兵庫県立大学と連携して国際学会「The 9th International Conference on Geoscience Education」に参加し、理数探究基礎教育の内容と、生徒の目線から考える理数探究基礎教育の評価について、学会発足以来高校生として初めて口頭発表を行い、世界に同時配信され高く評価された。さらにその内容を研究論文にまとめて、「Journal of Modern Education Review」誌に査読を通過して掲載が決定するなど、地学を基礎にした教育の成果を上げている。 ④の「科学部の国際的な活動への支援」でも、生徒が主体的に設定するテーマの中に、地学系の研究テーマが毎年複数みられる。日本地球惑星科学連合や日本地質学会などの専門学会で発表したり、JSECや日本学生科学賞などの論文コンテスト等多くの論文コンテストに挑戦したりしており、その中でも2022年には、兵庫県高等学校総合文化祭や東京理科大学坊っちゃん科学賞をはじめとする様々なコンテストで上位入賞を果たした。科学部員は毎年増加し続けており、2023年は、生徒の希望する研究テーマによって38名の生徒が5つの研究班に分かれて活動している。その中には、深成岩の角閃石に見られる微細構造からマグマ分化過程を明らかにしようという研究(マグマ班)や、柱状節理の物理的成因を、泥や漆喰を用いた模擬実験によって明らかにしようとする研究(溶岩班)があり、毎日主体的に研究に取り組んでいる。 特にマグマ班は、マグマ分化過程の環境を推定する指標となる角閃石の微細構造(波状累帯構造)を、兵庫県南部チタン鉄鉱系列の深成岩類で初めて発見し、その微細構造を偏光顕微鏡で詳細に観察した結果から西南日本内帯の形成環境を推定する論文を複数発表してきた。2023年以降は、京都大学理学部と連携関係にあり、毎月2回のZOOMによる協議を繰り返し、また生徒が京都大学を訪問して、指導を受けながら鉱物のEPMA分析を行うなどしている。この活動は、学校の偏光顕微鏡のみに頼っていた研究活動から大きく踏み出す化学的成果をもたらした。山陰帯の角閃石の波状累帯構造と、生徒が発見した山陽帯角閃石の波状累帯構造ではそれぞれの成分に特徴があり、マグマ分化過程末期における熱水残液の成分や循環環境を強く反映していることが明らかになり、それらをモデル化している。 2023年12月には、発展的、応用的な活動として、科学部マグマ班と課題研究班合同で、「オーストラリア野外調査」を11日間にわたって実施する。この野外調査ではクイーンズランド大学と連携して事前、事後を含む指導・助言を得て、ニューサウスウエールズ州東海岸の火成岩について、現地調査と岩石試料の採取を行う。日本に持ち帰った岩石試料はEPMA分析にかけ、西南日本の火成岩と化学的特徴を比較することによって、モデルの検証を行う。ここで得られた成果は、本校主催で全国から高校生や中学生、教員を招いて800名規模で開催するGirl’s Expo with Science Ethicsや国内の専門学会、さらに2024年8月にワシントンで開催予定の国際学会American Geophysical Union(AGU)での発表を目指すほか、論文にまとめて発表する予定である。

  • 小田原 啓, 本多 亮, 道家 涼介, 長岡 優
    セッションID: G-P-24
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    「活断層」という言葉が一般市民に認知されたのは、おそらく1995年兵庫県南部地震(阪神淡路大震災)以降であろうと思われる。しかしながらその大多数が活断層という言葉は知っていてもこれを正しく理解しているかと言えばそうとも限らない。一例として、活断層とは一般に第四紀(後期)に活動し今後も活動する可能性のある断層のことであるが、多くは断層すべてを活断層と捉えてしまっている場面がよく見られる。 神奈川県温泉地学研究所では、研究所の成果の普及啓発や一般市民の防災リテラシー向上を目的として、地震、火山、温泉、地下水、地質に関する講演会への講師派遣や所内見学と併せた講話等を行っている。地震や地質分野の学習ニーズは、神奈川県内の地元自治会、自主防災隊、消防などに高く存在しており、年間で平均70件程度、直近に地震災害等があれば年間100件を超える依頼を受けて実施している。例えば筆者がとくに活断層について講話を行う場合、まずは断層とは何か?から始めて、断層と活断層の違い、海溝型地震と活断層型地震の違いなどを説明し、次に実際に近年発生した活断層型地震(2016年熊本地震、2008年岩手宮城内陸地震、1995年兵庫県南部地震など)を事例に地震の被害状況などを紹介する。そして神奈川県内にどれくらいの活断層が存在し、それぞれの活断層が政府の地震調査委員会でどのように長期評価されているのか(地震規模や30年確率など)、さらには神奈川県地震被害想定においてどのような被害が想定されているのかを説明する。しかしながら、これだけで講話を終えるとその瞬間は理解したとしても、しばらくすればまた忘れてしまうことになるので、最後に聞き手にとって最も身近な防災対策の重要性、例えば発災直後に即死しないよう家を耐震化し家具を固定する、3日分の水と食料を備蓄する、自助・共助・公助の大切さなどを話すことにしている。 文部科学省では、令和5年度より3か年計画で「三浦半島活断層群(主部/武山断層帯)における重点的な調査観測」(研究代表者:東京大学地震研究所 石山達也准教授、参画機関:東京大学地震研究所、防災科学技術研究所、神奈川県温泉地学研究所)が実施されることとなり、温泉地学研究所はサブテーマ4「地域連携勉強会」でメンバーとして参画することとなった。本プロジェクトの公募要項では、地震規模及び長期的な発生時期の予測精度の高度化、断層帯周辺における地殻活動の現状把握の高度化、強震動の予測精度の高度化等の調査観測研究を実施することはもちろんのこと、「効率的かつ効果的な活断層調査を実施するため、関係の自治体等と連携を図るとともに、研究成果を地域へ普及・還元する観点から、必要に応じ、これら事業期間を通じて自治体等と連携し、広報等の情報発信を実施する。」ことが求められている。温泉地学研究所は神奈川県くらし安全防災局という広域自治体組織の一部を成す研究機関であることから、基礎自治体である市町を巻き込んだ効果的な情報発信を行う上でアドバンテージがあるものと考えている。 そこでまず初年度は自治体、市民団体、インフラ事業者等と協働・連携し、一般市民の活断層に関する認識およびニーズ調査をアンケート形式で実施することを想定している。活断層に関する認識については、どれくらい活断層や地震防災について理解しているかを問い、ニーズについては、プロジェクトメンバーを講師とした講演会、活断層型地震を想定した図上訓練などの防災訓練、トレンチ調査や物理探査などの見学会、関連する地質巡検などにどれくらいのニーズがあるのかを調査したいと考えている。2年目ではそのアンケート結果をもとに地域の防災対応を考える上での課題とニーズを掘り下げて地域連携勉強会を実施したいと考えている。最終年度はさらにそれを発展させて、地域の防災対策への反映、DIG形式等を用いたワークショップによる検証などを行い、本プロジェクトを契機とした地域ネットワークが構築されることを期待している。本発表では、これまでの温泉地学研究所におけるアウトリーチ活動の内容について紹介し、「三浦半島活断層群(主部/武山断層帯)における重点的な調査観測」プロジェクトにおける初年度の取り組みの経過報告を行う。

  • 竹下 欣宏, 関 めぐみ, 近藤 洋一, 花岡 邦明, 宮下 忠, 中川 知津子, 廣内 大助, 野尻湖 地質グループ
    セッションID: G-P-25
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    長野県北部の野尻湖西方において,断層露頭と北東南西方向に6kmほど追跡できる変動地形が発見され(竹下ほか,2020;廣内・竹下,2020),向新田断層と仮称された(竹下ほか,2021).断層露頭では約30kaの姶良Tnテフラ層の降灰層準が断ち切られている.本研究では向新田断層の垂直方向の変位量を明らかにすることを目的として,トレンチ調査およびボーリング掘削を実施した. 向新田断層西側(上盤側)の向新田(標高657.40m地点)において,幅約2m,長さ約10m,深さ約2.5mのトレンチ(MT22)を掘削し,地層断面を観察した.MT22は離水した段丘上に位置し,地表から深さ約1.5mと2mにおいて赤褐色スコリア層と赤褐色スコリアまじり暗灰色石質火山礫層が,砂質シルト層(陸水成層)中に挟まれることを確認した.これらのテフラ層は,その層相と他のテフラ層との層序関係から,野尻湖地質グループ(1984)の[赤スコ]と[青ヒゲ]にそれぞれ対比される.さらにMT22では[赤スコ]と[青ヒゲ]が,直径30cm,深さ10cm程度の窪みを埋めている様子も確認できた.詳しい形状(足印)や行跡は確認できなかったものの,それらの大きさや長さ10mしかないトレンチの断面に多数の窪みが確認できたことから,この窪みは足跡化石である可能性が高い.なお,池尻川低地東側の国道18号野尻バイパスにともなう発掘では[赤スコ]に覆われるナウマンゾウの足跡化石が多数見つかっている(長野県埋蔵文化財センター,2004).以上のことから[赤スコ]や[青ヒゲ]が堆積した当時,MT22の周辺は砂質シルトが堆積し,それらが変形可能な場所,すなわち岸辺のような環境(水際)であったと考えられる.一方,断層東側(下盤側)の池尻川低地(標高651.07m地点)でボーリング掘削を実施し,全長18mのコア試料(IJ20コア)を採取した.本コアの深度8.0~7.8mで泥炭層に挟まれる[赤スコ]と[青ヒゲ]を確認した.以上のような状況から,[赤スコ]と[青ヒゲ]が堆積した当時,MT22とIJ20周辺はほとんど標高差がなかったと推定される.それが現在では,MT22の[赤スコ]は標高655.90m,[青ヒゲ]は標高655.40mに,IJ20の[赤スコ]と[青ヒゲ]は標高643.30mに位置するため,下位の[青ヒゲ]を基準とすると両地点間で約12mの標高差が認められる.なお[青ヒゲ]は約4.4万年前に噴出したと見積もられている(長橋・石山,2009). さらに向新田断層の下盤側にあたる赤川左岸の低地(標高645.40m地点)と上盤側の伝九郎新田(標高645.33m地点)においてボーリング掘削を実施し,AK21コア(全長18m)とDS22コア(全長10m)を採取した.AK21コアの深度16.18~9.70mとDS22コアの深度7.05~1.75mは、角閃石斑晶の目立つ安山岩礫が多数含まれる亜円礫層で構成される.角閃石斑晶の目立つ安山岩礫は,両コアを採取した地点の近くを流れる赤川の河床にはほとんど見られないため,この礫層が堆積した当時,現在とは異なる水系が存在していたと推定される.両コアの礫層は,同じ河川によって形成されたと考えられ,堆積当時の礫層の上面はほぼ同じ高さにあったはずである.しかし,現在この礫層の上面は,下盤側のAK21コアで標高635.70m,上盤側のDS22コアで標高643.58mに位置しているため,約8mの標高差がある.さらに,AK21コアの亜円礫層直上の黒褐色砂質泥炭層(深度9.70~9.65m)から約3.3万年前の14C年代値を得た.したがって,向新田断層は,約3.3万年前以降,垂直方向に約8mの変位をもたらしたと考えられる. 以上のように,向新田断層を挟んで上盤側と下盤側の地下地質を調査した結果,本断層は断層露頭の北東側では最近の約4.4万年間に約12m,同露頭の南西側では最近の約3.3万年間に約8m,垂直変位をもたらしたことが明らかになった.これらの値に基づくと向新田断層の垂直方向の変位速度は約0.25mm/yrとなる.しかし,断層露頭では断層面がフラットに近いため,真の変位量はより大きくなる可能性が高い.引用文献:廣内・竹下(2020)日本活断層学会2020年度秋季学術大会講演予稿集,24-25.長橋・石山(2009)野尻湖ナウマンゾウ博物館研究報告,17,1-57.長森ほか(2003)戸隠地域の地質,産総研地質調査総合センター,109p.長野県埋蔵文化財センター(2004)一般国道18号(野尻バイパス)埋蔵文化財発掘調査報告書3,208p.野尻湖地質グループ(1984)地団研専報,27,23-44.竹下ほか(2020)日本活断層学会2020年度秋季学術大会講演予稿集,22-23.

