X線分析の進歩
Online ISSN : 2758-3651
Print ISSN : 0911-7806
43 巻
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総説・解説
  • 江場 宏美, 篠田 弘造, 高山 透, 永谷 広久, 中野 和彦, 原田 雅章, 前尾 修司, 松林 信行, 森 良弘, 山本 孝
    2012 年 43 巻 p. 1-31
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    2011年に出版されたX線分析関連文献,X線に関連した情報のなかで,編集委員がX線分析技術の発展に寄与し重要であると選抜した文献を総説としてまとめた.調査対象はe-ジャーナル,webマガジンを含む学術誌20誌,制定された規格およびX線関連メーカーの新技術情報である.各雑誌について,全体的な論評,X線分析に関する傾向から,いくつかの論文について論評を記した.

  • 河合 潤
    2012 年 43 巻 p. 33-48
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    EPMAと呼べるのは波長分散型のものだけで,エネルギー分散型のEPMAはEPMAと呼んではいけないことがISO規格で決まったという人がある.ISO 23833:2006規格とその解説を詳しく読むと,これは誤解であることがわかる.SEM+EDSをEPMAと呼ぶことに対してISOは何も決めていないことをコメントした.従って(エネルギー分散型)EPMAと呼んでもかまわない.

    英和対訳版の発行されているEPMAに関する2つのISO規格,ISO 14595: 2003「マイクロビーム分析-電子プローブ微小部分析法-認証標準物質の仕様のための指針(CRMs)」およびISO 22489: 2006「マイクロビーム分析-電子プローブ微小部分析法-波長分散型X線分析によるバルク試料の定量的ポイント分析」の和訳の不適切さに関してもコメントした.和訳が悪いのは大部分は専門用語の知識のない訳者による翻訳のためであるが,一部は元のISO規格の英文が不適切な点もあることに関しても指摘した.

    国際規格の意義,JIS規格との関係についてもコメントした.

  • 河合 潤
    2012 年 43 巻 p. 49-87
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    1998年(平成10年)7月25日和歌山市の夏祭りのカレーに亜砒酸が混ぜられていた事件の裁判において,鑑定に用いられた蛍光X線分析のデータを総合的に批評した.SPring-8が大きな役割を果たしたといわれているが,放射光蛍光X線分析を裁判の鑑定に用いる問題点を一般的に論じた.実際にはSPring-8の役割は大きくなく,もし仮に放射光蛍光X線分析に頼りすぎた場合,判決が覆った可能性があったことを指摘した.

  • 御厨 正博
    2012 年 43 巻 p. 89-102
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    X線結晶構造解析におけるこの35年間の測定装置,構造解析法,コンピューターの進歩について合成化学研究室でのX線結晶学の取り組みの実例を挙げながら記述した.ワイセンベルグカメラから4軸型単結晶自動回折計への展開期における酢酸銅,コバルト酸素錯体,アセチルアセトナトマンガン(III)の結晶構造解析の例についても記述し,歴史的側面にも触れた.アルコキソ架橋二核銅(II)チオシアナト錯体,ジ-μ-プロピオナト二核銅(II)シッフ塩基錯体,フェノキソ架橋銅(II)コバルト(II)シッフ塩基錯体,幾つかのシッフ塩基マンガン錯体,クエン酸ビスマス錯体,シッフ塩基ペンダント基を持つマクロ環の六核銅(II)錯体,アルコキソ架橋十六核マンガン錯体の結晶構造解析の実際を4軸型回折計,カッパー軸型回折計,CCD回折計によるデータ測定,重原子法や直接法による構造決定と最小自乗法による構造の精密化の解析プログラム,および計算機について触れながらその変遷を述べた.

  • 藤居 義和
    2012 年 43 巻 p. 103-126
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    X線反射率法は,薄膜・多層膜の表面から深さ方向の構造を原子レベルで評価できる有用な解析方法であり,現在,この手法を使って薄膜表面の構造解析を行う分析装置が市販され,多くの分野において利用されている.ここで,X線反射率の測定データから多層膜の厚さや表面・界面粗さなどの構造を求めるための解析式としては,Parrattの多層膜モデルにNevot-Croceのラフネスの式を組み合わせた理論式が現在実用的に使用されている.しかしながら,この理論式を用いたX線反射率の計算において,表面・界面粗さを粗くしたほうが干渉効果による振動振幅の大きいカーブを示してしまい,どうしても測定データと合わないという奇妙な現象がしばしば観察されている.そこで測定データとのフィッティングを良くするためには,表面・界面にコンタミ層やバッファ層など干渉効果を減少させる層を導入せざるを得ないなど無理な工夫が必要となってしまうことがあり,X線反射率の解析において混乱が生じている.そこで従来実用的に使用されているX線反射率理論式を詳細に検証した結果,そこには重大な誤りが含まれていることが分かった.現在使用されている理論式では正確な構造が得られないばかりでなく,場合によっては大きく違った構造の結果を与えてしまうため,解析データの信頼性が上がらず材料開発を妨げる一因となっている.従来実用的に使用されているX線反射率理論式におけるこれらの問題点について詳しく解説し,その改善法とより精密なX線反射率解析への展望について述べる.

