日本地質学会学術大会講演要旨
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GG-9. ジェネラル サブセッション地球化学
  • 稲場 土誌典, 森田 宜史
    セッションID: G9-O-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    ブラウズ堆積盆地(Browse Basin)はオーストラリアの北西大陸棚に約14万平方キロメートルに渡って分布し,層厚15000mを超える古生界~新生界を堆積させている。2000年,ここでINPEXはイクシスガス・コンデンセート田を発見した。中部ジュラ系と下部白亜系の砂岩貯留層から産出する可燃性天然ガスは,濃度にして10%程度の二酸化炭素を伴っている。

    二酸化炭素は,可燃性成分にとって燃焼しない不要物であるとともに,環境面からは温室効果ガスとして問題視されている。もし探鉱に臨む時点で二酸化炭素が含有されると予想できるならば,探鉱の対象候補の中から二酸化炭素に乏しいことが期待できる地域のほうを優先するという選択肢が現れる。

    ところが,ブラウズ堆積盆地では実測値の数が十分とは言えないため,実測された二酸化炭素の濃度のみからその濃度が低い地域を特定することは困難であった。そこで先ず産出された二酸化炭素の成因を考察し,それから堆積盆地の中で大局的な濃度の水準とその変化を推定することにした。二酸化炭素は有機起源(可燃性成分と同じ有機物の熱分解に由来)と無機起源(炭酸塩鉱物の熱分解やマグマに由来)に大別される。このような二酸化炭素の起源は,その炭素同位体組成と,ヘリウムのような共存する希ガスの同位体組成とを組み合わせて議論される。イクシスガス・コンデンセート田とその周辺で採取したガス5試料では,二酸化炭素の濃度は8.58%~16.34%(中央値10.24%),その炭素同位体組成δ13CCO2は-1.8‰~+0.3‰(中央値-0.6‰)であった。ヘリウムの同位体組成R/Ra比は0.48~0.80(中央値0.70,3He/4He比では6.6×10-7~1.1×10-6で中央値9.7×10-7)であった。Huang et al. (2015) に従うと,分析した5試料はすべて炭酸塩鉱物の熱分解に由来する二酸化炭素(Group B)に分類された。

    ブラウズ堆積盆地において,主要な貯留層よりも下位の層準ではペルム系と三畳系に炭酸塩岩が含まれている。現時点までで把握されているこれらの炭酸塩岩の分布と被熱温度からすると,ブラウズ堆積盆地の天然ガスで,これまでの実測値を著しく超えるような高濃度の二酸化炭素が現れる可能性は低いと予想された。石油と二酸化炭素は,同じ堆積盆地の中でも生成・移動・集積のタイミングが異なることがある。その一方で,移動経路や集積場所は共通することがあるため,同じ貯留層に混ざり合って集積することがある。このような場合の二酸化炭素の濃度の水準を推定するためには,石油と二酸化炭素の成因や生成・移動・集積のタイミングを個別に考察した後に,両者を突き合わせて追加考察することが鍵になると考える。

    引用文献

    Huang, B., Tian, H., Huang, H., Yang, J., Xiao, X., and Li, L., 2015: Origin and accumulation of CO2 and its natural displacement of oils in the continental margin basins, northern South China Sea. American Association of Petroleum Geologists Bulletin, 99(7), 1349-1369.

  • 林 圭一, 大森 一人, 鈴木 隆広, 坂上 寛敏, 實﨑 颯太
    セッションID: G9-O-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    北海道には数多くの温泉が各地に分布しており,その数は約2200源泉にのぼる.温泉は,起源や生成過程などの地質学的な背景により様々な性質(溶存成分,温度など)を持つが,その中にはガスを伴って湧出するものもある.温泉に伴って湧出するガスの主要成分の多くは,窒素や二酸化炭素であるが,平野部や堆積岩分布域の温泉にはメタンなどの可燃性天然ガス,火山近傍の温泉には硫化水素などの火山性ガスが含まれることがある.

     これらのうち,特にメタンなどの可燃性天然ガスを含むもの(以下、「温泉付随ガス」)は,未利用の地域資源とみなすことができ,近年の化石燃料資源の価格高騰などを背景に,各地で利活用が検討されている.しかし,「温泉付随ガス」は,源泉周辺で温泉と分離し,大気放散されているため,利活用の検討に必要な情報(ガス組成,湧出量など)がほとんど知られていない.そこで,本研究では,「温泉付随ガス」の利活用を検討するための基礎情報として,道内の「温泉付随ガス」の湧出する52源泉および4ガス井について,「温泉付随ガス」中のメタン濃度を測定するとともに,起源や地質学的背景について検討を行った.

     「温泉付随ガス」を伴う温泉は,主要溶存成分としてNa+,Clを含むナトリウム-塩化物泉であるが,一部でHCO3 の濃度が高いものもみられた.また,温泉の水素・酸素同位体比から大部分が天水領域にプロットされるが,一部,道北地域を中心に粘土鉱物の熱変性による脱水作用で生じると考えられる同位体比の領域にプロットされた.これらの続成作用により生じた水は,ガス田や油田のかん水に特徴的にみられ,熱分解性の油ガス生成との関連が指摘されている(大沢,2009;村松,2019).

     本研究で調査を行った「温泉付随ガス」は,メタン濃度が50%以上であり,一部については90%以上のものもあった.これらの「温泉付随ガス」の組成およびメタンをはじめとした炭化水素ガスの水素・炭素同位体比から,道内の「温泉付随ガス」は,大きく熱分解起源のものと生物起源(主に二酸化炭素還元)のものに区分された(Bernerd et al., 1977; Milkov and Etiope, 2018 など).また,熱分解起源の炭化水素ガスのほとんどがType III ケロジェンを起源とする石炭タイプのガスであった(Liu et al., 2019).

     北海道において,特に熱分解性メタンの母材となる有機物としては,石炭が考えられる.そこで,挟炭層(古第三系~上部白亜系)の地表および地下分布と比較すると,熱分解起源のメタンが湧出する源泉は,大深度に挟炭層が分布する地域との相関が見られた.

    【文献】

    大沢,2009,温泉科学,59,211‒217;村松,2019,温泉科学,69,20‒36;Bernard et al., 1977, 9th Annual OTC Conference, 435‒438 (OTC 2934);Milkov and Etiope, 2018, Organic Geochemistry, 125, 109‒120;Liu et al., 2019, Earth-Science Reviews, 190, 247‒272

G-P.ジェネラル ポスターセッション
  • 川口 健太, 中野 伸彦, 足立 達朗, Jeong Ji Wan, Wahyuandari Fransiska Catur, Das Ka ...
    セッションID: G-P-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    西南日本内帯の先白亜系地体群が低角パイルナップ構造に起因する極めて複雑な地表トレースを示す中において、舞鶴帯は唯一、東北東–西南西方向に伸びる比較的直線的な帯状配列を示す。舞鶴帯は模式地の舞鶴-大江地域において岩相構成から北帯、中帯、南帯に区分され(加納ほか1959)、南帯は夜久野オフィオライトとそれに貫入するペルム紀前期の海洋内島弧起源の火成岩、中帯は背弧海盆地殻とそれを覆うペルム系舞鶴層群からなり、両者は島弧-海溝系を示す一方、北帯は舞鶴花崗岩(猪木ほか1959)と呼ばれる花崗岩類を主体とし、断片化した大陸地殻の様相を呈する(Fujii et al., 2008; Suda et al., 2014)。舞鶴-大江地域の舞鶴帯北帯からはシルル紀–デボン紀と、ペルム紀–トリアス紀の花崗岩類が報告され、花崗岩類の年代の類似性から、同地域の舞鶴帯北帯はロシア沿海州のKhanka地塊に起源を持つ考えが提唱されている(Fujii et al., 2008; Tsutsumi et al., 2014)。一方、舞鶴帯西端部の津和野地域からは新太古代と古原生代の火成岩-変成岩複合岩体が産出し、それらの起源は北中国地塊が想定されている(木村ほか2019; Kimura et al., 2021)。これらの相反する対比は、舞鶴帯北帯が様々な起源の大陸地殻物質を断片的に含む複合岩体であることを示唆している。本研究では、舞鶴-大江地域における舞鶴帯北帯の花崗岩類について、ジルコンU–Pb年代測定、ジルコンLu–Hf同位体組成測定、全岩化学組成測定を行い、マルチ同位体データから舞鶴帯北帯の起源推定を試みた。

     舞鶴-大江地域の舞鶴帯北帯は、レンズ状の蛇紋岩を部分的に含む高角度の市原谷断層により東部岩体と西部岩体に区分される。東部岩体の花崗岩類は共通してカタクラシスによる変形が顕著で、一方西部岩体の花崗岩類はマイロナイト変形が卓越する。西部岩体の黒雲母花崗岩からはオルドビス紀(464–447 Ma)、角閃石-黒雲母花崗閃緑岩からは石炭紀後期(311–301 Ma)のジルコンU–Pb年代が得られ、ジルコンの組織に基づくとこれらは貫入・固結年齢を示す。一方、東部岩体の黒雲母花崗岩からはペルム紀前期(289–281 Ma)のジルコンU–Pb年代が得られ、これらも貫入・固結年齢を示す。ペルム紀前期の黒雲母花崗岩は有意に古いインヘリテッドジルコンを欠く一方、オルドビス紀と石炭紀後期の花崗岩類は共通して約950–650 Maのインヘリテッドジルコンを含む。ジルコンのLu–Hf同位体組成は、U–Pb年代値(t)を用いコンドライトの値で規格化したεHf(t)値で示すと、オルドビス紀の黒雲母花崗岩は+1.0から+3.1、石炭紀後期の角閃石-黒雲母花崗閃緑岩は+0.2から+1.7の値を示す一方、ペルム紀前期の黒雲母花崗岩は+4.4から+12.2を示す。これら古生代花崗岩類の全岩化学組成は共通して重希土類元素に中程度に涸渇したパターンを示し、非アダカイト質の性質を示す。またNb–Taの負異常の程度は典型的な火成弧で形成された花崗岩質岩の組成幅とよく一致し、判別図では火成弧組成を示す。まとめると、舞鶴-大江地域のオルドビス紀と石炭紀後期花崗岩類は、共通して火成弧において新原生代の地殻物質を溶融して形成されたと考えられる。一方、ペルム紀前期の黒雲母花崗岩は、火成弧で形成されたものの、起源となった地殻は石炭紀後期までのものとは大きく異なり、より新規の地殻が溶融したことにより形成されたことが示唆される。北東アジア東縁一帯を見渡すと、石炭紀の沈み込みが認められない南中国地塊東–南縁(例えばLi et al., 2012)と、古原生代のクラトンを主体とする北中国地塊東縁(例えばKang et al., 2023)は舞鶴-大江地域の舞鶴帯北帯の起源とは考えにくい。一方、舞鶴-大江地域の舞鶴帯北帯から得られたマルチ同位体データの特徴とよく一致する花崗岩類は、北東アジアにおいてはKhanka-Jiamusi地塊に広く認められ(例えばZhang et al., 2018)、舞鶴-大江地域の舞鶴帯北帯は同地塊に起源を持つと考えられる。

    Fujii et al. (2008) Island Arc, 17, 322–341.

    猪木ほか(1959) 地調月報, 10, 1053–1061.

    Kang et al. (2023) Earth-Sci. Rev., 247, 104605.

    加納ほか(1959) 地質学雑誌, 65, 267–271.

    木村ほか(2019) 地質学雑誌, 125, 153–165.

    Kimura et al. (2021) Earth Planet. Sci. Lett., 565, 116926.

    Li et al. (2012) Chem. Geol., 328, 195–207.

    Suda et al. (2014) J. Geol. Res., 2014, 652484.

    Tsutsumi et al. (2014) J. Mineral. Petrol. Sci., 109, 97–102.

    Zhang et al. (2018) Gondwana Res., 99, 149–162.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    中野 竜, 青木 翔吾, 内野 隆之, 福山 繭子, 昆 慶明
    セッションID: G-P-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    日本列島を含むアジア大陸東縁部は,約5.2億年前に受動的大陸縁から活動大陸縁に移行し,それによって形成された付加体や花崗岩バソリスベルトによって特徴づけられる.活動的大陸縁への移行後のテクトニクスや沈み込み帯内部の物質構造の進化は,それら付加体や火成岩体の地質学あるいは地球化学的な情報から推定することができる.しかし,構造侵食等の地殻改変作用により,現在の日本列島を含めたアジア大陸東縁部に残されたペルム紀以前の地質記録は限定的であるため,その当時の地質構造発達史の理解は困難である.

    東北日本の北上山地中央部には,南部北上帯と北部北上帯に挟まれて,前期石炭紀と後期ペルム紀-前期三畳紀の付加体から構成される根田茂帯が狭長に分布する (永広・鈴木, 2003; 内野ほか, 2005; Uchino, 2021).本研究では,根田茂帯綱取ユニットに分布する砕屑岩に着目し,その岩石学的特徴や砕屑性ジルコンのU–Pb年代・微量元素組成に基づき,前期石炭紀アジア大陸東縁部における火成岩の年代分布や地殻化学組成の推定を試みた.綱取ユニットの砂岩は,ユニットの主岩相である珪長質凝灰岩泥岩互層中に厚さ数mから十数mでレンズ状に散在する.それらの砂岩は,構成粒子のモード組成に基づき,主として火山岩岩片から構成される“火山性砂岩” (QmFLt三角図上でLt成分が90%を超えるもの)と,石英粒子と堆積・火山岩片を豊富に含む岩片質砂岩 (Qm成分が10-20%,Lt成分が80-90%)に大別される.本研究では,岩片質砂岩5試料と火山性砂岩2試料から,それぞれ558粒子と97粒子のジルコンを分離し,秋田大学大学院理工学研究科に設置されたLA-ICP-MSを用いてU–Pb年代測定を行い,ジルコンの結晶化年代のデータ分布をヒストグラムで表した.その結果,火山性砂岩と岩片質砂岩に含まれる砕屑性ジルコンは共に400-3000 Maの広い年代値を示し,400-500 Maに大きなピークを形成する.そして,綱取ユニット形成年代である前期石炭紀の年代値を示すジルコンは少ない, あるいは含まれていないことがわかった.このような特徴は同時代に形成された,西南日本低温高圧型変成岩である蓮華帯や黒瀬川帯の砂質片岩に含まれるジルコンのコア年代においても見られる (Tsutsumi et al., 2003, 2011; Yoshida et al., 2020; Matsunaga et al., 2021) .したがって,根田茂帯綱取ユニット,蓮華帯,黒瀬川帯は後背地に同じ400-500 Maの火成岩が分布する同一の弧-海溝システムで形成されたことを示す.また,これらの3地質帯の(変)砕屑岩に堆積年代と同じ年代値を示すジルコンがほとんど含まれないことは, 前期石炭紀のアジア大陸東縁部に同時代の花崗岩バソリスが露出していなかったことを示唆する.

    さらにU–Pb年代測定を行った綱取ユニットジルコンに対して,微量元素測定を行ったところ,450-500 MaのジルコンのU/Yb比は1.00前後の値をとり,450 Ma以降は400 Maまで0.58程度まで減少する経年変化を示した.ジルコンのU/Yb比は,ジルコンを結晶化させたマグマを形成した地殻の成熟度を表す指標になる (Grimes et al., 2007;Grimes et al., 2015など).本研究で示された砕屑性ジルコンの年代ヒストグラムとU/Yb比の経年変化は,450 Ma以降に後背地の成熟した大陸地殻の除去と未成熟な地殻の形成が起き,花崗岩形成プロセスが弱化した可能性を示唆する.本発表では,綱取ユニット砕屑岩の全岩化学組成やジルコンHf同位体比などのデータも示しながら,カンブリア紀から前期石炭紀までのアジア大陸東縁部における地殻の化学組成的進化について,より詳細に議論をする.

    【引用文献】永広・鈴木 (2003), 構造地質 vol.47, 13-21; 内野ほか (2005), 地質学雑誌 vol.111, 249-252; Uchino (2021), Island Arc, 30, e12397; Tsutsumi et al. (2003), JMPS vol.98, 181-193; Tsutsumi et al. (2011), Bull. Natl. Mus. Nat. Sci., C, vol.37, 5-16; Yoshida et al. (2020), J. Metmorph. Geol. vol.39, 77-100; Matsunaga et al. (2021), Lithos, vol. 380-381, 105898; Grimes et al. (2007) Geology, 35(7), 643–646; Grimes et al. (2015) CMP, 170(5–6), 1–26

  • 久保見 幸, 長田 充弘, 仁木 創太, 平田 岳史
    セッションID: G-P-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに

     蝦夷層群函淵層は,東北日本の白亜系~古第三系の前弧海盆(蝦夷堆積盆)の最上部層を構成する地層の一つである.函淵層は宗谷丘陵,中頓別,天塩-中川,大夕張,夕張および穂別地域などに分布する.函淵層の模式地は,大夕張地域の大夕張ダム・夕張シューパロダム周辺である(Ando, 2003).模式地の函淵層は,礫岩,砂岩および凝灰岩からなる浅海成~河川成堆積物であり,本層最上部にK/Pg境界の不整合が存在すると解釈される(安藤ほか,2007).各地域の函淵層からアンモナイトやイノセラムスが産出し(例えば,Ando and Tomosugi, 2005;西村,2018),模式地の函淵層最上部からは古第三紀暁新世を示す渦鞭毛藻化石が産出する(鈴木ほか,1997).

     近年,各地域の函淵層の凝灰岩や砂岩のジルコンU–Pb年代が報告されている.石坂ほか(2021)は大夕張地域北部の函淵層上部の砂岩から64.3 ± 1.1 Ma(k = 1)の加重平均値を,Kubomi et al.(2023)は夕張地域の函淵層の凝灰岩から64.1 ± 1.1 Ma(k = 2)の加重平均値を報告した.これらの年代や渦鞭毛藻化石から,大夕張・夕張地域の函淵層上部は古第三系下部暁新統ダニアン階に対比される.一方,模式地の函淵層下部からは数点のアンモナイト化石の産出のみであり,信頼できる放射年代,特にジルコンU–Pb年代に基づく堆積年代の制約には至っていない.そこで,著者らは模式地に露出する函淵層下部の凝灰岩層に注目し,地質調査を進めてきた(久保見・長田,2024).本発表では,模式地の函淵層下部の凝灰岩のジルコンU–Pb年代と化石相から堆積年代を整理し,各地域の函淵層の層序対比について再検討する.

    地質概説・年代測定試料

     模式地の函淵層下部の凝灰岩層の層厚は約28 m,走向・傾斜はN10°E・54°–62°Eで逆転構造を示す.凝灰岩層は一枚の単層でなく、凝灰質シルト岩、珪長質シルト岩、珪長質凝灰岩、およびガラス質凝灰岩の複数の単層から構成される.年代測定した試料HOY-2は白色~灰色を呈し,極細粒の石英や斜長石を主体とし,約50 µmの微細な火山ガラスを含むガラス質凝灰岩である.火山ガラスはバブルウォール型や繊維状である.

    結果・考察

     試料HOY-2の最も若いジルコン206Pb/238U年代は78.2 ± 2.4 Ma(k = 2),この粒子と包含係数k = 2で重なる粒子で構成するコンコーダントデータの206Pb/238U年代の加重平均値は79.8 ± 0.8 Ma(N = 7,k = 2)となった.この値は大夕張地域の蝦夷層群上部および函淵層最下部から産出する下部カンパニアン階上部を示すアンモナイトCanadoceras kossmati(Saito et al., 1998)と調和的であり,函淵層下部の堆積年代は下部カンパニアン階上部に相当すると解釈した.よって,模式地の函淵層の初の放射年代が明らかとなり,古第三紀後期暁新世の渦鞭毛藻化石(鈴木ほか,1997)や放射年代値(石坂ほか,2021)とあわせて,大夕張地域の函淵層の堆積年代は,前期カンパニアン期(約80 Ma)~後期暁新世セランディアン期(約60 Ma)に相当することが明らかとなった.また,大夕張地域(模式地)と他地域の函淵層のジルコンU–Pb年代や化石相を整理すると,大夕張・中頓別地域の函淵層下部は下部~中部カンパニアン階に対応する.また,天塩-中川地域の蝦夷層群上部オソウシナイ層最上部の凝灰岩のジルコンU–Pb年代(80.2 ± 0.8 Ma;Shigeta and Tsutsumi, 2018)は試料HOY-2の加重平均値と不確かさ範囲で重複し,C. kossmatiが産出する点で共通するため,模式地の函淵層下部とオソウシナイ層最上部は対比可能である.各地域の函淵層の年代や化石相のレビューによる層序対比の詳細はポスターで発表する.

    引用文献 Ando, 2003, J.Asian Earth Sci., 21, 921–935. / 安藤ほか,2007,地質雑,113, S185–S203. / Ando and Tomosugi, 2005, Cretaceous Res., 26, 85–95. / 石坂ほか,2021,地雑,130,63–83./ 久保見・長田,2024,北海道博物館研究紀要.9,53–61. / Kubomi et al., 2023, J. Geol. Soc. Japan, 129, 453–460. / 西村,2018,第125回地質学会講演要旨,R5-P-2. / Saito et al., 1998, Bull. Mikasa City Mus. 2, 17–26. / Shigeta and Tsutsumi, 2018, Bull. Natl. Mus. Nat. Sci., Ser. C, 44, 13–18. / 鈴木ほか,1997,第105回地質学会講演要旨,p62.

  • 河尻 清和
    セッションID: G-P-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    神奈川県北部に分布する四万十帯相模湖層群瀬戸層中からは石灰質ノジュールが(河尻,2012),また,相模川水系では「へそ石」と呼ばれる黒色ノジュール(球状コンクリーション)の転石が報告されている(濱松,2015,2017;河尻,2023).相模川水系の「へそ石」はいずれも転石としてのみ見つかっており,その産状は明らかとなっていない.演者は「へそ石」の産状を明らかにするために,神奈川県北西部相模湖地域において野外調査を行っているが,これまでに報告されたノジュールや「へそ石」とは異なる炭酸塩ノジュールを見出したので報告する.

    炭酸塩ノジュールを見出したのは神奈川県北西部相模湖東岸と相模川支流の道志川下流で,いずれも相模湖層群瀬戸層の分布域である.この地域の相模湖層群瀬戸層は砂岩頁岩互層よりなるが,変形・変成作用により,破断砂岩頁岩互層や千枚岩となっている.今回見出した炭酸塩ノジュールを産状や形状からタイプA〜Dの4つに分類した.

    タイプA:相模湖東岸の小さな沢の転石として1個だけ見つかった.この地域には破断砂岩頁岩互層が分布している.転石のため一部分しか残されておらず,全体の形状や産状は不明である.外形の曲率から推定すると紡錘形をしていたと考えられる.外形は30.0 cm × 16.5 cm × 14.5 cmである.外殻部と中心部からなり,外殻部は厚さ5 〜 7 cmである.中心部はスパーライト質および隠微晶質の炭酸塩鉱物,石英や斜長石などの砕屑粒子からなり,片理が発達している.外殻部は珪質頁岩で片理は発達していない

    タイプB:道志川下流部右岸の破断砂岩頁岩互層中に1個だけ見つかった.露頭面(横断面)では径15.5 cm × 9.5 cmの楕円形を呈する.ほぼ垂直に立った層理面(片理面)に沿って鉛直方向に伸び,下方に向かって次第に細くなる.先端は確認できなかったが,少なくとも長さは21.5 cm以上で先の細くなった棒状をしていると考えられる.横断面で観察すると中心部から外縁部に向けて放射状の構造が見られる.外殻部と中心部からなるが,外殻部と中心部の境界は不規則な形状をしている.外殻部は厚さ0.3 〜 3.0 cmであるが,外殻部が薄くなり,ほとんど見られない部分もある.中心部はスパーライト質の炭酸塩鉱物からなり,放射状構造の方向に伸長している.石英や斜長石などの砕屑粒子を含む.外殻部は伸長したスパーライト質および隠微晶質の炭酸塩鉱物,珪質頁岩からなる.先端部に近い部分ではスパーライト質の炭酸塩鉱物,珪質頁岩,頁岩,石英脈が混在している.