  • 立石 良
    セッションID: G-P-26
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    テフラ対比は,層序学的方法と岩石学的方法の総合的検討に基づいて行われ,後者の具体的な方法として,全鉱物組成分析,火山ガラスや鉱物の化学組成分析,屈折率測定などがある.このうち火山ガラスの化学組成データを用いる方法については,化学組成データの検査,変換,探索,検定という流れを経て,層位・層準や記載岩石学的特徴を交えて対比を行うという方法が提示されている(Lowe et al., 2017).ここで検査とは,外れ値や誤入力されたデータを削除・修正すること,変換とは,分析値を別の形に変換すること,探索とは,対比される可能性のあるテフラの組み合わせを抽出すること,検定とは,対比される可能性のあるテフラの火山ガラスの化学成分の多変量分布が等しいかどうかを検証することである.立石ほか(2023)は,北陸地方に分布する鮮新―更新統テフラを例に,この解析手順に含まれるいくつかの不明点(①変換において対数比解析を行うべきか,②解析において重視すべき化学成分は何か,③検定において推奨される方法は何か)について検討した.その結果,①②についてはある程度の結論が得られたが,③についての検討は十分とは言い難い.本研究では,複数地点で採取された姶良Tnテフラ(AT)と鬼界アカホヤテフラ(K-Ah)の主成分化学組成を用いて,順列多変量分散分析法:PERMANOVA (Anderson, 2001)の有効性を検証した.PERMANOVAは,多変量データにおいて複数の群間に差があるかどうかを分析するための非パラメトリックな統計手法である.具体的には,群のラベルをランダムに置換したデータセットを繰り返し作成し,それぞれの距離行列から算出したF統計量の分布と,元の群の距離行列から得られるF統計量を比較し,群間に差がないという仮説が成り立つかどうかを決定する.結果はF統計量・R2値・p値で示され,F統計量とR2値が大きく,p値が小さい場合,仮説は棄却される.ATは鹿児島県霧島市春山原・鹿児島県霧島市白蔵原シラス台地・富山県中新川郡立山町千垣で,K-Ahは鹿児島県姶良市蒲生・鹿児島県霧島市隼人町見次・鹿児島県指宿市岩本で採取された試料を用いた.これらの試料は,富山県のものを除いて,東京都立大学の「日本列島テフラ標準試料」よりご提供いただいた.火山ガラスの主成分化学組成分析は,富山大学のEPMA(JEOL: JXA-8230)を用いて行った.検査を通過した化学組成データ(50点以上)に対し,Rとそのライブラリpairwise.adonisを使用して総当りPERMANOVAを実行した.なお,化学組成データは対数比解析(alr:有心対数比変換,規格化成分:Al2O3)を適用した/しない2種類のデータセットを用意した.総当りPERMANOVAの結果,対数比解析を施したデータセットでは,AT同士とK-Ah同士の場合のみ,群間に差がないと判断され,それ以外の試料の組み合わせでは差がないという仮説が棄却された.一方,対数比解析を適用しないデータセットでは,K-Ah同士は差がないと判断される結果となったが,AT同士を含むそれ以外の試料の組み合わせでは差がないという仮説が棄却された.以上から,火山ガラスの化学組成データを用いたテフラ対比における定量的な検定方法として,対数比解析とPERMANOVAが有効である可能性が示された.PERMANOVAは多変量正規分布を前提としないため,データの分布に依らず適用可能という点で大きな利点がある.今後,他のテフラでも同様の検討を進め,引き続きその有効性を検証していく.引用文献:Anderson, M.J. (2001) Austral Ecology, Vol. 26, No. 1, pp. 32-46.Lowe et al. (2017) Quaternary Science Reviews, Vol. 175, pp. 1-44.立石ほか(2023)日本地球惑星科学連合2023年大会,HQR03-P01.

  • 三田村 宗樹, 森高 健, 林田 明
    セッションID: G-P-27
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    奈良市三条町で採取された コア長 304.2m のNB-1 ボーリングコア(以下,NB-1コアと呼ぶ)について岩相記載・反射法地震探査・花粉分析の結果が示され,深度 42.83~43.30m にアズキ火山灰層,深度 86.71~87.50m にピンク火山灰層,深度 96.65~109.00m に Ma1 海成粘土層が挟まれる(文部科学省研究開発局,2022).しかし,Ma1 海成粘土層より下位について明確な鍵層は確認されない.そこで,NB-1コアの年代評価指標を得ることを目的として,コアの古地磁気層序を明らかにするため残留磁化測定を実施した.  本研究では 40 層準から測定用試料を採取し,残留磁化方向の測定には2G Enterprises製の超伝導磁力計であるModel755-4Kを使用した.二次磁化の除去のため,夏原技研製 DEM-95Cと2軸タンブラー付きのソレノイドコイルを使用した段階交流消磁と,夏原技研製コントローラー TDS-1と電気炉を使用した段階熱消磁を行い,各段階の消磁後の測定結果に対して主成分解析を行うことで初生残留磁化の方向を求め,試料の残留磁化方向の伏角をもとに磁化極性の評価を行った(Fig.1). 深度27.50mまでの2試料は,伏角が28.1~60.7度といずれも正極性を示し,深度35.01mでは伏角が-29.2~-5.7度と逆極性を示す.深度30m付近は花粉分析結果から Ma4層相当層層準にあたり,深度30m以上の層準はブルン・クロンに対比できる.  深度73.60,81.50mの2層準では,伏角が26.2~84.9度といずれも正極性を示し,ピンク火山灰のやや上位の層準にあたり,この間の層準はハラミロ・サブクロンに相当する.この層準の下位のMa1 海成粘土層基底までの間は,伏角が下向き傾向となるが低角で,その極性は不明瞭であった.これより下位の層準では,深度130.60~133.30mで伏角が7.9~73.8度,深度178.20~184.70mで19.5~49.0度となり,正極性を示す以外,伏角は概ね上向きとなり逆極性を示す.このことから,NB-1 コアの深度30m付近より下位の層準はマツヤマ・クロンに相当する.アズキ火山灰層とピンク火山灰層の深度からこの下位の層準の堆積速度を 0.23 m/ka と仮定すると,深度130.60~133.30mの正極性の層準の堆積年代は約 1.24Maとなり,コブマウンテン・サブクロンに相当するとみられる.  NB-1掘削地点を通過する反射断面(文部科学省研究開発局,2022)の標高-280m 付近では側方連続性の良い反射面が確認されており,NB-1コアの下端はマツヤマ・クロン内にあり,オルドバイ・サブクロンに達していないとみられることから,NB-1コアの下端より下位約50mにあるこの側方連続性の良い反射面は,福田火山灰層準である可能性が高い.引用文献文部科学省研究開発局(2022)奈良盆地東縁断層帯における重点的な調査観測 令和元~3年度 成果報告書,558p.

  • 瀬戸 浩二, 香月 興太, 仲村 康秀, 辻本 彰, 安藤 卓人, 入月 俊明, 齋藤 文紀
    セッションID: G-P-28
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    宍道湖は,島根県東部に位置する低塩分汽水を示す海跡湖である.湖水が低塩分汽水を示すのは,宍道湖の70%の水量に相当する河川水を注ぐ斐伊川の存在が大きく影響をしている.しかし,斐伊川は江戸時代初期までは大社湾に向いて西に流れていたとされ(徳岡ほか,1990),1635年及び1639年に起こった出雲大洪水によって東に流路を変えたとされている(高安,2001).宍道湖ではいくつかの地点でコアが採取され、堆積物に記録された古環境が解析されている.その結果、閉鎖的な汽水環境から淡水環境に移り変わったことが明らかとなり,それが斐伊川東流と考えられている.特に堆積物中の全イオウ(TS)濃度は大きく変化することから,それによって斐伊川東流の層準を容易に認めることができる(田村ほか,1996など).しかし,その年代については確度が低く,十分に立証されていると言えない.一方でそれを否定する根拠もいくつかの歴史的な記録があるものの確証とするには乏しいと言わざるを得ない.それらを明らかにするために宍道湖で新たなコア(20SJ-1Cコア)を得た.また,瀬戸ほか(2006)で議論された2002-S1コアと2003-S2コアについて1cm間隔でCNS元素の再測定を行なった.本発表では,それらを分析することによって得られた斐伊川東流イベントの年代と堆積システムの変化について検討した結果を報告する. 20SJ-1Cコアは,宍道湖の東側,2002-S1コアと2003-S2コアのほぼ中間地点で得られた.コアリングは押し込み式ピストンコアラーを用いて行い,コア長165cmであった.岩相は,主に塊状の粘土質シルトからなる.CNS元素分析の結果,20SJ-1Cコアは,ユニット1から3に区分された.ユニット3のTS濃度は2.5%前後と高い値を示した.ユニット2は多くが0.5%以下と低い値を示している.ユニット3/2移行期の深度は122〜130cmで,その間に大きく減少する.同様な変化は,2002-S1コア(深度74〜87cm)や2003-S2コア(深度159〜166cm)でも見られ,西に向かって深くなる傾向にある.これは,高塩分汽水から低塩分汽水〜淡水に変化したことに起因しており,斐伊川東流イベントに相当する.20SJ-1Cコアでは,TS濃度減少層準付近及びその下位層準において比較的大型の植物片を採取し,4層準についてAMS14C年代測定を行なった.その結果,暦較正年代で西暦1100〜1300年代の年代値が得られた.これらの年代値は,層位に矛盾がないことから大きく年代値が異なるとは考えにくく,西暦1640年頃とされた斐伊川東流イベントの年代より400年程度古くなることになる. 宍道湖におけるTS濃度の変化には変動シグナルが見られ,少なくとも3つのコアでは概ね一致する.この変動シグナルは,降雨による斐伊川からの淡水の流入の変化や海水準変動による大橋川からの海水流入の変化に起因し,宍道湖全体に影響を及ぼしているものと思われる.20SJ-1Cコアにおいて前述のAMS14C年代測定とCs-137法,Pb-210法による年代測定を用いてTS濃度変動シグナルの年代を求め,他コアのTS濃度変動シグナルとの対比からそれらのコアの年代を決定した.それに基づき全有機炭素(TOC)濃度や平均粒径などと対比させた。TOC濃度はどのコアも同様な変化を示したが,2003-S2コアでやや高い値を示している.TS濃度はユニット3/2移行期で急激に変化するが,TOC濃度はその200年前から緩やかに減少している.おそらく減少し始めるころから斐伊川の東流は徐々に起っており,宍道湖の水質環境に大きく影響を与えたのがユニット3/2移行期(斐伊川東流イベント)であると思われる.TS濃度の深度別の値から水質環境を復元すると,斐伊川東流イベント前は水深5〜7mに塩分躍層のある高塩分/中塩分汽水の水塊構造を示した.一方,斐伊川東流イベント後は塩分躍層の見られない淡水〜低塩分汽水を示している.平均粒径は大橋川に近い2002-S1コアがやや粗く,湖心に近い2003-S2コアはやや細かい傾向にある.20SJ-1Cコアは,斐伊川東流イベント前では2003-S2コアに近い値だったものが,斐伊川東流イベント後では,2002-S1コアに近い値に変化している.これは斐伊川東流イベントにより潮流影響型の堆積システムから塩分密度流型の堆積システムに変化したことを示唆している.引用文献:瀬戸ほか(2006)第四紀研究,45,5,375−390.徳岡ほか(1990)地質学論集, 36,15-34.高安(2001)「汽水域の科学」:38-47.田村ほか(1996)島根大学地質学研究報告. 12, 53-66.

  • 中西 利典, 木村 治夫, 湯川 芽依, 細矢 卓志, ソン キソク, ホン ワン
    セッションID: G-P-29
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    丹那断層は,1930年の北伊豆地震 (Mjma=7.3) の際に活動した,大局的には北北東-南南西走向の左横ずれ断層である北伊豆断層帯の主断層群の1つである.丹那断層およびその副断層における完新世の活動を明らかにするために,4本の群列ボーリングコアから得られた堆積物の分析と地中レーダ(GPR)探査によって,断層運動に伴う左横ずれ変形を受けたと考えられる屈曲谷の極浅部地質構造を調査した.群列ボーリング掘削地点は,丹那断層の主断層の約50m西側を並走する南北走向の副断層を横切って配置し,これらボーリング地点の付近を通過するようにGPR探査測線を設定した.GPR断面データは,Sensors and Software Inc.製のpulseEKKO PRO GPRシステムを使用してプロファイル測定によって取得した.併せて,時間断面から深度断面への変換に用いる地中電磁波速度を推定するために,ワイドアングル測定も実施した.これらによって得られたGPR断面に対し,堆積構造を示すいくつかのホライゾンを解釈した.また,コア試料から採取した植物片と有機土壌試料の放射性炭素年代値は,カーボン アナリシス ラボ (CAL) と韓国地質資源研究院 (KIGAM)において加速器質量分析法で測定した.これらの結果を基にして,断層帯の斜めズレによって生じた,副断層における完新世の上下変位を推定した.こうした主断層と平行な副断層の完新世の活動は,丹那断層帯に沿った変形が主断層だけでなく,より広い範囲にわたって起こっていることを示唆している.なお,本研究は,伊豆半島ユネスコ世界ジオパークの助成を受けて開始され,日本学術振興会(JSPS)の科学研究費補助金(科研費)JP15K01255およびJP18K03768,JP22K18304の助成を受けたものである.記して謝意を表する.