原著論文
  • 岩田 明彦, 河合 潤
    2012 年 43 巻 p. 127-138
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    ファンダメンタルパラメータ法による蛍光X線定量分析法は,標準試料を必要としないその簡便性から様々な材料の元素組成の分析に広く用いられるようになった.更に人工多層膜ミラーの技術の進歩は,ベリリウム,ホウ素,炭素,酸素などの軽元素の分析を可能とし,軽元素からなる有機物などの元素組成の情報を得ることを容易としている.一方,X線回折法による定量分析は,蛍光X線分析法に比べあまり広く利用されていない.特に有機物の分野では,試料の粉体粒子の配向の問題があり,その傾向が顕著であると思われる.今回,汎用型のX線回折装置で,近年利用が可能となった人工多層膜を用いた平行ビームX線回折法を用い,配向の影響を簡便な手法で軽減し,ファンダメンタルパラメータ法の結果を用いて軽元素の組成も含めた試料の質量吸収係数を求め,その値から有機物(アセチルサリチル酸)のX線回折による回折-吸収法での定量分析を行ったので報告する.

  • V.K. EGOROV, E.V. EGOROV
    2012 年 43 巻 p. 139-146
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    The present paper discusses principles for minimization of the sizes and energy consumption of the TXRF instrument under the optimized condition of its analytical parameters. It also describes the original construction of TXRF experimental cell for the trace elemental analysis of liquid dry residues, which is elaborated based on the planar X-ray waveguide-resonator. The experimental data obtained from the use of the cell are presented and the most effective approach for modification of the cell properties is examined.

  • 与儀 千尋, 石井 秀司, 中西 康次, 渡辺 巌, 小島 一男, 太田 俊明
    2012 年 43 巻 p. 147-152
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    低軟X線領域におけるX線吸収端微細構造(XAFS)スペクトル測定は電子収量法や蛍光収量法が検出法として用いられ,それぞれ表面およびバルク敏感な検出法として重要な役割を果たす.しかし,これまでのマイクロチャンネルプレート(MCP)を用いた蛍光収量モードでは質の良いXAFSスペクトルを測定することが困難であった.そこで我々は高精度な部分蛍光収量(PFY)XAFSを行うため,素子面積が80 mm2のウインドウレスのシリコンドリフト検出器(SDD)に透過性のよい0.1 μm厚のポリパラキシレン(Parylene-N)をウインドウとした高検出効率の低軟X線蛍光検出器を開発した.これにより,従来のMCPによる蛍光収量XAFSと比較すると,S/B比,S/N比共に飛躍的に向上することが示された.さらに,表面敏感な全電子収量(TEY)および部分電子収量(PEY)XAFSの同時測定システムを構築し,表面近傍の深さ方向のXAFS分析を行うことに成功した.本報では,リチウムイオン二次電池の正極であるLiCoO2およびLiMn2O4を例に本システムを用いたXAFS測定結果について示す.

  • 新部 正人, 小高 拓也, 堀 聡子, 井上 尚三
    2012 年 43 巻 p. 153-160
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    マグネトロンスパッタ法で作製した窒化ホウ素(BN)薄膜の結晶構造を調べるため,B-KおよびN-K吸収端近傍微細構造(NEXAFS)を計測した.その結果,基板温度を600℃程度に上げて,かつ負のバイアス電圧を80 V以上印加した場合のみ,立方晶窒化ホウ素(c-BN)が安定して形成できることが分かった.また,表面敏感な全電子収量(TEY)法とバルク敏感な全蛍光収量(TFY)法のデータを比較することにより,表面にc-BN相の膜が形成される場合にも,内部ではh-BN相の割合が比較的高いことが分かった.これまで報告されたBN薄膜のNEXAFSデータの多くは,h-BN相ベースの薄膜のものであった.今回報告するBN薄膜では,c-BN粉末の標準試料に近いスペクトルが得られており,c-BN相薄膜を形成するためのデータベースとして有効に活用できるものと考える.

  • 伊藤 敦, 井上 敬文, 竹原 孝二, 瀧 慶暁, 篠原 邦夫
    2012 年 43 巻 p. 161-167
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    健常人女性のブリーチ処理毛髪について,毛根から一定距離の部位でのCa分布を高分解能密着顕微鏡と高感度マイクロビーム蛍光X線マッピングの手法によって求め,シスチンの酸化度(システイン酸の生成)との相関を調べた.その結果シスチンの酸化が進んだ試料は,よりCaが多く蓄積する傾向が明瞭であった.また,酸化は周辺部から進み,Ca蓄積はそれに並行しているようにみえた.さらに極端に酸化が進むと毛髪全体にCa蓄積が見られた.X線分析顕微鏡による未処理毛髪に対するCa吸着実験もCa蓄積と酸化度との密接な相関を支持した.なお,毛髪中心部のメデュラでのCa含量の増大は,酸化以外の要因と考えられた.

