人間福祉学会誌
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22 巻, 2 号
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  • 雇用主と支援者の視点から
    松田 光一郎
    2023 年 22 巻 2 号 p. 1-7
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/10
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は、知的障害者が働き続けるために、雇用主は何を重要視しているのかを探るため、民間企業の雇用主に調査を行った。その結果、就労支援機関に対して、継続的な人的支援を求めていることがわかった。次に、雇用主と支援者双方が重要視する就労定着および就労継続の条件について調査を行った結果、就労定着では、雇用主は支援経過や支援計画に関する詳細な情報を重要視し、支援者は障害理解と合理的配慮を重要視した。また、就労継続では、支援者が重要視した勤務態度やマナーよりも、業務以外の対人関係を重要視する雇用主が多かった。これらのことから、就労支援において、雇用主と支援者双方の意思疎通が図られることなく、雇用が先送りにされることがないよう、雇用主と支援者双方が共通概念や共通言語を用いて実践を振り返り、その効果を検証していく枠組みを整備していく必要がある。
  • テキストマイニングによる面接調査の分析から
    杉山 祐子, 植松, 友永, 南谷, 松川, 田村
    2023 年 22 巻 2 号 p. 9-18
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/10
    ジャーナル オープンアクセス
    保育現場の慢性的課題である保育者不足の解決のために、一旦離職した保育者の復職が期待されている。本研究は、離職保育者が復職に至る支援法を明らかにするため、離職後復職に至った保育者16名にアンケートと面接調査調査を行い、復職のキーワードをテキストマイニング手法と研究者の知見を組み合わせ分析した。テキストマイニングによる分析で、16名に共通する特徴あるキーワードが表出した。そのキーワードを TF-IDF 分析によるWordCloud を生成し、研究者の知見を加えた結果、個人特有の事情が明らかになった。次に、回答者間の類似や乖離をレーダーチャートで観察し、特に重要とする支援のキーワードが明らかになった。キーワードを 2 次元プロットに図示したところ、16名の回答者を 4 つの類似性グループに分けることができたが、文脈を考慮した分析方法の一層の解明の必要性が明らかになった。以上、多様な手法で回答者の復職の潜在的な要因を明らかにできることが示された。
  • 菊池 啓子, 倉畑
    2023 年 22 巻 2 号 p. 19-25
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/10
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は、保育園児の給食摂取調査等から保育者と保護者に子どもの食に関する情報の共有と、そのための有効的な方法を検討し、今後保育園と家庭が子どもの食に関する課題解決ができる一提案をすることである。A市の公立保育園児と保護者70名、保育者 4 名を対象に、子どもには食事摂取量の評価、保育者には声掛けの有無とコメント、保護者には子どもの 1 週間の食事摂取調査実施後に摂取状況を記入したシート見てコメントを書いてもらった。保育者は摂取量ではポジティブなコメントが多く、摂取時間は、時間内に食べられない子どもへのネガティブなコメントがあった。また、保護者は家庭と保育園の食事摂取量に差があることを記しており、両者の情報共有が必要だと確認できた。しかし保育者の仕事は年々増加し、保護者も正規就労により子どもを知るための時間が少なくなりつつあるため ICT 等、多様な手段を用い、給食摂取状況を保護者へ発信し、家庭からの連絡を受信する方法に期待が高まった。
  • 短期入所利用をめぐる母親の思いに焦点を当てて
    兼松 博之
    2023 年 22 巻 2 号 p. 27-34
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/10
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿は、短期入所利用をめぐる「母親たちの思い」を手がかりにして、知的障がい者家族が社会的ケアを受け入れる困難性を考察したものである。調査の結果、ほとんどの母親たちが、短期入所の段階的な利用プロセスを理解していることが分かった。しかし、社会的ケアの移行を理解しているにもかかわらず、気持ちが揺れ動いて利用につながらなかった母親たちもいた。また、母親の語りから、「引け目がある」という言葉が抽出された。母親たちが感じている《権利を主張することへのためらい》は、個々の事情や地域の支援体制の脆弱さだけに依拠するものではなく、障がいに対する社会受容の欠如が、知的障がい者家族が社会的ケアを受け入れる障壁になっていることが示唆された。
  • 教師対象の質問紙調査から
    近藤 恵里
    2023 年 22 巻 2 号 p. 35-40