  • 漆山 凌, 松岡 篤
    セッションID: G-P-30
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    はじめに: 新潟県糸魚川市小滝地域にはペルム紀付加体として,石灰岩と玄武岩質岩からなる青海コンプレックス(以下,青海C.)とチャートや砂岩などからなる姫川コンプレックス(以下,姫川C.)が北西-南東方向に細長く分布しており,両者はともに秋吉帯に帰属すると考えられている(長森ほか,2010).河合・竹内(2001)は虫川上流域に分布する姫川C.の黒褐色珪質泥岩中のマンガン炭酸塩スフェリュールからはAlbaillella asymmetrica Ishiga & Imotoなどの,黒色珪質泥岩からはFollicucullus porrectus Rudenko やParafollicucullus monacanthus (Ishiga & Imoto) などのペルム紀中期を示す放散虫化石を報告している.しかし,虫川上流域以外から放散虫化石の報告はなく,依然として姫川C.については化石の産出データに乏しい.本研究では,姫川および小滝川流域に分布する姫川C.において地質調査を行い,地質図および地質断面図の作成を行った.また,チャートや泥岩などから放散虫化石の抽出を試みた.これらの結果をもとに,姫川コンプレックスの形成史について考察する.岩相区分: 本研究では長森ほか(2010)のユニット区分を再定義し,姫川C.を西部ユニット(以下,西部U.)と東部ユニット(以下,東部U.)に区分した.西部U.は下位からチャート,珪質泥岩緑色凝灰岩互層,砂岩・泥岩からなる見かけのチャート–砕屑岩シーケンス(以下,CCS)を示す.東部U.は砂岩泥岩互層の破断~混在相を主体として,層厚数100 m規模のチャート岩体を含む.また,本調査地域に分布する弱変形の泥岩・砂岩・礫岩からなる地層を新たに菅沼層と仮称する.菅沼層の泥岩は塊状および層状で,細粒砂岩の薄層を挟む.砂岩は中粒~粗粒で数 mm~数 cmの泥岩礫を多量に含む.礫岩は細~中礫で泥岩やチャート,石灰岩の角礫を多く含む.地質構造: 姫川流域に分布する姫川C.の内,西部U.は北西-南東の走向をもち,南西に低~中角で傾斜する.東部U.は砂岩泥岩互層とチャート岩体内部の構造が異なる.砂岩泥岩互層は北西-南東の走向をもち,南西および北東に中~高角で傾斜する.チャート岩体はアザキリ沢周辺のものは北西-南東の走向をもち,南西に低~中角で傾斜,菅沼集落周辺のものは南北の走向をもち,西および東に低角で傾斜する.菅沼層は北西-南東の走向をもち,南西に中~高角で傾斜する.青海C.と西部U.,東部U.中の砂岩泥岩互層とチャート岩体の境界は低~中角断層によって,西部U.および東部U.と蛇紋岩,西部U.および東部U.と菅沼層は高角断層によってそれぞれ境されている.放散虫化石: 岡集落北方の沢に分布する西部U.の珪質泥岩からはAlbaillella sinuata Ishiga & WataseやParafollicucullus sp. cf. P. fusiformis Holdsworth & Jonesなどが,菅沼集落南方の沢に分布する東部U.の赤色チャートからはPseudotormentus kamigoriensis De Wever & CaridroitやLatentifistula sp.などの産出が新たに確認された.これらの群集のうち,西部U.の珪質泥岩から産出した放散虫群集は,Xiao et al. (2018)によるUT7(ペルム紀中期Roadian)を特徴づける.東部U.の赤色チャートから産出した放散虫化石は,年代を絞り込むことはできないが,ペルム紀を特徴づける複数の種からなる.地質形成史: 姫川C.の西部U.は見かけのCCSを示し,珪質泥岩からペルム紀中期Roadianの放散虫群集が産出することから,ペルム紀中期以降に形成された付加体であると考えられる.一方,姫川C.の東部U.はチャート岩体からペルム紀の放散虫が産出することから,東部U.はペルム紀以降に形成された付加体であると考えられる.しかし,東部U.の砂岩泥岩互層からは年代決定に有効な化石が産出していないため,チャート岩体がいつ取り込まれたかについては不明である.菅沼層は姫川C.の西部U.と東部U.両方の分布域に見られることや変形度が周囲の付加体より弱いこと,礫岩にチャートや石灰岩の礫が多量に含まれることから,元々は付加体を覆う被覆層であったと考えられる.菅沼層の礫岩中には蛇紋岩礫が含まれないことから,姫川C.の西部U.と東部U.の境界に見られる蛇紋岩体は,菅沼層形成後に併入したと考えられる.文献: 河合・竹内, 2001, NOM特別号, no.12, 23–32; 長森ほか, 2010, 小滝図幅, 産総研地質調査総合センター, 130p; Xiao et al., 2018, Earth Sci. Rev., 179, 168–206

  • 尾張 聡子, Ketzer Marcelo, 鈴木 渚, d'Acremont Elia, Lafuerza Sara, Leroy Sy ...
    セッションID: G-P-31
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    堆積盆における流体の移動は、メタン循環、地殻変動やジオハザード、海底下の微生物群集など、さまざまな地質学的プロセスに深く関わっている。地中海西方のアルボラン海は地殻変動が活発な海盆として知られ、海底からのメタンガス湧出に関連したポックマークや泥火山が観察される。本研究では、コンターライトが発達する海域において、ポックマークサイト(Site-CL06)、その近傍のバックグラウンドサイト(Site-CL04)、および断層サイト(Site-CL55)の堆積物コア(最大20m)から得られた間隙水に溶解するハロゲン(Cl、Br、I)を用い、アルボラン海の海底表層部の堆積物間隙水の起源を明らかすることを目的とした。塩素は間隙水の地球化学において保存性成分と考えられており、その濃度は主に間隙水の塩分によって変化する。ヨウ素は強い生物親和性を持ち、堆積物とともに堆積した有機物中に取り込まれている。有機物は埋没過程で地熱や微生物の活動よって分解され、メタンを生成することから、ヨウ素とメタン濃度は強い相関を持つ。臭素も弱い生物親和性を持つことから、ヨウ素と同様の挙動を示すものの、塩素と同様に保存性成分とされ、流体の起源を明らかにする指標としても用いられる。 間隙水は船上にてライゾンサンプラーを使って抽出した。Cl濃度は東京海洋大学のイオンクロマトグラフィ(ICS-1600, DIONEX)で、IとBr濃度は東京大学タンデム加速器研究施設(MALT)の誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS Agilent 7500)で測定した。 ポックマークと断層サイトでは異なるハロゲンの深度プロファイルが観察され、アルボラン海のコンターライト内での流体の移動・起源は異なると考えられる。(1) ポックマークとバックグラウンドサイト:この2サイトではハロゲンの深度プロファイルは類似する。Cl濃度は海底から海底下15mにかけて、610~590 mMまで深度とともに減少する。このサイトでの間隙水の低塩分化は、ODP Leg 161, Site976から得られた間隙水データとの比較から、サプロペルイベント1に相当する、淡水に富む間隙水が深部に存在することを示す(Paul et al., 2001)。IとBr濃度は深度とともに増加し(I:0~70μM、Br:760~820μM)、それぞれ、海底下15 m までに最大で8%と60%まで濃縮されている。これは、深部堆積物中にヨウ素・臭素に富んだ流体が存在することを示す。 (2) 断層サイト:他の2サイトとは対照的に、Cl濃度は海底から海底下16 mにかけて600~610mMまで深度とともに増加し、IとBr濃度も深度とともに増加傾向を示す(I:35~70 µM、Br:790~830 µM)。通常、海底近傍の間隙水中のIとBr濃度は、深部から海底表層に向かって低濃度化するが、本サイトでは、海底近くにも関わらず高濃度(I:38 µM、Br:800 µM)である。これらの特徴から、断層サイトは海底表層において強いハロゲンフラックスによって特徴づけられ、ハロゲンに富んだ流体が断層を介して表層まで移動している可能性を示す。

  • 星出 隆志, 岩橋 慶亮, 石橋 直
    セッションID: G-P-32
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    柱状節理の発達する溶岩や溶結凝灰岩には,節理の特徴の違いで区別される2種の層が見られることがある.平面に近い側面をもつ規則的な柱で構成されるコロネードと,一般に側面が曲面をした不規則な細い柱をもつエンタブラチャーである.この2層が認められる岩体では,コロネードの上層にエンタブラチャーが重なる場合と,下部コロネードと上部コロネードの間にエンタブラチャーが挟まる場合がある.エンタブラチャーはコロネードに比べ柱が細く,岩石の組織は細粒でデンドリティックな結晶やガラス質のメソスタシスの量が多い(Long and Wood, 1986等).このことから,エンタブラチャーはコロネードよりも冷却速度の大きい条件で形成したと考えられている. コロネードに比べエンタブラチャーで冷却速度が大きくなるメカニズムとして,節理を通じた外来水などの冷却剤の岩体内部への移動による対流冷却が考えられている(例えば,Forbes et al., 2014など).しかし,エンタブラチャーの形成にそうした冷却剤の浸入は必要でないとする考えもある(Spry, 1962; Grossenbacher and McDuffie, 1995; Hamada and Toramaru, 2020等).また,コロネードに比べ,エンタブラチャーの冷却速度の定量的理解に役立つデータ(柱の幅やチゼルマークの間隔等)は未だ乏しい.そこで我々は,エンタブラチャーとコロネードを有する岩手山山麓の玄武洞溶岩流を対象に,内部構造と岩石組織観察を行い,エンタブラチャーの形成過程を考察した.  岩手火山の南西部に分布する玄武洞溶岩流は,新期網張火山群(中川,1987)に属する玄武岩質安山岩溶岩である.岩手県雫石町の葛根田川沿いには,厚さ約70 mの溶岩流の末端が露出する.溶岩流の下から,コロネード(厚さ10–12 m),エンタブラチャー(45 m),最上部(約10 m)に分けられる. エンタブラチャーには2種類のメインフラクチャーが発達する.1つはエンタブラチャー全体に渡りネットワーク状に発達するシュードピローフラクチャーで,同フラクチャーに沿って長さ10–20 cm程度の垂直なフラクチャーが多数生じ,その部分では溶岩が黒色で光沢をもつ.もう1つは,互いにほぼ平行な曲面をもつシートフラクチャーで,シュードピローフラクチャーにほぼ垂直な面として発達する.溶岩流最上部には,溶岩本体から上方へ伸びる径1–5 m程度のフィンガー状の溶岩が分布し,指間には同質の火砕岩が堆積する.フィンガー状溶岩の輪郭に垂直に小さなフラクチャーが多数見られ,シュードピロー構造を形成する.この火砕岩の産状はYamagishi (1979)のBタイプのハイアロクラスタイトに相当し,溶岩流の最上部で水冷破砕が起きたことを示唆する.  エンタブラチャーのシュードピローフラクチャーから30 cm以上離れた部分は,石基の結晶度が高くほぼ完晶質である.それに対し,エンタブラチャーのシュードピローフラクチャー近傍は,石基の結晶度が低く間隙ガラスが認められ,石基の普通輝石マイクロライトには粒径数10 µmの半自形結晶と,粒径10 µm程度の樹枝状結晶の2種類認められる.これらのことから,シュードピローフラクチャー近傍で最も溶岩の冷却速度が大きかったことが示唆される.また,このシュードピローフラクチャー近傍の溶岩には,幅10 µm以下のパラゴナイト(火山ガラスと水の相互作用で生じた変質物)を含むマイクロフラクチャーが網目状に分布し,同フラクチャーに沿って気泡が多数生じている.このことは,溶岩の急冷はシュードピローフラクチャーを通じた水の浸入によってもたらされたことを示す.また,シュードピローフラクチャーを通じて浸入した水の核沸騰が示唆される.  エンタブラチャーのシュードピローフラクチャー近傍やコロネードの石基には,液体不混和で生じたと考えられるFeに富む液滴が分布する.マグマの冷却速度とFeに富む液滴のサイズは相関することが知られており(Honour et al., 2019),この関係を用いるとコロネードとエンタブラチャーの冷却速度はそれぞれ約49℃/h,642℃/hと求められる.

