岩石の冷却速度を推定するために今まで提案された冷却地質速度計には,冷却史を推定することのできない最高温度が必ず存在する.この高温限界は,地質速度計に関わるカイネティクスと冷却速度によって決まってくる.例えば,かんらん石とスピネル間でのMg-Feの交換反応のカイネティクスを利用したかんらん石一スピネル地質速度計では,スピネルの一般的最大粒径が数mmであるので,かんらん岩の冷却速度としてごく普通の10-4゜/年というゆっくりした冷却の場合には,高々800℃以下の冷却史しか推定できない.このように低い高温限界をより高くする方法で最も有力なものは,速度計の距離スケールを大きくすることである.鉱物の粒子の大きさには限界があるが,鉱物の量比の変化によってできる岩石のマクロな構造には,このような限界がなく,原理的にはソリダス温度までの冷却史を推定できるはずである.ただし,このようなマクロ構造を冷却速度計として用いるためには,岩石という多粒子・多相系に伴う様々な複雑さや初期条件の不明確さという困難を乗り越えなくてはならない.この論文では,多粒子系の問題を検討した後,かんらん石一スピネル地質速度計を拡張し,北海道岩内岳かんらん岩体産のダナイトとクロミタイト層の境界について,カンラン石のFe-Mg比の変化を利用してより高温の冷却史推定を試みた.6cmにも及ぶそのFe-Mg比の変化を一次元の拡散係数の組成依存性と冷却速度の時間依存性を考慮した拡散モデルで解析した.このダナイトークロミタイト地質速度計によって,岩内岳かんらん岩体は約1000℃から900℃まで冷却速度が0.010/年以下から約0.30/年程度まで増加したことがわかった.この冷却史から,かんらん岩体は融解過程終了後の冷却に引き続き急速に上昇をしたと考えられる.
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