日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌
Online ISSN : 2435-7952
3 巻, 4 号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
総説
  • ―AMRアクションプランと抗微生物薬適正使用の手引きについて―
    伊藤 真人
    2023 年3 巻4 号 p. 117-124
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    昨今,世界的に薬剤耐性菌を増やさずに既存の抗菌薬をいかに有効に活用するかという「抗菌薬の適正使用」の重要性が高まっている。本邦でも2016年に「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン(2016–2020)」が作成され,国,地域,医療機関および関連学会などさまざまなレベルでの啓蒙活動と対策が行われてきた。これを受けて日本感染症学会,気道感染症抗菌薬適正使用委員会では,2020年「気道感染症の抗菌薬適正使用に関する提言」を発表し,その後の新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の影響も鑑みて,近々「改訂版」が発表されることとなっている。本稿ではこの改訂版について触れるとともに,昨今の抗菌薬使用状況の変化について概説した。さらに2022年から保険収載された「耳鼻咽喉科小児抗菌薬適正使用支援加算」の考え方について解説する。小児科においては2018年から「小児における抗菌薬適正使用加算」が算定可能であったが,2022年からは耳鼻咽喉科においても同種の加算が設けられた。この加算算定のためには,「地域感染症対策ネットワーク」活動に参加するか,感染症にかかる研修会に定期的に参加した上で,「療養上必要な指導等を行い,文書により説明内容を提供」する必要がある。

  • 藤原 大介
    2023 年3 巻4 号 p. 125-131
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    ウイルス感染防御に対するアプローチは,ワクチンや抗ウイルス剤といった既存医療が第一選択であることは言うまでもないが,そのインフラのハードルの高さや開発期間の長さは常に課題であった。本稿では,ヒトのウイルス感染防御メカニズムに着目し,世界で初めてとなるプラズマサイトイド樹状細胞(pDC)を活性化させる乳酸菌の発見・効果について述べる。ヒトの免疫系において外界のウイルスの侵入を感知し,IFN産生で初期応答を行いつつ,ウイルス抗原提示により獲得免疫を誘導する後期応答を行うという中心的役割を果たすのがpDCである。そこで様々な自然免疫の刺激物質を豊富に含む乳酸菌を題材として,pDC活性化乳酸菌を公共の微生物バンクをソースとして探索し,見つかったのが,プラズマ乳酸菌である。

    プラズマ乳酸菌はpDC活性化の指標であるI型IFNの産生をリードアウトに選抜された菌株であるが,その後の動物実験により,少量の経口摂取によりパラインフルエンザ・ロタ・デングの様々なウイルス感染に対して著効を示すことが確認された。また,健常人を対象とした臨床試験において,冬季のインフルエンザ様症状の軽減,デング熱・一般感染症への効果も検証されている。最近では,COVID-19に対する基礎・臨床試験が進行しており,結果がまたれる。

    さらに感染症に対する効果だけでなく,マウスにプラズマ乳酸菌を投与し,免疫機能を賦活させ続けることによる抗老化作用も確認されている。

  • 小笠原 徳子
    2023 年3 巻4 号 p. 133-137
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    両口蓋・咽頭扁桃や鼻粘膜はひとつづきの粘膜組織であり,ヒト気道において外来抗原の認識と取り込み,異物除去,病原体の侵入阻止など日常的に多彩な機能を果たしている。粘膜組織における非特異的あるいは特異的な防御機構は多段階にわたって制御されており刺激の程度に応じた反応を誘導するように調整されているが,その詳細は構成細胞を含めて未だ不明な部分が多い。アレルギー性鼻炎や2型炎症性疾患であるポリープを伴う慢性副鼻腔炎,慢性扁桃炎や病巣性扁桃炎など多彩な疾患の病態が形成されるのも上気道粘膜組織の免疫応答性の破綻による。本稿では耳鼻咽喉科医として極めて身近であり,長年の研究対象組織でありながらその果たす役割や様々な病態に関わる機能の全容が未だ不明である上気道粘膜組織について,扁桃組織と上皮細胞を中心に近年の研究成果および微生物に対する免疫応答システムの概説をする。

原著論文
  • 平野 隆, 川野 利明, 吉永 和弘, 門脇 嘉宣, 梅本 真吾, 松永 崇志, 鈴木 正志
    2023 年3 巻4 号 p. 139-148
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    加齢に伴うT細胞機能低下は様々に報告されている。今回,加齢マウスにおける抗Programmed death-ligand 1(PD-L1)抗体投与に伴う上気道粘膜免疫賦活化とヘルパーT細胞動態の変化について解析を行った。各年齢マウス(6週齢,6ヵ月齢,12ヵ月齢,18ヵ月齢)に,10 μgの無莢膜インフルエンザ菌由来外膜蛋白(OMP)と1 μgのコレラトキシンを粘膜アジュバンドとして週1回計3回OMPを経鼻投与した。粘膜免疫の賦活化を目的として,高齢である12ヵ月齢マウス,18ヵ月齢マウスにおいては経鼻投与に抗PD-L1抗体投与を併用した。経鼻免疫後7日目に,鼻腔洗浄液および血清を採取し,OMP特異的抗体価を測定した。鼻粘膜,鼻粘膜関連リンパ組織(NALT),頸部リンパ節,脾臓を採取し,単核球を分離したのちに,各種蛍光標識した抗CD3a,抗CD4抗体,抗CD8抗体,抗CD69抗体,抗CD279(PD-1)抗体,濾胞性ヘルパーT細胞のマーカーである抗CD185抗体を用いて単核球を染色し,フローサイトメトリーによるT細胞解析を行った。経年的にOMP特異的抗体価の低下を認めたものの,12ヵ月齢マウスでは抗PD-L1抗体投与に伴い抗体価の増加を認めた。しかし,18ヵ月齢マウスでは抗体価の増加を認めなかった。抗PD-L1抗体投与に伴い,12ヵ月齢マウスおよび18ヵ月齢マウスともにPD-1陽性CD4陽性T細胞比の増加を認めたが,12ヵ月齢マウスのみOMP特異的抗体価の上昇とCD4陽性T細胞にCD69の発現増強を認めリンパ球の活性化が示された。また,濾胞ヘルパーT細胞は12ヵ月齢マウスのみ局所リンパ組織において増加傾向を認めた。抗PD-L1抗体による粘膜免疫賦活化は,加齢の程度により効果に差を認める可能性がある。

