全盲にアパシーが合併するとリハビリは困難になると予測されるが,具体的な症例報告は本邦では認めない。われわれは,下垂体腺腫により全盲に加え,アパシーを呈した30代男性の症例に対して,認知リハビリテーションを約2年間に亘って実施した。本症例に対して,行動目標を外的に定めたスケジュールを基にした枠組みを作り,病院以外にも家族および視覚障害者通所施設と連携する環境調整を行い,一貫したリハビリテーションを実施した。その結果,枠組みを基にした生活の自立が可能となった。しかし,一人暮らしでの外的な枠組みがない生活を開始したところ,生活はすぐに破たんした。本症例からアパシーに対するリハビリテーションとして,枠組みを敷いた訓練と環境調整の有効性が示唆された。
右被殻から前頭葉にかけての損傷により,基本的視知覚障害,全般性注意障害,左半側無視,ワーキングメモリ障害,長期記憶障害に加えて,重複性記憶錯誤を呈した症例を経験した。本症例は,視空間認知障害と場所の既知感低下から,場所の重複性記憶錯誤へと発展し,その重複現象は所有物へも広がった。認知リハビリテーションとしては,主に全般性注意障害と左半側無視に対する認知訓練を行い,また重複性記憶錯誤にも介入した。その結果,重複現象に対して自ら矛盾を感じるようになるという効果が得られた。発症後2年8ヵ月には,重複性記憶錯誤は消失した。重複現象の矛盾への気付きと重複を言語的に打ち消していく過程が,異常な重複現象の消失に関連している可能性が示唆された。
両側前頭葉内側面および外側面から左側頭葉前方の外傷性脳損傷により,著しい自発性欠如に加えて,注意障害,言語性記憶障害,遂行機能障害,意思決定の困難を呈した症例に対し,約10ヵ月という長期に及ぶ認知リハビリテーションを実施した。日常生活動作(以下ADL)訓練から生活へ,規則正しい院内生活から自宅への生活へといった段階づけ戦略を用いた訓練方法,さらには,決められた枠組みを提示したうえでメモリーノートなど症例の機能障害への対策を講じたこと,そして生活環境を整えることが,自発性欠如の改善に有用であり,この取り組みにより,本例ではADLおよび決められた日課や家事が自発的に行えるようになるという改善を認めた。
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