  • 望月 崇宏, 里園 浩
    2012 年 43 巻 p. 169-173
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    マルチチャンネル検出器を用いることで,測定エネルギーを走査することなくエネルギー非走査XPS測定を行うことができる.この測定方法でスペクトルに生じる歪を,2種類の禁止帯領域で得られるスペクトルによって補正できることが分かった.この補正方法により,特殊な光学系やアナライザーなしに短時間で正確なXPS測定を行うことが可能になる.本報告では,禁止帯領域で得られるスペクトルと補正結果について報告する.

  • 小高 拓也, 新部 正人, 三田村 徹
    2012 年 43 巻 p. 175-180
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    TEY法およびTFY法を用いて測定したN-K吸収スペクトルの分析深さを調べるために,Si3N4試料にCrを1~100 nmの厚さで堆積させてN-K吸収スペクトルを測定した.TEY法ではSi3N4のN-K吸収のピークが,膜厚2 nmまでははっきりと見られたが,3 nmではわずかに見えるだけとなり,4 nmでは見えなくなった.TFY法では膜厚100 nmでも,Si3N4のN-K吸収のピークがはっきりと見られた.ピーク強度の減少は,Cr膜の透過率の膜厚依存性としてほぼ説明できた.また,Arプラズマでエッチングしたことで表面の構造が変化したGaN結晶のN-K吸収スペクトルを測定した.TEY法で得たスペクトルでは,ピーク形状が平滑化しており結晶構造の乱れが確認できた.TFY法で得たスペクトルではピークの形状に変化はなかった.これにより,表面と内部で構造の異なる試料の評価に,TEY法とTFY法を併用することの有効性が確認できた.

  • 丸茂 克美, 小野木 有佳, 野々口 稔
    2012 年 43 巻 p. 181-200
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    エネルギー分散型蛍光X線分析装置にX線CCDカメラを装着した蛍光X線透視分析装置を用いて,鉱物の粒子径が鉱石や土壌の蛍光X線分析値に与える影響を評価した.

    石英,硬石膏,黄鉄鉱,黄銅鉱,閃亜鉛鉱,重晶石,方鉛鉱はそれぞれ1.48 mm以下,1 mm以下,0.39 mm以下,0.21 mm以下,0.20 mm以下,0.21 mm以下,0.30 mm以下,0.10 mm以下の粒子径の場合にはX線管球電圧が50 kV以下でX線が透過するものの,粒子径がそれぞれ2.35 mm以上,2 mm以上,0.39 mm以上,0.46 mm以上,0.32 mm以上,0.47 mm以上,0.21 mm以上の場合にはX線管球電圧が50 kVではX線が透過できない.

    蛍光X線分析の精度に対する鉱物粒子径の影響を把握するには,鉱物粒子のX線透視像が消滅するときのX線管球電圧(X線透視像消滅電圧)を測定することが有効である.X線透視像消滅電圧は鉱物粒子径が大きいほど,また鉱物の比重が大きいほど高い電圧となる.X線透視像消滅電圧の測定は鉛汚染土壌などの分析でも必要である.

  • 中山 健一, 市川 慎太郎, 中村 利廣
    2012 年 43 巻 p. 201-210
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    考古学的な遺物を分析する際,破壊を伴う前処理は最小限にする必要がある.そこで,蛍光X線分析としてはかなり少量である11 mgの試料粉末を用いて,主成分酸化物(Na2O, MgO, Al2O3, SiO2, P2O5, K2O, CaO, TiO2, MnO, total Fe2O3)定量用のガラスビードを作製した.精粉砕した土器あるいは火成岩を300倍量の融剤(無水四ホウ酸リチウム)と混合し,この混合物を高周波誘導加熱・熔融・急冷することで,直径約35 mmのガラスビード測定試料を得た.調製したガラスビードを波長分散型蛍光X線分析装置で測定し,試薬調合標準に基づいて作成した検量線を用いて定量した.併せて,試料:融剤=1:10で混合・熔融したガラスビードを用いた検量線法,試料:融剤=1:300で混合・熔融したガラスビードを用いたセミ・ファンダメンタル・パラメーター法でも定量し,結果を比較した.

