現代監査
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2017 巻, 27 号
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  • 堀江 正之
    2017 年 2017 巻 27 号 p. 3-12
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/07/28
    ジャーナル フリー

    「監査規制」の問題に接近しようとする際,単に監査事務所に対する規制と狭く理解するのではなく,会社,投資者,さらには監視・監督機関との関係を含めて考えるべきである。また,規制をもって,単なる「仕組み」として「他律的・受動的」にとらえるのではなく,その「働き」に着目して「自律的・能動的」な側面こそ重視する必要がある。

    そこで,監査事務所のガバナンス・コードを取り上げてみたとき,監査事務所のガバナンスのあり方が品質管理に影響を与え,それがさらに監査手続に影響を及ぼす点に着目し,あわせて監査事務所の自律的で能動的な取組みこそ重視すべきである。また,ITの活用による異常性の早期発見はもとより,監査事務所の特色を出せる自律的で能動的な取組みのためにも,ITを活用した監査への積極的な取組みが欠かせない。

  • 髙田 知実
    2017 年 2017 巻 27 号 p. 13-20
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/08/08
    ジャーナル フリー

    本稿では,コーポレート・ガバナンスと財務報告の品質との関係を考察する。本稿での考察は,株主と役員の属性がコーポレート・ガバナンスの有効性に影響を及ぼし,結果として財務報告の品質を左右するという関係を基礎とする。具体的には,まず規制当局等によって公表された資料や先行研究での議論をもとに,株主と役員に関する個別の属性(機関投資家の持ち株比率・経営者の持ち株比率・役員の独立性・役員の専門性)がコーポレート・ガバナンスの有効性に影響を及ぼすのかというロジックを簡単に検討する。そして,その関係のもとで,財務報告の品質に及ぼす影響を分析した先行研究をレビューし,全体としての傾向を要約するという形で議論を進める。本稿での考察を通じて,一般に望ましいといわれるコーポレート・ガバナンスの属性が,財務報告の品質に対して,実際にはどういった影響を有しているのかについて,平均的な傾向を捉えることができる。

  • 〜内部監査の立場から〜
    箱田 順哉
    2017 年 2017 巻 27 号 p. 21-30
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/08/08
    ジャーナル フリー

    公認会計士による外部監査及び監査役等(監査役,監査等委員,監査委員)の監査と同様に,内部監査においても不正対応は喫緊の課題である。

    内部監査は,企業活動の現場において日常的に監査活動を行っていることから,不正を起こしうる統制環境等の内部統制の不備の発見や,不正抑制のための内部統制の改善へ向けた提言をおこなう重要な立場にある。「3つのディフェンスライン」において内部監査が「最後の砦」と言われる所以である。

    実効性のある不正対応には,会社法上のいかなる機関設計においても,立場の違いを弁えた三様監査と当局検査を含めた四様監査の連携が重要である。

    三様監査の中で,外部監査と監査役等の監査については法定されているが,内部監査は法定されていない。欧米と異なり,位置づけが曖昧なわが国の内部監査を制度化する必要がある。

    制度化には,ハードロー,ソフトロー,その組み合わせなど,様々な方法を考えることができるが,わが国では,コーポレートガバナンス・コードの原則に内部監査の維持を加えることが有効と考える。 内部監査の制度化と同時に,期待に応える業務を行うために,内部監査人自身も内部監査機能充実へ向けた努力が必要である。

  • 山田 善隆
    2017 年 2017 巻 27 号 p. 31-39
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/08/10
    ジャーナル フリー

    近年の企業のコンプライアンスに対する社会的期待の高まりは,財務諸表に波及するビジネスリスクを多様化し,監査人が識別・対応すべきリスクのすそ野を広げている。コーポレートガバナンスの視点からは財務諸表監査が経営者へのけん制として機能することも副次的役割として期待されるが,経営者不正への対応は財務諸表監査の本来的役割を果たすためにも重要となる。

