日本森林学会大会発表データベース
第133回日本森林学会大会
選択された号の論文の693件中151~200を表示しています
学術講演集原稿
  • AYE MYAT MYAT PAING, Chen Shufen, Araki Kyoko, Aihara Takaki, Hirota M ...
    セッションID: F4
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
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    Global warming will have adverse effects on forest ecosystems, especially cold-temperate and alpine ecosystems. Betula ermanii is a representative species from cold-temperate to subarctic forest ecosystems in Japan. In this study, 11 range-wide provenance trials were conducted throughout Japan using saplings from 11 populations to evaluate the effects of warming on survival and height growth. In case of warming by +2 °C and +5 °C, the survival rate likely decreases by the average of 4% and 13% and sapling height likely decreases by average of 11% and 25% respectively. Saplings of southern and tree-line populations exhibited higher decrease in survival rate under warming compared with others, whereas those of northern and tree-line populations showed smaller height growth. Finally, we will discuss management strategies to mitigate warming impacts on forest ecosystems.

  • 高橋 優介, 松下 通也, 田村 明, 大平 峰子, 高橋 誠
    セッションID: F5
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
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     近年,地球温暖化への対応が世界的な課題となっている.RCPシナリオでは,今世紀末までの世界平均気温の上昇幅は,0.3~4.8℃の範囲に入る可能性が高いとされており,また無降水期間が長くなると予測されている.そのような環境に適応して生存し,成長を持続しうる系統の育種が今後求められる。そこで,本研究では,ヒノキにおける環境適応的変異を明らかにするために,関東育種基本区内の気候の異なる地域に設定された28か所のヒノキ検定林における5,10,20および30年次の成長形質のデータを用いて,遺伝と環境の交互作用効果の大きさを推定した.各形質における狭義の遺伝率等の遺伝パラメーターは,検定林を固定効果,相加的遺伝効果および交互作用効果を変量効果とした線形混合モデルにより推定した.相加的遺伝効果と交互作用効果の分散比を比較すると,ほとんどの年次で胸高直径および樹高に交互作用効果が認められた.ヒノキの育種を着実に進めるためには,今後交互作用と各環境因子の解明やそれらの環境因子への各系統の応答性を解明していくことが必要であると考えられた.

  • 後藤 晋, 小川 瞳, 福岡 哲, 田中 延亮, 福井 大
    セッションID: F6
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
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    近年の気候変動は深刻化しており、二酸化炭素の吸収源である森林樹木種が気候変動によってどのような応答をするかを解明することが急務となっている。これまで、樹木の過去の生物データ(フェノロジー・年輪)と気象データとの関係を解明し、気候変動が植物に及ぼす影響が評価されてきた。事業的な規模で毎年苗木を生産している現場では、苗木の長期データが存在し、気候変動の影響評価が可能だと考えられる。東京大学北海道演習林では、自生する北方針葉樹3種(トドマツ、エゾマツ、アカエゾマツ)を毎年生産しており、各年齢の樹高等のデータを長期間測定してきた。本研究では針葉樹3種の樹高の長期データを整備するとともに、その間の気象イベントが針葉樹3種の樹高成長に及ぼす影響を試みた。3年生苗と5年生苗の樹高と気象データから1990年代に比べて、2010年以降は年平均気温が上昇しているが、樹高の年平均成長量と明瞭な関係は認められず、晩霜害、乾燥害などを引き起こす極端な気象イベントが樹高成長に大きなインパクトを与えている可能性が示唆された。

  • 松下 通也, 平岡 裕一郎, 田中 一成, 小野田 雄介
    セッションID: F7
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
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    スギは、幅広い地理的分布域を示し、その形質において系統間で幅広い種内変異が知られている。林木育種分野では、樹高や直径、材積など成長に関する形質に着目して研究が主になされてきた。しかしながら、個体間競争に対して各系統がどのような成長応答性を示すかは十分に明らかにされていない。本研究では、スギ精英樹の挿し木クローンを植栽した競争試験地における樹高および直径の追跡調査データをもとに、個体間競争や樹齢に伴う成長応答性の違いを明らかにするとともに樹冠構造との関連性を検討した。その結果、個体周辺の混合い度に対する成長応答は、若齢時には混合い度が高まるにつれ樹高がやや高くなる傾向であったが、より樹齢が進むと混合いの増加による影響は直径成長において顕著であった。また周辺個体の混合い度の増加に対する直径成長の感受性において系統間で差異が認められ、混合い度の増加とともに成長が鈍化する系統や、一方で成長が鈍化しにくい系統が存在することが明らかとなった。本研究の結果は、植栽密度を変化させるような施業において、スギ系統間でどのような成長のばらつきを生じるか理解する上でも有益な知見と考えられる。

  • 大平 峰子
    セッションID: F8
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
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     さし木コンテナ苗を短期間で育成する基礎情報を得るため、さし穂の長さが発根性およびコンテナ苗の成長に及ぼす影響を調査した。スギ6クローンの主枝を80本ずつ採取し、長さ10、15、20および30cmのさし穂として整え、長さごとに20本ずつ用意した。さし床として鹿沼土小粒を入れた育苗箱を、電熱温床あり・なしで設置し、さし穂を半分ずつ振り分けた。2021年1月下旬にさしつけ、3月中旬から毎週発根の有無を調査した。長さ5mm以上の根があれば発根とし、Mスターコンテナに移植した。同年12月にさし木コンテナ苗の高さを測定した。 

     発根の推移を調査した結果、電熱温床がある方がいずれのさし穂長でも発根が早かったが、10cmのさし穂は他の長さのそれより発根が遅い傾向がみられた。また、コンテナ苗の高さを応答変数とし、クローンをランダム効果、さし穂長、移植までの日数を固定効果の説明変数とした線形混合モデルで解析した結果、さし穂長に有意な正の効果、移植までの日数に有意な負の効果が認められた。これらの結果から、さし床の加温により移植までの日数を短くすること、さし穂を長く整えることでサイズの大きいさし木コンテナ苗を得られることが示された。

  • 今 博計, 成田 あゆ, 大塚 美咲, 村上 了, 安久津 久, 松田 修, 小川 健一
    セッションID: F9
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
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    カラマツ属種子の発芽率は20~40%であり,胚乳を含まない不稔種子が多い。70%程度とされる受粉率と比べると割合が低く,資源が制限要因になっていると考えられる。本試験では,光合成を活性化させるグルタチオンの施用が,種子の結実率の向上に与える影響を検証した。2020年6~7月に球果が着生したグイマツの1次枝を対象に,カネカペプチドW2の1,000倍液を葉面散布した。種子の結実率は同一個体の無処理枝では28~46%であったが,処理枝では57~78%と大幅に向上した。一方,2021年6~7月に実施した個体全体への散布試験では,結実率は無処理個体では69%,処理個体では71%と差は認められなかったが,球果重は1.29倍,種子重は1.13倍に増加していた。ただし,環状剥皮した個体では,球果重と種子重は変化しなかった。以上のことから,グルタチオンが繁殖器官へ与える影響は液剤を散布した範囲に限られること,また,根から吸収される水や窒素,リンなど無機養分も必要不可欠であることがわかった。

  • 福田 拓実, 片畑 伸一郎, 山田 晋也
    セッションID: F10
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
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    ヒノキの早期着花促進には、従来ペースト状のジベレリンを樹皮下に埋設する方法がとられている。しかし、若齢ヒノキの母樹は枝が細いことから作業が困難で、枝には傷害が発生することがある。そのため、水分ストレスとジベレリンの葉面散布によるヒノキ若齢木の早期着花技術の検証を行った。