  • 吉岡 達史, 今西 由紀子, 辻 幸一, 高部 秀樹, 秋岡 幸司, 土井 教史, 荒井 正浩
    2012 年 43 巻 p. 211-221
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    全反射蛍光X線分析(TXRF)は,平坦な基板上表面の試料を分析する有効的な方法である.全反射蛍光X線分析を用いて溶液試料を測定する場合,蛍光X線の自己吸収や散乱を防ぐため溶液の乾燥痕の厚さは薄くないとならない.しかし,海水のような試料は比較的大きな結晶が析出するため,乾燥痕を薄膜状にするのが困難である.そこで,この論文では乾燥段階における基板温度,界面活性剤の使用という観点から,全反射蛍光X線分析に適した海水の前処理法について調べた.界面張力の低下の作用を持つ界面活性剤の添加を検討した.結果として,乾燥過程において乾燥基板温度を70°Cとし,界面活性剤を用いることにより海水の乾燥痕形状は薄膜に近くなる.それにより,海水の乾燥痕からの蛍光X線強度のRSDが5%以下に抑えられた.我々は,全反射蛍光X線分析法における海水試料の最適な準備法として,界面活性剤を用いて基板温度を70℃にて乾燥を行う方法であると決定した.

  • 岡島 敏浩, 大谷 亮太, 隅谷 和嗣, 河本 正秀
    2012 年 43 巻 p. 223-234
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    佐賀県立九州シンクロトロン光研究センター(SAGA-LS)に設置されたビームラインBL11は主にXAFS測定を中心にユーザー利用を行っている.XAFS測定では,透過法,蛍光法による測定を基本に,15Kから1073Kの間で試料温度を制御することができ,また,有害・有毒ガスの利用も可能となった.これらの手法・設備とQXAFSとの組合せによるその場観察も可能である.BL11の整備状況や性能を示しながら,本ビームラインで行っている材料研究の一例を報告する.

  • Abbas ALSHEHABI, Nobuharu SASAKI, Jun KAWAI
    2012 年 43 巻 p. 235-239
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    Photoelectron spectra from a typical hard disk were measured at total reflection and non-total reflection conditions by changing the X-ray grazing angle by 0.1° steps. The chemical analysis resulted in C, N, O and F usually making the upper layer of a typical hard disk. We observed enhancement of photoelectron emission of the top layer at total reflection. Pt and Co were only found by non-total reflection XPS because they are constituents of a deeper region than the top and interface region.

  • 駒谷 慎太郎, 青山 朋樹, 大澤 澄人, 辻 幸一
    2012 年 43 巻 p. 241-247
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    従来のX線分析顕微鏡は,一次X線を細く絞って試料に照射することで,微小部の蛍光X線分析を実現していた.しかし,X線を絞って分析領域を小さくすると,X線強度が落ちるため,強力なX線管が必要となり,その結果,大きな装置になっていた.そこで,我々は,一次X線を絞るのではなく,試料から発生した蛍光X線を検出する側で視野を制限することで,装置全体を小型・軽量化を図り可搬型装置にした.本手法では,試料に照射するX線の制限が無くなったため,小型・低消費電力のX線管が採用でき,バッテリーで装置を動作させることができる.検出器側のX線収集には,ポリキャピラリーハーフレンズを用いることで,空間分解能は140 μmを達成し,現場での微小部の顕微分析が可能となった.

  • 林 久史, 金井 典子, 竹原 由貴, 大平 香奈, 山下 結里
    2012 年 43 巻 p. 249-266
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    ランタン(Z=57)近傍の7元素,I, Cs, Ba, La, Ce, Pr, Ndの化合物について,Lγ2,3スペクトルとLγ4スペクトルを1結晶・波長分散型分光器で測定した.Lγ2,3スペクトルは,低エネルギー側に約50 eVの裾をひく非対称な構造を示した.I以外では,Lγ2ピークがはっきりと識別され,Lγ2ピークの低エネルギー側に(超)コスター・クロニッヒ遷移に起因するサテライトピークが現れた.Lγ2ピークのLγ3ピークに対する相対強度は顕著な原子番号依存性を示さず,原子に対する理論値とおよそ一致した.統計精度に難はあるが,化合物のLγ4スペクトルを実験室でも測定できることを確認した.他元素とやや異なる性質を示したIとCeのLγ2,3Lγ4スペクトルについて,多体効果の影響を議論した.

  • 飯島 善時, 成瀬 幹夫, 境 悠治, 平岡 賢三
    2012 年 43 巻 p. 267-276
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    最近,XPSの高分子材料の深さ方向分析に対し,表面の組成や化学結合状態が変化しない特徴を有するクラスターイオン照射に注目が集まっている.2000個以上のクラスターを10 keVのエネルギーで照射することは1原子当たりのエネルギーとしては5 eVに相当する.従って,XPSの深さ方向分析として低速単原子イオン照射とクラスターイオン照射の比較をポリイミドを用いて検討を行った.表面汚染物除去にはAr 100 eVで可能であることが示されたが,一方,Ar 20 eVの低速エッチングでは官能基の選択エッチングが発生することが確認され,クラスターイオンのように分子鎖でのエッチングは出来ないことが判明した.

