日本地質学会学術大会講演要旨
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T17.沈み込み帯・陸上付加体
  • 貞松 夏実, 坂口 有人
    セッションID: T17-P-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    【はじめに】プレート沈み込み帯に存在する流体は地震発生や付加体形成に影響を及ぼすと考えられている(例えばDavis et al., 1983)が、流体がどのように移動しているのか詳しくわかっていない。流体は地震発生帯の深度では間隙を移動できず、亀裂にのみ存在するようになる(上原ほか, 2011)。そのため鉱物脈は流体移動の情報を得る手がかりである(岡本, 2014)。過去のプレート沈み込み帯が露出する四万十帯では普遍的に鉱物脈は存在している。しかし、それは一様に分布しているわけではない。沈み込み帯の深度によって流体の移動様式が変化する可能性がある。そのため、本研究は四万十帯内の古地温の異なる場所を調査し、プレート沈み込み帯の深度方向における鉱物脈密度の分布を明らかにする。また、従来の鉱物脈密度分析法ではいくつかの課題が見られるので、より精度の高い鉱物脈密度の測定方法を開発し、四万十帯の鉱物脈定量調査を行う。

    【調査方法】本研究では流体移動が顕著に見られる断層帯などは避け、付加体のいわば「普通」の地層を対象とする。古地温が異なる各地域の代表的な露頭において円形の領域を設定し、そこに存在するすべての鉱物脈の面積を見積もる。露頭には鉱物脈の多いエリア少ないエリアが不均質に存在するため、それぞれ2か所以上含むように調査範囲を設定する。調査範囲の面積が小さいと、この不均質の影響を受けて測定結果に差異が生じる。予備調査として面積を徐々に広げた場合の鉱物脈密度の変化を調べた結果、直径10mあればその地域の鉱物脈密度を代表できることが分かった。本研究では各地域の代表的な露頭における直径10m円内の脈密度を比較する。本研究では、直径10mの調査範囲を設定し、その中を見かけの鉱物脈密度によって複数の部分に区分する。各部分の代表的な場所に直径1mの円を設定し、その中において目視可能なすべての鉱物脈の面積を露頭で測定する。そして岩石試料を採取して、鏡下において微細な鉱物脈の面積も測定する。これらを積算して、直径10mの調査範囲内の鉱物脈の密度を求める。

    【結果】古地温が低い地域から高い地域まで12か所で調査した。その結果、古地温が約150℃と低い地点では鉱物脈密度割合が約7‱と低い。古地温が160℃から230℃と上昇すると、鉱物脈密度が低い地域もあるが、45‱などの高い値を示す地域も見られる。古地温が約300℃以上になると、鉱物脈密度割合が100‱超と非常に高くなった。なお、すべての地点で石英脈が見られ、12か所中4か所でカルサイト脈が確認された。これらのことからプレート沈み込み帯では鉱物脈密度は温度に依存して増加し、深部ほど脈密度が高いと考えられる。

    引用文献

    Davis,D., Suppe, J. and Dahlen, F.A.- (1983) Mechanics of fold-and-thrust belts and accretionary wedges, Journal of Geophysical Research, 88, 1153-1172.

    岡本敦(2014)鉱物脈組織から読み解く地殻流体流動, 岩石鉱物科学, 43, 25-29.

    上原真一, 嶋本利彦, 松本拓真, 新里忠史, 岡崎啓史, 高橋美紀 (2011)地下深部における新第三紀泥質軟岩中の亀裂の透水特性‐室内試験による推定‐, Journal of MMIJ, 127, 139-144.

  • 平岡 空, 橋本 善孝, 細川 貴弘
    セッションID: T17-P-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに:流体圧は断層のすべり強度に大きく影響する。断層すべり挙動を理解するためには天然において流体圧がどの程度影響を及ぼしているのか定量化する必要がある。先行研究で断層中の鉱物脈に含まれる流体包有物の解析から断層形成時の流体圧を推定されてきた。しかし断層形成深度を独立に求めることができなかったため、流体圧の断層強度への影響度の定量化ができなかった。Hosokawa and Hashimoto [2022, Scientific Reports]は引張クラックの形成条件と天然から得られた流体圧を用いて引張クラック形成深度と岩石の引張強度を制約することに成功した。本研究では、この手法を剪断脈に発展させる。小断層解析による古応力、剪断破壊理論と天然の情報を組み合わせ、剪断脈の形成深度と流体圧比λ(静岩圧に対する流体圧の割合)を制約することを目指す。地質概説:研究対象地域は、四国白亜系四万十帯横浪メランジュである。高知県土佐市横浪半島を南北に約2kmの幅を持ったメランジュ相である。黒色頁岩を基質とし、砂岩、泥岩、赤色頁岩、多色頁岩、チャート、石灰岩、玄武岩のブロックで構成されている。メランジュ構造を切る小断層が多数発達しており、厚さ約数mm~数cmの鉱脈を伴っている.この小断層の分布が海洋底層序に規制されていることから底付け付加前に形成されたと考えられている[Hashimoto et al., 2012, Island arc]。剪断脈形成時の温度・圧力は流体包有物からおよそ175~225℃、143~215MPaと推定されている。手法:横浪メランジュの小断層古応力解析から、正断層応力場と逆断層応力場の二つの応力場が推定されており[Hashimoto et al., 2014, Tectonics]、得られている2つの応力解のそれぞれについて、各小断層面とσ1のなす角(θr)を算出した。また、θr の確定した剪断脈について流体包有物測定を行い、形成時の流体温度・圧力を推定した。今回は、逆断層応力場と正断層応力場に対応する鉱物脈についてそれぞれ3つと1つの結果が得られた。結果:4つのサンプルの結果が得られたが、測定できた流体包有物が少なく、データの信頼性は低い。その上で、サンプル1-4についてθrは19度、36度、48度、および53度であり、流体圧は119MPa、204MPa、170MPa、および111MPaであった(最後のサンプルが正断層応力場)。温度はおよそ160度から220度程度で、先行研究とほぼ一致している。議論:岩石破壊理論によれば、 θrは差応力と流体圧比の関数である。本研究において、形成深度はHosokawa et al. [2023, 地質学会]で8kmと制約されており、今回得られた流体圧を流体圧比に変換できる。すなわち結果として、差応力を推定することが可能となる。得られた差応力は逆断層応力場では最小でおよそ7MPa、最大でおよそ262MPaとなった。正断層応力場に対応する一つのサンプルはおよそ82MPaであった。制約された差応力は大きな幅を持つことから、多様な流体圧の影響とそれに応じた多様な差応力規模が混在していることが示唆される。引用文献:Hosokawa and Hashimoto, 2022, Scientific reports; Hashimoto et al., 2014, Tectonics; Hosokawa et al. 2023, 地質学会; Terakawa et al.,2012, Journal of geophysical research

  • 隅田 匠, 向江 知也, 坂口 有人
    セッションID: T17-P-5
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    【はじめに】

    高知県興津地域に見られる興津メランジュは底付け付加体である.底付け付加体とは,剝ぎ取り付加を免れた海洋堆積物が,海洋底層序を覆瓦状に繰り返すデュープレックス構造を形成しながら,剝ぎ取り付加体のさらに下に潜り込んで付加された地質体である.デュープレックス構造は底付け付加体に典型的に見られる構造であり,水平成分である上部デコルマをルーフスラスト,下部デコルマをフロアスラストと呼び,両スラストに挟まれる低角スラストをランプスラストと呼ぶ(村田, 1991).このフロアスラストは,いわゆるプレート境界に相当する.底付け付加過程では海洋地殻上部を構成する枕状溶岩を一部引き剝がすため,各スラスト周辺に枕状溶岩(緑色岩)がシート状に産する.興津メランジュは,タービダイト層である北側の野々川層と南側の中村層に接しており,それぞれの地層境界がデュープレックス構造におけるルーフスラスト,フロアスラストに相当する.ランプスラストは,ルーフスラストとフロアスラストの間の連続性が良いシート状緑色岩層と,その下位の堆積岩との地層境界に相当する.これらの地質体の最高被熱温度は,沈み込み帯の地震発生帯の温度に相当していること(Sakaguchi, 1996)から,興津メランジュは過去の震源領域であると考えられ,実際にルーフスラスト上で高速地震すべりの証拠であるシュードタキライト露頭が報告されている(Ikesawa et al., 2003).また,フロアスラスト近傍の黒色頁岩層中で,デュープレックス構造形成後のステージで活動したと示唆される断層露頭を2箇所報告している.本調査地域は,海洋地殻が底付け付加し,地下深部に沈み込む過程を考察するに適していると考えられる.

    【研究目的】

    底付け付加体の変形過程を復元することを目的として,興津メランジュのシート状緑色岩露頭を破砕度と緑色岩レイヤー構造に焦点を当てて分類し,デュープレックス構造におけるテクトニックセッティングとの関係および変形ステージについて整理する.

    【分類】

    緑色岩における断層岩は細粒基質の量比(嶋本ほか,1996)を基準にして,プロトカタクレーサイト,カタクレーサイト,ウルトラカタクレーサイトに分類した.また,断層岩とまでいかなくとも緑色岩の境界に裂かがあり,レイヤー構造を持つ緑色岩をレイヤー緑色岩とした.このレイヤー緑色岩は,オフィオライト露頭観察において報告されている海洋地殻上部が水平に類重する初生的構造(Kusano et al., 2012)に類似し,また物理探査によって報告されている海洋地殻中に広く存在する弱面(Neira et al., 2016)もこれに相当するかもしれない.

    【結果と考察】

    興津メランジュのデュープレックス構造中のランプスラスト沿いでは目立った剪断帯は確認できず,緑色岩の大部分が暗褐色や緑色で典型的な枕状溶岩の産状を示す.緑色岩には厚さ1~2 m程度の層状構造がよく発達する.このレイヤー緑色岩はテクトニックセッティングに関わらず興津メランジュで広く確認できた.以上のことから枕状溶岩は,海洋地殻上部の初生的構造に沿って引きはがされて付加されたのかもしれない.これに対してフロアスラスト近傍では緑色岩に破砕帯がよく発達しており,カタクレーサイトやウルトラカタクレーサイトが特徴的に確認された.このフロアスラスト周辺の強変形帯は,概ね北東走向に急傾斜で厚いところで幅38 mもある.走向方向にも変形の強弱があり,カタクレーサイトの厚さは増減する.ウルトラカタクレーサイトはN44°E86°N,カタクレーサイトはN50°E°84Nを示し,興津メランジュにおける黒色頁岩の劈開面平均方位とほぼ同じ値を示す.これは上述のカタクレーサイト,ウルトラカタクレーサイトが沈み込み作用を伴ったフロアスラストの活動を記録した断層岩であることを示唆しており,プレート境界の変形をみていると考えられる.

    【引用文献】

    Ikesawa et al., (2003) Geology, 31, 637-640. Kusano et al., (2012) Geochemistry Geophysics Geosystems, 13, Number 5. Sakaguchi, (1996) GEOLOGY, September, 1996. 嶋本ほか, (1996) テクトニクスと変成作用:原郁夫先生退官記念論文集創文314-332. 村田明広(1991)地質学雑誌, 1, 39-52. N.M. Neira et al., (2016) Earth and Planetary Science Letters, 450, 355-365.

  • 高 慎一郎, 濱田 洋平, 坂口 有人
    セッションID: T17-P-6
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    【はじめに】

     地震は断層の固着すべり現象である。固着すべりの挙動は、摩擦面の速度弱化特性とシステムの弾性のバランスによって決定される。たとえば断層の速度弱化特性が同じであっても、地殻の弾性率が低い場合、地殻は歪を長時間蓄積し、限界に達すると断層は一度に大きくすべる。そのため周期は長くなり変位量は大きくなる。その一方で、弾性率が高い場合、わずかに歪むだけで断層は限界に達してすべる。そのため短い周期で小さな変位を繰り返す。以上のように、地殻の弾性率は地震の周期や変位量に影響を与える非常に重要なパラメータである。しかし、これまでプレート沈み込み帯の地殻の弾性率の系統的な調査はあまりおこなわれてこなかった。そのため、南海トラフの巨大地震シミュレーションモデルなどでは、地震発生帯の地殻の弾性率は類推値で仮定されてきた(Hyodo and Hori, 2013)。本研究では、過去の地震発生帯である四国および九州の四万十帯の堆積岩を対象に、三軸圧縮試験により封圧下において様々な古地温の堆積岩の弾性率を系統的に調査し、プレート沈み込み帯における深度方向の弾性構造を明らかにする。

    【手法】

     露頭から新鮮な中粒砂岩を採取し、高さ50 mm、直径25 mmの円柱形に成型加工する。圧縮試験には高知コア研究所に既設のK0三軸圧密圧縮試験装置(誠研舎製)を使用した。油圧による一定の封圧をかけながら任意の歪速度で垂直荷重を加え、その間の垂直変位を圧力容器内部の軸方向変位計を用いて測定し、得られた弾性率と各採取地点の被熱温度との対比をおこなう。

    【結果】

     被熱温度約110℃の四国東部日和佐地域から4試料、被熱温度約150から250℃の四国中西部地域から13試料、被熱温度約320℃の九州東部延岡地域から5試料を採取して測定した。その結果、封圧40 MPa、載荷速度約0.0417mm/minの条件下において垂直応力100 MPaまで増加させたところ、四国中西部および九州東部延岡地域の弾性率は、36.2±5.2 GPaの範囲に集中した。このなかには地震発生深度の上限付近から下限近くのものまで含まれ、また、同じ地質体で被熱温度の異なるものなどもあるが、弾性率はほぼ一定であった。これに対して、被熱温度が約110℃である四国東部日和佐地域の弾性率は10 GPa前後と著しく低い値が得られた。

    【考察】

     被熱温度と弾性率を対比すると、被熱温度が約110℃と低い地域の弾性率は約10 GPaと比較的小さいが、被熱温度が約150℃から320℃の間では36.2±5.2 GPaと高い値で一定であった。この弾性率が高い値で安定する温度領域は、プレート沈み込み帯における地震発生帯の温度領域の150℃から350℃(Hyndman and Wang, 1995)に一致する。すなわちプレート沈み込み帯の上盤地殻は、地震発生帯よりも浅い領域では、極端に小さい弾性を有するが、地震発生帯の150℃に達すると岩石は高い弾性を獲得し、それは地震発生帯の範囲では一定のまま保持されるという弾性構造であると考えられる。このような地殻の弾性構造モデルは、断層の力学や地震発生数値計算に重要な制約条件を与え、地震発生メカニズムの定量評価に貢献すると期待できる。

    【引用文献】

    Hyndman, R. D. and Wang K. (1995) Thermal constraintso n the seismogenic portion of the southwestern Japan subduction thrust. Journal of Geophysical Research, Vol. 100, B8, 15373-15392.Hyodo, M. and Hori, T. (2013) Re-examination of possible great interplate earthquake scenarios in the Nankai Trough, southwest Japan, based on recent findings and numerical simulations. Tectonophysics, 600, 175-186.

  • 矢部 優, 木口 努, 細野 日向子, 大坪 誠
    セッションID: T17-P-7
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    産業技術総合研究所地質調査総合センター活断層・火山研究部門では,大分県佐伯市蒲江地域において,地殻変動観測施設整備のために3本の孔井掘削(それぞれ掘削長500m級,200m級, 30m級)を実施した.本地域には,四万十帯槙峰層が分布している.Ujiie et al. (2018) は槙峰層南部において石英脈濃集帯(Tremor Is.)を見出し,スロー地震の痕跡であると提案している.掘削地点を含む槙峰層北部においては,Tremor Is.に対応するものはこれまで明確に指摘されていないが,5万分の1地質図「蒲江」(奥村他,1985)や「佐伯」(寺岡他,1990)ではTremor Is.の位置する古江地区と並んで,槙峰層北部の西野浦地区・畑野浦地区においても片理が発達した千枚岩層の中に石英脈が分布していることを指摘している.このため,槙峰層北部においてもTremor Is.と類似する石英脈の分布状況および地質構造を明らかにすることで,プレート境界周辺における流体の移動様式の理解が進むと期待される.本発表では,本掘削事業で得られた検層データ・岩石試料の概要と,掘削試料と周辺地表露頭の対比を目的に実施した地表踏査の結果を速報として報告する.掘削地点は蒲江地区の旧猪串小学校グラウンド内に位置する.掘削では,孔1の最深部において20m程度のコア試料を取得し,その他の区間ではカッティングス試料を取得した.また,孔1と孔2において,ガンマ線,地震波速度,比抵抗孔壁画像などの種目の検層を実施した.取得されたカッティングス試料の記載によると,孔1では地表から140m程度まで,孔2では地表から170m程度までは砂岩が優勢な砂岩頁岩互層が,上記の深度以深では頁岩が優勢な頁岩砂岩互層もしくは頁岩層が分布した.周辺の地表踏査によると,砂岩の優勢な砂岩頁岩互層は掘削地点の南部に位置する赤石山の北側斜面の登山道沿いおよび海岸に露出する一方,赤石山の南側斜面および海岸には頁岩優勢の頁岩砂岩互層もしくは頁岩層が露出している.よって,掘削により得られた砂岩優勢層/頁岩優勢層境界に対応する地層境界を地表踏査でも確認することができた.両者の位置関係を考えると,砂岩優勢層/頁岩優勢層境界の大局的な傾斜は10º程度と考えられる.孔壁画像から読み取られた層理面は,335m以深では北西傾斜で20º〜30ºの傾斜角を持つ一方,335m以浅では南から南西傾斜で10º〜40ºの傾斜角を持っていた.地表露頭において計測した層理面の傾斜は,赤石山南部の頁岩層では概ね北西傾斜で30º程度の傾斜角を持つことから,孔壁画像の読み取りと整合的であった.赤石山の登山道沿いにおいては,短い距離で層理面が大きく変化する様子が観察されたことから,砂岩泥岩互層においては,短波長の不均質が卓越していると考えられる.地表踏査では,赤石山の南端部(くよむ鼻)において変形が頁岩層に集中した砂岩頁岩互層を認めた.これは地質断層「市尾内断層」と関連した構造と予想され,走向方向に連続的に分布が認められる.しかし,掘削試料中には,本構造と対比されるようなものは今のところ認定されていない.このことから断層の傾斜角は20º以上と予想されるが,地表露頭において断層の傾斜を計測できていない.掘削試料中にはTremor Is.と類似するような顕著な石英脈濃集帯は認定されなかった.掘削地点周辺の玄武岩の変成度は,周囲の槙峰層の変成度と比べて局地的に低いとされている(奥村他,1985).そのため,掘削地点の槙峰層は過去にスロー地震が発生していた深度よりも浅い温度圧力しか経験していない可能性がある.

    引用文献

    ・奥村 他(1985)地域地質研究報告(5万分の1図幅) 鹿児島(15)第35号, 1-58

    ・寺岡 他(1990)地域地質研究報告(5万分の1図幅) 鹿児島(15)第25号, 1-78

    ・Ujiie et al. (2018) Geophysical Research Letters, 45(11), 5371-5379

  • 中元 啓輔, 亀田 純, 濱田 洋平, 畑 良太, 山口 飛鳥
    セッションID: T17-P-8
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    岩石の間隙構造は流体やガスの輸送過程に影響を与える要因の1つであり,透水率の低下による間隙水圧の上昇など断層運動への影響も考えられる.ナノスケールの間隙構造は断層の主要な構成要素の一つである微細な粘土鉱物の種類やファブリックに関連しており(Kuila and Prasad, 2013),断層の形成・発達過程を理解する上で有用な情報を提供することが期待される.間隙構造の評価方法は水銀圧入法が代表的であるが,窒素ガス吸着法を用いることによりBrunauer-Emmett-Teller(BET)法によるBET比表面積やBarrett-Joyner-Halenda(BJH)法による細孔径分布といったパラメータの算出が可能となる.この細孔径分布はIUPACの定義するmicropore(細孔径2 nm以下の細孔)やmesopore(細孔径2-50 nmの細孔)の範囲を含み,小さな細孔の解析に適したものである.本研究では主に窒素ガス吸着法を用いてナノスケールの間隙構造を評価し,断層の形成・発達過程や力学的性質を検討する.

    本研究では九州四万十帯に属する延岡衝上断層を対象として,断層の間隙構造と特に断層帯中軸部付近に見られる脆性変形との関連性について検討した.延岡衝上断層は,南海トラフにみられるデコルマから派生した巨大分岐断層深部の陸上アナログと考えられている化石断層であり,過去の海溝型地震に伴う変形を記録していると考えられている.ここでは,延岡衝上断層掘削プロジェクト(NOBELL)で採取されたボーリングコア試料を用いて,窒素ガス吸脱着測定による間隙構造評価とXRD分析による鉱物組成の定量を行った.測定は上盤の千枚岩と断層帯中軸部近傍のダメージゾーン,断層帯中軸部,下盤のカタクレーサイトを対象とした.分析の結果,断層帯中軸部においてはmesopore容積の減少に起因すると考えられるmicroporeの比率の増加が認められる一方で,BET比表面積には明瞭な変化は見られなかった.Fukuchi et al. (2014) で報告された粉砕実験の結果も踏まえると,これはイライト粒子の破壊に伴う細粒化と破砕された粒子のmesoporeへの選択的充填が起こった結果と考えられる.こうした細孔の閉鎖は透水性の低下を引き起こし,地震発生時の高速変形にともなう動的断層弱化過程(熱圧化)に寄与した可能性がある.

    引用文献

    Fukuchi, et al. (2014) Earth, Planets and Space, 66, 1-12.

    Kuila, and Prasad, (2013) Geophysical Prospecting, 61, 341-362.