    現行の監査基準の下でも,経営者不正に対応するための特別な配慮が求められているが,取引の電子化やAI技術などの近年のIT環境の変化は監査人の不正検知力を高めるとともに,監査技法を試査から精査へと回帰させる可能性を有している。

    一方,監査の透明化も,監査報告書の長文化と監査事務所の品質管理システムの開示という2つのレベルで進行しつつある。これらの変化は,監査事務所の品質モニタリングの主軸を監督当局による検査から市場メカニズムへ変容させる潜在性を有している。

  • ─監査役監査の立場から─
    岡田 譲治
    2017 年 2017 巻 27 号 p. 40-46
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/08/10
    ジャーナル フリー

    2015年は会社法の改正,コーポレートガバナンス・コードの施行と相次ぎ,日本のコーポレートガバナンス元年とも言うべき年であった。

    日本企業が取るガバナンス体制は,監査役会設置会社,指名委員会等設置会社,監査等委員会設置会社という異なる形態の併存が認められているが,改正会社法で導入されたガバナンス体制もコーポレートガバナンス・コードも,いずれも欧米のガバナンススタイルをそのまま輸入したものであり,これに魂を入れるのはこれからである。形を入れてこと足れりとせず,本質的な問題に正面から対応しないと,導入した制度が形骸化することにもなりかねないと危惧する。

    ここでは企業不正防止という監査役の使命を踏まえ,企業不正の類型と夫々に対応する監査役の役割を概説した上で,現代の監査役に求められる役割及び資質について論じたい。

  • 兼田 克幸
    2017 年 2017 巻 27 号 p. 47-57
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/08/10
    ジャーナル フリー

    金融商品取引法上の内部統制報告制度の導入(平成20年4月1日以後開始する事業年度から適用),監査等委員会設置会社制度の創設や社外取締役の設置等に関する会社法の改正(平成27年5月から施行),コーポレートガバナンス・コードの策定(平成27年6月から適用)などを契機として,我が国上場会社のガバナンス構造に大きな変化が生じてきている。こうした中,内部監査の重要性について社会的な認識が高まってきている。しかしながら,任意監査である内部監査の法制度面での位置付けは不明確である。上場会社の内部監査の水準を高めるためには,会社法,コーポレートガバナンス・コード及び金融商品取引法について,三位一体となった見直し措置が講じられることが求められる。

  • 柿﨑 環
    2017 年 2017 巻 27 号 p. 58-67
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/08/11
    ジャーナル フリー

    東証規則に導入されたコーポレートガバナンス・コードでは,取締役会のモニタリング機能の強化が掲げられ,少なくとも2名以上の独立社外取締役の選任が上場会社に求められている。しかし,独立社外取締役が取締役会において実効的な監督機能を果たすには,内部監査部門からの提供が期待される情報が,公正・客観的であることが求められる。そのためには,少なくとも内部監査の独立性が確保されている必要がある。内部監査の独立性については,監査対象および経営者からの独立性が問題となるが,とくに経営者からの独立性の確保には,取締役会に対する内部監査部門の直接の報告ラインの整備の重要性がグローバルな視点からも指摘されている。しかし,取締役会の社外取締役の構成比率が諸外国と比べて低い我が国では,単に取締役会への直接の報告ラインを整備するだけでは不十分であり,内部監査部門の人事・監査計画・予算等を取締役会の決議事項とするなどの工夫が必要である。歴史的にみても戦後商法の改正から平成26年会社法改正に至るまで法定監査の変容は,内部監査と法定監査の連携の在り方を変化させている。

  • ─相互評価による緊張感ある連携の事例─
    蓮沼 利建
    2017 年 2017 巻 27 号 p. 68-79
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/08/11
    ジャーナル フリー

