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今若 舞, 山瀬 敬太郎, 平野 恭弘, 谷川 東子, 池野 英利, 藤堂 千景, 大橋 瑞江
セッションID: T4-1
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
フリー
森林には斜面崩壊防止機能があるが、樹木間の水平距離の中央位置を示す立木間中央はその機能が最弱になるといわれている。そこで本研究では地中レーダ法で推定された根系情報から、土壌を掘らずに根による土壌補強強度を求めることが可能かどうかを明らかにすることを目的とした。調査地は兵庫県神戸市北区のアカマツ二次林である。この林分のアカマツとヒサカキ間の立木間中央で2020年9月に地中レーダ法によりレーダ画像を取得した。さらに2020年12月に同一地点で掘削調査を実施し実際の根の位置、直径、伸長方向のデータを取得した。取得したレーダ画像から根の位置、直径を推定し掘削データとの照合を行った。実際の根の数に対して地中レーダ法で推定される根の数を検出率として求めたところ、約3割と実際の本数を過小に評価していた。Wuモデル(1979)を用いて掘削データの根の直径と本数から計算した土壌補強強度と地中レーダから推定された根の直径と本数に基づき計算した土壌補強強度を比較した。その結果、掘削データの値に対して地中レーダの値が約2.5割となった。
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藤堂 千景, 池野 英利, 山瀬 敬太郎, 谷川 東子, 大橋 瑞江, 檀浦 正子, 木村 敏文, 平野 恭弘
セッションID: T4-2
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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樹木の倒伏抵抗力の検討等には根系構造の取得が重要である。根系構造を3次元(3D)データ化する計測方法として、根の位置座標とつながりを手動で計測する方法と3Dレーザスキャナを使用した計測方法がある。しかし、3Dレーザスキャナで計測された根系データは根系表面を表す多数の点群データであるため、直径など根特性を直接測定できず3D根系構造(RSA)データとして使いにくい。本研究ではクロマツ2個体について、3Dレーザスキャナで計測された根系構造をデータ化し精度を検証することを目的とした。フリーソフトウェアneuTubeを用い、点群データを根の位置座標を表すポイントデータに変換しRSAデータ化した。また精度検証のため、根の位置座標と幹中心からの距離別の根系断面積合計(CSA)について手動計測と比較した。その結果、根の位置座標について両法にほとんど差がなかった。幹中心からの距離が600mm以上離れると両法のCSAデータは良く合致したが、幹に近い場所では差が認められた。これは、スキャナからのレーザが根株付近まで入り込まず、点群データの取得が十分でないためと考えられた。本結果から、3Dレーザスキャナ計測によるRSAデータの簡易的な取得が可能となった。
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岡本 祐樹, 池野 英利, 平野 恭弘, 谷川 東子, 山瀬 敬太郎, 藤堂 千景, 檀浦 正子, 大橋 瑞江
セッションID: T4-3
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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樹木根は、土壌の水分と栄養を吸収し輸送する機能を持つ、地上部の支持を担うなど樹木における重要な器官であり、樹木根の構造はこれらの機能と密接な関係にある。しかし、根系の構造計測には多大な人的及び時間的労力が必要の上、解体を行うため根系の再利用は難しい。そのため、再利用可能な形でデータを保存及び計測が可能な、より効率的な方法が求められる。近年、画像から物体を三次元的に再構成しデジタル化する技術の一つであるSfMが利用されている。この手法を樹木根系に適用すれば、効率的なデータ取得及び活用が期待できる。我々はこれまでの研究で、SfMを用いた根系の形態を高い精度で計測できることを示した。しかし、その過程の一つであるノイズ削除は手動で行われており、主観的な処理である上、作業に多大な時間が必要であるという課題が明らかになった。そこで本研究は、RGB値を用いて樹木根とノイズを区分することで、客観的かつ短時間にノイズを処理する方法の開発を目的とした。その結果、ノイズは樹木根よりB値のピークが高いことを明らかにした。また、B値を用いた閾値による自動ノイズ処理の導入に成功した。
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田村 梓, 小熊 宏之, 藤本 稜真, 栗林 正俊, 牧田 直樹
セッションID: T4-4
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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樹木のフェノロジーを理解することは、森林の生産性や機能、及び炭素貯蔵のメカニズムを明らかにする上で重要である。しかし、その知見の殆どは葉に関するもので、細根のフェノロジーやその制御要因の理解は十分ではない。
本研究では、長野県飯綱高原にて落葉針葉樹であるカラマツの細根フェノロジーを様々なタイムスケールで明らかにすることを目的とした。自動スキャナ法で細根を撮影し、生理的機能に関わる色の変化に着目して生産量を評価した。3年間の日単位での細根成長パターンは年によって異なり、2019年は夏期に2度、2020・2021年は夏期に1度のピークを示した。細根を生理的機能が異なる白根と茶根に分類すると、8月までは白根の比率が高く、9月以降に茶根の比率が増加した。より詳細に6時間ごとの観測を行うと、画像中の細根投影面積に日変化がみられ、特に細根成長が活発な7月では、日中に減少し夜間に増加するという増減を繰り返しながら全体的には増加した。日変化には細根の不可逆的な伸長成長だけでなく、樹木の蒸散や根の水吸収に伴う根の収縮と膨張が影響していると考えられる。本発表では、細根フェノロジーについて環境要因との関係を含めて報告する。
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増本 泰河, 伊藤 拓生, 橋本 裕生, 牧田 直樹
セッションID: T4-5
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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本研究では、山岳域において樹木細根 (直径2 mm以下の根) がどのように水を獲得しているのかを明らかにするために、組織内の水の通りやすさを示す根水透過性を直接的に測定し、その標高応答性を評価した。調査は長野県と岐阜県の県境に位置する乗鞍岳の標高2000 m、2500 m地点で行った。対象樹種は落葉広葉樹で外生菌根種のダケカンバと、常緑針葉樹で外生菌根種のオオシラビソの2樹種とした。プレッシャーチャンバーを用いて細根に一定の圧力を加え、圧力当たりの出液速度を測定し、根水透過性を算出した。結果、根水透過性の標高応答性は樹種によって異なることが明らかとなった。ダケカンバの根水透過性は2000 m地点と比べて2500 m地点において有意に高くなった一方で、オオシラビソでは標高の違いによる根水透過性の有意な変化がみられなかった。この結果から、標高が高い地点では、ダケカンバは細根の水輸送機能を高め、地上部へとより水を供給できるようにしているのに対し、オオシラビソは大きく細根の水輸送機能を変化させていないことが示唆された。本発表では、さらに根特性の結果と合わせて山岳標高差に対する樹木細根の水獲得戦略に対する議論を深める。
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中路 達郎, 小熊 宏之, 牧田 直樹, 菅井 徹人, 遠藤 いず貴, 福澤 加里部, 池野 英利, 大橋 瑞江
セッションID: T4-6
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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細根の枯死は生理活性や弾力、比重、色変化等をもとに判別されてきたが、根の採取が必要、明確な基準がないといった課題も残されている。本研究では、色指標(色相、彩度、明度)、組織構造を反映する近赤外反射、成長根で生じる自家蛍光に着目し、非破壊かつ客観的な判定法の開発を目指した。ヒノキを対象に、49根系を野外で採取し、その呼吸活性、カラー画像、近赤外反射画像、紫外光励起の自家蛍光画像を取得した。次に、目視によって各根系における枯死部位の割合を判定した後、比重や形態特性、窒素量を計測した。目視による枯死割合と呼吸活性に有意な負の相関があった。枯死割合をもとに根系単位で生根と枯死根に分けて比較解析を行ったところ、色指標や自家蛍光に有意差はなかったが、太い直径階の近赤外反射率は生根より枯死根で有意に低かった。根直径と近赤外反射率には有意な正の相関があったが、回帰直線の傾きは生根より枯死根で有意に低かった。この関係を用いて画像上で枯死部位の割合を推定すると生根(目視35%)と枯死根(同61%)それぞれで48%、62%となった。以上の結果は、近赤外反射画像が細根の生死判定の非破壊指標になり得ることを示している。
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牧田 直樹, 谷川 夏子, 中路 達郎
セッションID: T4-7