    タイプC:道志川下流部右岸の頁岩中に4個見つかった.露頭面(横断面)では径30 〜 60 cm × 12 〜 20 cmの楕円形を呈する.露頭面で破断されているが,残された部分から推定すると中央が膨らんだ円盤状をしていると考えられる.長軸ないし中間軸の方向は層理面に調和的である.端部は丸みを帯びている部分と尾のように細長く伸びている部分とがある.外殻部と中心部からなり,外殻部は厚さ0.3 〜 8.0 cmであるが,端部ほど厚くなる.中心部はスパーライト質および隠微晶質の炭酸塩鉱物からなり,石英や斜長石などの砕屑粒子を含むが,ほとんど砕屑粒子を含まない部分もある.片理が発達しており,片理に沿って頁岩の薄層を挟在する場合がある.外殻部は珪質頁岩からなる.尾状の部分は外殻部と中心部が不規則な形状となっている.

    タイプD:道志川下流部左岸の破断砂岩頁岩互層中に2個見つかった.露頭面(横断面)では径40 〜 80 cm × 5 〜 6 cmで細長く伸びたレンズ状を呈し,層理面に調和的である.全体の形状は不明である.隠微晶質の炭酸塩鉱物からなり,石英,斜長石などの砕屑粒子を含む.片理が発達している.有孔虫などの炭酸塩鉱物からなる生物遺骸を含み,層理面に調和的な産状を示すことから炭酸塩岩の薄層と考えられる.同程度の層厚の砂岩と比べると連続性に乏しく,また,片理が発達していることから,元々レンズ状に堆積したものが変形作用によりさらに引き延ばされた可能性がある.

    今回見つかった炭酸塩ノジュールは比較的狭い範囲から見つかっているが,これら4つのタイプのノジュールはそれぞれ異なる地点から産出している.このことから,これらの炭酸塩ノジュールの形成には,ごく局所的な環境が影響していた可能性がある.

    濱松喜八郎, 2015. 神奈川地学 , no.80, 16-20.

    濱松喜八郎, 2017. 神奈川地学, no.81, 35-40.

    河尻清和, 2012. 神奈川県立博物館調査研究報告(自然科学), no.14, 163-174.

    河尻清和, 2023. 相模原市立博物館研究報告,no.31,25-28.

  • 眞次 裕司, 酒井 哲弥
    セッションID: G-P-5
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    島根県出雲市多伎町から大田市朝山町にかけては大森層が分布している。その年代は15~14Maである。この地域に分布する大森層は安山岩及びデイサイトと砂岩及び礫岩にから構成される。大森層の安山岩・デイサイトとその上位に重なる砂岩・礫岩との関係は,構造的に不整合に見える地点もあるが,鹿野ほか(1998)などでは,両岩相間の形成期に大きな時間間隙があるものではないとし,両岩相を大森層と扱っている.不整合のように見える成因として,安山岩―デイサイトの火山体の周辺の浅海・海浜環境で礫岩・砂岩が堆積したことによるとされている.しかし「構造的に不整合に見える」理由は具体的に明らかにされていない.そこで,この研究では出雲市多伎町から大田市朝山町の範囲で詳細な地質調査を行い,詳細な層序を明らかにするとともに,不整合の特徴を明らかにし,その成因を議論することを目的とした.  

    調査の結果,下位から火山礫凝灰岩とそこに貫入する安山岩―デーサイト調査範囲の一部エリアで細粒凝灰岩,火山礫凝灰岩(特徴は鹿野ほか(1998)の記載したOpに類似),赤色に変色した細粒凝灰岩が認められた.その上位に礫岩ならびに砂岩が重なる.今回の調査で,礫岩・砂岩とその下位層との直接の境界は確認できなかったが,お互いの関係が高角の境界となっている場所,層理面に対してほぼ平行である可能性が高い地点が確認された.高角の境界となっている場所の周辺の礫岩層では,円盤型の礫を多く含む層準が確認された.こうした円盤型の礫が多く含まれる礫岩層は海浜堆積物であると解釈される.礫岩・砂岩の下部はごく浅海域で形成されたことを踏まえると,高角の境界は海食崖,層理面とほぼ平行な境界は,波食棚や海食台の形成に関係していると解釈される.すなわち,海進に伴う侵食によって形成されたものであると解釈される.また今回,新たに見つかった赤色に変色した細粒凝灰岩などは,海進に伴う侵食によって失われたものと判断される.

    参考文献 鹿野ほか(1998)石見大田及び大浦地域の地質. 地域地質研究報告(5万分の1地質図幅), 地質調査所, 118p.

  • 加藤 孝幸
    セッションID: G-P-6
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに噴火湾(内浦湾)は, その西側を渡島半島に囲まれる直径約50kmの円形の湾である.その成因について, 火山のカルデラや小惑星の衝突によるクレーターとは考えられない. ここでは, 2023年に発見された「噴火湾構造線」や, 鮮新世末以降の噴火湾拡大の可能性について述べる.地質構造の特徴 渡島半島のリニアメントの解析や断層の観察によると, 南北系圧縮場の時期と東西系圧縮場の時期がある. 白亜紀の花崗閃緑岩や中新世の訓縫層・八雲層には, ときに南北系圧縮場で生成したと考えられる構造が残存し, かつ東西系圧縮場で生成したと考えられる構造が重複する. 国縫層や八雲層に貫入するドレライトなどは南北系の貫入面が卓越する. 渡島半島には南北系(NNE-SSWないしN-S)右横ずれ断層が発達する. NNE-SSW断層の一部には南北系圧縮場に伴う左横ずれ断層が認められる. 渡島半島には南北系褶曲軸が発達する. このことは上記断層群, とくにNNE-SSW方向の右横ずれ断層群が発達することに対応している. 噴火湾西縁の陸上部には八雲断層(a, b)として知られる活断層が知られている.この活断層に挟まれて瀬棚層を乗せた花崗閃緑岩が上昇している. 八雲断層は活断層としては東傾斜で東側が西方へ衝上すると考えられているが, 横ずれ成分についてはよくわかっていない. 八雲断層の続きは瀬棚層を切る断層として, 杉型雁行配列して南へ続く. 八雲町市街地南東方(熱田地区)で, 八雲層を幅50mにわたって破砕する南北系高角東傾斜(約70°E)の横ずれ成分の卓越する大きな断層が発見された. 考察渡島半島の第四紀は東西系圧縮場にあると考えられるので, 加藤・菅原(2017)が述べたように, 南北系圧縮場の時期は八雲層堆積後, すなわち主として鮮新世であろう. 東西系圧縮場は太平洋プレートの運動で説明可能であるが, 南北系圧縮場はその運動では説明できない. 高橋(2005,2006)などは東北日本が約300万年前まではフィリピン海プレートの影響下にあり, 南北系圧縮場にあった可能性を示しているが, 東北日本の延長である渡島半島も同様のテクトニック場にあった可能性が考えられる.中新世後期の八雲層やそれ以前の地層に貫入するドレライトなどが南北系であることは, これらが鮮新世の南北系の圧縮場の時期に貫入した可能性が考えられる.渡島半島にみられるNNE-SSW断層の多くは右横ずれ断層である. しかし, その一部にみられる南北系圧縮場に伴う左横ずれ断層はこの方向の右横ずれ断層がかつては左横ずれ断層であって, これが後に右横ずれ断層に転化した可能性が考えられる.渡島半島に南北系褶曲軸が発達することは上記断層群, とくにNNE-SSW方向の右横ずれ断層群が発達することに対応している. 活断層である八雲断層の続きは瀬棚層を切る断層として, 杉型雁行配列して南へ続くので, 現在でも, 全体として南北系断層が右横ずれ変位を起こす応力が働いていると考えられる.噴火湾の拡大に関連すると考えられる, 八雲町市街地南東の地点を通って噴火湾西縁を画する, 南北に伸びる構造線(噴火湾構造線)が発見された. 右横ずれ断層と考えられる.これらを総合すると, フィリピン海プレートの北進が終了する約300万年前の時期までは噴火湾と渡島半島は存在しなかった可能性がある. その後フィリピン海プレートの北西進への転換に伴って, 太平洋プレートによる東西系圧縮場と, これに伴う千島弧の南西進の影響下に移行する時期に, 噴火湾の拡大が始まったと考えられる.引用文献 加藤孝幸・菅原誠(2017) 日本地質学会北海道支部講演要旨.高橋雅紀(2005) 日本地震学会2005年度秋季大会講演予稿集, A029. 高橋雅紀(2006) 地学雑誌, 115, 116-123.

  • 山﨑 誠子, 及川 輝樹, 伴 雅雄, Miggins Daniel, Koppers Anthony
    セッションID: G-P-7
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    蔵王火山は約1 Maに活動を開始し、その活動期は6つに分けられている。活動期I以外の大部分の溶岩は約50万年前より若く、同位体希釈法によるK–Ar法では測定が困難であったが、1980年代後半に感度法(ピーク値比較法)によるアルゴン初期値補正の検討が始まってから、多くのK–Ar年代値が報告されている。高岡ほか(1989,地質雑p157‒170)は蔵王火山からの約30試料について感度法K–Ar年代を報告し、アルゴン初期値の質量分別補正の重要性を初めて示した。一方、40Ar/39Ar年代測定では、インバースアイソクロンを用いてアルゴン初期値を求めることができるが、初期値を補正せず、より誤差の小さいプラトー年代が用いられることもある。本研究では、6つの試料について、より確からしい年代値を得るために、感度法K–Arおよび40Ar/39Ar年代測定を実施し、両手法によるアルゴン初期値について検討した。

    活動期Iについては、水中噴火であったことや岩脈試料の測定であったこともあり、従来言われてきた年代より古い約1.8 Maの感度法K–Ar年代値、約2 Maの40Ar/39Ar年代値が得られた。高岡ほか(前掲)で報告された周辺の岩脈試料も約1.5 Maと約0.5-0.9 Maとばらついており、本研究による40Ar/39Ar年代測定におけるプラトーやインバースアイソクロンの形状も良くないため、参考値として扱うのが好ましく、試料による測定の限界かもしれない。

    活動期Vの3試料については、約110〜50 kaの年代値が得られた。概してK–Ar年代値の方が誤差が大きく、40Ar/39Ar年代の方が誤差が小さい。初期値の求め方に両手法で違いがあることが原因か、K–Ar年代測定で求めた40Ar/36Arは大気の値より高く、40Ar/39Ar年代のインバースアイソクロンから求めた40Ar/36Arは大気よりも低い傾向が見られた。補正前後の年代値の差は大きいものでは約30 kaほどにもなる。

    活動期VIの2試料については、K–Arと40Ar/39Ar年代では非常によく似た年代値を示した。最も若くK–Ar年代測定で一部値が得られなかった刈田岳北方溶岩については、補正しない年代はマイナスの年代を示すものの、初期値を補正した40Ar/39Arインバースアイソクロン年代は約12 kaの値が得られた。この値は層序にも調和的である。

    特に若い年代でアルゴン初期値補正が重要であることが確認されたものの、今後さらに初期値のずれの傾向や年代値の評価法について検討が必要である。

  • 筬島 聖二, 吉田 孝紀, 山口 季彩
    セッションID: G-P-8
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    はじめに 

    沖縄島の北部には,国頭マージと呼ばれる赤色から黄色を呈する風化土壌が分布する.国頭マージの母材は,国頭礫層と呼ばれる段丘堆積物のほか,砂岩,千枚岩,緑色岩等の基盤岩類など多岐にわたる.黒島ほか(1981)は国頭マージの赤色土を古土壌と位置づけ,その生成時期を0.38±0.03Maと推定している.国頭マージについては,赤土砂流出防止対策の見地からの工学的な研究は多数報告されているが,母材から赤色土が生成する過程についての理学的な研究は少ない.今回沖縄島北部において国頭マージの形成プロセスを探るために,母材のうち四万十帯相当層である名護層砂岩露頭を対象に風化の特徴を整理し,風化区分の作成を試みた.

    地質概要

    四万十帯は相当層も含めると、関東から南西諸島まで分布する付加体である.沖縄島の北部には,北帯に属する上部白亜系の名護層と南帯に属する古第三系の嘉陽層が分布している.名護層の分布や名称は研究者によって異なるものの(宮城ほか,2013),岩相は千枚岩,緑色岩,砂岩などからなる.名護層からは,堆積年代を示す化石の報告はないが,再結晶白雲母のK-Ar年代として,77.0~61.1Maおよび54.7~37.1Maの変成年代が報告されている(小島ほか,1999).この変成年代より,名護層の堆積時代は後期白亜紀とみなされている(中江ほか,2010).名護層の泥質片岩や砂岩は新鮮部では暗灰色を呈するが,地表近くでは厚い風化殻を形成する.筆者らは沖縄島北部の大宜味村南部で確認された強風化砂岩露頭を名護層に属するものと考え,研究対象とした.研究手法  研究対象の露頭は,標高約160mの丘陵地帯に位置する比高約10mの切土斜面であり,強風化した中粒砂岩が露出する(添付写真).現地では肉眼観察により,地質構造や粒度,色調,割れ目の状態等を記載した.また,風化の程度を硬さとして定量的に評価するために,斜面長1m毎に山中式土壌硬度計を用いて土壌硬度を計測した.さらに,この露頭より室内試験に供する試料を採取した.室内では,岩石薄片の鏡下観察とX線回析分析による鉱物の同定を行った.なお,新鮮な岩石試料を沖縄島北部の国頭村より,中風化の試料を大分県佐伯市(白亜系佐伯亜層群堅田層)より採取し,新鮮部から残留土壌に至る風化進行過程を整理した.

    調査結果 

    調査対象の露頭では,ほぼ南北の走向と約20°で西側へ傾斜する層理面が認められ,この構造は一般的な名護層の構造(北東-南西走向,北西傾斜)と調和的である.砂岩を構成する砂粒子は中粒であり,所々に珪長質凝灰岩の薄層を挟在する.露頭の頂部では原岩の組織をとどめず残留土壌となる.調査対象の露頭では,風化作用は低標高部から高標高部へ向けて強くなる.風化砂岩の色調は,頂部より約3.5m(斜面長,以下同じ)までは,オレンジを基調とし黄色の斑状模様を含み,黄色の斑状構造には直径数mmのスポット状の白色の粘土を伴うことがある.3.5m以深は次第に赤褐色へ変化する.割れ目は,9.5m以下は黒色の鉱物で充填されるが,9.4~2.0mでは割れ目沿いに岩片が黄色に変色し,2.0m以上では赤褐色の鉱物によって充填される.土壌硬度は風化が進行する高標高部では約25mmであるが,標高を下げるにつれ次第に増加し最終的には約30mmに達する. 薄片の鏡下観察では,大宜味村露頭では石英を主体とし,一部が粘土した岩片や基質の粘土鉱物がみられるものの,国頭村露頭や佐伯市露頭で確認される長石類は消失している.粘土鉱物の量比は浅部へ向かって増加する傾向にある.また,地表より6.5mまでは植物の根痕が認められる.X線回析分析では,4.1m以深において確認されるイライト/スメクタイト混合層は1.3mでは消失し,代わって針鉄鉱が現れる.

    考 察

    大宜味村露頭における名護層砂岩は,風化の進行に伴い長石類及び岩片が粘土鉱物に変化することで,岩石の組織や組成が大きく変化し,最終的に国頭マージと呼ばれる風化土壌へと進行する.粘土鉱物への変化は土壌硬度の減少として現れる.露頭観察,薄片鏡下観察およびX線回析分析の結果から,砂岩の風化を新鮮部から風化残留土壌までFR,SW,MW,HW,SWl,CWh,RSの7段階に区分した.今後は薄片鏡下観察,X線回析分析,蛍光X線分析,物理試験等を追加し,砂岩風化の進行過程の整理を進める.

    引用文献

    小島ほか,1999,沖縄諸島, 名護層の変成作用とK–Ar 年代,日本地質学会関西支部会報No.125・西日本支部会報No. 113 合併号.黒島ほか,1981,沖縄の主要な森林土壌の生成と分類について.林業試験場研究報告,316,47-90.宮城ほか,2013,沖縄島および周辺諸島に分布する先新第三系基盤岩類の全岩化学組成と砕屑性ザクロ石化学組成.地質学雑誌,119,665-678.中江ほか,2010,20万分の1地質図幅「与論島及び那覇」,産総研地質調査総合センター.

  • 長谷部 徳子, Ganbat Shuukaaz, 時 哲, Udaanjargal Uyangaa, Gankhurel Baasansur ...
    セッションID: G-P-9
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    モンゴルValley of Gobi Lakesには多くの内陸湖が分布している。そのひとつBoontsagaan湖は長径は約20 km弱,深さ約10 mでこの地域で最も大きい湖の一つである。湖から採取した堆積物コア,湖と流入するBaidrag川から採取した堆積物トラップ試料,および流域の山脈から採取した岩石試料を分析し,環境動態調査をおこなった。堆積物に対しては,有機物,炭酸塩,非晶質シリカ含有量,全岩粒径,鉱物粒径,鉱物組み合わせ等を測定した。堆積物コアの堆積速度は,Pb-210の測定によって求め平均堆積速度は0.2g/cm^2/年であった。その年代モデルに基づき,観測所で得られている降水量,気温,風速などの気象データと堆積物の特徴を比較すると,(1)粒径は風の強さと相関している,(2)堆積量は降水量と相関している可能性がある,(3)乾燥気候下では炭酸塩の量が増加することが明らかになった。また堆積物トラップ試料の分析では河川には含まれていない炭酸塩鉱物が湖では検出され,炭酸塩鉱物が湖で自生されていることが示された。集水域の平均浸食速度を推定するため,岩石から分離したアパタイトを用いてフィッショントラック法で分析した。年代値は中世代を示し平均浸食速度は遅く(数mm/100年)安定している地域で,インド亜大陸の衝突による山脈形成の影響はこの地域には及んでいないことが類推される。また標高の高い試料は低いものよりも年代が若く,標高の高い場所の方がより侵食を被りやすいことを反映しているかもしれない。定点のデータを湖及び後背地に広げて見積もるのはあまり意味がないものの,試算すると後背地の侵食量と湖の堆積量のオーダーは同じとなりバランスが取れている。

  • 川勝 和哉
    セッションID: G-P-10
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    兵庫県立姫路東高等学校は、2020年に「世界を牽引する人材育成のための国際的な課題研究と科学倫理探究のロールモデル作成」を研究開発目標として、文部科学省からスーパーサイエンスハイスクール(SSH)指定を受けた。研究開発の柱となっているのは「地球科学を中心にした国際的な活動への挑戦」と「科学部の国際的な活動への支援」である。科学部員は2024年6月現在で37名在籍しており、いくつかの研究班に分かれて精力的に活動している。

     2023年12月に科学部は「オーストラリア野外調査」を11日間にわたって実施した。露頭は、ニューサウスウエールズ州南東部、シドニーから南へ約350kmのBingi Bingi Point複合深成岩体で、ジュラ紀に活動した不混和マグマによって、同質マグマの捕獲岩が一定方向に配列しており、フィールドトリップの露頭としてもよく知られている。しかし、マグマ残液の活動からみた岩石鉱物学的研究はなされておらず、高校生の研究対象地域として適していると判断した。参加生徒19名は、露頭近郊の町であるナルーマのアパートメントで自炊をしながら露頭調査を行った。岩石分布図を作成し、代表的な岩石試料を持ち帰って偏光顕微鏡で詳細に観察した。その結果、多くの閃緑岩の角閃石から、発達した波状累帯構造を発見した(図1)。角閃石の波状累帯構造は、西南日本内帯山陰帯の石英閃緑岩で初めて発見されたもので1)、サブソリダス条件下でマグマ残液による陽イオン置換が起こって形成されることが示されている。本校科学部の生徒は、角閃石の波状累帯構造の美しさに惹かれ、これまで日本各地の深成岩を調査して、角閃石から波状累帯構造を発見してきた。2023年度には、西南日本内帯山陽帯のマグマ分化過程末期の環境について、花崗閃緑岩の角閃石を指標にして明らかにする論文をまとめ、日本学生科学賞で中央審査会に進出するなどした2)。海外の深成岩の角閃石からの波状累帯構造の発見は、本研究が初めてとなった。京都大学理学部の協力を得て、操作の研修を受けた後、生徒3名が2日間かけて角閃石のEPMA分析を行い、露頭調査結果と合わせて検討を行った結果、後から上昇してきた不混和の同質マグマによるマグマ残液によって、サブソリダス条件下の酸化的環境で角閃石に波状累帯構造が形成されたことを明らかにした。この成果を論文にまとめ、2024年12月にワシントンD.C.で開催されるAmerican Geophysical Union(AGU)で発表する予定である。

     近年SSH指定校の間で、研究成果の扱われ方が話題になっている。SSH指定校には先端的な科学研究の成果が求められ、そこで研究開発した実験や観察の手法、成果を広く公開することが求められている。本校科学部の生徒は、主体的に研究に取り組み、次から次へと現れる課題や疑問を解決するために、先行研究論文を読み、時には大学や企業研究者と連絡を取って助言を仰いだりしている。EPMA分析の際には、鉱物のEPMA分析を行うために京都大学理学部が行っているCOCOUS-Rに応募して合格し、自ら分析を行うという念の入れようであった。研究費についても、高校生研究の助成に応募して合格して得た資金をもとに活動を行っている。こうして完成させた研究論文には、不十分な点や抜け落ちている視点や情報が多くあることを生徒自身よく理解している。全国には、高校生段階においても非常に進んだ研究姿勢を持つ生徒が少なくない。高校生の研究成果が基になって、教科書が書き換えられたケースもある。しかし、このように進んだ内容の論文を高校生の研究論文コンテストに応募すると、審査員から「このような研究は高校生ではなしがたいものであり、大学研究者の指導と知恵のもとになし得たものと考えざるを得ない。もっと高校生らしい視点で自信をもって研究を行ってもらいたい」という評価が返ってくることが少なくない。内容の評価ではなく、推測に基づいて高校生の努力や能力を正当に評価しない講評は、その研究を行った高校生に失望を与える。もはやコンテストに応募するのはやめたという指導者もおり、その輪は広がっている。科学や技術で世界を牽引する若者を本気で育てるために、「高校生らしさ」とは何なのかを改めて問いたい。

    1) Kawakatsu,K. and Yamaguchi,Y.(1987)Geochim.Cosmocim.Acta.Vol.51, 535-540.

