人間福祉学会誌
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21 巻, 2 号
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  • ― PCP に基づいた実践モデルに関する提案 ―
    松田 光一郎
    2022 年 21 巻 2 号 p. 1-7
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿では、知的障害者の援助付き雇用における支援のあり方について、組織間情報移行の観点から、支援情報 の移行過程を整理し、援助付き雇用における個別支援計画の重要性を指摘した。まず、就労移行の過程において、組 織間における「縦の情報移行」のモデルを示した。そこでは、個別支援計画を作成する上で、① PCP(本人中心計画) の考え方に基づき作成された支援情報、②機能的アセスメントと PBS(積極的行動支援)、③就労準備訓練の目標と 成果が記述されていること、④職場実習で得られた当該個人の「できる」情報が具体的に記述されていることなど、 4 つの条件を挙げた。次に、支援情報が雇用側に移行された後、時間的経過の中で形骸化しないよう、社員間におけ る「横の情報連環」のモデルを示した。そこでは、「継承」、「更新」、「評価・依頼」の段階が繰り返されることで、 最新の支援情報に書き換えられ、個別支援計画に蓄積されていくことの重要性について言及した。
  • ~職場における「感謝」と「職業継続意志」との関連について~
    野田 明敬, 小松 博子
    2022 年 21 巻 2 号 p. 9-14
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/05/30
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は看護師の職業の継続意志に影響を与える要因と考えられる、同職種間の「感謝」と、看護職の継続意 志との関連について検討することを目的とした。 公立A病院に勤務する看護師450名を対象に質問紙調査を実施し、「感謝」の因子分析結果と、それぞれの因子と看 護職の継続意志との関連について検討した。 「感謝」の因子は「能動的感謝」と「受動的感謝」の 2 因子が抽出された。それぞれの因子は、看護職の継続意志 に対して弱いながらも有意な相関関係を示した。したがって、看護職の職場における同職種間の「能動的感謝」と「受 動的感謝」は、職業の継続意思の向上に影響を与える要因であることが示唆された。
  • 阿部 敦
    2022 年 21 巻 2 号 p. 15-22
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/03
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿の目的は、介護福祉士養成教員が抱く日本人学生に対する認識の一端を明らかにすることである。分析に は介護福祉士養成教員( 6 人)を対象にした半構造化インタビュー調査を用い、分析手法には多次元尺度構成法、共 起ネットワーク、コロケーション統計などを用いた。分析の結果、当該教員らは、増加する留学生と減少する日本人 学生を前にして、どのような教育を行うべきかで試行錯誤しつつ、日本人学生の基礎学力を含む「生活力の低下」を 危惧していることが伺われた。
  • 就労継続支援B型事業所の利用者の語りの分析から
    鴨野 直敏, 中村 秀郷
    2022 年 21 巻 2 号 p. 23-28
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/03
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は、就労継続支援B型事業所の利用者の語りの分析を通して、同利用者の QWL 向上の促進要因 を明らかにすることである。本研究では、事業所の利用者に対してインタビュー調査を実施し、逐語データに対して Mayring の質的内容分析を実施した。分析の結果、利用者の QWL 向上の促進要因として 5 項目のコード化単位が生 成され、さらにコード化単位の分類から【職場における金銭獲得と貯金継続の重要性】、【職員間の連携・環境整備の 重要性】、【本人の仕事へのモチベーション維持の重要性】の 3 つのカテゴリーを抽出した。本研究結果から、利用者 の就労促進要因として、(1)金銭獲得だけでなく、貯金継続、(2)グループの活用、(3)ピアサポートの存在、(4)プラ イベートの充実、(5)規則正しい生活が就労継続の促進要因となっていることがうかがえ、これにより QWL と QOL の相互補完性の一端を明らかにした。
  • 岡村 綾子
    2022 年 21 巻 2 号 p. 29-38
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/03
    ジャーナル オープンアクセス
    一義的な対応を厳しく求められる医療系大学生の障がい者理解について検討した.具体的には,障がい者に初 めて出会った時に障がい者と分かった理由を求め,次に小・中学生を対象に障がい者について説明する場合の「ほん ね」と「たてまえ」の使い分けについて検討した.その結果,初めて障がい者に出会ったときに障がい者と分かった 理由としては,視覚で得られたり視覚や聴覚で得られた理由で示されるような外見的な説明であった.しかし,小・ 中学生に対して障がい者について説明する場合,外見的説明事項よりも概念的説明事項を選ぶ割合が多かった.また, 障がい者について「ほんね」で説明する場合は外見的説明事項を選ぶ割合が多かった.「たてまえ」で説明する場合 は概念的説明事項を選ぶ割合が多かった.以上から,一義的な対応が求められている医療系大学生は,障がい者に対 する理解も一義的であると思われたが,予想に反して一義的ではなかった.
