Journal of Reproduction and Development
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43 巻, 6 号
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総説
  • 岡部 勝, 伊川 正人, 山田 秀一, 中西 友子, 馬場 忠
    原稿種別: 総 説
    1997 年43 巻6 号 p. j19-j25
    発行日: 1997年
    公開日: 2010/10/20
    ジャーナル フリー
    オワンクラゲ類のもつ蛍光蛋白質は総称してGreen Fluorescent Proteinと呼ばれている.Aequorea victorea(和名:発光オワンクラゲ)のGFPは分子量27 Kdaの蛋白質で,アミノ酸残基65番目のserinと67番目のglycinのペプチド結合部位が脱水縮合を起こした後に酸化されて発色団を形成し蛍光蛋白質となる.この構造変化は酸素以外に特別な因子を必要とせず,蛍光は細胞を観察するだけでよい.外来遺伝子としてGFP遺伝子を導入すると,蛍光をもつ培養細胞,植物,線虫,ハエ,魚,マウスなどが得られる.現在では人工的に作製された,緑,青,黄色など種々の波長の蛍光を出す多くの変異体があり,今後,実験動物の分野で新しいマーカーとして使用される例が増えるものと予想される.本稿では我々の作製したトランジェニックマウスを中心にGFPの応用例を述べる.
原著
  • 沼辺 孝, 及川 俊徳, 菊地 武, 伊藤 裕之, 佐藤 秀俊, 堀内 俊孝
    原稿種別: 原著
    1997 年43 巻6 号 p. j27-j32
    発行日: 1997年
    公開日: 2010/10/20
    ジャーナル フリー
    黒毛和種経産牛を対象に,腟内留置型黄体ホルモン製剤(CIDR-B)を用いて,35日間隔で2回過剰排卵処置(1クール)し,これを42日間隔で2回(2と3クール)反復することが可能か検討した.供試牛は9頭で,CIDR-Bを性周期に関係なく腟内に挿入した後,10日目からFSH総量20 AUを3日間の漸減投与もしくは30%のポリビニールピロリドンに溶解したFSHの25 AUと生理食塩水に溶解したFSHの5 AUをそれぞれ同時に頸部皮下に投与して過剰排卵処置した.次いで12日目にCIDR-Bを腟内から除去後PGF投与により発情を誘起し人工授精を行った.採卵は発情日を0日として7日目に実施した.過剰排卵処置成績は,平均推定黄体数と遺残卵胞数がそれぞれ10.5±0.8(S.E)個と1.8±0.3個,平均回収卵数と正常胚数がそれぞれ9.3±0.9個と6.7±0.8個となり,正常胚率は71.7%であった.クール別に行った各々18頭では,1,2と3クール別に平均推定黄体数が9.2個,9.8個と12.5個,平均回収卵数が8.2個,8.7個と11.0個,平均正常胚数が6.0個,5.8個と8.2個であり,いずれも有意差は認められず,これまで用いてきたFSHの漸減投与法と同等の成績であった.以上のことから,CIDR-Bの過剰排卵処置への利用は,供胚牛の性周期に関係なく,計画的に,かつ継続した処置で安定的に正常胚の得られることが明らかになった。
  • 堀 登, 松田 達彦, 石田 美保, 小前 博文, 永井 卓
    原稿種別: 原著
    1997 年43 巻6 号 p. j33-j40
    発行日: 1997年
    公開日: 2010/10/20
    ジャーナル フリー
