発達支援学研究
Online ISSN : 2435-7626
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  • 施設の方針と保育者の認識の影響
    杉山 弘子, 本郷 一夫
    2025 年5 巻2 号 p. 46-64
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル フリー
    本研究は、施設の方針と保育者の認識がクラス集団で協同活動をするための話し合いへの5歳児の参加度にどのような影響を与えるのかを明らかにすることを目的とした。幼稚園・保育所(園)・認定こども園で5歳児を担任する保育者を対象に郵送による質問紙調査を行った。384名の有効な回答を分析した結果、(1)「子どもの自由な遊びの選択」についての施設の重視度、(2)担任の5歳児に育てたい力としての「感性」の重視度、(3)担任の小集団での協同活動とそのための話し合いについての「子どもの自発性」の重視度が高いと、クラス集団で協同活動をするための話し合いへの子どもの参加度が高いことが明らかになった。さらに、担任の小集団での協同活動とそのための話し合いについての「子どもの自発性」の重視度には、「子どもの自由な遊びの選択」についての施設の重視度が影響していた。以上より、子どもの自発性や主体性、自由な表現を尊重することが、協同活動のための話し合いの発達につながると考えられる。
  • 大学の運営する地域子育て支援拠点での検討
    中村 敏, 清水 寛之, 村上 佳比子
    2025 年5 巻2 号 p. 65-86
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル フリー
    本研究は、地域子育て支援拠点における子どもの利用者に関する行動データを提供すること、および、そうした場での子どもの行動データを収集する技法について検討することを目的として、近畿地方の大学が開設している地域子育て支援拠点を利用する子どもの活動に関する調査を行った。調査には7名の就学前の乳幼児が参加した。調査では、各対象児とその保護者はプレイルーム内で自由に活動を行い、その様子を撮影した。対象児が入室してから最初の30分間を分析対象期間として、その期間の映像を約1秒ごとに静止画として抽出し、対象児が地面と接する座標のデータを収集することで、各対象児の移動や滞在のパターンを分析した。分析結果から、対象児の活動域や滞在箇所は歩行能力や配置物、遊びの内容といった要因の影響を受けることが確認された。これらの結果をもとに、本研究のように子どもの行動を数値化して分析することが今後の地域子育て支援拠点における子どもの利用者を対象とした研究および施設の運用の改善に有効活用できる可能性について論じた。
  • アクションリサーチ的循環としての評価
    本郷 一夫
    2025 年5 巻2 号 p. 87-99
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル フリー
    発達支援を行った場合、その支援が適切であったか、効果的であったかを振り返ってみること、すなわち評価することが重要である。発達支援の評価においては、行った支援内容だけでなく、支援目標、発達アセスメントの妥当性などを検討することが求められる。子どもによって支援目標は異なる。その点で、発達支援における評価は、原則として絶対評価(目標準拠評価、到達度評価)である。しかし、集団適応や仲間関係を考えた場合、相対評価(集団準拠評価)も念頭に置く必要がある。一般には、支援目標が達成された場合は、その支援を継続し、支援目標が達成されない場合は、その支援を変更することになる。しかし、支援目標が達成された場合であっても、①偶発的な要因が関与した場合、②支援対象の子どもにおいて他の領域に望ましくない変化が起こった場合、③他児や保育者などに否定的な影響が現れた場合などには、支援を変更することが必要となる。なお、評価において、短期的目標の達成の有無だけに目を向け過ぎると子どもの発達が見えにくくなってしまうため、注意が必要である。
  • ふれあいペアレントプログラムによる親への効果
    尾崎 康子
    2025 年5 巻2 号 p. 100-114
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル フリー
    近年、日本において、子どもへの発達支援だけでなく親への支援の重要性が注目されるようになってきた。自閉スペクトラム症に関しては、米国など海外で親支援プログラムが多数作成され、親支援に取り入れられてきた。自閉スペクトラム症児の親は、子育て困難や不安がかなり高く、親支援プログラムが有用であると言われている。このような社会的背景において、尾崎(2018)は、自閉スペクトラム症幼児の親支援プログラムであるふれあいペアレントプログラムを開発した。本論文では、ふれあいペアレントプログラムの開発にあたっての国内外の自閉スペクトラム症児の親支援の背景を述べるとともに、ふれあいペアレントプログラムの親への効果について検討した。ふれあいペアレントプログラムの実施前後に参加者である9名の自閉スペクトラム症幼児の親に質問紙調査を行ったところ、実施後に育児自己効力感が高まり、プログラム受講による子どもへの関わりの変化が見られた。
