日本監査役協会が公表した『監査役等と内部監査部門との連携について』と題する報告書において,内部監査人を実質的に監査役の補助使用人とする提言,とくに会社が内部監査人を監査役の補助使用人とする決定をしていない場合であっても,監査役が内部監査人に対して報告徴求権や財産調査権の行使の名のもとに調査を指揮・命令できるようにすることが含まれていることは不適切であると思われる。すなわち,この提言に従うと内部監査人が監査役の実施すべき監査を代行することになりかねず,監査役に与えられた報告請求・調査権の濫用が懸念される。
また,内部監査は内部統制システムの一環であり,その方針の決定については取締役会の専決事項である。監査役は,取締役の職務の遂行状況の監査を行うのであって,内部統制システムの整備・運用状況は監査の対象である。監査役補助使用人として内部監査人を指揮・命令して使用している間,当該内部監査人は内部監査業務を行うことは適切ではなく,一般的にはその間執行側から独立させ,その指揮・命令系統から外れる。このため,当該内部監査人は内部監査業務を実施できず,したがって内部統制システムの整備・運用状況は改善される機会を失う。これは,監査役が取締役の職務の執行を妨げているように見えることから,内部監査人が監査役補助使用人を兼任することは不適切と思われる。
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