日本中央競馬会競走馬総合研究所報告
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1992 巻, 29 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
  • 伊藤 忍, 藤井 良和, 内山 孝志, 兼子 樹広
    1992 年 1992 巻 29 号 p. 1-5
    発行日: 1992/12/20
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    馬運車での輸送中に苦悶症状を呈して横臥状態となったサラブレッド種競走馬4頭の臨床, 血液, 組織所見について検討した。4頭中2頭は治療によって治癒したが, 1頭は予後不良で安楽死, 1頭は斃死した. 主な臨床所見は腸蠕動の廃絶あるいは亢進, 筋硬直, 排尿困難, 赤褐色尿であった. 血液所見は血液濃縮とCPKの著増が特徴的であり, 重篤な症例ではGLDHとBUNの漸増を認めた. 組織所見は広範囲に及ぶ骨格筋線維の変性が観察された. これらの所見から輸送に起因する横紋筋融解症と診断された. 臨床的に本疾病は変位疝あるいは便秘疝と所見が類似することから, 類症鑑別としてCPK値の上昇度の相違が有用と考えた. 治療方法は多量の輸液と鎮痛剤, 副腎皮質ステロイド, 循環改善薬, 利尿剤, 抗生物質を適宜に合わせて投与することが効果的であった. 本疾病の発症要因は, 輸送に対する各個体の体質的な素因によるものと考えられた. また, この疾病は再発をみることから, 2回目以降の輸送に際しては細心の注意が必要である.
  • 剖検例の病理組織学的および組織化学的検索
    片山 芳也, 兼子 樹広, 及川 正明, 吉原 豊彦, 吉成 公伸, 藤井 良和, 山本 純也
    1992 年 1992 巻 29 号 p. 6-14
    発行日: 1992/12/20
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    悪性血管内皮腫が疑われた5歳, 雄のサラブレッド種の競走馬1例について病理学的, 免疫組織化学的およびレクチン組織化学的検索を行った.
    肉眼的には, 全身の骨格筋, 横隔膜, 心臓, 脾臓および肺などに全身性の多発性腫瘤形成としてみられた. 組織学的には本腫瘤は概ね紡錘形で, 狭小な細胞質とクロマチンに富む円形から楕円形の中型から大型核を有する細胞が索状あるいは集塊状に配列し, 一部では小血管様構築を呈しながら充実性に浸潤増殖していた. これら形態像から低分化型の悪性血管内皮腫が疑われた. 腫瘍組織の免疫組織化学的およびレクチン組織化学的検索では凝固第VIII因子関連抗原 (F. VIII: Ag), UEA-Iおよびビメンチン陽性で, サイトケラチンおよびアクチン陰性であった. このうち, 血管系の特異的マーカーとされるF. VIII: Agに対しては, 腫瘍組織の構築の相違により腫瘍細胞の反応性に若干の違いがみられたが陽性所見が得られ, UEA-Iに対しても腫瘍細胞は陽性を示した. 以上の所見から, 本例は馬では希有とされる低分化型の悪性血管内皮腫と診断された. なお, ヒト同様馬の悪性血管内皮腫の確定および鑑別診断においてもF. VIII: Ag, UEA-Iおよびビメンチンに対する免疫組織化学的あるいはレクチン組織化学的検索は有用な診断方法となり得ることが示唆された.
  • 上野 儀治, 富岡 義雄, 兼子 樹広
    1992 年 1992 巻 29 号 p. 15-19
    発行日: 1992/12/20
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    本論文はサラブレッド種の心肥大を伴った筋性心室中隔欠損症の稀な症例報告である.
    症例はサラブレッド種, 2歳の雌馬でtying-up症候群と軽度の運動不耐性の症状を示し, 心電図検査で心房細動が確認された.
    キニジン療法により心房細動は良化し洞調律に復したが, A-B誘導による心電図検査では, 2峰性で幅が広く, 尖鋭化した左心房成分が特徴的なP波として認められた. また, 心臓の聴診時, 収縮期雑音が聴取され, 心音図検査でヒトの中等度の心室中隔欠損症に類似した漸減性の収縮期ならびに拡張期雑音が認められた. この心雑音は生存期間中継続して聴かれたが, 臨床的にはチアノーゼ, 浮腫などの循環不全を疑わせる所見は得られなかった.
    4ヵ月後, 症例は襲歩にて調教運動実施中後駆蹌踉となり走路上で転倒, そのまま死亡した.
    剖検の際, 6×3cm大の心室中隔筋性部の大欠損と著しい心肥大が認められ, 組織学的検索では肝臓の小葉中心性の鬱血と中心静脈壁の繊維性肥厚, 肝洞様血管の繊維化など, 軽度の慢性循環障害を示す所見と急性の肺, リンパ節の鬱血水腫が認められた.