  • 上澤 真平, 石毛 康介
    セッションID: G-P-33
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    2023年4月10日(JST)にシベルチ火山が比較的規模の大きな噴火を起こした.Global Volcanism Program(2023)によれば,噴煙は高度15,800 mに達し,噴出地点から南西600 km,東南東1,050 kmの山麓まで降灰をもたらした.山頂から南方約50 kmに位置するクルチ村では,層厚約8.5 cmの降灰を記録した.噴煙柱を伴う噴火の継続中に大規模な火砕物密度流(PDC)が生じ,その分布が,欧州宇宙機関が提供する光学衛星Sentinel-2( European Space Agency, Sinergise, 2023)によって捕らえられた.そこで本稿では,この衛星観測データから得られるPDCの分布範囲と衛星データにより作成された30mメッシュDEM(Copernicus GLO-30 DEM: European Space Agency, Sinergise, 2021)とこのDEMから生成したデジタル接峰面図を利用して,PDCの総体積計算を試みた.接峰面図を用いていることから,本手法はPDC総体積の最低見積もりである.体積演算の手法は次のとおりである.1) Sentinel-2が2023年4月29日に取得した近赤外~中間赤外光( B12,B11,B04)の衛星データからRGB合成画像を生成しWebからダウンロードした.さらに,QGISを用いて分布範囲を抽出し,分布データをラスタからポリゴンに変換した. 2) GLO-30 DEMモデルに対してa.グリッド法(e.g., Motoki et al., 2015)とb.疑似埋谷法(㈱オープン GIS, 2003; 渡邊, 2022)を用いて接峰面図を作成した.なお,a,bともにR言語を用いた自作のプログラムでラスタデータを作成した.手法aについては,約1,000m,約500m,約250mメッシュの3ケースについてグリッド中の最高地点を抽出し,QGIS でTIN内挿した.手法bについては,埋谷の計算回数が5回,10回,20回のラスタデータを作成した. 3) 接峰面図ともとのGLO-30 DEMの差分をとり,1)で求めた分布範囲で差分のラスタデータを抽出した. 4) 抽出したデータのうち負の値は0に置き換え,セルごとに差分値と面積を乗じ,積分することで総体積とした.以上の手法により,PDCの分布面積は約50 km2,火口からの流走距離は約21 km,総体積は手法aで0.23~0.94 km3,手法bで0.11~0.24 km3となった.本手法は手法やメッシュサイズの違いにより体積見積もりは異なった。手法aではグリッドのメッシュが粗いほど,体積見積もりが大きくなる.これは粗いメッシュの方が大きな谷を埋めるためである.手法bでは埋谷を繰り返すほど体積見積もりが大きくなるのは当然の結果である.一方で,どこまで谷を埋めるかを分布範囲と地形を見ながら慎重に検討する必要があるが,複数手法,複数ケースで概算しても体積は桁で変わらなかったとも言える.このことは,推定体積の最低見積もりを桁で議論する上では,接峰面図手法が有効であることを示唆している.また,今回のように衛星画像とデジタルデータの組み合わせによる体積演算手法を整備しておけば,迅速にPDC堆積物噴出量の概算を行うことができ,リアルタイムな火山活動推移予測に貢献できる可能性がある.引用文献:European Space Agency, Sinergise (2021) https://doi.org/10.5069/G9028PQB European Space Agency, Sinergise (2023) https://sentinels.copernicus.eu/web/sentinel/missions/sentinel-2Global Volcanism Program (2023) https://volcano.si.edu/showreport.cfm?wvar=GVP.WVAR20230412-300270 ㈱オープン GIS (2003) https://www.opengis.co.jp/htm/basic/summit.htm Motoki, A. et al. (2015) ACTA SCIENTIARUM: TECHNOLOGY, 37, 221-236. 渡邊 康志 (2022) 沖縄地理, 22, 1-16.

  • 木村 光佑, 川口 健太, 中野 伸彦, 足立 達朗, 早坂 康隆, Das Kaushik
    セッションID: G-P-34
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    舞鶴帯の構成要素は,1) 大陸地殻起源の火成岩-変成岩類からなる北帯,2) 背弧盆地殻とペルム紀の背弧盆堆積物,およびそれらを不整合に覆う三畳紀の堆積物からなる中帯,3) 海洋地殻や海洋内島弧起源の夜久野オフィオライトからなる南帯,の3つに区分される[1].このうち北帯と南帯を構成する苦鉄質-珪長質火成岩複合岩体を総称して“夜久野岩類”と一般に呼ばれる.“夜久野岩類”のうち北帯のものは珪長質岩主体,南帯のものは苦鉄質岩主体であるが,北帯にも一定量の苦鉄質岩が含まれること,また南帯でも珪長質岩を多量に含む岩体も存在することから,岩相のみから両者の識別をすることは容易ではない.しかし,両者に産する“夜久野岩類”,特に珪長質岩のジルコン年代が北帯は新太古代から三畳紀までの幅広い年代を示す[2-4]一方,南帯では280 Ma前後にまとまった年代を示すのみ[5-6]であるため,ジルコン年代から両者を識別することが可能である.  島根県江津地域に露出する舞鶴帯の“夜久野岩類”中の花崗閃緑岩からは約250 MaのジルコンU-PbおよびモナザイトU-Th-Pb年代が報告されており[7],舞鶴帯北帯に属する可能性が示唆される.そこで本研究では江津地域の舞鶴帯に産する珪長質~苦鉄質の“夜久野岩類”について岩石記載を行ない,珪長質岩,中間質岩,苦鉄質岩各2試料ずつについてジルコンU-Pb年代測定を行なった.  江津地域の先白亜系は,岩相から北部の苦鉄質岩主体の変成オフィオライト岩体,南部の弱変成ペルム系田ノ原川層,東部の結晶片岩からなる波積南層に区分される[8].このうち変成オフィオライト岩体が舞鶴帯の“夜久野岩類”に,田ノ原川層が舞鶴帯中帯の舞鶴層群下部層に,波積南層が三畳紀変成帯の周防帯に相当するとそれぞれ考えられる.  江津地域の“夜久野岩類”は全体に強い変質を被っており,一部試料を除いて多量のエピドートやゾイサイトが主に斜長石中に生成している.また全体にマイロナイト化を被っており,一部試料では顕著な面構造が発達している.珪長質岩はカリ長石を含む花崗閃緑岩とカリ長石を含まないトーナル岩に分けられる.中間質岩は斜長石,角閃石,石英からなる石英閃緑岩~閃緑岩で,角閃石と石英の量比に幅がある.苦鉄質岩は角閃石と斜長石からなる変斑れい岩で,一部試料ではエピドートでなく多量のゾイサイトが生成している.  珪長質~苦鉄質深成岩の計6試料から分離したジルコンはいずれも自形でCL像では波動累帯構造を示す.珪長質岩から286 ± 6 Maと285 ± 2 Ma,中間質岩から274 ± 2 Maと281 ± 2 Ma,苦鉄質岩から284 ± 2 Maと288 ± 6 Maの206Pb/238U重み付き平均年代がそれぞれ得られた.全試料のコンコーダントなデータのTh/U比は0.2から2.2で,ジルコンが波動累帯構造を示すことを併せるとこれらの年代はいずれも深成岩類の固結年齢と考えられる.一部試料では250 Ma付近までスポット年代が広がっている.  今回得られた約288–274 Maの年代は,夜久野オフィオライトの珪長質岩や苦鉄質岩から得られたジルコンU-Pb年代(293–276 Ma: [5-6, 9])に一致しており,また苦鉄質岩主体である点からも南帯の夜久野オフィオライトに対比されると考えられる.但し,江津地域の“夜久野岩類”が全体的にエピドートやゾイサイトが成長する含水条件下での変質を被っていること,一部試料では250 Ma付近まで年代がばらつくこと,250 Maの年代がジルコン・モナザイトの両方から得られていることから,250 Ma頃に何らかの熱水が関与したイベントを被った可能性が示唆される.引用文献 [1] 加納ほか (1959) 地質雑, 65, 267–271.[2] Fujii et al. (2008) Isl. Arc, 17, 322–241. [3] 原田ほか (2015) 日本地質学会第122年学術大会講演要旨,R5-P-28.[4] Kimura et al. (2021) EPSL, 565, 116926. [5] Herzig et al. (1997) Isl. Arc, 6, 396–403. [6] Suda et al. (2011) 2011 JAMS & GSJ Meet., Abstr, R6-P-8. [7] 伏木・早坂 (2007) 日本地質学会第114年学術大会講演要旨,O-154.[8] 小林 (1979) 島根大学理学部紀要,13,145–159.[9] Suda et al. (2014) J. Geol. Res., 2014, 652484.

  • 清杉 孝司
    セッションID: G-P-35
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    火砕堆積物の地質調査は過去の噴火を解明し,将来の噴火推移予測や火山噴火リスク評価を可能とする.一方で地質学的に明らかにされた噴火記録の数は過去に遡るほど急激に減少している(Kiyosugi et al., 2015).例えば地球全体の噴火記録の約40%を占める日本の噴火の内,最近10万年間の中規模(火山爆発指数4)の噴火について見ると,約90%の噴火記録が失われている.また,世界の噴気記録の消失は日本噴気記録の消失の約8倍であると推定される(Kiyosugi et al., 2015).噴火記録の消失の主要な地質学的要因(浸食や埋没など)の進行のプロセスと時間スケールを明らかにするため,噴火直後に火砕物分布が詳細に調査された霧島火山新燃岳2011年噴火(VEI3)の降下火砕堆積物を対象に火砕堆積物の浸食の程度を調査した. 新燃岳2011年噴火によって噴出した降下火砕堆積物の噴火直後の産状や粒径はMiyabuchi et al (2013)やWhite et al(2017)に報告されている.噴火直後に堆積物の層厚が測定されている地点を中心に野外調査を行い,現在も確認できる堆積物の産状や層厚の記載を行った.市街地などでは噴火後に降下火砕物の除去作業などが行われている場合があるため,できるだけ人手の入らない草地などを中心に調査を行った. 調査の結果,以下の3つの領域と,その領域に2011年時点で堆積していた堆積物の特徴が明らかになった.・初生堆積物の分布する領域:産状がMiyabuchi et al (2013)の記載と整合的であったり(特に火口から約3.5kmの範囲で顕著),層厚が厚く連続的で明瞭であったり,堆積環境から考えて堆積物の二次的な流出や流入が考えにくいといった特徴が見られる堆積物を初生堆積物とした.こうした堆積物は比較的火口に近い山地・山林に分布し,落ち葉などに覆われていることが多い.降下火砕堆積物全体の分布の主軸方向に見た時,初生堆積物は約18km以内の範囲に分布している.初生堆積物が残っている地点は,もともとの層厚が約2㎝以上で中央粒径が約1㎜以上の堆積物であった地点である(図1).・二次堆積物の分布する領域:構成粒子の種類が様々であったり,土壌が混じっていたり,土壌中に不連続に分布したりする等の特徴がある堆積物,および2011年時点の層厚よりも現時点での層厚が厚くなっている堆積物を二次堆積物とした.これらは山地や平野に分布しており,堆積物分布全体の主軸方向に見た時,約22km以内の範囲に分布している.・堆積物の見られない領域:火口から約22km以遠では二次堆積物などの噴火の痕跡も見られなくなる.これらの地点は平野に分布しており,農地や市街地となっている地域が多い.また,これらの地点は2011年時点で堆積物の層厚約1㎝以下,中央粒径約1㎜以下であった地点がほとんどであるが,当時1.8㎝の堆積物(中央粒径約0.7㎜)が見られた地点でも堆積物の痕跡が無い場合が見られた(図1). 以上の結果は, 降下火砕物が地質記録として地層中に保存されるための条件(層厚と粒径分布)を知る上で重要な一事例と言える. 引用文献 Kiyosugi, K. et al. (2015) How Many Explosive Eruptions are Missing from the Geologic Record? Analysis of the Quaternary Record of Large Magnitude Explosive Eruptions in Japan: recurrence rates, missing data and preservation of geological record of volcanism. Journal of Applied Volcanology, 4, 17. Miyabuchi, Y., Hanada, D., Niimi, H., & Kobayashi, T. (2013) Stratigraphy, grain‐size and component characteristics of the 2011 Shinmoedake eruption deposits, Kirishima Volcano, Japan. Journal of Volcanology and Geothermal Research, 258, 31–46. White, J. T., Connor, C. B., Connor, L., & Hasenaka, T. (2017) Efficient inversion and uncertainty quantification of a tephra fallout model. J. Geophys. Res. Solid Earth, 122, 281–294, doi:10.1002/2016JB013682.