    2) 兵庫県立姫路東高等学校科学部(2023)日本地質学会第130 年学術大会(2023京都大会)要旨

  • Goitse Mosekiemang, Kazuyuki Yamamoto, Hideko Takayanagi, Yoshihiro As ...
    セッションID: G-P-11
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    This research aims to understand the genesis and diagenetic pathway of dolomite in the Lower Cretaceous oilfield carbonates of Abu Dhabi (United Arab Emirates) based on its petrographical and geochemical signatures. The “A Formation dolomite” occurs as multiple stratiform beds associated commonly with evaporites (anhydrite nodules). Petrographic observation indicates that dolomite mainly occurs in mud-dominated facies, such as wackestone and mudstone deposited under a sabkha environment. This occurrence implies the dolomitization of precursor carbonates by hypersaline seawater immediately after the deposition at the intertidal to supratidal sabkha environment. This interpretation is supported by a high Na concentration of up to 5,000 ppm. The 87Sr/86Sr of the dolomite falls in a range of coeval seawater of the Lower Cretaceous. Hence, the dolomitizing fluid was originated from the evaporative seawater. The low δ18O values of the dolomite imply an overprint of the original geochemical signatures by diagenetic processes in burial settings. The dolomites were subjected to dedolomitization in burial settings, as proven by the depletion of trace elements and precipitation of calcite cements. The slightly increased Fe and slightly decreased Sr concentrations indicate that the dolomite interacted with another fluid such as an interstitial water in the buried depth. The deep burial diagenesis is confirmed by the high dolomite formation temperatures in a range of the reservoir temperature. This is because dolomite δ18O is largely reset by the ongoing dolomite-to-dolomite recrystallization, and the δ18O values no longer keep the initial values of evaporative dolomitization at the surface. The diagenetic pathway of the dolomite yielded different petrographic textures and, consequently, porosity and permeability of the reservoir rock. During the deep burial phase, geochemical compositions (δ18O and trace elements) were modified through dolomite-to-dolomite recrystallization, but there was no significant new dolomite formation as indicated by the initial seawater 87Sr/86Sr of the dolomite. Therefore, the main determining factor of the petrographic texture was the degree of dolomitization (= formation and supply of hypersaline water) in surface environments. As dolomitization progresses in mud-dominated facies, the permeability first increases as the fine-grained matrix micrite is replaced by larger dolomite crystals. However, as dolomitization progresses further, both porosity and permeability decrease due to dolomite cementation and to the replacive dolomitization. Therefore, the degree of evaporative dolomitization should not be too strong or too weak for the excellent reservoir rock properties of the “A Formation dolomite".

  • 伊藤 久敏
    セッションID: G-P-12
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    日本は地熱資源大国とされるが,地熱発電量は2021年3月時点で61万kWと少なく,米国のガイザース地熱地域1ヵ所の半分程度でしかない.これを打開するために,今後,日本で大規模な地熱開発を行う方法として,新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)により超臨界地熱発電の開発計画が進められている.NEDOは,優先調査する有望地域として岩手県の八幡平と葛根田,秋田県湯沢南部,大分県九重の4地域を選定したようである.これらの地域では共通して,深度3~5 kmの温度400~500℃に存在すると考えられる超臨界地熱貯留層の地熱開発を目指している.このためには,大深度で高温に耐えうる掘削技術の開発が必要であるとともに,超臨界地熱貯留層の規模が小さい場合には貯留層を造成する技術開発も必要になると考えられる.以下では,日本のユニークな地質を利用した「浅部超臨界地熱発電」(Ito, 2024)の可能性について若干の考察を行った.

    過去の事例: 次世代の地熱開発として,我が国では高温岩体発電研究が行われた.電力中央研究所が1986~2001年に秋田県で実施した例では,地下700 mと1000 mに2つの貯留層造成を試みたが,天然のフラクチャの影響で注入した水の回収率は最大でも25%であった(Ito, 2003)ことから,経済的な成立性が見込めなかった.オーストラリアでは,2002~2012年にCooper BasinでEnhanced geothermal systems (EGS)の開発を試み,地下4 kmの250℃の花崗岩に水圧破砕で貯留層を造成することを試みたが,坑井掘削に巨費を要したこと,深部の断層の影響もあり,人工貯留層が想定通りに開発できなかったことのため,経済的な成立性が見込めなかった(Holl, 2015).

    浅部超臨界地熱発電: 北アルプス(飛騨山脈)には地表に露出する第四紀花崗岩が存在する.なかでも約1 Maに生成した黒部川花崗岩(Ito et al., 2021)は,最も若い年代(約0.8 Ma)を示す範囲(2地点で確認)で地熱兆候が見られる.このうちの1地点では,水力発電開発時に掘削されたトンネルの岩盤温度が175℃に達したとのことであるが,この地下にはさらに新しい花崗岩が伏在すると想定される.その場合,地下2 kmで400℃以上であると想定される.若い花崗岩であるため,天然のフラクチャは少なく,また,急激な隆起・削剥により,地下浅部では,応力開放(上載荷重の除去)の影響を受けて,水圧破砕により,水平方向に人工貯留層が形成されると想定される.従って,黒部川花崗岩の地熱兆候のある地域は,地下2 kmで超臨界地熱開発が可能な世界でも稀な場所であると考えられる.より深い深度での超臨界地熱開発を進めることは,将来の大規模地熱開発のために必要ではあるが,過去の轍を踏むリスクも大きいと思われる.開発のより容易な浅部での超臨界地熱発電の開発にも注目する必要があると思われる.

    文献

    Holl, H-G., 2015. What did we learn about EGS in the Cooper Basin? GEODYNAMICS LIMITED, Document Number: RES-FN-OT-RPT-01179.

    Ito, H., 2003. Inferred role of natural fractures, veins, and breccias in development of the artificial geothermal reservoir at the Ogachi Hot Dry Rock site, Japan. J. Geophys. Res., 108(B9), 2426.

    Ito, H., 2024. Geothermal power generation that Japan can take the lead in: Shallow supercritical geothermal power generation. Abstracts 2024 Japan Geoscience Union Meeting, HRE12-P05.

    Ito, H., Adachi, Y., Cambeses, A., Bea, F., Fukuyama, M., Fukuma, K., Yamada, R., Kubo, T., Takehara, M. and Horie, K., 2021. The Quaternary Kurobegawa Granite: an example of a deeply dissected resurgent pluton. Sci. Rep., 11, 22059.

  • 大森 涼生, 高橋 美紀, 星住 英夫, 宮川 歩夢, 阪口 圭一, 阿部 朋弥, 大熊 茂雄, 川畑 大作, 宮地 良典, 上原 真一
    セッションID: G-P-13
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    産業技術総合研究所地質調査総合センターでは、「防災・減災のための高精度デジタル地質情報の整備事業」の一環として斜面災害リスク評価の整備を行っている。地熱や温泉水の影響による岩石の変質(粘土鉱物の生成)は地すべりの要因の一つとして考えられていることから、岩石の変質による粘土鉱物の生成が、土壌の摩擦特性に与える影響を調べる必要がある。この研究では粘土鉱物を含む火山性風化土壌を用いて、摩擦強度とすべりの安定性を評価することを目的とした。使用する試料は、熊本県阿蘇カルデラ西部に位置する地すべり多発地域から採取したもので、火山灰や溶岩が地熱活動によって変質したものである。XRD分析の結果、試料にはスメクタイト、カオリン鉱物(カオリナイトとおそらくハロイサイト)、アルナイト、非晶質シリカ、ガラスが含まれていた。また、各試料の塑性限界(WP)、液性限界(WL)、塑性指数(IP=WL-WP)を測定し、そのデータを塑性図(IP-WLグラフ)にプロットした。塑性チャート上のデータはA-線(Bardet, 1997 Experimental Soil Mechanics)に沿って分布し、ガラス質試料、カオリンに富む試料、スメクタイトに富む試料の順にIPの増加を示した。これらの試料について、常温・1MPa以下の垂直応力下、すべり速度4.8μm/sの含水条件で回転せん断実験を行い、摩擦係数を求めた。その結果、IP、WLが共に高いほど摩擦係数が低下する傾向がみられた。現在は示差熱-熱重量同時分析(TG-DTA)を行い、それぞれの粘土鉱物の定量を行っている。また、摩擦実験後のすべり面の観察を行う予定である。

  • 室田 真宏, 吉永 佑一
    セッションID: G-P-14
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    1.はじめに

     近年,UAV-Lidarを用いた測量事例が増加しており,従来の航空レーザ測量に比べ,迅速かつ高密度の点群データが取得できようになった. DEMを生成するための元データである点群データから地形表現図を作成することにより,より短時間で地形判読が可能になる.このような点群データに対して,地形の凹凸を抽出できるような地形解析法の研究事例は少ない.本稿は,点群データを用いた新たな地形表現の手法を提案し,長野県の地すべり現場において本手法で作成したマップを用いた解析例を示す.

    2.DEMと点群データ

     DEMはグリッド形式のデータであり,地表面に表れた地形の凹凸を捉える平面図を作成するのに適したものである.しかし,作成された図面からオーバーハングや道路構造物の張り出し等を抽出することは困難である.一方,点群データは,3次元座標をプロットしたものであり,データ密度は不均一ではあるが,地表面や側方の凹凸を正確に把握できる(表1).

    3.イルミネーション-法線マップ作成法

     作成方法は,①点群データを用いた照度マップと②点群→DEM化したデータから生成した各種図面(陰影図、起伏図など)を重ね合わせて作成する.点群データの処理には, CloudCompare、DEMの処理はQGISを使用した.照度マップは,物体の表面に入射する照明エネルギーをテクスチャとする図面である.同図面を青(水)→黄(太陽)の色調で表現することで自然な視覚で地形の凹凸を抽出することができる.さらに,白黒色調の陰影図や起伏図と重ねることにより,より明確な地形表現が可能になる.本稿では,作成した図面をイルミネーション-法線マップと称す.なお,本作成法については現在特許出願中である.

    4.長野県の地すべりの事例

     長野県の地すべり現場で実施されたUAV-Lidar測量結果を使用し,イルミネーション-法線マップを作成した.その結果,地すべりブロック内および周辺地形の微小な3次元形状を把握することができ,詳細な地すべりブロックの判定や3次元地盤モデル作成の精度が大きく向上した(図1).

    5.今後の展望

     本研究の成果は,地形解析の精度を飛躍的に向上させ,近年積極的に導入が進められている地質の3次元モデルの精度向上に大きく貢献できるものと考える.さらに,地すべりや砂防等の災害・防災関連だけでなく,現状では草本類等に覆われた遺跡,遺構等の調査にも非常に有用であると考える.

    6.謝辞

     本項を執筆するにあたり,長野県建設部砂防課をはじめとする関係各所には,多大な助言と指導を頂いた.感謝します.

  • 國松 航, 和田 伸也, 大塚 良治, 岩森 暁如, 朝日 信孝, 山根 博, 林崎 涼, 中田 英二, 松四 雄騎
    セッションID: G-P-15
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに:宇宙線生成核種(10Be)の濃度測定技術を活用した地球科学分野における研究事例として松四ほか (2007) があり,地盤の削剥速度決定や,段丘の形成年代決定に同技術が適用できることが紹介されている.10Beは宇宙線の照射により地表から深度約5mの岩盤または堆積層に含まれる石英中に生成され,その濃度は深度の増大に伴って減少する.このことから,上下変位が卓越する逆断層の場合,下盤側に比べて削剥速度が相対的に大きい上盤側で10Be濃度が小さいこと,上下変位が小さい横ずれ断層の場合,上盤側・下盤側の10Be濃度差が小さいことが予想され,断層両盤における10Be濃度の相対比較により断層の上下変位の有無や変位速度の類推が可能となることが期待される.本研究では,福井県敦賀半島に分布する江若花崗岩(後期白亜紀)中で北北東-南南西方向に延びる白木-丹生断層(最新活動時期:約9,000年前以降,約7,700年前以前,平均変位速度:約0.1–0.2 m/ky)を対象とし,10Beの地表濃度の分布特性について検討した.大野ほか(2022)は,福井県三方郡美浜町丹生の北東方に位置するSN地点 (北緯35度43分18.1秒,東経135度58分44.4秒) で認められた幅約2 mの断層破砕帯を挟んで10Beの地表濃度の分布特性について報告した.本研究では第二報として,測定箇所を広げて10Be濃度のデータを拡充し,活断層近傍の地表における10Beの濃度分布特性について検討した(図1, 2).

    測定試料・分析方法:試料は白木-丹生断層の断層破砕帯と,上盤側・下盤側の健岩部の地表で採取し,下盤側の健岩部においては,石英脈からも試料を採取した.試料からの石英抽出は松四 (2017) に示される手法を用いた.試料の10Be/9Be同位体比は,東京大学総合研究博物館タンデム加速器研究施設(MALT)の加速器質量分析(AMS: Accelerator Mass Spectrometry)システムで測定した.同位体比は,米国カリフォルニア大学が配布販売する標準物質(KNSTD07, KNB5-1)で計測値を規格化することで算出した.核種濃度は,得られた同位体比にキャリア量を乗じ,バックグラウンドを差し引いたのち,石英重量で除して算出した.分析の誤差は,AMSシステムの揺らぎ,検出器での10Be計数誤差,およびキャリアの添加量の不確かさを考慮し一標準偏差(1σ)とした.

    結果・考察:10Be濃度は下盤側で0.8×104~1.5×104 atoms/g 程度,上盤側は断層面から離れるにつれ大きくなり,最大2.2×104 atoms/g程度となる.この核種濃度は,こうした地形条件下において通常期待されるよりも全般的にやや小さく,この地点の侵食速度が大きいこと,もしくは地表面を覆っていた土層や岩盤が近い過去に除去されたことを反映している可能性がある.また,局所的に核種濃度が小さい箇所が存在し,破砕部の近傍で濃度が小さくなる傾向がある.このことは,この斜面が,地表面における核種濃度に有意な差を与えるほどの表層物質の除去を経て,現状の被覆物を欠いた状態に至った蓋然性が高いことを示唆している.このデータを用いて,断層活動の上下変位とそれに応答する上下盤での侵食速度の空間変化および除去された表層物質の厚みを考慮した核種蓄積のモデリング結果を紹介する.

    【引用文献】

    松四ほか (2007) 宇宙線生成核種10Beおよび26Alのプロセス地形学的応用:地形,28,87-107.

    松四雄騎 (2017) 宇宙線生成核種を用いた岩盤の風化と土層の生成に関する速度論-手法の原理,適用法,研究の現状と課題-:地学雑誌,126(4),487-511.

    大野ほか (2022) 活断層の上下盤における宇宙線生成核種10Beの地表濃度の分布特性:日本地質学会第129年学術大会

  • 林崎 涼, 中田 英二, 福地 亮, 谷口 友規, 相山 光太郎
    セッションID: G-P-16
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    1.はじめに

     断層の活動性評価では,放射性炭素年代測定法が上載層の堆積年代の測定に用いられている.しかしながら,放射性炭素年代測定法では,約5万年より古い年代値を求めることができない.このため,約5万年より古い上載層の堆積年代を直接求める手法の開発が必要となっている.

     光ルミネッセンス(OSL)年代測定法は,地層中に含まれる石英や長石から,数十万年前までの上載層の堆積年代を求めることができる手法である(田村,2021).今回,観音寺露頭の上載層における長石のOSL年代測定例を報告する.

    2.調査地点

     調査地点は,山形県北部の鮭川村庭月に位置する観音寺露頭である.観音寺露頭では,基盤の鮭川層(守屋ほか,2008)が,最大層厚約4 mの河成段丘構成層の礫層に不整合で覆われる.この礫層上面は断層活動により鉛直に約2 m変位している(中田ほか,2024).下盤側では,礫層が層厚約1mの斜交層理を伴う河成段丘構成層の砂層に覆われる.さらに,砂層は層厚約50 cmの黄灰色~黄褐色シルト層に覆われ,このシルト層は層厚約1 mの褐色シルト層に覆われる.断層は,礫層を覆う砂層に加えて黄灰色~黄褐色シルト層も変位させている.河成段丘構成層は,空中写真判読による段丘区分から,低位(松浦,2003)もしくは中位(澤ほか,2001)の構成層と推測されている.

    3.分析方法

     試料は,下盤側の上載層である砂層(OSL1~6),黄灰色~黄褐色シルト層(OSL7,8)と褐色シルト層(OSL9)で採取した(図1).試料採取は,直径3 cm,長さ25 cmのステンレスパイプを打ち込んで実施した.OSL測定には,180-250 µmで密度2.53~2.58 g/cm3のカリ長石に富む粒子を用いた.長石のOSL年代測定はpIR200IR290法(Li and Li, 2012)の測定条件で実施した.年代値は,8個の試料台の等価線量の平均値と標準誤差を年間線量率で除して求めた.年代値の若返りの有無を判断するg2days値は,年代測定に用いた8個の試料台から求めた.

    4.結果

     表1に長石によるOSL年代測定結果を示す.g2days値は,年代値の若返りが起きていないと判断できる1.0~1.5%/decadeもしくはそれ以下の値(Buylaert et al., 2012)であった.砂層のOSL1~6では9.1±1.2~11.5±1.1万年前の年代値が得られた.黄灰色~黄褐色シルト層のOSL7とOSL8では6.5±0.8~7.3±1.2万年前,褐色シルト層のOSL9では5.2±0.4万年前の年代値が得られた.

    5.考察

     OSL年代値は,地層累重の法則に従い,下位から上位の地層に向かって若くなる傾向が認められる.斜交層理を伴う砂層の年代値は約10万年前を示す.これは,河成段丘構成層が中位の構成層であることを明らかにしている.斜交層理を伴う砂層中には,断層活動を示唆するイベント堆積物は認められない.観音寺露頭の活断層は,砂層を覆う黄灰色~黄褐色シルト層を変位させているため,約7万年前以降に少なくとも1回は活動したと判断できる.長石のOSL年代測定法は,上載層を用いた断層の活動性評価に役立つ手法であると考えられる.

    【引用文献】

    澤 祥, 宮内崇裕, 佐藤比呂志, 八木浩司, 松多信尚, 越後智雄, 丹羽俊二(2001) 1:25,000都市圏活断層図「新庄」,国土地理院.

    田村 亨 (2021) 光ルミネッセンス(OSL)年代測定法. RADIOISOTOPES, 70, 107-116.

    中田英二, 林崎 涼, 相山光太郎, 福地 亮 (2024) 山形県鮭川村観音寺の活断層露頭. 地質学雑誌, 130, 87-88.

    松浦旅人 (2003) 山形県新庄盆地西部に分布するFlexural-slip断層とその活動時期. 活断層研究, 23, 29-36.

    守屋俊治, 鎮西清高, 中嶋 健, 檀原 徹 (2008) 山形県新庄盆地西縁部の鮮新世古地理の変遷-出羽丘陵の隆起時期と隆起過程-. 地質学雑誌, 114, 389-404.

    Buylaert, J.-P., Jain, M., Murray, A. S., Thomsen, K. J., Thiel, C., and Sohbati, R. (2012) A robust feldspar luminescence dating method for Middle and Late Pleistocene sediments. Boreas, 41, 435-451.

    Li, B., and Li, S.-H. (2012) A reply to the comments by Thomsen et al. on “Luminescence dating of K-feldspar from sediments: A protocol without anomalous fading correction”. Quaternary Geochronology, 8, 49-51.

  • 大河内 誠, 増村 悠馬, 明渡 翔大
    セッションID: G-P-17
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    1.はじめに

    本報告では、コンクリート骨材原石山において、骨材製造ラインの“デッドストック”を活用し、材料評価を実施した事例を紹介する。

    “デッドストック” には、実機で破砕・分級された材料が供給される。これらは、人為的・強制的に製品ラインに押し込まない限り、供給された材料が最終製品に混入することはない。したがって、このスペースを使えば、原石山で確認された材料が、実機での破砕・分級後にどのような製品になるか確認することが可能である。

    2.デッドストック

    一次破砕後のサージパイル、骨材貯蔵設備の地下には、運搬ルートとしてのベルトコンベアが設置されている。サージパイルや骨材貯蔵設備のベルトコンベアから離れた範囲には、人為的に押し込まない限り、運搬ルートであるベルトコンベアに材料が供給されないいわゆる“デッドスペース”が存在する。このデッドスペースに貯まる初期破砕材量が山状のデッドストックとなる。

    3.デッドストックを用いた材料確認の意義

    原石山では様々な地質調査が実施されるが、調査時の想定よりも施工時の歩留りが低下したといった結果を耳にすることがある。これは、調査精度や不確定要素(調査で把握しきれなかった劣化部など)の存在の要因もあるが、調査技術者の評価が施工技術者に的確に伝わっていないことが要因となっているケースもある。したがって、掘削材を用いた実機による破砕とその結果を踏まえた材料の再評価・再確認は重要と考えられる。4.試験骨材対象岩盤と試験内容

    今回の試験で対象とした岩盤は、花崗岩である。これらは、調査・設計段階で、材料区分が実施されており、密度・吸水率が一定の目安となる。

    試験した岩盤の切り羽での出現パターンおよび発破後の状況は、表-1のとおりである。それぞれについて確認試験を以下のような流れで実施した。

    ①掘削現場で切り羽状況の確認

    ②発破後の材料採取

    ③採取材を一次破砕設備に投入

    ④サージパイルで材料採取

    ⑤重機でサージパイル下のベルトコンベアに投入

    ⑥粗骨材貯蔵施設および細骨材貯蔵ビン前のベルトラインで2次破砕・篩い分け後の材料採取

    5.試験結果

    確認試験の結果は以下のように原石を評価している。

    SP-0:全量採取(全量一次破砕設備投入)

    SP-1:大玉をグリズリ選別採取(選別後大玉を1次破砕設備投入)

    SP-2:大玉をグリズリ選別採取(選別後大玉を1次破砕設備投入)

    SP-3:全量廃棄

    6.おわりに

    “デッドストック”を活用するといった発想は、調査・設計段階の技術者、特に地質技術者にとって、調査時に判断している露頭、横坑、ボーリングコアの評価、施工中に確認される切り羽、発破後の岩盤状況、そして、最終製品のイメージへとつなげる意味で有用と考えている。

  • 中田 英二, 林崎 涼, 相山 光太郎, 福地 亮
    セッションID: G-P-18
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    1.はじめに

    断層の活動性調査を行う場合,上載層中でイベント層準と堆積年代を求めるか,最新活動面内の自形鉱物の生成速度,環境から鉱物晶出後の断層活動の有無を考察するか,断層面と鉱物脈や岩脈との関係を求めるかなどの方法が考えられる.しかしながら上載層や自形鉱物,脈などが無い場合,活動性の評価の難易度は格段大きくなる.電力事業者は上載層が無い場合にどのような方法で断層活動性の判断ができるかの研究を各社共同で実施している.今回は研究対象とした活断層露頭とトレンチ壁面の地質状況から考えられる活動モデルを紹介する.

    2.調査地点

    調査地域は山形県最上郡鮭川村で新庄駅の北西約10㎞に位置する(図1).この活断層を調査対象とした理由は断層の上下盤で基盤岩が確認できることである.調査は2022年から2023年に実施した.対象とした断層露頭は中田ほか(2024)で紹介した観音寺露頭である(図2).本露頭には南北走向の断層(日下断層;松浦,2003)が認められる.トレンチ調査は観音寺露頭から北に300mの中位段丘面上で実施した(図3).