    2020年5月から7月の間、潅水を週1回(ストレス強区)、4日に1回(ストレス弱区)、毎日潅水(対照区)とし、それ以降は毎日十分潅水した。また、一部試験区ではジベレリンの葉面散布をした。結果、対照区を含む全試験区で花芽が確認された。しかし、全試験区で10月上旬から一部の雌花が開花し、珠孔液の滲出が確認された(以下「狂い咲き」という)。また、雄花はほとんどが枯死した。

    2021年3月に狂い咲きしなかった雌花(ストレス強区で310個、ストレス弱区で833個、対照区で1,520個)に人工交配をしたところ、2021年10月に全試験区で合計1,022個の球果を採取できた。球果から得られた種子の発芽試験を行ったところ、全試験区で発芽も確認された。このことから、薬剤を用いなくとも若齢ヒノキの母樹から発芽能のある種子の生産ができた。

  • 松永 孝治, 武津 英太郎, 岩泉 正和, 久保田 正裕, 原 亮太朗, 北嶋 諒太郎, 細川 貴弘, 渡辺 敦史, 久米 篤
    セッションID: F11
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
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    外来種であるマツヘリカメムシがクロマツの種子生産性に及ぼす影響を明らかにするため、枝上に着果した状態(採取前)および採取後の切り離したクロマツ球果への吸汁実験を行った。採取前の枝上の球果をマツヘリカメムシ5匹と同じ袋に2週間入れた。また、別のクロマツから採取した球果20個をマツヘリカメムシ20匹と同じケースに1週間入れた。これらの球果から種子を取り出してエタノール精選し、沈下した種子の割合(沈下率)を求めた。採取前に吸汁処理した場合の沈下率は36%から20%へ低下した。また採取後に吸汁処理した場合の沈下率は36%から26%へ低下した。これらの種子の一部について軟エックス線写真を撮影したところ、沈下した種子では正常な胚が認められたが、沈下しなかった種子では部分的な胚、あるいは空洞が認められた。これらの種子をシャーレ内で発芽処理したところ、沈下した種子の発芽率は98%、沈下しなかった種子の発芽率は0%であった。これらの結果はマツヘリカメムシの吸汁によってクロマツ種子の発芽能力が損なわれ、種子生産性が低下することを示唆した。

  • 平谷 理人, 安江 恒, 荒木 眞岳
    セッションID: G1
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
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    森林生態系の炭素循環において、樹幹CO2放出速度(以下Es)は重要な要素である。Esは樹幹温度に依存するが、温度に依存しないEsの変動も存在する。その要因の1つに肥大成長が挙げられ、形成層帯幅、細胞拡大帯幅及び二次壁肥厚帯幅で構成される木部分化帯幅を指標とすることができる。そこで本研究は、Esと木部分化帯幅及び樹幹の形態的要素との関係を明らかにすることを目的とした。

    信州大学農学部構内演習林のスギ5個体を供試木として、2021/5/9~11/30の間、月に1回測定を行った。Esはチャンバー法により測定した。同時に樹幹温度を計測し、15℃に標準化したEs15を算出した。木部分化帯幅は打ち抜き法により、樹幹の形態的要素はコア試料より観察した。Es15と木部分化帯幅及び樹幹の形態的要素との関係について単相関分析を行った。

    Esと樹幹温度との間の関係において、同じ温度でもEsが5~7月では高く、8~10月では低い季節変動が認められた。また5~7月におけるEs15と形成層帯幅+細胞拡大帯幅との間にのみ有意な正の相関が認められた。以上より5~7月における高いEsには、肥大成長にともなう形成層細胞の分裂及び細胞径の拡大が影響を与えていることが示唆された。

  • 辻 祥子, 上妻 馨梨, 伊福 健太郎, 彦坂 幸毅
    セッションID: G2
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    光は光合成に植物にとって不可欠であるが、葉への照射光が強すぎる場合、光化学系Ⅱ(PSⅡ)に損傷を引き起こし、光合成活性の低下を導く(光阻害)。 PSIIが過剰な光エネルギーによる光阻害を抑える光防御機構の中に、損傷を受けたPSIIを修復する能力が挙げられる。光阻害のメカニズムは主に草本植物を用いた研究により解析されてきたが、木本植物を用いた光損傷(光不活化)と修復に関する報告は少ない。本研究では、様々な環境に生育する樹種を選定し、草本植物1種、木本植物12種を対象として光阻害の評価実験を行い、木本植物における光阻害防御機構について樹種間比較を行った。実験は、葉緑体のタンパク質新規合成を阻害するリンコマイシンの存在下および非存在下で、葉に強光を照射し、クロロフィル蛍光を測定することで行なった。その結果、13種の植物は、1)強光下で修復能が機能せず光阻害を受けやすい樹種群、2)リンコマイシン存在下でもPSⅡの光損傷が進みにくい樹種群、また、3)光損傷を受けるが修復能力によりPSII活性を維持する樹種群のおよそ3パターンの傾向に分かれた。そこで各々の光阻害防御機構について、葉における光エネルギー分配の観点から考察した。

  • 小林 慧人, 小林 剛
    セッションID: H1
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
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    モウソウチク(イネ科タケ亜科マダケ属)は江戸時代に中国から導入され、全国各地へ移植された大型のタケ類の1種である。旺盛な栄養繁殖によって周囲へ急速に侵入拡大し、長い間純林を形成・維持する特徴をもつ。一方で、本種は有性繁殖することも知られているが、同属のマダケやハチクに見られる広域・同調開花ではなく、局所・小規模開花が一般的である。また、開花後に稔性のある種子を生産するものの、林床における実生の生残率は低く、更新への寄与は大きくないと予測される。しかし、実際の野外データに基づいた検証はほとんどされていない。そこで本研究では、2018年9月に小規模開花したモウソウチク林(高知県土佐市)で実生の定着、生残そして成長過程を3年にわたり追跡した。同林分の林床に2m×2mのプロットを5つ設置し、開花後のモウソウチク林冠の枯死にともなう林内の光強度と、下層植生の発達度の変化とともに解析した。実生の密度は調査期間内に4から0.5個体/m2程度へ減少し、光環境の改善によって下層植生が発達したプロットでは全実生が死滅した。地下茎からの再生は見られず、周辺(非開花林分)からのタケノコの侵入もわずかであった。

  • 澤田 田晴, 佐藤 貴紀, 岸本 光樹
    セッションID: H2
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    東京大学生態水文学研究所長期生態系プロット(モニ1000愛知赤津サイト,面積1ha)に口径面積が0.5㎡のリター・シードトラップを25基設置し,2005年から16年以上,毎月の月末を基本に落下物を回収し続けている。今回は開始から2021年4月末回収分までの落下物の中からコナラの堅果(長径が1.0cm以上)を仕分けし,健全・虫害・獣害の別に数え,それらの落下特性を明らかにした。月別の堅果落下状況を見ると,堅果は8月から落下が始まり多くの年で10月に落下のピークを迎えて11月末にほぼ落下が終わっていた。堅果落下数が多かった8~11月の堅果内容を見ると,8・9月には虫害,10・11月には健全が多かった。堅果数を開花年別に2005年から2020年まで集計すると,堅果の落下密度が10個/㎡ 以下の年もあれば,40個/㎡ 以上の年もあり,堅果には豊凶が見られた。なお堅果の落下密度が30個/㎡ 以上の年は,16年間で6度あり,それは2006,2007,2008,2009,2015,2016年であった。

  • 今井 雅治
    セッションID: H3
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
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    滋賀県大津市龍谷大学瀬田学舎に隣接する「龍谷の森」は、かつて里山として利用されていた場所である。里山の資源が利用されなくなり、それまで行われていた持続的な管理もおこなわれなくなった。これに伴いコナラの大径木の増加、「ナラ枯れ」が広がるようになってきた。

     「龍谷の森」でも2010年頃から「ナラ枯れ」の被害が見られるようになった。里山を健全な状態で維持・管理し、利用していくためには,森林の構造や種の組成がどのように変化しているのかを把握する必要がある。