  • 石垣 璃, 入月 俊明, 瀬戸 浩二, 嶋池 実果, 辻本 彰
    セッションID: G-P-36
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    島根・鳥取両県にまたがる中海は,中国山地を水源とする斐伊川の河口に位置し,閉鎖的な多塩性汽水湖である.主に西側の宍道湖と中海を結ぶ大橋川の河口から低~中塩分汽水が供給され,東側の境水道から海水が流入している.中海では,戦後に食糧を増産させるため,1963年に国による干拓・淡水化事業が始まった.事業に関する本格的な工事は1968年より開始され,湖口部の中浦水門の設置,中海北西部の本庄水域を囲む堤防工事,及び沿岸の干拓工事などが行われた.工事以前では境水道から流入していた海水は中央にある大根島の周りを反時計回りに流れていたが,工事以後では大根島の東側で南下し,時計回りに流れるようになり,本庄水域には海水がほとんど流入しなくなった.その後,2002年12月に干拓・淡水化事業は中止され,2005年から2009年にかけて大根島の東に位置する中浦水門と本庄水域沿いの西部承水路堤防の撤去や森山堤防の一部開削の工事が行われた. 本研究で対象とした貝形虫とは,体長1 mm前後の微小甲殻類で世界のあらゆる水域に繁栄している.中海にも多く生息しており,干拓・淡水化事業が始まる前の1963/1967年にIshizaki(1969),工事の完了直後の1986年に高安ほか(1990),その約15年後の2002年に入月ほか(2003)により貝形虫群集の研究が行われた.本研究では,上記の既存研究結果と2021年に行われた調査結果とを比較し,過去約60年間に行われた環境改変により中海の貝形虫群集がどのように変化してきたのかを検討する.  本研究の貝形虫分析には,島根大学エスチュアリー研究センター所有の小型船舶上から2021年8月にエクマンバージ式グラブ採泥器により採取された湖底表層堆積物の表層1 cmを使用した.堆積物を250メッシュ(開口径:63μm)の篩上で水洗し,生体と遺骸の区別を容易にするため,ローズベンガルで染色し,水洗・乾燥させた.その後,乾燥試料を200メッシュ(開口径:75μm)の篩で分別し,粗粒な堆積物を適宜分割して全ての貝形虫を双眼実体顕微鏡下で抽出した. 採取された試料から76種の貝形虫が産出した.最優占種は日本全国の閉鎖的内湾中央部泥底で優占し(池谷・塩崎,1993),有機汚濁に耐性がある(入月ほか,2003)Bicornucythere bisanensisであった.この種は大根島南東側の沿岸,旧中浦水門の南部,および湖心から多産し,独占する地点もあった.大根島南西側の沿岸ではXestoleberis hanaiiHemicythere miiiなどの沿岸の葉上・砂底種が多産した.低塩分あるいは塩分変動の激しい場所に生息するSpinileberis furuyaensisCytherura miiiDolerocypria mukaishimensisは大橋川河口周辺で散点的に産出した.また,貝形虫は本庄水域の中央部では少なく,無産出の地点も多くみられた.その他の種に関しては,旧中浦水門の南側で沿岸浅海性種が多産した.種多様度は旧中浦水門南側の沿岸で最も高く,大根島周辺でも高かったが,湖心へ向け減少し,1種しか産出しない場所も多かった.中海の最も奥にあたる米子湾周辺では貝形虫がほとんど産出しなかった.B. bisanensisは約60年間を通して中海で最も優占する種でありつづけたことに変わりなかったが,分布の中心は,1963/1967年と1986年,2002年,2021年とでは大きく変化し,1963/1967年では大根島北西部より反時計回りに南西部まで,1986年以降では大根島南東部から湖心であった.また,B. bisanensisの個体数は2021年で最も多かった.本庄水域に関して,2002年では大根島北西側の沿岸のみで産出していたが,2021年では森山堤防付近と大海崎堤防の北西側にも産出した.また,北西側の沿岸は,堤防が開削された後に覆砂され,異地性の貝形虫が化石となって産出した.大橋川河口周辺で産出したC. miiiD. mukaishimensisは,2002年と比較すると激減していることが認められた.引用文献 池谷・塩崎(1993)地質論,no. 39,15–32.入月ほか(2003)島根大地球資源環境学研報,no. 22,149–160.Ishizaki(1969)Sci. Rep. Tohoku Univ., 2nd Ser. (Geol.), 41, 197–224.高安ほか(1990)島根大地質研報,no. 9,129–144.

  • 越智 輝耶, 入月 俊明
    セッションID: G-P-37
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    シジミ属(Corbicula属)は現在日本の淡水から汽水に生息する代表的な二枚貝で,化石としても多産する.シジミ属は種間で殻形態が類似し,同種でも殻形態に変異があることが知られている(高安ほか,1986など).本研究では日本の代表的なシジミ属の種で,汽水域において多産する完新世のヤマトシジミ(Corbicula japonica)の殻外形の変異性に焦点を当て,時代や環境の違いとの関係を明らかにすることを目的に形態解析を行った. 解析に使用したヤマトシジミに関して,現生標本は島根県宍道湖北西岸で採取された遺骸殻である.弥生時代の標本は宍道湖底から漁師により採取された化石殻で,モニュメント・ミュージアム来待ストーン所有の標本である.これは宍道湖北西部の湖棚上に露出するシジミ殻密集層由来であると推定され,その密集層のシジミ殻の14C年代は約2000年前を示す(徳岡ほか,1997).縄文時代の標本は島根大学総合博物館アシカル所有の化石殻で,島根大学の地下に存在する縄文時代前期から中期前半に堆積した第4a層から出土した標本である(島根大学埋蔵文化財調査研究センター,2000).ヤマトシジミと比較するため,琵琶湖特産の現生セタシジミ(Corbicula sandai)も分析に使用した.  分析に際して,これらの標本の左殻を用いて殻の2次元投影面の面積を求め,殻の外形の形態解析には楕円フーリエ解析(Kuhl and Giardina, 1982) を用いた.殻の二次元投影面の面積は画像処理ソフトのImage Jを,楕円フーリエ解析にはSHAPE(Iwata and Ukai, 2002)を用い,楕円フーリエ記述子の係数に対し主成分分析を行い形状の差異の主要な成分を抽出し,形状を少数の主成分得点で表現した. 形態解析の結果,セタシジミと現生のヤマトシジミでは第1〜第3主成分までで種を判別することが可能であった.また,ヤマトシジミの種内変異に関しては,第3主成分までで現生標本と弥生時代標本の違いを認めることができた.一方,現生標本と縄文時代標本はきわめて類似し,楕円フーリエ解析で区別することはできなかった.各主成分と2次元投影面の面積のデータを用いて,成長段階の違いによる外形の変化について検討した.結果として,現生のヤマトシジミは第1主成分と2次元投影面の面積との間に正の相関が認められた.これは,現生のヤマトシジミでは成長に伴い外形が横に長い形状から縦に長い形状へと変化することを反映している.これは小さい個体よりも大きい個体の方が殻高/殻長の値が高い傾向にあるという報告(高安ほか,1986)と一致する.弥生時代と縄文時代の標本も含めて検討した場合でも同様の傾向が見られたが,この傾向は面積が400 mm2付近までで,それ以上のサイズでは見られなくなった.これは稚貝期とそれ以降で殻高/殻長の増加量が変化するという報告(倉茂,1944など)と調和的である.縄文時代標本と弥生時代標本を解析した結果,同じサイズでは弥生時代標本よりも縄文時代標本は横に長い外形を示した.ヤマトシジミは満潮時に海水が流入するような環境では塩分の高い海水の影響を避けるために頻繁に潜掘行動を行わなければならないため,平らで横に長い形状になるという報告(中尾・園田, 1995)がある.本研究でも,縄文時代標本が得られた地点は弥生時代標本のそれよりも塩分変動の激しい環境であったと推定されることから,殻外形の違いは環境の違いを反映している可能性が高い. 引用文献Iwata, H. and Ukai, Y., 2002, Jour. Heredity, 93, 384–385.Kuhl, F.P., and Giardina, C.R., 1982, Comput. Graph. Image Process., 18, 236–258.倉茂英次郎,1944,日本海洋学会誌,3, 231–253.中尾 繁・園田 武,1995,神西湖の自然,神西湖の自然編集委員会 編,たたら書房,p. 101–114.島根大学埋蔵文化財調査研究センター,2000編,島根大学埋蔵文化財調査研究報告,6,112p.高安克己・漆戸尊子・奥出不二生,1986,島根大学地質学研究報告,no. 5, 35–42.徳岡隆夫・中村唯史・三瓶良和,1997,Laguna, no. 4, 77–83.

  • 近藤 洋一
    セッションID: G-P-38
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    はじめに  新潟県妙高市笹ヶ峰の標高1230mの地点からナウマンゾウの下顎第3大臼歯が発見された(近藤,2014).産出層は笹ヶ峰湖層と推定され古笹ヶ峰湖に堆積した湖成層で,AMS14C年代値は37,320±240である(近藤,2015).笹ヶ峰湖成層は3つの平坦面を形成していて,笹ヶ峰Ⅰ面,Ⅱ面,Ⅲ面に区分される(濁川,1982).標本が発見された地点は笹ヶ峰Ⅲ面に相当し,ATを含む地層で,現河床からの比高がニグロ川中流域で5~9mである.笹ヶ峰Ⅲ面とⅡ面の比高差は11~13m,笹ヶ峰Ⅱ面とⅢ面の比高差は30~48mである.この比高差から,吉山・柳田(1995)のBV法により地盤の隆起量を推定すると笹ヶ峰Ⅱ面が形成されてから11~13mの隆起量が推定され,笹ヶ峰Ⅲ面が形成されてからも同様な隆起量であったと仮定すると,隆起量を差し引いても1200mは下回らない.ナウマンゾウの生息高度の分布と環境  いままで1200mをこえる地点でのナウマンゾウの化石は日本国内では発見されていない. ナウマンゾウ産出地点の標高がわかる124地点の標高の頻度分布をみると,200m以下が最も多く全体の77%以上になる.400mをこえる標高で発見されているのは9.7%に過ぎない.産出したナウマンゾウの化石はほとんどが異地性であり,産出地点がそのまま生息していた標高を示すものではない.とはいえ,化石は堆積物として地層の中に埋積されるので,地層が形成された標高より低い位置のものが入り込むことは考えにくい. アフリカゾウ(Loxodonta africana)の場合,傾斜のある斜面を登るために大きなエネルギーコストがかかるため高い場所はさける傾向がある(Wall et al.,2006).ゾウの移動に影響を与える要因としては,食料,水,ミネラル,繁殖などが考えられる.インドゾウの場合は,水の制限がない場合には食料が最も移動に大きな影響を及ぼし,最適採取理論が適応されるといわれている(Sukumar,1989). 日本列島から見つかったナウマンゾウで発見地点の標高が比較的高い30地点の堆積環境を検討した.標高の値は,藤原ほか(2004)のよる地域ごとの平均的隆起量を補正した。最も多いのが石灰岩洞窟堆積物からの産出で,葛生や秋吉台,平尾台,熊石洞など9地点ある.つぎに湖成層からの産出が8地点,河床の礫層や段丘礫層,扇状地礫層などからの産出が8地点,泥流や土石流など流下堆積物が3地点であった.高地をめざす要因について  1)水域の存在:標高の高い地点での産出は,本標本の産出層と推定される笹ヶ峰湖成層や,野尻湖標本群を産出した野尻湖層,八幡標本を産出した八ヶ岳北麓に分布する御馬寄層,群馬県の川場標本を産出した川場湖成層,下本郷標本を産出した新期上小湖成層,磐梯熱海標本を産出した郡山層上部,徳佐標本を産出した徳佐層などがある.このような水域の縁辺部に分布する湿地の環境はナウマンゾウにとってもたいへん重要な生息場所であり,こうした水域があることが高地に移動した要因のひとつと考えられる. 2)ミネラルの存在:温泉地域である湯川内標本や山形県の笹森標本などのように,小河川の上流部で広い水域も推定されない高い標高の場所からも化石が見つかっている.狭い峡谷であるが,産地の近くには温泉が存在する.湯川内標本産出地点の付近には笹倉温泉があり,笹森標本産出地点付近には山形県の赤倉温泉がある.磐梯熱海標本の産地上流には磐梯熱海温泉があり,川場標本の産地近くには,川場温泉がある.ミネラルが現生ゾウの行動や生息域の移動する際の重要な要因であることを示唆する研究は多い(Karyn D.et al.2006など).高地における石灰岩地域と温泉のある地域におけるナウマンゾウ化石の発見は,山地帯で安定的にミネラル補給ができる場所であった可能性が高いことを示唆している.引用文献 藤原ほか(2004)月刊地球, 26, 442-447.Karyn D.R.et al.(2006).Jour.of Tropical Ecology,22,441-449. 近藤(2014)日本地質学会第121年学術大会講演要旨,140.近藤(2015)日本古生物学会年会講演予稿集,17.濁川明男(1982)新潟県立教育センター研究報告,54,75-84.Sukumar,R(1989) Jour. of Tropical Ecology,5:1-8.Wall,Jake,Iain et al(2006)Corrent Biology vol 16 no14,527-529.吉山昭・柳田誠(1995)地学雑誌,104,809-826.