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/10
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究はスクールカウンセラーに対する学校が求める役割を明らかにすることを目的とした。A県下の小学校・中学校・高等学校616校の教師を対象にスクールカウンセラーに求める役割について質問紙調査を行った。スクールカウンセラーの役割として10の役割を挙げ、役割が機能している度合いを「必要としている」、「役に立っている」、「満足している」で測定した。ここでは、この 3 つの項目で測定した得点の平均をスクールカウンセラーの役割に対する学校からの機能得点と定義し、その得点を校種別に比較検討した。その結果、「カウンセリング」、「教師との連携」、「コンサルテーション」、「発達障害への対応」の役割が小学校・中学校・高等学校ともに高い得点だった。「学校緊急支援」、「心理検査」、「学校組織への参加」、「校内研修」で校種に差がみられ、全体的に機能得点は高等学校が高かったが「学校組織への参加」では中学校が最も高い結果だった。
  • 高木 剛
    2023 年 22 巻 2 号 p. 41-48
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル オープンアクセス
    高齢化が進行する先進諸国において、介護を必要とする高齢者や障害者(以下、利用者)の生活を支える介護福祉職の量的・質的確保は共通する課題である。利用者の多様化・複雑化・高度化する介護ニーズに適切に対応するためには、介護福祉職に求められる能力が明確になっており、それを具現化する教育科目が設定されていることが必 要不可欠である。 本稿では先駆的福祉国家であるデンマークの社会保健ヘルパーの職業教育訓練制度を取り上げ、求められる能力及 び教育訓練科目との関連性を明らかにすることを目的とした。Bekendtgørelse om erhvervsuddannelsen til social-og sundhedshjælper(Undervisnings- og Kvalitetsstyrelsens bekendtgørelse nr. 535)などの文献・資料から、社会保健 ヘルパーの職務は、利用者に対して広範囲で基礎的なケア、身の回りの世話及び実際的な支援を単独で遂行することで、求められる能力として、①利用者の権利、並びに社会保健ヘルパーの職務領域に適用される専門職・権限者としての責任を伴う倫理的・法的規則に従って社会保健ヘルパーとして単独で及び専門分野の間で協力して職務を遂行すること、②早期発見のためのツールの使用を含め、利用者の身体的・精神的・社会的健康状態に観察された変化に単独で専門的に対応することなど、13項目があり、それぞれ、「社会保健ヘルパーの役割」、「利用者との出会い」など教育訓練の各科目と密接に関係している構造が明らかとなった。
  • 質問紙から育児意識の構造化及び支援体制についての母親たちの教示
    森近 利寿
    2023 年 22 巻 2 号 p. 49-59
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル オープンアクセス
    A県の児童を療育園に通わせる母親を対象に,療育園の母親に対して育児に対する悩みや子育てに対する実態についての調査を行った.調査内容から母親の育児に関する意識の背景や育児に対しての支援体制の実態等を明らかにすることを目的とした.その結果,母親の育児意識を向上させるためには療育者の献身的な支援や療育園の充実した支援体制の重要性等が明らかとなった.今後の課題として,療育者への育児支援に対する調査を実施し,母親の育児に対する意識の知見と総合的に分析することにより,療育園の子育て支援体制の充実に繋がるものと考えられる.
  • 中谷 こずえ, 岡村, 畑
    2023 年 22 巻 2 号 p. 61-70
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル オープンアクセス
    新型コロナウイルス感染拡大は、刑務所内にも大きな影響を及ぼしている。感染拡大を防止するため、制限されたことは、刑務作業・炊場・入浴・行事・運動・面会である。本研究目的は、コロナ禍における感染対策が矯正施設の男性長期受刑者にもたらした影響の検討である。アンケート調査を2022年 2 月から 6 月まで実施した。研究対象者の属性は、108名(有効回答率14.4%)、平均年齢48.0±10.6歳、施設での平均生活歴9.8±9.1年である。「ストレスや不安の対象を理解している者」98名(90.7%)であった。長期刑の人がより感染対策に対するストレスが大きいとし、その影響を明らかにするため、従属変数を罪名とし、重回帰分析を行った。その結果、刑務所での生活歴・刑期も長い受刑者は、「自分と自分の家族への感染不安」を顕著に抱いていた。受刑者に施設内における感染状況に関する情報が提供されないことも不安要因となっていると考えられた。
  • A県内の精神障害者施設における施設評価等の実態に関する調査結果から
    加藤 大輔
    2023 年 22 巻 2 号 p. 71-78
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル オープンアクセス
