日本中央競馬会競走馬総合研究所報告
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1985 巻, 22 号
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  • 1. 放牧地の面積がサラブレッド種育成馬の行動に及ぼす影響
    楠瀬 良, 畠山 弘, 久保 勝義, 木口 明信, 朝井 洋, 藤井 良和, 伊藤 克己
    1985 年 1985 巻 22 号 p. 1-7
    発行日: 1985/12/20
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    育成期の馬の至適放牧地面積の基準を得ることを目的とし, 0.2ha, 1.1ha, 1.5ha, 2.1ha, 4.2ha, のそれぞれ異なる面積の放牧区に13-19か月齢のサラブレッド種育成馬を3頭1群として放牧し, 放牧区内での個体間相互行動, 移動および心拍数を指標としてこれらの指標と放牧地面積との関連について解析した. 相互行動の生起地点および利用密度の高い部分は, 放牧区面積が1.5ha以上になると厩舎の付近に限局してくる傾向が認められた. 放牧区内の平均総移動量は1.1ha以上の放牧区において5000-7000mであり, 各放牧区間で統計的に有意な差は認められなかった. 駆歩による一回の移動に要する平均完歩数 (Y) と放牧区面積 (X; ha) との間にはY=X/(0.02+0.02X) の曲線に回帰しうる関係が認められた. この曲線は放牧区面積がほぼ2ha以上になると上昇傾向が鈍化してくるが, このことにより放牧区の面積は育成馬の駆歩による移動に制約を与えるが, 放牧区面積が2ha以上になると, この制約は弱まることを示していると考えられた.
  • 富岡 義雄, 長谷川 晃久, 兼子 樹広, 及川 正明
    1985 年 1985 巻 22 号 p. 8-15
    発行日: 1985/12/20
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    骨性状判定における超音波伝播速度 (UPV) 法の有用性を評価するため8頭のサラブレッド種から得られたMc III 11本とMt III 5本を用い, 形態学的および化学的に検討した. 本法により計測した超音波は骨幹部において緻密骨内層部の介在層板ならびに内基礎層板を伝播し, この部位の骨性状を反映していた. すなわち, UPVが高値を示した症例は骨髄腔が小さく, 介在層板や内基礎層板面積の占める比率が高く緻密性であるといえた. 一方, UPVが低値を示した症例では骨髄腔が大きく管腔ならびに吸収腔面積の占める比率が高値であり, 多孔性であるといえた. またUPV値は骨塩含量 (g/cm2), 骨中におけるカルシウムならびにリン含有量 (mg/100mg) と有意の正の相関を示した. これらのことから本法はサラブレッド種のMc IIIならびにMt III骨幹中央部内層部の性状をよく反映していると考えられた.
  • 長谷川 晃久, 益満 宏行, 上田 八尋, 富岡 義雄
    1985 年 1985 巻 22 号 p. 16-21
    発行日: 1985/12/20
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    競走馬の骨性状を臨床的に把握する方法としての超音波伝播速度法を評価するために, 当歳から満9歳までの様々な状態のサラブレッド種, 延べ139頭について生体の第三中手骨骨幹中央部における超音波伝播速度を測定した. 得られた測定値を検討したところ次の通りであった. 1) 下肢部に異常のない馬では左右肢の測定値に差がない. 2) 年齢別平均値は当歳2531.3±57.6m/s, 満1歳 2678.1±65.0m/s, 満2歳 2798.2±73.4m/s, 満3歳 2817.8±42.8m/s, 満4歳以上 2837.0±58.5m/sで, 当歳から満2歳までの増加にくらべそれ以降の増加はゆるやかであった. 3) 長期間運動を休止させることにより測定値は著しく低下し, その低下の割合は運動休止期間約1年で10%以上となる. 4) 運動器疾患により調教が順調でない馬の測定値は平均値より60-160m/s低かった.
    超音波伝播速度は加齢に伴い増加し, 運動休止や疾病に伴い低下していることから, 骨の成熟度, あるいは脱灰, 骨萎縮の程度を反映していることが示唆された. また, 運動器疾患罹患馬における超音波伝播速度の低下については発症する以前に生じていたのか, 疾病に由来するものか明らかではなかった. 以上より本法を用いて生馬の骨性状を把握することが可能であることが判明したが, さらに健康な馬について継続的に測定することにより各種運動器疾患の発症と超音波伝播速度との関係を明らかにすることができると考える.