  • 井上 央, 山田 康治郎, 渡辺 充, 本間 寿, 原 真也, 片岡 由行
    2012 年 43 巻 p. 277-284
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    蛍光X線分析法におけるガラスビード法は,粉末法における粒度効果や鉱物効果等による不均質効果の影響を除去することができるため,粉末試料の定量分析でよく用いられている.また,ガラスビード法でより正確な分析を行うため,試料溶融中に起こる強熱減量や,秤量重量を用いた希釈率変化の補正も行われている.

    合金鉄や硫化物鉱物などをガラスビード法で分析する場合,金属元素や硫黄は酸化され,作成されたガラスビード中では酸化物として存在する.このため,これらの試料でガラスビードを作成した場合,多量の強熱増量が発生する.一方,試料が炭素等を含有していた場合は,同時に強熱減量も発生する.

    今回,このような試料に対し,強熱増量を負の濃度を持つ強熱減量成分として扱うFP法(ファンダメンタルパラメータ法)で理論マトリックス補正係数を算出し,その係数を用いて検量線法で定量演算を行う方法を開発した.

    実際に,フェロシリコン合金粉末のガラスビードを作成し,この方法を適用したところ,良好な結果が得られ,ガラスビード作成時に生じる高強熱増量や同時に発生する強熱減量に対して,十分な補正効果があることが確認できた.

    よって,この新たに開発したFP法を適用することで,種々のフェロアロイのガラスビードに対して,より正確な分析値が得られることが期待できる.

  • 西川 裕昭, 川本 大祐, 大橋 弘範, 陰地 宏, 本間 徹生, 小林 康浩, 岡上 吉広, 濱崎 昭行, 石田 玉青, 横山 拓史, 徳 ...
    2012 年 43 巻 p. 285-292
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    金属酸化物に金ナノ粒子を担持させた触媒は様々な反応を触媒することが知られている.その中に担体である金属酸化物が還元され担体0価金属が活性種となる触媒があり,我々はAu/NiOからNiを還元し有機触媒反応に利用することとした.共沈法で調製し,空気焼成したAu/NiOを水素還元し,水素化反応を行ったところアルコールの脱水酸基反応に対して触媒活性を示した.本研究では,Ni(0)が生成したかどうかを確認する目的でXAFSおよび197Au Mössbauer分光法を組み合わせて触媒のキャラクタリゼーションを行った.その結果,XAFSよりNiは還元処理を行うことで2価から0価へと還元されることが分かった.Auは還元処理を行うことでスペクトルの形状が変化した.197Au Mössbauer分光法を組み合わせることでAu・Niともに0価へと還元され,一部合金化していることが確認された.

  • 川本 大祐, 西川 裕昭, 大橋 弘範, 陰地 宏, 本間 徹生, 小林 康浩, 濱崎 昭行, 石田 玉青, 岡上 吉広, 徳永 信, 横山 ...
    2012 年 43 巻 p. 293-302
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    X線吸収分光法(XAFS)と197Au Mössbauer分光法を併用して担持金触媒(Au/MOx:M=Fe, Co, Ni, Cu)の状態分析を行った.水酸化金(III)と3d金属水酸化物の共沈物に対して空気中300℃で焼成した触媒と水素流通下300℃で焼成(水素還元)した触媒を調製した.調製した触媒に対してFe-K端,Co-K端,Ni-K端,Cu-K端とAu-L3吸収端のXAFS測定と197Au Mösbauer測定を行った.空気中で焼成した触媒は担持されたAu(III)がAu(0)へ還元されていることがわかった.水素流通下で水素還元を行った触媒は担持されたAu化学種が合金相を形成していることがわかった.特に197Au MössbauerスペクトルからCuの場合担持された全ての金が合金(AuCu3)になることが確認された.

  • 服部 英喜, 原田 雅章
    2012 年 43 巻 p. 303-308
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    寒天電解質を使用して金属塩水溶液の拡散実験を行った.寒天電解質中を移動する銅イオンを微小部蛍光X線分析法により観察した.その結果から拡散方程式を用いて,銅イオンの拡散係数を測定した.また,寒天電解質の組成を変えて観察を行い,得られた拡散係数の値について考察した.寒天濃度の増加および電解質濃度の増加にともない,拡散係数はいずれも減少した.得られた拡散係数の値は,Nernst-Hartleyの関係式を用いた計算結果との比較から,妥当な値だと考えられる.

  • 杉下 知絵, 藤原 学, 松下 隆之, 池田 重良
    2012 年 43 巻 p. 309-318
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    龍谷大学大宮図書館において保管されている貴重考古資料のひとつである「せん佛」をX線分析顕微鏡(HORIBA XGT-2700)により分析し,科学分析データの蓄積を行った.そこで,「せん佛」の本体が石膏製であること,仏像の顔および手など肌部分のみから砒素が検出されることを確認した.そこで,砒素を含む化合物試料およびそれらを構造体に塗布した試料について蛍光X線分析における半定量分析を行った.また,石膏本体およびそれに砒素顔料を薄く塗布した試料を作成し,検出器と試料までの距離を変化させて測定を行い,スペクトルピーク強度におよぼす影響について明らかにした.