  • 齋藤 京太, 青木 智
    セッションID: G-P-39
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    最終氷期最盛期以降の沖縄トラフ周辺における堆積環境の変化は沖縄トラフ内部のコアを中心に復元されており(例えば川村ほか,2007[1]),沖縄トラフ西側斜面での復元は沖永良部島北西に位置するPN線周辺または男女海盆の西方に限られている.しかし現世の斜面上部における粒子輸送は時空間的な変動が大きいこと(岡村ほか,1997[2]),沖縄トラフ西側斜面の地形は地域差が大きいことを鑑みれば,過去においても斜面部の堆積環境には地域差があったと考えられる.沖男女海陵群は,沖縄トラフ北部の西側斜面,北緯30度付近に位置する一連の高まりの総称であり,陸棚とは小規模なトラフで隔てられている(青木ほか,2023[3]).海洋学的には東シナ海を流れる黒潮が陸棚を離岸する位置にあたるとともに,対馬暖流の源流域でもあることから(菱田ほか,1990[4]),沖男女海陵群周辺の堆積環境の復元からは,過去における黒潮の変動や対馬暖流の形成に対する制約を与えられる可能性がある. 本研究では,沖男女海陵群周辺から複数のグラビティーコアを採取するとともに,サブボトムプロファイラーにより海底面直下の堆積構造の調査を行った.グラビティーコアの堆積相と放射性炭素年代からは,多くの地点で完新世における粗粒化が観察されており,同時に分析を行った有孔虫の種組成などと組み合わせることで,最終氷期最盛期以降における堆積環境の変化を推定するとともに,周辺海域における復元との比較から,黒潮の変動や対馬暖流の形成に対する示唆を試みる.参考文献[1] 川村ほか (2007) 地質学雑誌 113(5), 184-192.[2] 岡村ほか (1997) 海の研究 6, 361-369.[3] 青木ほか (2023) 日本地球惑星科学連合2023年大会, SCG52-13.[4] 菱田ほか (1990) 海洋調査技術 2(1), 1-9.

  • 吉田 勝, Paudel Mukunda, 在田 一則, 酒井 哲弥, Upreti Bishal
    セッションID: G-P-40
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    ヒマラヤで野外地学を学ぶ―第11回学生のヒマラヤ野外実習ツアー 20233月)報告 吉田勝1,2・M.R.パウデル2・在田一則3・酒井哲弥4・B.N.ウプレティ5 1 ゴンドワナ地質環境研究所,トリブバン大学トリチャンドラキャンパス地質学教室, 北大総合博物館,島根大学総合理工学部,ネパール科学技術アカデミー ヒマラヤは地球で最も高く,今なお上昇しつつある最も新しい山脈である.ここでは 造山運動の形跡をまざまざと見ることができる.学生のヒマラヤ野外実習ツアー(SHET)は2012年より毎年実施されてきた.今年3月には第11回の実習ツアーが3月3日から18日の16日間で実施された.参加者は各地5大学の学生11人,トリブバン大学生2人,中国の成都技術大学院生1人と日本の山岳写真家1人で,合計15人,指導教員は筆者とトリブバン大学のM.パウデルでチームの総勢は17人であった. 野外実習コースは例年と同じで,カトマンズ~ポカラ(泊)~カロパニ(泊)~ムクチナート~カグベニ(泊)~カロパニ(泊)~タトパニ(泊)~ポカラ(2泊)~タンセン(泊)~ルンビニ(泊)~カトマンズを貸切バスで10日間のツアー,その内ムクチナート~タトパニ区間は主に徒歩であった(図1). 野外ツアー期間中,天候はおおむね良好で,徒歩区間で1日降雪のため難渋したが全体として大きな問題はなく,予定通りの見学・調査を行なうことができた.本実習ツアーの毎日の行動詳細は吉田(2023)*で報告した. なお,ネパール地質鉱産局(DMG)では昨年5月から外国チームによる国内の野外調査活動と標本の持ち出しに対して厳格な規則を定めたので,SHET-11はそれに従った.そのために日本出発前から実習ツアー最終日まで,TU側といろいろな打合せや書類作りなどかなりの苦労があった. 今回,日ネ両国の入国規制は昨年よりかなり緩められており,ネパールの新期感染者数は日本の1万分の1以下であったが,それでも日本入国時にはワクチン3回以上の接種あるいはネパール出国72時間以内のPCR検査陰性証明が必要とされた.後者に該当したのは4人だったが,幸い全員陰性であった. 野外調査期間の前半は高所障害を呈した1人以外は全員元気であった.しかし,後半から帰国後にかけて6人前後に喉の痛み,咳,下痢や発熱があった.これらは,とくに寒かった降雪日の野外活動直後から風邪症状を示した参加者らと,発熱と下痢で細菌性の胃腸障害に罹患したと思われた学生らがほぼ半々であった.後者の学生らは帰国後病院で治療を受けたが,回復に1数館前後を要した. 帰国の日,空港では岩石サンプル持出しを心配していたが,セキュリティ検査官はDMGの許可証を一瞥しただけで全く問題なく通過できた.検査の厳密度は検査官の個性によると思われ,毎回許可証が必要なのは確かである. SHET-11では暫定参加費を20万円としていた.ネパール国内の諸経費は数年前から漸増して来ているが,今年はとりわけ山岳地域での食事料金が高騰していた.これらのためにチームとして経費節約に大きな努力を払い,ネパール国内経費を従来と同程度に抑えることができた.しかしフライト料金+VISA料金は平均124,001円と過去10回の平均78,445円の1.58倍となり,学生1人当たりのツアー経費は238,331円と過去2番目の高額となった.これに対して一般対象のクラウドファンディングや1組織からの寄付金などよって一人当たり22,730 円の参加費補助を行なった.しかし結局,学生1人当たりの参加費は平均215,601円と過去10回の実習ツアーの中で最高額となった(表3). 学生のヒマラヤ野外実習プロジェクトでは第12回の実習ツアーを来年3月に実施する予定である.しかし上記のように,航空運賃やネパール国内の諸経費が高騰しているために,学生参加費が20万円を越えてしまうことは避けられない状況になりつつある.これを避けるためには昨年から開始したSHET対象のクラウドファンディング**を毎回充実させていかねばならないし,また文科省や民間諸組織の補助, 金獲得の努力も再開せねばならないであろう.関係各位のご理解・ご協力を期待したい. 引用文献 吉田勝,2023,第11回学生のヒマラヤ野外実習ツアー引率日誌.(吉田勝編,2023)ヒマラヤ造山帯大横断2023―第11回学生のヒマラヤ野外実習ツアー2023年3月の記録(本書),フィールドサイエンス出版,印刷中. * ヒマラヤ造山帯大横断2023,吉田勝(編)フィールドサイエンス出版,橋本,231頁. ** 「学生にヒマラヤで学ぶ機会を!プロジェクト」http://www.gondwanainst.org/cf

OR.アウトリーチセッション
  • 吉田 勝, 学生のヒマラヤ野外実習 プロジェクト
    セッションID: OR-P-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    ヒマラヤ地学ツアーへのご招待 吉田勝1・学生のヒマラヤ野外実習プロジェクト2 今から約1億年前に巨大大陸ゴンドワナから分かれたインド亜大陸は,5500万年前に古アジア大陸南縁に衝突した.そして5500万年前から現在にかけて両大陸の衝突地帯ではドラマティックな地球規模地学事件が展開され,ヒマラヤ山脈が生まれたのである. ヒマラヤは現在も上昇しつつあり,さらに将来長きにわたって同じ動きを続けるであろう.この地球上で尤も新しくかつ活動的な山脈では,極端に鋭い地形,現在も続く急斜面の形成と絶え間ない水平方向の移動と垂直上昇の結果として,地震,地すべり,雪崩,土石流,河川洪水などの自然災害が頻繁に発生している.山脈に並行して明瞭な帯状分布を示す地形・地質と気候特徴は,各帯における自然災害の特徴・種類や大きさを支配している.ヒマラヤは山脈形成の地質過程や自然災害を学ぶ最高の自然博物館である.ヒマラヤの地学ツアーを経験した人は様々な地質過程や自然災害を目の当たりにし,地球自然への理解,さらには自身の居住地の自然への興味と理解を深めることになるであろう. 東西に連なる標高8000mのヒマラヤの主脈を切って南北に流れるカリガンダキ河は,ヒマラヤ山脈が上昇を始める前から存在していた先行河川である.谷の両側には8000m峰,ダウラギリとアンナプルナがあり,谷の両側は急傾斜で,稜線との比高差は6000mに及ぶ世界最深の谷である.南から北に谷を登って行くと,地質・標高と地形・気候・植生がドラスティックに変化し,それに加えて村落の形態や文化に明瞭な変化を見ることができる.このため,カリガンダキ河はヒマラヤトレッキングコースの中でも大きな魅力があり,多くのトレッカーが訪れるのである.河に沿って歩いて行くと,独特の地形と美しいヒマラヤの山と谷だけでなく,劇的に変化する気候,植生や人々の文化に目を見張るであろう.カリガンダキ河のトレッキングでは,自然の美しさのエッセンスを見ることができるが,それに加えて多彩なヒマラヤ民族の生活文化の違いも明らかなのである. 来年3月に第12回目を迎える学生のヒマラヤ野外実習ツアーは,トランスヒマラヤの標高3800mにあるヒンドウ教の聖地ムクチナートを出発点とし,カリガンダキ河に沿って歩き,さらに車で南下して標高150m,ガンジス平原にある仏教の聖地ルンビニまで,ヒマラヤ造山帯の完全横断を行なう.参加者は主に学生だが,一般市民も歓迎される.全行程に車が同行するので足の弱い人も参加でき,過去には全く歩けない人が参加して楽しんだ.日本発着17日間ほどで参加費は学生20万円,一般25万円以内を目標とし,過去11回の平均参加費は学生165,000円,一般215,000円であった. 発表では過去11回の実習ツアーのハイライトとまとめを展示し,来年3月の第12回実習ツアーの内容を説明する. 1 ゴンドワナ地質環境研究所及びトリブバン大学トリチャンドラキャンパス地質学教室 2 世話人会:酒井哲弥(島根大,代表),吉田勝(共同代表),在田一則(北大),B.N.ウプレティ(ネパール科学技術アカデミー)