T18. 令和6年能登半島地震 (M7.6)
  • 平松 良浩
    セッションID: T18-O-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    能登半島北東部では、2020年12月頃から地震活動の活発化と局所的な非定常地殻変動が観測され、2023年にM6.5の地震、2024年1月1日にはM7.6(最大震度7)の令和6年能登半島地震が発生し、北陸三県と新潟県で大きな被害を生じた。本発表では、群発地震から令和6年能登半島地震(以下、M7.6の地震)に至る過程について報告する。

    能登半島北東部の群発地震の活動域は4つのクラスター(発生順に、南、西、北、東)から成る。西、北、東のクラスターでは南東傾斜の複数の震源分布や拡散的な震源移動が確認された。南クラスターでは15 km以深での地震発生があり、間欠的かつ他クラスターより速い拡散速度の震源移動や円環状の震源分布が見られ、過去の火山活動の構造を使って大量の流体上昇が間欠的に発生し、その流体が南東傾斜の断層へ浸透し、地震活動が活発化したと考えられる(e.g. Amezawa et al., 2023)。地震波速度構造や比抵抗構造から南クラスターの15 km以深に流体の存在が示唆される(e.g. Okada et al., 2024; 吉村・他, 2023)。なお。南クラスター周辺の温泉水は、3He/4He比から深部起源流体の混入が示唆される(鹿児島・他, 2024)。

    局所的な非定常地殻変動は、南クラスターと他のクラスター間の地震空白域に位置する南東傾斜の低角な断層での開口またはせん断開口(逆断層型スロースリップを伴う)が変動源であり、南クラスターの深部から上昇した流体が南東傾斜の断層帯に浸透し、断層帯の深部で非地震性の断層運動を起こし、それに伴う応力増加により断層帯浅部での群発地震活動の活発化が生じた(Nishimura et al., 2023)。地震活動や非定常地殻変動から、南クラスター深部からの大量の流体の上昇は2022年半ば以降生じていないと考えられる。2023年のM6.5の地震は、それ以前の東クラスターの活動域の浅部端を震源とし、珠洲沖セグメントとは異なる伏在断層で起こった地震である(Yoshida et al., 2023; Kato et al., 2023)。

    M7.6の地震は能登半島北岸沖合にある複数の海底活断層が連動した地震である。本震の震源位置は、南東傾斜の断層帯、非地震性断層の浅部側に位置し、断層運動を促進する応力増加と流体の浸透により本震震源付近での断層すべりがトリガーされたと考えられる。また、本震や前震の震源は東と西のクラスターを繋ぐような伏在断層(M6.5の地震の断層も含む)上に位置する(吉田・他, 2024)。非地震性断層運動や2007年能登半島地震により、能登半島北岸沖の海底活断層は、断層運動を促進する応力増加を受けていたため、本震の震源付近で生じた断層すべりが周囲の伝播しやすい環境が整えられ、結果的にM7.6の地震規模となる断層すべりの連動が起こった可能性が考えられる。M7.6の地震では能登半島北岸での顕著な地盤隆起を伴う地殻変動、地震後は奥能登一帯での沈降を伴う余効変動が観測されている(西村・他, 2024)。令和6年能登半島地震の震源過程は地震、測地、津波データ等から推定されている。能登半島北西部の断層浅部での大すべりは、5 mに達する海岸での地盤隆起の原因であり、能登半島北東沖の海域の断層浅部での大すべりは、珠洲市や能登町で被害をもたらした津波の原因となった(例えば, 浅野・岩田, 2024)。また、震源から南西方向に伝播した断層破壊は、北東方向に伝播した断層破壊と13秒の時間差があり、Mw7.3の地震の2連発と捉えることもできる(浅野・岩田, 2024)。

    謝辞 本報告で述べた研究の多くは、科研費(22K19949, 23K17482)の助成を受けた。現地での調査研究では多くの関係機関や住民の方々の協力を得た。記して感謝します。

    引用文献

    Amezawa, Y. et al. (2023) GRL, 50(8), e2022GL102670.

    浅野・岩田 (2024) JpGU2024, U15–P20.

    鹿児島・他 (2024) JpGU2024, U15–P58.

    Kato A. (2024) GRL, 51(1), e2023GL106444.

    Nishimura T. et al. (2023) Sci. Rep., 13, 8381.

    西村・他 (2024) JpGU2024, U16-02.

    Okada, T. et al. (2024) EPS, 76, 24.

    Yoshida et al. (2023) GRL, 50(21), e2023GL106023.

    吉田・他 (2024) JpGU2024, U15-P11.

    吉村・他 (2023) 日本地震学会2023年秋季大会, S22-02.

  • 山口 飛鳥, 福地 里菜, 小野 誠太郎, 大塚 宏徳, 吉岡 純平, 田村 千織, 亀尾 桂, 沖野 郷子, 朴 進午
    セッションID: T18-O-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    海域活断層における地震時の断層運動は、海岸の隆起・沈降や津波の発生をもたらす。令和6年能登半島地震では、能登半島北部で最大4mに及ぶ海岸の隆起が生じた。海上保安庁による測深データからは海域活断層に沿った地形変動が示唆され、著者らは、2024年3月4日-16日に学術研究船「白鳳丸」により行われたKH-24-E1緊急航海において、水中ドローン(小型ROV)による断層調査を行った。その結果、能登半島北部沿岸の2か所(珠洲岬北西沖、輪島北西沖)において、令和6年能登半島地震に伴って形成された地震断層と考えられる海底の段差を2024年3月11日に確認した。

    珠洲岬北西沖で見つかった断層露頭は、海底に露出する岩盤(砂泥質の堆積岩)中に発見された。産業技術総合研究所による反射法探査(井上・岡村, 2010)から推定された海底活断層(珠洲沖セグメント)よりも南東側に位置し、北東-南西走向に40 m以上連続する。比高は約50cm程度とみられ、北西側が高く、上部が下部よりも張り出した逆断層センスのずれを示しており、張り出した上盤からの崩落物も認められる。断層面には鏡肌および縦ずれ成分の卓越する条線が認められる。断層面および崩落物の破断面は風化を受けておらず、藻や底生生物が付着していないことから、この断層は観察の数か月以内に形成されたものであり、令和6年能登半島地震に関連する逆断層すべりによって形成された海底地震断層(主断層に対する副次的なバックスラスト)であると考えられる。

    輪島北西沖では、海底活断層(猿山沖セグメント, 井上・岡村, 2010)のトレース上に東北東-西南西走向の段差が確認された。段差の比高は1 m未満で、北側が深く南側が浅い。段差の表面には礫や貝殻片などが露出しており、周囲の海底の表面に広く見られる褐色の被膜が乱されていることから、ごく最近に擾乱を受けたと推定される。これらの産状と段差の位置とを考慮すると、この段差は断層変位に伴う撓曲崖であり、令和6年能登半島地震に関連する断層の変位で表面が崩壊したものと考えられる。

    今回水中ドローンによる調査を行った3か所のうち2か所で、令和6年能登半島地震によるものである可能性のある海底面の段差が見つかった。このことは、能登半島北部沿岸の広い範囲において、地震時の断層すべりが海底面に達したことを示唆する。また、地震発生から2か月という短期間で海底地震断層を観察した例は珍しく、今後同じ地点を繰り返し観察することにより、海底に露出した断層の風化過程も明らかにできると期待される。

  • 辻 智大, 山田 佑哉
    セッションID: T18-O-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    はじめに2024年1月1日16:10頃に発生した令和6年能登半島(Mw7.5,最大震度7)では,輪島市西部で最大約4 mの隆起,最大約2 mの西向きの変動,珠洲市北部で最大約2 mの隆起,最大約3 mの西向きの変動が認められた(国土地理院2024).これらの隆起量と西向きの変動量には不均質が認められる.本研究では,2016年能登半島地震による地殻変動の不均質を理解する目的で,能登半島東部~西部にかけて地表変状に関する地形地質調査および海岸における隆起量の測定を実施した.これらの結果をSAR(国土地理院,2024),レーザー測量による解析結果(国際航業,2024),発震後の空中写真判読結果と比較した. 2.結果2.1. 珠洲市北部の西進地域周辺珠洲市真浦町漁港は、SARによる解析にて珠洲市北部にて大きな隆起と西進(最大約3 m)が認められた地域と、その西側で変動の小さかった地域との境界部にあたる.現地では東から西に注ぐ谷を調査した.その結果、谷の左岸側に約300 mにわたり断続的に線状の地表変状が認められた.港湾付近では走向N70°E,15 cmの左横ずれ,30 cmの北側低下,約60 m東では走向N72°E,40 cmの左横ずれ,20 cmの北側低下,約300 m東では走向N38°E,60 cmの左横ずれ,50 cmの北側低下が計測された. 珠洲市折戸町はSARによる解析にて大きな西進が認められた地域の南東部にあたる.発震後の空中写真では,珠洲市折戸町灰庭の北東-南西方向の尾根部付近の畑にて全長約1.2 kmにわたり,断続的に分布する多数の線状の地表変状が判読された.現地調査の結果,畑,畔,道路およびその周辺にてその一部が確認され,連続的な線状の地表変状として150 m程度追跡された.この線状の地表変状上にて走向N74°E,40 cmの南側隆起,20 cmの右横ずれが計測された.これは谷側(南側)が隆起する成分で,逆向きの低崖をなしている.ここより約100 m西では開口成分を伴う3本の線状の地表変状(合計で44 cm南側隆起)が認められた.これらの地表変状から約450 m北の畑にも,発震後の空中写真により東北東-西南西方向の線状の地表変状が大きく2条判読された.西部のものは全長約250 m,東部のものは全長約200 mである.両者は大局的には同一の直線上に分布しており,全長約900 mである.現地では,耕作されて消失した畑を除き,西端から東端まで走向N40~60°E,10~50 cmの北側隆起の地表変状が確認された.西端部では走向N57°E,約70°S,50 cmの北側隆起,50 cmの右横ずれが計測された.畑の西側の北流する谷にて北側隆起により小規模な湿地が出現していた. 輪島市西部の西進域周辺2.1. 輪島市光浦町 だいち2号観測データの解析(国土地理院,2024)によると,本地域は輪島市西部の大きな隆起および西進地域の東端より東側に相当するが、その中でも輪島市光浦町竜ヶ崎は周囲より隆起量が大きい.現地調査の結果,海岸の隆起量は光浦トンネル東出口にて0.9 m、竜ヶ崎にて1.4 m、輪島市東部ダルマ瀬付近にて1.2 mの隆起が認められた. 2.2. 輪島市長井町~縄又町航空レーザー計測の解析結果(国際航業,2024)によると,輪島市長井町から門前町中屋にかけて北東方向に複数の線状の隆起が認められる.現地調査の結果,輪島市長井町の水田および道路に雁行する2列の背斜構造が認められた.北西側のものはN43°E,南東側のものはN37°Eの方向に隆起軸を有し,隆起量は20 cm程度,北側のものは半波長約15 mであった.同様に,輪島市縄又町の国道249号線にて走向N52°E程度,約20 cm北西側隆起の撓曲が認められた. 考察 珠洲市真浦町の谷沿いに発達した左横ずれ変状は地震断層である可能性がある.これらの変状は,本谷沿いより北側の地殻が相対的に西進した可能性を示すものであり、SARによる広域的な地殻変動と調和的である. 珠洲市折戸町における右横ずれ変状は地震断層である可能性がある.これらの変状は、北側が相対的に東に移動したことを示唆するものであり、SARによる広域的な地殻変動とは整合しない可能性がある. 輪島市光浦町における隆起量の変化はだいち2号観測データの広域的な傾向と調和的であるが、ダルマ瀬付近の隆起量が想定よりも大きい.輪島市長井町~縄又町におけるこれらの変状は航空レーザー計測の上下変位分布図(国際航業,2024)に認められる全長数kmに及ぶ線状の隆起と一致する.能登半島の北西側隆起に伴い,地盤の弱部に生じた圧縮性の背斜と考えられる. 引用文献国土地理院 (2024a),https://www.gsi.go.jp/uchusokuchi/20240101noto_insar.html 国際航業株式会社 (2024): 航空レーザー計測成果を用いた数値地形解析結果【速報】(能登地域:西部).

  • 岡田 里奈, 梅田 浩司, 茂木 勁吾
    セッションID: T18-O-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    令和6年1月1日16時10分に石川県能登地方においてマグニチュード7.6の地震が発生した.この地震では能登地方の広い範囲で震度6弱以上の揺れ,北海道から九州にかけての日本海沿岸を中心に津波が観測された.地震直後の空中写真判読では,半島の広範囲で津波の浸水が認められ,その後の調査によって4m以上の津波高が確認された地域もあった.これまで地震津波が河川を遡上し,陸域の浸水範囲よりさらに内陸で氾濫し,堆積物を形成する事例が報告されているが,河川の堤外地の堆積物の事例の報告はそれほど多くない.また,陸域に比べて河道で堆積した津波堆積物は,その後の流水による侵食や再堆積,上流から供給された砕屑粒子によって覆われるなど,津波堆積物としての識別が困難となる.

     本研究では2月上旬と下旬および4月上旬の3回にわたって調査を行い,地震前後の空中写真を参考に九里川尻川の中州やポイントバーにおいて河川を遡上した津波によって運ばれたと考えられる堆積物を確認している.また,河口付近に形成されていた河口洲が地震後には消失していた.現地においては層相観察,室内で顕微鏡を用いた砕屑粒子の記載,粒度分析,珪藻化石分析などを実施し,河川遡上津波による堆積物について詳細に考察した.九里川尻川は石川県鳳珠郡能登町を流れる二級河川である.能登半島地震に伴い遡上した津波は,空中写真判読および現地調査によって少なくとも河口から1.2㎞以上に及ぶ.調査に際しては,河口から0.8 km~1.2 kmの範囲の中州やポイントバーに堆積した試料をショベルによるピット掘削およびジオスライサーを用いて26か所で採取を行った.

     遡上津波によって運ばれた堆積物は,色調,粒度,堆積構造,植物片や貝殻片の有無などからUnit 1~3に区分した.Unit 1は旧河床の直上の堆積物であり,砂粒~粗粒砂サイズで淘汰が悪く,円礫を含む.全般的に貝殻片を多く含んでいる.すべてのコアで確認することができず,河口から0.8 km付近のポイントバーでみられる.Unit 2は砂粒~粗粒砂サイズで上方細粒化が認められる.多くの地点で確認できたが,分布に規則性がみられなかった.Unit 3は全地点で確認でき,淘汰の良い,灰色の細~中粒砂で平行葉理が発達している.層厚が30㎝以上を超える地点もあった.それぞれのUnit境界には明瞭な侵食面が認められる.発表では津波の遡上経路や,各Unitの堆積物の給源,堆積プロセスについて報告する予定である.

  • 佐川 拓也, ジェンキンズ ロバート, 木谷 洋一郎, 小木曽 正造, 松原 孝祐
    セッションID: T18-O-5
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    令和6年1月1日に発生した能登半島地震は津波を引き起こし、周辺沿岸部に甚大な被害をもたらした。能登半島北部沖における海底断層のずれによって発生した津波は、半島先端部を時計回りに回り込むことで水深が浅い飯田海脚上を西進し飯田湾に到達した。本研究では、津波による飯田湾〜飯田海脚における海底堆積物の撹乱と堆積過程を理解する目的で、地震発生から3週間後と7週間後に珠洲市宝立町沖合と能登町恋路沖合で水深5mから約70mまでの範囲で表層堆積物を採取した。これまでに行った岩相記載とX線CT撮影から、広い範囲で津波に起因した堆積物の撹乱が生じたこと、陸上の土砂崩れに起因する土砂流出が沿岸堆積物の表面を覆ったことが確認された。また、恋路沖と宝立町沖で採取された堆積物を比較すると津波堆積物の厚さは恋路沖が顕著に薄かった。こうした違いはもともとの底質の違いや海底微地形が影響している可能性がある。

  • 土屋 範芳, Mindaleva Diana, 平野 伸夫, 布原 啓史
    セッションID: T18-O-6
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    令和6年能登半島地震により,能登半島北岸,東岸および西岸には津波が観測され,それにより津波浸水域には津波堆積物が堆積した.著者らは,2011年の東日本大震災による津波堆積物について被災エリアのほぼ全域から津波堆積物を採取し,三陸海岸ならびに仙台平野に津波堆積物には相当量のAsが含有されていること,さらに水溶出挙動ならびに海水溶出挙動について検討し,津波堆積物の処理には十分な注意と,その後に利用についても配慮が必要であることを指摘した(土屋ら, 2012).令和6年能登半島地震についても,主成分に加えてAsおよび重金属汚染の可能性について明らかにすべく,津波堆積物とその化学組成について検討を行った.

     津波堆積物は,2024年3月29-31日に輪島市ならびに珠洲市から総計24個採取した.エネルギー分散型蛍光X線分析装置(Epsilon 5, Perkin Elmer社製)を用いて化学組成を分析した.Asの含有量は,5.6から22.5 ppmの範囲にあり,2011年の東日本大震災の津波堆積物のAs含有量と比較すると総じて低い値となった.また,Cu (71), Zn (171), Pb (35)についても,2011年の太平洋沿岸域の津波堆積物と比較して,有意に高い値は認められなかった (カッコ内は測定試料中の最高値,単位ppm).

     令和6年能登半島地震では,地震そのものによる倒壊家屋や道路・水道設備の被災などが数多く報じられているが,これらに加えて津波による浸水被害にも重篤なものがあり,さらに調査当時もまだ十分な復旧作業までには至っていない地域が数多くあった.今回の津波堆積物と化学組成分析から,少なくとも化学組成の観点からは,今回の津波による環境への影響は限定的であると考えられるが,一方で能登半島西側では,隆起が進み,海岸線が大きく後退したところがある.これらの地域では,津波堆積物に加えて,大きく広がった海岸の砂泥による粉塵被害もあり,今後の復旧.復興活動,そして生活や産業の再興には十分な注意が必要である.

    土屋ら(2012)東北地方太平洋沖地震により岩手,宮城,福島沿岸域の津波堆積物のヒ素に関するリスク評価,地質雑, 118, 419-430.

  • 川畑 大作, 阿部 朋弥, 巌谷 敏光, 宮地 良典
    セッションID: T18-O-7
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    2024年1月1日に発生した石川県能登地方で発生したM7.6の地震(2024年能登半島地震)によって周辺地域で多数の崩壊が発生した。斜面災害の発生個所について地形的,地質的特徴があることがこれまで報告されている(例えば,松四,2024,阿部ほか,2024, 須貝ほか2024など)。特に阿部ほか(2024)では,産業技術総合研究所地質調査総合センターが公開している20万分の1日本シームレス地質図V2と5万分の1地質図幅である吉川ほか(2002)による珠洲岬,能登飯田及び宝立山を使い,国土地理院が公開している2024年能登半島地震による斜面崩壊・堆積分布データを再解釈した崩壊地分布のデータと比較し,地質区分によって分布傾向に偏りがあることを明らかにした。また,崩壊斜面が南斜面に多いことも明らかになった。しかし,斜面崩壊が多発した南斜面が地質構造とどのような関係にあるかはよくわからなかった。本研究では,地質区分ごとの地形的な特徴についてさらに検討をすすめ,根本ほか(2001)やMeentmeyerほか(2000)などの手法を用い,地形面と地層面の関係と崩壊斜面の向きとの比較を行った。その結果,地質によって傾向にばらつきがあるものの堆積岩地域では流れ盤斜面での崩壊が多い傾向になることが明らかになった。

    引用文献

    阿部 朋弥・細井 淳・阪口 圭一・川畑 大作 (2024) 地質区分と斜面傾斜方向に基づく2024年能登半島地震で発生した斜面崩壊の解析,日本地球惑星科学連合2024年大会.

    松四 雄騎(2024)能登半島地震により発生した斜面変動. 能登半島地震により発生した斜面変動. 日本地球惑星科学連合2024年大会.

    Meentemeyer, R. K. and Moody, A. (2000) Automated mapping of conformity between topographic and geological surfaces. Computers & Geosciences, 26, 815-829.

    根本達也・藤田 崇・升本眞二・ベンカテッシュ ラガワン・塩野清治 (2001) 地形面と地層面の関係の数値表現―数量化理論第Ⅱ類を用いた地すべり地判別への適用―.情報地質,12,102-103.

    須貝 俊彦・佐々木 夏来 (2024) 岩石・地形制約からみた令和6年能登半島地震による崩壊の特徴と流域地形システムへの影響―中間報告. 日本地球惑星科学連合2024年大会.

    吉川敏之・鹿野和彦・柳沢幸夫・駒澤正夫・上嶋正人・木川栄一 (2002) 珠洲岬,能登飯田及び宝立山地域の地質 地域地質研究報告5 万分の 1地質図幅 金沢(10)第 3・4,6,7 号,地質調査総合センター.

  • 永田 秀尚, 加藤 靖郎, 大丸 裕武, 居川 信之, 高見 幸恵
    セッションID: T18-O-8
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    2024年能登半島地震によって,震源からかなり離れたところでも液状化が発生した.旧河道のみならず,日本海沿岸に発達する海岸砂丘の潟湖側でも発生したことが特徴である.本講演では石川県の内灘砂丘,河北潟沿岸で発生した液状化によるランドスライドについて報告する.

    地形地質的背景:内灘砂丘は金沢市から内灘町,かほく市にかけて,長さ20km,幅1km,最大高さ60mに及ぶ長大なもので,その陸側の潟湖として河北潟がある.河北潟は江戸時代から小規模な埋立ての後,1960年代からの大規模な干拓事業によりそのほとんどが干陸化された.この際の築堤材料として砂丘潟側の砂が切土され使用された1).このような経緯により,砂丘から河北潟にかけて,以下の地形が区分される.砂丘本体-切土斜面-切土平坦面-沿岸緩斜面-埋立地-承水路-締切堤防-干拓地.公表されたボーリング柱状図2)によれば潟側の砂丘砂は標高-5~-10mまで分布し,表層の5,6mはN<5の緩い中粒-細粒砂である.河北潟の堆積物は厚さ20m以上のシルト-粘性土である.地下水深は1m前後と浅い.

    ランドスライド:震度5強の地震動による液状化により,切土平坦面から沿岸緩斜面に相当する狭長な範囲で顕著な地盤の変状が発生した.変状は無秩序なものではなく,幅300m,長さ150m程度までの横長の土塊がまとまって移動しており,その意味でランドスライドである.弧状の滑落崖は切土平坦面にあることが多く,側崖に相当するものがほぼ見られないことも形態的な特徴である.末端は沿岸緩斜面のほぼ下端を走る県道沿いに出現することが多い.このことから,地すべり体の厚さはせいぜい2,3mと薄いものと考えられ,想定されるすべり面の傾斜は1-2°ときわめて緩い.ある程度の厚さをもった液状化層3)がすべりに関与したことは当然予想できるが,詳細は今後の調査に待ちたい.

    類似例と分類:内灘砂丘沿いの地震被害は寛文十一(1799)年金沢地震の際も発生した4).「砂が崩壊して家屋が埋没」とあるので液状化が発生したのだろうが,ランドスライドについては記述がない.地形地質条件が類似しているとみられる八郎潟西岸の砂丘では1983年日本海中部地震で多数の地すべりが報告されている5).今回発生したランドスライドは,その素材と運動様式に基づく分類6)ではフロースライドに相当するだろう.

    文献1)北陸農政局(1985) 干拓の記. 2)国土地盤情報センター(2024) https://publicweb.ngic.or.jp/emergency-1/ 3)平ほか(2012) 地質雑,118,410-418. 4)寒川(1986) 地震,39,653-663. 5)山崎・粟田(1983) 地質ニュース,347,7-14. 6) Hungr et al. (2014) Landslides, 11, 167-194.