  • 白澤 恵美, 藤原 学, 江南 和幸, 池田 重良
    2012 年 43 巻 p. 319-329
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    「大谷コレクション」の中には中国古代紙史料である多数の大谷文書があり,それらは龍谷大学大宮図書館に保管されている.それらの保管時に剥落した紙片の一部について科学分析を行った.まず,標準試料として選択した和紙および中国製の紙を対象として,光学顕微鏡を用いた表面観察により,使用された紙原料の特徴を明らかにした.また,蛍光X線分析法を用いた元素分析により,中国古代紙で用いられた填料の種類を推定した.製紙法の特色を示すと考えられる3種の元素(K, Ca, Fe)間のピーク強度データを用いて,填料を含めた紙の製法の違いによる分類の可能性を検討したところ,2もしくは3つのグループに分かれることが明らかとなった.

  • 五月女 祐亮, 黄 嵩凱, 中井 泉
    2012 年 43 巻 p. 331-340
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    X線分析により,トルコの三つの古代遺跡から出土した,鉄器時代の彩文土器の黒/褐色系顔料の特性化を行った.顔料の組成は蛍光X線元素マッピングによって行われた.彩文部分は組成から主成分から名付けられた以下の三つのタイプに分類された;Mn+Feタイプ,Mnタイプ,Feタイプ.これらの顔料の成分相は粉末X線回折とXAFSによって同定された.Mn+Feタイプは赤鉄鉱とヤコブス鉱,Mn-スピネルが同定された.MnタイプはMn-スピネルとハウスマン鉱もしくはビクスビ鉱であった.Feタイプは磁鉄鉱であった.これらの結晶相は土器の焼成条件下におけるFe2O3-Mn2O3系の相図と矛盾しない.

  • 古谷 俊輔, 黄 嵩凱, 前田 一誠, 鈴木 裕子, 阿部 善也, 大坂 恵一, 伊藤 真義, 太田 充恒, 二宮 利男, 中井 泉
    2012 年 43 巻 p. 341-354
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    116 keVのX線を励起光に用いる高エネルギー放射光蛍光X線分析(HE-SR-XRF)による,土砂試料の法科学分析のための定量法を開発した.定量分析にはスペクトル上で散乱によるバックグラウンド(コンプトン散乱,多重散乱)が低いエネルギー領域に存在するCs, Ba, La, Ce, Nd, Sm, Gd, Dy, Er, Yb, Hf, Wの12元素を用いてK線によって分析を行った.これらの重元素は土砂の特性化に有用であることが分かった.使用した土砂試料は長野地域の土砂である.各種標準試料から作成された検量線は高い直線性を示し,サブppmレベルの最小検出限界が得られた.この検量線を用いて算出した粉末の岩石標準試料(JR-2)の元素濃度は認証値とよく一致しており,再現性のある高感度な分析が可能あることが実証された.本法により,非破壊で迅速簡便な分析ができることから,本研究の最終目標である日本全国の土砂の法科学データベースの作成に適した手法であることを実証できた.

  • 田岡 裕規, 保倉 明子, 後藤 文之, 吉原 利一, 阿部 知子, 寺田 靖子, 中井 泉
    2012 年 43 巻 p. 355-368
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    Cdの超蓄積植物であるシダ植物ヘビノネゴザ(Athyrium yokoscense)の未分化細胞塊(カルス)から分化させた個体について,200 μMの濃度のCd添加培地で2週間栽培し,放射光μ-XRFイメージングとXAFS分析を行った.いくつかの生長ステージにおける,Cdの元素分布と化学形態を明らかにすることを目的とした.μ-XRFイメージングの結果から,根においてCdはいずれの生長ステージにおいても表皮や皮層,内皮,細胞壁付近や維管束付近に多く分布していた.このことから根から吸収されたCdは細胞壁を介したアポプラスト輸送により植物組織に輸送される可能性が示唆された.葉柄においては,根と同様にCdは維管束,皮層,表皮に蓄積していることが分かった.しかし胞子体では維管束周辺にCdが多く蓄積しており,表皮や皮層にはあまり蓄積していなかった.葉ではCdは組織全体に蓄積していることが分かった.胞子体および幼植体におけるCd K吸収端XAFS測定の結果から,いずれの試料でも根ではCdは主に酸素配位子と結合して存在していることが分かった.一方地上部では,酸素配位子と硫黄配位子の2つの結合が確認された.