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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樹木根の生理機能を理解するために、土壌からの養水分吸収機能と輸送機能を区別することは重要であるが、その機能の境界を判断することは難しい。本研究は、植物体の色素、有機物組成や根系の成長の段階を反映する可視-短波長赤外波長の連続分光反射光を駆使し、根系を分光画像上で多角的に評価し、吸収根と輸送根の境界の探索を行った。北海道大学苫小牧研究林の冷温帯林における針葉樹7種と広葉樹13種の計20種の根系を対象に、根系を3直径階級(0-0.5、0.5-1、1-2mm)に分け、458-2391nmの連続分光反射率をハイパースペクトルカメラで撮影した。その後、根系の形態(平均直径、比根長、根組織密度)、化学成分(炭素、窒素、リグニン濃度)および解剖特性(皮層幅、中心柱直径)を測定した。分光反射画像から根特性を予測するため、連続反射率を変数に部分最小二乗(PLS)回帰モデルを作成した。その結果、平均直径、比根長、根組織密度、窒素濃度、リグニンおよび中心柱と皮層幅の割合において有効な推定精度が得られた。本発表では、画像解析によって得られた部位ごとの根特性を手がかりに、根系内の吸収根と輸送根の分布特性と機能について考察する。
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石崎 涼子, 鹿又 秀聡, 笹田 敬太郎
セッションID: A1
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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市町村森林行政が抱える業務と体制のギャップを軽減・解消しうる体制整備のあり方を検討するため、2020年に全国の市町村森林行政担当者を対象に実施した業務実態に関するアンケート調査結果を用いて、施業監督業務の実態と体制整備のあり方について検討した。
施業監督業務は、ほぼ全ての市町村で行われており、担当者数が少ない団体ほど森林行政担当業務全体に占めるウエイトが高い。伐採届を受理する際、市町村が有する他の登録情報との照合を行っている団体は約6割で、保全対象や水系の有無、地質、傾斜などの確認等を実施する団体は少数派であること、特に担当者数が少ない団体での実施率が低いことなどが明らかとなった。担当者数が少ない団体では、法令やマニュアルの理解、スギなどの造林樹種の判別が難しいとする団体が過半を占め、そもそも樹種判別等の必要性を意識したことがない団体も一定割合いる。一方、一定の専門性をもった職員がいる団体では、それらの知識に不足を感じる団体は少ないが、天然更新基準となる広葉樹の樹種判別や崩壊危険地の判別が難しいとする団体は多く、こうした実情に応じた支援や人材育成等が必要と考えられることなどが示唆された。
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笹田 敬太郎, 石崎 涼子, 鹿又 秀聡
セッションID: A2
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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森林経営管理制度の施行に伴い市町村森林行政の役割や業務は増加しているが、体制や専門性は十分とはいえない。こうした市町村が抱える業務と体制のギャップを軽減・解消する上で、都道府県や外部組織の果たす役割は重要である。そこで、森林経営管理制度における都道府県や外部組織の支援実態と体制上の課題を明らかにするため、全国の市町村と都道府県を対象としたアンケート調査、および関係機関への聞き取り調査を実施した。
その結果、都道府県は市町村職員対象の研修会の実施やマニュアルの作成、地域林政アドバイザーの斡旋・紹介などの市町村への支援を実施しており、組織再編や担当人員増、外郭団体への委託などによって対応していた。一方で、回答した都道府県のすべての団体が人手不足を感じており、「多忙のため市町村職員と話す時間が持てない」(70%)との回答割合も高い現状にあった。こうした中で、森林組合やコンサル会社、外郭団体など専門性を持った外部組織が、データの収集や分析などを受託しており外部組織の果たす役割と重要性が大きくなっていること、市町村と都道府県の間で課題や連携に関する認識に違いもみられることが明らかとなった。
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鹿又 秀聡, 石崎 涼子, 笹田 敬太郎
セッションID: A3
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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現在、市町村には森林の管理・経営に関わる重要な権限等が与えられているが、市町村森林⾏政の体制は脆弱であり問題視されている。⼀⽅で昨今、状況を改善しうる⼿段は各種提供され始めている。特にICTを活用した業務のスマート化は、多くの自治体が取り組み始めている。本報告では、2020年に全国の市町村森林行政担当者を対象に実施した業務実態に関するアンケート調査結果等を用いて、スマート化に向けた情報整備の実態と体制整備のあり方について検討した。施業監督業務の実施において、対象森林の位置と林況の把握は最も重要な作業の1つであり、適切に管理された森林情報を有した森林GISの導入により作業効率の改善(スマート化)が期待できる。アンケートの結果から、市町村の森林GIS導入率は8割を超えるものの、地籍情報、路網、森林経営計画、伐採届申請箇所といった業務に必要な情報のデジタル化が遅れていることが明らかとなった。背景には、各種申請が紙ベースであることが多く、添付される図面も相対座標であることが挙げられる。そのため、スマート化を進めていくためには、絶対座標を軸とした電子申請システムの整備が重要である。
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江田 星來, 立花 敏, 茂木 もも子
セッションID: A4
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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2019年に施行された森林経営管理制度の運用において市町村の業務負担増加・人員不足が指摘されている。その対応策として広域連携が期待されているが、その連携構造や導入による各主体への影響に関する研究は見当たらない。本研究では、本制度における広域連携の役割及び各主体の連携構造の解明を目的に、本制度を運用する専門組織を設立して1市4町を核に多様な主体が連携する埼玉県秩父地域を対象に、埼玉県や1市4町、森林組合、林業事業体の担当者、また自伐型林業家、森林所有者へ聞き取り調査を行った。その結果、広域連携の役割では秩父市と集約化推進員が制度運用の中核を担い、連携構造では4町が自らの計画策定、埼玉県は助言やサポート、林業事業体は施業実施を行っていた。広域連携の結果として、4町における業務負担軽減、全体としての経費削減、情報アクセスの効率化、ノウハウの蓄積、運用の進展、小規模林業事業体の施業地確保、森林所有者の森林管理意識の向上等が見られた。他方、課題として秩父市の業務負担増加、出向元団体の業務量増加が見られた。以上から、本制度における広域連携の導入は総じて市町村の業務負担軽減に貢献すると推察された。
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木村 憲一郎
セッションID: A5
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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本研究では、2000年代以降における全国公設林業試験研究機関の運営形態、人員、予算、研究課題の変容を明らかにし、今後の課題を検討した。背景には都道府県林務行政組織の中で、研究機関の職員数が大きく削減されていたことがある。結果、運営形態では他研究機関との統合が進み、独立行政法人化の動きもみられた。人員では企画調整、研究部門に比べて普及、作業部門の職員数が大きく減少しており、研究部門では森林の防災、バイテクを専門とする研究員が減少し、50歳あるいは経験年数21年以上の研究員のシェアが増える傾向にあった。予算では施設費や研究費に比べて人件費、普及費の減少幅が大きく、競争的資金の獲得先は特定の省庁に集中し、獲得機関はほぼ限定されていた。事例調査ではあるが、研究課題は森林造成、木材、特用林産物が重視される傾向が続いた。普及部門は縮小し、研究員の職務は多様化し、現場とのつながりの希薄化が懸念される。一方、林業職の減少には歯止めがかからず、研究員の大幅な増員は見込めない。今後は研究課題の重点化、普及部署との連携、研究員の資質向上が一層志向され、このことは組織マネジメントの重要性を改めて提起している。
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高橋 卓也, 柘植 隆宏, 柴田 晋吾
セッションID: A6
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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森林環境譲与税を生態系サービスに対する支払い(Payment for Ecosystem Services;PES)あるいは支払いの支援財源として用いることにつき、市区町村担当者の意向を知るため2021年10月から12月にかけて、1,741の市区町村にアンケート調査を依頼し、805件の回答を得た(回収率46%)。①多面的機能への支払い、②生息地への支払い、③様々な産物への支援、④森林サービス産業への支援についてたずねたところ、「実施している」との回答は1~7%(①7%、②1%、③7%、④4%)と少数であった。「実施している」「いずれ実施したい」「興味がある」をあわせると16~42%と相当数の市区町村が少なくとも関心を寄せていた(①28%、②16%、③42%、④41%)。実施のハードルとして挙げられたのは、譲与税の趣旨(整備ができない私有人工林の整備)にそぐわない、効果の評価がしづらい、譲与額が少ない、担い手がいない、公平性の担保ができないといったことであった。なお、現状の使途の比率を総額で見た場合、基金積み立てが39%、森林整備(境界明確も含む)が30%、木材利用が12%であった。
