(緒言)
顎口腔系は歯,顎関節,咀嚼筋と頭頚部の筋群および周辺組織によって構成され,協調して働くことにより顎口腔機能が営まれていることから,咬合異常および咬合の変化が,頭位や全身の姿勢に影響を及ぼすことが報告されており,さらに全身の不定愁訴との関連性も示唆されている.近年,生活習慣等により頭部の前方偏位や猫背などの不良姿勢を呈する若年層が増加しているが,若い頃からの不良姿勢が積み重なることで,咬頭嵌合位が大きな自覚症状もなく徐々に不安定になり,様々な咬合異常や咬合の変化が惹起される可能性が考えられる.そこで本研究では,現状における若年者の咬合関係と姿勢との関連を模索することを目的とした.
(研究方法)
対象者は2018および2019年度歯科衛生学科学生のうち研究協力の承諾が得られた学生とした.
咬合関係では,咬合接触面積と咬合力を測定した. 咬合圧測定用感圧フィルム(デンタルプレスケールⅡ ®, GC)を用い,咬頭嵌合位における咬合を確認後,座位の状態において感圧フィルムを最大咬合力で3秒間咬ませ試料採得を行い,その後専用解析装置を用いて咬合接触面積と咬合力を解析した.また,咬合検査前後に質問紙調査(悪習癖・身体症状・顎関節症の有無等)を行った.
姿勢の測定は,矢状面および正面方向より撮影した安静立位写真撮影と,
スパイナルマウス
®を用い安静立位における矢状面彎曲の測定を行った.姿勢の良否に関しては,安静立位写真と
スパイナルマウス
®のデータを本研究チームの研究者がそれぞれ観察し,本研究チームの5名中3名以上が「不良姿勢」と判断した対象者を「不良姿勢群」とし,「良姿勢群」も同様に研究者の判断が一致した者とした.
統計解析は,SPSS. Statistics Ver.25を用い,良姿勢と不良姿勢における2群比較ではt検定を,脊柱アライメントと咬合力の関連性についてはSpearmanの順位相関を求めた.有意水準は5%以下とした.
(結果)
同意が得られた64名のうち28名(良姿勢群15名・不良姿勢群13名)を対象者とした.対象者全体における咬合力の平均値は1089.3±483.2N,咬合接触面積は30.7±11.9mm2であった.また仙骨傾斜角は8.9±8.8°,胸椎後弯角は33.1±9.1°,腰椎前弯角は-23.2±9.0°であった.咬合接触面積において良姿勢群(24.9±9.7mm2)と不良姿勢群(37.4±10.9mm2)の間に,咬合力において良姿勢群(864.7±333.7N)と不良姿勢群(1348.3±509.6N)との間に有意差が認められた.また,
スパイナルマウス
®における脊柱アライメントと咬合力と咬合接触面積の関連性では,仙骨傾斜角と咬合力との間に有意な正の相関(r=0.60)が,咬合接触面積との間に有意な正の相関(r=0.50)が認められた.腰椎前弯角と咬合力との間には有意な負の相関(r=-0.55)が,咬合接触面積との間には有意な負の相関(r=-0.50)が認められた.ブラキシズムの有無と姿勢の良否に関して独立性の検定を行ったところ,カイ二乗値5.04,有意差0.03であり,ブラキシズムの有無と姿勢の良否の間に関連性が認められた.
(考察)
本結果より,姿勢の良否と咬合接触面積,咬合力,ブラキシズムには関係があることが示唆された.適切な噛みしめは姿勢制御に良い影響を与えるが,ブラキシズムは顎関節や頭頚部の筋群に負の影響を与え,頭位や全身の姿勢に影響を及ぼすことが報告されており,ブラキシズムの有無は姿勢にも影響を及ぼす可能性が示唆された.また,日常生活において過度に強い咬合力は,歯や歯周組織,歯槽骨の破壊にもつながることから注意が必要とされている.しかし若年成人女性の咬合力の標準値は文献により大きく異なる(1087~2170N).本結果における不良姿勢の咬合力が過度に強いのかどうかも含め,咬合と姿勢の関連性について今後更なる検討が必要であると思われる.
(倫理規定)
本研究は,千葉県保健医療大学研究等倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号2018-18).
(利益相反)
演題発表に関連し,開示すべきCOI関係にある企業等はない.
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