黄体は排卵後その出血点から形成され始め,成長し,妊娠が不成立の場合には退行萎縮して次の発情・排卵を誘起するというユニークな動的内分泌器官である.反芻家畜においては,プロスタグランジンF
2α,(PGF
2 α)が黄体退行因子である.不妊発情周期における黄体退行現象は,子宮内膜よりパルス状に放出されるPGF
2αと,それに呼応した黄体からのオキシトシン(OT)放出のポジティブフィードバック機構によって,速やかに完結すると考えられる.しかし,PGF
2αが黄体内で引き起こす局所作用については十分に解明されてはいない.ウシをモデルとした黄体の生体微透析システムを用いて,中期黄体内の微環境にPGF
2αを直接感作させると,プロジェステロン(P)放出を刺激する.さらに,ウシ卵巣動脈(黄体側)に血流計を装着し,PGF
2αを投与して黄体退行を誘起したところ,2時間以後,急激な血流量の減少がみられた.これらは,PGF
2αが黄体に至る経路(血管)が,速やかな黄体退行に重要な役割を持つことを示唆している.そこで私たちは、血管収縮性のペプチド,エンドセリン-1(ET-1)に着目した. ET-1は,黄体内微環境をPGF
2αで前感作させると強いP分泌抑制作用を示した.さらに,PGF
2α自身はET-1放出を刺激した.次に,ウシ中期黄体に微透析システムを埋め込み,PGF
2αアナログ投与により黄体退行を誘起したところ,黄体内と黄体側卵巣静脈中ET-1濃度は,PGF
2α注射後2~4時間で既に上昇していた.これら一連の結果は,血管内皮細胞由来のET-1が,血管収縮因子としてだけでなくPGF
2αと協調して,黄体退行現象の重要なメカニズムの1つと思われる黄体細胞と血管内皮細胞の"細胞間伝達” に大きく関わっていることを示唆している.
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