  • 中瀬 千遥, 細矢 卓志, 遠藤 徳考, ジェンキンズ ロバート
    セッションID: T18-O-9
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    2024年1月1日に石川県能登半島を震源とした能登半島地震では,広い地域で多数の人的,家屋被害が発生した.石川県内灘地区においては,同程度の震度を観測した周辺の地域と比べて,家屋倒壊や道路の崩壊などの被害が顕著であった.そこで本研究では,被害状況の把握のため,内灘地区周辺においてUAV LiDAR計測を実施し,詳細な地形データを取得した.また,取得した地形データと地震発生前の地形データを比較することで,地震動によって生じた変状の検出を試みた.

     内灘地区は,日本海沿いに発達する内灘砂丘の内陸側砂丘麓に位置する細長い形状を示す住宅地である.内灘砂丘の内陸側にはかつては潟湖(河北潟)が分布していたが,昭和38~46年の干拓事業において干拓が進められ,現在の姿となっている.被害が集中した地区は内灘砂丘と干拓地の境界付近に位置しており,今回の地震では,住宅地の中を走る県道8号線沿いを中心に,道路の破損や家屋倒壊,沈下などが多数発生した.公園や水田などの未舗装地では噴砂が多数確認されており,道路アスファルトの亀裂からも砂の噴出が見られている.また,塀の一部や家屋が水平方向に移動している様子も確認されている.

     内灘地区で噴砂が発生した箇所について粒度分析を実施した結果,均等係数Uc=2.15程度の細砂~中砂を主とした均質な砂であることが判明した.内灘地区には広く砂丘堆積物が分布し,その砂は液状化が生じやすい粒度分布を持っており,地震動によって液状化が生じたことが被害の誘因であると考えられる.

     地震による被害状況を把握するため,地震発生後(2024年1月30-31日)に内灘地区においてUAV LiDAR計測を実施し,詳細な地形データを取得した.取得した地形データからは,住宅地全体が内陸側に緩く傾斜していることが読み取れる.さらに,地震による変状を把握するために,得られた地形データと地震発生前の地形データとの比較を行った.地震発生前の地形データは国土地理院の数値標高モデル(2016年10月1日計測)を使用した.その結果,砂丘に並行に帯状の沈降・隆起が生じていることが判明した.特に顕著な隆起は県道8号線沿いに生じており,幅10m,最大1 m程度の帯状隆起が連続して認められた.また,隆起部に隣接する斜面側は帯状に沈降していた.一方,河北潟側に広がる水田では,一様に広範囲が0.5 m程度沈降していることが明らかとなった.

     県道8号線沿いの隆起・沈降帯は,一部を除いて人工改変前(砂丘を人工的に切り崩す前)の砂丘の位置より河北潟側に分布していた.現在緩傾斜地になっていることから,かつての砂丘より河北潟側では,砂丘を切り崩した後に盛土造成を行っている可能性が高いと考えられる.また,地震発生時には水の噴出が確認されたことから,地下水位が高く,地盤が悪い状態にあったことが想定される.地形断面図より,隆起部は盛土の端部が押し出された結果と想定でき,盛土の端部に沿って道路が建設されていることから,道路がダムの役割をし,流動してきた土砂を受け止めてしまったことで,大きく隆起した可能性がある.また,砂丘跡に建設された小学校校庭には,開口亀裂が生じ,土塊の内陸側への水平移動と沈下が見られた。盛土の端部(人工改変前の砂丘端部)が流失したことで,その背後地がブロック状に斜面下方(内陸側)へと水平移動したと推測できる.本調査で計測した地震直後の地形データが,今後の災害復旧,被害発生のメカニズムについての調査・解析に貢献することが期待される.

  • 高清水 康博, 河崎 陸, 渡部 俊, 卜部 厚志, 西井 稜子
    セッションID: T18-O-10
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    令和6年(2024年)1月1日16時10分に発生した気象庁マグニチュード7.6の令和6年能登半島地震(気象庁,2024)では,能登半島から約150 kmの新潟市西区は震度5強の揺れに見舞われた.その結果,新潟砂丘およびその背後の低地では広域に渡り液状化による地盤災害が起こった.新潟市にとっては,1964年6月の新潟地震以来の大規模な液状化現状であった.この液状化により発生した噴砂は,噴出した場(地形や地質など)によって多様な形態と規模が認められた.地震後の被害調査時に新潟市西区新通の畑地においても多くの噴砂を確認した.この畑地内に設定した区画内において噴砂の全数調査をしたところ,110の噴砂を認めた.噴砂の形態は多様であり,地割れに伴うもの,火口丘の様な形態,カルデラ様の形態,およびその他不定形のものであった.

     これらの噴砂の中で地割れに伴う規模の大きな噴砂を一つ選出し,その特徴を検討した.すなわち,液状化に伴う噴砂現象のメカニズムを解明することを目的として現地調査(地形測量,ドローン撮影,フォトグラメトリー,および地質試料の採取)を実施した.その後,実験室にて試料の詳細な記載,剥ぎ取り標本の作製,および粒度分析等を実施中である.畑地の地表の起伏の状況を考慮した結果,地割れに対して約60度の角度で斜交する測線を設定した.噴砂は地割れ付近では最大約13 cmの厚さで,離れるに従い層厚が1 cm以下に減少した(相関係数は,0.94および0.95).また剥ぎ取り標本の観察からはこの噴砂には平行葉理が認められた.また,地割れから測線に沿って約3.5 mほど離れると下部に薄い泥層があり,その上位に砂層が累重する様子を確認することができた.このことは地割れから液状化によって泥水が最初に流出した後に,砂が噴出したことで説明可能である.今後,粒度分析結果やX線CT撮影等を合わせて検討を続けていく計画である.

    気象庁(2024a)令和6年1月1日16時10分頃の石川県能登地方の地震について(第2報).令和6年1月1日報道発表資料,1p.

  • 川辺 孝幸, 風岡 修
    セッションID: T18-O-11
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    はじめに

     2024年1月1日に発生した能登半島地震(Mj7.6,最大震度7)によって,能登半島地域において甚大な被害が発生するとともに,日本海を挟んで東北東に約160km離れた新潟市西区の砂丘背後の0メートル地帯において,液状化・流動化に伴う被害が発生した.

     筆者らは,被害の大きかった新潟市西区のうち,大野,寺尾~寺尾東,鳥原~善久,山田の各地域および江南区天野において,液状化・流動化被害の状況とその低減にために調査をおこなった.

    調査結果

     液状化・流動化被害は,砂丘内陸側斜面に隣接する西川の沖積平野に発達するローブ状の微高地および旧河道低地において被害が集中することが明らかになった.

     旧河道低地,特に蛇行した旧河道低地では,旧河道の攻撃斜面側で液状化・流動化が発生して道路に変状がみられ住宅の基礎にも影響を与えている.たとえ地表の傾斜が4/1000程度であっても,地表はその最大傾斜の方向(攻撃斜面側)に移動している.

     砂丘内陸側斜面に接続する泥主体の沖積低地上に発達するローブ状の微高地で,液状化・流動化の被害が激しい.微高地は,傾斜:1~4/1000,比高数十cmで,噴砂がみられることから,微高地は砂で構成されていることがわかる.砂丘から飛散した砂の風成層か,背後の砂丘斜面が人工的にカットされた地形が残っているので,宅地化以前の水田のぬかるみを解消するために,水田に客土を行った結果の可能性もあろう.

     結果的に周囲に比べて液状化を起こしやすい透水層ができた可能性がある.

    液状化・流動化の起こるメカニズム

     ここで,液状化・流動化被害の発生要因と対策を考えるために,液状化現象・流動化現象の発生するメカニズムを記す.

    〇液状化現象

     固体としてふるまっていたゆるい砂層が液体状に変わること.ゆるい比較的粒径が揃った砂層は粒子間に隙間が多数存在し,浅い深度に地下水面があり,その隙間が地下水に満たされている時,強い地震動に伴い間隙水の水圧が上昇し,地下水位が地表を超える程度となると,支えあって接合していた粒子がバラバラになり水中を浮遊し,地層としての支持力は失う(Seed and Lee, 1965;J.R.L. Allen, 1984 ).

    〇流動化現象

     液状化した地層中の間隙水圧は高く,水と粒子が一緒になって圧力の低い地上などへ噴出する際,粒子は元の場所から移動することになる.この現象を流動化と呼ぶ(Lowe,1975;J.R.L. Allen, 1984).液状化層の上位に重なる非液状化部分において,地面の波打ちなどにより,亀裂が生じここを通って地表へ地下水と砂が噴出する.この時,この亀裂内には噴砂の一部が挟まれている(噴砂脈)場合が多い.

    〇液状化地すべり

     ゆるい砂層が液状化する時,地表面に高低差があり,液状化部分が側方に連続している場合は,液状化部分がすべり面となって全体が低い方へ移動することがある.これが液状化に伴う地すべりで,この際,液状化部分では流動化も伴う.1964年の新潟地震時には多くの場所でこのような現象が見られた(新潟大学理学部地質鉱物学教室・深田地質研究所,1964).

    液状化・流動化の被害低減のために

     上記のように,液状化・流動化の発生する要因には,十分な間隙をもつ透水性のよい未固結の砂層の存在があり,浅い地下水の存在という,大きく2つの要因がある.

     被害を低減するには,この2つの要因を抑えることである.前者に関しては対策が大がかりになり既存の住宅地には不向きである.従って,今回のような場所での対策としては,地下水位を下げて,間隙水が滞留しない,間隙水圧を上昇させないようにすることである.このような条件が続く限り,同様な強震動を被れば,何度でも液状化・流動化の被害を被ることになる.

     まずは,地下水位を下げるために,地下水位より低い位置に,排水暗渠を敷設することが最善の方法である.

    謝 辞

     調査に先立ち,板東氏をはじめとする株式会社KOWAの方々に被害地の案内をいただいた.記してお礼を申し上げる.

    文 献

    Seed,H.B. and Lee, K.L., 1965, Univ. Calif., Berkeley, Dep. Civil Engineering Report No. TE-65-5.

    Lowe, D.R., 1975, Sedimentology, vol.22, 157-204.

    Allen, J.R.L., 1984, Chapter 8. Sedimentary structures volumeⅡ, Elsevier, 293-342.

    新潟大学理学部地質鉱物学教室・深田地質研究所,1964,新潟地震地盤災害図,新潟大学.

  • 須内 寿男, 西川 徹, 北村 暢章, 上野 将司
    セッションID: T18-P-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    令和6年能登半島地震に伴って,珠洲市若山町において上下変位を伴う線状の地表変状が複数確認された(吉田,2024など).2024年4月7日に実施した現地慨査の結果,これらの地表変状のうち若山町中地区に出現した1条は,地震による地すべり活動が,その形成に関与している可能性があると考えられる.この地表変状は,同地区において,塚脇(2024)が地すべりに伴うものとしている地表変状とは別のものである.

     複数の地表変状は,南北を比高50~200m程度の丘陵地にはさまれた狭小な谷低平野を東方に流下する若山川沿いに分布する.地表変状の多くは,耕作地の落差2m程度までの垂直変位を伴う(以下,撓曲と呼ぶ).撓曲に認められる次の現象により,これらの撓曲は概ね南北方向の圧縮により形成されたと推定される.すなわち,①地表変状をまたぐ電線の垂れ下がりが大きいこと,②地表変状が河川を横断する場合,護岸のブロック積擁壁が傾斜約10°の破断面に沿って,河川方向に短縮されている箇所があること.これらの撓曲の平面的な移動方向(以下,フェルゲンツと呼ぶ)は撓曲毎に異なり,南あるいは北を示す.

     南北の丘陵地には,谷低平野との境界付近を末端とする多数の地すべり地形が認定されている(清水ら,2001).これらのうち,北側の丘陵に位置し,若山川の北岸に末端部を有する地すべりブロックは,①末端部の押し出しを示唆する縦水路の浮き上がり,②若山川に架橋された床版橋の山側の沈下,③平野側への押し出しを示唆する平野側橋台と護岸擁壁のすき間,④地すべり頭部での複数の開口亀裂の存在等から,地震により再活動した可能性が高い.

     若山川南岸で,若山川に併走する東西方向の地表変状は,耕作地および農道の撓曲を伴い,フェルゲンツは南,すなわち地すべりの概ねの移動方向である.その延長は150m以上,最大高さ1.2mであり,撓曲を横断する農道付近では0.6~1m程度の右横ずれを示す.この右横ずれは,地すべりの移動方向が南南東方向とみられることと整合的である.高さが最大となるのは平野側に押し出しを受けた可能性のある橋梁付近であり,その上下流では徐々に高さを減じている.

     以上より,この地表変状は,地震による地すべりブロックの再活動により形成された,地すべり末端部の変位である可能性がある.

    <引用文献>

    清水文健ら( 2001) 防災科技研研究資料第210号

    塚脇真二( 2024)https://janet-dr.com/050_saigaiji/2024/240325/noto3_2_2_tsukawaki.pdf

    吉田一希(2024) https://www.gsi.go.jp/common/000254854.pdf

GG-1.ジェネラル サブセッション 応用地質・地質災害・技術
  • 西山 賢一, 鳥井 真之
    セッションID: G1-O-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    1.はじめに 斜面崩壊・土石流の発生年代を推定することは,長期的な斜面防災や,渓流の砂防計画,さらには国土の安全な土地利用にとって重要な基礎資料となる.本研究では,2016年熊本地震で多様な斜面災害が発生した熊本県阿蘇火山を対象とし,2016年熊本地震でアースフローが流下した山王谷川の流域に残存する古い崩壊堆積物から古土壌を採取し,14C年代測定を実施したので報告する.

    2.対象地域の地形・地質と崩壊の誘因 対象とした阿蘇火山では,2016年熊本地震により,多数の斜面崩壊・地すべりと,それに起因するアースフローが発生した.崩壊が多発した地質は,後カルデラ火山体では阿蘇火山の噴出物(テフラ層ならびに古土壌)を主体とし,カルデラ斜面ではそれらに加え,カルデラ形成前の先阿蘇火山岩類の崩壊も発生した.また,熊本地震の約2か月後の2016年6月には,総雨量500mmに達する記録的豪雨に伴う斜面崩壊と土石流も発生した. 

    3.分析試料の採取と年代測定 分析用試料の採取位置は,2016年熊本地震で発生した崩壊土砂が流下した阿蘇火山西部を流れる山王谷川の側壁斜面(露頭)である.山王谷川では,熊本地震により発生した斜面崩壊起源のアースフロー堆積物が河道を一部で越流して堆積した.その後,2016年6月の豪雨時には土石流が発生し,熊本地震で堆積していた河道のアースフロー堆積物を一掃した.山王谷川上流部に露出している堆積物の記載を行うとともに,堆積物中から古土壌を抽出した.得られた試料は㈱加速器分析研究所に依頼し,AMSによる14C年代測定を行った.δ13Cにより同位体分別効果を補正して得られた14C年代(BP)を得て,暦年(cal BP)に較正した.暦年較正にはIntCal20データセットを用い,OxCalv4.4較正プログラムを利用した.較正した暦年は2σの範囲で表示した.

    4.試料採取地点の地質と年代値 試料を採取した地点の地質と得られた年代値について,以下にまとめる.堆積物は上位から,2016年熊本地震に伴うアースフロー堆積物(厚さ1m程度,整地のため正確な値は不明),径1mを超える安山岩やアグルチネートの角礫を含む角礫層(厚さ1.2m以上,上限は整地されているため不明),テフラを3枚挟在するローム層(厚さ3m以上),アースフロー堆積物(厚さ2m以上,下限不明),が確認できる.ローム層の最上部は黒色土壌を呈する.ローム層に挟在する3枚のテフラは,上位から,厚さ5cmの細粒スコリア層,厚さ8cmの細粒火山灰層,厚さ10cmの細粒バブルガラス質火山灰層である.これらのテフラの屈折率測定を実施していないが,テフラの層相と,後述の古土壌の年代値とを考慮すると,上位から,OjS(往生岳スコリア),KsS(杵島岳スコリア),K-Ah(鬼界アカホヤ)に対比可能と考えられる. アースフロー堆積物は,安山岩礫をほとんど含まず,テフラまたはローム層をばらけた状態で含む層相を呈する.レンズ状を呈する黒色土層や,径1~3cmの軽石・スコリア片などを雑多に含む.層理面や成層構造は一般に不明瞭であるが,まれにレンズ状の細礫層を伴うことがある.また,黒色土層に富む部分と,少ない部分とが存在する.一方,角礫層は,径1mを超える角礫を伴い,下位のローム層との境界には侵食痕が認められることがある. ローム層最上部から得られた古土壌の14C年代測定結果は,2σの範囲で最も確率が高い暦年値は1600-1514 cal BP (81.2%)となった.

    5.堆積時期の推定と誘因の識別 ローム層最上部の14C年代値と,挟在するテフラに基づけば,最上部の角礫層の堆積年代は,上記の古土壌の年代値より新しく,ほぼ古墳時代以降~2016年までの間となる.また,ローム層の下部にはK-Ahと思われるバブルガラスを多く含む火山灰が挟在するため,ローム層より下位に位置するアースフロー堆積物は,7,300年よりやや古いと推定される. 以上のことから,アースフロー堆積物は,ほぼ完新世の期間内に,7,300年よりやや古い時期と2016年の,少なくとも2回,繰り返して堆積していることになり,古墳時代以降~2016年までの間には,アースフローではなく,角礫を含む土石流が堆積している.アースフロー堆積物は,水に飽和していないテフラが細片化した流れの堆積物であり,誘因としては直下型地震による強い地震動が考えられる.一方,土石流堆積物は水に飽和した流れであり,記録的な豪雨を誘因とする可能性が考えられる.すなわち,アースフロー堆積物と土石流堆積物は,異なる誘因条件で発生した流れの堆積物という可能性が考えられる.両者の層相の識別は,地震と豪雨による斜面崩壊イベントを識別するための根拠となりうる可能性がある.

  • 山崎 新太郎, 後藤 章夫, 平野 伸夫, 土屋 範芳, 松中 哲也
    セッションID: G1-O-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    蔵王火山は丸山沢噴気地熱地帯での小規模水蒸気爆発を伴った1939年からの明瞭な活動期以降、1960年代の群発地震や噴気の増大、2013年からの微動および地震の発生といった活動の高まりはあったものの、比較的低い活動レベルが続いている。直径約300 mの御釜火口湖に関しては1939年からの活動でガス噴出や温度増加が見られたが、以後、火山活動が疑われる異常は長期間観察されていなかった。しかし2014年に突如水面の部分的な白濁が観察され、同様の現象は2019年にも確認された。活動度の上がっていた時期だったこともあり、火山活動との関連が疑われたが、発生源の解明には至っていない。

     ところで、2018年山崎ほかにより、魚群探知機を搭載した無人船を利用した地形調査によって、湖底中央湖盆上に火砕丘によく似た小丘が発見された。走査された魚群探知機のイメージにはガス噴出の疑いがある反射も検出されたが、これはノイズの疑いがある。この小丘は水深23 m(2022年9月7日時点での水深)の平坦な湖盆の中央に存在し、その周辺に火口壁起源の落石、土石流起源の転石など大粒径の物質が認められないことから、なおも火山活動と関係する地形である可能性が残された。筆者らは2022年9月、200 kHz音波を利用したソナーによる底質分析、サイドスキャンソナー(SSS)による水底地形のイメージング、サブボトムプロファイラ(SBP)による湖底下地質構造のイメージング、水中ドローンと呼ばれる小型ROVを用いた湖底面上の観察を実施した。以下、その調査結果と考察を記述する。

    御釜火口湖の地形と地下構造の全体像

     200 kHz音波を利用したソナーによる底質分析では、前述した小丘を除いて湖盆上は平坦であり、比較的低い荒さ値(ソナー信号から得られるE1値)と硬さ値(E2値、PeakSV値)をもつ底質で覆われていた。SBPで判別できる湖盆下の地層は所々変形しているが後述の不整合面まで少なくとも10層以上の地層が分離できた。湖盆西側では概ね水平成層した堆積物の下に湖底中心に向かって約20度で傾斜する傾斜不整合が認められた。これは堆積の様式が、斜面を形成するステージから、現在も続く水平面を形成するステージに急速に変化したことを示唆している。特筆すべき点として、湖の南西に明瞭な地すべり地形と堆積物が認められた。この地すべり地形は幅が80 m以上あり、最大厚さ2.5 mである。

    小丘地形とその地下構造

     SSSによる水底地形のイメージに投影された小丘地形は長さ6 m、幅が2 m程度であり、北西ー南東に長い形状をしていることが判明した。南北に走査した高解像度の鉛直方向の音響イメージを観察すると、小丘は高さ1 m、北側が傾斜35度の比較的急傾斜になっており、南側が8度の比較的緩傾斜になっていた。そして、小丘を挟んで北側の湖盆が低く、南側の湖盆がそれにくらべて0.3 m程度高いことが判明した。つまり小丘は異なる地形面の境界になっている。この小丘上を走査して得た底質の荒さ値は周辺の湖盆に比べて高い値もあるが、硬さ値に関しては湖盆上とほとんど変わらない。

     水中ドローンによって小丘表面に幅20 cm以下の溝状構造、表層の剥離、ネットワーク状の亀裂が観察できた。溝状構造の一部は地層の横断が差別侵食によって凹凸を形成したために現れたものである。つまり、これが湖底面上で観察できることは地層が転倒していることを示している。小丘を南西から北東に横断するSBPイメージでは小丘西側平坦部の直下2.5 mからみかけ傾斜13度をもって地表面に伸びるスラストが認められた。このスラストによる隆起域が小丘となっている。また、小丘東側の湖底下1 mにある反射層は、水平短縮を受けるように鉛直方向に褶曲変形をしており、所々に不連続が認められた。

    調査結果から考えられる小丘の起源

     以上の観察結果を総合すると、小丘を構成しているのは地質体同士が衝突して隆起・傾斜した湖底堆積物で、火山活動に由来するものではないと考えられる。前述のスラストをもたらした変動は、小丘南西側の地質体がほぼ水平に移動して小丘付近で北東側に衝突し、小丘付近の地層の一部が上方向に屈曲して生じたものである。SBPで観察できる地質構造から、小丘直下のスラストの発生位置は、前述した地すべりのすべり面に連続している。つまりは湖南西側の地すべりが滑動して北東方の湖底の地質体にその圧力が伝搬していると思われる。水中ドローンで観察できた小丘表面にはネットワーク状の亀裂が観察できたが、これは水平短縮に伴う曲隆によって表面が展張して形成された可能性がある。また、この亀裂はほとんど堆積物に覆われていない。この地すべりは現在でも活動しているか、または最近まで活動していたことが疑われる。

  • 菅原 宏
    セッションID: G1-O-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    1.はじめに

     菅原(2022)は,広域に多数の斜面が分布する中で,どの斜面・地域で崩壊・地すべりが発生するのか,その発生可能性のポテンシャルを斜面がどの程度有しているのかを視覚化した崩壊・地すべりの発生可能性リスクを6段階に区分したモデルを示し,実際の個別事例との比較でモデルの妥当性に言及した.

