石膏の(010)面は最も完全な劈開面であるが,その新鮮劈開面上には一般に極めて微細な〔101〕及び〔001〕方向のステップが観察される。本報告ではこれらのステップの層成長の過程を,単原子層ステップのモデルを用いてエネルギー論的に追求した結果を概説する。ここで問題になると思うのは,実際に劈開(010)面上に見られるのは単原子層ステップではなく,高倍率顕微鏡で辛じて観察されるような微細ステップでも,恐らく数千層以上の累層から成る側壁を持つ巨大ステップであると云う点である。つまり,単原子層ステップのモデルに基く成長過程の推論が,そのまま実在の巨大ステップに適応出来るかと云う疑問である。この点に関しては,筆者は一般に採られている見解に従って,巨大ステップの側方成長では最底部のCaSO
4単原子層の側方成長が先行して全体としての成長模様を規制して行くものと考えた上で,その当否を理論と実際の一致如何に問う立場を取ろうと思う。エネルギー計算の主部分は電子計算器を使用した。計量には無限遠距離にあるイオンの静電力も残らず含まれており,その意味の近似はない。これら収束値の決定には数学的にオイラー転換法を用いた。計算の細部については他を参照されたい。
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