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岸岡 智也, 内山 愉太, 香坂 玲
セッションID: A7
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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都道府県の独自課税として導入されている、森林保全を目的とした森林環境税を活用して実施される野生動物保護管理を目的とした事業が、基礎自治体での獣害対策としての里山林整備にどのような効果をもたらしているのかを明らかにすることを目的に石川県を事例に調査を行った。石川県では2009年より導入された「いしかわ森林環境税」の第3期目にあたる2019年度より、特にイノシシやツキノワグマを対象として集落周辺の過密化した里山林で集落沿いに間伐や藪の刈払いによる緩衝帯整備を行う「野生獣の出没を抑制するための里山林整備」事業が実施されており、2020年度までの5年間で県内の50地区で整備が実施されていた。また林業試験所によるイノシシの痕跡調査等のモニタリングにより実施地区ではイノシシの出没抑制の効果が確認されていた。その一方で整備対象地区は市町から提案された候補地区をもとに選定していたが、当事業による緩衝帯整備を実施した自治体は約6割であり、整備後の維持管理は集落住民自身が行うことなども影響している可能性が示唆された。
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加藤 葉月, 立花 敏
セッションID: A8
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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森林や林地の保続にとって保安林制度は重要な役割を果たしてきた。保安林制度と林業経営との関係について、藤掛・大地(2020)は水源かん養保安林を事例に主伐率の分析を行い林業経営の可能性を示した。この結果を参考に、本研究では民有林保安林における制度運用の把握及び民有水源かん養保安林と林業経営との関係性の分析を目的に、茨城県常陸太田市を事例に県行政担当者及び森林所有者5名に対して聞き取り調査と資料収集を行った。その結果、水源かん養保安林の所有者は概ね100ha以上の森林を所有し、その過半が水源かん養保安林であった。彼らは森林の継続的な所有と管理の意思を有し、木材生産による収入を得るべく林業経営を行っていた。また、常陸太田市における2016~20年度の主伐率と間伐率を保安林と非保安林とで比べると、1年平均で主伐率が0.60%と0.08%、間伐率は1.51%と0.60%であり、保安林の伐採率が高いことが分かった。水源かん養保安林の指定により固定資産税の非課税、相続税評価額の30%控除を受けられることから、税負担の軽減を図りながら主伐を行うことが可能である。水源かん養保安林の指定は民有林の持続的林業経営に寄与すると考えられる。
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平山 智貴, 佐藤 宣子
セッションID: A9
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
フリー
令和2年度森林・林業白書によると、森林整備・管理の中心的な担い手である林業経営体が管理を任されている山林面積は約98万haであり、その内の約9割を森林組合又は民間事業体が担っている。清水ら(2016)は、既存の森林関係セクターの役割を補完する形のNPO法人に着目し、多様な主体との連携の中でNPO法人が担う新たな役割の可能性を言及している。しかし、森林所有者と森林関係のNPO法人とが結びつく経緯やその実態を詳細に分析した研究は少ない。そこで本研究では、熊本県阿蘇地域で森林経営計画策定等の森林管理を行うNPO法人ふるさと創生(以下、NPO創生)に施業委託を行ったことのある森林所有者682名に対し、所有者の特性と経営意向を把握するためのアンケート調査を実施した。本発表では、所有森林面積階層別の分析結果を踏まえて、過去5年間の所有面積増減、森林の管理状況等の基本情報、NPO創生に施業委託した経緯や理由、管理委託した森林の状況や精算金額の満足度、NPO創生に今後期待すること、森林組合の役員経験の有無、森林管理・経営の後継者の有無などについて報告する。
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宮木 周平, 渡邉 涼介, 佐藤 宣子, 藤原 敬大
セッションID: A10
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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近年、豪雨災害が多発しており、林野被害も増加する傾向にある。林野庁によると、林野被害箇所の半数以上を林道施設等(林道・林業専用道・地すべり防止施設・林地荒廃防止施設)が占めている。林道が被災した場合には、林道施設災害復旧事業等によって国からの復旧のための補助がある一方で、森林作業道は、個人で維持管理するものであると規定されていることもあり、その被害箇所や補修費などの被害状況の詳細を把握しにくい。2017年7月に発生した九州北部豪雨は、人的被害に加えて、林野へも甚大な被害をもたらし、多くの林道施設等も被災した。そのような中、被災地区内の林業研究グループが、朝倉地区森林・林業推進協議会の予算を用いて森林作業道を復旧した取り組みが『林業新知識』(2019年10月号)で報告されているが、その被害状況や維持管理体制の実態については分かっていない。そこで本報告では、朝倉地区の3つの林研グループ(杷木・浮羽・甘木)、朝倉森林組合および浮羽森林組合、高木地区のコミュニティセンター、朝倉市役所農林商工部林務課を対象に実施した聞き取り調査の結果を踏まえて、森林作業道の被害状況や維持管理体制の実態について報告する。
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石 佳凡, 納富 信
セッションID: A11
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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森林の適切な管理を促進させるためには、森林整備や木材生産を担う様々な地元林業関係者がそれぞれの役割を十分に果たす一方、林業関係者間の連携も求められている。本稿では、埼玉県飯能市を対象にし、飯能市森林整備計画における地域産材利用拡大に関する取り組み方策の進捗状況を確認することにより、飯能市における地域産材利用拡大に関する取り組みの実施上の問題を明確する一方、林業関係者が地域産材利用拡大に対する問題認識を把握することで、林業関係者間の問題認識の相違が取り組みの実施に与えた影響を考察する。飯能市をはじめとした西川地域は、材価の低迷で林業・木材産業が衰退していることにより、自組織の運営に集中し、全ての林業関係者が一丸になりにくい。西川材利用拡大に関わる取り組みを進めるには難しい事情を抱えているが、少数である有志の林業関係者を中心として、木材生産の増産、西川材の知名度・競争力の向上等の側面で協働しながら進展を図っている。一方、西川材の利用拡大を図る中で、素材生産業者と製材業者は取引での木材生産情報などの共有が不十分とも指摘され、川上・川中の協力関係の再構築の必要性を明らかにした。
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茂木 もも子, 立花 敏
セッションID: A12
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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近年の木材自給率の高まりも相まって国産材の生産地と消費地とを結ぶ木材のサプライチェーンマネジメントの重要性が指摘されている。そこで、本研究では国産材に関する木材流通研究の動向を整理することとした。ここでは、村嶌ほか(2006)を参考に5つの時代区分を設定して主要な研究の動向を把握すると共に、矢作(1996)が示した流通論の分析アプローチの分類を適用して研究手法面についても整理を行った。その結果、1960年代に市売市場の発展に関する研究が多かったが、1970年代と1980年代には国産材の「復権」をテーマに商品開発、産地形成の担い手、産地毎の流通特性が分析された。1990年代になると住宅建築構造の変化に伴うプレカット工場への流通構造の把握が行われ、木材流通における情報技術の活用も議論され始めた。2000年代以降に大規模な製材工場等での木材流通や産直住宅に係る木材流通、2010年代以降には市売市場の機能変化、大規模な製材工場等の経営展開に着目した研究が多くなった。分析手法面では、一貫して機能や構造、担い手に着目した研究は多いが、流通構造とその変化に伴う成果に関する実証的研究は少ないと考察した。
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石原 昌宗, 藤原 敬大, 山本 美穂, 佐藤 宣子
セッションID: A13
