認知リハビリテーション
Online ISSN : 2436-4223
18 巻, 1 号
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特別寄稿
原著
  • 小林 希代江, 池尻 義隆, 當間 圭一郎, 宇高 不可思, 大東 祥孝
    2013 年 18 巻 1 号 p. 10-18
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/05/26
    ジャーナル オープンアクセス

    低血糖脳症の影響と考えられる両側脳梁膨大部周辺の病変により,特徴的な視覚異常を呈した1例を経験した。日常的には,「相手の左眼が閉じていたり,左目あたりに髪がかかっているような気がする。すぐに違和感は消えるが,その人が瞬きをしたり,ふと動くと,その前後で人が変わった気がする。メールの文字やデジタル時計の時間が瞬時にわからない」といった見え方の異常を訴えた。机上検査やタキスト検査では,文字は左側を,図形や線は右側を見落とす傾向が見られるなど,視覚対象の違いにより,見え方の異常に左右差がみられた。左右視野から入力される視覚情報が,左右どちらかの半球において統合される段階で,何らかの問題が生じている可能性が考えられた。通常,脳梁離断患者においては,閾値下の認知はタキスト検査でのみ異常を呈するが,本症例においては,日常的に認知異常が意識下されている点が特徴的であった。

  • ─パソコン使用とドリル使用の比較─
    南 千尋, 松林 潤, 俵 あゆみ, 納谷 敦夫, 三谷 章
    2013 年 18 巻 1 号 p. 19-28
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/05/26
    ジャーナル オープンアクセス

    慢性期の高次脳機能障害患者に対するパーソナルコンピュータ(以下,PC)を用いた注意トレーニングの有用性を検証するために,患者22名を,PCを用いたトレーニングを先行する群と従来からのドリルを用いた注意トレーニングを先行する群に分け,2ヵ月(全8回)の期間の後にトレーニング方法を入れ替え,全体で4ヵ月の介入を行った。効果測定には,神経心理学的検査,ADLおよび行動評価,主観的評価指標を用いた。結果,2種の介入が終了した後に認知機能評価,ADLおよび行動評価指標の成績で有意に改善した項目があった。また,PCを用いた注意トレーニング後にFIM・FAM認知項目では,「問題解決」「障害適応」「表出」の項目が,行動評価では,「発動性」「易疲労性」の項目の数値が有意に改善した。PCの起動,メニューの選択,後片づけまで含めた内容や,フィードバックの豊富さが患者の行動面により良く影響したのではないかと考えられた。

  • ─回復期病棟における検討─
    大石 斐子, 齋藤 玲子, 小田柿 誠二, 補永 薫, 立石 雅子
    2013 年 18 巻 1 号 p. 29-37
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/05/26
    ジャーナル オープンアクセス

    回復期リハビリテーション病棟にてメモリーノート訓練を実施し,活用の成否に関わる要因について神経心理学的検査と独自に作成したメモリーノートの使用に関する評価を用いて検討した。訓練は,ノートの使用方法を学習する机上訓練と,病棟生活における活用を促す実用訓練を行った。メモリーノートを習得し,スケジュール管理を自発的に行えるようになった自立群(9名)と,訓練終了時に援助が必要であった非自立群(10名)を比較すると,知的機能,「情動」,「受容性」は両群ともに導入時より良好であった。記憶障害を含む高次脳機能障害は,自立群が非自立群よりも軽度である傾向にあった。また,自立群のほうが非自立群よりも,記憶障害に対する「モニタリング能力」とメモリーノート使用の「動機づけ」が高かった。これらの条件が備わっている症例には,回復期リハビリにおいても代償手段の訓練を実施することの有効性があると考えられた。

  • 松岡 恵子, 山川 百合子, 小谷 泉, 金 吉晴
    2013 年 18 巻 1 号 p. 38-49
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/05/26
    ジャーナル オープンアクセス

    地域に住む成人の高次脳機能障害者10名を対象とし,自らの障害についてどの要素が語られやすく,どの要素が語られにくいのかを定量化により検討した。その結果,「罹患受傷状況」「仕事上の変化」「他人に行いたいリハビリテーション」はよく語られ,「認知面の変化」「家族の変化」「いまいちだったリハビリテーション」はあまり語られなかった。「脳の障害部位」「仕事上の変化」をよく語ることはMMSEの見当識と有意な相関を示し,「罹患受傷状況」「脳の障害部位」をよく語ることはCIQ総得点と有意な相関を示した。これらの結果から,語られやすいのは自らの障害の知識面や目に見えやすい変化であり,障害についてのそのような語りは見当識機能と関連していると考えられた。

  • 大森 智裕, 穴水 幸子, 加藤 元一郎, 谷合 信一, 三木 啓全
    2013 年 18 巻 1 号 p. 50-59
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/05/26
    ジャーナル オープンアクセス

    重度の前脳基底部健忘症例に対して,訓練場面における自己の活動動画を,訓練後に視聴させるという方法を用いた認知リハビリテーションを試みた。症例は64歳女性。前交通動脈瘤破裂後のくも膜下出血を認め,著明な失見当識,病識欠如,前向性および逆向性健忘を認めた。頭部CT画像では,前脳基底部,左前頭葉眼窩面,左前頭葉腹内側皮質下に損傷を認めた。訓練は,パソコンを用いた視聴訓練を主とした。視聴させる内容は,季節に関するイベントをその時季に応じた画像や音楽で提示する前半部(reality orientation)とケースのリハビリ訓練場面の自己活動動画である後半部(self-awareness movie)から成る。認知リハビリテーションの結果,見当識,前向性記憶,病識の改善を認め,病棟生活上の行動も安定した。その経過から,自己の訓練動画の視聴が,健忘症状に対する病識向上に寄与した可能性が考えられた。「reality orientation & self-awareness movie」視聴訓練は,記憶障害に対する直接的なアプローチとなる可能性が示唆された。

  • 藤永 直美, 村松 太郎, 三村 將, 加藤 元一郎
    2013 年 18 巻 1 号 p. 60-68
    発行日: 2013年
    公開日: 2022/05/26
    ジャーナル オープンアクセス

    側頭葉てんかん術後に,長期の逆向性健忘と人物の意味記憶障害を呈した1例を報告し,その症候と神経心理学的機序について検討した。症例は26歳の右利き男性。過去2回のてんかん術により脳を部分的に切除され,2回目の術後に逆向性健忘(Retrograde amnesia ; RA)と意味記憶障害,音感異常や共感覚症状が出現した。症例のRA内では,社会的事件や個人的意味記憶は比較的良好な半面,自伝的記憶が術前10 年以上も失われていた。さらに,有名人を含めた人の顔・名前などの意味情報も失われており,人物の意味記憶障害が重篤であった。加えて,植物を中心とした生物カテゴリーおよび有名固有建築物についての意味記憶障害も軽度に認められた。一方,症例は前向性記憶に大きな問題を認めず,症候は孤立性逆向性健忘(Focal RA)と考えられた。MRIでは,海馬を含む両側側頭葉内側部と左側頭葉前部に損傷を認め,また,右側頭葉下部・底面に前部から後部にわたる広範な損傷を認めた。海馬を含む両側側頭葉内側部と右側頭葉前方部の損傷は自伝的記憶の障害の出現に関与し,一方,人と物の意味記憶障害には右側および左側の側頭葉前方部の損傷が強く関与すると考えられた。

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