本稿では、古典的テスト理論と項目反応理論の両方の観点から、測定の標準誤差を考慮したテスト得点の段階表示の方法に関して考察した。古典的テスト理論による方法としては、テスト得点の真値の信頼区間の幅を特定の小さな値(例えば1 または2)にするような段階表示の方法を提案し、段階数の目安を、テストの信頼性係数、信頼区間の信頼係数、ならびに信頼区間の幅の関数として導いた。項目反応理論を用いた方法としては、平均的測定の標準誤差を数値的に計算することにより、古典的な方法と同様の形で、重み付き合計点ならびに特性値 θ の尺度で示される得点の段階数の目安が得られることを示した。また、真値や特性値に依存する測定の標準誤差の値を平滑化する方法を提案し、その方法を用いた際にも段階数の目安が得られることを示した。
センター試験を受験して 国公立大学に出願した高校新卒者について,5 教科の合計得点に対する大学の合格率を分析した。その結果,得点率が中上位の層では,得点が高くなっても合格率が上がらない,という「合格率の停滞現象」が見出された。その原因の検討のため,大学の学部ごとに合格者の成績から難易度を算出し,各募集単位を高・中・低の3 つのグループに分割した。このグループ別の分析では合格率の停滞は見られず,得点が高くなると合格率は滑らかに上昇していた。ここで合格率の逆数は競争倍率なので,合格率が停滞している範囲では,「競走倍率の平準化」がなされていることになる。大学出願時には,センター試験の自己採点の結果 と,大学・学部の難易度を照らし合わせることで,出願先がシフトする。それによって,競争倍率の平準化が促進される。したがって,受験者の私的な自己採点結果の利用は,マクロに捉えた場合には,受験者を分散配置する社会的なフィルタとしても機能している可能性がある 。
本研究の目的は,小学校 6 年間の縦断データを用いて学力の発達的様相を分析することであった.ある私立小学校の児童 613 名(男子 275 名,女子 338 名)の 6 学年分の標準学力テスト(算数,国語)のデータを使用した.研究 1 では,潜在成長モデルによる分析を行った.その結果,モデルの適合度は良好でなく,小学校 6 年間の学力の変化には多様なパターンが混在することが示唆された.研究 2 では,山田 (1990) の手法を応用し,小学校 6 年間の学力の変化パターンの分類を試みた.その結果,算数,国語ともに代表的なパターンを見出した.さらに,それらは, 6 年間あまり変動のないタイプ,低学年で変動の激しいタイプ,高学年で変動が激しいタイプの3つに分類された.これらは,従来から指摘されてきた,できる子とできない子が早期に分離,固定化する傾向や,小学校の中学年で学力の停滞を示す児童が多く出現する現象とも符合した.
多肢選択式の問題について生徒がいかに思考し解決しているかを明らかにするために, 大学入試センター試験の国語問題2題を題材として,18 名の高校生を対象に思考発話法を用いた認知実験を行った.問題文の読み方や設問の解き方について,89%の生徒 が設問順に問題文の一部を読んでは解答する行動を取った.解決方略については,選択肢の選択方略 の多くは消去法で, 設問全体の54%が内容理解を踏まえた深い処理であり,15%が単語レベルの対応付け等の浅い処理だった.成績上位の生徒は,内容理解を踏まえた深い処理をして解答した設問数が多かったが,出題者が望む問題文全体の内容理解を踏まえた深い処理までは起きていなかった.センター試験の国語における多肢選択式問題は,設問単位で問題文を読解し,各設問の解決結果を相互に結び付けない浅い処理水準の読解と問題解決を助長している可能性がある.テストワイズネスも含めた解決過程の認知的解明は,高大接続改革に 貴重な資料を提供するとの示唆を得た.
ライティング評価は多くの外国語能力試験に取り入れられていると同時に,作文の教育現場においても重要な役割を果たしている。評価者の母語がライティング評価に影響を与える要因として挙げられ,母語話者教師と非母語話者教師による評価の違いが多く研究されてきた。しかし,日本語教育の分野においては,母語話者教師と非母語話者教師による評価を比較する研究はまだない。本稿は,外国語教育における先行研究を概観し,日本語ライティング評価研究の展望について論じることを目的とする。概観するにあたり,先行研究で明らかになった母語話者教師と非母語話者教師による評価の厳しさの違いと評価観点の違いに焦点を当てた。さらに,先行研究の問題点を踏まえ,今後は,評価者の評価経験と言語能力を統制した上で,日本語の作文に対する母語話者教師と非母語話者教師の評価の相違を,発話思考法等の手法を取り入れて調査を行う必要があると考えられる。
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