  • 柴沢 恵, 久世 典子, 稲垣 和三, 中井 泉, 保倉 明子
    2012 年 43 巻 p. 369-380
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    唐辛子中の微量元素組成により産地を判別する手法の開発を目的とした.まず三次元偏光光学系蛍光X線分析装置を用いて,韓国産と中国産の唐辛子中の微量元素の定量を行った.最適な測定条件を検討し測定した結果,11元素(Cl, K, Ca, Mn, Fe, Cu, Zn, Br, Rb, Sr, Cd)において直線性の高い検量線が作成でき,各元素の最小検出下限はサブppmレベルとなった.定量できた唐辛子試料中微量元素のうち,6元素(Cl, Ca, Fe, Zn, Rb, Sr)を用いて主成分分析を行ったところ,中国産と韓国産とを特性化することができ,これらの元素が唐辛子の産地判別の指標となることが示された.また線形判別分析により6元素の定量値を用いる判別式を構築することができ,韓国産(n=11)と中国産(n=12)の唐辛子を100%判別することができた.本研究では,3種のターゲット材(Ge, Mo, Al2O3)を用いることで,唐辛子中のppmオーダーの微量元素を1試料当たり約75分の測定で分析が可能であり,蛍光X線分析装置を用いる迅速・簡便な産地判別に有用であることが示された.

  • 山岡 理恵, 山本 孝, 湯浅 賢俊, 今井 昭二
    2012 年 43 巻 p. 381-389
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    タンタル酸リチウム単結晶の加熱/冷却に伴うX線発生現象について,真空度および昇温温度を制御した実験を行い,その発生機構について検討した.X線発生は既往の報告より三桁高い真空度10-4 Paでも起こり,X線発生終了までの全積分強度は1 Paまで一定であった.タンタル酸リチウム単結晶の焦電性を利用したX線発生は,結晶表面近傍で起こる放電に伴って残留ガスより生じる高密度の荷電粒子の衝突を起源とする数分以内で終了する現象と,もともと残留ガス中に存在する荷電粒子を起源として10分以上継続するものとの二元機構であると結論された.焦電結晶の昇温する速度を一定にすることでX線発生強度が一定となる時間を延長することができた.

  • Vallerie Ann INNIS-SAMSON, Mari MIZUSAWA, Kenji SAKURAI
    2012 年 43 巻 p. 391-400
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    In this paper, we report the feasibility of X-ray reflection tomography to image patterned surfaces via simulation and experiment. In the simulation work, we were able to obtain very good reconstructed images from reflectivity projections with high correlation coefficient values obtained. Even with just 18 projections with a sinusoidal filter in the reconstruction algorithm, a high degree of colocalization was achieved. The spatial resolution obtained is 200 μm for a 24 μm detector resolution. Experimentally, we were able to obtain a successful reconstruction from at most 36 projections using an ordinary lab-source X-ray reflectivity set-up. Correlation coefficient values obtained are acceptable and yet can still be improved by upgrade of instrumentation design and the need for further mathematical processes in the FBP reconstruction algorithm. Spatial resolution currently obtained is ∼1.6 mm. Further improvements are being done to have a comparable resolution with that of simulation.

  • 西岡 洋, 村松 康司, 廣瀬 美佳
    2012 年 43 巻 p. 401-406
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    西洋漆喰施工後に見られる白華現象を解明するため,汎用蛍光X線分析装置とX線回折分析装置を用いて白華成分を測定した.その結果,西洋漆喰施工後に発生する白華物質は硫酸カルシウム二水和物(二水石膏)を主成分とするものであることが判明した.施工時に粉末の西洋漆喰に水を加えて混練する際,カルシウムイオンと硫酸イオンが溶出し,これが施工後に乾燥状態と加湿状態を繰り返し経ることにより徐々に漆喰表面に移動して析出する現象であることが明らかとなった.

  • 村松 康司, 潰田 明信, 原田 哲男, 木下 博雄
    2012 年 43 巻 p. 407-414
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    NewSUBARUの多目的ビームラインBL-10において,フロントミラーの炭素汚染を除去し,ビームラインの分光特性と軽元素標準物質のXANESを評価した.炭素汚染の除去により,CK端近傍の光強度は約11%回復した.ビームライン分光器に600 mm-1回折格子を用いると70~180 eV領域のAlL端~SL端XANESが測定でき,1800 mm-1回折格子では180~700 eV領域のBK端~MnL端XANESを測定できた.実用的な50 μmスリットを用いた場合,エネルギー分解能はいずれの回折格子においても数百~約2000であると推測でき,BL-10を70~700 eV領域の軟X線吸収分析に適用できることを明らかにした.

  • 村松 康司, Eric M. Gullikson
    2012 年 43 巻 p. 415-424
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    液体有機化合物の簡便なX線吸収端構造(XANES)測定を目指し,酸素官能基を含む不飽和脂肪族化合物と飽和脂肪族化合物をAu, In, Cu基板に直接塗布して蒸発乾固した状態で全電子収量XANESを測定した.その結果,清浄なAu基板を用いれば多くの不飽和脂肪族化合物は容易にCK端とOK端のXANESが得られ,揮発性の高い飽和脂肪族化合物も測定できることを明らかにした.ただし,揮発性の高い試料では試料電流が低いため,Au基板のスペクトル形状がXANESに反映されることに留意する必要がある.基板にInやCuを用いた場合は,基板表面の汚染炭素や酸素,さらには試料との化学的相互作用がXANESに反映される場合があるため注意が必要である.