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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2011年に発生した福島第一原発事故の影響によって、北関東地域(栃木県を含む)と東北地方のシイタケ原木産業は壊滅的な打撃を受けた。原発事故後のシイタケ生産に関して、コナラ原木や林地の表層土壌の放射セシウムの濃度に関する研究は多くある一方で、社会科学的な観点からの研究は極めて少ない。これまでに林野庁は東北・北関東地域の原木不足を解消するための需給マッチングシステムを構築しており、大分県、宮崎県、熊本県が栃木県へ原木を移出していることが先行研究によって明らかになっているが、それらの調達元の実態は依然として不明である。そこで本研究は栃木県の原木調達元である九州3県でシイタケ原木の移出の実態について明らかにすることを目的とする。3県の県庁、森林組合連合会等で行った資料収集と聞き取り調査の結果、大分県、宮崎県では森林組合連合会が事業の取りまとめを行っていたことや、大分県ではクヌギ原木、宮崎県ではコナラ原木を主に出荷しており移出する原木の種類が異なっていたこと等が明らかになった。また、森林組合の労働力不足やシイタケ原木生産者の高齢化によって、今後原木の出荷量が減少していく可能性があることも示唆された。
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小林 正紘, 芳賀 大地
セッションID: A15
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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これまで先行研究によって戦中の日本の木材政策についてその展開の過程が明らかされてきた。しかし当時の法令では「木材」と「薪炭」は別の資源として扱われており、供出計画の運用でも分かれていた。そのため、本研究では、戦中の旧大山村における薪炭の供出計画の事例を分析した。今回扱った資料は鳥取県旧大山村役場文書の一つである「昭和十九年 木材・松根・薪炭・木炭関係絡」中の「昭和十九年度依 薪炭関係綴 大山村役場」である。
結果、薪については、1944年度の割当量・追加割当量・成績量は同じ期間であるにも関わらず変動が大きい事、4月~6月の間の割当量と実績量について数値の矛盾がある(1944年8月10日の書類では、4月~6月の実績が順調に推移すれば12ヶ月分の割当を達成できそうであったが、1944年7月30日の書類では、達成率が57%となっていた)事、使用する単位が「把」「束」「石」と不統一であった事、等が分かった。また、薪の供出計画は木炭のものと比べ、木材の体積が小さく、様々な目的の計画が乱立し(短期的かつ突発的な割当が発生し)、書類ごとの数値の変動が大きかった。つまり、旧大山村の薪炭の供出計画は不安定であったといえる。
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新開 一馬, 岩永 青史, 原田 一宏
セッションID: A16
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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2010年代前半から世界的に昆虫食に注目が集まっているが、日本国内においては食だけでなく、採取においても地域ごとに伝統文化が育まれてきた。中部地方を中心に見られるクロスズメバチの採取(以下、ハチ追い)においては、地域ごとにルールが異なり、森林所有者や地域内の人、そして域外からの採取者の間で軋轢が生まれることもある。本研究では、ハチ追い時のローカルルールや「領有性」に関する意識を、参与観察を通じて把握し、地域間で比較した。調査対象地は岐阜県中津川市付知地区と愛知県豊田市石野地区とし、各ハチ追いグループのメンバーに聞き取りを行った。調査の結果から、各地域のハチ追いに際しての領有性への意識が異なることが明らかになった。領有性が低い付知では、ヒノキ伐採に従事する移住者を受け入れてきた歴史的要因が背景にあると考えられる。一方で、クロスズメバチの生育条件がよくない石野では、他地域にも足を延ばす必要があるという地理的要因が見られた。域内で完結しない採取が行われる石野のような場合には、ハチ追いグループ等によるルールの明文化や周知が必要となり、そのことが伝統文化を繋いていくことに貢献するであろう。
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峰尾 恵人, 今井 牧子, 磯崎 勝弘, 中村 正治
セッションID: A17
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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現存する森林蓄積をどう利用し、次世代の森林や、それと社会との関係をどう構想するかが大きな課題である。人類は、森林をエネルギーとマテリアルの源として利用し、特に日本では、歴史的には木材需要の大部分が燃料用であり、「木の文化」といわれるような多様な木材需要も存在していた。しかし、戦後には木材需要の単純化が急速に進み、拡大造林は、この変化への対応としての側面を有していた。近年、木材需要構造にさらなる変化が生じている。その一つが、化石燃料からの再代替としての燃料材需要の伸びである。木質バイオマスのエネルギー利用は近年急速に進行しているが、様々な課題も明らかになってきている。最近、こうした文脈とも関わりながら、木質バイオマスからのセルロースナノファイバー(CNF)や改質リグニンなどの化学品の製造が注目され、技術的研究と実用化が進展している。化学品製造は小回りの利く用途であり、林政学的観点からも注目される。本報告では、木質バイオマスに関する文献レビューにより、学術の動向を俯瞰した上で、木質バイオマスからの化学品製造の実用化に向けた森林政策論的課題を整理する。
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福嶋 崇
セッションID: A18
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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J-VER制度、国内クレジット制度が発展的に統合される形で開始されたJ-クレジット制度(JC)の特徴の1つは、森林をGHG削減のスコープとしていることが指摘でき、現在「森林経営活動」、「植林活動」の2つが認められている。JCは21年10月現在で全872件の事業が登録されており、認証量は712万tとなっている。これに対し、森林案件は森林経営活動の登録43件、認証見込み量60.3万tに留まっているのが現状である。J-VERにおける森林案件の比重は54.6%あり、この比重が下がった要因は、J-VERで森林案件の大半を占めていた間伐促進型の事業がJCでは認められていないことが大きい。現在、日本のパリ協定のもとでのGHG排出削減目標は、菅政権が2020年10月に表明した「2030年度に2013年度比46%削減」などとなっており、この目標達成の観点からは、森林分野を含めJC登録事業全体の認証量を鑑みても微々たるものとなっているのが現状である。こうしたことから、JCは国のGHG削減目標達成への貢献というよりも、CSRを主な目的とするカーボンオフセットとしての活用や、「山のための制度」(JC事業のみでのビジネス展開は不可能)としての位置づけることが適切な政策であると言えよう。
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藤原 敬
セッションID: A19
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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(一財)林業経済研究所では林野庁の委託事業として、2016年に「企業による森林づくり・木材利用の二酸化炭素吸収・固定量の「見える化」ガイドライン」を開発しネット上に公表している。近年このデータに関する関心が高まっており、上記ページから森づくりの二酸化炭素固定量の算出シートを5年間でダウンロードした約900件数うち6割以上がこの一年以内にダウンロードされたものである(2022年1月10日現在)。また、ダウンロード先に着目すると、約6割が一般企業である(その他行政が2割、学術機関0.5割、など)。近年企業の気候変動への取組が拡大している状況が「炭素経営に向けた取り組みの広がり」という環境省のウェブサイトに公表されている。TCFD(Taskforce on Climate related Financial Disclosure)などの3つの仕組みに賛同、取り組む企業名が公表れているが、上記すべてに取組んでいるとして公表されている40企業(2022年1月12日現在)のうち、約1/3の企業が前述の森づくりの計算シートをダウンロードしている。今後これら一般企業の森づくりへの関与が、わが国の森林政策にどのようにかかわってくるのか、重要な学術的のテーマの一つとなるだろう。
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平野 悠一郎
セッションID: A20
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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本研究では、森林(林地、林道、その他の山道)でのスポーツ・レジャーを中心とした多面的利用を促すにあたって、各種の関連制度(法的権利、保険制度、管理運営制度)の現状を整理し、その課題を導出する。林地に関しては、多面的利用を念頭に置いたゾーニングを反映して、それぞれの関連制度に基づく利用の規定がなされている。しかし、それ以外の林地一般でのアクセスや管理運営を保障する制度基盤を欠いている。林道に関しては、管理者による施設賠償責任保険加入等が、利用者の事故や怪我への対応も念頭に整備されている。その一方で、管理者における法的権利や管理運営の仕組みは統一されていない。そして、その他の山道に関しては、多くの場合、利用・管理にあたっての法的権利が曖昧であり、保険制度や管理運営制度による保障がなされない状態となっている。
