ヒトの音声言語の起源を検討する基礎資料として,系統的に最も近いチンパンジーの聴覚と音声の機能を次の7点から検討した。1.聴感度と弁別閾,2.音声知覚,3.母音的音声grunt の発声,4.聴覚認知,5.発声訓練,6.音声発達,7.母子音声交換。
チンパンジーはW字型の聴感度を持ち,周波数,強度分解能はヒトよりも劣っていた。かれらは音声の低い周波数成分を手がかりに知覚していた。かれらは[u], [o] [a]と聞こえる音声grunt を出した。視覚―聴覚見本合わせの獲得は難しいが可能だった。しかし,名前を理解している証拠は得られなかった。なお,かれらは音声による個体識別の能力は例外的に優れていた。かれらの音声は自発性が乏しく,可塑性が小さかった。訓練で音声の頻度を変化させることは可能だった。訓練の効果は母子間の音声交換にあらわれ,訓練を受けた個体のみが頻繁に自分の子どもと音声交換を行った。
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