認知リハビリテーション
Online ISSN : 2436-4223
16 巻, 1 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
特別寄稿
  • 福澤 一吉
    2011 年 16 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/09/02
    ジャーナル オープンアクセス

    学術論文には一般に①問題提起,②仮説(問題提起に対する暫定的答え),③仮説の検証(論証をベースとする)の3点が含まれる。問題提起は何らかの事象(患者の示す臨床的症状など)を対象として疑問から始まる。疑問には大きく分類して実態調査タイプの疑問(何々はどうなっているのだろう)と,仮説検証タイプの疑問(なぜ,何々は何々なのであろう)の二つが想定できる。前者の疑問には実態を調査することにより解答が得られるが,後者の答えは実態調査からだけでは解答が得られない。すなわち,仮説検証タイプの答えはあらかじめその答えを仮説という形で提示しておく必要がある。言い方を変えるなら,問題提起に含まれる疑問は仮説によって暫定的にでも答えられる疑問になっている必要がある。仮説の内容は可能なかぎり新規なものである必要があり,その仮説内容に関連する先行研究の吟味が仮説形成に重要となる。また,仮説の正否を判断するには仮説内容を実験,観察,調査などにより検証する必要がある。仮説として主張している内容を裏付けるのは実験,観察,調査などにより得られる経験的事実としてのデータであるが,これだけでは不十分である。データと主張なり結論をつなげるためにはその理由づけとしての論拠(理論的背景,実験補助仮定など)が必要となる。

レビュー
  • 昼田 源四郎
    2011 年 16 巻 1 号 p. 8-14
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/09/02
    ジャーナル オープンアクセス

    現在,ADHDに対して実施されている薬物療法は,対症的には有効だが根治的な治療効果はないとされる。そのためADHDに有効な認知リハビリテーション(以下,認知リハ)を開発し,脳のレジリエンスが期待できる小児期から薬物療法と併用することで,より根治的な治療ができないかと期待している。臨床実践に向けた準備作業として,本稿ではADHDに対する認知リハの文献を収集し,その「治療効果」を中心にレビューした。1)ニューロフィードバック(NF)は脳波を利用した訓練プログラムだが,ADHDの3症状である不注意,多動性,衝動性を軽減させる効果があるとする報告が多い。ADHDの2)注意機能や3)衝動性に対して認知リハが有効だったとする研究報告は多く,4)ワーキングメモリ障害に対しても認知リハが有効だとする報告があった。ADHDにおける5)遂行機能障害に関しては,一次障害なのか不注意や衝動性に随伴する二次障害なのか今日なお議論があり,ADHDの遂行機能に対する認知リハを扱った論文は見つからなかった。

原著
  • ― self awareness の向上を目指して―
    石丸 敦彦, 穴水 幸子, 藤森 秀子, 坂本 里佳, 栗林 環, 三村 將
    2011 年 16 巻 1 号 p. 15-24
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/09/02
    ジャーナル オープンアクセス

    症例は42歳男性。PCR陽性にてヘルペス脳炎と診断され入院。重度前向性・逆向性健忘(約20年間),見当識障害,病識低下,15歳から20代初旬の時期についての誇大的自発作話が目立った。MRI,SPECT画像にて病変は,右側に強い両側頭葉内側部・前頭葉眼窩面を含む広範囲と,前脳基底部に及んでいた。神経心理学的検査で記憶障害および注意障害を認めた。認知リハビリテーションは,病棟とリハビリテーション場面において,病棟環境調整という点を重視した一種のReality Orientation 法(RO法)と段階的なメモリーファイル使用訓練を実施した。結果,見当識や病識に改善を認め,自伝的記憶における誇大的自発作話を含む精神症状も改善した。また,行動的側面の改善も認めた。神経心理学的検査では,重度の記憶障害は残存するが,注意機能は改善した。注意機能の改善は,意欲と自発性の向上と関係する可能性が示唆された。本症例への一連の認知リハビリテーションはself awareness 自己意識を上げたと考える。

  • 鈴木 公洋, 辻尾 厚司, 小渕 恭輔, 中村 昌司, 今井 智弘
    2011 年 16 巻 1 号 p. 25-34
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/09/02
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では,受傷後3年6ヵ月(慢性期)と6ヵ月(回復期)の意識障害患者を対象とし,脳活動モニタリングによる認知機能評価と認知リハビリテーションの開発について検討した。まず,背面開放座位がとられ,患者の覚醒水準の上昇を確認した後,刺激が提示された。目視と脳活動計測機器により,患者の覚醒水準と認知活動を確認していく方法がとられた。刺激は,患者の反応を確認しながら,探索的に提示していく方法がとられた。その結果,認知リハビリテーションについては,患者の趣味・嗜好(特に受傷時からあまり遡らない時期の)にかかわる刺激が,有効に認知活動を賦活させる可能性が高いことが示された。これは,認知リハビリテーションを有効に施行する上で,患者の記憶機能が大きな役割を担っていることを示唆するものと考えられる。脳活動モニタリングについては,その有効性が示され,リハビリテーション内容についての比較の可能性も示された。

