沖縄における島嶼集団の遺伝的特徴について検討することを目的に,その繁殖構造の分析を行なった.集団育種推進事業基礎雌牛集団の繁殖構造を地域ごとに分析した結果,各集団の平均血縁係数は一般的に高く,いずれの地域においても近交を回避するような交配が行なわれていた.この中で石垣島集団の平均血縁係数は最も高く,近交係数,カレントインブリーディングも他の地域に比べ高かった.各地域集団間でその平均血縁係数を比較すると,石垣島と供給公社の集団,伊江島と宮古島の集団が血縁的に近かった.次に,集団分化指数をみると,いずれの指数も1.0以下で,近交を避ける交配が積極的に行なわれていたことを示していた.以上の集団間比較により,各島嶼集団における分化傾向,集団内の遺伝的均質化が明らかとなった.
次に,典型的な繁殖地帯(伊江島地域)における導入の経過を3期に分け,その推移について検討した.その結果,1期(1969~1973)における集団は,様々な系統(血統)由来の個体が混在したモザイク状の集団であった.そのため,集団内における個体間の平均類縁係数は最も低く,個体の平均近交係数も低い値であった.第2期(1974~1978)に入ると,特定の種雄牛に供用が集中し,平均血縁係数は高い値を示した.また,3期(1979~1982)でも血縁係数は高く,近交を回避するような交配が積極的に行なわれていたことが示唆された.この血縁係数上昇の原因は,2期の場合と異なり,広島県の種雄牛に供用が集中したためであることが明らかとなった.以上の結果から,沖縄の島嶼集団の特徴は,遺伝的に分化しつつある地域集団の存在,島嶼間の環境変異が大きいことおよび島嶼間で改良傾向が異なることの3点であった.
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