     今回,混同行列を使用して性能指標からモデルの妥当性を検証した.

    2.検証手法

     検証に当たっては機械学習的手法の混同行列を導入した.ここでタスクは地すべり崩壊発生可能性を,検証データは研究対象範囲における赤色立体地図(PRIM@10_2016)の判読結果と地すべり地形分布図を,性能指標はメッシュ区画の発生リスクポテンシャル指数(PP)である.

     検証データである赤色立体地図の判読は崩壊地形の抽出を行い,メッシュ内の発生個所数を計数した.また,地すべり地形分布図からはメッシュごとの地すべり土塊数を計数した.

     これらの計数した事象の有無とランクの閾値NであるPPとの関係を,混同行列で正確さ・適合率・再現性(真陽性率)・真陰性率・偽陰性率・偽陽性率を算出した.また,再現性(真陽性率)と偽陽性率からROC曲線をプロットした.

    3.結果

     PP値の性能指標の変化は,PP値10を閾値として正確さ・適合率・再現性・偽陽性率が急激に高くなる.一方,真陰性率・偽陰性率は急激に小さくなる.PP値10以下は発生リスクのランクA~Cに相当しており,不安定斜面としては発生リスクのランクC以上を注意すべき斜面として認識できる.

     再現性(真陽性率)と偽陽性率からプロットしたROC曲線は右下側に凸の形状を示している.再現性(真陽性率)が低い場合にPP値が小さく(ランクが高い),偽陽性が高い場合(ランクが低い)にPP値が大きい.これはモデルで示したランク以上に判読等から得た検証データでは崩壊や地すべり地などの不安定斜面が多数存在していることを示している.

    主な文献

    菅原(2022)崩壊・地すべりの発生可能性リスクモデルの構築,日本地質学会第129年学術大会,G8-O-3.

    アジア航測(2016)PRIM@10_2016

    防災科研(1999)5万分の1地すべり地形分布図第10集「飯田」図集,防災科研研究資料第189号

  • 吉河 秀郎, 長谷 陵平, 淡路 動太, 中川 清森, 清水 桜, 大竹 翼, 奈須野 恵介
    セッションID: G1-O-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    山岳トンネル建設現場では,掘削対象の地山に膨潤性粘土鉱物であるスメクタイトが多量に含まれる場合,工事中に大きなトンネル内空変位が発生することが多い.その変位を抑制するために,切羽近傍で支保部材を用いてトンネル断面を早期にリング状に閉合する早期断面閉合がしばしば採用される.またトンネル供用後,トンネル周辺地山の劣化により盤ぶくれ等の変形が生じ,対策工の施工が余儀なくされることがある.このようなリスク予測や対策工のため,トンネル施工中に先進ボーリングを行い,室内試験を実施し,スメクタイト含有量が20%より多いか少ないかで境界をもうけ,評価・対策検討が行われることが多い1).しかし,スメクタイト含有量を算出するためのXRDを用いた試験は結果が出るまでに比較的長期間を要するので,それにより対策工の検討に遅延が生じる場合もある.そこで著者らは,より早期にその含有量を測定できる技術の構築を目的として,ハイパースペクトルカメラにより撮影したデータ(Hyperspectral Imaging: 以下,HSI)を用いた技術開発に着手した2).以下にその概要を述べる.

     本研究で扱う試料は,山岳トンネル建設工事の某現場において先進ボーリングにより採取された砂岩・凝灰岩である.当該現場の地山には,続成作用によって形成されたと考えられるスメクタイトが広範囲に含有することが施工中の試料採取・分析により分かっている.コア試料から色の異なる部分(灰色・黒色)で30試料を採取し,それぞれ粉末状にし,HSIによるスペクトルデータを取得した.また,本研究では,スペクトルデータからスメクタイト含有量を算出するために,複数のAI学習アルゴリズムで試行し最も高精度と判断できるAIモデルを用いた.上記30試料の近傍における別試料(別試料:上記30試料と同一のボーリング結果であるが,サンプリング位置が異なる.しかし,コア全体の岩相構成から分類基準になると判断した試料である.)のXRD定量分析によるスメクタイト含有量をおもな判断基準として,含有量が20%以上か以下かで試料を分別して,AIモデルの学習データ(18サンプル)と,AIモデルに判定させるデータ(12サンプル)を準備した.

     AI判定の結果,今回のような同じ現場で採取されたほぼ同一の岩相の粉末試料の場合,20%を境界としたスメクタイト含有量について,学習したAIモデル(SVM)は90%以上の正解判定を出すことできた.今後は,異なる岩相,異なる成因(続成作用・変質作用),異なる状態の試料(大小様々な岩片,コア試料)に対してスメクタイト含有量の分類が本手法により可能か評価を行い,汎用性の高い技術開発を進めていく予定である.

    参考文献

    1)独立行政法人鉄道建設・運輸支援機構(2008):新幹線の山岳トンネルにおけるインバートの設計・施工の進め方について(暫定案).

    2)長谷ほか(2024,投稿中):ハイパースペクトルカメラを使用したスメクタイト含有量判定可能性の評価,土木学会第79回年次学術講演会 講演要旨集.

  • 加瀬 善洋, 小安 浩理, 仁科 健二, 石丸 聡, 藤原 寛, 宇佐見 星弥, 輿水 健一, 吉永 佑一, 室田 真宏
    セッションID: G1-O-5
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    【背景】

     北海道中標津町北武佐では,摩周l降下火砕堆積物(Ma-l;14 ka)をすべり面とするスライド(テフラ層すべり)により形成された地すべり移動体が見出され,その起源は地震である可能性が報告されている(越谷ほか,2012).道東地域でのテフラ層すべりの報告例はこの1例に限られる一方,北武佐の事例と同様に2.5万分の1地形図では判読が困難な規模の移動体が,空中写真SfM画像の判読により中標津町~標津町の広い範囲で複数見出されている(加瀬ほか,2022).しかし,森林部での移動体の抽出は十分でないことに加え,移動体がテフラ層すべりであるかどうかや発生年代については未検討である.そこで著者らは,現地調査や年代測定を行ったので報告する.

    【研究手法】

     中標津町俣落,開陽,武佐の3地域で,加瀬ほか(2022)で抽出した移動体を含む約1.5 km2の範囲を設定し,UAV-LiDAR測量を行った後,イルミネーション-法線マップ(吉永ほか,2023;以下,イルミマップ)を作成し,移動体を抽出した.標津町古多糠~薫別では産総研(2019)のLPデータを用いた.その後,抽出した移動体上で小径掘削調査を行い,すべり面および層相を確認した.すべり面がテフラであった場合,適宜,軽石(火山ガラス)を対象にEDS分析を行った.また移動体の内部構造を可視化するため,GPR探査を行った.すべり面直下に黒色土が認められた場合,イベント年代を推定するため,この黒色土を対象にC14年代測定を行った.

    【結果】

     イルミマップに基づき森林部で複数の移動体を新たに抽出した.抽出した移動体の数は,イルミマップと空中写真SfM画像を併用して150程度である.移動体は等価摩擦係数が0.1–0.2程度と小さく,標津断層帯に沿うように分布し,特に開陽断層中部(武佐~開陽)および古多糠断層では比較的高密度に分布する傾向が認められる.

     掘削調査の結果,北武佐を含む8の移動体のすべり面がテフラであることを確認した.すべり面のテフラは,層序やEDS分析結果から,俣落ではMa-i?(7.6 ka),開陽・武佐・薫別ではMa-lである.すべり面付近の軽石はいずれも水分を多く含み,軟弱で容易に泥濘化する.GPR探査では,大局的には移動体全体が側方への連続性の良い反射面で特徴づけられる.

     俣落および薫別では,テフラ層すべりの移動体が明瞭なすべり面を境にして下位の黒色土(不動層)に重なることを確認した.すべり面直下の黒色土から得られたC14年代測定値(2σ)は,俣落で5895–5660 cal BP,薫別で5906–5741 cal BPである.

    【考察】

     テフラ層すべりの移動体の成因としては,豪雨あるいは地震が考えられる.豪雨起源の場合,移動体は土石流として流下するため,移動体そのものが斜面に残る可能性は低く,流動化を伴うため,層序を保って定置することも考えにくい.一方,地震起源の場合,斜面をマントルべディングしたテフラがスライドして移動・定置する例が多く知られる(千木良,2018).本研究で見出したテフラ層すべりの移動体は,①GPRの解釈(加瀬ほか,2023)と掘削調査から元の層序を保ち堆積していると推定されること,②等価摩擦係数が小さいこと,③すべり面付近は含水率が高いこと,④北武佐のすべり面には地震地すべりの素因とされるハロイサイトが多く含まれること(加瀬ほか,2022)等を考慮すると,地震起源である可能性が高い.

     年代測定を行った俣落は荒川-パウシベツ川間断層東部,薫別は古多糠断層北部に位置し,イベント年代はいずれも約6 ka以降を示すことから,同一イベントで形成された可能性がある.両者の間に位置する開陽断層中部のイベント年代(約4–5 ka)と比較した場合,①同一イベントに対比されるか,②別イベントであり地震性テフラ層すべりが繰り返し発生している可能性がある.なお,東古多糠断層の最新活動時期(14–8 ka;産総研,2019)とは重ならない.

     移動体が開陽断層中部や古多糠断層付近に偏在する傾向は,それぞれの断層活動との関連性を示す可能性がある.ただし,SfM画像で移動体が認められない開陽断層東部の川北は斜面傾斜が<10°と非常に緩く,地形の影響を強く受けていると推定される.また,千島海溝の地震である可能性も現時点では否定できない.今後,LiDARの未検討な地域における移動体の抽出やすべり面の確認,年代データの収集等によるノンテクトニック構造の検討が,標津断層帯の活動履歴を明らかにするための一助となることが期待される.

    【文献】千木良,2018,災害地質学ノート.産総研,2019,活断層.加瀬ほか,2022,2023,地質学会要旨.越谷ほか,2012,北海道の地すべり.吉永ほか,2023,地すべり学会要旨.

GG-2.ジェネラル サブセッション海洋地質
  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    葭井 功輔, 髙栁 栄子, 宮島 利宏, REUNING Lars, 井龍 康文
    セッションID: G2-O-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    19世紀最後期から海洋島や炭酸塩プラットフォーム(例えば,グレートバハマバンク島)で数多くの掘削が行われてきた.その第一義的な目的は,両者を構成する炭酸塩岩の堆積・続成過程を明らかにし,形成史を解明することにあった.1970年代以降になると,海洋島や炭酸塩プラットフォーム内における間隙水の組成や挙動は,堆積物の続成変質過程を理解する上で重要であるとの認識から,それらに関する研究が行われるようになった.しかしながら,被圧帯水層における間隙水の挙動は明らかにされてきたものの,海底下の不圧帯水層の挙動に関する知見の蓄積は十分ではない.本研究では,オーストラリア北西沖大陸棚で採取された間隙水の水素・酸素同位体比と,先行研究により明らかにされたオーストラリア西部およびその沖合の間隙水の主要元素濃度および塩分データに基づき,炭酸塩プラットフォーム内における間隙水の挙動を考察する.

    本研究で検討した試料は,オーストラリア北西沖のNorthern Carnarvon BasinおよびRoebuck Basinで実施された国際深海科学掘削計画第356次航海のU1461,U1462,U1463,U1464地点より得られたコア試料から採取した間隙水58試料である.東京大学大気海洋研究所所有のキャビティダウン分光方式安定同位体比分析装置を用いて,間隙水試料の水素同位体比(δD)および酸素同位体比(δ18O)を測定した.

    間隙水試料の水素同位体比(δD)は3.71~10.76‰(VSMOW)であり,酸素同位体比(δ18O)は0.54~3.26‰(VSMOW)であった.間隙水は塩分に基づき,3グループに区分される.グループ1(海底下深度約0~50 m)は塩分が40以下であり,そのδDは約3.7〜7.4‰,δ18Oは約0.5〜1.3‰である.δDとδ18Oの間には,正の相関が認められる.グループ2(U1461では海底下深度約50~400 m,U1463およびU1464では海底下深度約50~220 m)は塩分が40~100の範囲にあり,そのδDは約6.5〜8.6‰,δ18Oは約1.1〜2.5‰である,両者に相関は認められない.グループ3(U1461では海底下深度約400 m以深,U1463およびU1464では海底下深度約220 m以深)の塩分は100以上で,そのδDは約6.6〜10.8‰,δ18Oは約1.8〜3.3‰である.両者には正の相関が認められる.

    グループ1およびグループ3の水素・酸素同位体比から得られた回帰直線の傾きが北西オーストラリア・Hamersley Basinにおける地下水のLocal Evaporation Lineと類似することは,両グループの間隙水の水素・酸素同位体比が同様の蒸発作用の影響を受けていることを意味する.グループ1の間隙水は深部の試料ほどδDおよびδ18Oの値が大きいため,深部の試料が浅部と比較して大きな蒸発作用を被ったか,上位の間隙水ほどより上位から浸透した海水の影響を強く受けたかという2つの可能性が考えられる.また,グループ1最上部の間隙水は現在の海水とほぼ同一の水素・酸素同位体組成および化学組成を有している.周辺の気候や地質条件を考慮するとグループ1の間隙水は,沿岸で蒸発を受けた海水が堆積物中に移動して炭酸塩プラットフォーム中を側方移動する過程で,上位から浸透した海水と混合することによって形成されたと考えられる.

    グループ3の間隙水の水素・酸素同位体比の回帰直線は,グループ1の回帰直線と比較してδ18O軸の切片が約0.65大きい.これはグループ3の起源となる海水が現在の海水と比較して18Oに富むことを示している.また,グループ3は高塩分を特徴とする.下位に蒸発岩を伴う炭酸塩岩が分布することを考慮すると,蒸発岩の溶解により形成された高塩分水が上方拡散している可能性が想定される.グループ2の間隙水は,その水素・酸素同位体比がグループ1とグループ3の中間であることから,両間隙水が混合していることが示唆され,これは主要元素濃度により支持される.

  • 池原 研, 金松 敏也, HSIUNG Kan-Hsi, 石澤 尭史, 里口 保文, 長橋 良隆
    セッションID: G2-O-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    深海底のタービダイトは様々なイベントをトリガーとして形成されるが、斜面域の閉鎖型小海盆では巨大地震がそのトリガーである場合がある。ある小海盆において、どのような地震が小海盆の陸側斜面の堆積物を再移動させてタービダイトを堆積しうるかは、表層堆積物中のタービダイトがどの歴史地震に対応するかを精査し、それぞれの歴史地震の断層パラメータなどを用いて斜面域の揺れを計算することで検討することができる(例えば、Ikehara et al., 2023)が、このような検討はまだ十分に行われているとは言い難い。このため、斜面堆積物における再懸濁・再移動のプロセス、例えば、地震動の大きさと斜面や斜面堆積物の特性、再懸濁・再移動する堆積物の量、さらに結果として形成されるタービダイトの特徴との関係の理解は十分でない。また、このような検討の不足は、タービダイトの解析からその堆積の時間間隔がわかったとしても、あるタイプ(例えば、海溝型巨大地震)の地震の発生間隔にそのまま持っていけないという問題を残す。ここでは、御前崎沖の小海盆を例に、表層堆積物の解析からこの海盆において地層記録(タービダイト)として残される地震がどのようなものであるかを検討し、さらに掘削コアの解析から完新世における堆積間隔について示す。御前崎沖の掘削地点近傍で採取された不擾乱表層堆積物コアは、1944年昭和東南海地震ではこの地点に明瞭なタービダイトが形成されていないが、100年以上前には比較的厚いタービダイト泥を持つタービダイトが形成されていることを示した。1944年昭和東南海地震の破壊領域は確定されていないが、御前崎沖まで破壊が及んでいないモデルもある。このことから、現在と同じ環境ではこの地点のタービダイトは御前崎沖以東まで断層破壊が及んだ地震によって形成されたと考えられる。

    一方、掘削コアの完新世のタービダイトは、基底が明瞭で厚さ数cmのタービダイト砂の上に10〜20cm程度のタービダイト泥が重なることで特徴づけられる。タービダイト泥の上部には生物擾乱が認められるが、タービダイト砂まで達するものはない。一部のタービダイト砂は複数の上方細粒化するラミナセットから構成されるマルチパルスの様相を呈する。完新世におけるタービダイトの堆積間隔は、タービダイトの数に対して年代制約の数が少ないので、詳細に検討することは困難であるが、100-150年とその約2倍の250-300年にピークを持ち、平均堆積間隔は250年弱程度である。また、タービダイト泥と直下の半遠洋性泥のバルク有機物の年代差は600年程度と小さく、安定炭素同位体の値に差はなく、タービダイト泥が海底の表層堆積物起源であることを示唆する。以上の結果は、完新世において御前崎沖以東まで破壊が及んだ南海トラフ沿いの巨大地震の間隔が200年よりも少し長い程度であることを示し、南海トラフ沿いの巨大地震の間隔が100〜150年であるならば、破壊領域はすべての地震で御前崎沖以東に及んだわけではないことを示唆する。

    文献:Ikehara, K. et al., 2023. PEPS, 10, 8. doi:10.1186/s40645-023-00540-8.

  • 山崎 俊嗣, 李 嘉熙
    セッションID: G2-O-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    海底堆積物では有機物の分解に伴い、海底下の深度とともに還元的環境となる。まず間隙水中の溶存酸素が消費され、次に硝酸還元が起き、さらに還元が進んで鉄還元に至ると磁性鉱物の溶解が始まり、古地磁気記録が失われていくことになる。さらに硫酸還元の深度以深では、条件により強磁性の鉄硫化物であるグレガイトが生成し、二次的磁化を獲得する。これらのことから、鉄還元境界以深の堆積物は、古地磁気復元には使えないものとして研究対象外とされることが多かった。例えばIODPでは、船上での予察的古地磁気測定から磁性鉱物溶解が起きていると推定されたコアは、陸上での詳しい古地磁気研究の対象とされることは殆どなかった。しかし、より高解像度の記録を得られる堆積速度の大きな堆積物や、より古い時代に遡ることができる海底下深くに埋積された堆積物は還元続成作用を受けていることが多いため、還元続成を被った堆積物から古地磁気記録を復元しようとする努力は必要である。

    海底堆積物に含まれる強磁性鉱物は、磁石化石(magnetofossil)と陸源磁性鉱物に大別でき、陸源磁性鉱物は風成塵として、あるいは海流により運搬されて供給される。陸源磁性鉱物の中には、斜長石などの珪酸塩鉱物に包有物として含まれる磁鉄鉱がある。これは還元環境になってもホストの珪酸塩鉱物に保護され溶解しないため、古地磁気記録の担い手になる可能性が近年指摘されるようになった(Chang et al., 2016)。

    本研究で対象としたオントン・ジャワ海台から採取された堆積物コアでは、深さ5.7m以深ではmagnetofossilと珪酸塩に保護されていない陸源磁鉄鉱が失われているが、珪酸塩包有磁鉄鉱と赤鉄鉱が溶解を免れ、古地磁気方位・強度記録が保持されていることが明らかとなった。珪酸塩包有磁鉄鉱は、飽和残留磁化強度(SIRM)では溶解を免れた磁性鉱物の約55%を占めるが、その平均粒径と磁鉄鉱含有量から、外部磁場のトルクが流体力学的トルクより小さい傾向にあり、このコアでは自然残留磁化(NRM)にはあまり寄与していないと推定された。従って、SIRMでは約30%を占める赤鉄鉱がNRMには大きく寄与していると推定された。赤鉄鉱はその飽和磁化が磁鉄鉱に比べ極めて小さいことから従来は見過ごされることが多かった。

    還元続成を被った海底堆積物でも古地磁気記録を保持できることが判明したことから、IODP等でこれまでに掘削され古地磁気研究に用いられることなく保管されているレガシーコアの活用が今後期待される。また、グレガイトの生成による二次磁化を被った還元環境堆積物では、房総半島堆積物等で成功を収めているハイブリッド消磁(e.g., Okada et al., 2017)が有効と考えられる。

    引用文献

    Chang, L. et al. (2016) JGR-Solid Earth, 121, 8415–8431, doi:10.1002/2016JB013109

    Okada, M. et al. (2017) Earth Planets Space, 69:45, doi:10.1186/s40623-017-0627-1

  • 坂本 泉, 福島 渓斗, 中村 希, 池田 芽生, 横山 由香
    セッションID: G2-O-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    九州パラオ海嶺は,西の四国海盆-パレスベラ海盆と西の西フィリピン海盆に分けるように,ほぼ南北に約3,000km発達している.沖ノ鳥島は,九州−パラオ海嶺の北部〜中央部に位置している.九州−パラオ海嶺は約3,000万年前に四国海盆の東西方向の拡大開始に伴い,伊豆小笠原弧から引き裂かれ,約1,500万年前に現在の位置まで移動したと推定されている(Ishizuka et al., 2023). 2023-24年“いであ(株)”が東京都の「沖ノ鳥島周辺海域の海底地形及び生物相把握のための研究調査」を受託した.本研究では,“いであ(株)”が現地海域調査で得た地形・地質データ(東京都,2023・2024)を使用し,沖ノ鳥島周辺の地形および地質特徴についてまとめたので報告する.沖ノ鳥島の海底地形特徴:沖ノ鳥島周辺海底地形図(海上保安庁,1991)では島周辺に1)北東南西方向を呈した海脚状の高まりが複数平行して発達している.2)島の西側に水深6,000m-2,000m付近まで東西方向に発達した海脚が存在し,島全体にほぼ東西方向に長軸を有している.3)2,000m以浅では急激に傾斜が増し(最大30-45度),明らかに珊瑚礁の発達が推定される.さらに,これまでに“いであ(株)”により得られた地形データから明らかになった水深3,000m以浅の詳細な地形特徴は,1)島西方ではNWW-SEE方向が卓越した海脚(水深2,500-1,700m)が約10km発達し,3つのピーク(比高最大1,000m)が海脚上に発達している.2)島北部斜面は,凹凸の少ない地形が発達するが,対照的に南部には水深1,000m,1,800m,2,500mに地形変換点が存在する.3)島東方域には,別の基盤ブロックが存在し,島西方域と同じNWW-SEE方向の伸びと,ほぼそれに直交するN-S系の伸びが発達している.沖ノ鳥島の地質特徴:調査により,沖ノ鳥島の南に発達する海脚に沿って水深3,000m付近の2地点において採泥(ワニ口採泥器+外部ビデオカメラ)を行った.映像からは,白色の石灰質砂(有孔虫砂)中に表面が黒色のMnクラストまたは黒色にMnコーティングした角礫質の岩石が点在しているのが観察された.また,砂質試料中より数個角張った単斜輝石玄武岩岩片を見つけ出すことが出来た.さらに水深約3,100m付近に白色の岩石片〜ブロック(最大50cm-5m)が点在するのが確認され,本ブロックの一部と思われる試料が採取された.地形・地質から推定される沖ノ鳥島地質構造発達史:1)沖ノ鳥島は地形的特徴からも明らかなように,NE-SW方向の海洋底基盤構造の上に,NE-SWとはほぼ直交するNW-SE方向の圧縮応力を受け,沖ノ鳥島基盤活動(火成活動)が起こったと推定する.この活動は27Ma頃の島弧的活動であると報告されている(Ishizuka et al., 2023).2)沖ノ鳥島が島弧的火山活動により深海部から浅海部へと発達していく過程(現在水深2,500mまで発達した所)で,封圧の減少により,凝灰角礫岩等(臼井,1989)の活動に変化したと推定される.3)沖ノ鳥島基盤火山活動が,海面上(現在の水深2,500-2,000m)に山頂を出したところで,侵食により比較的緩やかな傾斜が発達し,珊瑚が裾野や山頂部に形成されたと推定した.その後沖ノ鳥島山体の相対的な沈降により平頂海山となった.4)水深3,000mでの採泥でも,黒色のMnコーティングを受けた石灰岩や白色の石灰岩が観察された事は,それらがより比較的浅い場から下方へ何かの原因で移動した事が推定される.謝辞 東京都総務局および“いであ(株)”にはこころよく沖ノ鳥島関連観測データを使用させて頂いた.感謝申し上げます。参考文献:海上保安庁(1991)6577号5万分の1沖ノ鳥島周辺海底地形図Ishizuka O.et al., (2023) Geochemistry Geophysics Geosystem, Vol. 12, No.5, 1-40.東京都(2023)https://www.t-borderislands.metro.tokyo.lg.jp/contents/report2022/reportA. pdf東京都(2024)https://www.t-borderislands.metro.tokyo.lg.jp/contents/report2022/reportA-5.pdf臼井朗(1989):工業技術院地質調査所 海底熱水活動に伴う重金属資源の評価手法に関する研究,昭和63年度研究概要報告書,74-93.