    実験1では,5 μg/ml ヘパリンを含むBO液を基礎培地(対照区)とし,5 mMカフェイン(Caf区)あるいは10 mMハイポタウリン(HT)(HT区)を添加した受精培地でそれぞれ媒精を行い,媒精後1,3および5時間の精子侵入率の推移を検査した.その結果,3時間でのCaf区とHT区に,対照区より有意に早く精子侵入が観察されたが,5時間では差は認められなかった(P>0.05).しかし,5時間での単精子侵入率は,Caf区は,対照区およびHT区より有意に低い値を示した(P<0.05).これに対して多精子侵入率では,Caf区は,対照区およびHT区より有意に高い値を示した(P<0.05).実験2では,実験1の基礎培地を対照区とし,受精培地へのHT添加濃度が精子侵入率,単精子侵入における前核融合率(媒精開始後18時間目における単精子侵入卵子数に対する雌雄前核が融合している卵子の割合)および胚発生におよぼす影響を比較検討するため,HT添加濃度を0,1,5および10 mMにして5時間媒精を行なった後,5%子牛血清(CS)を添加したTCM199中(卵丘細胞との共培養)で培養を行った(HamanoとKuwayamaの方法).媒精後18時間での精子侵入率は,各濃度間で差は認められなかったが,無添加区に比べ10 mM添加区では,単精子侵入の内,前核未融合率(媒精後18時間における単精子侵入卵子数に対する雌雄前核が融合していない卵子の割合)が有意に低く,前核融合率が有意に高い値を示した(P<0.05).媒精後29時間の卵割率,媒精後72時間の8細胞期以上への発生胚率および媒精日を1日として10日目の胚盤胞への発生率は無添加区に比べてHT添加区で有意に高くなり1 mM添加区より10 mM添加区で有意に高かった(P<0.05).実験3では,5 mMカフェイン(Caf区)および10 mMHT(HT区)での体外受精が精子侵入率,単精子侵入における前核融合率(媒精開始後18時間目における精子侵入卵子数に対する雌雄前核が融合している卵子の割合)および胚発生におよぼす影響を実験2と同じ培養方法で比較した.その結果,実験1と同様にCaf区と比較して,HT区が有意に高い単精子侵入率および低い多精子侵入率を示し(P<0.05),単精子侵入卵における前核融合卵率は,Caf区に比べてHT区が有意に高い値を示した(P<0.05).さらに胚盤胞への発生率,脱出中以上胚盤胞率および8細胞期以上胚に対する胚盤胞の割合においてCaf区に比べてHT区が有意に高い値を示した(P<0.05).以上のことから,体外受精培地へのHT添加は,Caf区に比べて単精子侵入率が有意に高まると共に無添加区に比べて精子侵入および前核融合速度が有意に速くなることが明らかとなった.また,卵割速度が促進され,その結果,胚盤胞への発生率が有意に高くなることが明らかとなった.
技術短報
  • 西貝 正彦, 加茂前 秀夫, 田中 知己, 金田 義宏
    原稿種別: 技術短報
    1997 年43 巻6 号 p. j41-j46
    発行日: 1997年
    公開日: 2010/10/20
    ジャーナル フリー
    ホルスタイン種未経産牛において胚移植前にキシラジン20 mgを投与して鎮静し,凍結融解した黒毛和種の後期桑実胚1個を移植して受胎率を検討した。その結果,キシラジンを投与して移植したキシラジン投与群およびキシラジンの投与を行わずに移植した対照群の受胎率は,スタンチョンストールで保定して移植したスタンチョン保定区および枠場に保定して移植した枠場保定区共にキシラジン投与群が対照群に比べて高い傾向(55.0%対48.6%および50.0%対46.2%)であった.また,キシラジン投与群では対照群に比べて,スタンチョン保定区および枠場保定区共に,胚移植操作に5分以上を要した頭数割合(7.5%対18.9%および13.3%対19.2%)ならびに移植器先端部に血液が付着した頭数割合(12.5%対24.3%および13.3%対19.2%)は少ない傾向であった.これらのことから、ホルスタイン種未経産の受胚牛において,胚移植時にキシラジンを投与することは,スタンチョンに保定して移植を行う場合の受胎成績の向上に有効であると考えられた.