     本研究では、「龍谷の森」内に存在するコナラ二次林を調査対象とした。調査区画(20m×30m)内に存在する9種の樹木に着目し、デンドロメーターによる胸高周囲長の継続的な測定を行った。このデータを解析し、二次林を構成する各樹種の成長特性を明らかにすることが目的である。

     各樹種のデータから一個体ごとの相対成長速度の散布図を作成したところ、複数の樹種の複数の個体で同時期に同様の成長の変化が起こっていることがみられた。この同様の成長の変化の発生についてナラ枯れによる倒木で形成されたギャップの有無や周辺の光環境の違いなどの観点からその発生要因を探った。

  • 佐藤 永, 日浦 勉
    セッションID: H4
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
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    A dynamic vegetation model was adapted to a mixed forest in Hokkaido, the northernmost mainland of Japan, which is located within a transition zone between cool-temperate and sub-boreal forest ecosystems. Elevation and the topographical index were correlated with tree biomass and the percentage of needle-leaved trees in this forest, and the adapted model roughly reconstructed this pattern. In the simulation, biomass increased as a single peak curve with simulation year, while a fraction of the conifers increased until the end of 200 simulation years. The 75-year simulated forest was most comparable to the adapted forest. The model also reconstructed a reasonable succession pattern based on temperature and soil moisture. However, the model did not reconstruct the geographical distribution of the fraction of needle broad-leaved forests at the scale of Hokkaido, demonstrating that more work is required to improve the model.

  • 安在 森祐
    セッションID: H5
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
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     地域によって森林の利用形態が異なっており、それに伴い樹種構成やバイオマスも変化する。「里山」は、人里に隣接し、薪炭材や肥料の供給地として、人々の生活を支えてきた。1950 年代以降の燃料革命により、里山の利用は減少し、ほとんど管理されなくなってしまった。これに伴い、里山の森林は大きく変化した。ナラ枯れやマツ枯れ、鳥獣害などの問題が起こり、土地開発などで里山の森林が失われつつある。

     本研究では、滋賀県甲賀市全域を対象に、現地調査を行うとともに航空写真・GIS情報など用いて、過去から現在にかけての森林植生の変化について検討した。今回は、滋賀県甲賀市水口町の10か所について、現地で人工林以外の広葉樹が優勢する森林を選定し、ライントランセクト法を用いて胸高直径1㎝以上、高さ1.3m以上の樹木を対象に毎木調査(樹種、胸高直径、位置)を行った結果と、過去から現在にかけての航空写真や植生データ等を用いて得た植生変化の結果等について、報告をする。

  • 小木曽 遼, 深町 加津枝
    セッションID: H6
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
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     比叡山の森林のうち約1677haは延暦寺の所有であり、針葉樹人工林が主体である。歴史的にはその人工林の経営・管理に主眼が置かれてきたが、木材需要の減少や野生動物被害などを受け、全山の森林管理の方針やゾーニングを見直す機運が高まっている。対象地である大宮谷も大半が人工林によって占められ、谷底を流れる大宮川に並行して、管理道・登山道として重要な大宮林道が走る。

     本研究では大宮川上流部の渓流沿い植生の多様性およびそれらが成立する環境の現状を把握することを目的とした。源頭から200~300m毎に10m四方の調査区を設置し毎木調査を行うとともに、その中に2m四方の小調査区を4つ設置し林床植物の調査を行った。

     毎木調査では水辺林の構成種のケヤキやエノキを含む23種が確認された。林床植物調査では木本植物25種、草本植物44種、シダ植物31種が同定された。ミヤマカタバミ、チヂミザサ、シケチシダ、ジュウモンジシダなどの出現頻度が高かった。ボタンネコノメなどの渓流沿いに分布する植物も多く見られた。調査区内でニホンジカによる被食の痕跡が見られる一方で、滋賀県レッドデータ希少種のミヤコイヌワラビも確認された。

  • 田中 亮志, 伊豆田 猛, 松田 和秀, 渡辺 誠
    セッションID: H7
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
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    葉内-大気間のガス交換速度に強く影響する樹冠コンダクタンス(gc)は,気象要素と蒸散量から推定される.熱消散法による樹液流の計測は,蒸散量を推定する手法のひとつである.近年,熱消散法のセンサーを樹種ごとに校正する必要性が指摘されているが,その校正がgcの推定精度の向上にどの程度寄与するかは明らかにされていない.そこで本研究では,先行研究で報告された複数のセンサーの校正結果[①スギ固有の校正(Fujime et al., 2021),②仮道管材樹種の平均および③未校正(Granier, 1985)]を用いて,樹液流からスギ成木のgcを推定し(gc_s),それらの結果とスギ針葉のガス交換速度の測定に基づく樹冠光合成モデルから算出したgcの推定値(gc_p)を比較した.2021年3〜5月にかけて,東京都八王子市内のスギ林で成木の樹液流の計測および樹冠光合成モデルの構築を行った.熱消散法に①を適用した場合,gc_sは1日を通じてgc_pより高く,特に夜間のgcを過大評価した.一方で,熱消散法に②または③を適用した場合,gc_sgc_pと類似した日変化を示した.本研究により,樹種固有の熱消散法センサーの校正は必ずしもgcの推定精度を向上させるとは限らないことが明らかとなった.

  • 種子田 春彦, 小笠 真由美, 矢崎 健一, 丸田 恵美子
    セッションID: H8
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    亜高山帯に分布する常緑針葉樹では、強い寒さにみまわれる冬季に枝の通水能力が低下する現象が知られている。この原因として、従来から考えられている1) 乾燥ストレスと枝の凍結融解によりおきるエンボリズム(仮道管の空洞化)と、今回、新たに2) 隣り合った仮道管の連絡通路である壁孔の閉鎖を候補として考えた。そして、北八ヶ岳の風衝環境に分布する亜高山帯性常緑針葉樹のシラビソ(Abies veitchii)を用いて、2月から7月にかけての一年生枝の通水能力を定量的に評価するとともに、cryo-SEM(低温走査型電子顕微鏡)による木部の水分布や壁孔の観察を行った。2月から3月上旬では、枝の通水能力は最大値の20-30%にまで低下し、cryo-SEMによる観察から通水阻害の原因がエンボリズムではなく、高頻度で観察された壁孔の閉鎖であることが示された。一方で、乾燥ストレスが深刻化した3月下旬には、枝はほぼ完全に水を流さなくなり、ここではエンボリズムが通水阻害の主要な原因であることが示唆された。今回、観察された壁孔の閉鎖は、凍結時の木部液の膨張によって起きると考えられ、実験的な枝の凍結によっても壁孔の閉鎖による通水阻害を再現できた

  • 鈴木 大介, 中路 達郎, 福澤 加里部, 牧田 直樹, 菅井 徹人, 池野 英利, 遠藤 いず貴, 大橋 瑞江
    セッションID: H9
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    細根は樹木根の先端部であり、一般に直径2mm以下とされる。細根は生産と枯死のサイクルが短いため、森林生態系の炭素循環に重要な役割を果たしている。そのため細根の生産と枯死の時間的な変化を把握することが重要だが、このような研究では生根と枯死根の判別が各研究者の主観的な判断によってなされており、その判断基準は研究者ごとに差異がある。本研究では、判別の個人差を評価し、どのようなサンプルが生根や枯死根と判別されやすいのかを明らかにすることを目的にした。

     調査は北海道大学苫小牧研究林で2回行い、2019年はカラマツ林、2020年はヒノキ林で細根を採取した。サンプルには当日樹木から採取した細根と、事前に根元を切断して地中に埋めておいた細根を用いた。切断は2週間前から1年前まで5段階で行った。それぞれのサンプルについて、細根研究歴のある10~14人の参加者が生根か枯死根かを判定し、判定基準とともにアンケートした。

     調査の結果、切断からの期間が長いほど枯死と判定される細根の割合が増えることがわかった。また、カラマツ細根では細根の色が判断基準として多く用いられ、ヒノキでは色・構造・弾力性が複合的に用いられることが多かった。

  • RUIQI ZENG, MAKOTO KOBAYASHI
    セッションID: H10
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    Tensile strength (Tr) of the fine root is a key root mechanical trait that helps plant anchorage and the physical contribution of vegetation to prevent landslides and soil erosion. However, it is not well clarified with which traits the fine root Tr is correlated. In this study, we divided 15 woody species (seedlings) into three species groups by mycorrhizal type and investigated the intrinsic relationship between fine root Tr and six root traits in Hokkaido. Our results showed that there were insignificant differences in fine root Tr among the species group of mycorrhizal type. Furthermore, the correlated traits with fine root Tr were different among the species group of mycorrhizal type. This study suggests that root traits (including mycorrhizal type) are useful to predict fine root Tr of woody species, assessing the suitability of species in limiting soil erosion, which may offer a promising path for the most efficient plant species for future restoration of eroded slopes.

