競走馬の骨性状を臨床的に把握する方法としての超音波伝播速度法を評価するために, 当歳から満9歳までの様々な状態のサラブレッド種, 延べ139頭について生体の第三中手骨骨幹中央部における超音波伝播速度を測定した. 得られた測定値を検討したところ次の通りであった. 1) 下肢部に異常のない馬では左右肢の測定値に差がない. 2) 年齢別平均値は当歳2531.3±57.6m/s, 満1歳 2678.1±65.0m/s, 満2歳 2798.2±73.4m/s, 満3歳 2817.8±42.8m/s, 満4歳以上 2837.0±58.5m/sで, 当歳から満2歳までの増加にくらべそれ以降の増加はゆるやかであった. 3) 長期間運動を休止させることにより測定値は著しく低下し, その低下の割合は運動休止期間約1年で10%以上となる. 4) 運動器疾患により調教が順調でない馬の測定値は平均値より60-160m/s低かった.
超音波伝播速度は加齢に伴い増加し, 運動休止や疾病に伴い低下していることから, 骨の成熟度, あるいは脱灰, 骨萎縮の程度を反映していることが示唆された. また, 運動器疾患罹患馬における超音波伝播速度の低下については発症する以前に生じていたのか, 疾病に由来するものか明らかではなかった. 以上より本法を用いて生馬の骨性状を把握することが可能であることが判明したが, さらに健康な馬について継続的に測定することにより各種運動器疾患の発症と超音波伝播速度との関係を明らかにすることができると考える.
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