バイオメカニズム
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1部 スポーツの動作と反応
  • 長尾 秀行, 窪 康之, 黄 忠, 森下 義隆
    2020 年 25 巻 p. 9-20
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は, 国内女子トップクラスのウエイトリフティング選手におけるスナッチの成功要因をバイオメカニクス的手法で明らかにすることとした. 2016年度全日本選手権大会の女子のスナッチを対象に, 同一選手で同一重量におけるスナッチの成功と失敗があり, かつ失敗ではバーベルを後方へ落下させた11名を分析した. 分析の結果, バーベルの挙上高は成否試技間で有意差は認められなかった. 一方で, 成功の方が失敗よりもバーベルの前方変位量, 後方変位量および最大前方速度が有意に小さかった. また, 成功の方が失敗よりもバーベルが最大高に達した後の身体重心の前方変位量が有意に小さかった. 以上のことは, 潜在的に挙上可能なスナッチの場合, バーベルの挙上高はスナッチの成功要因ではなく, バーベルの前後の変位量と挙上したバーベルの下への身体の移動方法が成功要因であることを示唆するものである.

  • 沼津 直樹, 藤井 範久, 森本 泰介, 小池 関也
    2020 年 25 巻 p. 21-32
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    本研究ではキッカーにゴールのさまざまな地点へシュートさせ, ゴールキーパー (GK) が実際にダイビング動作によって対応した試技のシュート動作を対象に, GKがシュートの飛来する地点を予測する際に有用なキッカーやボールの動きについてバイオメカニクス的に検討することを目的とした. その結果, 右利きのキッカーが自身の左方向へシュートを行う際, 軸脚の足部や体幹の回旋角度が, 右方向へシュートする場合よりもより左方向へ向くことが明らかとなった. また, シュートがGKの近くまたは遠くに飛来するのかといったシュートの距離や飛来するシュートの高さについては, インパクト後のボールの軌道から素早く判断し, 対応しなければならないことが明らかとなった.

  • 板谷 厚, 小野 誠司, 木塚 朝博
    2020 年 25 巻 p. 33-44
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    本研究は, 男子大学野球部員20名を対象者とし, 盗塁をモデル化したスプリント走 (投手の投球動画を見て打者方向への投球だと判断した時点でスタートし10 mを全力疾走する) 24試技を実施した. スプリント走タイムとスタート時の投球方向予測の確信度をvisual analog scaleにて測定した. 各対象者のタイムと確信度は総じて負の相関関係にあり, 確信度が高いほどタイムは短縮する傾向にあった. したがって, 盗塁のような予測をともなうプレーは予測が外れ失敗するリスクはつきものだが, 判断に確信をもつことでパフォーマンスは向上し, 成功の可能性を高めることが示唆された.

  • 小野 誠司, 三浦 健一郎, 川村 卓, 木塚 朝博
    2020 年 25 巻 p. 45-54
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    実際のスポーツ場面では, 光点灯に対する反応だけではなく, ボールなど対象物の動きを捉える能力がパフォーマンスに大きな影響を及ぼしている. そこで本研究は, 球技系の競技者を対象として, 視標の動き (visual motion) に対する視覚認知能力と反応時間の特性を明らかにすることを目的とした. その結果, visual motion刺激に対する反応時間 (visual motion RT) は, 光点灯刺激を用いた反応時間 (光点灯RT) に比べ有意に大きい値を示した. さらに, visual motion RTと光点灯RTの差分を算出した値をvisual motion認知時間と定義し, 異なる被験者群 (球技群と非球技群) で比較すると, 群間に有意な差が認められた. このvisual motion認知時間は, 滑動性追跡眼球運動 (パーシュート) の加速度と有意な相関関係が認められたことから, 中枢神経系の視覚情報処理を反映する指標であると考えられ, 個々のvisual motionに対する認知能力の違いを評価するための有効な手段となり得ることが示唆された.