  • アウトリーチとエビデンスの視点から
    足立 智昭
    2025 年5 巻2 号 p. 115-131
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル フリー
    本研究は、自然災害が幼児のメンタルヘルスと発達に与える影響を整理し、適切な支援策を検討することを目的とした。災害後、幼児は身体的症状(消化器系不調、睡眠障害、倦怠感)や行動症状(情緒不安定、多動、攻撃性)を示すことが多く、これらはストレスによる自律神経系への影響と関連がある。また、幼児特有のトラウマ再演行動(災害の状況を模倣する遊び)も確認され、認知的・情緒的発達による影響が示唆された。特に、親のPTSDや家庭環境の不安定さが、幼児のメンタルヘルスや発達に悪影響を与える要因となる。支援策としては、トラウマに焦点を当てた認知行動療法(TF-CBT)や遊戯療法の有効性を論じ、保育者・保護者向けの心理教育や発達支援環境の整備、長期的フォローアップの重要性を強調した。これにより、地域・保育施設・家庭が連携した支援体制が不可欠であると結論づけた。今後は、幼児の発達特性に基づく支援プログラムの開発と有効性の検証が重要である。
  • A社の職場定着支援を事例に
    松田 光一郎
    2025 年5 巻2 号 p. 132-144
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル フリー
    障害者の作業支援において、業務を構成する作業工程を明確にし、支援対象者がどの工程でつまずいているのかなどを把握、分析するための技法として課題分析がある。現在、職場適応援助者による支援事業では、課題分析を必要とする場面が増加してきている。しかし、全国の障害者就労支援施設において、課題分析は必ずしも活用されているわけではない。そこで本研究では、課題分析を用いた支援のあり方について、知的障害を伴う自閉スペクトラム症者の職場定着支援の事例を基に検討した。その結果、課題分析の背景にある応用行動分析の理論を理解し、適切な記録をとっていくことで、本人に合わせてどのような指導や介入が効果的なのか、職場定着に必要な条件を見出すことができると考えられた。
  • 場面緘黙児とのかかわりを通して
    鈴木 徹
    2025 年5 巻2 号 p. 145-147
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル フリー
    特別支援教育では、障害のある子どものニーズに応じた適切な支援を行う必要がある。そして、支援を行う基本的スタンスは、学齢期以降も変わらない。個々の状態像は多様であり、また当人のニーズも一人ひとり異なることから、支援はいつもオーダーメイドでなければいけない。しかしながら、昨今では、特定の方略を用いたり、各種検査の結果から支援の具体が組み立てられたりすることが多いように感じる。本講演では、筆者の臨床経験から、オーダーメイドの支援に求められる支援者の視点について述べさせていただいた。
  • 発達支援の観点から
    鈴木 千陽
    2025 年5 巻2 号 p. 148-151
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル フリー
    本稿では、主に少年矯正領域における心理アセスメント及びその支援の概要について、発達支援の観点を踏まえながら説明する。少年矯正領域においては、未来ある少年たちの力を信じ、保護的な教育・支援を行うという考え方の基、非行の原因の分析、特性に応じた矯正教育などを実施している。そうした、自分たちの行うアセスメント及び支援の効果を科学的に評価することは、現時点では難しい面が多い。しかし、支援者である我々が、誰よりも少年たちの可塑性を信じ、目の前の少年たちを理解し続けようとしているかという点は、日々の臨床活動の適切さを見定める上で欠かせない視点であると考えている。
  • 児童自立支援施設の実践
    佐藤 啓直
    2025 年5 巻2 号 p. 152-158
    発行日: 2025/03/31
    公開日: 2025/10/01
    ジャーナル フリー
    児童自立支援施設は、中学生を中心とした年代の児童が、一定のルール等枠組みのある中で集団生活を行う施設である。近年、発達障害、アタッチメント、トラウマなど様々な要因による個別的支援を要する児童が増えている。宮城県さわらび学園では、様々な支援ニーズをもった入所児童に対して、アセスメントに基づく支援の展開を模索している。アタッチメントに課題をもち、書字等に困難がある児童の事例では、これまで施設が培ってきた集団生活の枠組みを生かしながら、認知行動療法の要素を取り入れ、担当職員との信頼関係の構築を図るための個別の時間を設定する取り組みを行った。また、他の児童への支援を優遇と捉え不満をもつ児童が多いため、十分に説明をし、理解を求め、個別的支援を他の児童がどう受け止めるかも検討した。施設職員には、アセスメントに基づく個別的な事情を考慮しつつ、様々な児童が共に生活できる環境を整える力も求められており、個々の職員の力量に依存しすぎず、組織全体としての支援の質を上げる必要がある。
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