1997年度島村賞受賞講演論文
  • 加藤 容子
    原稿種別: 1997年度島村賞受賞講演論文
    1997 年43 巻6 号 p. j47-j54
    発行日: 1997年
    公開日: 2010/10/20
    ジャーナル フリー
    マウスの発生過程において,生殖系列上の細胞群が多能性(キメラ形成能)をどのステージまで保持しているのかについては,殆ど検討されていない.本実験では,生殖系列上の細胞群が,発生のどのステージまで多能性を維持しているのか,また,どのようにすればそのような能力を誘導できるのか,を検討することを目的として以下のような検討を行った.まず,1) 集合法,注入法といった既法のキメラ作出法を用いて,生殖系列上の細胞群の多能性を検討した.次に,2) 除核した受精卵あるいは未受精卵へ核移植を行ったのち,キメラ胚を作出し,その発生能力を検討した.その結果,1) ドナー細胞の発生ステージが進むにしたがって,キメラ形成率は低下することが明らかとなった.その一因として,ドナー細胞の発生ステージが進むにしたがって,細胞がレシピエント胚に取り込まれにくくなり,胚から排除されるためであることが明らかとなった.2) 胎子期生殖細胞を,除核した受精卵由来2細胞期胚の片側割球へ移植したところ,構築胚は殆ど発生しなかった.ところが,同じ細胞を一度,除核した未受精卵へ移植した後に,再び2細胞期胚の片側割球置換を行ったところ,それらはキメラ胎子へ発育することが明らかとなった.このことから,除核未受精卵の卵細胞質内には,ドナー核の情報を「初期化」する作用の因子が存在し,この作用により,従来の方法では,示すことのできなかった胎子期生殖細胞の多能性が誘導されたと考えられる.
1997年度佐藤賞受賞講演論文
  • -特に形態との関連性について-
    奥田 潔
    原稿種別: 1997年度佐藤賞受賞講演論文
    1997 年43 巻6 号 p. j55-j64
    発行日: 1997年
    公開日: 2010/10/20
    ジャーナル フリー
    本研究は,1)発情周期にともなう黄体の形態と機能の変化,2)嚢腫様黄体,3)黄体内機能調節因子のひとつであるオキシトシン(OT)の生理的意義について検討したもので,主な成果は以下の通りである.1)黄体組織中の黄体細胞の占める割合は黄体期の推移とともに減少し結合組織が増加することから,黄体はその機能の衰退とともに硬化することが明らかになった.また黄体細胞を組織学的特徴からI~V型に分類し,その出現率を検討した結果,形成初期ではIならびにII型の細胞の出現率が他のステージと比べ有意に高く,形成初期から開花期にかけてII型の細胞の出現率が増加していくこと,IV,V型の細胞は開花期以降に増加することが明らかとなった.また,I,II,III型の細胞の出現率と黄体組織中のプロジェステロン(P4)濃度の間に高い正の相関が認められ,主としてI,II,III型の細胞が黄体のP4分泌を担っており,IV,V型の細胞は黄体退行過程で変性していく細胞であることが推察された.2)超音波断層診断装置を用いて黄体の中心に出現する内腔の消長を調べた結果,黄体期の推移とともに内腔は徐々に消失することが明らかになった.さらに,血漿中P4濃度,牛群の受胎率に内腔形成の有無による差は認められず,嚢腫様黄体は必ずしも不妊症の原因にならないことが明らかとなった.3)ウシ黄体のOTレセプターをラジオレセプターアッセイで検討した結果,OTレセプターは黄体期を通じて存在するが,その濃度は開花期黄体で最も高いことが明らかとなった.また,免疫組織化学的にOTレセプターは大型黄体細胞と小型黄体細胞の両方の細胞膜上に見いだされた.さらに,黄体細胞のOT レセプター濃度はプロスタグランジンF2αによって増加すること,OTが黄体組織からのP4分泌を促進することが示された.
1997年度日本繁殖生物学会シンポジウム講演論文-妊娠成立のための諸条件とその制御-
  • -黄体機能調節因子に関する最近の知見-
    奥田 潔, 上野山 賀久, 作本 亮介
    原稿種別: 1997年度日本繁殖生物学会シンポジウム
    1997 年43 巻6 号 p. j65-j73
    発行日: 1997年
    公開日: 2010/10/20
    ジャーナル フリー
    妊娠が成立し維持されていくためには.卵巣および子宮が正常に機能していることが必要である.とりわけ,黄体から分泌されるプロジェステロンは妊娠の成立と維持に必須のホルモンであり,その分泌調節機構の解明は不妊症の新しい診断法や生殖の人為的制御法の開発にきわめて重要な意義を有する.黄体のプロジェステロン分泌をはじめとする内分泌機能が下垂体や子宮から分泌される内分泌ホルモンにより支配されているのはいうまでもない.しかし,黄体がプロジェステロン以外に多くの生理活性物質を合成分泌していることが明らかにされ,さらに,それらの特異的なレセプターの存在が黄体に証明されたことから,オートクライン,パラクライン機構による局所的な機能調節機構の存在していることが示唆されている.黄体内局所調節因子に関するこれまでの知見を集約すると,種々の因子は直接的あるいは,間接的に黄体のプロジェステロン分泌調節に関与していることが明らかにされつつある.さらに,局所因子間における相互作用の存在も示唆されている.黄体内局所調節因子は周期性黄体のみならず,妊娠黄体の機能維持に関しても何らかの重要な役割を果たしていると考えられる.
