理学療法教育
Online ISSN : 2436-8008
3 巻, 2 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
特別掲載
  • 芳野 純
    2023 年 3 巻 2 号 p. 2_1-2_5
    発行日: 2023/10/31
    公開日: 2023/11/28
    ジャーナル 認証あり

    理学療法教育に限らず,教育は複雑で明確な答えのない領域であり,文脈・条件に依存するとされている。そのため教育に関する研究には質的研究を用いる事は有用とされている。しかし理学療法領域では質的研究にて実施されている数は少ない。対象者の心情などの内面的世界を理解することが目的の質的研究は,客観性を重視し一般化を目的とする量的研究の視点でとらえると根拠の低い研究と誤解されがちである。質的研究とは何か,どのような方法で実施するのかが理解されていないことが原因の一つであろう。量的研究と質的研究は対立するものではなく両輪としてとらえるべきであり,お互いの利点を活かして活用していることが重要となる。本稿の目的は質的研究とは何か,実施する際の心構え,研究の進め方,質を高めるための配慮に関して理学療法士教育を例にあげ説明し,多くの研究者が魅力を感じ活用していただくことである。

原著論文
  • 奥野 将太, 川満 謙太, 大西 悠太朗, 井本 俊之
    2023 年 3 巻 2 号 p. 2_6-2_13
    発行日: 2023/10/31
    公開日: 2023/11/28
    ジャーナル 認証あり

    目的:本研究は,インストラクショナルデザイン(以下,ID)の手法を用いて酸塩基平衡の独学教材を開発して有用性を示すことを目的とした。方法:対象者は,理学療法士9名とした。 ADDIEモデルに従って,事前,事後,1か月後のテストと独学教材を開発した。測定項目は,経験年数,テストの得点と実施時間,教材の実施時間,1か月後のテストまでの臨床での知識の使用回数とした。統計解析は,テストの得点をBonferroni法による多重比較を行った。各測定項目はそれぞれSpearmanの順位相関分析を用いて解析した。結果:事後テストの得点は事前テストより有意に高かった(96 vs 40, p=0.027)。1か月後のテストの得点は事前テストより有意に高かった(87 vs 40, p=0.012)臨床での使用回数が多いと,1か月後の下がり幅は有意に少ない関係性にあった(r=-0.77, p=0.015)。結論:ID手法を用いた酸塩基平衡の独学教材は,効果的である。今後は,教材を使用した後に臨床で応用する機会を作るための工夫も考慮する必要がある。

  • ─ 学習目標志向性の違いは理学療法学生の学習行動に影響する? ─
    只石 朋仁, 鈴木 英樹
    2023 年 3 巻 2 号 p. 2_14-2_22
    発行日: 2023/10/31
    公開日: 2023/11/28
    ジャーナル 認証あり

    目的:理学療法学生の学習目標志向性(LGO)と学習行動の関係および,LGOに関連する要因を検討した。 方法:大学4年生36名を対象とした。中央値を基にLGOと学習行動を2群に分類し比較した。LGOと職業的アイデンティティ,ライフスキルの相関を求めた。2群に分類したLGOを目的変数,それぞれ相関があった項目を従属変数としてロジスティック回帰分析を実施した。結果:LGOが高い学生はLGOが低い学生に比べ,学習行動が長い者の割合が有意に高かった。LGOと職業的アイデンティティおよびライフスキルには弱い正の相関を認めた。ロジスティック回帰分析により職業的アイデンティティの「理学療法士として必要とされていることへの自負」,ライフスキルの「計画性」が選択された。結論:LGOは学習行動に関連し,LGOを高める教育的支援の必要性が示唆された。さらに,職業的アイデンティティやライフスキルへの働きかけは理学療法学生のLGO高める可能性がある。

  • 松坂 大毅, 鈴木 博人, 我妻 昂樹, 嶋田 剛義, 藤澤 宏幸
    2023 年 3 巻 2 号 p. 2_23-2_33
    発行日: 2023/10/31
    公開日: 2023/11/28
    ジャーナル 認証あり

    目的:本調査は,理学療法士(physical therapist:以下PT)における歩行分析の観察の過程に着目し,その困難感の要因について明らかにすることを目的とした。方法:対象は,無作為に抽出した192施設に属するPT3,840名とした。アンケート内容は,歩行分析全般の困難感に関する設問(1問)と,観察の過程の困難感に関する設問(12問)から構成した。統計解析は,歩行分析全般の困難感に関する回答から分類した困難感あり群となし群の2群を目的変数,観察の過程における困難感に関する回答を説明変数としてロジスティック回帰分析を用いた。結果:歩行分析全般に関する設問において7割以上のPTが困難感を抱いていることが明らかになった。ロジスティック回帰分析の結果,観察精度が歩行分析全般の困難感に関する要因として抽出された。結論:PTが歩行分析に抱く困難感は,観察精度の要因と関連することが示唆された。

