日本テスト学会誌
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15 巻, 1 号
日本テスト学会誌
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
一般研究論文
  • 分寺 杏介
    2019 年15 巻1 号 p. 1-20
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/18
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では,適応型テストにおける項目選択アルゴリズムにおける特性値の推定精度および項目プール内の項目の出題回数のバランスについて,一定の制限時間がある条件下にて比較検討を行った。シミュレーションの結果,(1) 解答時間の期待値を用いて項目情報量を補正するアルゴリズムで特性値推定の精度・項目の出題回数のバランスの両側面が向上すること,(2) 項目識別力と解答にかかる時間に正の相関がある場合には,特に項目情報量ベースで出題を決定するアルゴリズムでは平均解答数が減少すること,(3) そのような状況下ではOverlap Rate の上昇を抑える手法の方が高い精度で特性値推定が可能であること,(4) RMSE とテスト情報量ではアルゴリズム間の優劣関係がわずかに異なること,などが明らかになった。

  • 山口 一大
    2019 年15 巻1 号 p. 21-44
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/18
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では,診断分類モデルのうち最も基本的なDINA モデルに注目し,パラメタ推定アルゴリズムを容易に導出するための再定式化を行った。具体的には,アトリビュート習得パタンを潜在クラスとみなした定式化を行い,個々人のアトリビュート習得パタンを指し示す潜在インディケータ変数を導入した。この潜在インディケータ変数を明示的に導入することにより,最尤推定値およびMAP 推定値を得るためのEM アルゴリズム,Gibbs サンプリングアルゴリズムを容易に導出できることを示した。さらに,最尤推定量の標準誤差を推定する汎用的な数値計算方法を利用できることも示した。シミュレーション研究では,最尤推定値を得るためのEM アルゴリズムに注目し,本研究で導出したアルゴリズムが真値を復元でき,パラメタの標準誤差の推定値も妥当であることが確認された。実データ解析では,本研究で導出したEM アルゴリズムとパラメタの標準誤差の推定値が先行研究で示された方法と等しい値を示すことが示された。

  • 藤田 和也, 岡田 謙介
    2019 年15 巻1 号 p. 45-57
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/18
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では,非認知的スキルを測定するための反応時間を利用した項目反応モデルについて,これをコンピュータ適応型テスト(CAT)化する拡張を提案する。このために,非認知的スキルについての心理学的理論を反映した項目反応と反応時間のモデルの項目情報関数を利用し,回答者の項目反応と反応時間の両方の観測情報に基づいて,単位時間当たりの項目情報量を最大化するような項目選択・提示を行う。シミュレーション実験および実データ解析から,提案する反応時間を含めたCAT により,CAT を行わない場合よりも,推定精度が高く,少ない項目数で特性を推定可能であることが示された。また,シミュレーション実験から,単位時間当たりの項目情報量を最大化する基準は,項目への回答に要する時間のばらつきが大きい場合に有用であることが示された。コンピュータ化されたテストにおいて,提案手法に基づく項目選択を行うことにより,特性を精度および効率よく測定可能になると考えられる。

事例研究論文
  • ―削除・一般化・統合のプロセスに着目して―
    寺尾 尚大, 石井 秀宗
    2019 年15 巻1 号 p. 59-78
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/18
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究の目的は,記述式の英語文章要約問題を用いて,要約文における解答パターンを能力群別に検討することであった.認知心理学において提唱されている文章要約モデルを踏まえて,要約問題として1) 要約に必要のない情報を削除する過程に焦点を当てた問題(指定段落要約問題・削除),2) 文章中で並列されたことがらをより上位概念の語に置き換える過程に焦点を当てた問題(指定段落要約問題・一般化),3) 段落の内容を代表するような文(トピック・センテンス) を作成する過程に焦点を当てた問題(指定段落要約問題・統合),4) 文章全体要約問題の4 種類を作成した.大学生60 名に対して英語文章要約問題への解答を求めた後,研究協力者3 名に受検者の要約文の分類を求めた.トレースライン(解答率分析図) を描出した結果,能力低群の受検者が作成した要約文には,重要でない情報が混入している,具体的な記述をそのまま含めているなど,削除・一般化に関連した特徴が見られた.一方,能力中群の受検者の要約文には,筆者の意図から逸脱した表現を含めている,対比的に述べられている記述のうちの一方に重きを置いているなど,統合に関連した特徴が見られた.本研究から得られた知見により,受検者の誤答情報をテスト問題や採点基準の作成などに活用できる可能性が示唆された.