  • 横山 由香, 坂本 泉, 中村 希, 柴尾 創士, 池田 芽生, 渡邊 聡士, 風呂田 郷史, 平 朝彦
    セッションID: G2-O-5
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    駿河湾には,湾奥・西部から4つの一級河川(狩野川,富士川,安部川,大井川)が流入し,大雨や台風時に河口から砕屑物を含む濁水が流入する様子が,衛星写真から観察されている.これらの濁水が海洋表層のみならず,海底面を流下し海底堆積物に変化を与えていることは,実海域から確認されている.駿河湾奥部富士川沖では,台風前後に採取されたコア試料の比較から,台風の洪水流による堆積物が確認された(西田・池原,2016).また,台風後に富士川沖でROVによる海底観察から,海底表面には多くの緑色根付の植物片が確認され,洪水時に運搬されたと考えられた(中村ほか,2023).さらに,2018年台風24号,2022年台風15号時には,海底に設置したOBSが海底面上を約0.8 kmおよび約2.8 km南へ移動し,富士川を起源とする混濁流の影響と推察された(中村ほか,2023).そのため,富士川沖では大雨・長雨に伴って比較的簡単に洪水による混濁流が発生している可能性が考えられる.

     東海大学海洋地質研究室では,2021年より駿河湾奥部富士川沖において,洪水起源混濁流の発生機構および堆積過程解明を目的に,海洋地質学的調査(海底地形,表層堆積物特徴,海底観察映像など)に取り組み,春(3月),梅雨前(4・5月),台風前(7・8月)および台風後(10~12月)の各季節において,定点による観測行っている.富士川沖では,河口を始点とし,駿河トラフ沿いを南北方向に観測点(水深約110~1500 m,河口から約1~15 km)を設定した.また,2023年度からはこれまでの調査・分析に加えて,堆積物の起源を把握するため,微化石観察,X線回折分析による鉱物組成およびバイオマーカー分析を試みた.

     表層堆積物は,河口から約10 km(水深1350 m)まで砂質堆積物が分布し,その沖合では主に泥質堆積物が分布する.コア試料(平均長約10 cm)の岩相特徴から,大きく①河口から約10 km(水深300~1350 m),②河口から12~16 km(水深約1400~1500 m)の2つの範囲に区分された.①の範囲では,主に下位の平行ラミナを示す砂質堆積物と上位の泥質堆積物からなる.砂質堆積物の粒度は,河口側から沖合に向かって細粒(礫を含む中粒砂から細粒砂へ)になる傾向が見られた.通年通して,類似した岩相を示すが,砂層の粒度・層厚などに変化がみられる.②の範囲では,主に泥と細粒砂からなる砂泥互層が分布する.水深約1450 m以深では年間通して,あまり変化は見られないが,水深約1400 m地点では,季節による大きな岩相変化が認められた.したがって,河口から約12 km(水深約1400 m)までは,富士川起源の混濁流の影響を受けやすく,その沖合では比較的規模の大きな混濁流でないと影響を受けない可能性が示唆される.

     混濁流による堆積物運搬を検討するため,珪藻およびバイオマーカー分析から堆積物の起源解明を試みた.まず,表層堆積物の珪藻分析の結果では,いずれの季節においても河口から約14 km(水深1450 m)まで淡水生種の分布が確認された.基本的には河口から離れるほど,その割合は減少する.これらの淡水生種が表層水中で運搬されこたのか,混濁流によって運搬されたのかについては,さらなる調査・研究が必要となる.

     バイオマーカー分析では,岩相より①季節変化が大きかった河口から約6 km地点および,②あまり変化が認められなかった河口から約14 km地点において,台風後に採取したコアより,洪水性堆積物と思われる砂泥互層の内,最上位に認められた1セットを対象に,最上位の泥層,砂層および砂層下位の泥層の3層の分析を行った.その結果,①の観測点では,砂層でマツ科植物の影響が大きく,その上下の泥層では小さいことが分かった.②の観測点では,最上位の泥層とその下位の砂層では,マツ科植物の影響が大きいが,砂層下位の泥層では藻類の影響が大きく,混濁流ではなく,沈降によって堆積した半遠洋性泥と推定される.したがって,その泥層より下位の砂泥互層については,上位の砂泥互層と別の供給過程により形成された可能性が考えられる.

     以上より,駿河湾奥部では,河口から約15 km以上まで富士川による洪水性混濁流の影響を受けていることが明らかになった.特に,河口から約10 kmまでは頻繁に混濁流の影響を受け,それより沖合では比較的大規模な混濁流が発生した際に影響を受ける可能性が考えられた.今後,どのくらいの頻度・規模で河川起源の混濁流が発生し,海底を変化させるかについて,さらに総合的な観測に取り組む予定である.

    [引用文献] 西田・池原(2016)海陸シームレス地質情報集,S-5. 中村他(2023)JPGU2023, HCG22-P01.

  • 池田 芽生, 坂本 泉, 横山 由香
    セッションID: G2-O-6
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    駿河湾は,南北約60 km,東西約56 km,最大水深は約2,500 mと日本で最も深い湾である.駿河湾奥部には,一級河川である富士川が流入しており,土砂を含む河川水を駿河湾に供給していると考えられる.2018年に発生した台風24号により起こった富士川洪水により,河口沖への洪水起源堆積物の供給と混濁流が発生したと考えられる (馬塲ほか,2021).また,2022年9月の台風15号通過後に2022年8月に設置された混濁流観測装置(TCD)が設置地点(水深1312 m)から南に約2.8kmの地点(水深約1421 m)へ移動したと報告されている(中村ほか,2023).海洋地質研究室では,富士川が駿河湾へ与える影響とその堆積過程の解明のため,沿岸域から深海域までの16ヶ所の定点で2021年から梅雨前後,台風後の計3回の採泥調査を行っている. 調査には東海大学所有の大型調査船望星丸(約2000トン),小型調査船北斗・南十字(約19トン)を用い,スミスマッキンタイヤ式グラブ採泥器を使用し,堆積物の採取を行った.本研究ではTCDの移動に対応する水深約1350 m,400 m,1450 m,1500 mの地点で,2022年9月から2023年12月の間に採取された表層堆積物の珪藻分析を行った.加えて,その比較として駿河湾央部(水深約1700 m)・湾口部(水深約2700 m)から採取した表層堆積物の分析結果も報告する. 珪藻分析の結果,産出した珪藻種としては,海水生種では浮遊性種のThalassionema mitzschioides,Thalassiothrix frauenfeldii GrunowThalassiosira lineata Jouesの3種類が全ての地点で確認できた.特にThalassionema nitzschioidesはほとんどの地点で優占的に産出したが,水深約1400 m地点においてのみ優占種がThalassiothrix frauenfeldii Grunowになるという変化がみられた.淡水生種では,Melosira variansCocconeis placentulaAchnanthes lanceolataなどがすべての地点で確認できたが,その個体数に大きな変化は見られなかった.また,湾奥部から湾口部では,それぞれ海水生種の割合が62.5%,82.0%と,海水生種の割合が増加した.海水生種では湾奥部でも優占的に見られた特に湾口部ではPlanktoniella sol (Wallich) Schuttが他地点より多く確認できた.各観測点での季節変化を見ると,水深約1350 m地点では,海水生種は2023年5月で70.0%,8月で58.5%,12月で55.5%と減少したが,いずれの月でも海水生種が優勢となった.水深約1400 m地点では海水生種の割合が2022年9月では77.0%,2022年11月は83.0%,2023年6月は72.0%,2023年8月は65.0%,2023年12月では63.0%と海水生種が高い傾向を示した.水深約1450 m地点における海水生種の割合は,2022年10月では47.0%,2023年3月では29.0%,2023年5月では32.0%,2023年8月では36.0%,2023年12月では52.5%,そして水深約1500 m地点では2023年12月で43.0%と,富士川河口から最も離れている観測点で海水生種の割合が低いという結果を示した. 水深約1450 m,1500 m地点において海水生種の割合が少ないことは,駿河湾奥部の後方散乱強度図の様子から,富士川,三保沖海底谷,伊豆沖海底谷の流れの合流地点であり,そのため河川性の堆積物が堆積している場であるため淡水生種の割合が高くなっていると推測した.また,駿河湾では,黒潮と河川水流入の影響により湾口から西湾奥にかけて反時計回りの表層循環が存在し,その循環により駿河湾内に流れ込む粒子は湾奥部へ集中することがKennmochi et al(2023)により示されている.その位置が淡水生種の割合が高くなる地点と近いことから,湾内の表層循環の影響を受けていることも考えられる.そのため,今後セジメントトラップを用い,海水中から供給される珪藻種の把握も必要と考えられる.また,湾央部から湾口部にかけて海水生種の割合が増加することから,湾口部に向かって河川の影響が少なくなることが明らかとなった.参考文献:馬塲ほか(2021)地震,73,197-207.中村ほか(2023)日本地質学会第130年学術大会(京都大学),T6-P-10.Kenmochi et al(2023)Journal of Oceanography,79.49-59

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    野村 夏希, 弓井 浩暉, 藤内 智士
    セッションID: G2-O-7
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    【はじめに】

     プレート収束帯の変形に影響する要因の一つに沈み込む海洋地殻の岩相があり,岩相が側方に変化することは場所による変形の違いを生む要因となる(例えば,Underwood and Pickering, 2018).高知県室戸岬沖のInternational Ocean Discovery Program (IODP)にて掘削された付加体先端部に当たるC0023サイトでは,海底下775-1121 mにてバライト(BaSO4)やロードクロサイト(MnCO3)を含む高温流体起源の充填鉱物帯が報告された(Tsang et al., 2020).このような充填鉱物帯もプレート収束帯の変形に関与する可能性があるが,分布について詳しい研究はない.本研究では四国沖の南海トラフを対象に,複数の国際海洋科学掘削で採取されたコア試料を用いて充填鉱物帯の分布を調査した.

    【対象と手法】

     研究対象は室戸沖のIODP C0023サイト,ODP808, 1173,1174サイト,足摺沖のODP 1177サイトの各コア試料である.これらのサイトは南海トラフの海側および南海付加体の先端部に位置し,基盤岩である玄武岩の上に中期中新世以降の半遠洋性堆積物や海溝充填堆積物が重なる(例えば,Moore et al., 2001).これらのコア試料について,X線コンピュータートモグラフィー(XCT)データを用いて充填鉱物帯の空間分布を調べ,X線回析(XRD)や蛍光X線分析(XRF)による鉱物同定と元素分析を行った.

    【結果と考察】

     例として,室戸沖1173サイトの結果を示す.深度ごとの平均CT値は深部に向かって徐々に上昇する.その中で半遠洋性堆積物中の3区間において,厚さ数cmほどの高い平均CT値を示す部分が,深さ数mから数十mに1つの間隔で分布することが確認された.高い平均CT値は,3000を超える高CT値領域の濃集に起因しており,特に下位の2区間では,CT値が10000以上を示すバライトやロードクロサイトが充填していた.上記と同じ特徴を示す充填鉱物帯の分布は,室戸沖の他のサイトでも確認された.また,足摺沖の1177サイトにおけるバライトとロードクロサイトの充填は,半遠洋性堆積物のうち,泥を主体とする区間で見られた一方で,より下位にあたるタービダイトを挟む区間では見られなかった.これらのことから充填鉱物帯は,半遠洋性堆積物の最上部が堆積した3.9-3.3 Ma以降に形成したこと,そして,形成には岩相の影響があったことが示唆される.

    【参考文献】

    Moore, G. F. et al., 2001, New insights into deformation and fluid flow processes in the Nankai Trough accretionary prism: Results of Ocean Drilling Program Leg 190. Geochem. Geophys. Geosyst., 2, 2001GC000166.

    Tsang, M. Y. et al., 2020, Hot fluids, burial metamorphism and thermal histories in the underthrust sediments at IODP 370 site C0023, Nankai Accretionary Complex. Mar. Pet. Geol., 112, 104080.

    Underwood, M. B. and Pickering, K. T., 2018, Facies architecture, detrital provenance, and tectonic modulation of sedimentation in the Shikoku Basin: Inputs to the Nankai Trough subduction zone. The Geological Society of America Special Paper, 534, 1–34.

  • 浅田 美穂, 宮川 歩夢
    セッションID: G2-O-8
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    表層型メタンハイドレート(MH)賦存域に特徴的なポックマーク形成モデルを提案する.単語「ポックマーク」はその成因を問わず海底に見られるすり鉢状の凹みを指す.その分布の報告や成因議論など多くの既存研究がある.表層型MH賦存域に発達するポックマークは従来言われてきた「海底下から海水中へ移動する流体が堆積物を持ち去って形成した凹み」ではないかもしれない.

    丹後半島沖合の縁辺台地が隠岐トラフへ向けて突き出す高まりに,表層型MH賦存が確認された幾つかのマウンドとともに多数のポックマークがある.表層型MHは海底下およそ100 mまでの深さにあるMHを指す呼称であり,塊状・板状・粒状で発見されることがある。すなわち,MH自体が集積するという特徴が見られる点で,いわゆる「堆積物中の孔隙を充填するタイプ(砂層型MH)」とは異なる.表層型MHは隠岐トラフ中部〜西部や上越沖など日本周辺海域に賦存することが報告されており,丹後半島沖はその一部にあたる.2013年に丹後半島沖でAUV Deep1(深田サルベージ建設株式会社)を用いる音響マッピング(地形, 後方散乱強度, サブボトムプロファイル(SBP)データ取得)を実施した.音響マッピングに用いた信号の周波数はそれぞれ,地形調査と後方散乱強度調査に200 kHzと119–131 kHz, SBPに2–8 kHzである.ポックマークの直径は数十m〜500m程度でさまざまで, 深さは多くの場合に直径の数%程度である.マウンドは高まりを形成する尾根に沿ってあるが必ずしもポックマークを伴わない.ポックマークは斜面に広く分布していて,観測範囲内ではマウンドの数よりもポックマークの数が多い.一部のポックマークは直線上に並んでいるように見える.海底下の層構造はよく連続しており, ポックマーク直下で下方に撓んで見える.撓みと周囲の地層の連続が断たれている場合もある.地層がポックマーク直下で撓みながらよく連続することは,ポックマーク形成過程でその直下にある堆積物を排除するような流体の働きによらない(従来のポックマーク形成モデルと異なる)ことを示唆する.ポックマークの部分の後方散乱強度がおよそ周辺の海底と同程度であり,ROVを用いる海底観察でも流体排出場でよく見られる炭酸塩岩生成や殻を持つ独立栄養動物群衆の集積が少なくとも観測対象である現在のポックマーク底には見られない.SBPによる周辺の地層とポックマーク直下の地層との厚さを比較したところ, 周辺の地層厚さに比較して撓み部分の地層厚さが薄い(Case-A),厚い(Case-B),同程度(Case-C)である三種類に大別できた.ポックマーク直下にあたる撓み部分の層厚が周辺の地層厚さに対して薄い場合(Case-A)には, その層に含まれていたMHが消失したことで体積が減少したと考えた.厚い場合(Case-B)には, 凹みが海底面にあり,かつ撓みが成長した(動的に変形した)ときに海底面が不安定となり堆積物が移動した(凹みの内部で増加した)と考えた.これをシミュレーションで再現した. 

    MHは低温高圧条件下で安定であり,安定条件から外れる場合に分解する.メタンに飽和していない海水中または間隙水中でも分解する.塊状の表層型MHが海底面付近で擾乱を受けた場合には,MHの比重が海水よりも小さいことから,塊ごと海中に放出されることも考えられる.

    海底下でMHが分解した場合に発生する流体は流れやすい方へ移動するだろう.SBPが示した海底下浅部構造は,ポックマーク直下に地層がよく連続する撓みを示したが,撓みの周辺に地層の不連続を示した場合があった.すなわち地層の変位量が大きな場合には断裂が発生するし,引張場で断裂は流路として機能するだろう.流体は,亀裂が発生していれば撓みの縁に沿って上方へ,地層中を流動することができればより高い方へ(背斜構造に沿い尾根のほうへ)移動し,新たにMH安定条件下に入った場所で新しいMHにリサイクルされるだろう.砂層型とは異なりMHそのものが集積する傾向にある表層型MHは,塊状MHが消失した場合には,孔隙を充填するタイプではないためにボリュームを支える堆積物が存在しないので空洞が発生し,上位にある堆積物が変形して撓みを形成するだろう.この時に撓みが海底面まで影響すれば動的に変形する斜面が発生し,海底面上の堆積物が移動するだろう.これら一連の考察は一般的なポックマークの形成モデルとは異なる概念を提案するだけでなく,表層型MHの形成−消失史と流体リサイクルの考え方を提案し,表層型MH賦存場所推定に寄与する可能性を含むものである. 

    本研究は経済産業省によるメタンハイドレートの研究開発事業の一部として実施された.

GG-3.ジェネラル サブセッション 岩石・鉱物・火山
  • 宇野 康司, 古川 邦之, 金丸 龍夫, 中井 耕太郎, 神尾 匠真
    セッションID: G3-O-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    高い粘性をもつ流紋岩溶岩は、100メートル以上の厚さの大部分がガラス質であることも多い。厚いガラス質部分が発達するのは結晶化の進行が遅いことが原因と考えられており、ガラス転移状態で長期間に渡る溶岩の流動が観測される。そのため、溶岩中心部の流動の継続により、先に固化した溶岩上部の変形が予想される。本研究では、伊豆諸島神津島に分布する5-7万年前のESR年代値(横山ほか 2004)をもつ砂糠山流紋岩溶岩を対象として、冷却過程における溶岩上部のガラス質部の変形を古地磁気学的手法により推定した。これは、科学的観測例の多くない流紋岩溶岩流動中における挙動を理解する上で重要となる。砂糠山流紋岩溶岩は海面上に約130mが露出しており、上位から軽石質部、黒曜石質部、結晶質部に分けられる。本研究では、厚さ約80mの溶岩上部ガラス質部(軽石質、黒曜石質)、および結晶質部から古地磁気測定用の試料を採取した。段階熱消磁実験の結果、軽石質試料と黒曜石試料からは現在の地球磁場方向に近い3つの残留磁化成分が検出されたが、結晶質試料からは1つの磁化成分のみが検出された。段階交流消磁では軽石質試料や黒曜石試料の複数の磁化成分を分離できなかった。これらの観察結果より、複数の残留磁化成分は熱残留磁化として冷却中に獲得されたと解釈される。流紋岩溶岩流動の主要な様式である溶岩内部の間欠的な流出が、溶岩外皮の軽石部や黒曜石部に複数回の変形を与えたと考えられ、それが複数の熱残留磁化成分として記録されたとみられる。この推察は、ガラス質部において標高が高いほど熱残留磁化成分が区分される温度が高いことからも支持される。我々の研究結果は、発生頻度の低い流紋岩溶岩の流動様式について重要な示唆を与える。

    [文献] 横山ほか (2004) 火山 49:23-32

  • 小笠原 正継, 福山 繭子, 堀江 憲路, 竹原 真美, 根岸 義光, 大坪 友英, 藤本 幸雄, 大平 芳久, 庄司 勝信, 水落 幸広, ...
    セッションID: G3-O-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに:山形―新潟県境の朝日山地には後期白亜紀に形成された多様な花崗岩類が広く分布する.朝日団体研究グループ(以下,朝日団研)は1972年から山地中心部の地質調査を行い,山地の中央部~西部の花崗岩類の岩相,構造,貫入関係および分布を詳細に観察・考察したうえで13岩体に区分し,花崗岩類の活動が古期(5岩体)と新期(8岩体)に分かれるとした(朝日団研,1987).さらに朝日団研(1995)では花崗岩類中に発達するマイロナイト化に着目し,最大剪断変形域が山地西部の山腹を南北~北北西-南南東に連続することを見出した.その後も朝日団研の調査は継続し,大平ほか(2016)では,岩体の再編と再区分の可能性が示された.小笠原ほか(2015,2018)では国立極地研究所との共同研究により,主たる岩体から14試料のSHRIMP U-Pb年代を得て,山地中心部の花崗岩類の活動が時間的に古期(99~87 Ma)と新期(69~64 Ma)に分かれること,そして古期花崗岩類が山地の主要部に,また新期花崗岩類が山地西側に分布することを明らかにした.今回の発表では,追加の地質調査結果を示し,また既報告の14試料のSHRIMP U-Pb年代に加えて,新たに5試料のSHRIMP U-Pb年代値,さらに秋田大学との共同研究で得られたLA-ICPMSによるジルコンU-Pb年代値,およびマイクロXRFによる岩石スラブの元素マップにより,朝日山地の花崗岩類の岩石学的特徴を報告する.これらの結果から,朝日山地の花崗岩類の岩体の再区分を行い,各花崗岩体の形成時期と分布から,朝日山地における後期白亜紀の火成活動の時間・空間的な変遷とその意義について議論する.

