各鉱物について,巨視的な熱力学的諸量を計測し,これをもとに鉱物の安定性を議論する熱力学的アプローチは,鉱物の挙動を知る一方法であろう。一方鉱物を構成する原子位置,電子分布等構造に関する正確な微視的知識の上に立ち,原子間の結合状態を考慮しつつ,鉱物の安定性及び各状態下における挙動を議論するのが結晶化学的方法と言えるであろう。しかしこの方法に従う場合,結合の性質,機構についての知識を必要とするが,一般にこれについて充分な知識を持つことができない,特に共有結合についての知識が不充分であり,このエネルギーの算出が困難なため,定性的な議論の範囲を越えることができない。ここでは結晶化学の立場から,静電エネルギー・という目を通して,珪酸塩鉱物の挙動を議論してみる。珪酸塩鉱物は比較的イオン性が強く,又静電エネルギーと共有結合エネルギーは,相補的な関係にあることが,熱力学的結合エネルギーから推定されるため,静電エネルギーから比較的独断的結果を導くことも,あながち無意味とは言えないだろう。ここではアルカリ長石におけるAl3
3+, Si
4+の四面体席における秩序,無秩序分布について,静電的安定性から四面体席における元素の分布状態を推定し,伝統的なX線による方法と比較を行う。又カンラン石,斜方輝石のM1, M2席におけるMgと遷移金属元素の分配に関して,静電エネルギーの知識に基づき,実効電荷を考え,静電的安定性の見地よりこれを解釈し,X線による実効電荷と比較を行う。静電的安定性の機構が,これらの鉱物中成立しているかどうかに興味があるためである。
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