    3.地質概要

    当地域の基盤は主に均質な粗粒~中粒の砂岩優勢層からなる鮮新統の鮭川層である.地層は大局的には緩く東に傾斜している.砂岩中にはハンモック状斜交葉理が発達している.観音寺露頭の南西約600mの露頭(高さ50 m、幅200 m)では鮭川層は東に20~30°で傾斜を増す.この露頭の下部では水平の鮭川層が認められることから,当地域には上盤側が西へ乗り上げる東傾斜の衝上断層が発達すると予想できる.観音寺露頭では鮭川層が中位段丘を構成する礫層に覆われており,礫層が東傾斜の層面すべり逆断層によって約2m変位している様子が認められる.

    4.調査結果

    地質観察によって得られた主な事実を以下に記す. 露頭では主断層の下盤側に厚さ1 m前後のシルト岩/砂岩互層が認められた.この互層にはみかけ逆断層の小断層が発達し,その断層面にシルト岩/砂岩互層が入り込んでいる.ただし,このみかけ逆断層の面は主断層に向かって変位量を減じ,主断層と接していない. 認められた断層は1つを除いてすべて東傾斜である.西傾斜の断層は変位量が10 cm以下の小断層で,断層面も不明瞭で連続しない. 砂岩同士が接する露頭下部では主断層面に層状粘土層が巾約1 cmで連続する. 露頭上部では主断層の変位によって礫層(下盤側)と鮭川層(上盤側)の砂岩が傾斜して接しており,主断層はこの境界の背後の上盤側の砂岩層中を通過する. トレンチでは砂岩同士の接する主断層に沿って礫層の礫が入り込んでいる. 下盤側には礫層の上位に斜交層理の発達した砂層が堆積しており,いくつかの断層面は少なくともこの砂層まで確認ができる. 最新の断層活動が表層の腐植土層に変位を与えているかは不明である.

    5.断層の活動モデル

    露頭とトレンチで中位段丘形成後に鉛直2 m変位した活断層が認められた.この2地点のリニアメントは異なっており,当該地点では逆断層が並走する活断層群が形成されていることを確認した.主断層下盤側で認められたみかけ逆断層は地層の傾斜を45°左回転させて水平に戻すことで正断層となる.この正断層はシルト岩/砂岩互層の入り込みなどから,鮭川層堆積途中の未固結に近い状態で 東側(脊梁山脈)が隆起したために生じた地すべりと推察する.当地域の表層で認められる断層がすべて東傾斜であることから鮭川層は東側から応力によって層理面に沿って西に乗り上げたと推察できる.主断層ガウジにおいて層状粘土層が認められること,礫層と砂岩の境界をなす変位を作る断層と,砂岩を切る主断層の2つの存在は主断層が中位段丘礫層が堆積後複数回活動したことを示している.また実験中ではあるものの上載層の厚さに対して2/100の断層変位量以上で変位は地表まで到達する.当断層が厚さ1 mの上載層の上面(腐植土層等)に変位をもたらすには腐植土層生成後に礫層上面を2 cm以上変位させる必要がある.しかしながら腐植土層を切る明瞭な逆断層面が認められないことと,当断層群の一回の鉛直変位量が1.5~0.5 mと予想できることから表層の腐植土層は現段階では断層活動の影響は受けていないと推察する.

    【引用文献】

    松浦, 2003, 山形県新庄盆地西部に分布するFlexural-slip断層とその活動時期. 活断層研究,23,29-36.

    中田ほか,2024, 山形県鮭川村観音寺の活断層露頭. 130, 87-88.

  • 森 啓悟, 改田 行司, 万木 純一郎, 畠中 与一, 和田 茂樹, 水野 貴文, 山崎 智美, 棟方 有桂
    セッションID: G-P-19
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    1.はじめに

     微生物は多種多様な環境に生息しており、地下水においても存在が報告1)されている。細菌叢解析は、地下水に含まれるDNAから生息する細菌を検出・分類手法であり、地下水の流動経路・混合率等を把握する先端技術として発展が期待されている。本稿では、地すべり対策工事が予定されている2地区を研究フィールドとし、周辺地下水を対象に細菌叢解析を用いて地下水流動や水質分類を検討した事例を紹介する。

    2.地下水環境に配慮した地すべり対策工事の効果検証

     当該地区には生活利水井戸が多数存在し、地すべり対策工事(地下水排除工)の実施に際しては、地下水環境に留意する必要がある。地すべり土塊に作用する地下水には、崖錐堆積物中の自由地下水と岩盤の被圧地下水が存在し、このうち横ボーリング工等により岩盤の被圧地下水を低下させる対策工事が段階的にすすめられている。地すべり対策工事の効果を確認するため、自由地下水や被圧地下水を対象に主要イオン分析および細菌叢解析を実施した。

     主要イオン分析の結果、地すべりブロックAでは被圧地下水と自由地下水の間に濃度や水質に顕著な違いが認められたが、Bブロックでは明瞭な違いが認められず、両者の区別は困難であった。続いて細菌叢解析を行い、細菌叢の門レベルでの相対存在量を比較した。その結果、ブロックに関わらず被圧地下水ではProteobacteriaとBacteroidotaが約50%以上を占め、大部分を構成しているのに対し、自由地下水では多様な門種が確認され、両者の細菌叢パターンに明瞭な違いが認められた。また、自由地下水の細菌叢パターンは生活利水井戸と類似していた。以上より、被圧地下水と自由地下水はブロックに関わらず区別され、崖錐堆積物と岩盤は明瞭に異なる帯水層であることが確認された。このため、岩盤の被圧地下水を対象とした対策は効果的であり、また生活利水井戸への影響は小さいと評価した。

    3.季節変動を考慮した水質分類事例

     地すべり対策予定地の上流に位置する池水には特徴的な細菌の存在が報告されている。細菌叢の季節変動の有無や、季節変動が水質分類する上で与える課題について検討するために、池水や周辺井戸水および地すべりブロック内の地下水観測孔に対して時期を変えて細菌叢解析を実施した。複数回の採水実施した地点は、池水と一部の井戸で令和5年3月、5月、8月、11月の四季分析を行った。

     細菌叢解析の結果、池水の細菌叢において門レベルの相対存在量に季節変動が認められ、主要な細菌叢の季節変動が確認された。また周辺の井戸についても同様な傾向が確認された。続いて、次元圧縮方法の一つである主座標解析により、詳細な水質分類を試みた。この結果、池水の第1主成分得点は季節に関わらず概ね一定であるのに対し、第2主成分得点に季節変動が認められた。地点毎の第1主成分得点の関係性は、地下水等高線図から推定される地下水流動方向と調和的であり、かつ季節変動に左右されないことから、池水の寄与を反映していると考えられ、一方の第2主成分得点は季節変動を反映していると評価した。以上より、細菌叢の季節変動が確認されたとしても、水質分類は依然として可能であると考えられる。

    4.まとめ

     地下水中の細菌叢を詳細に分類することにより、地下水流動や水質分類の検討に適用可能であることが示された。また本研究では、池水や井戸水中の細菌叢に季節変動が確認されたが、季節変動成分は、主座標解析等の統計処理により抽出可能であり、地下水流動等の季節変動の影響を受けにくい成分と区別可能であることが示された。今後、同様の細菌叢解析が数多く実施され、知見が更に蓄積されることで、有用な地下水流動検討手法として確立されることが期待される。

    文献

    杉山歩、辻村真貴、加藤憲二 2020 地下水流動系という視点からみる微生物動態研究の課題と展望 地下水学会誌 第62巻第3号p431~448

  • 佐藤 隆春, 山口 卓也
    セッションID: G-P-20
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    概要 寺ヶ池安山岩は中期中新世に瀬戸内区に噴出した高マグネシア安山岩である(Tatsumi & Ishizaka, 1981;巽,2003)。寺ヶ池安山岩の規模が先行研究(原田ほか,1963)より大きい溶岩であることが判明したので報告する.本調査は寺ヶ池(大阪府河内長野市)西岸の広い範囲に石器石材となりうる安山岩が散布されていた(山口,2024)ことを契機としておこなった.

    先行研究 寺ヶ池の西側に南北方向の尾根を持つ,標高約160m,比高約50mの丘陵がみられ,大阪層群(鮮新-更新統)と段丘堆積層,および,安山岩が分布する.原田ほか(1963)によると,丘陵西部の小範囲に風化した花崗片麻岩がみられ,これを覆って厚さ約60cm の灰色泥岩,その上に,緻密で灰黒色の板状節理をもつ安山岩が重なるとしている.安山岩と泥岩との境界面はN50°E,40˚NWであり,板状節理の走向・傾斜はN70˚E,20~25˚Nと記載されている(原田ほか,1963).現在(2024年)の露頭条件では溶岩の下位層と岩体は確認されないが,板状節理の走向・傾斜は原田ほか(1963)に一致している.

    調査結果 原田ほか(1963)の示した安山岩の分布地点は大阪層群に覆われて,いったん露頭欠如となる.今回の調査では,この分布地点より約100m北側から,丘陵北端部までの約400mの範囲に安山岩の露頭を確認した.本報告では,原田ほか(1963)の安山岩分布域を南部,北側約100mより300mまでを中部,この先の約100mの丘陵北端部までを北部に区分する.中部と北部は,前者が南部と同じように板状節理を示すのに対し,後者はブロック状節理から柱状節理を示し,加えて,気泡が含まれることで区分される.

    岩石記載 南部~北部のすべてで,斑晶に直方輝石とかんらん石が含まれる.直方輝石のモード量は南部で1.85~2.06%(微斑晶を含めると,2.19~2.36%,以下( )内は微斑晶を含めた数),中部で1.44%(1.94%),北部で0.75%と,南部から北部へ少なくなる.また,南部と中部には集斑状の直方輝石や直方輝石の集積岩が含まれることがある.かんらん石斑晶は南部で0.63~1.33%(0.75~1.36%),中部で0.63% と少なくなり,北部ではわずかな量となる.石基は南部でガラス基流晶質組織,中部ではそれに加えて塡間状組織の部分がみられ,北部では全体が塡間状組織である.石基鉱物はおもに,斜長石と直方輝石で,南部での石基鉱物のサイズ(長径0.05mm)は中部・北部(長径0.1mm)に比べて細粒である.

    溶岩流の復元 ガラス基流晶質組織のなかに,南から北へのマグマの流動方向が推定される.これは安山岩溶岩が基底で下位層に北傾斜(N50°E,40˚NW)で重なる(原田ほか,1963)ことと一致し,寺ヶ池安山岩はより南側の火道から噴出し,北傾斜の古地形面を流れ下った可能性を示す.

    引用文献:原田哲朗ほか(1963)近畿地方の新期新生代層の研究Ⅲ:大阪南方,和泉地域の大阪層群.地球科学,66:1-8.巽 好幸(2003)安山岩と大陸の起源 ローカルからグローバルへ.東京大学出版会,213p.Tatsumi, Y. and Ishizaka, K. (1981) Existence of andesitic primary magma; An example from southwest Japan. Earth Planet Sci Lett 53: 50-71.山口卓也(2024)大阪府富田林・河内長野の火山岩産出地と嶽山龍泉寺西採集の石器.阡陵,88:6-9.

  • 古川 邦之, 平井 義敏, 上峯 篤史, 壷井 基裕
    セッションID: G-P-21
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    <はじめに> 岐阜県下呂市の湯ヶ峰 (標高1066.9m)は、0.102±0.006のK-Ar年代 (Matsumoto et al., 1989)を示す黒雲母流紋岩から構成されている (湯ヶ峰流紋岩; 山田ほか, 1992)。湯ヶ峰流紋岩中には黒曜石が特徴的に産出し、先史時代には石器石材として中部地方を中心に流通していた。湯ヶ峰流紋岩の分布や産状などの基本的な火山地質については、岩田・石原 (1988)において検討されている。溶岩の露出面積1km2以下、層厚300m程度の小規模な岩体で、複数枚の溶岩から構成されている。本研究では湯ヶ峰流紋岩の層序を明らかにし、観察事例の少ない流紋岩マグマの噴火推移を考察する。<地質調査結果> 湯ヶ峰は山頂周辺の長径約500m、比高約100mのドーム状の地形と、その南に約400mに渡って拡がる平坦な地形が特徴的である。ドーム部分は層厚約170mの湯ヶ峰溶岩 (平井ほか, 2024)で構成されており (岩田・石原, 1988; 石崎・安江, 1998)、湯ヶ峰の主要部をなしている。湯ヶ峰溶岩の内部構造はドーム部分西斜面で露出が良く、上位から多孔質流紋岩、上部黒曜石、縞状流紋岩、下部黒曜石に岩相区分される (石崎・安江, 1998)。これは一般的な流紋岩溶岩の内部構造と調和的である。またドーム部分の周縁部に沿って多孔質流紋岩や角礫化した黒曜石が分布しており、ドーム部分は同心円状に構造が発達していると考えられる。またその湯ヶ峰溶岩はドーム部分だけではなく南の平坦部に連続している。湯ヶ峰溶岩の基底部は北側ドーム部分および南側平坦部の両方で確認でき、ともに標高約890mで調和的である。つまり湯ヶ峰溶岩は、現在の山頂付近から南方に流動して溶岩台地を形成し、最後にドーム状地形を形成して噴出が終了したと考えられる。湯ヶ峰溶岩の直下には層厚10m以上の凝灰角礫岩から成る火砕岩層が分布する。さらにその下位には岩田・石原 (1988)により層厚約40mの流紋岩溶岩が確認されているが、本研究では発見できなかった。標高690-750m辺りには主に多孔質流紋岩から成る溶岩が分布しており、その下位に凝灰角礫岩から成る層厚20mほどの火砕岩層を確認できた。この火砕岩層は基盤岩である濃飛流紋岩と標高690mで接しており、湯ヶ峰の活動の最初期であることがわかる。また山頂の北西約560mの位置には、標高710-750mの範囲で、直立する流理を示す脈状の縞状流紋岩が分布している。この岩体の側面には複数の鉛直方向の溝状構造が多数確認できる。<含水量分析> 湯ヶ峰溶岩から3試料、標高710-750mの脈状の縞状流紋岩、そして最下位の火砕岩中に含まれる黒曜石片2試料の含水量をFTIR分析により求めた。その結果、湯ヶ峰溶岩は全試料0.15 wt.%、縞状流紋岩は0.68 wt.%、火砕岩中の黒曜石片は0.52と1.03 wt.%であった。メルトに溶存する含水量は圧力に依存するため、これらの値から静岩圧での深度を求めると、湯ヶ峰溶岩は地表、縞状流紋岩は約160m、火砕岩中の黒曜石片はそれぞれ約90m、370mとなる。<議論> 湯ヶ峰は主に、最上部の湯ヶ峰溶岩を含め最低でも合計3枚の溶岩から構成されることがわかった。ただし湯ヶ峰溶岩の直下の溶岩は確認できなかった。また湯ヶ峰溶岩と最下位の溶岩の直下には火砕岩層があることから、溶岩の噴出に先行して爆発的な活動があったと考えられる。標高710-750m の縞状流紋岩は地下約160mで形成されたことや脈状の分布から岩脈であると考えられる。側面に発達する溝状構造は火道を上昇する時に形成されたスリッケンラインだと考えられる。また最下位の火砕岩中に含まれる黒曜石片は含水量から、地表に噴出した溶岩を破壊したものではなく、地下のマグマを破砕したものである。これらの黒曜石片はWadsworth et al. (2020)のように、火道内部でのマグマの爆発により火道壁にマグマが付着し、それらがその後の爆発により侵食されて火砕岩中に混入したものだと考えられる。<引用文献> 平井ほか (2024) 旧石器研究. 岩田・石原 (1988) 『飛騨の大地をさぐる』. 石崎・安江 (1998) 地質学会第105年大会. Matsumoto et al. (1989) 地質調査研究報告. Wadsworth et al. (2020) Science Advances.

  • 佐藤 佳子, 熊谷 英憲, 岩田 尚能, 後藤 章夫, 伴 雅雄
    セッションID: G-P-22
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    蔵王火山は、東北日本火山フロントに位置し,約100万年前から活動を始め,現在まで活動を維持している。約3.5万年前より始まった蔵王火山の最新期活動では,珪長質のマグマだまりへの苦鉄質マグマの混合によって生成された玄武岩質安山岩~安山岩混合マグマが活動していることが最近の岩石学的研究によって示されている(e.g. Takebe and Ban, 2021)。このようなマグマ供給系では,深部からの苦鉄質マグマの注入がマグマだまりの活動の活発化をもたらすため,マントルに由来する成分の寄与を正確に推定することが重要である。東北地方太平洋沖地震以降,活発になっている火山活動の監視の観点からは,より短期的なマグマだまりの活動度の変動を観測できるデータが望まれている。

     2014年10月から火口湖であるお釜に変色(Fig.1)が見られるなどの活動の活発化がみられたことから(山形大・理,産総研, 2014),蔵王周辺の湖水(蔵王御釜)・湧水・温泉水について,試料水を採取し希ガスの同位体比と元素存在度を測定した。試料は,ヘリウム,ネオンの同位体比について,かみのやま温泉ガスの標準試料や希ガス同位体スタンダードHESJなどとの比較検討を行った。かみのやま温泉ガスの標準試料については,1983年に山形大学の年代・希ガスのグループで採取し,希ガス同位体を分離精製したものであり(e.g. 高岡,1985),海洋研究開発機構で保持する大気標準試料とあわせ,数少ない東北地方太平洋沖地震前のデータとしても重要である。

     松中ほか(2019)によると、火山活動との関連が疑われる2014年10月の火口湖白濁現象に起因する火口湖と地熱帯におけるヨウ素同位体比の変化は,火山活動と関連している可能性がある。これは2014年8月と10月に起こった火山活動の活発化に伴って,低い同位体比をもつヨウ素が地下から地熱帯と火口湖へ多く供給されたためと考えられている。

     希ガス同位体測定は,海洋研究開発機構に設置されている GV Instruments 製 GVI-5400He を用いて行った。試料の大気混入率を下げるため,水に含まれる希ガスを逃さないよう注意深くチャンバー内に導入し,測定に用いた。また,今回,海底資源探査などの環境水分析測定のための,前処理分析システム(Kumagai et al., 2017; Sato et al., 2019; 佐藤・熊谷,特許2020;Sato & Kumagai,EU国際特許2024)を使用して,測定前の希ガス精製前処理を行った。この希ガス前処理システムについては,硫黄や塩素などを含む温泉水や環境水から希ガス同位体分離の際に超高真空~極高真空中において,質量分析装置内の妨害元素となる,硫黄やハロゲンガスなどを除去する効果があり,通常分析で妨害元素となる水蒸気をトラップするコールドトラップ,ハロゲンガスなどを除去するTi-Zrゲッターとともに使用している。He同位体比については,1983年のかみのやま温泉ガスを分析データのリファレンス(e.g. 高岡, 1985; Hanyu and Kaneoka, 1997; Kumagai, 1999; Tamura et al, 2005)とした。

     He-Ne同位体比を用いて,湖水,温泉水などへのマグマからの寄与の検討を行った。He-Ne同位体比は大気とほぼ同じかと思われたが,わずかなマントル起源のガスの混入が示唆される有意な異常が認められた。本発表では蔵王周辺で採取された試料水のHe-Ne同位体に対するマグマ起源成分の寄与と,最新期火山の活動状況との関連を検討する。

     引用文献:Takebe et al., (2021) Bull Volcanol 83, 12. 山形大・理,産総研(2014),第130回火山噴火予知連絡会1-2.高岡(1985),火山,185-195.松中ほか(2019),日本陸水学会第84回金沢大会. Sato et al. (2019), DINGUE 6th 2019. Kumagai et al. (2017), DINGUE 5th 2017.佐藤・熊谷(2020), ガス分析用前処理装置及びガス分析用前処理方法,特許第6765117号. Sato & Kumagai (2024),PREPROCESSING APPARATUS AND METHOD FOR GAS ANALYSIS, EP特許番号:EP3176578.Hanyu and Kaneoka (1997), Nature, 273-276.Kumagai (1999), 東京大学学位論文.Tamura et al., (2005), IFREE REPORT 2003, 1-5.

  • 若園 映, 福山 繭子, 板野 敬太, 針金 由美子, 田村 明弘, 森下 知晃
    セッションID: G-P-23
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    Hornblende peridotite occurs in the Nishidohira metamorphic rocks in the southern Abukuma Mountains (Tagiri, 1971 Jour. Japan. Assoc. Min. Petrol. Econ. Geol.; Tanaka et al., 1982 Jour. Japan. Assoc. Min. Petrol. Econ. Geol.). This peridotite is characterized by large poikilitic hornblende grains with rounded olivine (± pyroxenes) grains (we call poikilitic hornblende peridotite hereafter). Poikilitic hornblende peridotite is frequently associated with granitic and metamorphic belts (e.g., Tiepolo et al., 2011 Jour. Petrol.; Itano et al., 2021 Lithos) and in the lower crust to upper mantle sequence of ophiolites (Ozawa, 1984 Jour. Geol. Soc. Japan; Ishiwatari 1985 Jour Petrol.) as a minor component. Poikilitic hornblende peridotite is also found as a sub-arc xenolith (Ishimaru et al., 2009 Jour. Mineral. Petrol. Sci.). The origin and tectonic implications of the poikilitic hornblende peridotite are unclear. The geochronological relationships of poikilitic hornblende peridotite and surrounding rocks provide essential information about their origin and tectonic implications. U-Pb zircon dating provides the timing of magmatic and metamorphic events. We report petrological characteristics and U-Pb zircon ages of the Nishidohira poikilitic hornblende peridotite. Poikilitic hornblende grains exhibit zoning in color and chemical composition, such as a dark core of high TiO2-Al2O3 and a green margin of low TiO2-Al2O3. The dark-colored core of hornblende contains numerous small ilmenite lamellae. Clinopyroxene often occurs in vermicular form with hornblende. Melt compositions calculated from hornblende and pyroxene core compositions based on melt-mineral partitioning (Shimizu et al., 2017 Geochim. Cosmochim. Act for amphibole, and Hart & Dunn, 1993 Contrib. Mineral. Petrol for clinopyroxene) are characteristic of continental arc magmas. The U-Pb zircon age for poikilitic hornblende peridotite is about 120 Ma, which is interpreted as a magmatic age. This period of arc magmatism is consistent with the U–Pb zircon age of gneissic granitic rocks in the studied area (Tagiri et al., 2011 Island Arc), suggesting the development of lower curst in prior to the widespread granitic plutonism in the southern end of the Abukuma Mountains at ca. 110–100 Ma (Takahashi et al., 2016 Island Arc).