  • 宮本 明夫, 大谷 昌之, 小林 修一, 林 加奈子, 酒井 明子, Tomas J. ACOSTA, 小澤 崇洋, 福井 豊
    原稿種別: 1997年度日本繁殖生物学会シンポジウム
    1997 年43 巻6 号 p. j75-j81
    発行日: 1997年
    公開日: 2010/10/20
    ジャーナル フリー
    黄体は排卵後その出血点から形成され始め,成長し,妊娠が不成立の場合には退行萎縮して次の発情・排卵を誘起するというユニークな動的内分泌器官である.反芻家畜においては,プロスタグランジンF 2α,(PGF2 α)が黄体退行因子である.不妊発情周期における黄体退行現象は,子宮内膜よりパルス状に放出されるPGF 2αと,それに呼応した黄体からのオキシトシン(OT)放出のポジティブフィードバック機構によって,速やかに完結すると考えられる.しかし,PGF 2αが黄体内で引き起こす局所作用については十分に解明されてはいない.ウシをモデルとした黄体の生体微透析システムを用いて,中期黄体内の微環境にPGF 2αを直接感作させると,プロジェステロン(P)放出を刺激する.さらに,ウシ卵巣動脈(黄体側)に血流計を装着し,PGF 2αを投与して黄体退行を誘起したところ,2時間以後,急激な血流量の減少がみられた.これらは,PGF 2αが黄体に至る経路(血管)が,速やかな黄体退行に重要な役割を持つことを示唆している.そこで私たちは、血管収縮性のペプチド,エンドセリン-1(ET-1)に着目した. ET-1は,黄体内微環境をPGF2αで前感作させると強いP分泌抑制作用を示した.さらに,PGF 2α自身はET-1放出を刺激した.次に,ウシ中期黄体に微透析システムを埋め込み,PGF 2αアナログ投与により黄体退行を誘起したところ,黄体内と黄体側卵巣静脈中ET-1濃度は,PGF 2α注射後2~4時間で既に上昇していた.これら一連の結果は,血管内皮細胞由来のET-1が,血管収縮因子としてだけでなくPGF 2αと協調して,黄体退行現象の重要なメカニズムの1つと思われる黄体細胞と血管内皮細胞の"細胞間伝達” に大きく関わっていることを示唆している.
  • -ブタにおける母体の妊娠確認-
    岡野 彰
    原稿種別: 1997年度日本繁殖生物学会シンポジウム
    1997 年43 巻6 号 p. j83-j90
    発行日: 1997年
    公開日: 2010/10/20
    ジャーナル フリー
    ブタは多胎動物であり,産子数は10頭前後である.妊娠初期の子宮内に最低何個の胚(受胎産物)があれば,妊娠が成立し得るのか? 最低4個の胚が必要だとも,また,1個の胚では妊娠が成立しないものの,2個では可能であり,そして,2個より3個の胚で受胎率が向上するとも報告されている.このことは,妊娠初期の子宮内に複数の胚が生存して,一定量以上の何らかの信号物質を産生して母体へメッセージを送って,妊娠成立に至ることの証明とも言える.ブタの母体による妊娠認識に関与する受胎産物由来の物質として,エストラダイオール-17β(E 2)が第一義的に上げられている.受胎産物が子宮内で伸長を開始する時期に,トロフォブラストが産生・放出するE 2は,母体の妊娠認識にとって,最初の信号物質であろう.受胎産物からの黄体維持的な信号は,妊娠の12日目には産生されなくてはならず,その信号が有効に活用するには,受胎産物が両子宮角内に伸長している必要がある.ブタにおいても他の家畜と同様に,子宮内膜由来のプロスタグランディン(PG)F 2αが,発情周期での黄体退行を引き起こす.PGF 2αの産生と分泌の方向が妊娠認識の時期では重要である.一方,PGE 2は黄体機能促進的役割を果たすとも考えられている.妊娠認識は,子宮内の受胎産物の存在に対して,母体が反応する種々の手段の結果である.種々の物質がどのようなメカニズムでブタの妊娠認識に関与しているのか,そして黄体維持への信号の流れは,依然謎が多いままである.ブタの妊娠認識について,1)受胎産物によるE2産生,2)受胎産物および子宮内膜でのレチノール結合タンパク質の産生,3)子宮内膜由来のPGE 2およびPGF2αの分泌方向,4)受胎産物の産生するタンパク質について言及したい.