  • 岩間 圭祐, 小野 誠司, 木塚 朝博
    2020 年 25 巻 p. 55-65
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    ボールスポーツにおいて, 選手は眼球運動だけではなく頭部動作を組み合わせることで, 視線を移動させ視覚情報を獲得している. この眼球運動と頭部動作の組み合わせを 「視覚戦略」 と定義すると, 最適な視覚戦略を選択し実行することが, 正確な一致タイミングを遂行するためには重要であると推測される. 本研究では, 13名の女子大学生を被験者として, 高速で移動するボールに対してボタン押しで反応する一致タイミング課題を行った. 被験者の立ち位置は, ボールの移動方向に対して90 deg (垂直) および0 deg (正面) の2条件とした. また, ボールの速度は, SlowおよびFastの2条件とした. 課題中の被験者の視線はアイトラッカー (25 Hz) を用いて計測した. その結果, ボールの移動方向に対して90 degよりも0 degに立って一致タイミング課題を行ったときに, 一致タイミングの正確性が低下した. また, 90 degでは, 被験者はボールの速度に合わせて視覚戦略を変化させられると推察される.

2部 センサ・デバイス
  • 加藤 奏, 林 豊彦, 棚橋 重仁
    2020 年 25 巻 p. 69-79
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    近年, 重度肢体不自由者が支援機器を用いるときの入力法として, 視線入力が一般化してきている. 現在の視線入力のユーザインタフェースであるオンスクリーンキーボードは, パソコンに実装されている一般的な方法を踏襲しており, 必ずしも眼球運動の特性・視覚認知特性を考慮して設計されていない. そこで本研究では, 視線入力に適したインタフェース設計の基礎研究として, 現在一般的な視線入力法を用いた文字入力で生じる視線停留の 「場所・時間」 「入力キーからの相対位置」 を明らかにすることを目的とした. キー形状は円形と正方形の2つとし, キー形状ごとにキーボードの使用性に関してアンケート調査した. 視線停留は, その継続時間によって 「短時間停留」 「長時間停留」 「文字入力」 の3つに分類し, 区分ごとに発生率および原点を入力キーとする分布を調べた. その結果, インタフェースの使用性は, キー形状によらず低かった. 視線停留は, 長時間停留と文字入力が 「入力するキー」 「その周辺キー」 に集中し, 短時間停留がキーボード上の広範囲で発生した. 円形キーの場合, 長時間停留と文字入力はターゲットキー周辺の比較的狭い領域で発生する傾向がみられた.

  • 樋山 貴洋, 佐藤 佳州, 塩谷 真帆, 小澤 順, 小林 吉之
    2020 年 25 巻 p. 81-93
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    転倒リスクを高める最も大きな要因として下肢筋力の低下が報告されている. 下肢筋力を定量的に計測するためには大規模な装置を使用する必要があるため, 家庭で気軽に下肢筋力を計測することが困難である. そのため, 簡易でかつ日常生活動作から下肢筋力を計測することが望まれている. 本研究では, 日常的に行われている歩行動作に着目し, 歩行者に装着した6軸加速度・角速度センサの特徴的な信号を抽出した. さらに, 屋内外の歩行特徴量から, 下肢筋力と相関の高い特徴量について考察した. その結果, 屋内環境の歩行では足首の底屈・背屈で働く角速度, 屋外環境では左右方向の加速度の特徴量が多く選択され, 屋内外で下肢筋力と相関の高い特徴量が異なることを発見した.

3部 筋・腱・関節
  • 宮崎 輝光, 藤井 範久
    2020 年 25 巻 p. 97-111
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    本研究は, 走動作中遊脚期後半に着目し, ハムストリングス肉離れの受傷が多い近位部筋腱移行部に加わる剪断応力と筋腱の動態に関して, 大腿二頭筋長頭と半膜様筋間の違いを明らかにすることを目的とした. また, 起始点, 停止点, 腱の自然長, 筋線維の至適長, 至適長時の羽状角, および最大等尺性発揮張力が大腿二頭筋長頭と半膜様筋間の筋張力や筋腱移行部の剪断応力に及ぼす影響を検討した. 大腿二頭筋長頭は半膜様筋と比較して, 筋張力の最大値は有意に小さいが, 剪断応力の最大値および剪断応力が最大となる時点の筋腱伸長速度は有意に大きかった. 大腿二頭筋長頭と半膜様筋の筋張力と筋腱移行部の剪断応力に最も影響した構造は, 腱の自然長であった.