  • 高橋 俊郎, 柴野 暉崇, 橋本 優生
    セッションID: G-P-24
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    北陸地域には漸新世から中新世にかけて形成された火山岩類が広く分布し,これらは日本海拡大に伴って形成されたと考えられている.能登半島には,漸新世から中新世に活動した火山岩類が広く分布しているが,各層の岩相が類似し,地質構造が複雑なため,活動時期が不明な火山岩類が少なく無い.能登半島北西部の赤神地域に分布する玄武岩溶岩および火砕岩類も,その活動時期は明らかにされておらず,岩相の類似性や累重関係から後期漸新世から前期中新世の間で活動したと推定されてきた.本報告では,この赤神地域に分布する玄武岩についての記載岩石学的特徴および岩石学的・地球科学的特徴を報告するとともに,それら特徴について周辺地域に分布する玄武岩類との比較を行った結果を報告する. -記載岩石学的特徴- 赤神地域の玄武岩は,カンラン石,単斜輝石,斜長石を主な斑晶としてもち,インターグラニュラー~インターサータル組織を呈す.最大で18vol%のカンラン石斑晶を含み,単斜輝石と斜長石はそれぞれ5vol%以下である.多くのカンラン石は粘土鉱物に変質しているが,未変質のカンラン石が認められることもある.カンラン石斑晶のFo値は最大で89を示し,単斜輝石のMg#は最大で87を示す. -全岩化学組成- SiO2は49-52wt%で,高いMgO(6-11wt%) ,低いTiO2(0.6-1.0wt%), K2O(0.3-1.0 wt%) を持つことで特徴付けられる.高いMgO含有量および低2れたと考えられる.N-MORB規格図では,赤神地域の玄武岩は典型的な島弧玄武岩のパターンを示し,東北日本弧の24-18Ma背弧側玄武岩類と火山フロント側玄武岩類(Shuto et al., 2015)との中間的なパターンを示す..-Sr-Nd同位体比- 87Sr/86Sr=0.70401-0.7042 ,143Nd/144Nd=0.5128-0.5129の組成範囲で,東北日本弧の24-18Ma玄武岩類の組成範囲の枯渇側と同様な組成範囲を示す.  赤神地域の玄武岩と,能登半島北部の他地域に産する後期漸新世から中期中新世に活動したと考えられている玄武岩類,例えば輪島地域に分布する後期漸新世の玄武岩(上松ほか,1995;Sato et al., 2015)や能登町周辺に分布する中新世の玄武岩類(柴野ほか, 2022)とを比較した.その結果,赤神地域の玄武岩は,輪島地域に分布する後期漸新世の玄武岩と非常に良く似た記載岩石学的特徴,岩石学的・地球科学的特徴を有していることが明らかとなった.柴田ほか(1981)は,輪島地域の安山岩から27.9-23.9MaのK-Ar年代値を報告し,上松ほか(1995)はそれら安山岩類に玄武岩が挟在されることから輪島地域の玄武岩もまた後期漸新世の活動で形成されたとしている.赤神地域の玄武岩と輪島地域の玄武岩の岩石学的特徴が類似していることは,赤神地域の玄武岩が後期漸新世に活動した,もしくは,後期漸新世から前期中新世にかけて同じような火成活動が間欠的に生じた,などの可能性を示唆していると考えられる. 引用文献上松ほか, 1995, 地質学論集, 44, 101-124柴野ほか, 2022, 日本鉱物学会2022年会柴田ほか, 1981, 岩鉱, 76, 248-252Shuto et al., 2015, Journal of Petrology, 56, 2257-2294

  • 大平 寛人, 中里 瑠花, 丸山 諒
    セッションID: G-P-25
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに

     島根県松江市玉湯町の花仙山(かせんざん)周辺で採掘される青めのう(碧玉)は古くから勾玉や装飾品材料として利用されてきた.採掘跡は100か所以上あり弥生時代から昭和50年代まで採掘が行われたとされる(松江市教育委員会,1978).玉造温泉街近傍のめのう公園には小さな採掘跡が保存されている.花仙山周辺には白めのう(玉髄)も産出し,碧玉や玉髄は中期中新世の大森層に相当する安山岩溶岩中に,脈状あるいは気孔を埋めるように産する.安山岩溶岩に由来する揮発成分が碧玉や玉髄の形成に関与したと考えられるが,それらの詳しい産状や薄片に関する報告は少ない.そこで今回主に青めのう(碧玉)脈の産状を報告するとともに,薄片観察,XRDによる変質鉱物の同定,EPMAによる反射電子線像の観察・分析を行ったので報告する.あわせて母岩の安山岩溶岩の変質についても検討した.

    安山岩溶岩と青めのう(碧玉)採掘坑跡の分布

     安山岩溶岩は花仙山を中心として松江市佐草町から同市玉湯町にかけて分布し層厚は最大500m以下とされる(鹿野ほか,1994).花仙山西麓の玉湯町付近では溶岩の層厚が薄くなり下位の大森層の砂岩を直接覆う.採掘坑跡は花仙山西麓の複数の地域に偏在しており(松江市教育委員会,1978),そのような場所で碧玉や玉髄の形成に関与する熱水が発達しやすい地質条件があったものと考えられる.

    青めのう(碧玉)脈と母岩安山岩の産状,鏡下での特徴

     めのう公園の主要な青めのう(碧玉)脈は厚さが最大約20cm,濃緑色〜淡緑色(一部は灰白色)を呈する不均質な産状で,複数の分岐細脈(厚さ数cm)を伴う.鏡下での特徴は濃緑色部と淡緑色〜灰白色部ではやや異なる.前者は全体に淡緑色を呈し珪長質隠微晶質でまれに微細な柱状鉱物(仮像)や不透明鉱物を伴う.後者は灰白色で部分的に淡緑色の領域を伴い,珪長質隠微晶質で,微細な石英や長石片(約0.1mm)および変質した褐色の有色鉱物を含む場合がある.青めのう(碧玉)脈周囲の安山岩溶岩は淡黄灰色に変質し脆く崩れやすい.鏡下では石基および有色鉱物の粘土化が著しく,まれに斜長石の一部が残存する.めのう公園からやや離れた安山岩露頭においては,未変質に近い試料から強変質試料,また微細な白めのう(玉髄)脈を伴う試料まで多様な産状が確認できる.岩石全体に気孔が発達する特徴があり,変質した試料では不定形〜扁平な気孔を淡褐色葉片状の粘土鉱物が埋めている.また白めのう脈と接する試料では微細粒状石英や,板状の沸石様鉱物が気孔を埋める場合がある.

    XRDによる鉱物の同定

     青めのう(碧玉)脈を,灰白色部,淡緑色部,濃緑色部に分け,XRDで検討したところ,灰白色部では石英+沸石類,淡緑色部および濃緑色部では石英+セラドナイトが検出され,濃緑色部ほどセラドナイトのピークが明瞭である.青めのう(碧玉)脈と接する変質安山岩から取り出した20μmと2μmの水ひ定方位試料では,前者ではスメクタイト+斜長石が,後者ではスメクタイト+ハロイサイト+黄鉄鉱が確認できる.スメクタイトはエチレングリコール処理や300℃加熱時のピーク挙動からも確認した.一方めのう公園からやや離れた変質安山岩の水ひ定方位試料(20μmと2μmのフラクション)ではスメクタイトやクリストバライトのピークが確認できる.これらの変質鉱物も碧玉や玉髄を形成した熱水が関与し一部はその後の風化作用により形成したものと考えられる.

    EPMAによる反射電子線像

     青めのう(玉髄)の濃緑色部の薄片では,まれに存在する微細孔隙(径約10μm)を満たすように,柱状・針状の自形セラドナイト(長径約1μm)の集合体が成長している.それ以外の平滑な基質部の組成は不均質で,SiO2に富む暗灰色の領域(SiO2が約90%)に,微細な明灰色柱状のセラドナイトが取り込まれ同化しているように見 える.淡緑色部の薄片の基質部は,よりSiO2に富み(約98.5%),石英成分がセラドナイトを覆うようにオーバープリントしている様子が確認できる.微細孔隙の内部の壁面には自形柱状の石英(長径約5μm)が成長しており,まれに葉片状の粘土鉱物が微細孔隙を埋める場合もある.

    まとめ

     玉湯町周辺の安山岩溶岩には気孔が発達し,変質した試料はスメクタイト,クリストバライト,石英,黄鉄鉱などの変質鉱物を含む.青めのう(碧玉)脈は主に石英とセラドナイトからなり,反射電子線像では石英成分がセラドナイトを覆うように発達する様子が確認できる.玉湯町の安山岩溶岩に碧玉や玉髄を形成するような熱水が発達した地質条件や熱水の温度などについてさらに検討する必要がある.

    引用文献

    鹿野和彦ほか(1994)松江地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1 地質図幅),地質調査所,126 p.

    松江市教育委員会(1987)玉作関係遺跡.島根県生産遺跡分布調査報告書Ⅵ,61p.

  • 壷井 基裕, 岡 祥司, 桃井 虹輝
    セッションID: G-P-26
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    ラマン分光法はラマン散乱を用いた分光法であり、分子振動に関する情報を得ることができる。近年ラマン分光法は様々な分野で用いられるようになってきており、地球科学分野でも岩石学・鉱物学を中心に数多くの研究がなされている。特に顕微レーザーラマンスペクトルを利用して微小領域における鉱物の同定や結晶性の評価などを行うことができる。また、微小領域分析を二次元に展開した顕微ラマンイメージングの手法により、マッピングを行うことができる。さらに得られたスペクトルデータについてケモメトリクスの手法で解析することにより、単一のスペクトルからは得ることが難しい様々な情報を得ることができるようになってきた。本研究ではこの手法の岩石の風化過程の研究への応用を試みた。研究対象とした岩石は花崗岩である。花崗岩類は西南日本に広く分布しており、近年これら花崗岩の風化に伴う土砂災害が多数発生している。花崗岩の風化過程ならびにそのメカニズムの研究はこれら土砂災害の側面からも大変重要であり、これまでにも様々な研究法により研究が行われてきた。本研究では、島根県雲南地域に分布する大東花崗閃緑岩をケーススタディとして研究を行った。大東花崗閃緑岩は島根県東部に分布しており、西南日本の花崗岩の分類においては山陰帯に属し(Ishihara, 1971)、角閃石黒雲母花崗閃緑岩から構成される。Rb-Sr鉱物全岩アイソクロン年代は54.4 ± 3.8 Ma (西田ほか, 2005)、ジルコンU-Pb年代は 56.62 ± 0.61 Ma(石原・谷, 2013)である。また、野口ほか(2021)により、産状や岩石記載ならびに全岩化学組成など、詳細な研究がなされている。本研究では大東花崗閃緑岩体から3地点において風化試料を採取した。同一地点において、その産状から風化程度を3段階に分けた。全岩化学組成分析は蛍光X線分析法により行った。主成分元素において、風化の進行に伴い、Al, Fe, Mg, Ca, Pが増加するとともに、Si, Kが減少する傾向がみられた。また、比較的新鮮な花崗岩と、風化した花崗岩に対して堀場製作所製の顕微レーザーラマン分光分析装置LabRAM Soleilにより顕微ラマン分光分析を行った。ケモメトリクス解析についてMCR法により抽出したローディングスペクトルから長石類、石英、チタン石、黒雲母の分布を可視化した。また、風化した花崗岩からは正長石、石英、マグネサイトまたはアナターゼ、チタン系鉱物、長石類、緑泥石類の分布を可視化することができた。

    引用文献 Ishihara (1971)地質学雑誌, 77, 441-452; 石原・谷(2013)資源地質, 63, 11-14; 西田ほか(2005)地質学雑誌, 111, 123-140; 野口ほか(2021)地質学雑誌, 127, 461-478

  • 髙橋 慶多, 沢田 輝, 小松 一生, 狩野 彰宏, 門馬 綱一
    セッションID: G-P-27
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    メラノフロジャイトは, シリカからなる結晶骨格の中にメタンや二酸化炭素などのガス分子を含むシリカクラスレート鉱物の一つである。しかし, シリカクラスレート鉱物は不安定で, 多くの場合二次的に石英化してしまうため, 産出報告は稀である。本邦では千葉県木更津市と南房総市の新第三紀堆積岩中のシリカ脈から報告されている(門馬ほか, 2011; Momma et al., 2020)。本発表では, 新たに北海道石狩市望来海岸から未変質のメラノフロジャイトを発見したので報告する。

     北海道石狩市望来海岸には, 新第三紀中新世後期の珪質堆積物からなる望来層が露出している。望来層中にはシロウリガイなどの化学合成生物群集の化石を含む炭酸塩ノジュールが報告されており(Amano, 2003), 深海の冷水湧出帯で形成された堆積物であると考えられている。その炭酸塩ノジュールの中から, 化学合成二枚貝化石の殻が溶脱するなどして空隙になった部分に, 方解石・ブドウ状の玉髄・オパール・石英・およびメラノフロジャイトが見出された。空隙を充填する鉱物は玉髄や石英の結晶が最も多く, メラノフロジャイトは空隙の最も内側に, 一辺最大 3 mm に達する無色透明の立方体結晶としてわずかに産した。立方体の表面は平滑なものが多いが, らせん状の成長線や骸晶になったものも見られる。また, 元々メラノフロジャイトだったと思われる立方体仮晶の石英も見られた。未変質のメラノフロジャイトを含んでいた炭酸塩ノジュールは, 珪藻化石・石英・斜長石・海緑石などを粒子として含んでいるほか, 炭酸塩鉱物+シリカ鉱物からなる脈が無数に見られた。

     ラマン分光分析を行ったところ, 2901cm-1 に鋭いピークが確認され, ゲスト分子はほとんどメタンのみであることが示された。上記のメタンのピークは 2910cm-1 に分裂しており, メラノフロジャイト中の 2 種類のケージの両方にメタンが包有されていることが示唆された。また, X線回折データを測定したところ, 正方晶系 P42/nbc に属すること分かった。光学的には等方体であったが, 正方晶系のメラノフロジャイトが非肉眼スケールの双晶をなしていると考えられる。精密化した格子定数は, a = b = 26.796(4) Å, c = 13.366(1) Åと計算された。さらに炭素酸素同位体比を測定したところ, メラノフロジャイトを含むノジュールのマトリクス部の炭素同位体比は+11.87~+13.04‰, 酸素同位体比は+2.04~+4.02‰であった。また, 方解石からなる二枚貝の殻の炭素同位体比は+10.26 ‰, 酸素同位体比は+3.62‰であった。

     以上の観察と分析から, 望来層のメラノフロジャイトおよびその母岩である炭酸塩ノジュールの形成過程を以下のように考察する。メラノフロジャイトを含むノジュールの炭素同位体比はすべて+12‰程度の正異常を示すことから, 硫酸還元帯におけるメタン酸化に伴うものではなく, メタン生成帯におけるメタン発酵によって発生した炭酸イオンからノジュールが形成されたと考えられる。有機物のメタン発酵によってメタンと二酸化炭素が発生し, この二酸化炭素が由来となって周囲の珪質な堆積物を取り込みながら炭酸塩ノジュールが形成された。その後, pHの上昇によって, シリカ・メタン・炭酸イオンを含む冷湧水から方解石・カルセドニー・メラノフロジャイトが晶出したと推測される。シリカの由来としては, 周囲の珪質な堆積物(珪藻化石や放散虫など)が考えられる。また, メラノフロジャイトに成長線や骸晶が観察されることから, この晶出は比較的速いプロセスであったことが示唆される。一方で多くのメラノフロジャイトは石英粒子やカルセドニーに置換されており, 準安定なメラノフロジャイトは形成後すみやかに仮晶化したと考えられる。

    引用文献

    Amano(2003) Veliger, 46, 90–96. 門馬ほか(2011) 日本鉱物学会2011年度年会講演要旨集, 129. Momma et al.(2020) Mineralogical Magazine, 84, 941-948.

  • 山崎 陽生, 江島 輝美, 昆 慶明, 荒岡 大輔
    セッションID: G-P-28
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    西南日本と東北日本との境界である棚倉構造線周辺には,白亜紀から古第三紀にかけて活動した深成岩類が分布しており,この地域の深成岩類の形成過程を明らかにすることは,西南日本と東北日本の深成岩類の火成活動場の連続性といった,東アジア縁辺部の深成岩類の形成過程を理解するうえで重要である。研究対象である岩船閃緑岩の北部には,前期白亜紀の八溝深成岩類の閃緑岩および斑れい岩1,2が,南部には後期白亜紀から古第三紀の筑波深成岩類3,4が分布しており,岩船閃緑岩は年代の異なる深成岩類の境界に位置している。そのため,岩船閃緑岩の火成活動年代と起源物質は,西南日本東部の火成活動境界および起源物質の年代による相違を明らかにする上で重要である。

    岩船閃緑岩の火成活動年代は,ジルコンU-Pb年代測定の結果から,筑波深成岩類と同時期の火成活動年代をもつことが明らかになった5。一方,岩船閃緑岩の起源物質については報告されていない。岩船閃緑岩は主に閃緑岩から構成されることが報告されているが6,本研究の地質調査では,閃緑岩と比較して苦鉄質鉱物を多く含む,斑れい岩質閃緑岩を確認した。斑れい岩質閃緑岩は,すでに報告されている閃緑岩と比較して,未分化な組成である可能性が高い。そこで,本研究では,岩船閃緑岩中の閃緑岩および斑れい岩質閃緑岩の全岩元素組成およびSr同位体初生値(SrI)を用いて,岩船閃緑岩の起源物質を明らかにする。

    今回新たに報告された斑れい岩質閃緑岩組成を含む岩船閃緑岩5試料と,基盤岩である八溝層群の堆積岩3試料について,全岩元素組成およびSr同位体分析を行った。その結果,斑れい岩質閃緑岩(SiO2:54.75–54.90 wt.%,SrI:0.70925-0.70938)は,主岩相である閃緑岩(SiO2:56.99–58.61 wt.%,SrI:0.70996-0.71023)と比較して未分化で枯渇した組成を示す。AFCモデルによるマスバランス計算により,斑れい岩質閃緑岩から岩船閃緑岩主岩相までの主成分・微量元素およびSr同位体組成変化を説明することができた。

    そのため,斑れい岩質閃緑岩の全岩元素組成およびSrIを未分化な岩船閃緑岩マグマの組成と仮定して,岩船閃緑岩の起源物質を議論する。 岩船閃緑岩マグマの起源物質の候補として,玄武岩質海洋地殻,下部地殻およびマントルかんらん岩が挙げられる。

    岩船閃緑岩マグマと,玄武岩質海洋地殻の部分溶融実験で生じるメルトの元素組成7とを比較した結果,同閃緑岩に類似する元素組成のメルトが生成する温度圧力条件は高い地温勾配の条件(8-27kbar,1000-1150℃)であることが示された。同様に岩船閃緑岩マグマと玄武岩質下部地殻の部分溶融実験で生じるメルトの元素組成8とを比較した結果,同閃緑岩に類似する元素組成のメルトが生じる部分溶融度は47 %であり,数値計算により示唆される下部地殻の部分溶融度の最大値(38%)9よりも高い値を示す。このことから,玄武岩質海洋地殻および玄武岩質下部地殻の部分溶融では,岩船閃緑岩マグマの生成を説明できない。

    従って,岩船閃緑岩マグマの起源物質はマントルかんらん岩であることが予想される。岩船閃緑岩と筑波深成岩類は同時期に形成し3–5,共に八溝層群の堆積岩に貫入しているため,両者の地下には類似したマントルかんらん岩が存在していたと推測される。岩船閃緑岩の形成時のマントルかんらん岩のSr同位体比は,マントルかんらんの部分溶融に由来する筑波深成岩類の斑れい岩4のSrI(0.70875-0.70977)10と類似していたと考えられる。本研究により新たに報告された未分化な岩船閃緑岩マグマのSr同位体比(0.70925)は,マントルかんらん岩のSr同位体比の範囲内であることから,岩船閃緑岩マグマの起源物質はマントルかんらん岩であることが明らかになった。

    引用文献

    1. Ejima et al., 2018, Arc 27, e12222.

    2. 江島ほか, 2019, 日本地球惑星科学連合大会要旨.

    3. Koike & Tsutsumi, 2018, Bull. Natl. Mus. Nat. Sci. Ser. C 44, 1–11.

    4. Wang et al., 2021, Int. Geol. Rev. 64, 2339–2358.

    5. 山崎ほか, 2021, 日本地球惑星科学連合大会要旨.

    6. 柴田ほか, 1973, 地調月報. 24, 19-24.

    7. Rapp & Watson, 1995, J. Petrol. 36, 891–931.

    8. Rudnick & Fountain, 1995, Rev. Geophys. 33, 267–309.

    9. Wolf & Wyllie, 1994, Contrib. Mineral. Petrol. 115, 369–383.

    10. Petford & Gallagher, 2001, Earth Planet. Sci. Lett. 193, 483–499.

    11. Arakawa & Takahashi, 1989, Contrib. Mineral. Petrol. 101, 46–56.

  • 川村 紀子, 松下 拓哉, 板宮 裕実, 杉田 律子, 山崎 俊嗣
    セッションID: G-P-29
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    Magnetic analysis of soil and sediment in room temperature is a non-destructive method, therefore it has been used geological and environmental investigations. Many illegal activities have been occurred in beach. In order to verify the usefulness of magnetic analysis in forensic research, the beach sediments were collected at nine sites from Shimokita Peninsula in Japan, were measured, and discussed whether the results reflect to regional characteristics. Concentration-dependent magnetic parameters: low-field magnetic susceptibility, anhysteretic remanent magnetization (ARM), and isothermal remanent magnetization (IRM) indicated relative higher values at sites where were located near the sedimentary mines of titanium (Ti) and iron (Fe). Results of thermo magnetometry suggest that magnetic carriers of the sediments are mainly magnetite (Fe3O4), and pyrrhotite (Fe7S8) is recognized around Ti-Fe mines sites. Result of the concentration-dependent magnetic parameter imply that the amount of magnetic minerals in the beach sediments will be regionally characterized. The IRM curves in low temperature are also characteristic per the sampling sites. The comparison of the magnetic grain size parameters to the Curie points also could characterize per the sampling sites. We think that magnetic analysis of the beach sediments will be an effective method to estimate the provenance of beach sediments in forensic research.

  • 波多野 瑞姫, 酒井 哲弥, 松尾 由鈴
    セッションID: G-P-30
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    島根県東部に分布する中新統古浦層・成相寺層からは,泥岩を基質とする基質支持の礫岩からなるインジェクタイトが見つかっている(酒井・松尾, 2023).ここでは岩床を構成するインジェクタイト,とくにそこに含まれる礫状の粒子の特徴を紹介し,その成因について考察する.

     ここで対象とするインジェクタイトは,古浦層の最上部に見つかったものである.古浦層(20-18Ma)の上部は,河川や氾濫原堆積物などの陸成層・汽水湖の堆積物から構成される.日本海拡大に伴う本格的なリフティングの初期の堆積物である.その上位に重なる成相寺層(18-15Ma)の下部は,黒色頁岩や水中火山の噴出物・貫入岩を主体とした地層で,リフティングの最盛期に形成された地層である.この層準での砕屑性貫入構造は,古浦層に貫入し,成相寺層下部形成時に噴出したと思われる安山岩の分布域の周辺で見つかった.

     今回,記載対象としたのは厚さ約2mの砕屑性岩床である.泥質な堆積物が境界部の上位にのめり込む産状を示すことから岩床と判断した.この地点の泥質な砕屑性貫入構造の内部は均質ではなく,局所的に見かけ上砂質になる部分や,礫が集中する部分がある.見かけ上砂質になる部分のサイズや形はさまざまである.基質には,堆積構造は見られない.岩床に含まれる細長い泥岩のクラストの配列等から,その内部には衝上断層様の構造がみられた.すなわち,それが停止した時には土石流と同様の挙動をしていたことが読み取れた.