J1. ジュニアセッション
  • 二松學舍大学附属高等学校 理数科研究部
    セッションID: J1-P-1
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    研究者名:志賀明輝(Haruki Shiga)【目的】2021年10月頃、沖縄県沿岸に多くの軽石が漂着し、船が出港できないなどの影響が出た。この件について興味を持った私は沖縄県に手紙を出し、同年12月に沖縄県環境部環境整備課より試料の提供を受けた。この軽石について漂着した時期から2021年8月13日に大規模な噴火を起こした福徳岡ノ場由来によるものであると言う仮説を立てた。この仮説を実証するべく、本研究を開始させた。本研究は軽石を試料として岩石プレパラートの作成、及びを構造の観察を用いて研究を進めた。構造の観察、および一般的な玄武岩、安山岩などの火山由来の岩石との比較を通じ、軽石の組成成分及び形成の過程に関する考察を試みた。【実験方法】本研究では、岩石プレパラートを作成し、偏光顕微鏡を用いることで組成成分の特定を試みた。尚岩石プレパラート作成にはカーボランダム、及びアランダムを用いた。さらに海流図を用いることで、軽石の産出地及び経由ルートの特定を試みた。【結果と考察】岩石プレパラートの観察の結果、斜長石、角閃石等複数の組成岩石と、繊維状の鉱物等の特徴的な組織が確認された。その際、班状組織様の部分が確認されたため、深成岩とは明らかに違う過程を経て形成されたと考えられる。このことから溶岩が急速に冷却される環境において形成されたことが示唆された。さらに海上から漂着したことから海底火山性のものである事が判明し、数年以内に日本近海で海底火山が噴火した事例が福徳岡ノ場除いて無いことから、この軽石は福徳岡ノ場由来の物である可能性が極めて高いと判断した。この結果をもとに海流図を解析したところ、福徳岡ノ場において産出された軽石が沖縄県に漂着することについて矛盾は見られなかった。以上の点より、本研究では沖縄県に漂着した軽石は福徳岡ノ場由来の物であるという結論に達した。また、結晶組織、組成から、安山岩が最も近い性質を持つと考えた。【参考文献】猪俣道也.地学実験・見学案内.東京農業大学教職課程,2013.チームG.薄片でよくわかる岩石図鑑.誠文堂新光社,2014.青木正博.岩石薄片図鑑.誠文堂新光社,2017.気象庁.“日別海流”.気象庁.https://www.data.jma.go.jp/gmd/kaiyou/data/db/kaikyo/daily/current_HQ.html

  • ★日本地質学会ジュニアセッション奨励賞★
    兵庫県立姫路東高等学校 科学部地学系研究部
    セッションID: J1-P-2
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    研究者氏名:髙田健吾 前田隆良 陰山麻愉 藤田詩桜 松田理沙Ishiharaは、西南日本内帯の深成岩類を、北部の磁鉄鉱系列と南部のチタン鉄鉱系列に二分した1)。Czamanskeらは、西南日本のバソリスを構成する白亜紀-古第三紀深成岩類の造岩鉱物の化学分析を行い、磁鉄鉱系列とチタン鉄鉱系列の深成岩類について詳しく記した2)。Kawakatsu and Yamaguchiは、山陰帯の石英閃緑岩の角閃石に発達した波状累帯構造を発見し、この微細構造の組成分析をもとに、マグマ分化末期にサブソリダス環境(酸化的環境)下で、マグマが発泡して生成した熱水残液が激しく循環し、すでに晶出していた鉱物のイオン置換を引き起こしたことを示した3)。その後の研究によって、角閃石の波状累帯構造は普遍的に形成されていると考えられるようになり、どのような組成の熱水残液がどの程度循環したのかを示す指標となることが明らかになっている。一方で、これまで山陽帯の深成岩類から発見されたという報告はあるものの、いずれも不明瞭で判断が難しいものであった。筆者らは、兵庫県南西部の1級河川揖保川沿いの地質調査を繰り返し行い、揖保川上流部に分布する白亜紀後期の花崗閃緑岩を採取して薄片を作成し、偏光顕微鏡で角閃石を詳細に観察した。その結果、山陽帯の花崗岩類から、初めて明瞭な波状累帯構造を発見することができた。共存する酸化鉱物はチタン鉄鉱であり、Ishiharaのいう還元的環境とも整合的である1)。一方で、白亜紀後期に本地域で活動した中性マグマが固結してできた火山岩のデイサイトの角閃石からは微細構造を発見できなかった。波状累帯構造が幅広い領域に発達している山陰帯の深成岩類の角閃石に比べて、山陽帯の深成岩類では角閃石の波状累帯構造の発達の程度は非常に低い。発泡による熱水残液が形成されにくい深所にマグマが貫入して固結したために、熱水残液の循環が山陰帯に比べて起こりにくい還元的環境にあったと推定される。波状累帯構造をもつ角閃石の最外縁部には濃緑色リムが形成されており、最終段階では酸化的環境であったと考えられる。一方、デイサイトのような火山岩では、固結までの時間が短く、また還元的環境であったために、熱水残液が形成されたり循環が起こったりする可能性が低かったのではないかと考えられる。現在、研磨薄片を作成して詳細な鉱物観察を行い、京都大学理学部を訪問して波状累帯構造部分のEPMA分析を行う予定で研究を進めている。先行研究によると、角閃石のイオン置換は多くの場合組み合わせ置換であり、その置換パターンから置換が起こった時の環境を推定することができる4)5)。こうして、すでに明らかにされている山陽帯との比較を行い、マグマ分化末期の環境を推定するモデルを作成することを目指している。1) Ishihara,S (1977) Min.Geol.Tokyo. 27, 293-305.2) Czamanske,G.K., Ishihara,S. and Atkin,S.A. (1981) J.Geophys.Rep. 86, 10431-10469.3) Kawakatsu,K and Yamaguchi,Y (1987) Geochim.Cosmochim.Scta. 51, 535-540.4) Leak,B.E. (1978) Amer.Mineral. 63, 1023-10525) Czamanske,G.K. and Wones,D.R. (1973) J.Petrol. 14, 349-380.

  • ★日本地質学会ジュニアセッション優秀賞★
    大阪府立 泉北高等学校
    セッションID: J1-P-3
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    研究者氏名:藤崎寛之、 前原幸和、 阪本悠真、 氏家真央はじめに淡路島三ツ川地域の和泉層群北阿万層は、岩城・前田(1989)らによって主に沖合の泥岩で特徴づけられると報告されている。今回、予察的研究では浅海域に生息するウニや二枚貝が自生に近い状態で産出した。そこで私たちは「北阿万層中に浅海相が存在するのではないか。」と仮説を立て、調査を行った。調査方法兵庫古生物研究会と地権者の協力のもと、三ツ川地域(東西2km、南北2km)の地質調査をのべ10回行った。地層の観察・スケッチやクリノメーターを用いた走向傾斜の計測を行った。調査結果(岩相層序および堆積構造)本地域北阿万層の走向は大局的にNE-SW方向、傾斜はSE方向に20-50°であり、南東にかけて上位の地層が露出する。調査結果よりルートマップ、対比柱状図を作成した。本地域下部に粗粒な白色砂岩(下部砂岩頁岩互層:堀籠1990)、上位に薄い砂岩の挟みを伴う砂質泥岩(内田頁岩層:堀籠1990)が重なる。白色砂岩は地域北西部に大露頭を形成しており、堆積構造が多く確認されたので次に示す。白色砂岩より下位は平行葉理や級化構造を示すタービダイト砂岩(f)で特徴づけられ、グルーブキャスト、フルートキャストが頻繁に観察された。白色砂岩下部にはハンモック状斜交層理(e)、中部にはウェーブリップル(c)が観察された。白色砂岩層最上部では上位に向かって、礫が大きくなる逆級化が見られ(b)、また砂岩全体に上方粗粒化の傾向が見られた。そして白色砂岩より上位の砂岩泥岩互層中の砂岩層には大規模なスランプ褶曲が観察された。堆積環境に関する考察①白色砂岩の下位より上位にかけて見られる堆積構造の変化の中で、最上部に向かって波浪の影響でできたと考えられる構造が目立つことから次第に海退が進んだと推定できる。白色砂岩の大露頭の観察白色砂岩の走向傾斜は狭い領域で頻繁に変化する。層理面のスケッチからは下に湾曲するチャネル構造が数多く見られ、チャネルが位置を変えながら上位に移り変わるローブ状構造も観察できた。さらに、観察中に計測した白色砂岩とその上下の走向傾斜のデータを白色砂岩の下位からzone A、B、C、Dと分け、比較を行うことにした。作業の工程は以下の通りである。①各zoneの走向傾斜をN個計測。②7°西偏する。③白色砂岩最上部の走向傾斜で傾動補正を行う。④ステレオネットで各層の極位置、ばらつきを対比。⇒結果、B、C、D、Aの順にばらつきが多く、C、A、B、Dの順に傾斜が急であると読み取れる。堆積環境に関する考察②白色砂岩中のチャネル構造やローブ状の変化、上方粗粒化の特徴は砂岩全体が河口付近に発達するデルタ堆積物である可能性が高いといえる。堆積当時の層理面は底置面→前置面→頂置面と進むに従い、小→大→小と変化し、頂置面ではほぼ水平である。ステレオネットにおけるA→B→Cの変化は底置面→前置面→頂置面への変化に相当すると推定される。また、zone Cで傾斜方向のばらつきが目立つのはチャネル(流路)が近いためだと考えられる。白色砂岩より上位にかけて白色砂岩より上位は異常巻きアンモナイトを含む泥岩中心の岩相である。その中にハンモック状斜交層理を伴う厚さ1.5mの砂岩層を発見した。この層はカキや二枚貝の破片、マッドクラストを大量に含み、側方に500mほど続く。何らかのイベントで生じたものと考えられ、現在古流向の変化を調べている。まとめ今回、北阿万層の岩相・堆積構造の観察から浅海性の堆積物が発見された。今後、岩石切片の観察や粒度変化から古環境の変化をより詳細に調べ、また、産出化石の産状を堆積相と関連付けることによって、それらの生息環境を復元していきたい。

  • 和歌山県立 田辺高等学校
    セッションID: J1-P-4
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    研究者氏名:山下海音,竹田夢來,藤田悠真,前田香花,増田輝瑠,谷本和香奈,井上雅結,濱中一真1 はじめに紀伊半島南西部,和歌山県みなべ町から田辺市を経て白浜町に至る地域には,新第三紀中新世に堆積した田辺層群が分布している.さらに,白浜町臨海の海岸では,塔島礫岩層が田辺層群白浜累層を傾斜不整合で覆っている様子が観察される(中屋ほか;1999,田辺団体研究グループ;1984).本研究では,塔島礫岩層および田辺層群に含まれる礫の調査に基づき,礫の供給源や後背地の様子を明らかにしたいと考えている.2 塔島礫岩層と田辺層群の礫岩の礫種構成白浜町や田辺市の海岸に露出する塔島礫岩層の11地点で合計1100個,その下位にある田辺層群白浜累層の2地点で200個,田辺層群朝来累層の1地点で100個の礫を観察した.塔島礫岩層の礫種構成は,地点ごとに差はあるが,いずれも砂岩が多数を占めており(73~96%),次いで泥岩,緑色凝灰岩,チャート,結晶片岩類などが見られる.まれに,流紋岩など火成岩の礫も含まれている. 塔島礫岩層の下位にある田辺層群の礫岩でも礫種構成を調査した.白浜累層2地点の礫種構成は,結晶片岩類が多数を占め(77~81%),次いで火成岩類(10~11%),泥岩,チャートであった.朝来累層1地点の礫種構成は,砂岩が多数を占め(89%),他に緑色凝灰岩,泥岩などが見られた.3 塔島礫岩層の礫の供給源塔島礫岩層の礫のうち,緑色凝灰岩の礫は,田辺層群朝来累層にも礫として含まれている.これが洗い出されて,塔島礫岩層の礫として堆積したと考えられる.この岩石の供給源の候補は,四万十帯の竜神層に含まれている白亜紀の凝灰岩(坂本・別所,1992)である.一方,結晶片岩類の礫は,田辺層群白浜累層の礫岩に高い頻度で含まれている.これが侵食されて塔島礫岩層の礫となったと考えられる.4 参考文献中屋志津男,原田哲朗,吉松敏隆.1999.25万分の1紀伊半島四万十帯の地質図.アーバンクボタ,no.38,付図.坂本隆彦,別所孝範.1992.酸性凝灰岩と密接に産する砂岩の形成-紀伊半島四万十累層群の竜神累層千疋山酸性凝灰岩体を例として.地質学論集,38,271-280.田辺団体研究グループ.1984:紀伊半島田辺層群の層序と構造.地球科学,no.38,p.249-263.

