本稿での検討内容は次のようにまとめることができよう.
1.「財務諸表が一般に公正妥当と認められる会計原則を遵守して企業の財政状態と経営成績について適正に表示している」という監査の保証は,企業の状況について適正な情報が提供されていることを内容としている。企業内容についての適正性が重視される以上,会計原則が妥当しない状況(つまり,ゴーイング・コンサーンの仮定が措定できない,ないし重大な疑問が生じている状況)において監査人の果たす役割は重大である。
2.他方,監査の保証内容を伝達する局面において,その伝達行為そのものの有効性を確保することが看過されるべきではない。つまり,監査報告書それ自体についての説明機能の意義を改めて認識すべきである。
3.ゴーイング・コンサーン問題は,少なくともこの説明機能の枠内の問題として取り扱う必要がある。監査報告書の内容自体についてその読者の誤解を招かないためにである。
4.諸外国の監査基準の現状と動向をみるかぎり,ゴーイング・コンサーン問題を監査上積極的に扱っている状況にある。国際的な調和化の観点から,わが国がこの問題に対して消極的に対応する状況にはないのではないか。
5.ドイツの事例では,件数自体きわめて少ないものの,監査の結果に対する誤解を防止するために多様な補足説明が行われており,その中ではゴーイング・コンサーン問題を扱った事例が多数存在しており,監査人の利害関係者に対する警告機能が現実に発揮されている状況である。また,その前提条件として,監査基準の枠内にゴーイング・コンサーン問題に対する監査上の取扱いの規定が盛り込まれている。ゴーイング・コンサーン問題をめぐる議論に対して有意な資料足りうると考えられる。
6.ゴーイング・コンサーン問題の積極的な取扱いに対する種々の批判は,その根拠が思慮可能であっても実証されるには至っていない。
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