     礫は細礫から大礫までさまざまなサイズが含まれ,その長軸は同じ方向を向いている.この堆積物の中には,一部に特異な構造が見られた.とくに岩床の下部で,露頭表面では礫に見える部分(長径3 - 5cm)を取り出し,切断すると,一部を除き,それらは礫ではないことがわかった(以下,礫様の粒子と呼ぶ).礫様の粒子は多様な特徴をもつが,これまでの観察で確認されたものの特徴を述べる.まず特異な例として,表面付近の灰白色で流理様の構造,一部に塑性変形を示す部分(以下,殻部と呼ぶ)とその内部の堆積物部(コア部と呼ぶ)からなる粒子がある.殻部の灰白色の部分(厚さ0 - 3mm 程度)は砕屑物粒子を取り込んだ流紋岩と解釈される.コア部には細礫サイズの礫を含む含礫泥,砂粒子のみがあり,粒子間はセメントで充填された例が見つかった.殻部とコア部との境界はうねっており,礫様の粒子ができた時には殻部もコア部もどちらも流体的な特徴を持っていたことがわかった.このほか,コア部を凝灰岩クラストなどが占めるものなども見られた.露頭面でみかけ砂質に見える部分を取り出してその断面を観察すると,その内部には凝灰岩のクラストの他,上記のコア部を構成する円形から楕円形をした含礫泥岩部が円形の粒子様のものをつくり,粒子間を流紋岩(堆積物粒子を多く含む流紋岩も見られる)が埋める様子が見られた.すなわち,フルイダルペペライトの特徴が見られた.このことから,ここで観察されたインジェクタイトは,マグマが貫入した際に周囲の堆積物が液状化・流動化(thermal fluidization)がトリガーであると解釈される.上記で記載した礫様の粒子の成因は現段階では不明であり,より多くの粒子の観察に基づいてその成因を議論する予定である.

    参考文献 酒井・松尾(2023)地質学会西日本支部講演要旨 O-17.

  • 菊地 一輝
    セッションID: G-P-31
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    徳島県鳴門市大毛島に分布する上部白亜系和泉層群板東谷層から,U字型のチューブの束からなる生痕化石が産出した.このU字型生痕化石は,裏打ちをもつU字型チューブの束であるという点では生痕化石Schaubcylindrichnusと類似するものの,後述するように裏打ちの構成粒子やチューブの内径分布は異なる.また,一般にSchaubcylindrichnusは陸棚以浅の浅海堆積物から特徴的に産出する一方,U字型生痕化石の産出層準の堆積環境は未報告である.そこで,本研究では大毛島に分布する板東谷層の堆積相解析を行った.そして,調査層準から産出したU字型生痕化石の形態観察とサイズ計測を行い,Nara(2006)が報告したSchaubcylindrichnusのトポタイプ標本と比較した.

    U字型生痕化石の産出層準は,大毛島北東部の海岸に分布する.本地域の板東谷層は,砂岩優勢砂岩泥岩互層とで泥岩優勢砂岩泥岩互層が5–10 mの間隔で繰り返すことを特徴とする.砂岩優勢砂岩泥岩互層は,級化構造と平行葉理が観察され側方連続性の良い層厚0.2–2.0 mのタービダイト砂岩層と層厚0.01–0.2 mの塊状泥岩層によって構成される.砂岩層の下面には西方向の古流向を示すフルートキャストが観察される.下位の泥岩優勢砂岩泥岩互層との境界付近では,砂岩層の層厚が0.2 m程度から1.0 m程度に変化する上方厚層化が認められる.また,砂岩層からは海底扇状地の上流部の堆積環境に特徴的なOphiomorpha rudis生痕亜相(Uchman, 2009)に属する生痕化石が産出する.一方,泥岩優勢砂岩泥岩互層は層厚0.5–1 mの砂質泥岩層と層厚0.05 m以下の砂岩層からなる.以上の特徴から,本地域の板東谷層は海底扇状地のフロンタルスプレー堆積物と解釈される.U字型生痕化石は砂岩優勢砂岩泥岩互層を構成する8枚の砂岩層に限って産出する.

    本地域から産出するU字型生痕化石は,U字型ないし弓型で砂岩が充填されたチューブと,黒色砂質泥岩によって構成された裏打ちからなる.チューブの伸長方向に平行な断面では,裏打ちの内部にチューブと平行または緩く斜交した葉理構造が観察される.チューブの片方の先端に,層理面に開口した漏斗状構造が見られることがある.また,裏打ちを除いたチューブの内径の範囲は3–12 mmであり,サイズごとにほぼ均一な頻度分布を示した.

    U字型生痕化石の形態的特徴はSchaubcylindrichnusと類似するものの,Schaubcylindrichnusの裏打ちは一般に無色鉱物で構成されることが多い(Kikuchi et al., 2016など).一方,Evans and McIlroy(2016)は,Palaeophycus hebertiSchaubcylindrichnusの形態の類似性を指摘し,P. hebertiの裏打ちに泥質堆積物が含まれることを報告した.このことから,本研究のU字型生痕化石も,Schaubcylindrichnus形成者と類似した生活様式の底生動物によって形成された可能性が高い.

    U字型生痕化石の産出層準が限られ,チューブ内径の小さい個体数が少ないことは,形成者が本来の生息場から調査層準の堆積場に運搬され,定着せずに一時的に生痕を形成したことを示す.Schaubcylindrichnusの産出報告は陸棚以浅の浅海堆積物に集中し,深海堆積物からの報告はほとんどない(Nara, 2006).Nara(2006)が報告したトポタイプ標本のチューブ内径の分布の範囲は2–8 mmで,2–5 mmの小型個体の頻度が卓越する.トポタイプ標本と異なり,本研究のU字型生痕化石は各チューブ内径の頻度分布がほぼ均一だったことは,この堆積場で形成者が繁殖しなかったことを示唆する.今後は,U字型生痕化石の分類学的検討を行い,堆積場の古水深などの堆積環境をより詳細に復元して生痕化石相モデルにおける位置づけを検討する必要があるだろう.

    引用文献

    Evans, J.N. and McIlroy, D., 2016, Palaeogeogr., Palaeoclimatol., Palaeoecol., 449, 246–254.

    Kikuchi, K.et al., 2016, Palaeogeogr., Palaeoclimatol., Palaeoecol., 443, 1–9.

    Nara, M., 2006, Palaeogeogr., Palaeoclimatol., Palaeoecol. 240, 439–452.

    Uchman, A., 2009, Palaeogeogr., Palaeoclimatol., Palaeoecol., 276, 107–119.

  • 林 広樹, 郷坪 春紀, 松岡 篤
    セッションID: G-P-32
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    南海トラフ地震発生帯掘削計画(NanTroSEIZE)は南海トラフで繰り返し発生してきたプレート境界型巨大地震の発生予測に資するため,四国海盆から変形前線を経て前弧海盆に至る多数の地点で掘削調査を実施してきた.国際深海科学掘削計画(IODP)第358次航海はその最終回となる科学航海で,Site C0024はそのContingency Siteのひとつとして,変形前線に近い付加プリズム先端部(東経136度4分20秒 ,北緯33度2分00秒, 水深3850 m)で海底下深度621.5 mまで掘削された.付加プリズム先端部は第316次航海でもSite C0006やSite C0007で掘削されたが,Site C0024ではそれらでは回収されなかった音響層序ユニットを貫いており,先端部における分岐断層群の発達史の復元に資するものと考えられる.

     Site C0024のHole B, C, D, E, Gで採取されたコアのコアキャッチャー試料,全52試料を処理し,48試料から14属45種の浮遊性有孔虫化石が得られた.化石の保存は中程度~不良程度で,殻の着色,変形や破壊がしばしば認められた.特に,深度100~200 m前後の比較的浅部に,局所的に変形個体が集中する層準が認められた.変形個体にはGloboconella inflataなど現生種が参加しており,古い地層からの再堆積の可能性は低い.母岩にはしばしば剥離面や剪断帯が伴われ,また,船上におけるコア記載や検層で認められた断層の分布と対応していることから,この変形には断層運動に伴う局所的な応力が影響している可能性がある.得られた種は多い順にGlobigerinita glutinata, Globigerina bulloides, Globoconella spp., Neogloboquadrina incompta等であり,これら上位5種で産出全体の59.3%を占める.年代指標種として,Globigerinoides ruber pink form, Globorotalia truncatulinoides, Neogloboquadrina asanoiなどが産出した.Site C0006やSite C0007で見られた断層による層序の反復は,Site C0024では認められなかった.得られた群集により,岩相ユニットIは完新統,岩相ユニットIIは下部~上部更新統,岩相ユニット3・4は上部鮮新統~下部更新統と考えられる.

  • 髙山 佳奈子, 林 広樹, 松岡 篤
    セッションID: G-P-33
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    IODP Site C0025はInternational Ocean Discovery Program(IODP)第358次研究航海のcontingency siteとして掘削された地点である.このSite C0025は熊野海盆の北西端付近(北緯33°24’05.4600”,東経136°20’09.1428”)水深2039.5 mのところに位置し,400.00~574.77 mbsfの区間で,回収されなかったコア2Rを除いて全18本のコアが採取された(Kimura et al., 2020).これらのコアの年代については石灰質ナンノ化石によると化石帯NN14—NN15/CN10~CN11からNN19/CN13b(1.34~4.13 Ma)と対比され,この年代に基づいてコアの7R~19R(457~574.775 mbsf)の区間における古地磁気の年代はガウス正磁極帯(2.581~3.596 Ma)に相当する可能性が指摘された(Kimura et al., 2020).ただし,厳密にみると矛盾する区間も認められた(Kimura et al., 2020). このことを踏まえ,本研究では浮遊性有孔虫を用いてSite C0025から採取されたCCサンプル(18試料)の年代と古環境の変遷の復元,そして他の周辺の地点から得られた同年代の浮遊性有孔虫生層序と対比し,熊野海盆周辺の古環境変遷の復元を行うことを目指した.その結果全てのコアで浮遊性有孔虫が産出し,17属55種が同定された.浮遊性有孔虫の全有孔虫に占める割合(P/T)比の平均値は75.2%,乾燥試料1g中に含まれる総浮遊性有孔虫数の平均値は5507.5個体であった.全18試料における産出頻度の上位7タクサはGlobigerinita glutinata, Neogloboquadrina s.l. (N. incomptaN. praeatlantica), Neogloboquadrina pachyderma, Globigerina bulloides, Globigerina falconensis, Globoconella spp.(G. conomiozeaG. inflataG. puncticulata), Globigerinoides ruberであった.これらの上位タクサは現在の熊野沖でも見られ,また,これまでの南海トラフ掘削の浮遊性有孔虫分析でも報告されている(例えばHayashi et al., 2011).また同定した浮遊性有孔虫群集をPAST (ver. 4.03)を用いて多様度(H),均衡度(eH/S),主成分分析,Rモードクラスター分析,Qモードクラスター分析を行った. Qモードクラスター分析結果から4つのグループに分けられ,更新世の区間については大局的に混合水塊の影響が卓越するものの,3層準でG. ruberなど暖流の要素(尾田・嶽本,1992など)が相対的に多産することから,この層準で暖流の影響が強くなったと考えられる. 年代指標種としてGloboturborotalita nepenthesDentoglobigerina altispiraShaeroidinellopsis seminulinaGloboturborotalita woodiGloborotalia crassaformisGlobigerinoides extremusGloborotalia tosaensisNeogloboquadrina asanoiGloboconella inflata modern form,Globigerinoides obliquusGloborotalia truncatulinoidesなどが産出した.浮遊性有孔虫によって復元した年代に基づくと,Hayashi et al. (2011)のIODP Site C0001の岩相ユニットⅠとⅡの境界付近と対比できると考えられる.謝辞:本研究ではIODP第358次航海で掘削されたコア試料を用いた.条線研究者の皆様をはじめ関係各位に感謝申し上げる.参考文献: Hayashi et al. (2011), Proc. IODP, Vol.314/315/316, doi:10.2204/iodp.proc.314315316.206.2011; Kimura et al. (2020), IODP Proceedings, Vol. 358, doi:10.14379/iodp.proc.358.105.2020, p. 1, 3—4, 11—12; 尾田・嶽本(1992), 第四紀研究, 31, 341—357.

  • 入月 俊明, 天野 敦子
    セッションID: G-P-34
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    三重県津市から東北東約10 km沖合の伊勢湾海底において,産業技術総合研究所により2本のボーリングコアが掘削された.天野ほか(2020)はこれらの岩相記載,放射性炭素と光ルミネセンスによる年代測定と珪藻化石群集の概査結果を基に堆積環境について明らかにした.この年代,堆積環境解析結果を基に,本研究ではこの地点における微小甲殻類の貝形虫化石群集の特徴を明らかにし,群集解析によって古環境を復元すること,さらに,第四紀における内湾貝形虫種の古生物地理に関して検討した.

     本研究で使用したコアは2本で,GS-IB18-1コアは水深21.66 m(コア長36 m),GS-IB18-2コアは水深22.91 m(コア長65 m)の海底から掘削された.

     結果として,両コアとも2層準に海成泥層が認められ,年代測定の結果,上層は完新世(MIS1),下層は最終間氷期(MIS5)の層準に相当し,いずれも貝形虫化石が含まれていた.MIS5層準の海成泥層の貝形虫化石は,GS-IB18-1コアで少なく,GS-IB18-2コアで多産した.両コアの貝形虫化石群集はお互い類似した種構成を示し,多様性が低くSpinileberis quadriaculeataCytheromorpha acupunctataBicornucythere sp. U,熱帯系のNeomonoceratina delicataを主体とする閉鎖的内湾奥から中央部の群集(例えば,池谷・塩崎,1993;入月・瀬戸,2004)に相当し,内湾の沖合性種はほとんど産出しなかった.

     一方,MIS1層準の海成泥層では,GB-IB18-1コアの約8000年前の層準から水深15 m前後の内湾中央部から沖合に生息するNipponocythere bicarinataKrithe japonicaが認められた.その上位の約7000年前の層準で密度や多様性が高く,急激な海水準上昇により外洋からの影響を受けるやや開放的な環境になり,海が最も拡大したことが示唆される.内湾沖合の泥底に生息するAmphileberis nipponica(Irizuki et al., 2018)も産出したため,水深も20–30 mと推定される.その上位でも引き続き,K. japonicaが最多産種となる群集が認められたため,水深20–30 mの湾中央部泥底環境が維持されたと推定される.GB-IB18-2コアでは,最下部の約10000年前の層準は,汽水性種も混在する閉鎖的内湾奥砂泥底種の卓越によって特徴づけられ,海進初期の水深数m程度の内湾奥砂泥底と推定される.その上位に関しては,GS-IB18-1コアと同じような群集変化を示した.

     以上のように,MIS5とMIS1との間で全く異なる貝形虫化石群集が認められた.MIS1層準の方が沖合性種を多く含むため,古水深に関して,現在の伊勢湾の方が深かったと判断される.また,MIS5層準から産出した優占種のBicornucythere sp. Uは,紀伊水道から西側の太平洋沿岸の内湾や瀬戸内海東部に生息する温暖種であるが,更新世には少なくとも関東地方まで分布を広げた種である(入月ほか, 2011).一方,N. delicataは現在トカラ海峡以南から東南アジアにかけての内湾に生息する熱帯系温暖種であるが,更新世では同じく関東地方まで分布を広げ,最終氷期以降,九州以北では消滅したと考えられている(Irizuki et al., 2009).以上のことから,MIS5の方が,現在より沿岸域への黒潮の影響が強く,水温が高かった可能性が考えられる.しかしながら,底生貝形虫は幼生段階で浮遊性期間がなく,移動能力に乏しいため(Boomer, 2002),最終氷期(MIS2)における海水準と古水温の低下により内湾の温暖種が消滅し,その後の温暖化・海水準上昇に転じても西から東に移動できていないことも考えられる.どちらの仮説がより可能性が高いかについては,今後も引き続き検討する必要がある.

    引用文献:天野ほか(2020)地質調査総合センター速報, 81: 25–33.Boomer (2002) In Haslett, ed., Quaternary Environmental Micropalaeontology, 115–138.池谷・塩崎(1993)地質論,39: 15–32.入月・瀬戸(2004)地質雑,110: 309–324.Irizuki et al. (2009) Palaeo3, 271: 316–328. 入月ほか(2011)地質雑,117: 35–52.Irizuki et al. (2018) Laguna, 25: 39–54.

  • 谷川 亘, 中村 璃子, 多田井 修, 中島 亮太, 山口 飛鳥, 山本 哲也, 野口 拓郎, 山本 裕二
    セッションID: G-P-35
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    プラスチックから製造された生活・産業廃棄物の現世堆積物への混入は、人間活動の記録を地層中に保存する役割を果たす。一部のプラスチックは耐候性に優れているため、埋没後も長期間化学的特徴を保持している可能性が高い。2023年に実施した桧原湖沿岸の陸上発掘調査において、陶磁器片、ガラス片、クギなどの近現代の「遺物」に混ざって、プラスチック製と思われる小型玩具を発掘した。玩具は株式会社バンダイ製の「キンケシ」(週刊少年ジャンプに連載されていた漫画「キン肉マン」のキャラクターを模したカプセルトイ)の初期の製品(ロビンマスク、パート1)と類似していた。しかし、製造元に確認したところ、「実物よりも一回り小さいため、本物とは断定できない」という回答をいただいた。そこで本研究では、非破壊分析による岩石物理化学的評価を基にした玩具の同定を試みて、カプセルトイの示準化石としての利用可能性について検討を行った。3DX線顕微鏡を用いた微細内部構造観察、携帯型と連続スキャン型の非破壊蛍光X線分析(XRF)による元素分析、μXRFによる元素マッピング、μXRDを用いた鉱物同定、およびFT-IR(ATR法)による非結晶物質の同定を行った。さらに発売時期の異なるキンケシについて物理化学的特徴を比較した。遺物は長さ39.6mm、質量3.4g、密度1.59g/cm3を示し、本物のキンケシの長さは46mm、質量4.5g、密度1.47g/cm3を示した。成分分析の結果、本物のキンケシは、ポリ塩化ビニル(PVC)、炭酸カルシウム、フタル酸エステル系可塑剤から構成される軟質ポリ塩化ビニル樹脂であることがわかった。各構成比は27:40:33の割合である。また、3DX線顕微鏡分析の結果、遺物は胴体中心部に直径0.1mmほどの穴(空隙)が発達していた。ただし、穴全体の空隙率は約0.1%のため、密度には影響を及ぼさない。XRF分析の結果、遺物は本物と比較して塩素、鉛、ケイ素の増加、およびカルシウムの減少が認められた。μXRDとFT-IR分析の結果、遺物は本物と同じ炭酸カルシウムとフタル酸エステル系可塑剤を含有していることが確認できた。製造年代が新しいキンケシは、古いキンケシと比較して塩素濃度が高く、カルシウム濃度が低く、密度が低くなる傾向が認められた。さらに可塑剤については、年代の古い玩具はフタル酸エステル系で、年代の新しい玩具は非フタル酸エステル系からなることがわかった。 本研究の結果、遺物のキンケシは原物と比較して物理化学的な特徴が大きく異なることが明らかとなった。一方でこの違いは①可塑剤の溶脱、②土壌中の鉛と充填剤中のカルシウムとのイオン交換反応、により説明できる。例えば、遺物の体積と重量の減少は①により説明できる。また、塩素濃度と鉛濃度の増加、およびカルシウム濃度の減少は②で説明できる。遺物の密度の増加は①の要素だけでは説明ができないが、①と②の両方の要素を踏まえると説明可能である。有機溶媒(パラフィン)にキンケシを漬け込むと体積、重量は大きく減少した。一方、発掘地点の土壌に漬け込んでも変化は起こらなかった。フタル酸エステル系可塑剤は微生物や有機物を多く含む河川水には迅速に溶脱することが明らかとなっていることから、本研究では評価できていないが、土壌中の間隙水が遺物中の可塑剤の溶脱に大きな影響を与えていると考えらえる。また、キンケシに硝酸鉛を漬け込んだ実験を実施しているが、1か月程度ではカルシウムと鉛の明確な交換反応は確認できなかった。なお、陸上発掘地点付近には江戸時代から昭和中期まで稼働していた鉱山(桧原鉱山)の採掘跡地があり、発掘現場にも多くのズリを確認した。そのため、鉱山開発と関連する鉛がソースとなり、遺物に変化をもたらした可能性がある。発掘されたキンケシは1983年から1987年の期間に製造されたものである。そのため、キンケシが混入していた土壌は1983年以降の堆積物だと解釈できる。1983年以降、現在に至るまで、様々なシリーズのキンケシが販売されているが、製造期間やシリーズごとに物理化学的な特徴が異なることが分かった。特に、1990年頃からフタル酸エステル類の規制の拡大により、同時期以降に製造されたキンケシも非フタル酸系の可塑剤に代替したものと考えらえる。キンケシは累計約1億8千万個の販売実績があり、カプセルトイ市場はいまもなお急拡大している。そのため、今後本調査と同様に堆積物中にカプセルトイが混入する事例の増加が見込まれる。過去に製造されたポリ塩化ビニル製玩具の物理化学的な特徴をリスト化しておくことで、未来の指標化石としての活用が期待できる。 【謝辞】本研究はJSPS科研費 JP22H00028の助成により実施。株式会社バンダイ社から情報提供等の協力いただいた。

  • 天野 敦子, 児玉 信介, 宮川 歩夢, 板木 拓也
    セッションID: G-P-36
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    プラスチックによる海洋汚染は国際的に削減するための条約制定が議論されるなど,近年,非常に関心の高い問題となっている.大きさが5 mm以下のプラスチックは,環境下で紫外線,熱,風波などによって物理的に破砕,微細化したものである.微細化される過程を把握するためには,5 mmよりも大きなメソ(5~25 mm),マクロ(25 mm~1 m)のプラスチックの海域へと流出する量や過程は有用な情報になる.産業技術総合研究所では沿岸域の地質情報整備のために,2021年12月に紀伊水道で表層堆積物の調査を行い,その中から多数の5 mm以上のメソ・マクロプラスチック(プラスチック)を取得し,その一部を近赤外スペクトル測定でプラスチック組成を明らかにした(天野ほか,2022;児玉ほか,2022).本研究では採取された全てのプラスチックをフーリエ変換型赤外光分析(FT-IR)の全反射測定法(ATR)で判定した.さらに,プラスチック個数や分析結果と堆積物の粒度,元素濃度とを比較し,プラスチックの移動過程について検討した. 堆積物採取地点全29地点の内14地点で46個のプラスチックが採取された.プラスチックが採取された地点は徳島を流れる吉野川,那賀川や和歌山を流れる紀ノ川,有田川の河口沖合で多い.各地点で採取されたプラスチックの個数は大多数が1~2個であったが,吉野川,那珂川河口沖合の地点では4~16個と多いことを示す.FT-IRで測定したプラスチック組成判定は近赤外スペクトル測定結果と一致する.採取されたプラスチックの50%がポリエチレン(PE)で,次いでポリ塩化ビニル(PVC)が22%,ポリプロピレン(PP)が9%で,複数種のプラスチック混合物は13%であった.堆積物の粒度分布は紀伊水道の西部では6~7φと相対的に細粒,東部では3~5φと粗粒であることを示し,さらに紀淡海峡,鳴門海峡や太平洋と接合付近では2φ以上の粗~極粗粒砂や礫へと粗粒化する.全有機炭素(TOC)濃度は吉野川,那珂川河口沖合では1.2%以上,紀ノ川河口沖では1.0%以上と高く,粒度の粗粒化に伴い減少する.プラスチックは河口沖合で多いことから,陸域から河川を通じて流入していると言える.堆積物の粒度とTOC濃度は河口沖合で細粒,高いことを示すが,紀伊水道の西部の方が東部に比べてより細粒,高いことを示す.紀伊水道東部は太平洋から底層を通じて流入する高塩分水塊や紀淡海峡周辺の速い海流の影響を受けて,細粒粒子や有機物が拡散,移動しやすく,一方,西部は停滞的で細粒粒子や有機物が堆積しやすい環境といえる.そのため,東部では河川から流入したプラスチックが移動しやすいために堆積物中のプラスチック個数が少なく,反対に停滞的な西部で多いと考えられる.今後,堆積物の元素や微化石などを基に紀伊水道の粒子起源や堆積環境について明らかにし,プラスチックのサイズ,形状なども加えて,プラスチックの移動,堆積過程について検討する.謝辞:本研究は環境総合推進費1-2204「海洋流出マイクロプラスチックの物理・化学的特性に基づく汚染実態把握と生物影響評価(JPMEERF20221004)」とJSPS科研費23K03564の助成を受けて実施した.引用:天野ほか(2022)地質調査総合センター速報, no.83, 27-32.;児玉ほか(2022)地質調査総合センター速報, no.83, 33-39.