  • 宇津木 佑夏, 小野 裕
    セッションID: I1
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    団粒構造は森林土壌の透水性などの物理性に大きく影響し、水源涵養機能の向上に寄与するとされているが、環境因子や人為的作用によって容易に破壊されるため、森林土壌の保全に加えて団粒の再生過程の解明は重要な課題である。先行研究(宇津木ら, 2021)では5週間の野外培養で団粒は再生するが、土壌物理性の回復には雨滴衝撃を防ぐことが重要であることが明らかになった。そこで被覆による団粒再生過程における雨滴衝撃防止効果を評価するため、ヒノキ人工林内で採取したA層の団粒試料 (≦1mm)を円筒に充填し、表面の人工的な被覆あり・なしの2条件で野外培養実験を行った。

    その結果、両条件とも培養3週後には1mm以上団粒率が有意に高くなり、団粒の形成が認められたが、被覆の有無による有意な差は見られなかった。培養6週後には両条件ともさらに団粒百分率は高くなり、条件間の有意差はなかったが、被覆なしの方が高い値を示した。この原因としては、被覆ありの条件では土壌が常に湿潤な状態に保たれ、乾湿のサイクルが生じなかったことが考えられる。今後は強い降雨イベント後に回収し、被覆による雨滴衝撃緩和効果をさらに適切に評価したいと考えている。

  • 川西 あゆみ, 石塚 成宏, 酒井 佳美, 相澤 州平, 平井 敬三, 稲冨 素子, 大曽根 陽子, 南光 一樹, 鵜川 信
    セッションID: I2
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    森林の枯死木は気候変動枠組条約における森林吸収源の一つであり、倒木、根株、立枯木からなる。その炭素蓄積量は森林全体の5%程度だが、分解の半減期が数年から数十年程度であり、数十年単位での炭素循環予測には重要な役割を果たしていると考えられる。枯死木の炭素量は、林分のバイオマス量や林齢だけでなく、伐採や間伐などの森林管理、雪害や台風などの風倒害などの影響を受けると考えられる。そこで日本全国2,674箇所の調査から得られた枯死木 (倒木、根株、立枯木)の炭素蓄積量を目的変数とし、気象、材積、施業履歴などの要因を説明変数とした一般化線形モデル (GLM)を用いて枯死木量の決定要因を解析した。その結果、炭素蓄積量に影響を及ぼす要因として、材積、所有区分 (国有林、民有林)、平均気温、標高、優占樹種、施業履歴が選択された。また、天然林の蓄積量は 6.2 MgC/ha (1087地点)と人工林9.0 MgC/ha (1075地点)よりも少なかった (p <0.001)。世界の倒木、根株、立枯木の割合と比較したところ、日本の人工林は根株の割合が多くイタリアと類似していた。

  • 柵木 香奈穂, 眞家 永光, 平野 恭弘, 林 亮太, 千葉 尚哉, 谷川 東子
    セッションID: I3
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    樹木根のバイオマスや形態は、土壌環境に敏感に反応して変化する。その変化は枯死根量を増減させるため、細根の分解特性を葉と比して把握することは、森林の物質循環を把握するために必要である。しかし現在のところ、細根リターの分解特性に関する研究は「分解速度」や「分解呼吸」に限られており、土壌に直接的な影響を与える「分解中に放出される水溶性成分」についての知見はほとんどない。また、これまでの分解系の研究の多くは複数の樹種を混交することなく単一樹種の状態を維持して実施しているが、日本では広葉樹林化や混交林化が進められているため、樹種を混合させることが細根や葉の分解特性にどのような変化をもたらすのかを調べる必要がある。

    そこで本研究では、混交林の「分解中に土壌に放出される水溶性成分」を明らかにするため、海岸の針広混交林を構成する3樹種(カシワ、ケヤキ、クロマツ)の細根と葉について室内分解実験を実施した。単一樹種および複数樹種の溶脱液が採取できるカラムを作成し、36週間培養した。今回は酸生産量について報告する。

  • Yoshikazu Tanaka, Tamao Kasahara
    セッションID: I4
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    森林を流れる渓流では、樹冠により日光が遮断され、流路内での光合成による生産活動が制限される。そのため、生物は河畔林から供給される有機物に依存し、有機物の貯留や分解は、渓流生態系の重要なプロセスである。渓流は、流速や河床材料、水温などの空間的ばらつきが大きく、有機物の貯留や分解も空間的ばらつきが大きいと予測されるが、特に地下部を含めた研究が少ない。そこで本研究では、有機物の貯留量と分解速度を、渓流内の瀬の地上部と地下部、淵の地上部の3サイト間で比較した。サーバーネットを用いて採取した有機物貯留量は、ばらつきが大きく、3サイト間での有意な差は得られなかった。リターバック法を用いて測定した有機物の分解速度は、瀬の地上部において、他の二つのサイトより有意に分解速度が大きかった。地上部の分解速度は流速と正の相関があり、流速が地上部の分解速度に影響していることが示唆された。また、リターバックから採取した水生昆虫の個体数は、瀬の地上部で地下部より有意に多く、分解速度と個体数に正の相関がみられたことから、水生昆虫が地上部における分解に大きく貢献していることが示唆された。

  • 白木 克繁, 内山 佳美
    セッションID: J1
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

     降雨中に発生する樹幹流を詳しく観察すると、幹を流下する途中で樹体から離脱し樹木の周辺に落下する降雨成分があることが散見される。発表者らはこれを樹幹離脱流と名付け、スギ人工林における樹幹離脱流特性を調査した。なお、樹幹離脱流は樹幹流ではないので、樹木周りの林内雨成分であるといえる。試験地で3本のスギを選択し、円形のプールを樹木周りに装着することで、樹幹流と分離して樹幹離脱流を測定した。対象木の胸高直径は、33.6cm、34.0cm、35.6cmとほぼ同じであり、円形プールは直径が約160cmとなった。2021年1月から10月までの測定期間で、12時間無降雨を一雨の定義として、58降雨イベントを抽出した。また、測定木を含むプロットでの林内雨を別途測定した。この結果、3本の測定木の樹幹流量には最大と最小で10倍以上の差があり、樹幹離脱流を測定したプール領域の林内雨の値は、プロット全体の林内雨平均値の1倍から3倍であることが多かった。プール領域の林内雨が少なかった樹木は、樹幹流量が極めて少ない樹木であった。比較的多量の樹幹流量が観測される測定木は樹幹離脱流も多く、その結果、樹木近傍において平均林内雨が2倍程度となることが示された。