  • 内田 照久, 橋本 貴充
    2019 年15 巻1 号 p. 79-97
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/18
    ジャーナル オープンアクセス

    センター試験を利用した私立大学出願の特徴を分析した。はじめに,多数の私立大学に出願する出願者の年次推移を検討した。(1) 散発的点在期(H20~23 年度)は,特定地域への局在性は見られず,散発的に点在していた。(2) 被災地局在期(H24~27 年度)は,東日本大震災の被災地域で急増し,3 年程で沈静化した。 (3) 膨張的拡大期(H28~29 年度)は,首都圏で先行して急増し,他の地域にも拡大していた。この (3)の背景として,大規模私立大学での (a) 複数学部のセット受験時の検定料の低廉化,(b) インターネット出願による手続きの簡素化,の2 点が誘因とされた。一方で,センター試験で私立大学に出願する実人数は,全国総計では増加していたが,18 歳人口の減少傾向が著しい過半数の県では逆に減少しており,地域間での対照的な動向の違いが明らかになった。

  • ―東北大学のAO 入試を事例として―
    倉元 直樹, 宮本 友弘, 長濱 裕幸
    2019 年15 巻1 号 p. 99-119
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/18
    ジャーナル オープンアクセス

    高大接続改革の名の下に2021 年度大学入試に大きな制度改革が計画されている.特に影響が大きな変更点として,英語認定試験の活用,共通試験における記述式問題の採用が挙げられる.派生的に特定の大学に影響が及ぶ変更もある.東北大学では,記述式問題が共通試験に導入されるために共通試験の成績提供が遅れることから,AO入試Ⅲ期の見直しを迫られている.そこで,本研究では東北大学に志願者・合格者を多く輩出する高校を対象に「AO入試Ⅲ期の第1 次選考に共通テストの自己採点を利用する方式(自己採点利用方式)」「新共通テスト記述式問題への活用」等に関する質問紙調査を行った.その結果,自己採点利用方式への容認は6 割程度あった一方,記述式活用には厳しい意見が寄せられた.本調査の結果を一つの参考資料として,東北大学では 2021 年度入試に関する予告が行われた.

  • 川口 俊明, 松尾 剛, 礒部 年晃, 樋口 裕介
    2019 年15 巻1 号 p. 121-134
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/18
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿は,ある自治体(A 市と仮称する)が実施した算数・数学の学力調査に,項目反応理論(IRT)による等化(Equating)を適用し,その結果を潜在クラス成長分析(LCGA)で分析することを通して,小学4 年生から中学3 年生までの学力格差の変容を明らかにしている。主な知見は以下の通りである。第一に,LCGA による分析の結果,小学4 年生から中学3 年生までの学力の変化は,四つのグループに分類できた。グループ間の学力差は4 年生の時点から存在し,変化の軌跡が他のグループと交わることは無かった。第二に,グループによって所属する子どもの特徴が異なっており,学力が低いほど,就学援助を受けている割合が高かった。また,男子の学力は,上下に二極化している傾向が見られた。IRT を利用しない場合,学力格差の拡大は十分に観測できなかったため,IRT を利用しない学力格差研究は,格差を過小評価している可能性がある。

  • 菱山 完, 岡田 謙介
    2019 年15 巻1 号 p. 135-148
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/18
    ジャーナル オープンアクセス

    探究型教授法は学習を促進する効果があるとされ,特に理科の授業において近年行われるようになっている。しかしながら,探究型教授法の到達度に及ぼす効果についての知見は必ずしも一貫しておらず,効果的であるとする結果もあれば,そうではないとする結果もある。本研究では,OECD 生徒の学習到達度調査 (PISA) 2015 年版の我が国のデータを用い,一般化傾向スコアを用いた分析によって,探究型教授法が理科の到達度に及ぼす因果効果を検討した。PISAの質問項目から,生徒が受けた探究型教授法のレベルを5 段階に分類し,これを処遇変数とした。そして,38 個の共変量を用いた多項ロジスティック回帰によって一般化傾向スコアを推定した。その後,逆確率重み付け推定量を用いて各レベルの理科の到達度の周辺期待値の推定を行った。結果として,探究型教授法を中程度に受けた群において到達度が最も高くなり,それ以上では逆に到達度が低下した。この知見は前回調査時の先行研究とも概ね一致するものである。探究型教授法の適度な取り入れは到達度に対して正の因果効果を与えるものの,過度に行うと逆に負の因果効果を持ってしまう可能性がある。

  • ―大学入試センター試験問題の数学既出問題を活用して―
    河﨑 美保, 白水 始, 益川 弘如
    2019 年15 巻1 号 p. 149-167
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/08/18
    ジャーナル オープンアクセス

    大学入試センター試験の穴埋め式の問題について生徒がいかに思考し解決しているかを明らかにするために,センター試験の数学問題2題を題材として,17名の高校生を対象に思考発話法を用いた認知実験を行った.設問の解き方について,14名の生徒が設問順に解答する行動を取った.解決方略について,小問間の関係から示唆される有効な解決方略に気づいた生徒は2名のみであり,小問構成から意図された解決の道筋を掴み生かそうとする傾向はほとんどみられなかった.解答欄の形式を手掛かりにして,空欄に合うように答えを自発的に再考した生徒は5名いたが,そのうち2名が理解の伴わない修正をした.こうした特徴は調査対象問題の正答数上位の生徒にも見られた.センター試験の数学における穴埋め式問題は,小問による誘導に沿って順に答えていくという数学的問題解決が引き出されやすく,問題全体を見渡して小問間の関係の有無や主従を見極めたり,ある小問の解決を別観点から位置づけ直したりといった数学的問題解決は起こりにくいことが示唆された.本研究の知見は,センター試験数学の出題意図と受験者の問題解決過程の対応に関して広く関係者に再考を促す資料となりうる.

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