  • 杉浦 健夫, 鎌田 正信
    1992 年 1992 巻 29 号 p. 20-25
    発行日: 1992/12/20
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    Enzyme-linked immunosorbent assay (エライザ法) を用いて, 馬の各種免疫グロブリン (IgGa, IgGb, IgGc, IgG (T), IgM, IgA) の定量法を開発した. 使用した精製免疫グロブリンは, これまでの各免疫グロブリンの物理化学的性状を基にした方法に加えて, 抗原抗体反応を利用したアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製した. また, IgGaおよびIgGbは, 澱粉ブロック電気泳動法により得たそれぞれの成分を多く含む画分と, 抗IgGab抗体との免疫電気泳動法における沈降線を免疫源として得た抗血清を使用して, それぞれの純度を高めた. エライザ法に適した1次および2次抗体の濃度を検討した結果, 精製免疫グロブリンの濃度に依存した吸光度曲線が得られた. その感度は1ng/mlであった. さらに, 1次および2次抗体の至適濃度を検討した結果, 10-100ng/mlの間でほぼ直線性を示す検量線が得られた. 今回確立した方法は, 感染症の発症機序の解明または仔馬や妊娠馬の血清や乳汁中の各免疫グロブリンの定量に応用したい.
  • 須田 順子, セルビト ウイルソンA., 小栗 紀彦, 松沢 時弘, 岡 明男, 佐藤 邦忠
    1992 年 1992 巻 29 号 p. 26-31
    発行日: 1992/12/20
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    若齢雄馬の精巣の組織所見解析に, 多変量解析法の一つである主成分分析の応用を試みた.
    材料と方法: 臨床所見から, 異常の認められない雄馬5頭の精巣を採取し, 精巣の大きさ (長径×短径×幅cm) と重さ (g), ならびに左右各7ヵ所の組織標本を作成し, Sertoli細胞数, Leydig細胞数および精細管の大きさ (断面の最長径と最短径の積: μm2) を求め, 多変量解析を行った
    結果:
    (1) 精巣の大きさと重さ, Johnsenスコア, Sertoli細胞数およびLeydig細胞数, 精細管の大きさ等の要因には, 個体間と精巣の左右間に有意差が認められなかった (P<0.05).
    (2) Johnsenスコア; Sertoli細胞数と精細管の大きさ. Sertoli細胞数; 精細管の大きさの相関係数には有意性が認められた (P<0.05).
    (3) 主成分分析で, 精巣からの組織採取部位による所見に差異があることが明らかになった.
    以上の結果から, 精巣組織所見の分析に主成分分析の応用が可能であることが明らかになった.
  • 今川 浩, 福永 昌夫, 鎌田 正信
    1992 年 1992 巻 29 号 p. 32-35
    発行日: 1992/12/20
    公開日: 2010/08/10
    ジャーナル フリー
    ゲタウイルス (GV) 感染馬における血清学的診断法としてのHIおよびCF試験の信頼度を明確にするため, GV実験感染馬におけるHIおよびCF抗体の推移を中和抗体のそれと比較検討した. また, 自然感染馬における中和抗体とHI抗体および中和抗体とCF抗体の相関関係も調べた. 3頭のGV実験感染馬において, 接種後4-5日にHI抗体, 4-6日に中和抗体および6-9日にCF抗体がそれぞれ検出された. 各抗体のピークに達する期間は, HI抗体が1-3週, CF抗体が2-3週ならびに中和抗体が2-3カ月であり, それぞれの抗体価の最大値はHI抗体が64-128倍, CF抗体が64-128倍, 中和抗体が128-256倍であった. これらの抗体は, 接種後5カ月-1年まで, 中和抗体価は最大値, HI抗体価は最大値かその1/2の値, CF抗体価は最大値かその1/8の値で持続した. 感染初期における2-ME処理血清におけるHI抗体価は, 未処理血清の抗体価より明らかに抗体価が低く, 接種後約2-4週において8-32倍の抗体価の差が認められた. GVの流行に巻き込まれた馬群から採取された200頭の馬血清について測定した中和抗体価とHI抗体価, および中和抗体価とCF抗体価の相関係数は, 前者は0.82, 後者は0.90であり, 実験感染馬と同様に自然感染馬においても, 3種の抗体価は密接な関係にあることがわかった. これらの成績から, HIおよびCF試験は, 感染馬からGVに対する抗体を検出するために有益な血清学的診断法であることが確かめられた.
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