  • 横山 さつき, 大橋 明, 土谷 彩喜恵, 海老 諭香, 福地 潮人, 堅田 明義
    2022 年 21 巻 2 号 p. 39-48
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/03
    ジャーナル オープンアクセス
    高齢者介護に従事する介護職の倫理的行動に影響すると推定される共感的反応・行動の因子構造を明らかにす ることを目的として、A県下の特別養護老人ホームと介護老人保健施設(総数270施設)のうちの76施設(総数の28.1%) の介護職全数(3,142名)を対象として、独自作成の94項目から成る無記名自記式質問紙調査を実施した。有効標本 1,161(有効回答率40.0%)のデータを用いて探索的因子分析をした結果、20項目から成る 6 因子構造を抽出した。 6 因子の Cronbach’sα係数は.852~.934(全体.904)で、各因子の内的整合性が認められた。 6 因子を、「 1.ネガティ ブな感情の共有」、「 2.インテグリティ」、「 3.他者感情に対する敏感性」、「 4.協調性・融和性」、「 5.ポジティブな感 情の共有」、「 6.他者視点取得と共感的関心」と命名した。いずれも介護職の共感的反応・行動として解釈可能であり、 内容的に妥当であると考えられた。また、「インテグリティ」と「協調性・融和性」は介護職独自の因子であった。
  • N・ノディングズのケア論を手がかりとして
    井上 敦
    2022 年 21 巻 2 号 p. 49-57
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/03
    ジャーナル オープンアクセス
    本論文の目的は、対人関係を基盤とするケア論の構築である。これまで、ケアは様々な者によって定義されてきた。例えば、ネル・ノディングズは、ケアをケアする者とケアされる者とケアリングとに分けて定義している。そのうえで、ケアは、ケアする者とケアされる者との相互作用から成り立つとした。しかし、ノディングズによるケアはそれぞれの認識から成り立つものであり、そのケアではケアする者、ケアされる者の役割が固定している。ケアする者、ケアされる者の役割が固定していては、ケアされる側がケアする可能性(あるいはケアする者がケアされる可能性)に目が開かれない。本論文では、対人関係を生きる過程で役割が明確化するケアの視点について論じている。
  • 髙城 大
    2022 年 21 巻 2 号 p. 59-66
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/03
    ジャーナル オープンアクセス
    生活保護の相談援助過程において、生活保護ソーシャルワーカーが利用者の問題を理解したり、関わっていく際、具体的なアプローチの一つとして、行動変容アプローチに注目した。そこで、ソーシャルワークにおける行動変容アプローチの遷移とその特徴について整理を試み、生活保護における相談援助過程における行動変容アプローチを導入する意義やその有用性について検討した。
  • 司法ソーシャルワーカー5職種を対象とした意識調査の分析から
    中村 秀郷
    2022 年 21 巻 2 号 p. 67-75
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/03
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は、既発表論文で提示された司法ソーシャルワーカー 5 職種(保護観察官、社会復帰調整官、矯正施設の福祉職、地域生活定着支援センター職員、更生保護施設職員)が直面する困難性のグラウンデッド・セオリーの統合を試み、共通の困難性を明らかにし、実践現場への示唆及び刑事司法の枠組みにおける福祉的支援の制度・施策の改善を論じる要素を提示することである。本研究では、 5 職種の GT の統合から、14個の統合概念が生成され、5 つのカテゴリーに収斂された。そして、 5 職種の共通概念 7 個、共通カテゴリー 4 つが明らかになった。 本研究では、司法ソーシャルワーカーが直面しがちなその背景と要因を含めた困難性を形式知として提示し、司法ソーシャルワークが歴史的・構造的に抱えている司法と福祉とのジレンマ等をマクロ・メゾ・ミクロを通底した視点から示すことができた。これにより実践現場で直面すると考えられる困難性の予測に示唆を与えることができた。
  • 保育における「養護の働き」と「教育の働き」という観点から
    舟越 美幸
    2022 年 21 巻 2 号 p. 77-85
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/03
    ジャーナル オープンアクセス