  • 若生 知宏, 田中 孝之, 島谷 康司, 栗田 雄一, 杉山 好美
    2020 年 25 巻 p. 113-124
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    腹圧性尿失禁は女性の典型的なQuality of Life (QOL) 疾患で, 咳やくしゃみをした際に腹圧が上昇することで予期しない尿漏れが生じるものである. 主に肥満や加齢, 出産による骨盤底筋 (PFM) の弛緩や損傷が原因とされており, 予防するためにはPFM強化が有効とされている. 既存のトレーニング方法として, Kegel体操などが提案されているが, トレーニング効果に個人差が存在するなどの問題がある. これを解決するために本研究では日常生活でとり得る11姿勢を定義し, 個人適合した筋骨格モデルを用いて各姿勢のPFM活動量計算を行うことで, 各個人に適したトレーニング姿勢を導出する方法を提案した. また各姿勢におけるPFM活動量の実測値と比較することで提案手法の評価を行った結果, 6名中3名の被験者で計算結果との正の相関が確認され, 本手法の妥当性が示唆された.

  • 王 森彤, 長谷 和徳, 片岡 亮人, 安藤 貴法, 藁科 秀樹
    2020 年 25 巻 p. 125-137
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    変形性膝関節症の治療リハビリテーションに膝装具が多く利用されている. 本研究では, 変形性膝関節症関節の有限要素モデルと歩行運動生成モデル, さらに膝装具のモデルを統合し, 膝装具の力学的機能の評価法を確立することを目的とした. 医療画像から膝関節有限要素モデルを構築し, 歩行運動生成モデルから得られる関節圧縮力を膝関節モデルの有限要素解析の境界条件とした. 3種類の膝装具を想定し, 装具の力学的な機能を大腿骨への外反, 回旋モーメントとして表し, これらも有限要素解析の境界条件として加え, 歩行中の3つの姿勢における半月板の接触圧力分布を調査した. その結果, 装具未装着時と比較し, いずれの装具においても内側半月板の接触圧力を低減させる効果があることが明らかになった.

  • 清水 新悟, 昆 恵介, 裴 艶玲, 大日方 五郎
    2020 年 25 巻 p. 139-148
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    正常足のアーチ機能は主に衝撃吸収と考えられているが, 低アーチ足と正常アーチ足との衝撃吸収機能の違いは明確にはされていない. そこで衝撃吸収機能の違いを明らかにするため, 低アーチ足と正常アーチ足の衝撃吸収特性をその機械的特性値によって定量的に比較する. 実験では正常アーチ足と低アーチ足に分類して, 測定結果からばね定数と荷重伝達を算出して検討した. 正常アーチ足に比べ, 低アーチ足はばねが固く, 下腿に印加された鉛直方向荷重の一部が大腿により支えられる傾向が明らかになった. 次に下腿への荷重印加時の応答の動特性を数学モデルにより表すことを試みた. 実験で得られた荷重応答特性から, ばね定数と整定時間を比較した結果, ばね定数では低アーチ足と正常アーチ足間で有意差がみられなかったが, 整定時間では有意に低アーチ足が大きい値を示した. 数学モデルとしては, 荷重応答の複雑さに配慮して, 慣性, 粘性と剛性からなる区分的線形動的モデルとした. 同定したモデルは, 下腿の荷重応答特性をよく近似する. モデルの動特性指標の比較によって, 正常アーチ足に対する低アーチ足の衝撃吸収特性の特徴が明らかになった. 個人の特性を捉えた同定モデルは, 低アーチ足の衝撃吸収特性を正常アーチ足に近づけるための足底挿板の設計の基礎を与える.

