【目的】和風だしは日本人にとってなじみ深く,健康食として認知されており,海外からも健康的でバランスの取れた和食文化として注目されている.だしで風味付けしたベビーフードやだしを使用した保存食等も製造されているが,このような加工食品は加圧加熱殺菌(レトルト)が施されており,これにより風味の変化が生じる.しかし,その風味変化に寄与する成分を同定した知見は乏しい.そこで,本研究では和風だしの一種である昆布抽出液(昆布だし)に着目し,レトルト処理によって変化する香気成分を調査した.
【方法】イオン交換水に2.0%相当の
利尻昆布
から昆布だしを調製し,アルミパウチに封入後,121℃で20分および40分相当の熱を加えてレトルトした.レトルト前後の試料について香気の官能評価を行った.また,30%の塩化ナトリウムを添加した試料のヘッドスペースガスをSPME法により捕集して,これをGC-O/FPD/MSにより分析し,得られた結果を多変量解析した.
【結果】官能評価では,3点識別法によりレトルト前と121℃・40分で有意に識別された.また並行して嗜好法を行ったところ,レトルト前より121℃・40分を好む者はいなかった.このことから,レトルトによってヒトが感知できるレベルで香気が変化することが確認された.そこで,GC-O/FPD/MSを用いて香気成分分析を行い,その結果を階層クラスター分析したところ,レトルト前後で分類された.また,主成分分析を行った結果のスコアプロットにおいても,レトルト前後で分類されており,第1主成分の寄与率が80%以上を示した.この結果をローディングプロットで表示すると,レトルト後を特徴づける2つの香気成分が示された.また,これらの成分は匂い嗅ぎにおいてもレトルト後の試料でのみ検知された.以上のことから,これらの成分がレトルト後の風味変化に寄与していることが示唆された.
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