    U-Pb年代:新たに得られた5試料のSHRIMPジルコンU-Pb年代は,朝日川上流域の花崗閃緑岩からの1試料が99.01±0.48 Ma,野川流域の花崗閃緑岩からの1試料が98.71±0.44 Ma,荒川上流域の花崗閃緑岩からの1試料が86.51±0.46 Ma,岩井又沢上流域の花崗岩からの1試料が92.98±0.45 Ma,出谷川上流域の花崗閃緑岩からの1試料が92.91±0.45 Maであった.得られたいずれの値も小笠原ほか(2018)で報告した岩体と形成期の区分結果に整合している.またLA-ICPMSで求めた西朝日岳周辺の閃緑岩からの試料のジルコンU-Pb年代は85.60±0.43 Maで,朝日山地主要部において,日暮沢小屋南方―西朝日岳―荒川を通る北東―南西方向に分布する斑レイ岩―花崗閃緑岩については85.6 Maから87.3 Maを示すゾーンとして区分されることが明らかになった.このゾーンの北側には93 Maから90 Maの花崗岩類が,また南側には99 Maから93 Maの花崗岩類が分布する.

    まとめ:朝日山地中心部の花崗岩類の岩体や活動について,SHRIMPとLA-ICPMS によるジルコンU-Pb年代測定結果により,新たな花崗岩体区分を行った.現在も追加でU-Pb年代測定を準備中で,合計40試料のジルコンU-Pb年代と地質的および岩石学的特徴の検討結果をもとに,朝日山地の花崗岩類を形成した火成作用の時空間分布の変遷を明らかにする.

    文献:朝日団体研究グループ(1987)地球科学, 41, 253-280. 朝日団体研究グループ(1995)地球科学, 49, 227-247. 小笠原ほか(2015)日本地質学会第122年学術大会講演要旨, 46. 大平ほか(2016)日本地質学会第123年学術大会講演要旨, 196. 小笠原ほか(2018)日本地質学会第125年学術大会講演要旨, 50.

GG-5.ジェネラル サブセッション 構造地質
  • 間々田 剛志, 米倉 優太, 池 俊宏, 古川 稔子
    セッションID: G5-O-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    三重県志摩半島沖の熊野海盆及び遠州トラフは、付加体の発達により堆積物がせき止められ形成されており、その発達メカニズムを構造地質学的に理解することが重要である。構造地質学的には、反射法地震探査で得られたデータを用いて断層を観察し、切られた反射面(同時代面)を同定することで変形機構を制約でき、また反射面における振幅の強弱を面的に追うことで堆積体の発達を捉えることが一つの手法として使われる。本報告では、深部構造の発達と横ずれ断層に着目し、断層解釈および反射面の振幅変化を示すとともに、堆積体の分布について議論する。 熊野海盆及び遠州トラフでは平成16年度に基礎試錐「東海沖~熊野灘」が掘削され、砂層充填型メタンハイドレートの胚胎を確認している(JOGMEC,2005)。両前弧海盆では、地下深部からの流体上昇を示唆する泥火山(Morita et al.,2004)や、BSR(Bottom Simulating Reflector)の浅化(芦ほか,2004)が認められており、付加体深部まで到達する分岐断層(Morita et al., 2004)、或いは横ずれ断層である遠州断層系(芦,2011)が流体の移動経路として機能すると考えられている。 志摩半島の南方沖合に位置する志摩海脚から遠州トラフにかけて実施された基礎物理探査「遠州志摩3D」で取得された三次元反射法地震探査データ、及び基礎試錐「東海沖~熊野灘」等のデータを用いて、深部構造や断層形態に加え、南北性の構造を示す海底谷及び海底チャネル、ローブ状に広がる堆積体からタービダイト砂岩の堆積場を解釈した。志摩海脚の深部ではドーム状の反射面(アンティフォーマルスタック)、第2渥美海丘の北方の隆起域では地下深部にデュープレックスの形態をなす反射面が認められた。砕屑物供給の経路を検討する際、志摩海脚に加えて第2渥美海丘に係る外縁隆起帯の成長と合わせて深部構造の発達に注目すると、陸棚斜面と前弧海盆の境界は、前期鮮新世から中期鮮新世にかけて陸側へ遷移している。このことから調査海域中央から東側の第2渥美海丘周辺では外縁隆起帯の成長に加えて深部構造におけるデュープレックスの成長と連動していることが示唆された。調査海域西側においても同様に堆積中心が陸側に遷移する傾向が認められ、さらに前期中新世末頃には志摩海脚の隆起に伴って、砕屑物供給経路が海脚を迂回している。その隆起域が形成された要因として深部のアンティフォーマルスタックの発達が示唆されるが、更なる検討が求められる。なお、本評価は経済産業省資源エネルギー庁より受託している「国内石油・天然ガス基礎調査事業」の一環で実施したものであり、本成果の公表許可をいただいた経済産業省資源エネルギー庁に謝意を表します。

    【引用文献】

    JOGMEC, 2005, 平成15年度 国内石油・天然ガス基礎調査 基礎試錐「東海沖~熊野灘」調査報告書.

    Morita et al., 2004, Evolution of Kumano Basin and Sources of Clastic Ejecta and Pore Fluid in Kumano Mud volcanoes, Eastern Nankai Trough. Proceedings of the International Symposium on Methane Hydrates and Fluid Flow in Upper Accretionary Prisms (Prism Fluid 2004), 92–99.

    芦ほか, 2004, 遠州灘沖第 2 渥美海丘の地質構造と冷湧水. JAMSTEC 深海研究, 24, 1-11.

    芦, 2011, 遠州沖活断層群の変形構造と活動様式の解明. 科学研究費補助金研究成果報告書.

  • 大谷 具幸, 吉田 拓海, 岡田 直也
    セッションID: G5-O-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    根尾谷断層は1891年に内陸型地震としては最大級である推定M8.0の濃尾地震(1891年)を引き起こした活断層である。近年、原子力規制庁が根尾谷断層を対象として根尾水鳥と根尾長嶺においてボーリング掘削を行った。このうち根尾水鳥では深度382 mで最新すべり面を貫いており、地下浅部における最新すべり面の特徴やそこで生じる現象の理解が期待される。そこで、この最新すべり面とその近傍を対象として走査型電子顕微鏡(SEM)観察やSEMによるエネルギー分散型X線分光法(EDX)分析等を行い、その産状を把握した上で、これまでに生じた現状を解明することが本研究の目的である。

    根尾水鳥は濃尾地震の際に6 mの鉛直変位を生じた地点であり、主として左横ずれ変位を生じている根尾谷断層の断層ジョグに位置している。ボーリング孔は断層ジョグの内側から外側に向かって掘削された。ボーリングコアはジュラ紀付加体である美濃帯の泥岩基質メランジュからなり、チャートと玄武岩のブロックを含む。最新すべり面は直線状で連続性のよいガウジ帯であり、かつ低いCT値を示す部分として認定した。これは断層ガウジ帯の最下端に位置しており、主として玄武岩を原岩とする。

    SEMによる反射電子(BSE)像観察とSEM-EDXによる元素マッピングにより最新すべり面及びその近傍の岩石薄片を詳細に観察・分析し、鉱物の分布と形状を確認した。その結果、最新すべり面とその近傍ではCaの濃集が生じていることが特徴的であることが明らかとなった。

    最新すべり面の内部ではCaの濃集部は局所的に分布し、円磨されている。最新すべり面に隣接する断層ガウジでは、Caを含む2種類の鉱物脈が最新すべり面と平行に認められ、一方は幅が一定の直線状であり、もう一方は幅が一定でない帯状である。鉱物脈は主として粒径数μmの多数の方解石により構成され、フラグメント化した石英等やガウジの基質を含んでいる。また、鉱物脈の一部では弱い自形性を有する方解石が認められる。最新すべり面から法線方向に40 cm離れた断層ガウジでは、断層ガウジの面構造に直交する直線状の鉱物脈が認められる。この鉱物脈はBSE像が一様ではなく複数の炭酸塩鉱物脈によって構成されており、それぞれが平行に分布している。

    これらの産状は最新すべり面では新たな鉱物脈の形成が生じていないこと、隣接する断層ガウジでは溶解度の急激な変化に伴う自形鉱物の形成が生じていること、40 cm離れた断層ガウジではガウジの固結がある程度進んだ時期に鉱物脈が形成したことを示唆している。隣接する断層ガウジにおける溶解度の急変として地震性すべりに伴うthermal pressurizationによる間隙水圧の上昇とその後の低下により鉱物脈とその内部における自形鉱物が形成されたと考えられる。この鉱物脈は最新すべり面の西側に分布しており、根尾谷断層でこれまでに生じた変位が濃尾地震のときと常に同様であると仮定をすると相対的に沈降することとなり、断層変位に伴う深部からの上昇は生じないこととなる。また、現状の谷地形の形成を考えると、最大の浸食量として約1 kmが見積もられるため、ここで考えられる現象は1.4 kmより浅い深度で生じたと推定される。

GG-6.ジェネラル サブセッション 第四紀地質・環境地質
  • 唐 双寧, 香月 興太, 仲村 康秀, 池原 実, 関 有沙, 渡邊 千隼, 山田 桂
    セッションID: G6-O-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    完新世の数十~数千年スケールの急激な気候変動(RCC : Rapid Climate Change)は人類の発展に大きな影響を与えてきた(平林・横山,2020).これらの気候変動は近い将来地球の気候変動に現れる可能性があることから,その変化や原因の解明は注目されている.その中でも約 4200~3900 年前に起きた4.2 ka イベントは世界各地の文明の盛衰に大きなダメージを与えたことが知られている(e.g., Liu and Feng, 2012).このイベントは一度の世界的寒冷/乾燥イベントと考えられてきたが,近年では,二度の寒冷化や湿潤な気候の証拠など,従来と異なる気候変化が認められており(e.g., Railsback et al., 2018), 4.2 ka イベントの全貌を明らかにするには更なるデータの蓄積が必要である.気候変化の影響を反映しやすい汽水湖である中海は島根県と鳥取県の境に位置し,砂州の発達により外洋と分断された海跡湖である(入月ほか,2003).中海では,湖底堆積物の柱状試料(コア)による研究が多く行われており,特に過去3000年間の古環境は数百年スケールの短期的な東アジア夏季モンスーンの変動を捉えていることが示された(e.g., Yamada et al., 2019).しかし,これらの研究で使われたコアの大半は長さ4 m以下で,3000年前より以前の記録がまだ少ない.そこで,本研究は中海でコア長4.66 mのコアNKU23-01を掘削し,化学分析と貝形虫化石から中海における後期完新世の古環境変動を復元した. 

     コアNKU23-01の岩相は全体的に貝殻混じりの塊状シルトで,下部1.5 mにコケムシが多産した.AMS14C年代測定により,コア深度415 cmの年代が4066 ± 193 cal yr BPであった.XRFコアスキャナーITRAX(高知大学海洋コア国際研究所MaCRI)による分析を行い, 連続的な元素濃度変化を観察した.また,全てのコア深度について10 cmごとの試料に加え,最下部50 cmは0.5cm間隔で貝形虫の検討を行った.計140試料の全てから貝形虫が産出した.コアを通して内湾泥底種であるBicornucythere bisanensisSpinileberis quadriaculeataが最も優占し,コア全体は内湾泥底環境で堆積したと考えられる.また,Q-modeクラスター分析により,貝形虫群集の細かい変化が認められ,全体の堆積環境が変わらないものの,細かい環境変化が観察できた.Bicornucythere bisanensisは現在の中海でも優占種であり,夏(4~8月)に成長し,その殻のδ18Oは夏の底層δ18Oを反映している(Yamada et al., 2016).現在の中海では,夏(4~8月)の間に底層の塩分濃度は底層のδ18Oと正の相関(+),地域の降水量と負の相関(―)があるため,B. bisanensis殻のδ18Oを分析することで,中海の夏の底層塩分濃度と地域の降水量を定量的に復元できる(Yamada et al., 2016).Bicornucythere bisanensisの成体が4個体以上産出した115試料についてisoprime precisION (MaCRI)によるδ18O分析を行った.本発表では,貝形虫とITRAXの結果を対比し,中海における後期完新世,特に4000年前後の古環境を詳細に議論する.

    参考文献:

    平林頌・横山祐典,2020.第四紀研究,59, 129-157.

    入月俊明・中村雄三・高安克己・坂井三郎,2003.島根大地球資源環境学研報,22,149-160.

    Liu, F. and Feng, Z., 2012. The Holocene 22, 1181–1197.

    Railsback et al., 2018. Quaternary Science Reviews, 186, 78-90.

    Yamada et al., 2019. Scientific Reports, 9, 5036.

    Yamada et al., 2016. Geology, 44, 255-258.

  • ★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
    石垣 璃, 入月 俊明, 瀬戸 浩二, 嶋池 実果, 辻本 彰
    セッションID: G6-O-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    宍道湖・中海は島根県東部の中国山地を水源とする斐伊川の河口に位置する汽水湖で,全国で宍道湖は7番目,中海は5番目に大きい.宍道湖は大橋川を通じて中海と繋がり,中海は境水道を通じて日本海(美保湾)と繋がっている.中海では,国営干拓・淡水化事業が1963年に計画され,本格的な工事が1968年より開始された.湖口部の中浦水門の設置及び中海北西部の本庄水域を囲む森山堤防などの堤防工事,沿岸の干拓工事などが行われ,工事の前後では日本海から流入する海水の経路が大きく変化した.海水は工事前には境水道から大根島を反時計回りに,工事後には江島東方の中浦水門を南下して時計回りに湖へ流入するようになった.また,本庄水域は完全に閉鎖され,海水が流入しなくなった.その後,2002年12月に干拓・淡水化事業は中止され,中浦水門や本庄水域の西部承水路堤防の撤去及び森山堤防の一部開削工事が2009年までに行われ,本庄水域にも海水が流入するようになった.このような干拓・淡水化事業の前後に,本研究で対象にした微小甲殻類で2枚の石灰質殻を持ち“微化石”として有用な貝形虫に関する研究が行われた(Ishizaki,1969; 高安ほか,1990;田中ほか,1998;入月ほか,2003).

     本研究の目的はこれらの既存研究結果と2021年における調査結果を比較し,過去約60年間に行われた人工改変により宍道湖から中海の貝形虫群集と環境がどのように変化してきたのかを検討することである.

     本研究では,2021年8月に島根大学エスチュアリー研究センター所有の小型船舶を利用し,水質調査を行ったのち,船上からエクマンバージ式グラブ採泥器により採取された底質の表層1 cmを分析に使用した.堆積物を開口径63μmの篩上で水洗し,貝形虫の生体と遺骸の区別を容易にするため,ローズベンガルで染色し,水洗・乾燥させた.その後,乾燥試料を開口径75μmの篩で分別し,粗粒な堆積物を適宜分割して,生体と遺骸の全貝形虫を双眼実体顕微鏡下で抽出した.

     調査時点の水質に関して,中海では水深4 m前後に塩分躍層が存在し,底層の塩分はそれより深い地点で29~31 psu,浅い地点では10 psu以下であった.大橋川の底層は11 psu,宍道湖の底層は河口付近で7~10 psu,それ以外の地点は1 psu前後となった.採取した試料から少なくとも生体と遺骸を合わせて123種の貝形虫が産出した.最優占種は約60年間を通して変わらず,日本全国の閉鎖的内湾中央部泥底で優占し(池谷・塩崎,1993),有機汚濁に耐性があり(入月ほか,2003),塩分が30 psuで多産する(石垣ほか,2023)Bicornucythere bisanensisであった.この種は大根島南東の沿岸,旧中浦水門の南,および湖心から多産し,いくつかの地点では独占した.この種は本庄水域の森山堤防の開削地点周辺と大根島北の沿岸でも産出し,どの地点においても工事後の1986年から2002年の間より個体数が増加していた.大根島周辺や森山堤防沿いの沿岸ではXestoleberis hanaiiHemicythere miiiなどの沿岸の葉上・砂底種が多産し,以前より増加していたことから,沿岸には海藻や海草が繁茂し,種の多様性が高くなったと推定される.低塩分あるいは塩分変動の激しい場所に生息するSpinileberis furuyaensisCytherura miiiDolerocypria mukaishimensisは大橋川河口周辺及び大橋川で散点的に産出した.境水道では最も種多様度が高く,沿岸砂底種のPontocythere subjaponicaと外洋性種のLoxoconcha optimaTrachyleberis niitsumaiが多産したが,ほとんどは遺骸殻であった.貝形虫は本庄水域の中央部,中海南部,大橋川及び宍道湖では少なく,無産出の地点も多くみられた.種多様度は大根島周辺で高かったが,湖心へ向け減少し,1種のみの場所も多かった.

    引用文献 池谷・塩崎(1993)地質論,no. 39,15–32.石垣ほか(2023)汽水域研究会第15回三重大会講演要旨.Ishizaki(1969)Sci. Rep. Tohoku Univ., 2nd Ser. (Geol.), 41, 197–224.入月ほか(2003)島根大地球資源環境学研報,no. 22,149–160.高安ほか(1990)島根大地質研報,no. 9,129–144.田中ほか(1998)Laguna,no. 5,81-91.

  • 大植 和, 入月 俊明, 中島 啓, 堀田 源内, 瀬戸 浩二, 香月 興太, 中西 利典, 齋藤 文紀
    セッションID: G6-O-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    島根県東部の出雲市に広がる出雲平野は,完新世に斐伊川と神戸川により形成された沖積平野で,縄文海進最盛期には,古宍道湾と呼ばれる閉鎖的内湾が形成されていた(山田・高安,2006 など).大植ほか(2024)は,出雲平野東部で掘削されたボーリングコア(HK19コア)の試料に含まれる微化石の貝形虫(石灰質の2枚の殻を持つ微小甲殻類)を用いて群集解析を行い,その結果に基づいて古宍道湾の環境変動を高時間分解能で報告した.今回はこのHK19コアの研究結果などに加え,2023年に出雲平野中央部で掘削されたボーリングコア(NH23コア)の試料を用いて,新たに貝形虫化石分析を行い,その結果をもとに出雲平野の前・中期完新世における古環境の時間空間的復元を行った.   

     本研究で使用したNH23コアは,出雲平野中央部の標高4.366 m地点から掘削され,コア長は56.2 mである.下位から順にシルト(コア深度60.6~55.0 m),シルト質極細粒砂(54.9~52.0 m),シルト極細粒砂互層(51.95~49.0 m),砂質シルト(48.95~37.0 m),シルト(36.95~18.0 m),シルト質極細粒砂(17.7~11.0 m),細砂(10.65~5.0 m),粘土質の堆積物(4.7~1.0 m)からなる.NH23コアは半割された後,厚さ1 cmにスライスされ,凍結乾燥を行った.その後,開口径63 μmの篩上で水洗し,45℃で約48時間乾燥させた後,開口径125 μmの篩上の試料から,双眼実体顕微鏡を用いて貝形虫化石を抽出・同定した.

     本研究では,NH23コアのコア深度33~28 mまでの試料を分析し,約40種の貝形虫化石が産出した.最多産種はBicornucythere bisanensisで,2番目に多産した種はSpinileberis quadriaculeataで,どちらも閉鎖的な内湾泥底に生息する(池谷・塩崎,1993).3番目に多産した種は水深15 m以深の内湾泥底で上記の種よりも塩分の高い環境に適応するLoxoconcha vivaである(入月ほか,2010).他には汽水生種のCytherura miiiSpinileberis furuyaensis(入月ほか,2003)が少数産出した. HK19コアの貝形虫化石群集と比較すると,全体を通してNH23コアの方が種多様度が高く,これはNH23コアの採取地点の方がより湾口に近く,外洋の影響を受ける環境であったことが示唆される.またCytheroma hanaiiが特定の層準のみ多産したが,この種の生息環境は明らかになっていない.

     貝形虫化石群集の分析結果に基づいて,古宍道湾の古環境変遷を復元すると,以下のように要約される.古宍道湾中央部は約9300~9100年前では,汽水性の湖沼環境で,約9100~8500年前に海進により閉鎖的な内湾環境に変化した.一方で,古宍道湾東部は汽水性の湖沼環境であった.約8100~7000年前では,古宍道湾全体がさらなる海水準上昇により,外洋からの海水の影響を受ける開放的な内湾環境に変化した.約7000年前以降では,大社湾側の湾口部が浅くなり,その影響から閉鎖的な内湾環境へと変化した.

    引用文献:池谷・塩崎(1993)地質論,39: 15‐32;入月ほか(2003)島根大地球資源環境学研報,no. 22,149‐160;入月ほか(2010)島根大地球資源環境学研報,no.29,11‐20;大植ほか(2024)汽水域合同研究発表会2024講演要旨;山田・高安(2006)第四紀研究,45,391‐405.

  • 嵯峨山 積, 紀藤 典夫, 夏木 大吾, 福田 正宏
    セッションID: G6-O-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    2023年8月に稚内市の大沼(海跡湖)南方,海岸線から約8 km内陸の地点(北緯45°19′56.50″,東経141°47′38.05″)でボーリングにより全長30 mの沖積層がオールコアで採取された.14C年代値から判断して同コアは完新世堆積物である.臨海平野に位置することから,同コアには縄文海進とその後の海退の影響が反映していると考えられ,堆積環境解明のために珪藻分析を行った.なお,大平・海津(1999)は大沼周辺の沖積層について珪藻分析を行っているが,地表から約7 mまでの表層部を対象にしており,深さ30 mまでの分析は今回が初めてである.

     地盤標高は約4.37mで,同地点には沖積層の一部である泥炭層が,その周辺には同じく古湖沼堆積物が分布する(小山内ほか,1959).沖積層の直接の下位層は後期中新世~鮮新世の声問層と推定されるものの,本ボーリングでは同層まで達していない.孔内地質は,下位より深度30.00~23.60 mは主にシルトからなり,深度26.04~26.09 mにはテフラが挟在する.14C年代値は深度29.59 mで10,664 calBP,同26.36 mで9,805 calBPである.深度23.60~22.50 mは砂が累重し,同23.45~23.47 mにはテフラが挟在する.深度22.50~22.10 mは砂礫で,深度22.10~19.80 mはシルトからなる.深度19.80~3.30 mは主に粘土からなり,所々に貝化石が認められる.14C年代値は深度19.39 mで8,855 calBP,同10.43 mで7,048 calBPである.深度3.30~3.00 mは砂礫からなる.深度3.00~2.20 mは泥炭質粘土で,深度2.34 m 14C年代値は3,451 calBPである.深度2.20~0.20 mは泥炭からなり,深度1.12 m 14C年代値は2,260 calBPである.深度0.20~0.00 mは砂礫からなる.