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松浦 俊也
セッションID: A21
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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日本の森林は、明治初期(1870年代)の官民区分により国有林と民有林に分けられた。国有林は、かつての御林(藩有林など)や遠隔地の共有林などが多く、東日本に偏在することが知られている。しかし、詳細な分布特徴の解析は行われていない。そこで本研究では、林地の所有形態、地形、地質、気候などの様々な地理情報を用いて、国有林と民有林の分布特徴を全国スケールで分析した。その結果、国有林は、国土全体でも地方ごとにみても、高標高・急傾斜、冷涼、多雪など、低生産性の場所に多い傾向がみられた。都道府県別でも概ね同傾向だったが、地域によって異なる傾向も見られ、地域ごとの政策受容の違い等を反映していると考えられた。さらに、秋田県北にて、森林計画図や森林簿を用いて所有形態ごとの違いをGIS(地理情報システム)で解析した結果、国有林は民有林よりも奥山に多く、国有林のほうが民有林よりも小班ごとの面積規模が大きく、さらに共有林や会社有林のほうが個人有林よりも面積規模が大きいことなどがわかった。このように、多様な空間スケールにおいて、森林の所有形態と土地生産性等には関わりがあることが示された。
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山崎 澪二, 陳 碧霞
セッションID: A22
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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沖縄県には、琉球王府から受け継がれる防塩・防火、防風林として機能して植栽されているフクギ並木の歴史的景観を見る事ができる。しかし、その歴史的景観を形成する主木のフクギ並木は、住宅の敷地内に植栽されているため、琉球の伝統的遺産と認識する者が少ない。その為、ライフスタイルの変化や戦後の農村整備事業などにより、一部地域では伐採され、その景観の消失が後を絶たない。フクギ並木は、歴史文化景観、自然環境保全の観点から、沖縄の重要な遺産であり、持続可能な管理を行っていく必要性がある。
そこで、本研究では、本部町備瀬区と今帰仁村今泊区を事例に、フクギ景観の保全に関する調査報告書、区の議会議事録などの文献調査また各地域の区長及び長老への聞き取り調査を行い、フクギ屋敷林管理保全方法に関する意思決定過程を考察していく。本研究では、合意形成過程での重要なキーパーソン、これまでの合意形成過程の中での課題等について明らかにする。
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HANNAH BOND, 立花 敏
セッションID: A23
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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社会としての野生生物への関わり方が一層重要になっている。1995年に提訴されたオオヒシクイ自然の権利訴訟は、自然の権利に関する国内2番目の訴訟であり、地域、全国及び行政に影響を及ぼしたと考えられる。このことを明らかにするため、まず本訴訟の原告を始め、霞ケ浦地域でオオヒシクイ保護に携わる団体に聞き取り調査と参与観察を行った。次に、訴訟の発端となった高速道路の環境影響評価書や茨城県議会の議事録を茨城県庁で閲覧し、道路建設課の担当者に聞き取り調査を行った。また、全国紙4社のデータベースを利用して本訴訟に関連する記事を分析した。その結果、霞ケ浦地域では本訴訟をきっかけにオオヒシクイ保護に取り組む団体が発足した他、地元住民のオオヒシクイや環境保全に対する関心が高まったこと、オオヒシクイの飛来姿の見学者が増加したこと等が明らかになった。また、本訴訟が進行した数年間に鳥獣保護区の拡大が図られたこともわかった。さらに、新聞分析では新聞社による報道の傾向があり、記事数は訴訟の時期と関連していた。これらを踏まえ、地元住民と活動団体、そして行政がより協働意識をもって野生生物保護を行う必要性があると考察した。
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八巻 一成
セッションID: A24
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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半自然草原は希少な動植物の生息地であるとともに、観光レクや文化継承といった点での価値も有しているが、その価値はどのようにして「発見」されたのであろうか。神奈川県箱根の仙石原草原を事例として考察した。仙石原には明治末期まで広大な草原が広がっていた。昭和初期に仙石原を含む一帯が国立公園に指定された際、草原が開放的で利用に適した場所であるという認識はされていた一方、際立って価値のあるものという評価ではなかった。全国各地で草原が広く見られたためであろうと考えられる。仙石原の文化的価値がより強く認識されてくるのは、ゴルフ場や別荘地の造成によって草原が縮小して以降のことと推察される。また、草原の維持は火入れによって行われていたが、1970(昭和45)年を最後に火入れが行われなくなったことにより、草原景観の衰退が問題視された。その結果、1988(昭和63)年に火入れが復活し現在に至っている。このように、仙石原草原のレク的価値は国立公園指定期から見出されていたものの、積極的な保全は行われなかった。その後、草原面積が減少するにつれて、希少性という点からその文化的価値がより強く認識されるようになったと結論づけられる。
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金 慧隣, 庄子 康, 豆野 皓太, 久保 雄広, 愛甲 哲也
セッションID: B1
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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本研究の目的はCOVID-19の流行前後で都市緑地と都市近郊林の訪問者数と訪問数にどのような変化が生じたのかを定量的に把握することである。多くの先行研究では、COVID-19の流行により都市緑地と都市近郊林の訪問者数と訪問数が増加傾向にあると報告されているが、これらの知見の多くは訪問者の定性的な変化についてであり、COVID-19の流行後の状況を十分に捉え切れていない可能性がある。本研究ではKDDI Location Analyzerを用い、実際にその場にいたと思われる全人口推計値を携帯電話位置情報ビッグデータとセンサスデータから推計した。調査対象地は日本の札幌都市圏にある11か所の都市緑地と都市近郊林で、調査期間は2019年から2021年の無雪期の3シーズンである。分析の結果、都心部の都市緑地では流行後の訪問者数と訪問数はどちらも流行前と比較して減少していた。一方、郊外のほとんどの都市緑地では訪問者数は減少していたが、訪問数は増加していた。ほとんどの都市近郊林では訪問者数と訪問数がともに増加していた。またすべての都市緑地と都市近郊林において流行後はリピーターの割合が増加し、都市緑地においては近くに住む人々による訪問の割合も増加していた。
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陳 碧霞, 角 媛梅
セッションID: B2
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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National parks are usually large natural areas designated and managed by the government and are used for tourism. A questionnaire survey on Pudacuo National Park, the first park in China, was conducted to evaluate the profile of tourists, visitation motivations, activities, and socio-demographic factors that influence their motivations. The key findings include the following: 1) Tourists that visited the national park were young, well educated, and had a stable income. 2) The primary motivation factors are air quality, scenery, stay in nature, escape city, and relationship. 3) The most popular activities were walking on trials, taking of photos/videos, and appreciation of plants and animal nature. 4) Gender, education, and age were influencing factors of visitation, whereas income was not statistically found to influence motivations.