    実習生が「エピソード記述方式を用いた実習報告書」に取り組む際、教員が対象の事例についてサジェスチョンを行い、保育の基盤となる信頼関係構築について以下のことが明らかになった。まず実習生と特別なニーズのある子どもは相互に主体として存在するため、互いに分かり合えなさを抱えるが、「養護の働き」を用い、共感的な他者として「教育の働き」を絡め、関わることが求められていること。さらに、信頼関係を築くことは、共感的な関係を作る心情や意欲を形成し、子どもが主体として実習生の願いを受け入れるよう態度を調整すること。また実習生は、特別なニーズのある子どもの保育の方法と環境について以下の二点の学びを得た。①子どもの興味・関心を捉え段階的に環境を構成する必要性についての学び②信頼関係を構築することで、クラス集団と共感的な関係を広げ、協同する活動に憧れを持てるような心を育てる必要性があるという学び。
  • 面接調査の結果から
    大嶽 さと子
    2022 年 21 巻 2 号 p. 87-93
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/03
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究では、育児期の母親がママ友をどのように意味づけているかについて、育児期の母親18名に対する面接調査を実施し、その意識モデルの構築を目指すために探索的な検討を試みることを目的とした。また、就業の有無によるママ友の存在の相違についても補足的に検討した。データから、ママ友を母親として必要不可欠なものとして肯定的に捉えるとともに、「一個人としての私」の友だちとして意味づけていると考えられた。同時に、関係の喪失を恐れ、ママ友に気を遣っている可能性も考えられた。就業の有無による相違点は、有職者の母親の特徴として、子育ての困りごとに関する情報の提供や実際に手伝うという道具的な側面にありがたさを感じていたことであった。今後は同一の調査対象者に現在の状況やママ友の意味づけを尋ねる面接調査を引き続き行うとともに、アフターコロナにおけるママ友関係が、コロナ前と比べてどのように変化したかについて検討する余地があろう。
  • 「学校がこわい」と言う不登校児への理解と支援
    天野 菜穂子
    2022 年 21 巻 2 号 p. 95-102
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/07
    ジャーナル オープンアクセス
    不登校の子ども達は、「学校がこわい」とよく口にする。その中には、自閉スペクトラム症という診断を受けている子どももいればそうでない子どももいる。「学校がこわい」ということばの背景には、彼らの持つ潜在的な不安の存在がある。この不安への理解や支援は困難な作業である。そこで、イギリスの精神分析家であるタスティン(Tustin,F.)の自閉症児に対する治療理論と方法に基づいて、中部学院大学人間福祉相談センターに来談した子ども達の面接の記録から、子どもに対する理解と支援について検討を行った。その結果、子どもの体験している世界、子どもの体験をセラピストが言葉にして子どもに伝えること、セラピストと保護者が協力し合うことの重要性について、タスティンの理論が認められ、セラピーの治療的効果が確かめられた。
  • コロナ禍のサロン活動制限下における生活機能状況調査より
    野村 敬子, 松田 武美
    2022 年 21 巻 2 号 p. 103-110
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/07
    ジャーナル オープンアクセス
    コロナ禍の中、継続的なサロン活動が中断となったことを受け、2020年 3 月時点で介護保険制度の要介護認定を受けていない、又は非該当者を対象に、生活機能状況を基本チェックリスト及び半構造化インタビュー形式による調査を実施した。調査対象者(50名)の属性は、男性31名、女性19名、前期高齢者13名(22.0%)、後期高齢者37名(78%)、サロン参加者18名(36.0%)、サロン不参加者32名(64.0%)。 1 年間継続的なサロン活動を中断していた者の中で、約 1 割の後期高齢者が要支援又は要介護状態に推移していた。BMI 18.5未満(やせ)、又は25.0以上(肥満 1 度)は、サロン不参加者に多く、社会参加・精神的・認知機能などに悪影響を施す傾向が掴めた。また、要介護状態、BMI状況に関係なく、調査対象者の約 9 割以上が社会との接点が減ったと回答していた。社会との接点が減ったことで、人と会話する機会が減り、心理的不安を抱えやすい人はBMI 18.5未満(やせ)になる傾向が見えた。継続的なフレイル介入をしていない 1 年間において、約 1 割が要介護状態へ推移していたことから、継続的なフレイル予防策を講じる必要性が示唆された。
  • コミュニティ・ミーティングから見た「まちづくりカフェ」の課題
    齋藤 征人
    2022 年 21 巻 2 号 p. 111-115