  • 山口 浩史, 勝村 桃子, 青木 不学, 今川 和彦, 酒井 仙吉
    原稿種別: 1997年度日本繁殖生物学会シンポジウム
    1997 年43 巻6 号 p. j91-j98
    発行日: 1997年
    公開日: 2010/10/20
    ジャーナル フリー
    妊娠成立には母親が胎児の存在を認識するいわゆる母親の妊娠認識が必要である.反芻動物では着床前期の胚からのシグナルによりこの現象が起こる.この胚から分泌される妊娠認識ホルモンとして,oTP-1が同定されたが,その後のアミノ酸配列の解析からこれがインターフェロン(IFN)の一つであり,インターフェロン・タウ(IFNτ)と命名された.IFNτは着床前後期に胚から最大100μg/24 h 分泌され,子宮上皮に作用する.そして性周期末期に起こるPGF 2αの分泌様式を変化させ,その結果として黄体退行が抑制され,黄体機能が維持される.IFNτは他のIFNと同様に抗ウイルス活性を持ち,細胞増殖抑制作用を持つ.しかしながら細胞毒性や妊娠認識における作用はIFNαとは異なる.またその発現様式も他のIFNとは大きく異なりウイルスや2本鎖RNAでは誘起されず,母体由来のGM-CSFやIL-3などのサイトカインにより発現が増加する.IFNτの作用機序や発現制御機構を明らかにすることは,農学のみならず医学上においても非常に有意義であり,一日も早い解明が望まれる.
  • -妊娠と免疫-
    佐治 文隆, 東 千尋, 古山 将康, 大橋 一友, 橋本 一昌, 村田 雄二
    原稿種別: 1997年度日本繁殖生物学会シンポジウム
    1997 年43 巻6 号 p. j99-j105
    発行日: 1997年
    公開日: 2010/10/20
    ジャーナル フリー
    妊娠は父方組織適合抗原をもつ胎児が母体の免疫監視機構を免れて生育する現象と考えられる.母体と接する胎盤絨毛において,HLAクラスII抗原の発現は認めないが、クラスI抗原については絨毛細胞の分化にともなって非古典的HLAクラスI(HLA-G)を含めて抗原性を著しく変化させることによって免疫学的妊娠維持機構の一端を担っていると考えられる.本研究では絨毛細胞由来の腫瘍細胞株BeWo,JEG,GCH1,NUC1,HCCM5, SCHなどを用いて, HLAクラスIの発現とその核内蛋白の解析を行った.その結果,1) 絨毛細胞株には古典的クラスIを発現する株,非古典的クラスI(HLA-G)を発現する株が存在した.2) 古典的クラスI発現株では核蛋白-DNA複合体が認められ,マウスMHCクラスI制御因子の相同領域と結合する蛋白性転写制御因子が存在した.3) HLA-G発現株では核蛋白の結合部位は転写開始点の上流120 bpから190 bpの領域であることが推察された.