    不正防止のための監査全般の品質向上と効率化がますます重要なものになってきており,そのために三様監査の連携強化が必要である。本稿は株式会社日立製作所における「三様監査の連携の実例」に基づく概要を説明するもので,「緊張感ある連携」が重要であり,「連携」から「相互牽制と相互評価」に一歩踏込み,責任をもって同等の立場で相互に評価している。具体的には,内部統制システムに関する基本方針に基づく監査委員会監査と内部監査でのガバナンス・プロセスの評価,厳格な経理業務内部監査による会計監査人への牽制,会計監査人の識別された受査側のリスクと三様監査相互の監査結果評価等に関して,株式会社日立製作所における推進中の実例,および検討している改善方針やそのための具体的施策案について簡潔に解説するものである。今後,日本企業としても,三様監査連携が内部統制面,リスクマネジメント面等における重要な施策として,監査・監督機能の改革に貢献することを期待したい。

  •  ─「任期満了」企業とその他の理由の企業との比較をつうじて─
    佐久間 義浩
    2017 年 2017 巻 27 号 p. 80-88
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/08/14
    ジャーナル フリー

    監査人の交代に関する情報は,株主や投資家にとって極めて重要な情報である。しかし,開示された交代理由の多くは,「任期満了」と記載されるのみである。このような監査人の交代理由に「任期満了」と開示する企業には,どういった傾向があるのであろうか。あるいは,監査人の交代に関する理由を開示する企業との違いはどこにあるのであろうか。

    そこで,本稿では,監査人の交代時に「任期満了」と理由を開示している企業に焦点をあて,交代理由を明示している企業との比較を通じて,「任期満了」と開示する企業の特徴を明らかにするとともに,「任期満了」と開示する企業における監査人の交代理由の要因を検証した。

    その結果,監査人の交代理由を「任期満了」とする企業の特徴は,交代理由を明示している企業と比べて,交代後の監査報酬が減少し,前年度に損失を計上している割合が低い企業であった。

    また「任期満了」を理由として開示する監査人の交代の要因として,監査報酬の減額や大規模監査法人からその他の規模の監査事務所への交代が行われていることを明らかにした。

  • 田村 威文, 町田 祥弘
    2017 年 2017 巻 27 号 p. 89-96
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/08/14
    ジャーナル フリー

    監査事務所の強制的交代制度は,EUでは現実の施策となっており,わが国でも導入の可否が今後判断される。本稿では,監査事務所の強制的交代制度の導入がもたらす帰結を説明できるモデルを,経営者と監査人をプレーヤーとするゲームとして設定する。プレーヤーの利得は固定的ではない。継続監査期間の長さによって「経営者の初期コスト」「監査人の初期コスト」「監査人の懐疑心維持コスト」等は変わるため,その変化を利得表に組み込む。重要な虚偽表示を見逃す確率は「経営者が利益操作を行う確率」に「経営者が利益操作を行っていることを前提として,監査人がそれを見逃す確率」を乗じて算定されるが,当該確率をゲームの均衡としてとらえ,均衡の推移に着目する。重要な虚偽表示の見逃し率という観点からは,自主的交代より強制的交代の方が望ましいという状況が起こりうる。

  • 〜ISRS4410,SSARS No.21との比較を中心として〜
    松﨑 堅太朗
    2017 年 2017 巻 27 号 p. 99-110
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/08/15
    ジャーナル フリー

    調整(コンピレーション)業務は非保証業務であるが,会計士が財務諸表に一定の信頼性を付与する業務として,諸外国では主として中小企業を対象に広く実施されている。わが国には調整業務に関する基準は存在しないが,2012年3月にIFACより,ISRS4410(調整業務に関する基準書)が公表され,今後の国内基準化も期待される。

    また,AICPAは2014年10月に,調整業務を含む最新の業務基準書,SSARS No.21を公表したが,ISRS4410とSSARSにおける調整業務は,会計士の独立性の違いにより,報告書(レポーティング)の記載内容が異なっている。

    一方,わが国では,調整業務に類似する業務として,会計参与報告,税理士による書面添付制度,中小会計要領(中小指針)のチェックリストの添付といった実務がすでに定着しているが,国際的な調和は図られていない。このような事実をふまえ,今後,わが国の中小企業の属性に配慮した,「中小企業の財務諸表作成証明制度」といった,新たな調整業務に関する基準作成が望まれる。

