この論文はマウス上顎切歯歯胚部を構成する内エナメル上皮細胞と前象牙芽細胞の細胞周期内移行をヒドロキシ尿素により同調し更に細胞周期の種々の相における放射線感受性の変動について述べたものである. 歯胚細胞はDNA合成阻害剤であるヒドロキシ尿素を腹腔内に3回 (第1回目1mg/g体重, 第2, 3回目0.5mg/g体重) 6時間間隔で注射することにより細胞周期内を部分同調的に移行させることができた.
すなわち最後のヒドロキシ尿素注射後, 経時的に三重水素サイミジンを注射し30分後に切歯を摘出してオートラジオグラフ上における内エナメル上皮細胞と前象牙芽細胞の標識細胞百分率, 分裂細胞百分率を観察すると内エナメル上皮細胞では2時間目迄はDNA合成期 (S期) の細胞はほとんど認められずその後いつせいにDNA合成を開始し6時間目に極大値に達しやがて減少し22時間目に第2の極大値を示した. 前象牙芽細胞では1時間目まではほとんどS期の細胞は認められず, 10時間目に第1回目の極大値が認められたが第2回目の極大値は判然としなかつた.
一方分裂細胞は内エナメル上皮細胞で6時間目, 前象牙芽細胞で8時間目まで全く認められず, 分裂細胞百分率は内エナメル上皮細胞では10時間目に第1回目の極大値が認められ, 26時間目に第2回目の極大値が認められた. また前象牙芽細胞では14時間目に第1回目極大値が認められたが第2回目の極大値は判然としなかつた.
細胞周期の各相にある細胞集団の放射線感受性変動についての検索は最後のヒドロキシ尿素注射から種々な時間に照射し, 照射した時歯胚部に存在した内エナメル上皮細胞数を照射後10日目にオートラジオグラフを作製して観察する事によつて行つた. その結果, DNA合成準備期後期 (G
1後期), 細胞分裂準備期 (G
2期), DNA合成準備期中後期 (G
1中後期) におけるX線照射に対して高感受性を示し, S期におけるX線照射には明らかに抵抗性を示した.
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