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/07
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿は、保健分野において提唱されてきたコミュニティ・ミーティング(CM)というレンズを通して、北海道江差町において試みられている「まちづくりカフェ」によるソーシャル・キャピタルの形成過程を検討し、今後の課題を整理した。 まちづくりカフェは、地域の身近な生活課題について話し合いながら互助による解決策を考えるワークショップによって、住民同士がエンパワメントしていくプロセスであり、ソーシャル・キャピタルの形成に寄与している。ただ、CM は、住民の「生活実感」、思い、疑問をもとに合意形成/対話の場として機能し、最終的には行政への政策提案まで想定されているが、まちづくりカフェでは、住民に主体的な意識を持ってもらいながら互助活動を展開していくことに力点が置かれ、政策提案までには至っていない。今後は、まちづくりカフェに参加する住民が互助体制を構想・計画しつつ、必要な施策を行政に提案する力量を形成していくことが期待される。
  • 中谷 こずえ, 廣渡 洋史
    2022 年 21 巻 2 号 p. 117-127
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/07
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究の目的は、向老期にある女性被収容者が自身の健康に目を向け、行動変容を支援する健康維持増進ケアモデルを開発し、主観的指標を用いてその有効性を検証することである。研究方法は、 4 つの大項目①呼吸法、②口腔ケア、③腰痛体操、④手洗いをケアモデルとした介入研究である。研究対象者は、向老期にある女性被収容者28名である。期間は、基礎水準期、介入期、フォローアップ期からなる。主観的評価として、日常生活状況、歯周病症状の前後比較をした。ケアモデル後の自身の変化は、単語頻度解析から階層型クラスタを用いてまとめあげた。結果は、「睡眠の質」、「歯周病症状」の項目に関して、有意な改善がみられた。対象者自身の変化として抽出された構成概念の詳細は、【丁寧・良い・大切さ・心】、【思う・歯・健康】【気持ち・笑う・ストレス・学ぶ・呼吸法】【生活・腰痛体操・前向き・考える】であった。これらは、健康に対して積極的な行動や前向きな心の変化が記されていた。このケアモデルによって、健康という視点から、対象者自身の将来までも見据える行動変容の機会になったと考えられた。
  • 樋田 小百合
    2022 年 21 巻 2 号 p. 129-135
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/07
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は、高齢者の死に関連する意識と ACP 実施状況を明らかにするため、地域で暮らす高齢者への質問紙調査を行った。対象者は、シニアクラブに所属する会員130名であり、平均年齢は77.0±5.9歳、男性80名(61.5%)、高齢世帯56名(43.1%)等であった。シニアクラブ会員の死に関連する意識として、尊厳死に対して積極的な意識を示すものがおよそ60%存在した。また、ACP 実施状況において、死に対する他者との話し合いは「あり」76名(58.2%)であるが、終末期の意思表明は「伝えていない」52名(40.0%)であった。尊厳死に積極的な意識を示すものは、話し合いを実施しており、意思表明をしているものが有意に多かった。今後は、尊厳死の実情を高齢者に周知し、積極的な意識が高まることで、死に対する話し合いやリビング・ウイルの活動が増えていくことが期待できる。
  • 田中 潤
    2022 年 21 巻 2 号 p. 137-143
    発行日: 2022年
    公開日: 2022/06/07
    ジャーナル オープンアクセス
    本研究は、要介護軽度者が地域生活を継続するために、ケアマネジャーが考える自立支援について、文献調査を通して検討することを目的とした。社会福祉領域の自立の考え方は、法律や制度などで、その目的や政策の中心として位置づけられることが多い。高齢者領域の自立は、高齢者自らの意思に基づき、質の高い生活を送ることであり、介護保険制度下で、その自立を支援することとされる。しかしながら、先行調査から、要介護軽度者の自立支援と重度化防止における見守り的援助の実施において、十分機能していないことが推察された。そのため、ケアマネジャーの要介護軽度者に対する自立支援の考え方やケアプランの実際の状況について明らかにする必要がある。また、ケアマネジャーが利用者との関係性を相互に積み上げ、軽度者が主体的になって、「共に」生活行為を行う支援過程を検討する必要があると結論付けた。
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