    精神障害者施設を利用する当事者が、施設で行われている活動や運営を共に考える当事者参画型の評価システムのあり方を考察するために、A県内の精神障害者施設40ヶ所の施設長もしくは管理者を対象に実態調査を行い、35ヶ所から回答があった(回収率は87.5%)。調査の結果、当事者の身近なものである日々のプログラムの立案や振り返りは当事者の声や意見が反映されており、当事者が参画していることがわかった。一方で、年間計画、中長期計画、施設運営に関する参画は少ない実態が明らかになった。また、当事者と共に施設評価を行った場合、「新たな気づき」「支援の質の向上」「意見の尊重」「環境への影響」「職員の変化」につながり、職員や施設にとってプラスの変化をもたらす側面があると考えていることが示唆された。そして、利用者と施設評価をすることの難しさとして、「当事者の本心が出づらい」「職員への攻撃」「個別対応の必要性」「状態・症状への影響」「当事者と施設との関係性の変化」を危惧していることが明らかになった。
  • 福岡県内の自治体へのアンケート調査から
    木山 淳一
    2023 年 22 巻 2 号 p. 79-86
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は、地域福祉が政策化する中で、公私協働による推進主体である自治体と社会福祉協議会の連携と協働の現状を明らかにし、「地域共生社会」政策の実現に欠かせない要素を考察することである。福岡県内の60市町村(70団体)を対象にした郵送法によるアンケート調査の結果から、自治体と社会福祉協議会の連携と協働は取れているとの評価であったが、その中心が事業の委託ということであった。また、政策実現に不可欠なものに関して、自由記述から得た回答を質的記述的研究法により分析し、 7 つのカテゴリーに分類を行い考察した。
  • 介護職員と要介護高齢者を被験者とした調査より
    横山 さつき, 大須賀
    2023 年 22 巻 2 号 p. 87-94
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル オープンアクセス
    IFMC.を、介護職員の皮膚に接触させた場合と、要介護高齢者の衣服を介して接触させた場合の、心身への影 響を検討することを目的とした。20 人の介護職員を被験者として、IFMC.加工したインナーの着用前後 1 週間の血 圧や自覚症状などを調査した。その結果、心身症状を示す23項目のうち12項目において、着用後の方が有意に腰痛な どの不快な自覚症状が低減されたことが示された。また、23人の要介護高齢者を被験者として、使用している車椅子 への IFMC.加工前後 2 週間の、唾液アミラーゼ活性値、バイタルサイン、不快症状の程度などを二重盲検法で調査 した。その結果、加工群において加工後の方が、有意に血圧が安定したことが示されたが、それ以外の神経症状や体 幹保持状況、嚥下・発語状態などを示す調査項目に有意差は認められなかった。よって、病的老化のある者が衣服を 介して IFMC.加工製品を使用する状況下では、その効果が非常に小さいことが推察された。
  • ケアマネジャーへのインタビュー調査から
    田中 潤
    2023 年 22 巻 2 号 p. 95-101
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は、ケアマネジャーが考える 1 人暮らしの要介護軽度者(要介護 1 又は 2 と認定された者、以下、「軽度者」と称す)に対する自立支援の機能を明らかにすることを目的とした。東京都内の居宅介護事業所のケアマネジャー9 名に対してインタビュー調査を実施し、定性的コーディングにより質的分析を行った。その結果、23のコードを抽出し 5 つのカテゴリーに分類した。ケアマネジャーが考える 1 人暮らしの軽度者に対する自立支援の機能として、【できることを続ける】は身体的機能、【利用者の力を活かす】、【その人らしい生活をする】、【生き方を決定し選択する】は、精神的機能、【在宅生活を継続する】は社会的機能を支援することが主な内容となっていた。そのため、ケアマネジャーは、利用者主体の支援をするために、身体、精神、社会的機能面が交互に絡み合った包括的な考え方を基底にケアマネジメントを展開していることが明らかになった。
  • 斎藤 洋
    2023 年 22 巻 2 号 p. 103-106
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/07/14
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は、リアリティショック(以下「RS」と表記)に関する過去の文献を概観し、介護職員を対象とした RS の構造と軽減・回避策を文献調査より明らかにし、今後の研究の必要性とその意義を検討することである。組織行動論研究や看護学領域と比較して介護分野の RS に関する先行研究は少なく、そのほとんどが、介護を学ぶ学生が実習時に経験した RS に焦点をあてたものだった。そこで、介護分野の先行研究に加えて組織行動論研究および看護学の RS に関する文献研究を行った。その結果、まだ明らかにされていない介護職の RS の構造を分析し、職場でのソーシャルサポートがRSの回避・軽減にどのように影響しているのかを検討することが必要だと結論付けた。
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