  • 藤目 直也, 熊谷 朝臣, 江草 智弘, 籾山 寛樹
    セッションID: J2
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    森林蒸散は、陸域生態系からの主要な水文フラックスである。蒸散の定量的評価法として樹液流計測があり、その代表的手法として熱消散法がある。しかし、近年、熱消散法で推定された蒸散量は実蒸散量を過小評価する場合があると指摘され始めた。そこで、実験室でセンサの校正を行ったうえで、修正された熱消散法で推定された蒸散量と水収支から求めた蒸散量を比較した。本研究は丹沢山地の大洞沢試験流域で、日本の代表的植林樹種であるスギを対象にして行った。校正実験により、未校正のセンサは実流速と大幅に異なる値を示し、推定蒸散量の大きな過小評価をもたらすことが明らかになった。また、校正によって2.6倍に修正された林分蒸散量は、水収支観測から得られた蒸散量と有意な差はなく、熱消散法で蒸散量を推定する際に校正することの重要性が示された。さらに、校正の有無は樹液流の幹内の変動や気孔の環境応答の解析にも影響を与えた。この結果は、蒸散量の推定のみならず、樹木の水理特性を理解するためにも、熱消散法を使用する際には校正が必要であることを示唆している。

  • 上村 佳奈, 南光 一樹, 勝島 隆史, 平野 恭弘, 谷川 東子, 石川 仁
    セッションID: J3
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    台風や温帯低気圧の強風に起因する立木の倒伏は、立木の各部位に発生する動的現象の連鎖の結果である。つまり風が樹冠に当たることで振動が生じて枝から樹幹に振動が伝わり、やがて地下の根まで到達して根鉢(根と土壌)全体の破壊が始まって、最終的に木が倒伏することが予想される。これらの現象の中で風による樹幹部の振動については、国内外で研究されている。しかし、倒伏の直接原因である「振動が根に達して根鉢を崩壊させる動的現象」については十分な検証がされてこなかった。そこで本研究では、ひずみゲージおよび慣性計測装置を立木の地上部(樹幹)と地下部(>直径2cmの根と土壌)に設置し、樹冠への風からの負荷が立木全体に及ぼす影響を観測している。今回は、観測木に人工的な負荷を8方向にかけた時の根のひずみ(変形)傾向について報告する。引っ張る方向によって、根には引っ張りまたは圧縮の力がかかるが、本試験では負荷の増減と根のひずみ程度が一致しない場合が確認された。これは、根が動く時に発生する土壌接地面との摩擦力、根自体の柔軟性等によって、根のストレスがある程度軽減されると考える。

  • 佐藤 宣子
    セッションID: J4
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    2021年6月に発表された森林・林業基本計画では、気候変動の影響で山地災害の激甚化と流木被害等の新たな災害形態の増加が指摘されている。そうした中で、特に伐採活動が盛んな九州等において、皆伐施業や林道・作業道の作説方法など森林管理のあり方が災害を誘発しているのではないか、といった疑問が地元住民などから呈されるようになっている。

     しかし、森林科学分野で山地災害を主な研究対象とする砂防学分野だけでは、この疑問に応えることは難しく、森林諸科学の学際的な研究が求められている。森林飽和時代(太田、2012)となった現代において、気候変動下でどのような森林管理や対策が必要なのかは、今後、森林科学の分野横断的な研究や議論が望まれる。本報告では、これまでの山地災害を抑制するための森林管理のあり方に関する言説レビューを行い、森林の災害抑止効果に限界がある中で、森林管理・施業の規制による減災効果を議論するための研究課題を提示したい。

  • 執印 康裕
    セッションID: J5
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    気候変動の影響が顕在化している現在,数日間単位での短期降雨時系列変化および数10年単位での長期降雨時系列の変化が山地災害の発生・非発生に与える影響を検討することが重要であることは論ずるまでもない.その取り組みは様々な分野で実施されているが,主要なものの一つは気候モデルによる近未来の降雨予測に関するものであろう.さらに山地災害の発生・非発生を区分する降雨指標についても古くから取り組まれ,現在の我が国においては降雨指標としての土壌雨量指数が提案され社会実装されている.これらの取り組みは災害の誘因となる降雨を中心としたものであるが,数十年単位での長期時系列でみると素因の一つである森林植生の変化について検討することも重要であろう.

    森林植生が一定の山地災害防止機能を有することは周知の事実であるが,特に我が国ではここ数10年で森林蓄積が大きく増大しており,この影響を検討することも一定の意義はあると考える.本検討ではこの点に着目し,森林状態の長期時系列変化が山地災害の発生・非発生に与える影響について降雨指標に基づいて極めて簡単な予備的検討行ったので報告する.

  • 小杉 賢一朗, 福田 幹
    セッションID: J6
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    土砂災害の発生予測においては,横軸に積算雨量を表す雨量指標,縦軸に降雨強度を表す雨量指標をとって描いたスネーク曲線が用いられることが多い。具体的な雨量指標として,現在は土壌雨量指数と60分間雨量が用いられるが,かつては半減期の長い実効雨量と短い実効雨量の組合わせが用いられていた。このことは,2種類の実効雨量を組合わせることによって,山地流域の降雨流出プロセスをある程度適切に表現できることを示唆している。本研究では,各種地質を持つ山地源流域を対象として地下水位や流量の観測データを収集し,降雨イベント中の地下水位や流量のピーク値が,2種類の実効雨量を組合わせたスネーク曲線によってどの程度再現できるのか,また最適化された実効雨量の半減期はどのような値となるのかについて解析を行った。その結果,土砂災害の発生予測に用いられた半減期72時間と1.5時間の実効雨量の組合わせでは,地下水位や流量のピーク値についての十分な再現精度が得られないことが多いが,半減期を最適化することによって精度が向上することが確かめられた。また,最適化された半減期に地質による違いがみられることが示唆された。

  • 芳賀 弘和, 勝山 正則, 小杉 賢一朗
    セッションID: J7
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    本研究では,鳥取大学蒜山研究林における0次谷での水の流出域に着目し,その拡大範囲と継続時間の特徴を11か月間の観測データに基づいて検討した。また,それらと地下水位および1次谷の流量との関係を検討した。0次谷(約2ha)での水の流出域は,谷線(長さ約150m)上の12か所で評価することとし,湧水域および湧水が地表流となって流下する範囲と定義した。流出域の発生・非発生は,谷底の地表面温度の特徴を気温および地下水温の特徴と比較することによって判定した。結果として,流出域となった地点は11か所であり,流出継続時間は地点によって大きく異なった(1-293日間)。標高が0次谷中央部より高いところでは,比較的大きな降雨イベント(>70mm)によってのみ短期間(1-2日間)の流出が発生していた。これに対して,中央部よりも低いところでは,中小規模のイベントであっても流出が生じる地点(5か所)や流域が乾燥した状態(先行30日雨量<10mm)であっても流出が続く地点があった。0次谷での流出域の拡大・縮小パターンは,基岩内地下水位の変動および1次谷(集水面積5.9 ha)の流量変動と調和的であった。

  • 正岡 直也, 小杉 賢一朗, 谷 知幸, 松四 雄騎, 山川 陽祐
    セッションID: J8
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    近年の国内における山体地下水に関する研究は、主として花崗岩地質の山域で行われてきた。しかし、深層崩壊は地質と関連が深く、特に中古生層の付加体堆積岩地域での発生事例が多い。この理由として、付加体堆積岩地域では地盤の破砕や風化が進み、また断層構造により地下水の集中が起こる可能性が指摘されているが、実証的研究はほとんど進んでいない。本研究では高密度のボーリング孔を用いた地下水観測により、断層構造をもつ付加体堆積岩地域の地下水流動特性を明らかにすることを目的とした。

    観測は滋賀県大津市の葛川試験流域で行った。微地形判読や地質調査から、流域を上下に二分する高角度断層の存在が確認されている。全32ヵ所、計60本の基岩内ボーリング孔で地下水位を高密度に観測したところ、水面は断層の上部で平坦となり、断層を迂回するように流下していた。これは、断層粘土による遮水が原因と推察された。また、断層より下流側では地下水面が浅部と深部の二層に存在した。これは、断層に乗り上げ越流した水と、断層に浸透・透過した水とに分かれたと考えられた。この結果は、浅部と深部の地下水の溶存イオン濃度の差とも調和的であった。