  • 宮本 京子
    2017 年 2017 巻 27 号 p. 111-122
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/08/15
    ジャーナル フリー

    持続可能な社会への移行が進む中で,企業活動の全体像を表現するためには,財務諸表,それ以外の財務情報,CSR情報を含む非財務情報を同一の媒体で報告する必要性が生じており,その主要な報告手段である財務報告の制度的なあり方は近年著しく変容している。しかし,CSR 情報のような非財務情報を含む財務報告の信頼性確保はどのようにあるべきなのか。非財務情報の開示範囲が拡大する状況で,財務報告全体の信頼性を同時に確保できるような制度的な監査・保証業務の枠組み作りが必要になっている。本稿では,EU会計指令(2013/34/EU)・非財務報告指令(2014/95/EU),ISA 720,フランス商法から制度の現状を分析し,CSR情報を含む財務報告の信頼性を確保する制度的な枠組みについて,フランスの実務から得られた知見を手がかりに,今後の方向性を考察する。

  • 髙田 知実
    2017 年 2017 巻 27 号 p. 123-133
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/08/18
    ジャーナル フリー

    本稿では,PCAOB等によるAQIに関する議論に貢献することを目的として,クライアントのビジネス・リスクと監査報酬の関係を分析する。リスクの高い企業ほどより多くの監査資源を費やす必要があり,必然的に監査報酬は上昇する。この関係について,ビジネス・リスクの測定時点と監査報酬の計測方法にバリエーションをもたせ,包括的に分析することが,本稿の目的である。Stanley[2011]に基づき分析モデルを構築し検証したところ,次の結果をえた。まず,監査報酬変化額の分析からは,①過去3年間の平均ビジネス・リスクが低い企業ほど当期に監査報酬が増加することがわかった。次に,監査報酬額の分析からは,②過去3年間のビジネス・リスクが高い企業ほど,当期の監査報酬が高くなることが判明した。これらの結果は,先行研究の結果とは必ずしも整合しておらず,監査の品質を定量的に捉えるという試みに対して,国ごとに異なる考案が必要であることを示唆している。

  • 堀古 秀徳
    2017 年 2017 巻 27 号 p. 134-142
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/08/18
    ジャーナル フリー

    財務諸表監査において,監査人には職業的懐疑心の保持および発揮が強く求められてきている。

    そのような状況にあって,どのような監査行動が職業的懐疑心を発揮した行動であるのかを監査人が理解しておくことは重要である。本稿では,監査における懐疑主義を監査人の懐疑的行動の規範として位置づけ,その内容を検討している。まず,監査人の懐疑心と監査における懐疑主義の違いおよび両者の関係を整理している。次に,監査における懐疑主義を検討するにあたって,哲学および科学哲学における懐疑主義の内容を検討している。そして,その検討結果を踏まえて,監査における懐疑主義について検討を試みている。結論として,監査における懐疑主義は,監査人に対して,監査における自らの過去および現在の認識,さらにはその認識の根拠に至るまで,常に問い直すことを要求する行動方針であると捉えている。

  • 岸 牧人
    2017 年 2017 巻 27 号 p. 143-154
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/08/19
    ジャーナル フリー

    監査意見形成過程において,監査人は監査証拠の信頼性を評価する。では,監査証拠の信頼性はいかにして評価されるのか。一般的には,入手源泉(内部証拠か外部証拠か)や,形態(文書的証拠か口頭証拠か)等が評価基準として認知されているが,収集した監査証拠の評価活動を監査人の思考に着目して考えた場合には,監査証拠の信頼性を判断するためのさらなる証拠に関する考察が必要となる。本稿では,このような証拠の証拠をメタ証拠として認識した上で,財務諸表監査のプロセス,特に現行のリスク・アプローチにおけるメタ証拠の機能について試論する。