     珪藻分析用の地質試料は50 cm間隔を基本に,深度29.61~2.61 mにかけ54個を採取した.全試料からは多くの珪藻殻が産し,1試料につき100殻を算定して海水生種,海水~汽水生種,汽水生種,汽水~淡水生種,淡水生種に区分した.得られた珪藻群集から最小値1,最大値5の塩分指数を求めた.沖積層下位の声問層は主に珪藻質泥岩からなることから,同層から削剥された粒子が沖積層内に堆積し,Neodenticula kamtschatica (Zabelina) Akiba et Yanagisawaなどの絶滅種が多産する.絶滅種は産出殻数を明らかにし,算定数(100殻)からは除外した.

     声問層には絶滅種以外のThalassionema nitzschioides (Grun.) Mereschkowskyをはじめとする海水生種も多く認められ(嵯峨山,2003),算定時にはこれらの種が同層からの由来か,縄文海進時の海水により運搬されてきたのかの区別は不可能である.このため,塩分指数は深度19.61~12.11 mで4以上と大きな値を示した.淡水生種は深度20.11 m(標高-15.74 m)以深では比較的多く産しており,同深度までは淡水域であった可能性がある.縄文海進による海水の流入はそれ以降に始まり,汽水域を経て海水域に変化していったと考えられる.深度19.39 mの14C年代値(8,855 calBP)を考慮すると,海水流入の年代は9,000 calBP前後と推定され,当時の海面高(標高-15.50 m前後)は遠藤(2015)の海水準曲線と矛盾しない.

     本研究は2023-2025年度JSPS科研費JP23K21982基盤研究(B)「宗谷海峡における新石器/縄文時代生活史の実態解明」(研究代表者:福田正宏)の助成を受けた.

     文献 遠藤邦彦,2015,日本の沖積層-未来と過去を結ぶ最新の地層―.冨山房インターナショナル,415p.大平明夫・海津正倫,1999,北海道北部,大沼周辺低地における完新世の相対的海水準変動と地形発達.地理学評論,72A,536-555.小山内 熙ほか,1959,5万文の地質図幅「宗谷および宗谷岬」.北海道立地下資源調査所,52p.嵯峨山 積,2003,北海道北部地域の遠別層・声問層と勇知層の地層境界の地質年代−ルベシュベ川と上ヌカナン川ルート−.地質雑,109,310-323.

  • 渡辺 正巳, 田畑 直彦
    セッションID: G6-O-5
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    はじめに

     山口県南東部、周南市を流れる島田川中流域右岸(北岸)の丘陵上には、弥生時代中期~終末期の高地性集落跡である石光遺跡、天王遺跡、追迫遺跡、岡山遺跡が分布する(谷口編,1988など)。一昨年の口頭発表では、追迫遺跡,天王遺跡と岡山遺跡の間(安田地区)の低地で採取したボーリング試料を対象とした花粉分析及び14C年代測定結果について報告し、高地性集落の眼下に広がる沖積平野と生業の場について考察するとともに、弥生時代以降の古植生変遷について発表した。

     本年は、江戸時代の文献資料に記された農産物、及び発掘調査により検出された弥生時代の種実化石(荒木(1953)、宇都宮(1987))と、花粉分析結果(検出された花粉化石)との比較を行い両時期での植物利用(農産物)について述べる。

    調査地点・調査方法

     図1にボーリング地点と遺跡の関係、及び各地点のボーリング柱状図を示す。SKY-1、2の2地点で機械ボーリングを用いた、トリプルサンプラーによるオールコアサンプルを実施した。また、全ての採取試料は文化財調査コンサルタント(株)の試験室に持ち帰り、トリプルサンプラーから抜き取り、観察後、試料の粒度によって1cm~5cmの厚さで分割を行った。その後、試料観察を基に図1の柱状図を作成した。SKY-1では地表下4mまでの試料を採取したが、表層を除きほとんどが砂礫層であった。一方、SKY-2では地表下2.3m付近まで腐植に富む砂質粘土~シルトが分布し、下位に礫混じり粘土~中粒砂層が続いた。SKY-2の採取試料の観察結果を基に、SKY-2について花粉分析(渡辺;2010による)を実施した。また、一昨年の発表時に圃場整備の影響と捉えていた上部の地層について、年代測定層準の錯誤が判明し、年代測定値に齟齬がないことが分かった。このことから今回の発表では、上部の地層は埋土ではなく、堆積物であると判断した。

    花粉分析結果から推定される森林植生と低地での栽培活動

     花粉分析結果から、Ⅰ~Ⅴ帯の5局地花粉帯を設定し、更にⅠ帯をa~c亜帯、Ⅲ帯をa、b亜帯に細分した。年代測定結果から、Ⅲ帯b亜帯が弥生時代、Ⅰ帯が江戸時代に相当すると考えられる。

     Ⅲ帯b亜帯、Ⅰ帯で推定される古植生の概要を以下に示す。

     Ⅲ帯b亜帯ではアカガシ亜属やコナラ亜属、クリ属は減少傾向にあり、分布域の縮小が示唆される。同時期に丘陵上では開発が始まり、集落が展開されるようになることから、開発に伴う伐採が行われた可能性がある。また、コナラ亜属やクリ属は二次林要素であるが、建築部材として多用されており(伊東・山田,2012)、選択的に伐採された可能性がある。低地ではイネを含むイネ科(40ミクロン以上)や、水田雑草を多く含むイネ科(40ミクロン未満)、カヤツリグサ科が急増するほか、オモダカ属、ウナギツカミ節-サナエタデ節、キカシグサ属などの水田雑草を含むタクサが散見されるようになり、低率であるが栽培植物であるソバ属も検出される。

     Ⅰ帯では丘陵上での照葉樹林の伐採が進み、薪炭林としてのアカマツ林が拡大していったと考えられる。一方、薪炭林の構成種であるコナラ類の割合は徐々に減少している。薪・炭としてのアカマツとナラ類の用途の違いからコナラ類の伐採が進んだ可能性が指摘できる。また谷筋に生育していたスギも伐採から逃れ、照葉樹林伐採地の湿潤な場所で分布域を広げた可能性もある。特にb亜帯ではスギが急激に分布域を広げる。a亜帯では丘陵上の照葉樹林が縮小を続ける一方で、アカマツ薪炭林が拡大あるいは平衡状態にあったと考えられる。また、スギ林は伐採され、縮小したと考えられる。低地では水田が広がる反面、水田雑草も多く生育していた。また畑では、ソバやソラマメ、アカザ(あるいはヒユ)、葉菜、根菜類が栽培されていたと考えられる。

    謝辞

     本研究を進めるに際し、ボーリング用地の御提供を頂いた地権者、耕作者の方々、ボーリング作業を実施していただいた株式会社宇部建設コンサルタント、試料の分割・整理、データ整理、図面作成など本研究の多くの部分に協力いただいた文化財調査コンサルタント株式会社 平佐直子氏、以上の方々に厚くお礼申し上げます。 また、本研究には日本学術振興会 科学研究費補助金 基盤研究(C) 課題番号20K01074(代表者 田畑直彦)を利用した。

    引用文献

    荒木(1953)『島田川 周防島田川流域の遺跡調査研究報告』,129-133,宇都宮(1987)『岡山遺跡』,101-107,谷口哲一編(1988)『天王遺跡』,渡辺正巳(2010)『必携考古資料の自然科学調査法』,174-177.,

  • 鈴木 毅彦, 正田 浩司, 橋本 真由, 川畑 美桜子, 神馬 菜々美, 菅澤 大樹
    セッションID: G6-O-6
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    前弧海盆に起源をもつ関東平野は,第四紀において地殻変動,氷河性海面変動,堆積作用を受けながら徐々に陸化した.こうした陸域への変化過程を復元するさい,氷河性海面変動により岩相変化が著しい浅海域の堆積物に着目し,沈降ないしは隆起の過程を読みとることは有効である.

     関東平野西部の多摩丘陵の上総層群は,浅海域〜陸成のサイクリックな堆積物からなり,その堆積環境の変化は氷河性海面変動に起因する(高野,1994).それらは下位から寺田層,大矢部層,平山層,小山田層,連光寺層,稲城層,出店層の7累層からなる.しかし各累層と海洋酸素同位体ステージ(以下,MIS)の関係は不明であり,正確な年代は得られていない.各累層とMISの関係を明らかにする手がかりはテフラである.本研究ではテフラを用いてこれら累層と海洋酸素同位体ステージの関係を議論する.

     大矢部層中部層中に含まれる上大船テフラは,飛驒山脈を起源とするNyg,すなわち前期更新世の広域テフラHo-Kd39(町田・新井,2003;Satoguchi and Nagahashi, 2012 )との対比案が示された(高野,2002).しかし上大船テフラの火山ガラスの特性と模式地房総半島のKd39のそれとの比較は未完であった.また同テフラのFT年代値と大矢部層の古地磁気特性から, Kd39とは対比できず,大矢部層の年代はより古いとの見解もある(植木ほか,2013).今回,上大船テフラと関東各地のHo-Kd39について火山ガラスの主成分化学組成と火山ガラス・直方輝石の屈折率を系統的に測定した.上大船テフラは,上部・下部ともに火山ガラスの主成分化学組成(平均値)が,SiO2:約76 wt%,Al2O3:12.6-12.7 wt%,FeO:約1.3 wt%,CaO:1.1 wt%,Na2O:3.0 wt%,K2O:4.7-4.8 wt%を示し,屈折率は1.500-1.502である.直方輝石の最大屈折率γは上部・下部で1.708-1.717の範囲にある.こうした特徴は関東各地のHo-Kd39と共通であり,これらは対比可能である.平山層下部の鑓水テフラは八王子市鑓水付近と多摩川河床でのみ確認されていた.今回,武蔵野台地から多摩丘陵中部の4地点(府中,稲城,町田,南町田)地下のボーリングコア試料から鑓水テフラを検出した.その層位はOb3-Kd31Bの上位で,SYG-Kd29の下位である.

     上記のテフラ認定とその他テフラに基づき,各累層とMISの関係を以下に考察した.大矢部層下部層に含まれる上大船テフラは三浦半島北部のYH02(Ho-Kd39)に相当し,その層位はMIS63ピーク以降(楠ほか,2014)である.また上大船テフラの上位にあるNOT-12(Ebs-Fkd,Kd38)はMIS61ピーク以前(野崎・宇都宮,2023)とされている.一方,上大船テフラは大矢部層下部の礫層から泥層に移りかわる付近,すなわち低海面期から高海面期に移行する時期に堆積したと解釈できるのでMIS62ピーク後にその層位があると考えられる.平山層中部の泥層中にある鑓水テフラは, Ob3-Kd31BとSYG-Kd29の両テフラに挟まれ,それぞれの噴出年代は,1.664 Ma(MIS 59〜MIS58),1.634 Ma(MIS57ピーク付近)と推定されている(鈴木ほか,2023).鑓水テフラは平山層中部の泥層中にあることから海面上昇期の堆積と考えれば,同層準はMIS58からMIS57への移行期と考えられる.小山田層下部層に含まれる堀之内第2テフラは飛驒山脈を起源とするOmn(町田・新井,2003)に対比されている.本テフラは三浦半島北部において, 1.573 Ma の年代値とMIS54ピーク頃に降下したとされている(楠ほか, 2014; Nozaki et al., 2014; Kusu et al., 2016).このことから小山田層に示される低海面期,海面上昇期,高海面期の過程は,MIS54からMIS53であることが示唆される.

    [引用文献]楠ほか(2014)地質雑, 120, 53–70. Kusu et al. (2016) Prog. Earth Planet. Sci., 3, 26. 町田・新井(2003)火山灰アトラス, 東大出版会. Nozaki et al. (2014) Isl. Arc, 23, 157–179. 野崎・宇都宮(2023)地質雑, 128, 313-333. Satoguchi & Nagahashi (2012) Isl. Arc, 21, 149–169. 鈴木ほか(2023)地学雑誌, 132, 483-503. 高野(1994)地質学雑誌, 100, 675-691. 高野(2002)日本第四紀学会講演要旨集, 32, 114-115. 植木ほか(2013)八王子地域の地質,産総研.

  • 杉田 律子
    セッションID: G6-O-7
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
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    土や砂は事件や事故の証拠資料として,鑑定に付されることがある.これまでに確立されてきた系統的な土資料の法科学的検査法は,砂およびシルト・粘土の各画分に含まれる鉱物種の同定を中心として組み立てられており,砂画分については偏光および実体顕微鏡観察が主な検査法である.しかし,たとえば海岸の砂はシルト以下の粒子を含まないために,土よりも情報量が少なく異同識別が困難な場合がある.また,土の場合は風化や土壌化により母材とは異なる色を呈することがほとんどで,色の検査はスクリーニングとして有効であることが知られている(Sugita and Marumo 1996)が,海岸の砂では鉱物の元の色以外に色の情報を得ることができない.

    海岸砂を構成する粒子は付近の河川や火山灰によって供給される.砂に含まれる暗色を呈する粒子は,花こう岩地域などを除くと輝石類や不透明鉱物,岩石片などから構成されていることが多い.重鉱物組成は,堆積物の後背地推定に有効であり(Garzanti and Andó, 2007),法科学的にも利用されている(例えばPalenik, 2007).火山噴出物の影響が強い東北日本地域では,輝石類はシソ輝石と普通輝石が一般的に見られるが,不透明鉱物については顕微鏡よる検査では鉱物種の同定に至らないことも多い.

    本研究では,海岸砂から重鉱物を分離し,重鉱物画分に含まれる粒子のエネルギー分散型X線分析装置付き走査型電子顕微鏡(SEM-EDX)により主成分元素分析を行い,異同識別や地域推定への活用の可能性を検討した.実験に用いた試料は東日本の火山性堆積物が卓越し,過去に近辺で砂鉄鉱床として採掘されていたり,砂鉄鉱床としての可能性検討された地域を含む地域の海岸砂である.試料は0.2および1 mmのふるいで分離した粗粒および中粒の砂で,水洗した後,ポリタングステン酸ナトリウム(d≈2.85)により重鉱物画分と軽鉱物画分に分離した.得られた重鉱物画分をエポキシ系樹脂を用いて研磨薄片とし,炭素蒸着をして真空下でSEM-EDXによる観察および分析を実施した.分析は100倍の反射電子像で観察したときに,粒子の中心付近の均質と考えられる場所を点分析で行った.

    その結果,輝石類は概ねシソ輝石と普通輝石で,その化学組成も試料間で互いに類似しているが,鉄-マグネシウム比の分布範囲の幅が若干異なる地域もある.また,普通輝石は,鉄/マグネシウムとカルシウムの関係から,複数の起源が推定される試料があり,識別に利用できる可能性が見いだされた.一方,不透明鉱物は鉱物が独立して粒子として確認されるほか,輝石類や岩石片の包有物として認められるものも多い.包有物として見られる不透明鉱物の大きさは,ミリオーダーからミクロン以下のまで様々であるが,分析には数10μm以上のものを使用した.この大きさには地質学的な意味はなく,実務上の便宜性を優先したものである.その結果,不透明鉱物の多くは鉄-チタン系列の酸化物で,磁鉄鉱やチタン鉄鉱と考えられる鉱物であった.また,磁鉄鉱と推定される鉱物はどの試料にも認められたが,チタン鉄鉱と推定される鉱物はほとんど含まれないものから不透明鉱物のおよそ半数を占めるものまで確認され,チタンの含有率には地域差が見られた.鉄-チタン酸化物についてはSugita(2022)の法地質学的検査のための予察的研究でも地域差が見られることが指摘されており,火山性堆積物の影響が大きい地域間でも利用できる可能性が明らかとなった.鉄-チタンに富む包有物は,反射電子像で,試料によって大きさなどの形態的な違いがあることから,元素組成と共に識別の指標となることが期待される.

    文献

    Garzanti, E. and Andó, S., 2007, Dev. Sedimentol., 58, 741-763.

    Palenik, S., 2007, Dev. Sedimentol., 58, 937-961.

    Sugita, R. and Marumo, Y. 1996, Forensic Sci. Int., 83, 201-210.

    Sugita, R. 2022. JpGU Abstract, MG31-P05.

  • 藤本 幸雄
    セッションID: G6-O-8
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    2023年7月14~16日の梅雨末期集中豪雨で秋田市仁別では72時間降雨量が431mmと観測記録最大値を越え、15日17時30分には旭川治水ダムが初めて緊急放流を行った。一方市街地南部を流れる太平川が氾濫、内水面氾濫も生じて秋田市では全壊11、半壊2431、一部破損11、床上浸水599、床下浸水2431棟の被害を生じた。この水害については当初から内水面氾濫が度々報道されたが、演者は15日夕方に自宅(広面字鍋沼)前の市道を南(太平川方向)に向かって流れる濁水を見て、微地形を検討する必要性を感じた。その後別記のような方法で調べ、集水・流水地形を把握することができた(藤本,2023).今回は範囲を広げて調査・検討した結果を加えて報告する。方法:1/2500国土基本図(秋田市役所)に記入されている沖積地盤地域の地点高度を国土地理院の1/25000地形図の拡大図(200%;1/12500図)に転記し、0.5mごとの等高線を引いた。この地形図を1/25000地形図に縮小し、先行研究の地形分類図、微地形分布図、2023年7月水害の冠水範囲、大正元年測量の1/25000地形図、明治元年の久保田城絵図等と比較して集水・流水地形とその成因を考察した。結果:日本海中部地震災害(1983年)秋田大学地質調査班(1986)(以下秋田大地質調査班)は、能代市~秋田市の秋田臨海平野について地形分類を行い、多数の試錐柱状図を活用して後期更新世以降の平野形成史を詳細に論述した。その中で秋田市の沖積平野について、A-Ⅰ(7.5~9m)、A-Ⅱa(5.5~7m)、A-Ⅱb(3.5~4.5m)、A-Ⅲ(3m以下)の地形面に区分し、A-Ⅰ面は約6000年前の縄文海進最高海面期に、A-Ⅱaは縄文時代中期海退後の小海進、A-Ⅱbは800~1700年の平安海進、A-Ⅲは各河川が現在の流路をとるに至った後の形成としている。また、A-Ⅰ、A-Ⅱa、A-Ⅱb面上にはポイントバー、自然堤防などの微地形が残ることを述べた。今回の検討結果:①A-Ⅰ面、A-Ⅱa面上の微高地は旭川、大平川の自然堤防であり、特にA-Ⅱa面の大平川右岸の微高地は市街地南部の集水・流水地形を形成する。②旭川は後期更新世末まで千秋公園の東を南流し、手形山や千秋公園に河成段丘を形成した。 旭川・太平川を合わせる雄物川は最終氷期最寒冷期には高清水の東側を-60~-70mの谷地形を刻んで北流し、秋田市北部で日本海に向かって流れていた(秋田大地質調査班、1986)。その後、縄文海進で谷地形が沖積層により埋積されてA-Ⅰ面が形成された後、縄文中期の小海退で旭川は西に流路を移し(争奪)、秋田市北部の隆起帯の影響を受けてA-Ⅱb面形成期には千秋公園の西を蛇行南流していた。この過程で市街地東部にはA-Ⅱa面になる広い沼沢地・湿地帯が出現し、南西へ流下する水域も形成された。これらが今回の水害における大規模な集水・流水微地形に対応する。③旭川右岸の微高地は自然堤防に加えて1600年代初期の秋田藩による旭川改修による改変を受けた。④秋田市北部の新城川は南西に、その北の馬踏川は北西に流路が偏っており、両者の間は黒川油田の背斜部に相当する(藤岡ほか、1982)。新城川は著しく蛇行して中~下流部において鮮新世―更新世の緩く固結した笹岡層の砂岩層分布域を流下する。同様に太平川も中流部で笹岡層の分布域を流下する。両河川とも河床は砂の堆積が進んでいた。水害を受けて県は太平川の河床掘削整備に乗り出している。文献:藤岡一男ほか(1977):地域地質研究報告,75p.地質調査所.藤本幸雄(2023):秋田地学教育学会講演要旨.日本海中部地震災害(1983年)秋田大学地質調査班(1986):地質学論集第27号、213-235.Key Words:沖積面,微地形,集水・流水地形,秋田藩

  • 北村 晃寿
    セッションID: G6-O-9
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    2021年7月3日に,静岡県熱海市逢初川源頭部の盛土崩壊による土石流(熱海土石流)は,死者28人,全・半壊家屋64棟の被害をもたらし,相模湾に流入した.著者は,共同研究者と静岡県と熱海市の協力の下,崩壊した盛土の主体である黒色の土砂の特徴とその採集地の特定に関する調査を行うとともに,盛土の流出した海域の堆積物の調査を行ってきた.これらの研究成果は2022年,2023年の日本地質学会で発表しており,今回は,2023年の発表後に得た次の知見を発表する.

     (1)黒色の土砂と土石流堆積物は,古生代末期―中生代の放散虫化石を含むチャート岩片を含むので,採集地の一部の後背地にはチャート層が分布する(北村ほか, 2022b).また,現世と前・中期完新世の沿岸性貝類,鮮新世―更新世の海成層由来の軟質泥岩礫を産する(北村, 2022; 北村ほか, 2022a,2024a).これらに加えて,1950年以降の淡水生二枚貝の貝殻が含まれることが判明した(北村ほか, 2024a).したがって,黒色の土砂は,現世の河川・沿岸堆積物,中部完新統の海成層,鮮新・更新統の海成層の堆積物を含む.(2)神奈川県内における海浜・河口の堆積物の分析の結果,黒色の土砂と土石流堆積物から検出されたチャート岩片と同時代のチャート岩片が神奈川県多摩川河口から検出された.したがって,黒色の土砂の一部は多摩川流域から運ばれて来た可能性が高い(北村ほか, 投稿中).(3)盛土の流出した伊豆山港沖の底質は,2023年10月までには土石流の流入前の状態に戻ったと推定される(北村ほか, 2024b).引用文献 北村, 2022, 第四紀研究,61,109-117; 北村ほか, 2022a,第四紀研究, 61, 143-155; 北村ほか, 2022b, 静岡大学地球科学研究報告, 49, 87-95; 北村ほか, 2024a, 静岡大学地球科学研究報告, 51, 1-16; 北村ほか, 2024b, 静岡大学地球科学研究報告, 51, 17-33.