  • 瀬戸 浩二, 香月 興太, 園田 武, 山田 和芳
    セッションID: G-P-37
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    亜寒帯気候に属する北海道東部オホーツク海沿岸には,多くの汽水湖が分布する.藻琴湖は,網走市東部に位置する面積約1.1㎢,最大水深5.8mの小さな富栄養汽水湖である.この湖沼は流域からの汚濁負荷が相対的に高く,富栄養化の原因となっている.また,湖水には密度成層が認められ,夏季には底層に無酸素水塊が形成されている.そのため,藻琴湖では.有機質の砕屑性年縞堆積物で構成されている.このような年縞堆積物の存在する湖沼では,年レベルの古環境解析が可能であり,フラックスに換算するのが容易である.それを解明するために,藻琴湖において2本の20m級のボーリングコア(18Mk-1B,2Bコア)と1本の2m級の押し込み式コアラーによるコア(18Mk-8Cコア)を採取した.本講演では, CNS元素分析や粒度分析など高解像度分析から過去約1000年の古環境変遷について述べる. コアリングは,2018年2月の結氷期に行なった.コアリング位置は,藻琴湖湖心付近(東経144°19.173’:北緯43°57.412’)の水深4.5mの地点である.18Mk-8Cコアは,表層からコアリングし,コア長は176cmである.2015年と2016年に形成されたラミナセットが確認され,ほぼ表層から不かく乱で採取されているものと思われる.18Mk-1B, 2Bコアは,湖水面から5m下から1m間隔のシンウォールで採取された.コア長は約19mである.そのほとんどがラミナを伴う泥質堆積物で,下位2mが塊状または生物擾乱を伴う泥質堆積物であった.これらのコアからは明瞭なテフラが3枚確認された.最上位のテフラは樽前-a(Ta-a)テフラで,西暦1739年に降下した火山灰である.その下位は,駒ヶ岳-c2(Ko-c2)テフラで西暦1694年のものである.深度約6mには, 摩周-b(Ma-b)テフラが見られ,10世紀を示している. 近年では,2011年以降,全有機炭素(TOC)濃度は3〜4%を示し,全イオウ(TS)濃度が0-1%と相対的に低い傾向にある.これは藻琴湖の富栄養化の抑制に起因するのではなく,降水の増加による有機物の希釈に起因すると考える方が妥当である.西暦2011年以降,1週間の総降水量が100mmを越える降雨がほぼ毎年のように観測されており,その観測結果は超高解像度のCNS元素分析結果と一致している.西暦2011年以前では,TOC濃度は4-5%,TS濃度が1-3%とやや高い値を示している.一方で西暦1920年以前のTOC濃度は6%以上,TS濃度は3-4%と近年と比較して高い値を示している.特に1800年代中半ではTOC濃度が10%以上を示している.しかし,年間のフラックスに換算するとむしろ低く,堆積速度の低下によって濃縮したものと思われる.TOCフラックスは1920年代の0.01g/cm2/yrから0.03g/cm2/yrと増加する傾向を示しており,そのころから富栄養化が進行したものと思われる.それ以前も0.01から0.02g/cm2/yrを示している.摩周-b(Ma-b)テフラ付近の層準では,テフラ層準を除いて,TOC濃度が7-9%と高い値を示し, 40年から50年の周期的な増減が見られる.TS濃度は2.5から4.0%を示し,1800年代から大きく変わっていない.この間は,富栄養で還元的な環境が継続していたものと思われる.

  • 片岡 香子, 卜部 厚志, 長橋 良隆
    セッションID: G-P-38
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    火山麓扇状地やその近傍の狭い谷には,岩屑なだれ堆積物や土石流堆積物と洪水堆積物が局所的に堆積することがある(Smith, 1991).福島県磐梯山の南麓には,溶岩地形や岩屑なだれによる流れ山地形の間に,扇状地が発達する.この扇状地堆積物は,岩屑なだれ堆積物や土石流堆積物,水流による堆積物から構成されており,磨上原(すりあげはら)泥流堆積物や砂川層(吉田・鈴木,1981;中馬・吉田,1982),磨上原扇状地堆積物(山元・須藤,1996)とよばれ,山元・阪口(2023)では,火山麓扇状地1堆積物としてまとめられた.一方,東麓には山頂付近から南南東に延びる琵琶沢を軸として,扇状地地形が発達しており,表層部は,琵琶沢岩屑なだれ堆積物や1888年噴火によるラハール堆積物で覆われている(山元・須藤,1996;山元・阪口2023).

    本研究では,磐梯火山南麓と東麓の2地点で新たにボーリング掘削を行った.調査地点は,磐梯火山南麓斜面の猪苗代町長田(PPT2018コア:北緯37度33分20.68秒,東経140度4分21.97秒:山元・阪口(2023)の火山麓扇状地1堆積物に相当)と,東麓斜面の延長で,長瀨川の河川作用の影響を受けた地形面上の猪苗代町三郷堀切(OJK2015コア:北緯37度34分15.78秒,東経140度7分36.15秒:山元・阪口(2023)の琵琶沢岩屑なだれ堆積物に相当)である.掘削されたコア堆積物からは,過去約5万年間の火山麓扇状地および沖積堆積物の岩相と層序,および,磐梯山・安達太良山に由来する複数の岩屑なだれやラハール堆積物の存在が明らかとなった.

    PPT2018コアは掘削長が25 mであり,基底から深度18.6 mまでは基盤となる更新統・白河火砕流堆積物(吉田・高橋,1991)が認められる.この白河火砕流堆積物を層厚1.5 m程度の翁島(おきなじま)岩屑なだれ堆積物(約50,000年前)が直接覆い,翁島岩屑なだれ堆積物中に磐梯葉山1火砕堆積物(山元・須藤,1996)の薄層が挟まる.そこから深度約7.5 m付近にある有機質シルト層(14C暦年較正年代値:約33,000〜32,000年前)までの区間に,ラハールあるいは岩屑なだれの堆積物が少なくとも6層挟まれる.その上位は,砂層・泥層を主とし,礫層を挟む,河川性堆積物が卓越する.

    OJK2015コアは掘削長が51 mである.全体的に,礫層・砂層を主体とし,淘汰が中間で,円磨された安山岩・花崗岩・火砕岩・堆積岩の礫を含むことから,網状河川システム環境が卓越していたと考えられる.深度48 m付近に含まれる材片の14C年代値(較正値)は約52,400〜48,600年前であり,約5万年前の翁島岩屑なだれ発生による河川のせき止めと,猪苗代湖形成初期(長橋ほか,2016,Kataoka and Nagahashi, 2019)の時期に近い.深度29.4 mから26.4 mは,層厚数10 cm,塊状・不淘汰の複数枚のユニットと層厚数cmから10 cmの有機質シルト層との互層となっている.青灰色から明灰色を呈す2層の不淘汰ユニット(M1,M2)は,基質支持で基質に泥分を含み,径1 cmまでの安山岩や白色岩片など雑多な種類の亜角から亜円礫を含み,ラハール堆積物と解釈できる.また,粗粒砂から中粒砂サイズからなる1層の暗茶色ユニットは,数mmの岩片を含む.これら塊状ユニット間に挟まる複数の有機質シルト層からは,約36,800〜36,100年前から約34,000〜33,200前の間の14C年代値(較正値)を得た.M1およびM2ユニットの特徴は,安達太良山下流域の酸川盆地で見られる泥質ラハール堆積物(片岡ほか,2015)に類似し,酸川盆地で掘削されたコア中に,同様の年代を示すラハール堆積物が複数認められていることから(片岡ほか,2021),M1およびM2ユニットも安達太良山を起源とする同じ頃の活動時期の堆積物である可能性が高い.深度20.5 mから18 mは砂層と泥層の互層からなる氾濫原堆積物と解釈でき,深度 20 m付近には姶良Tnテフラ層(町田・新井,1976:約3万年前)が挟在する.また,深度15 mから14.2 mの不淘汰堆積物中から約7400〜7300年前,深度8.1 mから0.5 mの不淘汰堆積物の基底から約2400〜2300年前 の14C年代値(較正値)を得ており,前者は小水沢岩屑なだれ堆積物(千葉・木村,2001)に対比できる可能性があり,後者は琵琶沢岩屑なだれ堆積物に対比できる.

    文 献:千葉・木村(2001)岩石鉱物科学.中馬・吉田(1982)福島大学特定研究「猪苗代湖の自然」.Kataoka and Nagahashi (2019) Sedimentology. 片岡ほか(2015)火山.片岡ほか(2021)地質学会講演要旨.町田・新井(1976)科学.長橋ほか(2016)裏磐梯・猪苗代地域の環境学.Smith (1991) SEPM Spec. Publ. 山元・須藤(1996)地調月報.山元・阪口(2023)地域地質研究報告.吉田・鈴木(1981)福島大学特定研究「猪苗代湖の自然」.吉田・高橋(1991)地質雑.

  • 竹下 欣宏, 廣内 大助, 近藤 洋一, 関 めぐみ, 花岡 邦明, 野尻湖 地質グループ
    セッションID: G-P-39
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに

     長野県北部の野尻湖西方において,2019年に断層露頭が出現したことにともない北東南西方向に6kmほど追跡できる変動地形が見つかり(廣内・竹下,2020),向新田断層と仮称された(竹下ほか,2021).断層露頭では多数のテフラ層の他,約30kaの姶良Tnテフラ層の降灰層準が断ち切られている(竹下ほか,2023a).向新田断層は,断層露頭の変形構造と地形に基づき北西側隆起の逆断層であると考えられる.この断層の上盤側と下盤側でトレンチおよびボーリング掘削により地下地質が調査され(図1),テフラ層の対比とそれらをはさむ水成層の層相に基づいて,約4.4万年前から現在までの間に,垂直方向に約12mの変位があったことが明らかにされた(竹下ほか,2023b).さらに今回,野尻湖周辺における古水系の変遷が解明されたことおよび2020年に断層の上盤側で掘削されたトレンチ調査の結果に基づき,過去約6.8万年間におおよそ27mの垂直方向の変位があったことが明らかになったので報告する.

    野尻湖周辺の古水系の変遷

     断層露頭の南西側で掘削された全長18mのボーリングコア(AK21)の深度16.18~9.70mを構成する礫層の礫組成,テフラ対比および14C年代測定値に基づき,現在は長野盆地側(南側)の千曲川へ合流する鳥居川が,約3.4万年前より以前は新潟県側(北側)の関川へ流入していたことが明らかになった(宮崎・竹下,2024).さらに野尻湖西方の池尻川低地で掘削された全長18mのボーリングコア(IJ20)の深度11.70~13.81mを構成する礫層に含まれる特徴的な礫(長径0.5~1.0cmの角閃石斑晶を含む安山岩)およびその礫層の層位から,北側へ流れる鳥居川(古鳥居川)は,約6.8万~6.5年前にかけて,池尻川低地の中を通り抜けていたことが明らかにされた(竹下・渡辺,2024).

    向新田断層における過去約6.8万年間の垂直変位量

     以上の成果に基づくと池尻川低地の西側に見られる比高約20mの急斜面は,約6.8~6.5万年前に古鳥居川の侵食作用によって形成された攻撃斜面の可能性が高く,その東側に流路があったと考えられる.2020年に掘削された深さ3.3mのトレンチ(NDT20)は,この古鳥居川の流路に当たる.したがって,古鳥居川が池尻川低地の中を通り抜けていた期間(約6.8~6.5万年前)においては,現在の池尻川低地とNDT20はほぼ同じ標高であったと考えることができる.

     IJ20コアの坑口の標高は651.07mで,深度13.81m(標高637.26m)に池尻川岩屑なだれ堆積物(石井・野尻湖地質グループ,1997)の上面が位置し,角閃石斑晶の目立つ安山岩礫を含む礫層が直接覆っている(竹下・渡辺,2024).池尻川岩屑なだれ堆積物は,テフラ層との層序関係に基づき,約6.8万年前に形成されたと推定されている(長橋・石山,2009).これに対して,NDT20は池尻川低地西側の標高666.6m地点に位置しており,池尻川岩屑なだれ堆積物に対比される灰~紫灰色火山角礫層の上面が深度2.3m(標高664.3m)に確認された.さらに,厚さ20~25cmの亜円から亜角礫層(礫径5~15cm)がこの火山角礫層を直接覆っており,これが古鳥居川の堆積物に相当すると考えられる.

     以上のことを考え合わせると,池尻川岩屑なだれ堆積物が形成された約6.8万年前から現在までの間に,向新田断層の活動によって垂直方向に27.04m(標高664.3m-標高637.26m)の変位が生じたと考えられる.IJ20コアに挟まれるテフラ層を基準として,向新田断層は約4.4万年前から現在までの間に約12mの垂直変位があったと推定されている(竹下ほか,2023)ので,単純に計算すれば約6.8~4.4万年前の約2.4万年間に約15mの垂直変位があったことになる.

    引用文献:廣内・竹下(2020)日本活断層学会2020年度秋季学術大会講演予稿集,24-25.石井・野尻湖地質グループ(1997)野尻湖ナウマンゾウ博物館研究報告,5,9-18.宮崎・竹下(2024)野尻湖ナウマンゾウ博物館研究報告,32,1-10.長橋・石山(2009)野尻湖ナウマンゾウ博物館研究報告,17,1-57.竹下ほか(2020)日本活断層学会2020年度秋季学術大会講演予稿集,22-23.竹下ほか(2023a)日本活断層学会2023年度秋季学術大会講演予稿集,45-46.竹下ほか(2023b)日本地質学会学術大会講演要旨第130年学術大会(2023京都)(https://doi.org/10.14863/geosocabst.2023.0_485).竹下・渡辺(2024)野尻湖ナウマンゾウ博物館研究報告,32,11-24.

  • 道家 涼介, 黒澤 英樹, 倉橋 奨, 佐藤 善輝
    セッションID: G-P-40
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    プレートの沈み込み帯で発生する地震に伴う隆起が長期間に渡って蓄積すると、陸地の海側に高まり(逆傾斜地形)が形成される。この変動域の陸側の末端部はヒンジラインと呼ばれ、凹地状の地形を呈する。沈み込み帯におけるヒンジラインの地球物理学的な意味としては、プレート境界断層の深部における固着域とクリープ領域の境界域を地表に投影した位置と考えられ(池田ほか、2001)、南海トラフ周辺の室戸岬における例では、地震時、地震後、地震間のいずれの時期においても、ヒンジライン周辺の地殻の上下変動成分がゼロに近いという特徴がある(鷺谷、1999)。したがって、ヒンジラインの位置・形状および周辺で発生する地殻変動は、プレート境界の深さや形状、その固着状況に関する情報をもたらすと考えられる。

     神奈川県周辺においては、「秦野―横浜構造線」と呼ばれる東西方向に伸びる凹地状の地形が、後期更新世に相模川などによって形成された河成段丘面上に存在すること知られており、相模トラフからフィリピン海プレートが沈み込むことによって形成されたヒンジラインと考えられている(町田、1973)。一方で、このヒンジラインは、相模川の東西で大きく走向を変え、相模川以東の神奈川県東部では、北西―南東走向の相模トラフの走向と大きく斜向し、東北東―西南西走向となる。こうしたヒンジラインの特徴は、伊豆半島衝突によるプレート境界の屈曲や、相模トラフにおけるフィリピン海プレートの斜め沈み込みなど、この地域の複雑なテクトニクスを反映している可能性がある。また、2000年代以降、地震・測地学的な研究の進展により、関東地震時の断層モデルや、相模湾周辺地域のプレート構造に関する理解が進んでおり(Kobayashi and Koketsu, 2005; Abe et al., 2023など)、そこから推定される沈み込み様式と、地形・地質などから得られる情報を関連づけることにより、この地域で繰り返し発生する関東地震など、首都圏直下を襲う地震の具体像を明らかにすることが急務である。

     本研究では、神奈川県周辺に位置するヒンジラインの構造・成因について、様々なデータを用いて、異なる時間スケールにおける変動から理解することを目指している。本発表では、予察的に実施した重力異常データの解析と干渉SAR地殻変動解析から推測される地下構造と定常時の地殻変動について報告する。

     重力異常データの解析については、産業技術総合研究所の日本重力データベースに収録されているブーゲー異常グリッドデータ(補正密度2.0g/cm3)を使用した。相模川の河口付近を南西端として、東西23km南北20kmの範囲を対象に、上方接続フィルター処理を適用し、ノイズ成分(30m以浅の構造に起因すると考えられるもの)とトレンド成分(400m以深の構造に起因すると考えられるもの)を除去した重力異常分布を取得した。さらに第四紀中〜後期更新世の相模層群相当層の密度を1.6g/cm3と仮定し、それ以深の新第三系(上総層群、三浦層群相当層)の密度を2.0g/cm3と仮定し、その境界面の分布高度を推定した。その際、相模層群の基底面が確認されている既存のボーリングデータを参照し、その基底面深度を拘束条件とした。以上の解析の結果、相模層群相当層の基底面の分布は、標高値で、–30〜–300m 程度であった。その分布は、相模川沿いで極端に深くなるが、それに直交する概ね東西方向に伸びる向斜状の構造も認められ、町田(1973)が指摘したヒンジラインの構造に対応すると思われる。加えて、神奈川県藤沢市付近の沖積低地下には、基底面深度の変化が認められ、伏在する活構造の存在が示唆される。

     また、この地域の定常時の地殻変動速度を把握するため、 Sentinel-1データを用いた干渉SAR時系列解析(PS法)を実施した。その結果、神奈川県東部地域においては、海側が相対的に沈降する地殻変動が検出された。これは、相模湾におけるフィリピン海プレートの沈み込みに伴うものと考えられる。この地殻変動の傾向の変化とヒンジライン周辺の構造との関係について、今後、議論を進めていく予定である。

     なお、今後は、既存ボーリング資料の収集・解析、現地における地形・地質調査、微動アレイ探査による浅部から深部における地下構造の推定、断層モデル構築による変動シミュレーション解析などを予定しており、総合的に本地域のテクトニクスについて検討を行っていく予定である。

    引用文献

    Abe et al. (2023) JGR Solid Earth, 128, e2022JB026314.

    池田ほか(2001)地学雑誌,110,544-556.

    Kobayashi & Koketsu (2005) EPS, 57, 261-270.

    町田(1973)地学雑誌,82,53-76.

    鷺谷(1999)月刊地球,号外,24,26-33.

  • 中西 諒, 成瀬 元, 喜岡 新, 常岡 廉, 根本 夏林, 藤島 誠也, 佐藤 瑠晟, 天野 敦子, 井尻 暁, 横山 祐典
    セッションID: G-P-41
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    混濁流によって形成されるタービダイトは地震履歴を復元するために用いられる。しかしながら、混濁流は地震動による堆積物の巻き上げのみでなく、洪水や潮位変化といった複数の発生要因が存在する。また、観測が難しいことから、どの程度の揺れで混濁流が発生するかといった堆積メカニズムに関する知見に乏しい。そのため、地震動による混濁流の発生からタービダイトの堆積までのプロセスを理解することで、より確度の高い地震発生間隔や規模の復元が可能となると考えられる。そこで、本報告では観測地震によって形成されたタービダイトの検出を目的とした学術研究船「新青丸」KS-24-4次航海の調査結果を中心に、周辺で得られたコア試料の年代測定結果について述べる。また、調査期間にはM5.6の地震が発生し、近傍における地形探査や採泥を実施したため、これについて報告する。

     新青丸KS-24-4次航海では喜界島東に位置する7つの海盆群で採泥が実施され,マルチプルコアラー表層採泥による柱状試料が得られた.これに加えて学術研究船「白鳳丸」KH-23-4で得られたマルチプルコア、および産業技術総合研究所の海洋地質図作製を目的として木下式グラブ採泥器を用いて得られた表層堆積物を検討対象とした。マルチビーム測深の結果については上記の航海で取得されたデータを使用した。タービダイトの堆積年代は210Pbおよび137Cs放射線量から見積もった。測定にあたっては、東京大学大気海洋研究所先端分析研究推進室のゲルマニウム半導体検出器および多チャンネル波高分析器を用いた。

     柱状試料として得られた13試料のうち明瞭な砂層が確認できたコアは3試料であり、これらは同一の海盆内のコアである。砂層はいずれも表層付近に2–5cmの層厚で存在し、その堆積年代は1970–1980年代であった。この年代における地震イベントとして1986年のM6.1地震が対応し、これがトリガー候補の一つとして考えられる。観測データが充実してきた1950年代以降について、奄美大島周辺で発生する地震の規模は最大でM7.0程度であり、M6–7でも20回程度は観測されているものの、それらによって形成された砂層は確認されなかった。

     航海調査中に発生したM5.6の地震発生14時間後には震源近傍の海盆において採泥を行ったが、その際に記録された深海カメラには海底が懸濁した様子は映されていなかった。また、調査範囲において以前に取得された海底地形データと本航海で取得されたものを比較した結果、目立った崩壊地形などは確認されなかった。M5.5–M6.0という規模の地震は4年に1度という頻度であるが、今回の地震では混濁流イベントは確認できなかった。地震動による混濁流発生はマグニチュードだけでなく、震源深さ・地震タイプといった地震の特性に加えて、供給源となる上流斜面の堆積物の状態が重要であると考えられる。今後は砂層の供給源推定とモデリングとあわせて実際に起源となった斜面を特定し、地震動や斜面堆積物特性といった混濁流発生に必要な条件を明らかにする。

