現代監査
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2022 巻, 32 号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
  • 伊藤 公一
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 2022 巻 32 号 p. 65-75
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2023/09/02
    ジャーナル フリー

    2021年4月に公表されたEER保証業務に係る実務指針は,ISAE3000という強制力を持つ基準の強制力を持たない適用指針としての性格を有しており,EER情報の特性から生じる保証業務の困難さに対処するための指針である。非財務情報開示に係るフレークワークの多くは発展途上であり,多くの主題情報は任意開示であるため,現時点でのそれらの合理的保証は困難であると考えられる。またその役割から,非財務情報については,ネガティブ情報の開示と保証が重要になると思われる。EER情報開示の一般化は,企業の開示情報の投資意思決定有用性を促進する文脈上で情報需要の変化に対応する形をとっており,保証業務実施者には,企業の標榜する社会的使命が果たされていることを保障するという新たな役割を果たすことが要求されている。

  • ─南アフリカにおける展開─
    岡野 泰樹
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 2022 巻 32 号 p. 101-112
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2023/09/02
    ジャーナル フリー

    本稿は,南アフリカにおける統合報告書の保証,とりわけ独立した保証の実態と特徴を,ヨハネスブルグ証券取引所の上場企業を対象に調査し,明らかにするものである。調査の結果,統合報告先進国として早くからその保証の重要性が認識されてきたにもかかわらず,南アフリカにおいて独立した外部保証を利用する企業の割合は高いとは言えないこと,そこで行われている保証は極めて限定的な範囲のものであることが明らかにされる。また,こうした状況の中で,内部監査を含む組織の内部主体による保証によって,統合報告書の信頼性を確保しようとする動きが見られることが明らかにされる。内部監査を中心に統合報告に係る内部統制・統合報告書の作成プロセスを整備していくことは,将来的により有用な独立した外部保証の実施につながる契機になるものと思われる。

  • 蟹江 章
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 2022 巻 32 号 p. 91-100
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2023/09/02
    ジャーナル フリー

    投資や企業経営の短期志向化を是正するために,進化した企業報告あるいは新たなコミュニケーション手段として統合報告書が提案された。統合報告書の信頼性を確保する責任は作成者が負い,その信頼性をどう評価するかは利用者自身の判断に委ねられる。統合報告書に含まれる中・長期の非財務ナラティブ情報の信頼性には時間という要素が影響し,情報がカバーする期間が長くなればなるほど不確実性の影響が大きくなり信頼性が低下する恐れがある。また,信頼性を検証するアシュアランス業務が禁止的なコストのために実施できなければ,統合報告書の信憑性を高めることが難しくなる。統合報告書に対するアシュアランスのあり方については,時間という要素の影響を十分に考慮しながら,財務情報とは異なる方法も含めて柔軟に検討する必要がある。

  • 関口 智和
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 2022 巻 32 号 p. 44-53
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2023/09/02
    ジャーナル フリー

    最近,企業報告や監査を取り巻く環境に大きな変化が生じている。これを踏まえ,監査について,個別の論点でなく,「将来の監査の在り方」という大きなテーマで議論される機会が増えている。また,監査実務において様々な変化が生じている。

    こうした動向を監査事務所に所属する実務家の観点から俯瞰すると,サステナビリティ課題の重要性が急速に高まっていることを踏まえ,財務情報と非財務情報が一体となった企業報告に対する監査・保証業務のあり方について模索されている点が特筆すべき動きと考えられる。また,不適切会計を受けて進められている監査制度改革の過程で,監査部門とアドバイザリー部門との関係性や不正への対応のあり方等について国際的な議論が進められている点が注目される。また,国内の実務でも,監基報720を踏まえた対応やテクノロジーの活用等について検討が進められており,これらが監査の変革につながっていくことが期待される。

  • 山本 健人
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 2022 巻 32 号 p. 152-164
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2023/09/02
    ジャーナル フリー

    本論文の目的は,監査人に対する株主の評価は監査事務所の規模によって異なるのか明らかにすることである。本論文では,監査人選任議案に対する議決権行使結果を監査人に対する株主の評価の代理変数として用い,その議案で後任の監査人とされている監査事務所の規模との関係についてアーカイバル・データを用いた実証分析を行った。その結果,大手監査事務所を後任の監査人とする監査人選任議案の方が,そうでないものよりも株主からの評価が高いことが明らかになった。また,この傾向は,大手監査事務所の評判失墜につながる行政処分が下された後の一定期間では消失しており,それ以外の期間に見られる現象であることも明らかになった。これらの結果は,株主が監査事務所の規模を考慮して監査人を評価していることや大手監査事務所を高く評価する傾向(大手志向)があること,さらに,その背後には大手監査事務所に対する評判の影響があることを示唆する。

  • 松尾 慎太郎
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 2022 巻 32 号 p. 139-151
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2023/09/02
    ジャーナル フリー

