目的: 近年, HIV-1逆転写酵素 (RT) におけるS
69-X-Xで表現されるアミノ酸挿入変異が, ヌクレオシド型RT阻害剤に対し多剤耐性を示すことが報告されている. 我々は, RT阻害剤による治療歴をもつ3症例において, 治療経過中に同領域に4種類の挿入変異を検出したので, その臨床経過とあわせて報告する.
対象および方法: RT阻害剤を3年以上服用中のHIV-1感染血友病患者15名を対象とした. 患者血漿中のHIV-1 RNAを抽出し, 逆転写酵素領域の塩基配列を解析した.
結果: 15名中3名において, それぞれZDV+3TC, ddI+d4T, ZDV+ddI投与中に逆転写酵素にS
69-X-Xで表現される挿入変異を認めた. ZDV+ddI投与中に挿入変異を認めた症例は, 経過中に変異がS
69-S-SからS
69-S-Gに変化した. その後, 3症例は何れもRT阻害剤2剤にプロテアーゼ阻害剤を加えた3剤併用療法に移行することにより血漿中HIV-1 RNAコピー数は検出感度未満に抑制された.2症例は併用療法開始後1年以上経過した現在まで測定感度以下に抑制されている. 1症例においては, HIV-1RNAが再上昇したものの, 再び挿入変異株を認めることはなかった.
結論: 何れの症例もプロテアーゼ阻害剤を含む3剤併用によりHIV-1 RNA量は検出感度未満に抑制されたことより, この変異は必ずしも治療困難な変異とは言えないと考えられる. 今後の経過の更なる追跡が必要である.
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