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八尋 聡, 愛甲 哲也, 庄子 康, 柘植 隆宏, 金 慧隣, 伊藤 瑠海, 松島 肇
セッションID: B3
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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知床国立公園では、交通渋滞および道路上でのヒグマと利用者との軋轢に対処するため、公園の入り口からシャトルバスへ乗り換える車両規制の導入が検討されている。乗り換えを促進するため、車内で自然ガイドが解説案内を行うなど、体験オプションを付加することも検討されている。持続的な運用のためには、料金、待ち時間、体験オプションに対する利用者の選好を踏まえた、運行体制の最適化が求められる。本研究は知床を事例に、自然公園におけるシャトルバス運行に対する選好を、個人によるちがいを踏まえて把握し、より多くの利用者にとって望ましい運行体制を検討することを目的とした。
2021年9月および10月に、選択型実験を用いた現地での意識調査を実施した。得られたデータは潜在クラスモデルにより分析を行った。その結果、回答者は複数の集団に分けられ、待ち時間が減る場合に、追加で支払ってよいと考える料金は集団により異なった。体験オプションについては、重視する集団と、重視しない集団とが存在した。これらより、料金と待ち時間のトレードオフを考慮した運行間隔の設定、一部の便をオプション付きで運行することなどの有効性を考察した。
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柴田 晋吾, 柘植 隆宏, 高橋 卓也
セッションID: B4
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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QRコードによる解説等へのアクセスが可能な仕組みを整備した林内の歩道・林道を、それらを参照するグループとそうでないグループの2グループにランダムに分かれて地域住民に散策を行ってもらい、森林散策による感情発現と対象物、QRコードによる解説等の効果などについてアンケート調査に基づいて調べた。森林散策によって生起された感情は、ラッセルによる感情の円環モデルの27種類の感情のうちの快(pleasure)側にあるものが大多数であり、覚醒(arousal)と眠気(sleepiness)の両方に分布していることが分かった。また、ガイドの必要性について問うたところ、人によるガイドが望ましいと考える者が多かったが、QRコードによる解説等の一定のメリットが認められた。さらに、QRコードによる解説等が散策による満足度などに与える効果について、プロビットモデルによる推定を行ったが、これらの有効性を示す信頼できる結果は得られなかった。
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香坂 玲
セッションID: B5
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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「ランドスケープ・アプローチ」は方法論・対象の双方で多義的に使われてきた(Artsら 2017)。「一定の地域や空間において、(土地・空間計画をベースに)多様な人間活動と自然環境を総合的に取扱い、課題解決を導き出す手法」(環境省[2020])とされ、公的な保護区に加え、民間取組等と連携した自然環境保全(OECMs)において農林業と保全とのトレード・オフも射程となる。ただ、概念、農林業の現場において浸透は途上だ(植竹ら 2021)。本報では国内外の動向について概観し、既存研究等を基に森林・環境の行政と科学の観点から試論を試みる。概念として同アプローチは、生物多様性条約の2014年での決議(貧困の根絶と持続可能な開発のための生物多様性)(XII/5)で初出し、その後の専門家会合において先住民等の住民参加型という含意が強調された。IPBES(2019)グローバル・アセスメントでも流域管理と合わせマルチ・セクターの手法としている。既存のエコシステムアプローチLandscape Literacy, Stewardship, Governance等との整合性からも議論される。実証研究では多面的機能、より個別の地域性を考慮し、生活空間・環境の分析との接近も待たれる。
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大宮 徹
セッションID: B6
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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立山ルートは山地帯から高山帯まで連続したアクセスの良さもあって、観光のみならず、さまざまな研究の場としても活用されている。 一方、立山の自然に対する人為的インパクトには長い歴史があり、観光や研究において期待される『原生的な自然』はそうして累積したインパクトと表裏一体の関係にある。
立山のある一地点に立って、足元の植生が人為的影響がほとんど及んでない自然が保存されているものか、あるいは何らかの人為的攪乱が加わった二次的な植生であるかの判別がつくことは、観光の目玉である自然解説にも、研究にも、また、新たな攪乱となる開発の是非を判断するにも不可欠な要件である。
しかしながら、さまざまな形態による人為的インパクトの記録には個々の地理情報があいまいなことが多く、事業ごとにばらばらで、任意の地点の履歴を確定することは容易ではない。
そこで、そうした履歴を集約し、また、新たに再発見される*であろう情報を追加しながら、各地点における人為的インパクトの情報の閲覧と更新が可能な形態するため、GISを利用した情報の管理・共有の方法を検討した。
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奥野 真木保, 深町 加津枝
セッションID: B7
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
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生業や時代の変化と共に自然資源利用の機会が減少する中でも、京都市鞍馬においてサンショウは現在も多くの住民に利用され続けている。
本研究では、鞍馬でのサンショウの採取・利用の現状、過去からの変化を把握することで、住民とサンショウとの多様な関係性を理解し、関係性が持続してきた要因を検討することを目的とした。その上で、鞍馬住民27世帯に対する聞き取り調査、採取環境の把握のための現地調査を行った。
その結果、高齢化や資源の減少などが要因となり、(1)採取者は減少し、(2)採取場所は山での採取から自宅周辺での採取中心に、(3)採取木は野生木から自然生えを植え替えた木中心に変化していた。
採取したサンショウは、主に花と新芽の佃煮や実を用いた山椒こぶ等の料理に利用され、作り方は各家庭で継承されていた。サンショウ利用には採取者自身が香りや味を楽しむ以外にもおすそ分けを通して人と交流する価値、地域の特産としての価値を感じる人も存在した。
鞍馬では自然に若芽が生える自然環境や手入れが少なくてよい生態的な特性、佃煮作りの食文化、住民が感じる利用価値などによって、半栽培でのサンショウ利用が継続していると推察された。
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田中 伸彦, 木俣 知大, 宮林 茂幸, 入江 彰昭, 平野 悠一郎, 下嶋 聖, 町田 怜子
セッションID: B8
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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長和町は、長野県の中東部に位置する人口5,815人の町である(2022年1月1日現在)。町内には中山道(長久保宿・和田宿)がとおり、観光デスティネーションとしては、北西部に美ヶ原高原が広がり、中央部には黒曜石原産地が存在、南部には複数のスキー場が開設されている。また半世紀ほど前から、都市住民の別荘地需要を背景に、優れた自然と気象条件を活かし、町や財産区などにより8箇所の別荘地が開発されてきた。しかし近年これらの別荘地はインフラ管理や、森林景観管理、世代交代に係る利用継続、販売価格の低迷など課題を抱えている。一方、町内には都市計画区域が存在しないため、別荘地に対する用途区域設定などの都市的管理を制度的に行い難かった。その様な状況のもと、町は2017年に策定された長和町長期総合計画を上位計画として、2021年3月に長和町別荘地マスタープランを策定した。本報告では同プラン策定の経緯や意図を整理するとともに、町内における移住を見据えた集落管理と別荘地管理との棲み分け、行政における別荘地管理への関与、別荘地のライフスタイルの発信の特徴などについてまとめ、報告を行う。本研究はJSPS科研費基盤B (20H04442)の助成を受けた。