  • 岩崎 健太, 福島 慶太郎, 長坂 有, 長坂 晶子, 石山 信雄, 境 優
    セッションID: J9
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    上流域で地下深くに浸透した水が下流で湧出する過程は、下流の河川流量・水質に大きく影響しているが、源流域において湧水点の空間分布を簡易に把握する手法は未確立である。そこで本研究では、湧水の安定した水温特性を利用し、夏季に撮影した熱赤外動画に基づく湧水点の把握を試みた。河道沿いを歩きながら撮影した水面の動画から各フレームの最低温度を抽出し、GPSの位置情報と結合することで、水温の低い湧水の位置をマップ化した。現地調査は、北海道富良野市の第四紀火山岩流域と標茶町の第四紀完新世摩周火山灰層I流域(京大北海道研究林)において、渓流水・湧水の採水・分析と併せて行った。富良野では約100mごとに湧水が存在し、その分布は必ずしも地表面の谷筋と一致しなかった。標茶では下流ほど湧水地点が多かった。湧水の水温と水質の関係は、富良野では相関がなかったのに対し、標茶では硝酸態窒素とリンを含む多くの溶存物質濃度について負の相関があった。標茶では隣接した牧草地流域で火山灰層深部に浸透した深い地下水が流域界を超えて渓流水に寄与している可能性があり、起源の異なる地下水の湧出地点を本手法で把握できることが示唆された。

  • 勝山 正則
    セッションID: J10
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    酸素・水素安定同位体比は水循環過程を反映するトレーサーとして用いられる。観測回ごとの値の変動が大きく1回の観測で地点を代表することが困難な降水と異なり、地下水では降水の長期加重平均値になるとされることから、地点を代表する値として利用しやすい。本研究では日本全国及び世界各地の地下水の酸素・水素安定同位体比分布から大陸スケールの水循環過程を考察した。地下水サンプルとしては全て市販のミネラルウォーターを用いた。日本列島における酸素安定同位体比の分布を見ると、南から北への緯度効果や、日本アルプスでの高度効果が明瞭に見られた。北米大陸では、西海岸から内陸部に向けて内陸効果が見られると同時に、同経度で見ると、東海岸・西海岸それぞれで緯度効果が見られた。ユーラシア大陸では、ヨーロッパにおいて内陸効果により東に進むほど同位体比が小さくなる傾向が見られた。これらの内陸効果は偏西風による水蒸気輸送の結果と考えられる。しかし、東経30度以東で北緯40度から60度の地点では、同位体比の低下傾向が小さくなった。この地域は北方林帯に相当することから、蒸発散による水蒸気供給が同位体比の低下を抑えていると考えられる。

  • 仁多見 俊夫
    セッションID: K1
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    地域林業では活性化を目指して事業取り纏めの推進や作業能率の向上が進められている。しかし、施業を担う林業作業事業体の可能作業量を、細区分所有された林況の異なる小班集合の施業内容と実施時期を同期させることが求められる。そこで、地域林業の森林状況をGISで把握し、対象エリアを設定するとともに、当該エリアの植栽、下刈り、間伐、主伐などの想定年度での発生量を林業作業事業体可能作業量とバランスさせることを検討した。この事業量のバランスは、SD(System Dynamics)で構築したモデルによって、シミュレーションとGISへのフィードバック評価の往復を繰り返すことによって行った。地域の林分管理手法と作業種毎の必要人工数を想定してモデリングし、林業事業体の年間の可能作業量に見合う施業対象林分(小班)を見出す手法を明らかにした。施業地の近さや傾斜などの地理条件を加味した評価機能を付加してモデルの自動化水準の拡張を進めている。

  • 大西 信徳, 伊勢 武史
    セッションID: K2
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    汎用的なドローンから樹種や本数・材積等を算出することができれば森林計画・管理や伐採の低コスト化・効率化が期待される。本研究ではドローンのデジタル画像から樹頂点検出やディープラーニングによる樹種識別、幹材積などの推定可能なForest Scannerソフトウェアを開発し、その精度検証を行った。調査はスギ・ヒノキが生育する人工林にて行い、phantom4 proを飛行させて撮影を行った。地上調査ではDBHの計測と伐倒による樹高測定を行った。ドローンで撮影した画像はSfM処理を行い、オルソ画像、DSM、DTMを作成し、Forest Scannerで解析を行った。結果、スギ・ヒノキ全46本の内、43本の検出に成功した。樹高の推定精度はスギ・ヒノキそれぞれRMSE 2.1m, 1.1mであった。DBHは樹高・樹冠面積から推定式を用いて推定を行い、精度はともにRMSE 4.4 cmであった。材積の推定精度はRMSE 0.20m3、0.18m3であり、ある程度高い精度で推定できることが分かった。本研究から一般的なデジタル画像を搭載したドローンとForest Scannerを用いることで、ある程度高い精度で本数・樹種・樹高・DBH・幹材積の推定が可能であり、林業・森林管理の新しいツールとして期待できることが示された。

  • 黒田 慶子, 早川 慶朗, 山崎 正夫, 松岡 達郎, 東 若菜, 谷内 廉
    セッションID: K3
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    日本では広葉樹材の大半を輸入に頼ってきたが、価格高騰や流通の減少により、家具製造や住宅関連企業では国内での調達を進めている。従来の調達地は北海道や本州の山地で自然に近い林が多かったが、農村集落付近の里山二次林(旧薪炭林・農用林)でも、ナラ類やケヤキ、ヤマザクラ、カエデ類などの有用広葉樹が大径化し、木材として十分利用できる。ナラ枯れの被害拡大や森林荒廃を止めるためにも、里山資源の積極的利用と次世代林育成を急ぐ必要があるが、里山整備という事業では木材利用の視点が無く、流通させる方法が無かった。そこで、林内の立木に耐候性の電子タグ(NFC)をつけ、樹種、直径、通直部などのデータをスマートフォンアプリで記録し、立木のデジタルカタログ化を進めた。データは送信可能な場所からサーバに記録する。伐採時には樹幹基部にタグを残し、次世代の萌芽育成に利用する。玉切り段階で丸太にタグを追加し、製材過程でタグの追加またはQRコードに交換しつつ、トレーサビリティを保障する。2021年には北海道や兵庫県内で実証実験を行い、タグ付け、伐採、製材、販売へと一通りの作業を行って、里山材の流通に有用であることを確認した。

  • 戸松 拓海, 櫛橋 康博
    セッションID: K4
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    タイヤやローラーを用いて昇降する枝打ちロボットが開発・製品化されているが,幹の凹凸によりスリップや脱輪などの走行上の問題がある.その解決のためには,タイヤやローラーが幹と直接接触しない昇降機構が有効と考えられる.本研究では,閉ループベルトを幹にらせん状に巻き付け,その上端と下端に設けられた巻き付け巻き取り機構によりベルトの張力を維持しながら昇降を可能とする機構を提案し,小型の試作機を開発して本方式の有効性や問題点を明らかとすることを目的とした.試作機はローテーションサーボモータを駆動源とする巻き付け巻き取り機構2基をらせん状に曲げられたアルミパイプで連結した構造とした.昇降の際には,それぞれのモータの設定速度に差を設けることで,張力を維持しながら進行方向前方の機構が巻き付け,後方が巻き取りを行う.実機の重量は約1.8kgで,幹直径は55~100mmで対応が可能である.直径80mmの幹での動作実験の結果,上昇速度は最大で約0.7m/minであること,2基の速度差が大きいほど可搬重量も増える反面,上昇速度は減少するなど想定された挙動が実機で確認できたほか,可搬重量増加の妨げとなる機構上の問題点も明らかとなった.

