アデニンフォスホリボシルトランスフェラーゼ(APRT)欠損症はadenineをフォスホリボシル化してAMPを合成するサルベージ経路に障害のある疾患である.その結果,adenineが蓄積し,そのadenineはキサンチンオキシダーゼにより8-hydroxyadenineを経て2,8-dihydroxyadenineへと代謝される.2,8-dihydroxyadenineは水溶性が極めて低く,尿管内で析出し結石性腎症を引き起こす.日本人の約1%がAPRT遺伝子欠損の保因者と推定されており,疾患の頻度は高い.有効な治療法があり,日本ではAPRT遺伝子とその変異の研究が早くからなされたにも拘らず,未だに発症から数年,数十年を経て診断に至る例が報告されている.海外でも診断が著しく遅れている現状が相次いで報告され,診断に至る新たなアプローチが不可欠と考えられているが,その具体案は示されていない.
著者らは1996年以降,gas chromatography-mass spectrometry(GC/MS)を用いる尿メタボロミクス(GC/MS-based urine metabolomics)により,本疾患の代謝物レベルでの診断(化学診断)を行ってきた.化学診断後に遺伝子解析した症例では全例に変異が確認された.本研究では既に症例報告がなされた4名についてメタボローム解析手法とデータを開示し,本法が早期診断の新たなアプローチとなり得ないかを改めて考察した.疾患の判定は本疾患の指標物質を予めターゲット化し,被験者の計測値の健常群からの乖離度を対数変換し求めたz-scoreに基いて行った.z-scoreは2,8-dihydroxyadenineでは6以上,8-hydroxyadenineも5以上で判定に迷う値はなかった.指標物質は患者尿に常時,高濃度に存在しているので,僅かの随時尿から一両日で本疾患を特定できる.GC/MSを用いることで,感度,特異度が高い上,メタボロミクスとしては極めて廉価に施行できた.診断には腎生検も酵素活性測定も不要と考えられた.現行の診断ガイドラインにある沈査や結石の検査,酵素診断,遺伝子診断のみでなく,随時尿のGC/MS-メタボロミクスが診断の入り口としても確定診断としても補足採用されることを提案する.また,小児期/成人期早期の,血尿や腰部の疝痛など,尿路結石症の症状が認められ,通常検査で容易に診断されない患者に対し,随時尿のメタボロミクスによるハイリスクスクリーニングが周知されることを期待したい.
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