1997年度日本繁殖生物学会公開シンポジウム講演論文:初期胚,胚細胞そして体細胞から固体を作る試み-クローン動物作出研究の意義-
  • 河野 友宏, 権 五龍
    原稿種別: 1997年度日本繁殖生物学会公開シンポジウム
    1997 年43 巻6 号 p. j107-j112
    発行日: 1997年
    公開日: 2010/10/20
    ジャーナル フリー
    哺乳動物における個体クローニング研究の飛躍的な進展は,従来の生殖システム自体を一変させようとしている.マウスにおけるクローニング研究は,突出した遺伝的情報量を背景に理論的な裏付けを探りながら手法の開発に役立てるためばかりでなく,遺伝子ターゲッティングマウス作出への利用など実用面でも大きな期待が寄せされている.本稿では,まず未受精卵への核移植技術を用いて胚を複製するための基本的な条件である正常2倍体胚の構築方法について,ドナー核とレシピエント細胞質の細胞周期の組合わせを示しながら述べる.次いで細胞周期の組合わせが再構築卵の発生能を支配する重要な要因であることを示す一例として,細胞周期を分裂中期に同調させたドナー核を用いたマウス胚のクローニングシステムについて報告する.また,連続核移植法により作出された一卵性6つ子マウス,ならびに反復核移植に起因する発生能の顕著な低下を紹介しながら,胚の再構築とドナー核の再プログラム機構について考察したい.
  • -ドナー細胞の由来の違いがウシ核移植由来胚の発育率ならびに受胎率におよぼす影響について-
    青柳 敬人
    原稿種別: 1997年度日本繁殖生物学会公開シンポジウム
    1997 年43 巻6 号 p. j113-j116
    発行日: 1997年
    公開日: 2010/10/20
    ジャーナル フリー
    ドナー細胞の由来(体内新鮮胚,クローン胚,リクローン胚,体内凍結胚および経膣IVF胚)の違いがウシ核移植由来胚の発育率ならびに受胎率におよぼす影響について検討した.細胞融合率は体内凍結区で82%であったのに対し,他4区の新鮮胚のそれは92~96%で有意差が認められた(P<0.05).小型化桑実胚以降へのドナー胚あたりの発育数は体内新鮮区で9.0±3.8個でクローン,体内凍結および経膣IVF区のそれに比べて有意に高い値を示した(P<0.05).D60における受胎率はリクローン区が15%(2/13)と他区(50~56%)に比べて有意に低い値であった(P<0.05).
  • 今井 裕, 高橋 清也, 徳永 智之
    原稿種別: 1997年度日本繁殖生物学会公開シンポジウム
    1997 年43 巻6 号 p. j117-j122
    発行日: 1997年
    公開日: 2010/10/20
    ジャーナル フリー
    胚由来の培養細胞株からの核移植によるクローン家畜の生産技術は,家畜の大量増殖あるいは遺伝子導入家畜の作出に重要な意義をもっている.マウスでは,これまで2種類の胚に由来する培養幹細胞株である胚性幹(ES)細胞と生殖幹(EG)細胞株が樹立されており,ジーンターゲッティング(標的遺伝子破壊)法に代表される遺伝子機能解析に汎用されている.これらの細胞株の核移植あるいは遺伝子導入技術による家畜の遺伝的改良は,未分化で多能性を明確に示す細胞株がないために研究の進展は妨げられている.一方,最近ヒツジで胚盤葉あるいは胎仔に由来する分化した培養細胞株から核移植による個体の生産が可能になった.このことは,従来の受精卵へのマイクロインジェクション法に代わる効率的な遺伝子組換え家畜作出技術を提供することになった.しかし,この方法によっても,導入遺伝子のランダムな染色体への挿入による遺伝子発現の制御はできず,ES細胞やEG細胞のような未分化幹細胞による遺伝子発現制御は依然としてその価値を失っていない.ここでは,未分化幹細胞株の樹立とそれらの細胞からの個体再形成能に関する最近の研究の現状を紹介したい.
  • 角田 幸雄, 加藤 容子
    原稿種別: 1997年度日本繁殖生物学会公開シンポジウム
    1997 年43 巻6 号 p. j123-j126
    発行日: 1997年
    公開日: 2010/10/20
    ジャーナル フリー
    1952年以降ヒョウガエルやツメガエルを用いて行われてきた実験から,オタマジャクシの小腸細胞のような分化した体細胞の核移植によって正常なカエルが得られることが示されている.しかしながら,成体のカエルの体細胞からはオタマジャクシは得られるが,正常なカエルは得られていない.今回Wilmutら[1]は,少なくとも一部の成体の体細胞核は個体への発生能力を維持していることを動物で初めて示した.本稿では,これまでの研究の歩みをふりかえりながら,哺乳動物における体細胞核移植の意義と将来の研究方向を展望してみたい.
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