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入江 彰昭, 森田 涼太郎, 宮林 茂幸, 木俣 知大, 田中 伸彦, 平野 悠一郎, 町田 怜子, 下嶋 聖
セッションID: B9
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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森林地域に立地する別荘地では、1990年代のバブル崩壊やリーマンショック以降、放置や空き家が目立ち、高木化した樹木や放棄された樹林は防災や景観上の適正管理が喫緊の課題となっている。本研究では、浅間山の北西麓の浅間高原に位置する群馬県嬬恋村を事例に別荘地管理の現状把握と森林景観整備の課題を明らかにし、その適正管理のあり方を考察することを目的とした。
嬬恋村の別荘地は、自然公園法に基づく上信越高原国立公園に立地もしくは近接し、森林法に基づく5条森林、景観法に基づく嬬恋村景観計画の景観形成重点地区に指定されている。そこで嬬恋村の各別荘地における行政規制を明らかにした。また各別荘地管理会社、および行政職員に聞き取り調査を行ったところ、以前はどこからでも浅間山が眺望できたが、現在は樹木が大きくなりすぎて見えなくなった、密林化した森林を更新し風光明媚な景観整備の必要性の意見を管理会社および行政側の双方から複数得た。
本報告は各別荘地管理会社の樹林地管理の実態と行政施策から別荘地管理における森林景観整備の課題と適正管理のあり方を考察する。JSPS科研費基盤B (20H04442)の助成を受けた。
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宮林 茂幸, 森田 涼太郎, 入江 彰昭, 木俣 知大, 田中 伸彦, 平野 悠一郎, 町田 怜子, 下嶋 聖
セッションID: B10
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
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わが国の別荘開発は、明治中庸ごろ鵠沼海岸において伯爵・子爵などの富豪層を対象に大手投資家によって開発されたのが始まりである。その後、第二次世界大戦前までは、私鉄資本を中心として箱根・伊豆・軽井沢などに開発が進んだものの、おおよそ高所得層の需要に応じて開発というよりも戸建てという形で推移している。別荘開発ブームとして一転するのは高度経済成長期における観光開発ブームとのかかわりで急速に増加している。その後バブル経済期、そしてコロナ禍の別荘需給の増減を示しながら今日に至っており、空別荘や放置別荘あるいは放置区画など負の動産が増加している。
別荘地における地元とのコミュニティ形成について北軽井沢の事例のもと、高度経済成長期における観光デベロッパによる開発段階(地元の山荘文化を求める)とバブル経済期の総資本による開発段階(リゾート文化を形成)、さらにコロナ禍における(新たな暮らし方を求める)段階では、異なっていることが明らかになった。
本報告は、別荘地コミュニティと地元コミュニティとの関係を整理しコミュニティ形成のあり方について考察する。JSPS科研費基盤B (20H04442)の助成を受けた。
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木俣 知大, 宮林 茂幸, 田中 伸彦, 入江 彰昭, 平野 悠一郎, 町田 怜子, 下嶋 聖
セッションID: B11
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
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嬬恋村は、群馬県の西端に位置する人口9,287人の村である(令和4年1月現在)。上信越高原国立公園の一角を占め、高原地帯には数多くの温泉地やゴルフ場、別荘地、スキー場、キャンプ場などが数多く存在する。
浅間高原地区は、大正15年に全通した草軽電気鉄道の敷設と並行して、大学関係者の別荘地造成が進展した。さらに、嬬恋村内は全域都市計画区域外で開発規制が無かったことや、国有原野の払下げ地や未開墾村有地も多かったことから、戦前には箱根土地(西武)、戦後には三井不動産などの大手資本による大規模開発、新興デベロッパー・地元資本による中小規模開発が進展した。
最盛期の1973年には30社を超える開発業者が別荘分譲を行い、別荘管理会社による管理区画数は1.7万区画を越えていたが(平成18年現在)、現在は建設済み別荘は約9千戸(うち2千戸は廃屋)と推測されている。
本報告では、嬬恋村における別荘地開発・管理の経緯を整理するとともに、近年生まれつつ新たな別荘の再生・利活用、別荘地内の森林管理やコミュニティ活動等を踏まえて、コロナ禍も踏まえた今後の別荘地管理のあり方を報告する。本研究はJSPS科研費基盤B (20H04442)の助成を受けた。
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愛甲 哲也, 庄子 康, 町田 怜子, 三上 直之, 武 正憲, 御手洗 洋蔵, 松島 肇, 林 和沙
セッションID: B12
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
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都市公園や花壇の維持管理、登山道の補修、草原景観の維持、動植物の保護、海岸・湿原の再生など、様々な公共の緑地において市民が参加する活動が展開されている。行政や管理者の予算や人員の不足に加え、市民や利用者の参加により、関心や愛着を高め、地域や利用者のニーズに沿った管理運営が期待されている。その一方で、活動者や団体の高齢化や負担増も懸念されている。本研究では、Webアンケート調査により、市民の関心、活動経験、活動への意欲、阻害する要因について明らかにすることを目的とした。
全回答者のうち、何らかの活動の経験者が48.7%、今後参加してみたいが20.1%、参加したくないが31/2%だった。経験者は、自身の体力のほか、仕事や趣味との時間の兼ね合いなどを障害と感じていた。参加してみたい理由は、自然や緑を守る必要性、地域の役にたちたい、体力と健康維持のためなどがあげられた。参加したくない理由としては、興味が無いほかに、時間の制約、費用負担・交通手段、活動の情報の不足などがあげられた。管理者や団体は、活動の意義や内容を丁寧に広報するとともに、参加者のニーズにあわせた多様な機会を設ける必要があると考えられた。
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武 正憲, 御手洗 洋蔵, 愛甲 哲也
セッションID: B13
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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都市近郊の森林の維持管理には地域の市民や団体との協働が欠かせないが、人口減少・高齢化に直面し、メンバーや資金不足に悩んでいることが多い。そこで、本研究ではつくば市近郊の森林の管理に関わるボランティアを対象にしたアンケート調査から、その現状と継続阻害要因を明らかにすることを目的とする。つくば市市民活動センターに登録されている団体(市民活動センター登録団体2019・2020)で、自然と緑に関係するボランティア活動を実践されている9団体を抽出し、承諾を得られた8団体に実施した。さらに、上記登録団体以外の筑波山で活動する市民団体にも依頼した。アンケート調査は紙とWebを併用した。回収数115件(紙面:44件、Web:71件)だが、空白の多い回答を無効と判断し、有効回答数98件(紙面:41件、Web:57件)とした。回答者の所属団体の活動として最も多く挙げられたものが「森林の管理」である(n=61、62.2%)。本報告では「森林の管理」する団体に所属する回答者を抽出し、その属性や活動の継続を阻害する要因について報告する。本成果は、JSPS科研費19H02981の助成を受けた。
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町田 怜子, 佐藤 天音
セッションID: B14
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
会議録・要旨集
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少子高齢化・人口減少社会を迎え、地域の自然環境の管理の担い手不足が課題となっている。2002年に創設された「風景地保護協定制度」では、国立・国定公園の草原をはじめとした里地里山の二次的な自然風景地で土地所有者が十分な管理を担うことが困難な場合に、環境大臣または地方公共団体もしくは「公園管理団体」が土地所有者と「風景地保護協定」を締結することで、土地所有者の代わりに自然風景地の管理を行うことができることとなった。この協定制度は土地所有者に対し税制上優遇等のメリットがあるにもかかわらず、今現在(令和3年ン12月17日現在)風景地保護協定の認可状況は阿蘇くじゅう国立公園の(公財)阿蘇グリーンストックを含む全国で2団体に留まっている。そこで、本研究では阿蘇くじゅう国立公園阿蘇地域の牧野組合と行政(農政局)に対し、風景地保護協定の認知や締結に向けた課題についてアンケート調査を実施した。その結果、アンケートに回答した牧野組合と行政共に8割は風景地保護協定について認知していなかった。また風景地保護協定締結に向けて「手続きの簡素化」や「説明会」開催等の運用手続き支援を求めていることが明らかとなった。