    また,Mautz and Sharafによる第3類型の証拠,すなわち合理的論証のうち帰納的論証および帰納的推論に包摂されるメタ証拠の評価が,監査人が得る保証の水準の決定要因として位置づけられることを例示し,監査証拠の信頼性評価におけるメタ証拠の作用と保証水準との関係について論じる。

  • ─監査対象業務の視点からの分析─
    島田 裕次
    2017 年 2017 巻 27 号 p. 155-165
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/08/29
    ジャーナル フリー

    内部監査では,企業等における様々な領域(業務)を対象にして監査が実施されているが,企業等が実施している監査対象領域数や監査対象領域の相関関係に関する分析は殆ど行なわれていないのが現状である。本研究では,一般社団法人日本内部監査協会の内部監査実施状況調査で公表されているデータに基づいて,わが国の内部監査における監査対象領域(業務)の傾向を分析した。内部監査の対象業務は,1社あたり平均6.2業務で,3〜6業務を対象として監査を実施している企業等が多く,ゴム製品,石油・石炭・鉱業は,監査対象業務数が多いことが分かった。

    また,購買業務の監査と棚卸資産管理業務及び固定資産管理業務の監査,経理業務の監査と固定資産管理業務の監査,棚卸資産管理業務の監査と固定資産管理業務の監査にかなり相関があることが分かった。この結果が企業等における監査対象業務の選定の参考になることを期待している。

  • ─経営者と内部監査人とのコミュニケーションを中心にして─
    中村 映美
    2017 年 2017 巻 27 号 p. 166-175
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/08/31
    ジャーナル フリー

    近年,内部監査の役割が,第3のディフェンスラインとして位置付けられて注目されているが,この第3のディフェンスラインとしての位置付けについては,明らかにされていない。また,内部監査結果の報告先と監査結果に対する経営者の受容度に関する問題が提起されている。

    そこで,本稿では,内部監査部門長(CAE)の報告先の現状を確認し,それを踏まえて,ディフェンスライン・モデルにおける内部監査の第3のディフェンスラインとしての位置付けを明らかにする。次いで,第3のディフェンスラインとして,内部監査の実効性を高めるために,内部監査の組織化はどのようにあるべきなのかについて,経営者と内部監査人とのコミュニケーションの問題から検討し,内部監査によるガバナンス改善の課題を明らかにしたい。

  • ─株主代表訴訟における不提訴理由通知書等を参考にして─
    紺野 卓
    2017 年 2017 巻 27 号 p. 176-187
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/08/31
    ジャーナル フリー

    地方公共団体のステークホルダーである住民の目を,いかにして行政運営に役立てるか,その一つの鍵となるのが住民監査請求である。住民からの適正な監査請求は,行政のムダをなくし,効率的な組織運営に寄与すると考える。しかしながら,仮に適正な監査請求がなされたとしても,監査請求を受ける監査委員の対応が不適当である場合には,同請求は組織の改善等には役立たない。もしも監査請求に際して,監査委員の適当とはいえない対応が見られる場合には,監査委員には法的ペナルティーも検討されるべきである。本稿では,監査委員の法的責任追及の可能性について,これまでの議論を踏まえて概観するとともに,同責任を明確化する目的で会社法の規定を参考とする。特に会社法で規定する「不提訴理由通知書」は,株主からの請求に対して,株式会社の監査役に実効性を伴った監査を実施させる動機づけとして有効であり,併せてどのような監査が実施されたのかが明らかとなるため,ステークホルダーである株主にとって有用な資料となる。地方公共団体の監査委員の法的責任を明らかにするためにも,同通知書に相当する文書の,地方自治法における導入が強く望まれる。併せて,住民監査請求における監査請求期間の制限について,現行の1年から,民事規定も参考にして拡大すべきことを提言する。

  • 佐久間 義浩
    2017 年 2017 巻 27 号 p. 190-208
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2017/08/31
    ジャーナル フリー
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