日本テスト学会誌
Online ISSN : 2433-7447
Print ISSN : 1880-9618
17 巻, 1 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
一般研究論文
  • 菊地 賢一, 中畝 菜穂子
    2021 年17 巻1 号 p. 1-7
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/01
    ジャーナル フリー

    近年、大学入試において選択科目間の得点調整の方法として、多くの大学で中央値補正法が採用されている。しかしながら、その性質について、テスト理論的な観点からの考察はほとんど行われていない。そこで、中央値補正法による得点調整が、選択科目間の平均と標準偏差の違いにより、どのような調整結果を生じさせるのか考察した。その結果、テスト得点が正規分布をする場合、中央値補正法では、概して、元の得点分布の平均が高く標準偏差が大きい科目が、能力上位者にとって有利となるように得点調整されることが分かった。

    本来、得点調整は、このような不公平を解消するために行われるべきものである。一方、中央値補正法には、得点調整後も、0 点は0 点、満点は満点のまま変わらず、中央値さえ求まれば簡単に計算可能であるという利点もある。導入する際には、利点と欠点を考えた上で検討する必要がある。

  • 野口 裕之, 大隅 敦子, 熊谷 龍一, 島田 めぐみ
    2021 年17 巻1 号 p. 9-23
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/01
    ジャーナル フリー

    本研究ではCEFR を日本語教育に適用する可能性について,尺度構成理論面から検討した。具体的には,ⅰ) CEFRが設定する「聞く」,「読む」,「話す」,「書く」,「やりとり」の各言語活動の例示的言語能力記述文を基本に,学習者が具体的な言語活動を日本語で「できる」程度を自己評価して4段階評定尺度に回答する形式の調査票を開発し,ⅱ)海外および国内で日本語学習者調査を実施した。ⅲ)この調査データを基に言語能力記述文を段階応答モデルによりIRT 尺度化した上で,言語活動毎に言語能力記述文の困難度順を元のCEFR と比較した。その結果,CEFR を日本語教育の場で活用するには,「やりとり」を中心に言語能力記述文に関してレベルを変更する,日本語の独自性を反映するものを加える,欧州と日本の社会文化的な違いに配慮する,という調整や補足が必要であることが明らかになった。

事例研究論文
  • ―東京大学入学試験の国語問題を活用して―
    益川 弘如, 白水 始, 齊藤 萌木, 飯窪 真也, 天野 拓也
    2021 年17 巻1 号 p. 25-44
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/01
    ジャーナル フリー

    一つの文章を複数の要素に解体・再構成して全体を捉える「積極的読み」は大学生活で必須の認知活動だが,その難しさゆえに大学入試で問われても入学志望生はテストワイズネスを利用した浅い処理で対処しがちである.本研究は,解決過程の制御と記録というCBT の利点を生かし,積極的読みを求める典型としての東大入試国語問題を対象に,問題文全体の読解・要素抽出・関連付けを促すCBT を開発,統合的課題解決に及ぼす効果を検証した.この「改変版」と入試問題をCBT に移し替えた「従来版」を用意し,積極的読みの経験が異なる二層の参加者計79 名で実験を行ったところ,読解経験の少ない中堅大学生では従来版の統合課題成績が改変版を上回り,進学校生ではそれが逆転する有意な交互作用が得られた.設問解答とログ分析から,同程度の成績でも中堅大学生の従来版では傍線部付近の書き写し,進学校生の改変版では自らの言葉による再構成が把握でき,CBT の読解支援・評価両面の可能性がうかがえた.

  • ―認知診断モデルのための英語の空所補充問題の作成―
    福島 健太郎, 内田 奈緒, 岡田 謙介
    2021 年17 巻1 号 p. 45-59
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/01
    ジャーナル フリー

    テスト解答データから解答者の学習要素の修得状態に関する情報を引き出す方法として,認知診断モデル(Cognitive Diagnostic Models, CDM)が注目されている.特に,多枝選択型のCDMは誤答時の情報も有効活用できると考えられ,実際にいくつかのモデルが提案されてきた.一方で,多枝選択型CDM をテストへ応用するためには,項目の各選択枝に対して,要求される学習要素を規定したQ行列を事前に設定する必要がある.その作成コストの問題と公開データの欠如から,先行研究でも数値シミュレーション研究にとどまっている例が多く,テスト開発にあたっての実証分析上の知見は乏しいのが現状である.そこで本研究では,Q 行列を付与した英語の多枝選択形式のテスト開発を行い,収集した実データに対してCDM を適用して,どのような診断結果が得られるのかを調べた.結果として,モデルがデータに対する一定の予測力を持つことが確認されたものの,今回検討した倹約的なモデルでは多枝選択形式特有の解答行動を十分反映できていない可能性が示され,さらなるモデル開発への示唆が得られた.

  • -日本,中国,韓国の共通試験を事例に-
    南 紅玉
    2021 年17 巻1 号 p. 61-74
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/01
    ジャーナル フリー

    2020年,大学入試の変革期を迎えている日本,中国,韓国においては,大学入試改革の遂行にCOVID-19対策という新たな課題が加わる事態となった。本研究では,日本,中国,韓国において,大学入試,とくに共通試験において,どのようなCOVID-19対策が行われたかについて比較検討した。その結果,日本,中国,韓国はコロナ禍においても共通試験を実施または実施予定であった。中国は例年より1カ月延期して7月,韓国は2週間延期して12月に実施された。日本は当初の通り1月に実施される予定だが,日程の追加がなされた。共通試験の実施に向けて,各国ではCOVID-19防止対策を講じているが,国の感染状況によりその対策に違いがみられた。こうした異同の背景について,「公平性の確保」と「適切な能力の判定」という観点から考察した。

展望論文
  • ―日本の大学入試対策用の英語教材を分析対象として―
    馬場 正太郎
    2021 年17 巻1 号 p. 75-93
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/01
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,ハイステイクス・テスト対策で使用される過去問を定義づけ,過去問に関する議論で生じていた意見の対立の原因を検討することである.日本の大学入試対策用の英語教材40 種類を収録内容別に分類した結果,過去問は4 通りの定義が可能であることが示された.すなわち,(1)過去の大学入試で出題された試験問題,(2)過去の大学入試で出題された試験問題と,それに対応する解答解説,出題傾向の分析が,大学別に収録されている教材(大学別過去問題集),(3)過去の大学入試で出題された試験問題と,それに対応する解答解説,出題傾向の分析が,大学・科目別に収録されている教材(大学・科目別過去問題集),(4)過去の大学入試で出題された試験問題と,それに対応する解答解説,出題傾向の分析が,複数の大学分,科目別に収録されている教材(科目別過去問題集),の4 つである.以上の定義を踏まえ,先行研究で過去問に関する評価に不一致が生じていた原因を,公平性と妥当性の観点から考察し,今後の過去問研究の展望を論じた.

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