性別職域分離研究では、その構造の不均衡な変化を捉えることが近年の研究課題である。そうした中、サーベイ実験を用いた採用担当者に対する調査では、個人の生産性と別に応募者の性別が職業適性評価に影響するか分析することで、ジェンダーステレオタイプの存在を解明しようとしてきた。ここでの知見に基づき、本稿では一般大衆を調査対象として、職業適性評価における性差を検討した。架空の人物のプロフィールを回答者に提示し、ヴィネットカードに書かれた性別によって職業適性評価が異なるのか分析を行った。その結果、男性比率の高い男性占有専門職ではヴィネットの性別による評価の違いはないが、同じく男性比率の高い男性占有ブルーカラー職、男性占有保安職では、女性回答者が女性ヴィネットを過小評価し、また女性占有職では、男性回答者が男性ヴィネットを過小評価していた。これらの結果、性別職域分離が弱まっている職域である男性占有専門職ではジェンダーステレオタイプな評価が減じていることが示唆される。
地域若者サポートステーション(以下、サポステ)では、来所する若者の多様性が認識されているが、支援対象者の視点から議論がなされておらず、提供できる支援内容に制限がある。本研究の目的は、サポステにおける支援プロセスと調査協力者の内的変容を可視化することと、就労への行動の促進要因と阻害要因を整理することの2点である。サポステ利用者4名を対象にインタビューを行い、複線径路・等至性アプローチを用い分析を行った。その結果、支援プロセスは多様であり、就労への意味づけ、及びサポステに対する価値観が変容したことが明らかになった。また、阻害要因として、学校や家庭での負の経験、主体性の乏しさ、就労へのプレッシャーが、促進要因として、遊び的な活動、偶有性が示された。今後、支援対象者の理解促進に資する支援者の育成と支援対象者の主体性を高める支援が求められることを提示した。
本研究では歯科衛生士の就業継続の要因を、質的調査を通じて明らかにした。歯科衛生士の大半は女性であり、結婚や出産、育児を理由とした退職の多い職業である。女性活躍推進やその社会的背景、歯科衛生士の業務内容や役割、そして専門性の観点から先行研究のレビューを行った。質的データを用いたSCAT分析の結果、長期的な就業継続を難しくする2つの要因が明らかになった。第一に、歯科衛生士という職業の準専門性や性別に関するステレオタイプが専門性の修得を阻害している。第二に、ライフイベントをきっかけに離職し、その後も仕事と家庭の葛藤を回避できる家庭優先の働き方を選択しやすい。結果として、労働条件を優先することで専門性を活かす機会が減り、長期的な就業継続が困難となりやすい。以上の発見を通じて、歯科衛生士の専門性を阻害しない就業環境の整備や、歯科衛生士業務に対するステレオタイプの見直しが必要である点が示唆された。
仕事やキャリアに関して気になることを有する者は多く、それを「悩み」と捉える者も多い。これは、人材確保や生産性向上などといった問題を抱える企業にとっても対処すべき課題だが、悩みといってもさまざまなものがあり、個人による差もある。本稿では、本人の認知をもとに、悩みの改善に役に立つ対処とはどのようなものか、悩みの改善が不得手な者にとって役に立つ対処とは何かを探った。Web調査の結果、「悩み」と捉えた者の約3割が改善していた。また、年齢が若いほど「悩み」を改善しやすいこと、悩みの内容が「わからない」、「不安」だと改善しにくいことがわかった。また、問題焦点型コーピング、受容のほか、問題を整理し、かつ、何もしない「やり過ごし」には改善効果があることがわかった。このほか、心理的資本の高低で有効な対処方法が異なり、高い者では問題焦点型コーピングや「やり過ごし」、低い者では相談が有効であることなどがわかった。
本研究では、職場内でのフィードバック探索行動が職務能力の伸長に与える影響過程として、経験の振り返りを媒介するという仮説モデルを再検証すること、さらに、媒介分析の各変数間の関連の強さは、動機によってその効果が調整される可能性について検証することを目的とする。WEBアンケートを実施し、4企業の役職のない正規の成員476名から回答を得た。調査項目は、フィードバック探索行動、フィードバック探索行動を求める動機、経験の振り返り、職務能力の伸長である。本研究の結果から、フィードバック探索行動は、職務能力の伸長を有意に説明するだけでなく、経験の振り返りを部分媒介していることが再確認できた。さらに、この影響過程は、フィードバック探索行動を行う動機の内容ではなく、動機の高さによって異なり、自ら積極的にフィードバックを求める行動は、経験の振り返りに結び付きやすく、結果として職務能力の伸長に結びついていると示唆された。
本研究の目的は、キャリア教育の観点から発達障害学生を対象とした初年次教育プログラムの必要性について明らかにすることである。卒業(見込み)の発達障害学生5名を対象に、1)「障がい学生支援センターの活用」、2)「授業の履修方法、計画、サポート」、3)「体調管理」、4)「相談できる人や体制」、5)「自己理解(特性理解)」の各項目について、入学前と卒業時でどのように捉えていたかを半構造化面接法にてインタビュー調査した。インタビューの逐語録を基に定性分析をした結果、各項目の『大学入学前に感じた重要度』が低く、大学生活を漠然と捉えており、質的分析の結果から12のカテゴリーと35個の語りが抽出された。また、各項目の『大学生活を振り返っての重要度』は高く、質的分析の結果から12のカテゴリーと38個の語りが抽出された。以上の結果から、発達障害学生の入学前および入学直後のニーズが把握でき、これらの項目は今後のプログラム開発で活用できる内容であることが示唆された。
専門学校学生のキャリア発達を促すには、専門的スキルを活かしながらコミュニケーションスキルを高めるような支援が求められる。本研究では地域小学校でダンス講師を務める教授体験プログラムへの参加プロセスを事例として他者との相互作用に着目し、共同体感覚、自己成長主導性、コミュニケーションスキルを指標に事前・事後調査を行った。その結果、3点の示唆を得た。1)共同体感覚の「自己受容」「貢献感」は、自己成長主導性を介してコミュニケーションスキルに影響を及ぼす、2)「自己受容」と自己成長主導性の関連が参加に至る心理的プロセスに影響する、3)プログラムへの参加は共同体感覚の「所属感・信頼感」に影響を及ぼす可能性が示唆された。
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