  • 村松 康司, Eric M. Gullikson
    2012 年 43 巻 p. 425-436
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    典型的なsp2炭素化合物(グラファイト,多層カーボンナノチューブ,カーボンブラック)粉末とsp3炭素化合物(ダイヤモンド,ポリエチレン)粉末の粒子混合系と,様々な有機分子系におけるsp2炭素とsp3炭素の全電子収量(TEY)比をCK端のX線吸収端構造(XANES)から解析した.その結果,粒子混合系では,ダイヤモンドよりもポリエチレンの方がTEYが高く,sp2炭素も化合物間でTEYに有意な差があることを確認できた.分子系では,脂肪族化合物,ナフタセン誘導体,芳香族化合物のπ**ピーク高比をsp2炭素原子比に対してプロットすると原点近くを通る正の相関を示した.したがって,分子内に存在するsp2炭素とsp3炭素のTEY比はほぼ等しいことがわかった.

  • 松崎 真弓, 白瀧 絢子, 池田 朋生, 中井 泉
    2012 年 43 巻 p. 437-452
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    日本における弥生・古墳時代の古代ガラスの考古化学的研究は,その化学組成の複雑さゆえに進んでいない.特に,東日本のガラスについては,西日本のガラスに比べてほとんど化学的研究はなされていない.我々はこれまでに,熊本県から出土したガラスビーズについてポータブル蛍光X線分析装置を用いた非破壊分析により化学組成を調べ,その特徴から起源について探ってきた.本報では,新たに熊本県の他の遺跡と茨城県出土のガラスについて分析し,九州地方と関東地方のガラスの化学組成の比較を行った.まず,全資料を主成分組成に基づき,5つのタイプに分類した.熊本県と茨城県では共通してアルミナソーダ石灰ガラス(Na2O-Al2O3-CaO-SiO2系),ソーダ石灰ガラス(Na2O-CaO-SiO2系),カリガラス(K2O-SiO2系),がみられた.それらに加えて熊本県からは鉛ガラス(PbO-SiO2系),鉛バリウムガラス(PbO-BaO-SiO2系)もみられた.両地域のガラスは微量成分においても同じ傾向が見られ,同時代に九州地方と関東地方で化学組成的特徴を同じくするガラスが存在していたことが分かった.

  • 酒徳 唱太, 今宿 晋, 河合 潤
    2012 年 43 巻 p. 453-457
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    希釈イオン液体EMI-CH3COOをエタノールで1 wt%に希釈した溶液を帯電防止剤として用い、絶縁試料である実験用ゴム手袋のSEM-EDXスペクトルを測定した.試料に希釈イオン液体を塗布した場合は試料成分であるS, Cl, Ca, Ti, およびZnの特性X線が検出された.しかし,試料に希釈イオン液体を塗布しなかった場合は,試料成分のうちCa, TiおよびZnの特性X線が検出されなかった.また,試料成分でないCuの特性X線が検出された.得られたEDXスペクトルを解釈することで,希釈イオン液体を塗布した場合は電子線が試料のみに照射され,希釈イオン液体を塗布していない場合は電子線が試料表面の帯電の影響により曲げられ,試料以外の場所にも照射されたことが分かった.

  • 村岡 弘一, 宇高 忠
    2012 年 43 巻 p. 459-464
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    近年,エネルギー分散方式を用いた微量分析は,多く報告されている.本研究では,軟X線の高感度分析を目的として,励起源と検出器窓の改善を行った.励起源には,分光結晶により単色化したW-Mα1線を用いて,X線管からのバックグランドの低減を図った.また,検出器窓材には,一般的に使用されているベリリウムから高分子(AP3.3)に変更したことで,軟X線の吸収を抑えることに成功した.

  • 早川 慎二郎, 島本 達也, 野崎 恭平, 生天目 博文, 廣川 健
    2012 年 43 巻 p. 465-470
    発行日: 2012/03/31
    公開日: 2023/11/08
    ジャーナル フリー

    広島大放射光センターでの軟X線XAFS測定において,単素子のSDD(silicon drift detector)とデジタルパルスプロセッサーを用いる蛍光X線測定系を導入し10万cps程度までの計数率に対応できるようになった.さらに,デジタル信号処理の利点として,エネルギー分解能を要するパルス処理と並列して,数え落としが無視できる早い信号処理を行うことで,数え落としを実測しながらのXAFS測定が実現した.本システムを用いて塩化カルシウム溶液のカルシウムK殻XAFS測定に取り組み,蛍光法を用いてmMレベルからMレベルの高濃度溶液まで対応できることを示した.同時に数え落としを補正した条件でも500 mM以上の濃度ではスペクトルの変形が観測され,高濃度の試料で現れる自己吸収効果であることが確認された.

技術ノート
国際会議報告
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