ブレイン・マシン・インターフェース(BMI)は脳機能の一部と機械を融合させ,障害を低減するための技術である。われわれは2008年より開始された文部科学省脳科学研究戦略推進プログラムの中で非侵襲型BMIを臨床実証する中核拠点として,脳波BMIによるインターネット上仮想空間セカンド・ライフ内のアバターの制御および上肢電動装具の制御が可能な機能代償型BMIを開発し,臨床例で実証してきた。さらに,重度片麻痺例の上肢をターゲットとした機能回復型(治療型)BMIの開発に着手し,BMIニューロフィードバックトレーニングにより随意筋電の誘導や脳の可塑的変化の誘導が可能なことを示してきた。今後は,症例をさらに積み重ねていくとともに,脳機能イメージングおよび電気生理学的手法を用いて,可塑性誘導のメカニズムを解明していく予定である。
慢性期の高次脳機能障害症例に対するグループ訓練を,我々は精神科デイケアの形態をとり実践している。精神科デイケアの形態をとることの利点は,①長時間のグループ訓練ができるので認知的課題に加えて対人交流や社会的適応を目的とした多彩な課題が行えること,②実生活の中で生じている問題点をスタッフが把握しやすいので適切な治療戦略が検討できることの2点であった。当院のデイケアに参加した症例の原因疾患は,脳外傷が最も多かった。この脳外傷の症例について,心理面の評価を行った結果,有意な改善がみられ,認知機能の一部にも改善がみられた。高次脳機能障害を持つ慢性期の脳外傷症例にとって,精神科デイケアの形態をとったグループ訓練は有用である可能性がある。
原因不明の非ヘルペス性脳炎後に重篤な健忘症候群を呈した30歳代女性の症例に対して認知リハビリテーションを長期的に実施した。その過程を,神経心理学的所見の変化を含めて報告する。症例は記憶障害のみならず病識欠如と自発性低下を伴い,発症後1年半の間は日常行動や認知リハビリテーションが困難な状態が続いた。しかし環境の変化をひとつの契機として自発性の向上がみられ,記憶障害も自覚するようになった。さらに発症後2年以上経過した時期からは,認知リハビリテーションにも積極的に取り組み始め,エピソード記憶も徐々に改善し,代償的手段も利用できるようになった。日常記憶チェックリストでは,本人の評価が経過を通して一貫しているのに対して,家族の客観的評価では改善がみられた。発症後4年において,健忘症状と病識に問題は残すものの,自発性の向上は明らかに認められ,記憶障害に対する代償的手段の利用も良好なレベルに至った。
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