【目的】 合理的・能率的・科学的な視点から生活事象や生活財を捉えなおす力をつけることの重要性は従来から変わりはない。衣生活の分野において,衣類という生活に不可欠な財を管理運用し,個々の生活に有効に活用していく力は,環境に配慮した実践的な行動力にもつながるものと考える。家庭生活においても,大量消費が美徳であった時代は反省され,いずれの資源にも限りがあることを生活者が意識すべきであると指摘されている。また,簡便さや迅速さによって失われがちな安全性や恒久性(持続可能性)を今一度確認し,生活者の消費のあり方が問われている。衣生活分野では,小中高校のいずれの段階においても,手入れの領域が重要な指導内容となり,見直されつつある。ここでは小中高を通してその必要性や衣服材料の特性に応じた手入れの方法を学ぶことに重点がおかれている。ところで,教師の指導力要素には様々なものが存在し,子どもとの関係において,相互に作用しつつ子どもの学びを導くものとなり,具現化される。より豊かな学びを実感するためには教師として,指導内容についての広く深い理解が必須であるが,子どもの興味関心に応じた教材開発および授業研究が重要である。また,家庭科での学習が家庭内での実践につながることは異論のないことであるが,これまで多くの課題を残してきた。それは,学習者の興味への寄り添いが不足し,被洗物の選定に無理がある場合や,実際の家庭洗濯の実情を考慮していない場合などがあり,効果的な指導のあり方を検討することが不可欠であった。そこで,本研究では,手入れ指導の改善を目的として,子どもの大好きな
ぬいぐるみ
を被洗物とした教材開発およびその授業研究を行なった。
【方法】 学習目標として,自分の
ぬいぐるみ
などを自ら進んで手入れしようとする。繊維製品を大切に保管するためには手入れが必要であることがわかる。素材に応じた洗い分けの重要性とその方法がわかる。小物の手洗いについて,その手順と留意点がわかる。自分の小物の形や色を崩さず,汚れを落としてきれいにすることができる。を設定した。授業は,
ぬいぐるみ
と紅白帽子の2つの手洗い実習を中心に構成した。
ぬいぐるみ
の洗い方に関しては1)洗い・中性 2)丸洗い・弱アルカリ性 3)拭き洗い・中性 4)拭き洗い・弱アルカリ性の4パターンを示し,その特徴を理解させた後に児童自身に自分の
ぬいぐるみ
の洗い方を意思決定する時間を取り,一人一人に4つから1つを選択させた。実際に
ぬいぐるみ
に適すると思う洗い方で手洗いをする実習を通して,型崩れ・汚れ落ち・色落ちの程度を児童に実感させた。ここでは,主体的な意思決定を重視した。次時では,丸洗い・弱アルカリ性での紅白帽子の洗い方に関して技能面を重視した師範を行ない,その基本的手順や留意点の定着を図るとともに知識および技能の習熟を目指した。開発教材の学習効果については,以下の手続きにより評価した。授業前後において1)洗濯方法や手順に関する一般的理解度 2)洗濯方法や洗剤選択の理解度に対する自己評価の2つの異なる表現を用いて学習者を対象とした質問紙調査を行なった。授業後において1)授業内容に対する児童の理解意識 2)家庭生活における洗濯の実践意欲について,いずれも質問紙調査により測定を行った。研究授業は平成17年12月1日と8日(木)長野市内におけるN小学校6年3組約40名を対象として実施した。
【結果】1)洗濯方法に関する一般的理解度は,授業前後における拭き洗いの認識に関して正答率変化が著しく,56.7%増大した。さらに,素材による液性選択認識に関しての正答率も33.7%増大した。洗濯手順に関する一般的理解度は,事前事後における拭き洗いの正答率変化が著しく49.1%増大した。次に,乾燥前の整形の正答率変化も大きく,22.5%増大した。以上の結果より,本教材により,児童は授業前に少なかった拭き洗いという洗濯方法を認識するとともに,素材に応じた液性選択に対する理解を深め,総合的に,被洗物の特徴に応じた洗濯方法の選択力が増大したものと推察される。
2)洗濯方法および洗剤の選択の理解度に対する自己評価は,授業前後における丸洗いと拭き洗いの違いおよびその使い分けに関して正答率変化が著しく,71.4%増大した。さらに,洗剤の種類(液性)の違いおよびその使い分けについては,それぞれ,44.9%および47.4%増大した。以上の結果より,洗い方や洗剤の違いの認識とその使い分けの認識に対しては児童がほぼ同様に受け止める傾向があること。さらに,「洗濯方法の違い」と「洗剤の種類(液性)の違い」では「洗剤の種類(液性)の違い」の方が児童にとって難易度が高いことなどが明らかとなった。
抄録全体を表示