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堀 彰穂, 岩永 青史, 原田 一宏
セッションID: B15
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
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本研究では、国立公園における登山道整備において、ボランティアを活用して整備を実施している事例について着目し、ボランティアを活用した登山道整備の課題と可能性について検討を行った。調査手法として、中部山岳国立公園の雲ノ平において行われた、登山道整備プログラムへの参加観察やヒアリング調査を行った。
観察・調査結果より、ボランティアを活用することで、行政や、山小屋、山岳団体では対応しきれなかった整備を可能とし、登山道整備の新たな担い手としての可能性を有していることが明らかになった。また、整備手法の工夫を行うことにより、大量の資材や専門の機材、重機を持ち込まず、支障木や枯れ木、岩などの周辺の資源を活用することにより、負担の少ない整備を可能としていた。
一方、ボランティアの技術不足や、 整備手法についての経験が不足していること、知識の習得の機会が限られていることが課題であった 。また、参加者には整備ボランティアへの参加意欲はあるが、整備をする機会が少ないことが課題としてあげられた。
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藍場 将司, 原田 一宏
セッションID: B16
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
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日本の国立公園研究における市民参加・協働に関して、「Cinii」に掲載されている先行研究のレビューと、論文本文の文章解析を実施した。日本の国立公園に関する研究のうち本文が閲覧可能であった698件中、138件で政策への提言が確認された。文章解析の結果、年代を問わず自然・利用・地域・保護が頻繫に用いられており、自然の利用と保護の関係に注目した論考が多いと考えられた。一方で年代を経るにつれ管理が頻出することから、研究者の間で自然への人為的介入の必要性が高まっていると考察された。一方で「管理」は多様な文脈で使用されるため、現地での検証も合わせて行われる必要がある。市民参加や連携に関する提言は27件(19.6%)で確認された。1980年代から2000年代前半までは、地域住民の意思を反映させる制度的・行政的仕組みの欠如が指摘されていた。環境省が連携を進める趣旨の提言を公表した2007年以降、国立公園の協働を主たるテーマとして議論する論考が増加し、「協働」の理論モデルの構築や負の側面にふれる論考が確認されるなど、「協働」を軸に市民参加や連携に関する議論が進行したものと考えられる。
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川本 明佳里, 原田 一宏
セッションID: B17
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
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本研究では、福岡県の北九州国定公園平尾台の草原を事例に、野焼きの意義の変遷と現代の野焼きを支える地域住民と行政が連携したシステムについて分析する。調査方法は地域住民、行政、関連企業への聞き取り調査と文献調査である。かつて平尾台は、江戸時代に牛馬の飼料や堆肥、茅葺きの屋根材などに使用する草本を採取する入会地として管理された。明治時代から戦後まで陸軍演習地とされた後、東谷地区(福岡県北九州市小倉南区)へ払い下げられた。現在は東谷地区の住民が野焼き委員会を結成し、防火帯の設置と野焼きを実施する。背景として昭和52年の人身事故から野焼きが中断された後、平尾台の安全管理には野焼きが必要だと地域住民から要請があり、平成5年に行政や企業と連携し組織だった野焼きが実施されるようになった。野焼きは、平尾台が採草地として利用されなくなった今も山火事の防止と景観維持、害虫駆除を目的に続けられている。地域の少子高齢化に伴い在来知を絶やさぬ工夫と、地域外のアクターとの協力を模索する必要があると考えられる。こうした状況にある平尾台をローカル・コモンズとして捉え、その管理手法としての野焼きについても考察を試みる。
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田中 慶太, 深町 加津枝
セッションID: B18
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
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京都市鞍馬で毎年行われる「鞍馬の火祭」には、アカマツやコバノミツバツツジ、フジなどの自然資源が松明や篝火の資材として使用されている。これらの大部分は、地元住民が協力しながら身近な里山で調達してきた。しかし、1960年代以降、人工林化や常緑樹林化、マツ枯れが進むとともに、シカの食害や台風による被害などにより、里山の植生が大きく変化してきた。その結果、火祭で使用される自然資源の調達が困難となるとともに、松明の質も低下してきた。鞍馬の里山再生プロジェクトでは、火祭の資材となる森林資源を調達することのできる里山の再生を目的として、2021年から活動を行っている。その中では「鞍馬の里山づくりマスタープラン」が作成され、場所の特性を踏まえたゾーニングや、各区分の具体的な整備計画、手法が検討されている。整備計画にあたっては、地域住民が、より広範囲の樹木の生育状況を網羅的に把握することが重要である。そこで、本研究では、ドローン画像と機械学習を使用した手法を、地域参加型研究へ導入することを検討した。検討にあたっては、文化的に関わりのある樹種を、住民との対話を通して抽出していくことなどを重視した。
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浅井 康晴, 比屋根 哲
セッションID: C1
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
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本研究は、「森のようちえん」(自然体験を重視する幼稚園)の卒園生にとって、森のようちえんでの体験が結果としてどのような意義があったのかを、幼稚園教諭、卒園生、卒園生の保護者へのアンケート調査やインタビュー調査によって明らかにしたものである。調査対象としたY幼稚園(1992年創設)は自然豊かな園庭を有し、園児は多くの時間を自然の中で過ごしている。アンケート調査では、幼稚園教諭には「どのような人に育ってほしいか」、卒園生の保護者には「在園中に子供が成長したと感じること」や「卒園後の成長に幼稚園での体験が影響したと思うこと」、卒園生には「幼稚園での思い出」や「幼稚園の体験が今でも影響していると思うこと」等を尋ねた。調査では、卒園生へのY幼稚園時代の影響を尋ねた記述回答から「自然、虫、木、外」等の自然体験に関する単語が多く抽出されたこと。幼稚園の思い出では、自然に対してネガティブな経験(虫に刺された等)を記述した卒園生でも、卒園後の影響では、自然への好感、Y幼稚園への好感を表す記述回答がみられたこと、等の結果が得られた。
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寺下 太郎
セッションID: C2
発行日: 2022/05/30
公開日: 2022/06/21
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ドイツ語圏で行われている森林教育認証カリキュラムは、主に林業関係者と教育関係者を想定している。そのため、はじめに林業関係者には教育学について、教育関係者には森林科学についての概論を学んでもらう。森林と教育とは別物なのか、すなわち、森林を理解するうえでの哲学や体系と教育を理解する上でのそれとは、同質なものなのか、対立するものなのか、並立するものなのか。その整理が森林教育そのものを作り上げていくために必要となる。本研究では、森林科学と教育学それぞれに底流する考え方を整理していく。森林科学の大きな柱は、持続可能性と多様性という時間的・空間的に補完し合う哲学である。そして、それはマクロなシステムとミクロなシステム双方についての認識が必要となる。他方、教育学が対象としているのは、一人一人の人間である。個人を何のために育成するのかという目的意識とどのように育成すべきかという手法論が議論される。両者は全く別のことのように見えるが、実際には親和性が高い。それは、あたかも一見対立する概念であるサステイナブルであることとディベロップしていくこととが共存し両立するという理念に通じるものがある。
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