4部 歩行・立ち上がり
  • 金 承革, 柴田 昌和, 土田 将之, 栗田 泰成, 塚本 敏也
    2020 年 25 巻 p. 151-165
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    中殿筋は片脚立位保持や歩行において骨盤側方傾斜を制動して安定させる重要な筋である. 中殿筋の内部構造や筋出力や筋電波形特性を明確にすることは, 臨床での検査方法の適正改善や検査データのより良い解釈へつながり, ふらつきや転倒などの機能障害を改善・予防することに貢献できる. 肉眼解剖学的調査によって, 中殿筋内部には腱膜が存在し, 前部線維束と後部線維束に分かれることが明確になった. 股外転最大筋力発生時の筋断面積と筋電の測定では, 股伸展位で前部線維束が, 股屈曲位で後部線維束が主に寄与すると推測できるデータが観測された. 歩行中の中殿筋の両線維束の筋電位は, 被験者の個人特性があるが, 最大筋力発生時の特性を反映していた.

  • 万野 真伸, 小出 卓哉, 高濱 拓, 藤川 智彦
    2020 年 25 巻 p. 167-177
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    日常的な走行動作を可能にする足趾着地に着目し, その連続する足趾着地を安定させるための二関節筋の機構的機能とその運動効果を明らかにすることを試みた. ここでは, 動作筋電図学的解析により足趾着地の主働筋を明らかにし, その主働筋を考慮した実機モデルによる実験的解析を行った. 動作筋電図学的解析の結果より, 大腿部前面の二関節筋と後面の二関節筋 (拮抗二関節筋ペア) の活動を切り替える効果が着地中の体幹の安定性に大きく関与していることが明らかになり, この活動を切り替える効果が拮抗二関節筋ペアによる平行リンク化であることが推察された. これより, 下肢の二関節筋を平行リンクとした実機モデルを用いた実験的解析を行い, 拮抗二関節筋ペアの活動の切り替わりによる平行リンク化は足趾着地時の体幹の安定性に大きく関与しており, 走行時などに発生する重心変動に対して, 足趾に発生する出力方向の調整に大きく貢献していることが明らかとなった.

  • 長谷 和徳, 的場 斗吾, 吉川 輝, 金 承革
    2020 年 25 巻 p. 179-193
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    神経系の障害である痙縮の発生メカニズムは必ずしも明確ではない. 本研究の目的は痙縮の特徴を再現する神経筋骨格モデルを構築し, その生体力学的特徴を明らかにすることである. ここでは2つのモデル, ひとつは座位姿勢で膝関節1自由度のみをもち, ペンドラムテストを模擬したモデル, もうひとつは全身筋骨格系を考慮し, 3次元の歩行運動を行うモデルをそれぞれ構築した. 痙縮モデルとして伸張反射における筋紡錘の感度特性変化や筋の弾性特性変化を考慮した. これらのモデルにより痙縮の特徴的な筋緊張などを表現することができた. さらに, 選択的後根切除術などの治療リハビリテーション過程についてもモデル化し, その効果を模擬できることを示した.

  • 齋藤 早紀子, 牛房 奈菜子, 堺 碧媛, 近藤 恵, 小林 吉之
    2020 年 25 巻 p. 195-209
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/07/16
    ジャーナル フリー

    本研究は, 美しい歩行の特徴を明らかにすることを目的とし, 2つの観点から実験を行った. はじめに, 美しく歩いていると考えられる審美系の活動者を対象にその歩行特徴を, 運動学的観点から検討した (実験1). しかしながら, こうした動作が本当に美しいと評価されるかは不明である. そこで次に, 一般男女に一般人の歩行動画を審美性の観点で評価させ, その観点と相関のある歩行特徴を明らかにした (実験2). 実験1の審美系の活動者および実験2で審美性の高かった歩行に共通する特徴として, 骨盤の前傾角度が大きい, 体幹の伸展角度が大きい, 立脚期に膝の屈曲角度が小さい, という3点が確認された.

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