  • ― 病識の改善について―
    中川 良尚, 佐野 洋子, 船山 道隆, 加藤 元一郎, 加藤 正弘
    2011 年 16 巻 1 号 p. 35-44
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/09/02
    ジャーナル オープンアクセス

    EBウイルス脳炎後に記憶障害と病識欠如を呈した30代男性の症例に対して,認知リハビリテーションを約6年にわたり長期的に実施した。その経過を,神経心理学所見の変化と内省という観点から報告する。初期から記憶への依存度が低い思考力等は良好であったが,前向・逆向性健忘および病識の欠如は重篤で,周囲との関係が悪化してしまう傾向にあった。このため発症から11ヵ月時にはレントゲン技師としての現職復帰は困難,家庭内でも不和が生じる状態であった。その後はWMS-R等では回復を示すも,病識は乏しいままで推移したが,メモリーノートやメモリアシストといった外的補助手段の定着,さらにパソコン上の日記における過去の記録の検索など外的補助手段の活用,日常生活上の失敗体験による気づきの積み重ねにて徐々に病識の改善が促進され,日常生活を送る上では大きな支障がない程度に改善した。

  • 小山 祐見子, 安本 美帆子
    2011 年 16 巻 1 号 p. 45-54
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/09/02
    ジャーナル オープンアクセス

    継続的な認知リハビリテーションの実施で,高次脳機能障害は長期にわたって回復が期待できるとされている。しかし,実際には医療報酬や人員,設備等の問題から慢性期の患者に十分関われるだけの余裕が医療側にない。他方,患者側にしても急性期ほどのリハビリテーション(以下リハ)への意欲や期待は失われているように思われる。本症例は7歳時に崖から転落して広範に脳を損傷した18歳の女性である。養護学校卒業までは小児専門リハ施設に並行して通っていた。年齢制限によりその施設でのリハが終了となったことから当院での外来リハが開始となった。初期評価において注意障害,記憶障害,失語が認められたため,注意訓練を基盤にした高次脳機能障害へのアプローチを1年間実施した。リハ後は注意,記憶,言語能力に改善がみられ,行動観察上も変化を認めた。このことから系統的な認知リハを継続する意義と慢性期の患者の改善への可能性が確認された。

  • 田中 楓, 原 寛美, 村山 幸照, 貝梅 由恵, 渡部 宏幸
    2011 年 16 巻 1 号 p. 55-61
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/09/02
    ジャーナル オープンアクセス

    右頭頂葉皮質下出血により,道順障害,構成障害,失算,失書を呈したが,実際の地図を用いた心的回転の課題と地図と自己の位置の同定に対する直接的な訓練を実施し,新規の場所への車での移動が可能となり現職復帰へつながった右利き(父親が左利き)の症例を経験した。本症例の神経心理学的特性や訓練場面より,心的回転能力が認知地図の構築,活用の役割の一部を担い,方角定位の一部を代償しうる能力である可能性が推察された。また,直接的な訓練により,領域特異的な視覚情報処理過程の強化学習が行われた可能性も示唆された。

  • 俵 あゆみ, 南 千尋, 新藤 千夏, 蜂谷 敦子, 納谷 敦夫
    2011 年 16 巻 1 号 p. 62-70
    発行日: 2011年
    公開日: 2023/09/02
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    高次脳機能障害者のグループで展望記憶訓練を実施した。参加者を展望記憶能力Prospective Memory Ability(以下PMA)の観点から3群に分類した。PMA重度障害をⅠ群,中等度障害をⅡ群,軽度障害をⅢ群とし,認知機能,ADL,メモリーノート活用度を3群で比較した。Ⅰ群は,MMSE,BADS「修正6要素」,FAM,メモリーノートの活用度がⅡ群に比べ有意に低く,Ⅱ群は,RBMT,RBMT「持ち物」,BADS「修正6要素」,FIM認知,FAMの成績がⅢ群よりも有意に低かった。RCPMとRBMT「用件」は,3群間で有意差がなかった。展望記憶課題の誤反応では,Ⅰ群は内容想起,Ⅱ群は存在想起の誤りが多かった。以上よりⅠ群は事象ベース課題からはじめ記銘を強化すること,Ⅱ,Ⅲ群は時間ベース課題で訓練し,自己洞察を高めメモリーノートや補助器具の活用を促すことなどが重要であると考えた。

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