  • 池田 芽生, 坂本 泉, 横山 由香, YK24-05S航海 乗船者一同
    セッションID: G-P-42
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    フィリピン海は,西太平洋で最も大きな縁海の1つである.その中央部には長大な九州パラオ海嶺が南北に延び,同海域を二分している(樋口ほか,2015). 九州パラオ海嶺では東側を四国海盆,パレスベラ海盆を挟んで伊豆・小笠原・マリアナ(IBM)弧が,その西側には西フィリピン海盆が展開する(樋口ほか,2015).西フィリピン海盆の北側には沖大東海嶺が北西―南東方向におよそ600 kmにわたって直線的に伸びており,更にその北にある大東海嶺,奄美海台とともにフィリピン海プレートを構成しており,その形成,拡大,奄美海底崖の形成は約4700万年前以降であることが明らかとなっている.そのため,西フィリピン海盆北端部―沖大東海嶺接合部では,約4700万年以降の構造運動により,西フィリピン海盆の海洋地殻断面と沖大東プルームに関係すると見られる火山群の断面が,海底崖に大規模に露出していると考えられ,その断面の観察と採取試料分析は西フィリピン海盆拡大開始時期とプルームによる火山活動開始時期の正確な解明に繋がる.2024年4月12日から4月27日間で行われたYK24-05S航海では,西フィリピン海盆北部から沖大東海嶺南半部にて,西フィリピン海盆拡大と沖大東プルームの活動開始,太平洋プレート沈み込み開始の3イベントの時間関係を明確にするため,海底観察と試料採取を行うことを目的に,しんかい6500による潜航調査,海底地形調査が行われた.本航海では計7回の潜調査が実施され,うち,沖大東海嶺基部南向き崖(6K#1760),沖大東海嶺頂部(6K#1761),沖大東海底崖尾根南部の北向き斜面(6K#1765),沖大東海底崖南方(6K#1766)で堆積物が採取された.本研究では,これらの堆積物の肉眼記載,スミアスライド観察およびそこに含まれている微化石の分析を行うことでその特徴を把握することを目的に研究を行った.また,2022年6月14日から7月2日に行われたYK22-11S航海にて西フィリピン海盆および九州パラオ海嶺でも潜航調査が行われている.YK24-05S航海で採取された堆積物の比較としてCBFリフトー九州パラオ海嶺(6K#1643,6K#1644,6K1646)で採取された堆積物の分析も行ったので報告する.YK24-05S航海では4地点で堆積物試料が採取された.底質の特徴としては,6K#1760(着底水深4584 m)では,沖大東海嶺基部の崖下で泥質堆積物が見られた.また,礫が点在しており,中腹~上部にかけて塊状のブロックが確認できた. 6K#1761(着底水深4200 m)では,塊状の岩石とそれを覆う堆積物が見られ,斜面上部ではクラストやノジュールが含まれていた.6K#1765(着底水深6228 m)では,沖大東海底崖下でマンガンノジュールが赤土に混じって分布していた.そして斜面に近づくにつれ角礫岩が見られ,マンガンが被覆していた.6K#1766(着底水深5865 m)では,西フィリピン海盆北部で海洋地殻断面の観察を目的に潜航・試料採取が行われ,斜面は主に酸化マンガンノジュールと軟泥堆積物が確認できた.上記4地点から得られた堆積物はdark brownのシルトから粘土であり,6K#1760,6K#1761潜航の堆積物試料には1 mm程度のパミスが含まれていたおり,微化石分析では珪藻と放散虫が確認できた.一方,YK22-11S航海では3地点から堆積物試料が得られている.6K#1643(着底水深4768 m)は,CBFリフト南斜面で調査が行われ,深度4600 m以下の斜面は酸化マンガンに包まれた砕屑性堆積物が確認され,斜面上部は枕状溶岩からなる.6K#1644(着底水深4952 m)では,斜面の露頭がマンガンクラストに覆われており,泥質堆積物の上に崩れた軽石や礫が分布していた.6K#1646(着底水深5378 m)はCBFリフト南向きの崖で調査が行われた.CBF北部では露頭は厚いマンガンクラストと泥質堆積物に覆われている.緩斜面の下部は泥とマンガンノジュール,火山岩片などの黒い角礫片で構成されており,斜面上部は泥質堆積物からなっている.以上3地点で採取された堆積物はdark brownのシルトから粘土で,細かいマンガン欠片が堆積物に混在していた.そのうち6K#1644から珪藻と放散虫が確認できたが,他2地点の試料からは産出がほとんど確認できなかった.両航海で見られた珪藻種としては,Ethmodiscus spp.およびPseudoeunotia doliolus (Wall.) Grunowが確認できた.引用文献:樋口ほか(2015),大東海嶺群海域海盆の形成・堆積史―北大東海盆,奄美三角海盆,南大東海盆の比較―.地学雑誌,124(5), 829-845.

  • 町田 嗣樹, 金子 純二, 猪瀬 和広, 平野 直人
    セッションID: G-P-43
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    プチスポット火山の活動は、プレート下に存在する二酸化炭素に富むマグマが、プレートの屈曲に伴って生じた亀裂に沿って噴出することによって発生する。このような噴火プロセスやマグマの特異性から、プチスポット火山活動は海洋への二酸化炭素の放出源となり得るだけでなく [1]、海洋プレートを下部から最表層の堆積物に至るまで改変させる可能性がある [2-5]。これらの現象がどの程度のインパクトを地球の物質循環に与えるかが重要であるが、それを検討するうえで制約となるのは、「プチスポットマグマの活動が、どの程度の空間的な広がりをもって起こるのか?」を定量的に特定することである。

    現在までに、例えば北西太平洋では、4つの海域においてプチスポット火山の活動が報告されている [5]。いずれの海域においても、個々の火山体の大きさは他の火成活動で形成されるものに比べ桁違いに小さい [6]。ただし特徴的な点は、複数の火山体がある決まった範囲内のみに分布しクラスターとなって、いわゆる「プチスポット火山フィールド」を形成していることである。さらに、プチスポット溶岩が堆積層内に水平方向に貫入する様子や [7]、地形的に高まりを形成していない平坦な深海底においても溶岩の露頭が存在すること [8] が報告されている。つまり、プチスポット火山フィールドは、海底地形として認識できる範囲外にも広がっていることを意味する。

    一方、筆者らは、2016年4月に行われたYK16-01航海による南鳥島沖でのマンガンノジュール調査の際に、ノジュール密集域であろうと考え潜航調査を実施した2か所の深海平原においてプチスポット溶岩の露頭を発見し、溶岩の採取に成功した。この時に得られた知見は、MBESにおいて強い後方散乱強度を示し、船上サブボトムプロファイラー(SBP)により堆積物の堆積が確認できない(音響的に不透明な層が海底面に露出する)深海平原が、プチスポット溶岩分布域であり、その近傍の小海丘が火山であったことである。つまり、船上MBESと船上SBPの組み合わせによりプチスポット火山フィールドの分布範囲を特定することができる可能性があることを見出した。

    以上の知見を踏まえて本研究では、2013年から2019年にかけて行われた南鳥島の南東方沖における船上SBP観測(全11航海)のデータをコンパイルし、海底下の堆積構造および音響不透明層の分布を明らかにした。さらに、2018年・2019年に行われた「しんかい6500」の潜航によって、船上SBP観測で判明したプチスポット火山フィールドの範囲と考えられる領域の東西南北の境界部をそれぞれ観察し、プチスポット溶岩の分布を確認した。本講演では、MBES/SBP音響データから明らかになった南鳥島海域のプチスポットに特徴的な火山の形状および海底の音響特性(反射強度と海底下音響構造)の詳細と、それによって特定されたプチスポット火山フィールドの分布範囲、およびフィールド内でのプチスポット溶岩の産状などを紹介する。

    [1] Okumura & Hirano, Geology, 2013; [2] Pilet et al., Nat. Geosci, 2016; [3] Akizawa et al., Mar. Geol., 2022; [4] Mikuni et al., Solid Earth, 2024; [5] Hirano & Machida, Comms. Earth & Env., 2023; [6] Hirano et al., Basin Res., 2008; [7] Fujiwata et al., GRL, 2007; [8] Sato et al., Int. Geol. Rev., 2017.

  • Glen Tritch Snyder, Hitoshi Tomaru, Yoshinori Ono, Natsuki Kaneko, Nat ...
    セッションID: G-P-44
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    Project COESS (Chemistry, Observation, Ecology of Submarine Seeps) was founded and endorsed by UNESCO in 2022 as part of the UN Decade of Ocean Science for Sustainable Development. The project currently involves 27 researchers from 16 research institutions with the goal of studying cold seeps and hydrothermal vents and promoting education of the public regarding these unique ecosystems.

    In October, 2023 we deployed to Fugro Shallow Environmental Landers (SFEL) on Torigakubi Spur, offshore Joetsu in order to do long-term monitoring of an active methane seep area. The two SFEL are still deployed and will be recovered in October, 2024. During the past year they have been measuring changes in salinity, temperature, pressure, turbidity, pH, oxygen, and methane. Located roughly 60 km from the epicenter of the Noto earthquake in January, the landers also will provide an opportunity to see the effects of seismic activity on methane seeps.

    In June, 2024 we deployed a prototype Full Depth Drone to document the conditions of the landers prior to recovery. We found the landers covered with dark sediment or biofilm, while the internal parts appear to be colonized by microbial mats. Squid, sea cucumbers, whelks, snow crabs and shrimp were also found living near or on the landers (Fig. 1). We also noted several interesting features in the area including a fresh exposure of shallow gas hydrate and a “garden” of cnidarians. A number of cnidarians occurring in Torigakubi Spur exist in solitary and branching tubular form and also host a number of other macrofaunal species clinging to their surface including other cnidarian epibionts. During the same drone deployment, we also observed seafloor markers left by earlier ROV deployments and hope to compare our new video footage with video footage collected by members of our team over 10 years ago.

OR. アウトリーチセッション
  • 早坂 康隆, 鵜飼 宏明, 廣瀬 浩司, 黒須 弘美
    セッションID: OR-P-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    本年3月20日に旧天草市立御所浦白亜紀資料館をリニューアルしてオープンした「御所浦恐竜の島博物館」は,天草の2市1町(天草市,上天草市,苓北町)が共同して立ち上げた「天草自然資源活用推進連絡会」が取り組む「海に浮かぶ博物館 あまくさ:http://uminiukabu.amakusa-web.jp/MyHp/Pub/Free.aspx?CNo=7」の実施拠点として活動している。本発表では,宇土半島を経由して天草を巡る地質巡検を想定して,主な観察ポイントを概説する。(1)〜(4)は末尾に示した文献に対応している。

    宇土市

    ① 住吉海岸:干潮時には広大な有明海の泥干潟が広がり,延長1kmの長部田海床路が築かれている。

    ② 御輿来海岸:有明海の砂干潟に三日月型斑紋が広がる(日本の渚100選・日本の夕陽100選)

    ③ 平岩の海岸:上部白亜系姫浦層群と古第三系赤崎層(始新統)の傾斜不整合(1)

    上天草市

    ④ 湯島:湯島層の化石(およそ110万年前)とかんらん石玄武岩(およそ82万年前:カラブリアン)(4)

    ⑤ 高杢島:普通角閃石安山岩からなり,天草富士とも呼ばれる

    ⑥ 千巖山:弥勒層群白岳層(古第三系始新統)の貝化石密集層(3)

    ⑦ 姫戸町二間戸(ふたまど):肥後帯の泥質片麻岩,結晶質石灰岩

    ⑧ 姫戸町樋島(ひのしま):肥後帯の前期白亜紀先姫浦花崗閃緑岩,蛇紋岩

    天草市

    ⑨ 赤崎四郎ヶ浜:「真黒(まぐろ)石」と呼ばれる均質塊状の黒色泥質ホルンフェルス礫の浜。

    ⑩ 下浦(しもうら):古第三系始新統の本渡層群砥石層(一部教良木層)の砂岩が「下浦石」として採石・石工され,石工の里として知られる。

    ⑪ 御所浦:天草市立御所浦恐竜の島博物館,下部白亜系御所浦層群の「白亜紀の壁」,上部白亜系姫浦層群と肥後帯前島花崗閃緑岩(109 Ma)(2)との断層関係,アンモナイト館(直径60 cmのアンモナイト化石を自然の産状で保存),「スフェノセラムスの壁」など盛りだくさん。

    ⑫ 御領(ごりょう):弱溶結した阿蘇4火砕流堆積物が「御領石」として採石・加工されている。

    ⑬ 天草町大江ー高浜海岸:低温高圧型の長崎変成岩(高浜変成岩)が分布。アクセスが良いのは,高浜の白鶴浜海水浴場北側海岸と,大江の西平椿公園から降りた海岸。

    ⑭ 茂串海岸:古第三系坂瀬川層の砂岩・泥岩互層からなる平坦で広い海食台(3)。

    苓北町

    ⑮ 西川内海岸:坂瀬川層中のノジュール。女性の乳房に似ていることから「おっぱい岩」と呼ばれる。

    ⑯ 富岡半島:砂州で繋がった陸繋島に砂嘴(さし)を富岡城跡から眺めることができる。

    ⑰ 天草西海岸サンセットライン:熱水変質した中新世(4)の流紋岩質岩脈を「天草陶石」として採掘・出荷している。

    文献

    (1) 井上(1961)地質調査書月報,13 (12),61-78

    (2) 永田・大藤(2022)地質学雑誌,127, 237-243

    (3) 大塚(2011)御所浦白亜紀資料館報,No.12,1-44

    (4) 鵜飼・香取(2016)御所浦白亜紀資料館報,No.17,1-14

  • 吉田 勝, 学生のヒマラヤ野外実習 プロジェクト
    セッションID: OR-P-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    GSJ2024 OR Poster ヒマラヤで地学を学ぼう!吉田勝1・学生のヒマラヤ野外実習プロジェクト2 今から約1億年前に南方の巨大大陸ゴンドワナから分かれた北上して来たインド亜大陸は,5500万年前に古アジア大陸南縁に衝突した.そして5500万年前から現在にかけて両大陸の衝突地帯ではドラマティックな地球規模地学事件が展開され,ヒマラヤ山脈が生まれたのである.ヒマラヤは現在も上昇しつつあり,さらに将来長きにわたって同じ動きを続けるであろう.この地球上で尤も新しくかつ活動的な山脈では,極端に鋭い地形,現在も続く急斜面の形成と絶え間ない水平方向の移動と垂直上昇の結果として,地震,地すべり,雪崩,土石流,河川洪水などの自然災害が頻繁に発生している.山脈に並行して明瞭な帯状分布を示す地形・地質と気候特徴は,各帯における自然災害の特徴・種類や大きさを支配している.ヒマラヤは山脈形成の地質過程や自然災害を学ぶ最高の自然博物館である.ヒマラヤの地学ツアーを経験した人は様々な地質過程や自然災害を目の当たりにし,地球自然への理解,さらには自身の居住地の自然への興味と理解を深めることになるであろう.ヒマラヤ8000m主稜線の北側から南に,トランスヒマラヤから高ヒマラヤ,低ヒマラヤ,亜ヒマラヤからガンジス平原までの延長200km,ヒマラヤ造山帯を構成するすべての地質帯を観察する「学生のヒマラヤ野外実習ツアー」3は2012年に始まって2024年3月には第12回目の実習ツアーが実施された.来年3月に第13回目を迎える学生のヒマラヤ野外実習ツアーは,トランスヒマラヤの標高3800mにあるヒンドウ教の聖地ムクチナートを出発点とし,カリガンダキ河に沿って歩き,さらに車で南下して標高150m,ガンジス平原にある仏教の聖地ルンビニまで,ヒマラヤ造山帯の完全横断を行なう.参加者は主に学生だが,一般市民も歓迎される.全行程に車が同行するので足の弱い人も参加でき,過去には全く歩けない人が参加して楽しんだこともある.日本発着17日間ほどで参加費は学生20万円,一般25万円以内を目標とし,過去12回の平均参加費は学生172,502円,一般222,502円であった.発表では過去12回の実習ツアーのハイライトとまとめを展示し,来年3月の第13回実習ツアーの内容を説明し,参加希望者を受付ける.

    __________________________________________________________

    1 ゴンドワナ地質環境研究所及びトリブバン大学トリチャンドラキャンパス地質学教室

    2 世話人会:酒井哲弥(島根大,代表),吉田勝(共同代表),在田一則(北大),B.N.ウプレティ(ネパール科学技術アカデミー)

    3 www.gondwanainst.org/geotours/Studentfildex_index.htm

U.緊急展示
  • 本山 功, 三辻 和弥, 熊谷 誠, 村山 良之, 橋本 智雄, 佐藤 正成, 岩田 尚能, 加々島 慎一, 石垣 和恵, 八木, 浩司
    セッションID: U-P-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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     令和6年7月25日午前から7月26日未明にかけて、活発化した梅雨前線の活動により線状降水帯が発生し山形県から秋田県にかけて大雨となり、山形県では庄内・最上地域を中心に、堤防決壊、斜面崩壊、土石流等の事象により家屋の浸水・全半壊、農地冠水・土砂流入、道路・鉄道損傷など甚大な被害が生じ、3名の命が失われた。降雨は7月25日の午前5〜10時頃から強まり、酒田市と遊佐町には13時5分に大雨特別警報が発令された。山形県における線状降水帯の発生は令和4年8月の山形県南部での豪雨災害の時以来2度目のことである。降雨は7月25日18時頃に一度弱まり20時10分に大雨警報に切り替わったが、その後再び強さを増し、23時40分に酒田市・新庄市・舟形町・鮭川村・戸沢村・庄内町に大雨特別警報が発令された。1日のうちに同じ自治体に2度大雨特別警報が発令されたのは全国で初めてのことである。酒田市東部から新庄市にかけてのエリアでは24時間で300 mmを超える総雨量を記録した。被災地域が広域だったため、山形大学災害環境科学研究ユニットではメンバーで作業地域を分けて庄内・最上地域の各地において現地調査を行ったことから、把握した変状や被災状況について、本緊急展示にて速報的な報告を行う。

     今回の大雨による農地・住宅地の浸水は内水氾濫だけでなく、主要河川・中規模本川の越水・決壊によるものも多く外水氾濫が多地点で生じた。酒田市東部の荒瀬川中流では、本川から溢れた水がほぼ谷底低地全体を覆って流下したとみられ、想定最大規模の洪水浸水想定区域を上回る面積が浸水し、多くの水田が本川から流入した土砂に覆われ、多数の家屋が浸水した。谷底平野から庄内平野への出口の扇状地に立地する酒田市観音寺地区では扇頂部の右岸からの越水により氾濫が生じ、市街地が浸水し泥水に覆われた。日向川下流の酒田市穂積地区や京田川沿いの酒田市大渕地区等海岸平野においても越水によって農地・住宅地が浸水した。

     最上川中流の戸沢村蔵岡では内水氾濫に加えて最上川からの越水により集落全体が浸水した。同地区は最上川や支川の増水に伴って浸水する水害常襲地であり、最近7年間に4回浸水被害に遭っている(平成30年8月上旬、同年8月末、令和2年7月、今回)。戸沢村蔵岡地区付近は新庄盆地の水系が一点に集中し、出羽山地を横断する狭窄部(最上峡)によるボトルネック効果が加わって水位が上昇しやすいことが一因となっている。

     

     真室川町・鮭川村を流れる鮭川の中〜下流では複数箇所で本川から越水した。新庄市本合海地区では水田地帯を横断する道路を走行していたパトカーを含む4台の車が流され2人が命を落とした。この発災地付近では新田川が複数箇所で決壊し、氾濫原に広がる水田へ流出した濁流が原因と考えられる。また決壊によって水田が広範囲に土砂に覆われた。この近隣の鮭川中流部、升形川、新田川といった谷底平野を流れる河川は河床が浅く、場所によっては天井川をなしており、増水時に氾濫しやすい地形的条件だったことが被害を大きくした一因と考えられる。

     斜面崩壊や土石流による土砂災害も顕著であった。斜面崩壊のほとんどは表層崩壊であり、谷底平野に面した丘陵の急斜面と河岸の急斜面、および小河川の谷頭部で生じ、農地・家屋・道路・鉄道等が被災した。土石流による被害は荒瀬川に注ぐ小河川で認められ、酒田市北青沢小屋渕では集落全体に土砂が流入した。これら発災地点の多くは中新統・鮮新統・更新統の堆積岩類・火山岩類および鳥海火山噴出物の分布域にあたり、とくに固結度の低い砂岩・シルト岩を主体とする鮮新統・更新統の風化しやすく崩れやすい地質が一因となった可能性がある。

J.ジュニアセッション
  • 宮城県 仙台第三高等学校
    セッションID: J-P-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    研究者生徒氏名:小野晃太郎

     日本には多くの活断層がある。これらの断層の研究は、土地利用における防災上の問題点を明らかにする上で重要である。また、断層は地形境界となり、それらの活動は日本列島の成り立ちを解明する上で重要な要素である。東北地方には奥羽山脈があり、その東縁には山地を隆起させる大断層が南北に連なる。その一つとして作並断層が挙げられる。

     作並断層は宮城県南西部をほぼ南北方向に延びている断層であり、奥羽山脈の形成に大きく寄与しているとされる断層である。作並断層については少なくとも中期更新世前半ないし初頭まで、本断層の活動により奥羽脊梁山脈は継続的に隆起し、奥羽山脈と広義の仙台平野との地形的分化は進行したと推察されること¹⁾、地質構造については脊梁山脈東縁の作並断層以東は、全体として緩い構造であるが、全体としては、作並断層に向かってわずかに傾斜していて、向斜を形成し、この構造には第四系までのすべての地層が参加していて,第四紀における脊梁山脈の複背斜状隆起と対を成す前縁沈降帯様の性格を持つものであること²⁾などが知られている。しかし、断層露頭の記載などの報告は少なく、断層運動に関する研究は乏しい。本研究において作並断層のものとされる断層露頭を調査したところ東西方向の姿勢を示す明瞭な断層露頭を確認した。これは南北方向の姿勢を示す作並断層と直交するものであり、これまで知られていた作並断層の姿勢と異なる。そこで作並断層の地質構造を解明するために、周辺の地層の分布の調査と断層露頭の解析を行った。

     本研究では作並断層が推定される仙台市青葉区作並において野外調査を実施した。野外調査の手法は、観察した断層付近及び断層の延長が予想される地点での2万5千分の1地形図への地質構造と岩相分布に関するルートマップの作成、構造のスケッチ、クリノーメーターを用いた走向傾斜の測定、サンプルの採集を実施した。

     今回、作並駅から約1km北西の広瀬川河床およびその周辺においてルートマップを作成した。河床の東側では凝灰岩、西側では堆積岩であるシルト岩が見られ、推定される作並断層(一般走向はN10°E)の境界部が南北方向に連なっていることと整合的である。また本研究では、作並断層の境界部と考えられる位置に凝灰岩とシルト岩が断層破砕帯で接している断層露頭を確認した。この断層の走向は東西方向(走向はN78°W)であり、従来知られていた作並断層とは異なる姿勢を示している。この露頭については、薄片の作成は困難な粘土質の岩石であった。また、断層露頭の近傍には、取り込まれたれきが含まれる構造が複数見られた。加えて、この断層より20mほど北側には地層が変形し、それぞれが互いに取り込まれた構造も確認できた。断層露頭の姿勢を踏まえ、延長部において断層の有無および岩相分布の調査も合わせて実施した。

     以上の結果を踏まえ、作並断層周辺の構造について考察する。今回記載を行った断層露頭では断層を挟んだ両側の地層は大きく異なり、さまざまな変形構造も見られることから小規模な変動ではなく、繰り返し活動を起こし形成されたものである可能性が高いと考えられる。加えてこの断層から北に20mほどの地点で見られた地層が変形した構造は、作並断層が形成される過程で大きな力を受けたことによるものだと推察する。

    [参考文献]

    1)大月義徳. 奥羽脊梁山脈東縁作並一屋敷平断層の活動時期.季刊地理学, 48(3), 1996.

    2)北村信編. 新生代東北本州弧地質資料集第3巻一その3一島弧横断ルートN024(白鷹山一上山一蔵王一岩沼).1986.

    キーワード:作並断層、ルートマップ、断層、奥羽山脈、断層露頭

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