  • 渡辺 一郎, 蝦名 益仁, 角田 悠生
    セッションID: K5
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    北海道京極町のトドマツ人工林(4年生)において、新たに開発された遠隔操縦式小型刈払い機(長2.2m、幅1.2m、高1.1m)について、筑水キャニコム社製の通称名「山もっとジョージ」で伐根除去後の林地(伐根除去区)と伐根が残存する林地(伐根残存区)で下刈り功程調査を実施した。ただし、下刈り作業は植栽列間だけで苗間は行っていない。そのため、刈り残し植生が植栽木の成長に影響を与える可能性がある。そこで、植栽列間のみの下刈りと全刈りした場合での植栽木の成長差についての検討(3年間)も併せて実施した。遠隔操縦式小型刈払い機による下刈り功程は、伐根除去区で0.14ha/時、伐根残存区で0.09ha/時となり、人力下刈り(肩掛け式刈払い機)に比べ伐根除去区は1.8倍、伐根残存区は1.1倍となった。これらの功程差はGPSによる走行記録から、伐根残存区では伐根を探索しながらの下刈り作業のため走行速度が遅くなり、さらに伐根回避のために走行距離が長くなったためと推察された。また、刈り残し植生が植栽木に与える影響については、刈り残した植生の高さが苗高以上に達する植栽木が全体の約半数を占めたが、苗高は通常の下刈りを継続した植栽木と変わらなかった。

  • 佐々木 重樹, 榎本 真, 加治佐 剛, 山崎 太郎
    セッションID: K6
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    IoT機器のセンサー情報を活用して、林業現場において作業者の状態をモニタリングすることで被災や体調変化等の異常発生を検知し、他の作業者等に自動的に通知することで労働災害のリスクを低減するシステムの開発を念頭に、スマートウォッチから得られるセンサー情報を元にした、作業種の判別及び身体及び精神への負荷状況の把握の可能性を検討した。

    本研究では、静岡県内の林業作業の現場において、作業者の手首に加速度センサー・ジャイロセンサー・光学式心拍計を内蔵したスマートウォッチを装着し、作業中の3軸方向の加速度及び角速度と心拍数を常時測定するとともに、頭部にビデオカメラを装着して撮影を行うことで作業状況を把握した。また、作業開始時、休憩の前後及び作業終了時に作業者へのアンケートを実施し、主観的な疲労度を調査した。

    収集した手首の動きのデータに対して周波数分解による解析を実施することで、作業種別に特徴的な情報が抽出され、作業を判別できる可能性が示された。また、心拍数の変動を解析することで、身体的疲労及び精神的な緊張状態を示す指標の変化が観察できた。

  • 阪上 宏樹, 後藤 栄治, 油井 雅明, 和田 正三
    セッションID: L2
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

     長野県と山梨県に跨がる八ヶ岳連峰の横岳東側山麓に位置する八ヶ岳高原海の口自然郷は、サラサドウダンの群生地として知られ、樹齢100年以上と推定される巨木もある。しかし近年、シカによる樹皮の食害が増加し、貴重な巨木の食害、枯死などによる個体数の減少が深刻化している。昨年度までの現地調査によると、多くのサラサドウダンが剥皮害を受けていたが、一方で剥皮後、樹皮が再生したと考えられる幹も多く存在した。常識的に、樹木では樹皮が剥がされると、周囲の正常部位の細胞が分裂して被害部位を修復するため、修復には長い年月を費やし、短期再生は難しい。

     本研究では、樹皮の短期再生の可能性を検討するため、2021年5月上旬から9月上旬までの期間、1〜2日間隔で現地の同じ順路約3400mを繰り返し調査した。被害木には剥皮を受けた月日と被害番号を記載した札を付け、被害状況を記録した。10月に被害木の樹皮の回復状況を再調査した結果、調査地のサラサドウダンの剥皮害は6月から8月に集中したが、剥皮害後2週間程度で剥被部表面に新たに再生された組織が確認され、10月には茶褐色を呈した薄層の樹皮状組織が観察された。

  • 穂刈 裕一, 松木 佐和子
    セッションID: L3
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

     ニホンイヌワシ(以下、イヌワシ)は保全生態学上の重要種である。近年、イヌワシの繁殖成功率が低下しており、主要な餌動物であるニホンノウサギ(以下、ノウサギ)の生息適地かつイヌワシの狩場となる、低木草地や幼齢人工林の減少が要因の1つに挙げられる。国内有数のイヌワシの生息地である岩手県で石灰岩を採掘している鉱山会社では、開発の代償措置として、採掘で出た残渣の捨石堆積地(以下、堆積地)を緑化してイヌワシの狩場を創出する試みを行っているが、主要な餌動物であるノウサギの堆積地における利用状況は不明な点が多い。

     本研究では、糞粒法とセンサーカメラを用いて、堆積地におけるノウサギの環境選択の解明を目的に実施した。その結果、ノウサギは積雪期間、餌資源としてカラマツを特に選好し、隠れ場となるアカマツの周辺、設置した人工的な隠れ場を他の場所より有意に多く利用することが明らかになった。このため、堆積地を狩場として機能させるには、隠れ場の設置や、隠れ場となるアカマツ等の常緑樹の植栽、カラマツ等の積雪期の餌資源となる木本類の植栽によりノウサギの利用機会を増加させることが重要であると考えられる。

  • 鈴木 創
    セッションID: L4
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    オガサワラオオコウモリ(以下本種)は小笠原の固有哺乳類で絶滅危惧種である。植食性で、種子散布や花粉媒介の生態系サービス者として固有森林の維持・再生に不可欠な存在である。しかし、食害により農業との軋轢もあり、本種の通年利用可能な森林創出が課題である。本研究では、GPS機器を用いて把握した本種の利用森林の評価と将来予測を行い、創出すべき森林環境へ資料とする。本種は通年の7割以上を自然林で採餌し、同時に7〜8月と1〜2月は、外来樹種や農地への依存が高まることが明らかになった。現状で、両時期に本種を支える餌資源は、広域分布種のモモタマナや栽培種を含む外来種であり、小笠原の森林修復や再生事業において、保全対象外又は駆除対象であった。モモタマナを主要構成種とする多くの海岸林は、人為攪乱、外来種侵入、気象災害による劣化が進み後継樹種が欠損する状況が判明した。さらに、依存する外来種を減少させると、農地への依存が高まる可能性が高いことも明らかになった。今後は本種の餌利用カレンダーを把握した上で、現在の在来森林において自然餌が不足している時期の代替餌を創出・育成した上で、外来樹種の排除を進めることが重要である。

  • 工藤 琢磨
    セッションID: L5
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    ミサゴ、トビ、オオタカ、ノスリの4種の中型猛禽類の営巣木をまとめて研究対象とした。営巣木と同等の大きさの対照木を選択して、これらの間で、7個の計測値を比較して、どこにどのような差があるか調べた。日本の東北地方太平洋側の岩手県中央部の盛岡市、滝沢市、そして八幡平市にまたがる範囲に調査地を100 km2の面積で設定した。2013年から2016年の間、冬季に1回、繁殖期に1回、調査区内の森林で巣の探索を行った。営巣木と対照木の計測は2016年に行われた。その結果、単変量解析では、営巣木は対照木よりも、巣を支持する枝の数が有意に多く、巣の土台の枝からその上の枝までの垂直距離が有意に長いことが明らかになった。しかし、他の5つの計測値で有意差は認められなかった。同様に、ロジスティック回帰分析では、ステップワイズ手順で単変量解析と同じ2つの計測値が採択された。これらの結果は、中型猛禽類は、巣の土台となる巣を支持する枝の数が多く、その土台の上に巣を積んで、さらに巣の出入りができる広い空間を有する樹木を営巣木として選択していることを示している。