  • ★日本地質学会ジュニアセッション優秀賞★
    鹿児島県立国分高等学校 サイエンス部地学班
    セッションID: J1-P-5
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    【研究者氏名】浜田翔世,松本直人,本村隆太,福元啓太1914年に桜島が大噴火して今年で109年経ち,研究によると桜島の地下にあるマグマだまりは9割ほどマグマで充填され,この数十年以内にまた大噴火すると予想されている。桜島が大噴火した際,主にどの方向に降灰が起こるかに興味を持ち,桜島上空の風向きの傾向を調べることにした。桜島の1914年の大噴火では噴煙は成層圏まで達しているため,対流圏と成層圏での風向きを調べる必要がある。この研究では地上から高度10kmまでを対流圏,それよりも高い高度を成層圏と区分することにして,次の仮説を立てた。・対流圏では,夏は東寄りの風が吹き,冬は西寄りの風が主に吹く。春と秋はある程度バラツキが見られる。・成層圏では,年間を通して西寄りの風が吹いている。これはジェット気流の影響と考えられる。鹿児島地方気象台のWebページにある,1日2回9時と21時の高度別の風向データを入手,活用した。鹿児島地方気象台に問い合わせたところ,桜島上空の風向きと気象台で観測した風のデータに違いがほぼなく,日頃の降灰予報に活用しているとのことであるので,我々はこのデータを研究に使用することにした。使用したデータは2015年1月から2022年8月末までの427,295個である。高さ0~5kmまでは西風が多い傾向にあるが,他の高さに比べるとバラツキが大きい。また,おおよそ高さ15~20kmで風の傾向が変わる。成層圏下部(高度10~20km)と中部(高度20~30km)で大気の循環が異なることが予想される。成層圏下部では7~8月でバラツキがあり,成層圏中部では10~12月でバラツキがある。それぞれバラツキが少ない月では,成層圏下部では西風が主,成層圏中では東風が顕著である。先輩達の得られたこれらの結果をもとに,各月毎での大噴火時の降灰が主に及ぶ範囲を「降灰確率分布域」と定義して,その確率を示す方向で現在解析中である。【キーワード】桜島,大正大噴火,降灰,風向,降灰確率分布域

  • (注)当日はポスター掲示のみ.コアタイムの質疑応答はありません.
    群馬県立太田女子高等学校 理科研究部
    セッションID: J1-P-6
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    研究者名:渡邉百恵・藤生こころ・田島 満・大塚万優・清水祐希・藤澤樹花・加賀藍稀本研究は、茨城県阿見町の更新統下総層群から産出したウミシダ骨板化石について研究したものである.ウミシダとは,棘皮動物門ウミユリ綱ウミシダ目の総称である.ウミシダは、多数の骨板が集まってできているが,死後急速にバラバラに分解されるため肉眼で形がわかる化石として残りにくく、その研究例は少ない.本研究の目的は,堆積物中からのウミシダ骨板化石の採取、現生と化石との比較,種名の確定,古環境の推定,ウミシダ骨板化石分析が新たな微古生物学の1分野となるかの検討である。研究試料採取地は、茨城県阿見町島津である.島津の試料採取層準は、下総層群の木下層か清川層のどちらかに対比される.木下層は約12万年前、清川層は約20万年前の地層である.研究方法として,試料と水をビーカーに入れて加熱,懸濁,水洗処理を行った.島津の試料1kgを0.5 mmの篩で,また80gを0.075 ㎜の篩で水洗処理をした.残渣を双眼実体顕微鏡と面相筆を用いてウミシダ骨板化石を拾い出した.産出した個体を走査型電子顕微鏡(以下SEM)で撮影した.今回ウミシダ骨板化石が産出した地層は、貝形虫や有孔虫や有孔虫化石の分析結果から,外洋水の影響がある内湾の湾中央〜湾口部で砂泥底であると推定された.ウミシダの専門家より,ウミシダ骨板化石の候補として、内湾に生息する種であるトゲバネウミシダとニッポンウミシダの現生の標本を送っていただいた.現生ウミシダ標本は、一部をピンセットでちぎり,家庭用漂白剤で筋肉を溶かし,取り出した骨板を水で洗浄,SEMで撮影した.結果として,ウミシダ骨板化石は、島津から腕板5個、羽枝骨17個、巻枝板3個の合計25個が産出した。腕板化石・羽枝骨化石・巻枝板化石について、現生のトゲバネウミシダ・ニッポンウミシダから取り出した腕板・羽枝骨・巻枝板と比較検討した.その結果,腕板化石・羽枝骨化石・巻枝板化石は,全体の形がトゲバネウミシダに似ていることが分かった.島津で産出したウミシダ腕板化石とトゲバネウミシダとニッポンウミシダの腕板の比較を図に示した。産出した化石は,トゲバネウミシダ Antedon serrataに同定できると考えられる.化石をトゲバネウミシダに同定したこと,第四系からのウミシダ化石産出報告,バラバラの状態のウミシダ骨板化石から種の同定は日本初である.トゲバネウミシダは潮間帯から水深20m以浅の報告がほとんどであるため,示相化石として有効であると考えられる.今まで海成層の微化石分析でウミシダ骨板化石は見落とされていた.ウミシダ骨板化石を検討することで新たな微古生物学1分野になる可能性がある.

  • 学校法人池田学園 池田中学・高等学校
    セッションID: J1-P-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
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    研究者氏名:中学3年:茶屋道玲、中2年:廣田瑛南、廣田珂南1 研究の動機私たちの学校は鹿児島市西別府町(海抜93.5m)にある。約1㎞先の松元町にはお茶畑が広がり、学校周辺も霧が大変多い。また、少し高台にあるので学校は雷の被害が頻繁にあり、令和5年7月11日にも体育館への落雷で火災報知器が壊れた。 _授業中に先生が「学校が開校した30年前より霧は減っているような気がする。しかし、雷はとても増えたような気がする。」と言った。本当に雷が増えて、霧は減ったのだろうか。先生の話から、気象台の記録で霧と雷の変化について調べてみたいと思った。2 研究の目的 「霧が減って、雷は増えた」という先生の話は本当なのか気象庁のデータで調べてみる。3 研究の方法 気象庁のホームページから観測データ調べて、「霧」と「雷」の発生回数の推移を調べて、その変化を考える。増加・減少の傾向はExcelでグラフを作り、近似直線を引いて、係数で判断した。同時に因果関係のありそうな気温と降水量の変化も調べた。この時、観測方法や観測地点の変更があるデータは均質な期間のみを使った。4 結果研究⑴ 鹿児島県内の雷気象庁のホームページでは、「雷は、大気中で大量の正負の電荷分離が起こり、放電する現象。放電する際に発生する音が雷鳴で、光が電光1)」とある。鹿児島気象台の雷回数は1931年から年々増加傾向にある。また、鹿児島県内の7地点(枕崎・種子島・名瀬・阿久根・屋久島・沖永良部)の雷も増加している。雷の増加の傾向はExcelでグラフを作り、近似直線をひくと、増加傾向を示す直線の傾きが一番大きいのは鹿児島気象台で、y=0.19x+12.7という近似式であるかことがわかった。研究⑵ 鹿児島県内の霧霧とは地表近くの空気中に細かい水滴が浮遊するもので、気象観測では水平視程1km未満の場合をいう2)。鹿児島県内各地の霧は、鹿児島・枕崎・種子島・名瀬、屋久島・沖永良部の6地点で調べた。年々減少の傾きが大きいのは屋久島で、傾きは-0.21だった。しかし、隣の種子島は0.01でかすかな右肩上がりであった。研究⑶ 全国の雷私たちが調べた全国主要都市17カ所(北海道、青森、岩手、新潟、富山、茨城、東京、静岡、長野、愛知、大阪、岡山、広島、高知、和歌山、山口、福岡、大分、長崎)の気象台の記録では、すべての地点で雷の発生が増えて、霧が減少している。近似直線の傾きが一番大きかったのは、富山で、0.25であった。5 考察「霧日数」は鹿児島県内(阿久根以外)でも、全国17カ所でも、減少していた。これらの地域は気温も上がっており、地球温暖化が原因だとすると、気温が上昇して、空気の飽和水蒸気量が大きくなり、空気中の水滴は蒸発して水蒸気になるために霧が出なくなっているのではないだろうか。雷日数は全国17カ所で増加していることがわかった。これらの地域の降水量も増加している。 _雷は降水量の上昇(強い雨)や飽和水蒸気量と因果関係がある可能性もあるので今後分析を進める。6 今後の課題 霧と雷の変化と関係する別な気候の要素との関係がないか分析する。7 参考文献1)気象庁ホームページ2)「気象・天気の新事実」木村龍治著、2015、新星出版社8 キーワード 霧、雷、近似直線、鹿児島気象台

  • ★日本地質学会ジュニアセッション奨励賞★
    学校法人池田学園 池田中学・高等学校
    セッションID: J1-P-8
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/04/10
    会議録・要旨集 フリー

    研究者氏名:末滿李紗・池田誠克・辻健・伊東由莉奈・林首成・井料優良・東ひかる・川野仁子・小田平佑理・富川慎也・及川紗彩・及川 紗紬・小倉心美・加藤ほのか・中尾文乃1 研究の動機江戸時代の気象を調べるために、古文書の天候記述を分析している。天候記述から得られた「降水出現率」は記述の詳しさの影響を受けているとされ、実測値の復元に重回帰分析を使ってきた。しかし、「ピアニの方法」を知り、重回帰分析と比較することとした。今回は、江戸時代から明治時代にかけて書かれた、「鈴木日記」(1844-1883)を検討の資料とした。鈴木日記は下椚田村狭間(現:八王子市狭間町)に居住していた鈴木佐次右衛門の農事日記である。2 研究の目的東京気象台の実測値を使って回帰分析で降水出現率を復元し、ピアニの方法で降水出現率を復元して回帰分析と比較する。さらには、回帰分析をする際に、「詳細率」(庄ら,2019)以外に、私たちが独自に考えた1日あたりの天候記録文字数から求められた、「日平均文字数比率」を説明変数に加えられないか検討する。3 データ処理及び「詳細率」取得したデータは39年間で、13,236日だった。「詳細率」以外の「天気の出現率」の集計では、1年の1/3の欠測のある年と2月29日も集計から削除した。4 研究Ⅰと考察 古文書の天候記述の信憑性について先行研究(平野ら,2018)によると、J.C. Hepburnが1863年から1869年まで横浜の降水量等を記録している。1868年の多雨傾向を鈴木日記で検証みると、過年度のデータベース「鈴木日記」でも1868年の多雨の傾向が認められ、古文書の天候記述も優れた時間分解能を持つと考える。5 研究Ⅱと考察 重回帰分析による実測値の復元とピアニの方法鈴木日記が書かれた、1844~1883のうち、1875年以降は東京気象台の観測がある。そこで、「日記の詳細率」と「日記の降水出現率」を説明変数、「気象台の降水出現率」を目的変数として回帰分析で復元すると、1849年の降水出現率56.4%が最高であった。また、ピアニの方法で復元すると、1849年の降水出現率58.3%が最高となる。2つの復元値の平均値の差は0.62%で、相関係数は1.00であった。ピアニの方法は、「何かしらの分析によって求まったモデル値を実測値に近づける方法」である。6 研究Ⅲと考察 新たな説明変数「日平均文字数比率」日記は天気の変化が激しくなると、文字数が増える。そこに着目して、1年ごとに「日平均文字数比率」を算出した。「日平均文字数比率」は1日あたりの天候記述の文字数を、年間の合計文字数で除して求める。鈴木日記の最低値は1848年の2.9文字/日、最高値は1949年の5.9文字/日であった。「日記の降水出現率」があがると、「日平均文字数比率」もあがると予測したとおりになった。このことから、「日平均文字数比率」は新たな説明変数として、復元に使える可能性があると考えてさらに検討する。7 研究のまとめ⑴「日記の詳細率」と「日記の降水出現率」を説明変数として、「気象台の降水出現率」を目的変数として重回帰分析で復元した値と、ピアニの方法の相関係数は1.00であった。⑵「天候記録・日平均文字数比率」を調べると、「詳細率」との相関係数が0.83で降水出現率の復元で新たな説明変数として使えると考える。8 キーワード鈴木日記、詳細率、重回帰分析、ピアニの方法、日平均文字数比

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