短報
  • 山本 裕晃, 善明 雄太
    2023 年 3 巻 2 号 p. 2_34-2_39
    発行日: 2023/10/31
    公開日: 2023/11/28
    ジャーナル 認証あり

    目的:見学実習が,理学療法学生の装具に関する知識・能力に与える影響を縦断的に明らかにし,入学後の早期に行われる見学実習における装具教育の一助とすること。対象と方法:3年制専門学校理学療法学科1年次生29 名とした。調査には質問紙を用い,理学療法士に必要とされる装具に関する知識・能力に関する20項目を尋ねた。質問紙調査は,見学実習前後に合計2回行った。統計解析は,20項目の回答についてWilcoxonの符号付け順位検定を用いて,見学実習前後の理学療法学生の回答を比較検討した。結果: 理学療法学生の回答において,見学実習前後にて有意差が認められた項目は,「装具の部品の種類と適応に関する知識」,「装具の活用に関わる疾患や病態に関する知識」であった。結語: 見学実習が理学療法学生の装具に関する知識・能力に与える影響が確認された。影響を及ぼさない要因については,その分析と学内教育での取り組みが重要となる可能性がある。

  • 今井 祐子
    2023 年 3 巻 2 号 p. 2_40-2_44
    発行日: 2023/10/31
    公開日: 2023/11/28
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    目的:理学療法士養成課程における,授業前の事前課題の取り組みと課題を先延ばしにしない時間選好の関係性を明らかにすることである。方法:理学療法学科の学生を対象に,Google formを用いたアンケート調査を実施した。アンケートの内容は,事前課題の視聴日と視聴理由,時間選好に関する質問項目としてMultiple Price List(以下,MPL)法を用いた。視聴日と時間選好の関係性について,Spearmanの順位相関係数にて解析した。結果:事前課題を視聴した日は,当日が最も多かった。事前課題を視聴した日と時間選好において,有意な相関は認められなかった。考察:授業内容を忘れないようにするという取り組みによって,授業実施日に近い日程で事前課題を行うことは,授業への意欲とも捉えられることが示唆された。しかし,授業内容の理解を深めるためには,前日より前から複数回の視聴を促す仕掛け作りが必要である。

実践報告
  • ~心臓血管外科周術期の理学療法チームの一員として参加するための取り組み~
    磯邉 崇, 保坂 亮
    2023 年 3 巻 2 号 p. 2_45-2_51
    発行日: 2023/10/31
    公開日: 2023/11/28
    ジャーナル 認証あり

    今回,心臓血管外科周術期の理学療法の診療参加型実習を実践した。本実習では循環器症例の重要な評価項目である「血圧」担当の役割を与えた。そして役割を任せることができたかどうかの規準としてEntrustable professional activity(以下EPA)の評価尺度を活用したので報告する。実習生は3症例の心臓血管外科周術期の理学療法業務に30回参加した。「血圧」担当の役割に関してのEPAの評価結果は2名ともに,「5:実習指導者が,付き添う必要がなかった」であった。本実習を通して,「血圧」担当という役割を明示したことにより,実習生がやるべきことが具体的になり,実習指導者が観察可能で臨床業務に直結する形で評価することができたと考えた。またEPAを活用したことにより,従来は実習指導者の主観的な判断に依存していた役割を任せられるかどうかの評価が客観的に可能であることが示唆された。

その他:調査報告
  • 小林 薰, 柊 幸伸
    2023 年 3 巻 2 号 p. 2_52-2_61
    発行日: 2023/10/31
    公開日: 2023/11/28
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    目的:心肺蘇生教育の実施状況と内容および救命活動体制の整備と傷病者発生の実態を調査した。方法:対象は,理学療法士養成校延べ295校とした。心肺蘇生教育,救命活動体制,傷病者発生に関して郵送調査を行った。結果:295校中,141校から回答が得られた(回収率47.8%)。講習会は80.1%の養成校で開催されており,75.2%が講義と実技を組み合わせた形式であった。女性傷病者を想定した実施は,講義では29.5%,実技では15.7%であった。危機管理マニュアルがあると回答したのは24.1%であり,AEDは97.2%が学内にあると回答した。ケースの有無については3校の報告があり,学生においては「運動会・体育祭」で発生していた。結論:心肺蘇生教育は多くの養成校で開催されていたが,女性傷病者を想定していたのは講義29.5%,実技15.7%であった。基礎的な教育に加えてより実践的な取り組みを導入することや,危機管理マニュアル,AEDの適正配置といった体制を整備しておくことが必要である。

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