  • 正木 隆, 折戸 咲子, 上條 隆志
    セッションID: L6
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    つくば市の都市林を対象に鳥類の局所個体数を左右する因子を、(1)林種(針葉樹人工林か否か)、(2)林分構造(胸高断面積合計と本数密度)、(3)景観要素(周辺200mの森林面積と林縁長)、(4)季節変動する果実資源量の4つの観点から分析した。調査は18林分で行い、2020年1月~11月にほぼ隔週で鳥類相を早朝15分間のポイントセンサスで記録した。調査の結果、17科23種7185個体の鳥類を記録した。林種については、人工林よりも広葉樹林で個体数が多い傾向があった。その他の因子では、景観要素の森林面積がほぼすべての種に対して正の効果を示した。林分構造では、胸高断面積合計がカラス類に負の効果を示し、平均直径はヒヨドリやコゲラに正の効果を示す一方でエナガには負の効果を示した。一方、果実資源量はいずれの鳥類種に対しても有意な影響を示さず、既往の山林での研究事例とは異なる結果となった。以上の結果から、都市林で鳥類相を保全するには、まとまった面積の森林をどこかに確保するとともに、胸高直径や胸高断面積などの面で林分構造に空間的なバリエーションを与えることが有効であると考えた。

  • 松沢 友紀, 香坂 玲
    セッションID: L7
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    人類は主要作物の3/4以上をミツバチ等の花粉媒介者に依存しており(IPBES,2016)、都市域はこれら訪花昆虫類の重要な生息環境になり得る(ICLEI,2019)。近年、世界各地で都市養蜂が行われ、日本でも増加している。都市養蜂の増加に伴い住民トラブルも増加しているが、日本には都市養蜂に関する法的規制はほぼない(著者ら,2021)。既存ルールのある国々ではフェンスやセットバック(敷地境界までの距離)を設け、ミツバチの飛翔高度を高くし迷惑行為を低減させているが、策定根拠は脆弱であることから、設置による効果を検証した。実験区に高さと位置の異なるフェンスを設置しミツバチの飛翔高度を計測した。計測に3Dレーザースキャナーを用いることで効率的に計測できた。飛翔高度はフェンスの設置により有意に上昇した。高いフェンスはより高く誘導する効果があった。また、巣箱から離れるほど高く飛翔し、10m以上離れるとフェンス設置の効果は確認できなかった。以上から、フェンスとセットバックの設置は共にミツバチの飛翔高度を高くする効果があり、都市養蜂のルール策定において迷惑行為低減に寄与すると考えられた。

  • 原 亮太朗, 松永 孝治, 渡辺 敦史, 細川 貴弘, 北嶋 諒太郎, 久米 篤
    セッションID: L8
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    マツヘリカメムシは1910年に北アメリカにおいて世界で初めて発見され、2008年に日本への侵入が確認され、既に約30の都府県で目撃例がある。このカメムシは針葉樹球果の種子を摂食することが知られており、欧米ではこのカメムシによる被害が多く報告されている。熊本県合志市の林木育種センター九州育種場では、近年本種の定着と種子の吸汁が確認されており、防除法の確立が求められている。しかし、本種の日本における生態、発生時期、飼育法などはほとんど調べられていない。そこで本研究では、マツヘリカメムシの個体群動態の解明を目的として、林木育種センタ―九州育種場圃場において、2年に渡って野外調査を実施した。2020年は見つけ採り法を行い、定期的に齢構成を調べたところ、1年に3世代発生することが明らかになった。2021年は標識採捕法を試みた結果、一部の時期を除いて、標識を付けた個体はほとんど再捕獲されず、高い分散性を持つことが示唆された。また2021年は、1年に2世代しか発生しないという結果となった。この世代数の変化について、降水量などの環境要因を評価した。

  • 北嶋 諒太郎, 松永 孝治, 松田 修, 原 亮太朗, 渡辺 敦史, 久米 篤
    セッションID: L9
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    マツヘリカメムシは2008年に日本で確認された北米原産のヘリカメムシ科の昆虫で、マツ類の球果を吸汁し結実率を低下させる。マツヘリカメムシは餌の探索に、可視光等の視覚情報、モノテルペン等の化学シグナル、球果から射出される赤外線等を複合的に利用していると考えられている。クロマツの開花期である春には、雄花を吸汁している多くのマツヘリカメムシが観察されている。クロマツは雄花を1か所に集中的につけることから、雄花の温度が高くなり、赤外線の射出量も多くなっていると予想される。さらに、微気象的に高温になる位置にいるマツヘリカメムシは、餌以外にも熱を雄花から得ている可能性がある。そこで、雄花上は針葉上や雌花上よりもマツヘリカメムシは温まりやすいと仮説を立て、熱収支解析することで検証した。2021年のクロマツ開花期の日中に、九州育種場の気象条件や雌花、雄花、針葉の温度を熱電対で測定した。これらのデータを用いて、雄花上、雌花上、針葉上のマツヘリカメムシを想定し、熱収支式から体温を求めた。算出した体温と、マツヘリカメムシの1世代に必要な度日とを合わせ、個体のクロマツ上の位置が成長に及ぼす影響を評価した。

  • 小林 正秀
    セッションID: L10
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

     ナラ枯れに関する研究が本格化した当初から,被害木にカシノナガキクイムシ(以下,カシナガ)が穿入していることは知られていたが,ナガキクイムシ科は二次性の場合が多いことから,ナラタケ病や酸性雨が主因とされた。しかし,カシナガが媒介する糸状菌に病原性が認められたことから,カシナガが運ぶ病原菌が主因だと考えられるようになった。

     カシナガが外来種だと考えた研究者は「温暖化によって,南方由来のカシナガの分布域が拡大してミズナラと出会ったことが発生要因だ」と主張した。一方,カシナガが在来種だと考えた演者は「燃料革命によって薪炭林が放置され,カシナガの繁殖に有利な大径木が増えたことが発生要因だ」と主張した。この論争は長く続いたが,ナラ枯れが江戸時代に発生しいたことが判明し,演者の説が定説となり,温暖化の影響は無視されるようになってしまった。

     丹波栗の研究者である演者は,温暖化によって栗の凍害が深刻化した頃にナラ枯れが拡大したことから,温暖化がナラ枯れに関与していると考えてきた。そこで,温暖化の影響を解明するための研究を継続し,いくつかの論文を発表した。ここでは,その結果を報告する。

  • 松本 剛史, 滝 久智, 衣浦 晴生, 北島 博
    セッションID: L11
    発行日: 2022/05/30
    公開日: 2022/06/21
    会議録・要旨集 フリー

    カシノナガキクイムシ(カシナガ)が媒介するナラ枯れの被害地は拡大しており、従来被害の中心であった奥山林・放棄里山林だけでなく、近年では平地の雑木林や都市緑地等、人の生活圏に近い地域での被害も深刻化している。人の往来が多い都市域では従来の防除方法が使用しにくい現場が見受けられている。害虫防除の基本として物理的・生物的・施業的防除など複数の防除方法を組み合わせて対応することが望ましいとされている。しかし、カシナガに対する殺虫を目的とした化学的防除に関する基礎的な知見はほとんどないのが現状である。そこで、カシナガ成虫に対する殺虫剤の効果を確認するために、室内試験において薬剤施用量とカシナガの生存日数を調べる薬剤感受性検定法を構築し、2種の薬剤を用いて検定法としての妥当性を評価した。その結果、2種の薬剤区とも施用量が増加するに従って対照区と比較して平均生存日数が縮まる傾向が見られた。対数施用量と平均生存日数および対数施用量と一定期間後の死亡率のdose-response反応では、2種薬剤ともシグモイド曲線状を示し、本試験系が薬剤感受性検定法として妥当であると考えられた。

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