    本稿は,KAMの記載内容について「何を」「どのように」記載すべきかに関する認識が十分に共有されていないのではないだろうか,という問題意識のもと,論証モデルとして幅広い分野で採用されているToulminモデルによるKAMの分析調査を通じ,KAMの記載内容についての課題を明らかにすることを目的としている。我が国の早期適用事例において,「監査基準(裏づけB)」についての記載が観察されなかったことから,監査報告書の利用者は当該監査人の対応について十分かつ適切なものなのか判断できず,記載内容の理解可能性に関する課題が示唆された。一方で,少数ではあるが,「会計基準(裏づけB)」について明示する記載実務が観察され,KAM記載実務および分析枠組みにおけるToulminモデルの適用可能性が確認された。

  • 上妻 京子
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 2022 巻 32 号 p. 76-90
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2023/09/02
    ジャーナル フリー

    持続可能な社会へ移行中の現在,企業報告のあり方は著しく変容している。財務報告は,財務諸表とサステナビリティ報告を中心として構成されるようになり,とりわけ,EUでは基本的に法定監査人がその両方の保証を一元的に担うことが想定されている。EUは,サステナビリティ報告の開示および保証において世界を主導している。本稿では,サステナビリティ報告の合理的保証義務化に向けたEUの制度設計のあり方をデューディリジェンス規制の観点から考察したい。

  • 竹村 純也
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 2022 巻 32 号 p. 113-124
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2023/09/02
    ジャーナル フリー

    統合報告の保証業務は独占業務ではないため,保証業務の主体は公認会計士や監査法人に限定されない。これにより,ISAE3000に準拠していない保証業務が存在し,外部機関から品質が検討される機会もなく,業務報酬が開示される制度もないため,保証業務の実態がつかめない。

    我が国における保証報告書の現状調査でも,手続名が列挙されている状況のため,業務内容の透明性が図られていない。

    一方,我が国におけるKAMの早期適用事例では,監査プロセスの透明化が図られている事例が登場している。統合報告の保証業務においてもKAMと同様の報告がなされるならば,保証業務の利用者は統合報告の開示に関するガバナンスの状況を読み取れることがあり,また,重要な事項に実施された手続の理解も進む。その結果,統合報告の保証業務の透明化が図られると期待できる。たとえ制度で求められていなくとも,統合報告の保証報告書に「主要な検討事項」を積極的に記載する意義があると考える。

  • 弥永 真生
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 2022 巻 32 号 p. 29-43
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2023/09/02
    ジャーナル フリー

    非財務情報(記述情報)の重要性が高まり,法定開示における比率も高まっているが,日本においては,事業報告及びその附属明細書が監査役等の監査報告の対象とされていることを除くと,「その他の記載内容」として公認会計士監査において通読・検討の対象となりうるにとどまっている。しかし,いくつかの欧州諸国では独立保証業務提供者(法定監査を提供する者が兼ねていることが多い)による検証の対象とされ,EUの企業持続可能性報告指令案では法定監査人等による保証の対象とすることを求めることが提案されている。日本において,非財務情報の検証を監査人に要求することを検討する際の課題(公認会計士法の下では,監査法人は非財務情報の保証を業として行うことはできないと解されるし,公認会計士も法定監査と同時提供できないという問題を含む)を検討し,また,その場合の責任がどのようなものとなるのかを考察する。

  • ―日本における保証業務の実態分析―
    林 隆敏
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 2022 巻 32 号 p. 54-64
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2023/09/02
    ジャーナル フリー

    日本の上場会社が公表する非財務情報(およびその基礎にある企業活動)に対して実施されている保証業務の実態を把握し,研究課題を明らかにすることを目的として,TOPIX100構成銘柄発行会社を対象として非財務情報保証業務の実施状況を調査し,入手した94件の保証報告書を分析した。確認した非財務保証業務のほとんどは,国際会計士連盟の枠組みまたはそれに準じる枠組みに準拠したサステナビリティ情報(数値)の基準準拠性または算定の正確性等に関する保証業務であるが,業務実施者ごと,あるいは業務実施基準ごとに特徴的な保証業務も確認された。

    現行実務の分析結果に基づき,国際会計士連盟の枠組みとは大きく異なるAA1000保証基準に準拠したAA1000アカウンタビリティ原則への準拠性・適合性の保証業務との対比を通じて,記述情報を含む報告書全体の基準準拠性や表示の適正性等の保証に関する研究課題を提示した。

  • 紺野 卓
    2022 年 2022 巻 32 号 p. 167-180
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2023/09/02
    ジャーナル フリー
  • ─監査報酬及び監査コストに焦点をあてて─
    佐久間 義浩
    原稿種別: 研究論文
    2022 年 2022 巻 32 号 p. 125-138
    発行日: 2022/03/31
    公開日: 2023/09/02
    ジャーナル フリー

    本稿では,日本においてKAMの記載を求める規定の適用が開始された影響について,監査報酬及び監査コストの観点から分析を行っている。その結果,監査報酬及び監査コストに対しKAM導入による影響を認めることができなかった。しかし,KAMの個数と監査報酬及び監査コストとの関係を分析したところ,監査コストとの関係については証拠を得ることができなかったものの,監査報酬と正の有意な関係があることを指摘した。

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