GG-8. ジェネラル サブセッション地学教育・地学史
  • 矢島 道子
    セッションID: G8-O-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    保井コノ(1880-1971)は鉱化化石の研究により、1927年、日本で初めて理学博士号を取得した。どうやって、学位取得が可能になったのだろうか。 保井は香川県師範学校を経て女子高等師範学校を卒業し、3年間教師を勤めた後、1905年生物学をさらに修めるために女子高等師範学校の専門課程に進む。1905年に鯉のウィーバー器官についての論文を書いた後、植物学研究に変更し、1907年に、女子高等師範学校研究科修了し、同校助教授 となっていた。学位をという声もささやかれていた可能性は高い。1907年に来日したイギリスの古植物学者マリー・ストープス(1880-1958)の影響が多大にある。 当時は、外国で学位取得が主であり、日本での学位取得は外国への留学が前提となっていた。保井はさらなる研究をということで、留学を試みる。1913年に文部省外国留学生としてドイツおよびアメリカに在外研究の許可を得、1914年にカナダとアメリカに留学し、1915年、ハーバード大学のジェフェリー教授(Charles Jeffery, 1866-1952)から鉱化化石の研究を勧められ、1916年、6月帰国、東京帝国大学,藤井健次郎教授のもとで石炭の研究を開始し、1927年、学位論文 [日本産の亜炭,褐炭,瀝青炭の構造について]を東京大学に提出した。指導教官は、マリー・ストープス(Marie C. Stopes、1880 - 1958)の共同研究者であり、婚約者であった藤井健次郎(1866-1952)であった。保井は日本全国の炭坑内で柱状図を作成し、化石標本を採集し、薄片を制作・観察し、論文(Yasui, 1928)を書き、1927年学位を取得した。 マリー・ストープスは1907年来日し、北海道などの炭鉱中の鉱化植物化石を調査、採集、研究して、1908年離日し、1910年藤井との共著論文(Stopes and Fujii, 1911)を発表した。これは、日本の科学者社会にとって衝撃的なことであった。女性、理学博士、地球科学者、炭鉱坑内を含むフィールド調査、すべて初めてのことであった。日本での出来事はストープス著『日本日記』に詳細に書かれているが、そこにでてくる仮名の人物群は松原徳弘によって、調査されている。ストープスは桜井錠二から能の手ほどきを受け、帰国後『日本の古典劇・能』を1912年にロンドンで出版した。保井はストープスに会ったことがあり、礼状を書いている。 ReferencesMarie C. Stopes and Kenjiro Fujii, “Studies on the structure and affinities of Cretaceous plants,” Philosophical Transaction of the Royal Society of London, Series B, 201 (1910), p. 1-90.Yasui K. (1928) Studies on the structure of lignite, brown coal, and bituminous coal in Japan. Jour. Faculty of Science, 1mperial University of Tokyo, Sect.1II, Botany 1 Part 4: 381-468

  • 太田 泰弘, 杉野 広利
    セッションID: G8-O-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    博物館には、展示を介した活動で例示されるように、様々な博物館教育(教育普及活動)の形態や手法が存在する(伊藤、2021など)。昨今は仮想空間も取り入れたデジタル環境下の取り組みも試みられている。教育は、英語でeducationと訳すが、語源はラテン語のeducatio(エデュカチオ)で「抽き出す」の意を有し、人が持つ可能性を引き出し、育てあげることを意味するとの考えがある(大堀、2014)。学習は能動的な学び、教育は受動的な学びとして捉える場面もあるが、博物館はその意味では、学習の場であり、教育の場でもあるが、様々な枠組みを超えたコミュニュケーションの場(プラットホーム)として機能することが重要である。

     博物館は、社会教育施設や生涯学習施設、文化施設としての側面があり、地域や社会、市民という語を含む文脈の中で議論されて久しい。特に地質学を学術的視座とする自然史系博物館は、資料の収集方針において、地域(地域の自然研究:研究の基礎の確立)からグローバルな視点(研究の応用)へとその範囲を広げることも多く、“取り巻く地域社会に基軸を置いた活動”は必要不可欠となっている(柴田ほか、1973)。さらに博物館における研究の1つの特徴は、多角的視点からの研究、あらゆる学問領域からの学際的、総合的な研究があげられ、この視点も大切となる。近年、博物館の役割も多様化をとげ「地域の活力の向上」に資する活動や、博物館を取り巻く社会(周辺域から広域)に対する“知の循環”を意識すべき時代になっており、それらに供する教育・学習支援活動の模索も重要な課題となっている。

     今回、筆頭筆者が担当する教育普及活動を10年以上にわたり共に実施してきた市民活動の事例を紹介しながら、その経験から得られた定性的な知見、つまり「既存の枠組みを超え、共に学び・創る、博物館教育の重要性」について発表する。

    事例紹介:ジオ&バイオ研究会(任意団体)

    ・設立年月日:2011年5 月22日 ・会員数15名(発足時) 

    ・設立目的:北九州市のジオパーク認定の支援

    ・会報:ジオ&バイオ研究会会報(年1回発行)

    ・基本姿勢:楽しみながら学ぶ(楽習会)

    経験に基づき獲得した重要な視点

    学びの独立性の担保【博物館ボランティアや友の会などとの違い:博物館を活動の基軸としない。また博物館(博物館活動)を支えることを主目的としていない。自身や自会の目指すゴールや活動目的等に共感・共有できるものに対して協働する。プラットホームは博物館である必要はない】

    学際的で多様性に富む学びの醸成と追求(専門性の高い学芸員では無しえない、多角的で、多様な視点からの学びの創造)

    包括的な学びと相乗効果への試み(知恵や知識や技術を持ち寄り協働する(混ぜる)ことで、新しい学びの創造と、学びの増幅と増深の試み)

    地域資源の発掘と教育・学習プログラムの開発【地域資源(地域の活性化や地域振興に寄与する資源や、文化観光に資する「文化資源」や教育素材としての「教育資源」等を含む)の発掘とそれらを活用した教育・学習プログラムの開発。例、北九州ジオカルタの製作や自然災害に端を発す“祭り”などの教育資源の抽出】

    自己実現の場の創造(基本的欲求としての愉しみの充足のみならず、知識の共有や省察の機会を創造し、社会的役割を負託することによる生きがいや、やりがいを提供する場の創造)

    生涯学習の機会促進(地域課題の解決へ取り組む“あらゆる学習”機会の提供)

    シビックプライドの涵養(実施する側、参加する側の両方)

    博物館活動の枠を超えた教育活動の広がりの構築(学校教育の現場や地域コミュニティーへの広がり)

    博物館活動の本来の使命や役割を託すことのできる独立組織への成長(例:自然に対する理解の促進や、自然物や自然そのものの継承についての代弁者化)

    構成員(会員)に対し、博物館経営や活動の原動力となり得る「博物館活動に対する理解促進や、理解者の養育、あるいは支援者の拡大等」を求めない。博物館の使命や役割として掲げられたGoalを共有し、到達(達成)することを目的とし、目指す手法は博物館とは異なることを認める。結果として、博物館の活動が理解され、博物館活動を支え、けん引するような会(団体)として成長することを期待する。

    問題点:継続性(高齢化)、活動の不定期性、定型化と発展性、活動資金(補助金など)

    今後の研究課題:定量的な分析

    引用文献 伊藤寿朗, 2021, 市民のなかの博物館. 吉川弘文館(第九刷), 208p; 大堀 哲, 2014, 第1章 教育とは何か. 大堀 哲・水嶋英治編, 新博物館学教科書, 博物館学Ⅱ, 学文社, 172-181; 柴田敏隆・太田正道・日浦 勇編, 1973, 自然史博物館の収集活動.日本博物館協会,293p.

  • 橋本 智雄, 片桐 悟, 柴田 樹, 本山 功
    セッションID: G8-O-3
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    山形大学認定研究グループのひとつである山形大学災害環境科学研究ユニットは,山形県の自然災害と自然環境の特性を探求し,高度な知識と防災に資する情報を地域へ発信することを目的として活動を行っている.筆者らは,この中の産学連携の取組みとして土砂災害の被災地域を対象に合同現地調査を行い,災害発生機構についての検討・考察を行った.その後,事後研究・地域防災・防災教育を目的に,地すべり・崩壊検知センサー(傾斜計・雨量計)の設置や継続的なモニタリングを実施・公開し,地域の方々が大雨などで生じる斜面変動の様子をリアルタイムで見られるシステムを構築した.

     更に,地域に近接する沢筋でUAVレーザー測定を実施し,身近な危険斜面の分布を明らかにするとともに,地域住民向けの防災イベントを開催して防災に関する普及啓発を推進した.以下、活動・取組み内容について述べる.

     令和4年8月3日~4日にかけて,低気圧と前線の影響により東北地方各地で豪雨災害が多発した.特に山形県南部から新潟県北部にかけての地域では線状降水帯によって記録的な大雨となった.山形県西置賜郡飯豊町では,河川や用排水路の氾濫による浸水・冠水・洗掘・侵食や斜面崩壊,ため池の決壊,橋梁の落下などの被害が生じた.現地調査の結果,河川や水路で確認された氾濫の多くが,増水時に橋梁等の横断構造物で発生した流木等による流下阻害によるものと考えられた(橋本ほか,2023).そのため,流木等の発生抑制対策(砂防施設等)だけでなく,橋梁等の横断構造物が増水時に流路を阻害しない構造とする等のボトルネック区間の対策を推進することも重要であることが浮き彫りとなった.また,集水域の狭い小規模な谷地形でも斜面崩壊や土石流の発生が各所で確認され,斜面の風化の進行や脆弱な土砂の堆積が想定される地域では,災害リスクが高いことも改めて確認された.

     地域の避難場所である飯豊中学校の背後斜面で発生した斜面崩壊は,グラウンドに土砂が流出する等の被害を出した.ここでは,斜面上部に崩壊拡大が懸念される落ち残り部があったことから,地すべり・崩壊検知センサーの設置やUAVレーザーによる微地形の測定を実施し,モニタリングデータをリアルタイムで見られるよう,WEBサイトの情報を地域住民向けに公開した.現時点で累積性のある変位は確認されていないが,今後もモニタリングを継続する計画である.

     これら斜面モニタリング等の取組みを紹介,普及する目的で,地域住民を対象として防災イベントを開催した.イベントでは,防災モニタリングの事例紹介(宮本ほか,2023)や身近にある危険箇所,避難スイッチ・所要時間に関するワークショップを行った.住民からは,本災害と過去の災害時の経験,避難時の問題点などについて活発な発言があり,より詳細な被害の実態を情報共有できた.また,UAVを用いて実際に上空から自分たちが住んでいる地域と斜面崩壊箇所等を比較観察し,身近な所にも危険箇所があることを改めて確認した.

     今回のような産官学連携による自主的な活動・取組みは,より地元に密着した地域防災への貢献が可能となると考えられる.現時点では,特定の自治体を中心に活動を行っているが,今後は地域住民への周知や住民参加型での防災モニタリングの実践,県内の他地域も含めた地域防災への貢献・啓発を推進していきたい.

     謝辞:いいで農村みらい研究所及び飯豊町役場の皆様には,斜面モニタリングやUAVによる詳細調査及び防災イベントの実施に際し,種々ご教示・協力いただいた.この場を借りて深く御礼申し上げる.

    引用文献

    橋本智雄・森藤勉・柴田樹・片桐悟・本山功・岩田尚能・加々島慎一: 令和4年8月山形県飯豊町で発生した豪雨災害について.山形県南部令和4年8月豪雨災害調査報告書, 山形大学災害環境科学研究センター, pp. 57–89., 2023.

    宮本善和・王寺秀介・藤谷久・矢守克也: 住民参加による斜面防災モニタリングシステムの開発と試行, 土木学会論文集, 2023.

  • 蘇 綾, 静谷 あてな, 峯岸 瑤子, 宮田 和周, 薗田 哲平, 中山 健太朗, 安里 開士
    セッションID: G8-O-4
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    福井県立恐竜博物館は2023年7月に新館増設を伴うリニューアルオープンを行い、「化石研究体験」という体験施設を新たに設けた。体験の教育的な意図と、1年ほどの運営を経て見えてきた運用上の課題について、参加者の反響を交えて紹介する。

    【体験の概要】

     「研究の“REAL”に触れる」という趣旨で設置された「化石研究体験」は、実際の研究と同じ道具を使用して作業を体験することで、参加者に古生物学研究への理解と興味をより一層持ってもらうことを目的としている。そこで、化石を見つけて分類する、化石を取り出す、化石を組み立てて復元する、化石の内部を調べる、といった作業を軸に4種類の体験プログラムを制作した。

     参加者は3つの部屋(Lab. 1~3)を移動しながら、各部屋のナビゲーターの案内の下で、約2時間で3種の体験に取り組む(うち1種は半年ごとに入れ替える)。1回あたりの参加者数は24名を上限とし、1日に4~5回行う。なお、体験内容の専門性と安全性を考慮し、参加者は小学生以上に限定して、小学生には保護者の同時参加を必須とした。

    【各体験の内容】

    1) 化石発掘プラス(Lab.1冬季):化石を見分けるガイド(冊子と実物標本)を参考に、ハンマー・タガネ等を用いて実際の発掘現場の石から植物、貝や骨などの化石を見つけ、同定と分類の作業を行う。

    2) T. rex頭骨復元(Lab.1夏季):タッチモニターに表示されるヒントを参考に、原寸大頭骨の34個のパーツのうち16個を組み立て復元し、骨の仕組みを学ぶ。

    3) 化石クリーニング(Lab.2):2種のエアーツールを用いて模造岩を削り、肉食恐竜の歯(レプリカ)を剖出する。

    4) CT化石観察(Lab.3):タッチパネルを操作し、化石や化石を含む岩石のCTデータから立体構築されたモデルを、任意断面での観察やCT閾値の操作、セグメンテーションパーツの可視化や色付けで、その内部を詳細に観察する。

    【参加者の反響】

     オープンから8月末まで、そしてその後の休日はほぼ終日満員の状態が続き、2024年5月末までの平均充足率は約76%と好調である。参加者アンケートには2024年6月20日までに3316件の回答が寄せられ(回答率約17%)、体験全体の満足度は、「満足」の90.4%と「やや満足」の8.9%を合わせて99.3%と非常に高い。コメントには、「本物の研究者になった気分」「化石研究の理解を深めることができた」など好意的な意見が多く集まった。

     体験別に見ると、化石発掘プラス(満足80.3% 、やや満足15.0%)は「見分けが難しい」「答え合わせしたかった」「時間を長くしてほしい」とのコメントが多く、T. rex頭骨復元(満足86.7% 、やや満足11.7%)では「思っていたより難しい」「ゲーム感覚で楽しい」「頭骨の複雑さに驚き」との回答が多数あった。

     化石クリーニング(満足93.8% 、やや満足5.2%)は最も満足度が高く、「本格的」「夢中になった」「歯を持ち帰ることができて嬉しい」との声が殆どの中、「ツールが止まりやすい」との不満の声も複数あった。CT化石観察(満足69.8% 、やや満足21.7%)は満足度が相対的に低く、「内容が難しい」「何をしたらいいのかわからない」「途中で飽きた」とのコメントが散見される一方、「興味深い」「技術に驚いた」「全ての石や化石をCTで観察したくなった」などの意見も一定数あった。

    【課題】

     T. rex頭骨復元と化石クリーニングは完成という明確なゴールがあり、比較的にエンターテインメント性が高く参加者の反応は良いが、時間内で完成させるため急ぐ者が多い。T. rex頭骨復元で表示される骨の名称や説明映像を見ていないことも多いため、教育的な効果を高める仕組みが望まれる。また、パーツの扱いも乱雑で、損耗が激しい。化石クリーニングでも、レプリカを早く取り出すためにエアーツールを乱暴に扱う参加者が多く、メンテナンスに多大な労力がかかる。

     一方、化石発掘プラスとCT化石観察はゴールを設定しておらず、自由な観察・学習を楽しむことができる。自ら進んで調べて知ろうとする参加者には好評だが、興味が湧かないため何をしたらいいのかわからず、達成感を感じずに飽きる者もいる。この場合、観察のポイントを教え、自ら調べるように誘導するナビゲーターの存在が重要だが、そうした人材の育成に加え、外国語対応にも大きな課題を残す。

    【まとめ】

     本格的な研究体験を企画して運用し、多くの参加者と高評価が得られる完成度の高い施設を創出できた。しかし、その維持とコスト、ナビゲーターの人材確保と育成、そしてエンターテインメント性と教育的効果のバランスについて様々な課題が明らかになった。今後は設備と運用の改良をしつつ、より完成度を高める改定を重ね、新たな体験の企画も考案していきたい。

GG-9. ジェネラル サブセッション地球化学
  • 戸丸 仁, サク テンユウ, 池本 苑華, 近田 みのり
    セッションID: G9-O-1
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    隠岐トラフの西縁斜面の海底堆積物中には、顕著なガスチムニーが広く発達しており、堆積物から海洋中に大量のメタンが継続的に放出されている。このような形態のメタン(炭素)の堆積物―海洋間の移動に関しては、ガスチムニーの分布や活動、強度などの基本的な情報が不足しているため、どのくらいの量のメタンが海洋に移行し、海洋中でどのように変化しているのかなど、その動態は明らかになっていない点が多い。特に、気泡としてメタンが放出された場合、その表面がハイドレート化し、安定領域の上限深度である水深200~300 m付近で溶解することによって、海洋浅部に効率的にメタンを運ぶ可能性があり、堆積物―海洋―大気間のメタンの挙動を評価する上でも重要な現象である。本研究では、ガスチムニーが広がる海域を含む海水中のメタンの起源や三次元的な動態、変動を明らかにするため、複数の異なる年・季節に、鳥取県沖の隠岐トラフ周辺海域で鉛直採水した海水中のメタン濃度とその炭素安定同位体比を測定した。

    ガスチムニーの見られない隠岐海脚では時期にかかわらず、水深とともにメタン濃度がやや上昇し、特に海脚の東側(隠岐トラフ側)では海底付近で最大値を示すサイトが多く、堆積物から一定量のメタンが放出され続けていることが示唆された。隠岐トラフ西縁斜面のガスチムニーが顕著に発達するサイトでは、水深300 m付近で最大濃度を示すことが多かった。また、そのサイトのメタンの炭素安定同位体比は、ガスチムニーがないサイトに比べて大きかった。これは、ガスチムニーでは周辺に比べて熱分解起源のメタンの寄与が大きく、ガスチムニーから化学的特徴の異なるメタンが相当量放出されていること、また、そのメタンが底層水と反応して表面がハイドレート化した状態で、安定領域の上限深度付近まで上昇し、その深度でメタンが海水中に放出されている可能性が考えられる。これらの結果は、ガスチムニーから放出されたメタンが十分に側方への拡散・移流、分解を経ずに、海洋の比較的浅部まで到達しているとともに、海水の化学的環境の局所的な変化を引き起こしていることを示唆する。

  • 早坂 康隆
    セッションID: G9-O-2
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/03/27
    会議録・要旨集 フリー

    はじめに

     考古遺物・文化財や犯罪捜査に関わる遺留品などの元素分析は非破壊で行う必要があり,蛍光X線分析法が適している。最近,広島大学設置の波長分散型全自動蛍光X線分析装置(リガクPRIMUS II)を用いて径1 mmの領域を精度良く定量分析する20元素の検量線を得たので,その概要を報告する。本システムでは,単結晶,または岩石中に含まれる粗粒な珪酸塩,炭酸塩,リン酸塩,硫酸塩・硫化物,ホウ酸塩・ホウ素化物,酸化物,ハロゲン化物などの各種鉱物,チャートなど細粒な岩石の全岩組成,プレスパウダー,ガラス,セラミクス,合金,プラスチック樹脂,等々の分析が可能である。酸素を独立に定量するので,炭酸塩中の炭素と有機物中の炭素を区別することも可能で,汎用性・応用性が高い。

    システムの概要

    1)測定元素:B, C, O, F, Na, Mg, Al, Si, P, S, Cl, K, Ca, Ti, Cr, Mn, Fe, Rb, Sr, ZrHとLiの含有量が既知であれば,その濃度を登録してマトリクス補正の精度を上げる。

    2)管球の電圧・電流:B~S/30 kV - 100 mA,Cl~Ti:/40 kV - 80 mA,Cr~Zr/50 kV - 60 mA

    3)一次X線フィルター:Ti~Zr にAlフィルターを用いる。これは,バックラウンドを下げるためだけでなく,励起に無用な波長成分をカットして試料の被爆による変色を軽減させるためでもある。

    4)測定時間:Bがピーク150秒,バックグラウンド150秒,C~Naがピーク100秒,バックグランド50秒と軽元素ほど長秒を要し,全体で約40分となる。試料の被爆を抑えるためには,測定が不要な元素の測定時間を予め短く設定しておくのが良い。

    5)定量計算:付属のソフトウエア(ZSX Version7.42)に格納されているJIS モデルによる理論マトリクス補正係数を適用した検量線法。

    6)標準試料:天然の宝石グレード端成分鉱物(32種),合成鉱物(4種),産総研が提供している岩石標準試料粉末の溶融ビード(13種),純金属(4種),プラスチック樹脂類(5種),NISTのガラス標準試料SRM610など,合計63試料である。

    7)測定部位の位置合わせ:通常,試料ホルダーに5 mmφの試料マスクを装着し,測定部位をその中央にセットする。マッピング機能を用いて試料を測定位置に導入すると,自動的に写真が撮られて表示されるので,その画像上で測定位置を複数箇所指定することもできる。

    検量線の作成手順と結果

     正確な検量線を作成する上で問題となるのは,端成分鉱物でも天然の試料には無視できない量の不純元素が含まれることである。今回は,次の手順で天然試料の正確な組成を求めた。

    (1) 全ての試料は端成分組成からなり,不純な元素は含まないと仮定して第一段階の検量線を作成する。(2) この検量線を用いて,他の元素の検量線に用いる標準試料に不純物として含まれるこの元素の濃度を定量する。(3) 検出された不純成分を加え,ストイキオメトリを満足し,かつ濃度の合計が100%になるような組成を計算により求めて検量線を引き直し,(2)以降を繰り返す。これを3回繰り返すと,収斂して精度の良い検量線が得られる。

     例として,O, Si, Feの検量線を図に示す。JIS モデルによる理論マトリクス補正係数を用いると,Si のように平均的な原子番号の元素は直線的な検量線となり,より軽い元素は下に凸の,より重い元素は上に凸の検量線となる。一般に,測定誤差の絶対値は高濃度の試料で大きくなり,その誤差が検量線の正確度に波及する。そこで,低濃度の標準試料が多数得られる元素では,検量線を低濃度部と高濃度部に分けるということが行われる。例えば,Feでは2 wt%以下の低濃度の検量線(正確度:± 0.063wt%)と2 wt%以上の高濃度の検量線(正確度:± 0.13 wt%)に分けている。

    測定例

    1)黒曜石の分析値がビード法による結果と良く一致することを確認した。

    2)柘榴石の単結晶の分析値がストイキオメトリを満足することを確認した。

    3)チャートのスラブをマッピング機能を用いて層理面に垂直な線分析を行い,Al, Ti, Mn, Fe, Sr, Zr などの微量成分の濃度変化グラフを得た。

    4)花こう岩礫中に含まれる2〜3 mmの黄緑色鉱物の鑑定を依頼され,セリサイトの集合体であることを突き止めた。

    5)黒色泥岩中の炭素Cを炭酸塩中のC(CO2)と有機炭素(C*)に分けて分析した。

    6)角砂糖(スクロース:C12H22O11)の組成を正しく分析した。

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