  • 富岡 義雄, 兼子 樹広, 及川 正明, 兼丸 卓美, 吉原 豊彦, 和田 隆一
    1985 年 1985 巻 22 号 p. 22-29
    発行日: 1985/12/20
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    競走馬の中手骨 (Mc) における骨塩含量 (BMC/BW; g/cm2) の部位および左右肢間の差を明らかにするとともに, BMC/BWに影響を与える因子を検討するため, ボーンミネラルアナライザー (BMA) を用いて競走馬15頭28肢のMcを測定した. 放射性アメリシウム (241Am) を線源としたBMAの測定値は精度ならびに再現性に優れていた. このBMAを用いて水槽内に保定したMcを内外側方向で, 遠位関節面から1cmごとに20cm近位まで20個所のBMC/BWを測定したところ, その測定値を図示すると一定のパターンを示した. それは遠位関節面より1cmならびに17cm近位部にピークをもち, 遠位関節面より近位5cm部を最低値とするものであった. また左右Mc間に差はみられなかった. 緻密骨からなる骨幹中央部のBMC/BWは出走回数, 出走期間ならびに馬体重と有意の正の相関を示し, またこの値は59か月齢まで加齢にともない上昇した. 一方, 海綿骨のBMC/BWは遠位関節面から1cm近位部で極めて高値を示した. またこの値は出走回数出走期間ならびに加齢と有意の正の相関を示した.
  • 吉原 豊彦, 兼丸 卓美, 長谷川 充弘, 富岡 義雄, 兼子 樹広, 桐生 啓治, 和田 隆一, 渡辺 脩
    1985 年 1985 巻 22 号 p. 30-37
    発行日: 1985/12/20
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    臨床的に重度の中枢神経障害を示し斃死した乗用馬の1剖検例において, その脳脊髄より非常に小型の線虫が見い出された。寄生虫学的ならびに組織学的検索により, その線虫はM. deletrixと同定された。また, 本例は病理組織学的にM. deletrix寄生による髄膜脳脊髄炎と診断された。M. deletrixの馬の寄生例はアメリカ合衆国およびエジプトで, 小児の寄生例はカナダで報告されているがその数は少ない。本報告はわが国におけるM. deletrixの脳脊髄内寄生の最初の報告となった。
  • 鎌田 正信, 熊埜御堂 毅, 兼丸 卓美, 吉原 豊彦, 富岡 義雄, 兼子 樹広, 仙波 裕之, 大石 秀夫
    1985 年 1985 巻 22 号 p. 38-42
    発行日: 1985/12/20
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    1983年の繁殖シーズン中に北海道日高地方の4頭の子馬の斃死例から採集した種々の臓器について細菌学的検索を実施し, つぎのような成績を得た. 肺炎, 筋変性症, 虚弱, 黄疸とそれぞれ臨床診断された4例はいずれも共通な肉眼病変として多発性関節炎, 腎炎, 臍炎, 肺炎を示した. A. equuliは剖検子馬の種々の臓器から純粋に分離された. 分離菌数は関節液で最も高く, 胸水および肝臓がこれについで多かった. なお, 4例中3例が初乳無摂取で, 残りの1例も移行抗体伝達不全と考えられた. 以上の結果から, 本症例はA. equuliの臍帯感染によって起こされた典型的な子馬のアクチノバチルス症で, 初乳無摂取および移行抗体伝達不全が敗血症に帰する本症の重要な素因であろうと考えられた.
  • 鎌田 正信, 仙波 裕之, 大石 秀夫, 今川 浩, 熊埜御堂 毅
    1985 年 1985 巻 22 号 p. 43-47
    発行日: 1985/12/20
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    1982年および1983年の繁殖シーズン中に採集した北海道日高地方の下痢症子馬の直腸スワブ200例ならびに斃死子馬の直腸内容物20例の細菌学的検索を実施し, つぎのような成績を得た. K. pneumoniaeは27例の直腸スワブおよび5例の直腸内容物から分離された. 莢膜タイプ1型は分離された32株のうちの62.5%を占めた. この地方では1980年に馬伝染性子宮炎が初めて発生し, 引き続いて1982年と1983年にK. pneumoniae莢膜タイプ1型による子宮炎の流行が確認された. したがって, 今回のK. pneumoniae莢膜タイプ1型による子馬の下痢症の発生は子宮炎の流行中に感染雌馬および汚染環境から子馬への菌の伝播によって起こったものと考えられた. これらの結果から, K. pneumoniae莢膜タイプ1型は子馬の下痢症の一原因体として考慮される必要があろう.
  • 兼丸 卓美, 兼子 樹広, 及川 正明, 吉原 豊彦, 富岡 義雄
    1985 年 1985 巻 22 号 p. 48-52
    発行日: 1985/12/20
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    北海道日高地方において, 1982-1984年の3年間に原因不明あるいは予後不良として斃死した幼駒94例について実施した病理解剖学的検索の結果, 肺病変を有した症例は63例 (67%) であった。これら症例の主な病変は, 充出血, 無気肺, 水腫, 肺炎 (巣状あるいは大葉性), 膿瘍, 間質増幅および胸膜炎であった。また, これら症例の主な臨床症状は, 7日齢以内では虚弱, 8-30日齢以内では腸炎を主とする消化器病, 31日齢以上では消化器病あるいは関節炎を主とする運動器病であった。肺病変を有したこれら症例のうち, 臨床的に肺炎の疑がわれた症例はわずか11例で, 大部分 (83%) の症例は臨床上呼吸器症状を示さず病理解剖学的検索によってはじめて肺病変が明らかにされた。これらの結果から, 生後数か月齢の致死性子馬病の中で肺病変を伴う疾病は極めて多いことが確認され, その多くは常在菌による日和見感染であることが推察された。
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