Acceptance and Commitment Therapy(ACT)の支援では、変化のアジェンダを手放し、体験の回避への動
機づけを低減することが重要である。変化のアジェンダを手放すための取り組みとして、Creative Hopelessness(CH)がある。
現在、CHはACTの介入手続きの中で最も理解が進んでおらず、CH成立の際に生じうる行動的プロセスの定義が曖昧である。そこ
で研究1では、定義が曖昧なCHの要素を整理する。そして、その成立プロセスを明確にすることでCH の理解を進めることを目的
とした。研究2では従来から臨床場面で行われているCHの介入を実験的に行う。その際、妥当性の得られているACT関連尺度を
用いることで、研究1で作成したCH成立プロセスの妥当性を評価することを目的とした。研究1では、ACT関連書籍から、CHに関
連する記述を収集しKJ法で分類した。収集した記述について、内容の類似性から整理したところ、5つの要素に分類された。その
要素は、目的と、それらの目的を達成するための手続きから構成された。それらの要素の時系列を検討した結果、「①コントロール
方略( 私的出来事をコントロールすること) を振り返る」「②変化のアジェンダに向き合う」「③コントロール方略が不機能であること
を体験する」「④コントロール方略が不機能であることを認識する」「⑤代替行動にオープンになる」という5段階のCHの成立プロ
セスが想定された。①②④は変化のアジェンダの不機能性を言語的に理解するための手続きである。それらの手続きを通して達成
される③⑤は同ルールの不機能性と代替行動の選択を実際の行動面から体験的に理解する。研究2では、ACTに関する知識を持
たない大学生24名を対象とし、実験群と統制群に無作為に割り当てた。参加者には、2回の来室と1週間のホーム・ワーク(HW)
を求めた。実験群は、1回目来室にて、CH成立プロセス①②に焦点を当てて心理教育を行い、2回目来室にて、CH成立プロセス
③〜⑤に焦点を当てて心理教育を行った。さらに1回目来室と2回目来室の間の1週間、CH成立プロセス③を促進するHWを求め
た。統制群は、1回目来室にて、自己理解の重要性についての心理教育を行い、2回目来室にて、不快な思考や感情が現れた際に、
問題や原因だけではなく解決方法を考える重要性について心理教育を行った。各介入段階とACT関連尺度( CAQ・AAQ−II・マインドフルネスルール指標・APQ) の変化を検討するため、ACT関連尺度の得点を従属変数として、群( 実験群・統制群)×時期
(①pre・①post・②pre・②post) の2要因混合計画の分散分析を行った。変化のアジェンダの程度を測定するCAQ−bの①preと
①postの間および、②preと②postの間で減少傾向がみられ、CH成立プロセス①②④の成立の可能性が示唆された。望まない私
的出来事に対して開かれた姿勢を取ることで自身の価値が示す方向に進むことができるというルールを表すマインドフルネスルール
指標下位尺度「私的出来事を受け入れる選択」得点の②preと②postの間で増加傾向がみられ、CH成立プロセス⑤の成立の可能
性が示唆された。さらに、自身にとって必要な行動を選択する余裕をつくり出す中長期的結果を表すAPQ下位尺度「行動レパート
リーの拡大」得点の①preと②postの間で増加傾向がみられ、CH成立プロセス③⑤の成立の可能性が示唆された。ACT関連尺
度の変化から、CH成立プロセス①〜⑤の成立の可能性が示された。本研究では、有意差は認められなかったが、探索的な検討に
て、一部のACT関連尺度に有意傾向が示された。今後はフォローアップ期を設け、研究デザインを再考した上で、行動指標と合わ
せて検討を行う必要がある。
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