【目的】わが国では高齢者の多施設受診が議論の対象となる。この問題はかかりつけ医機能を考えるためにも重要な論点である。本論文では、西日本の一自治体の医療介護データを用いて、その現状と関連要因について分析した結果をもとにかかりつけ医機能について論考を行う。
【資料及び方法】資料は西日本の1自治体(県レベル)の医科レセプト(国民健康保険と後期高齢者医療制度)及び介護レセプトを用いて、2018年度の外来受診状況を二次医療圏別に分析した。医科および介護レセプトは、自治体側で匿名加工した個人IDを用いて連結し、個人単位で追跡できる仕様としてデータベース化した。このデータベースを用いて、65歳以上の対象者が外来受診した医療機関数、調剤薬局数、外来受診日数を求め、さらに診断された傷病の種類と傷病数、介護保険サービスを利用した月数の合計を求めた。
【結果】受診機関数に関する多変量解析の主な結果は以下のとおりである(数字は重回帰係数)。
・外来受診機関及び外来受診日数には統計学的に有意な差が存在し、ともに都市部であるA医療圏、B医療圏で多く、中山間地域であるG医療圏で少ない。
・傷病が受診機関数に及ぼす影響を見ると、眼疾患(1.06)、耳疾患(0.68)、皮膚疾患(0.57)、脊椎障害(0.42)、悪性腫瘍(0.64)、脳血管障害CVD(0.44)のある者で受診機関数が多い。
・傷病が外来受診日数に及ぼす影響を見ると、統合失調症(9.6)、気分障害(4.1)、眼疾患(6.7)、耳疾患(5.4)、皮膚疾患(6.4)、下肢関節障害(9.6)、脊椎障害(9.5)、骨粗しょう症(5.0)、腎不全(4.0)、認知症(4.9)のある者で外来受診日数が多い。
・介護保険を利用している者では医療機関数の利用が少ない(-0.48)。
【考察】医療資源の豊富な都市部において内科系の慢性疾患を持って内科系のかかりつけ医を持っている高齢患者が、皮膚科や眼科、耳鼻科、整形外科などの傷病については、そうした標榜科の診療所にかかることは、患者の行動として当然のことである。したがって、そうした受診行動を制限しようとすれば、患者側から不満が出ることは明らかである。このような状況を踏まえて、都市部においてはネットワークで機能するかかりつけ医の仕組みを作ることが、当面の課題になる。他方、医療資源の乏しい中山間地域では「内科診療所などが総合医的な役割でかかりつけ医として機能している」実態がすでにある。したがって、こうした地域では医師の生涯研修の枠組みの中に総合医機能の強化を組み込むべきだろう。
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