  • 宇都宮 敏生, 田村 祐紀, 阪上 智史, 鈴木 健介, 八木 正夫, 岩井 大
    2023 年3 巻4 号 p. 149-154
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    扁桃周囲膿瘍は,発症初期は軽微な症状であっても数日から1週間程度で激烈な症状が出現する,耳鼻咽喉科医による治療介入が必要な疾患である。我々は,2020年3月から始まったCOVID-19の流行に伴い,扁桃周囲膿瘍患者が医療機関への受診を控えることにより適切な時期に適切な治療を受けられなかった可能性があると考えた。今回我々は当院でのCOVID-19流行前と流行下で扁桃周囲膿瘍患者の受診状況,重症化の有無を比較検討したので報告する。対象は2018年3月から2022年2月を流行前および流行下に分け,その期間中に当院で治療を行った流行前29例,流行下41例の扁桃周囲膿瘍70例の扁桃周囲膿瘍の症例を対象とした。流行前と比較して,流行下の60歳未満の患者の症状発現から医療機関受診までの期間が平均1.9日延長していた。今回重症化の有無の指標として検討した初診時CRPは流行前の群が平均値8.35 mg/dl,流行下の60歳以上の群が平均値12.11 mg/dlと流行前の群と比較して流行下の60歳以上の群において増悪している傾向があった。初診時に喉頭浮腫を認めた症例は流行下の60歳以上の群で多く,膿瘍形成をきたしてから前医に受診した患者は流行下において多く認めた。しかし,今回の検討において気道狭窄による気管切開や頸部膿瘍へ移行するなど重症化した患者はおらず,治療に関しては医療機関への受診が遅れたことによる影響は大きくなかったと考える。

  • ―山梨県における地域差と年次推移の検討―
    島村 歩美, 代永 孝明, 渡邉 大輔, 五十嵐 賢, 石井 裕貴, 松岡 伴和, 増山 敬祐, 櫻井 大樹
    2023 年3 巻4 号 p. 155-161
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    近年スギ花粉症は有病率が上昇しており,本邦における国民病とも言われている。近年の報告から山梨県はスギ・ヒノキに対する特異的IgE抗体の陽性率が全国で最も高く,有病率も経年の疫学調査において全国1位であった。有病率上昇を引き起こした原因の大きな部分を占めるのが花粉抗原の増加とされ,山梨県では1998年から独自にダーラム型花粉採集器による県内複数地域での測定を開始し現在まで継続している。1998年から2023年までの25年間のスギ・ヒノキ花粉飛散量の測定データを基に地域差と年次推移の比較を行い,近傍の気象台の観測データを参考にして気象条件との相関についても検討を行った。

    花粉飛散量は花粉源からの距離を反映した地域差が認められた。スギ花粉は山間部・市街部どちらにおいても増加傾向であり,増加率に差は認められなかった。ヒノキ花粉は地域により増加率に差がみられ,花粉源から離れた地域では減少傾向も認められた。全観測点でスギの花粉飛散量は前年7月の平均気温・日照時間との正の相関があり,ヒノキは加えて前年11月12月と飛散直前の日照時間にも正の相関を認める観測点があった。

    スギとヒノキの花粉量の推移については現在の齢級面積の差が影響していると考えられ,今後スギだけでなくヒノキ花粉量も全域で増加に転じる可能性がある。また,花粉形成過程の違いからヒノキ花粉量が気象条件に影響を受ける時期についてもさらに検討が必要と考えられた。

症例報告
  • 増田 佐和子, 臼井 智子
    2023 年3 巻4 号 p. 163-167
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    心因性咳嗽は何らかの心理的因子によって生じる疾患で,小児に多い。我々はCOVID-19に関連するイベントが契機と考えられた10代の心因性咳嗽3例を経験した。症例1は13歳男子,主訴は咳嗽である。COVID-19罹患後に咳嗽が持続し登校できず,内科などを経て4ヵ月後に当院小児科から当科を受診した。咳嗽は乾性で食事中や睡眠中は出ず,問診中も軽い乾性咳嗽を繰り返していたが喉頭内視鏡検査中は止まっていた。器質的異常を認めず心因性咳嗽と診断し,2ヵ月後に改善した。症例2は心因性咳嗽の既往のある11歳女児,症例3は13歳男子で,いずれも2回目のCOVID-19ワクチン接種後から出現,持続する咳嗽を主訴として接種44日目に小児科より受診した。症例2は軽い乾性咳嗽,症例3はオットセイの声様の乾性咳嗽で,いずれの咳嗽も睡眠中は出ず,問診中は出ていたが内視鏡検査中には出なかった。症例2は心因性咳嗽,症例3は喘息と心因性咳嗽の合併と診断し,それぞれ3ヵ月後,6ヵ月後に改善した。症例1ではCOVID-19罹患による咳の条件付けや後遺症に対する不安が,症例2,3は長引く咳の原因となる既往症や合併症に加えてワクチンの副反応に対する不安が,心因性咳嗽を引き起こした可能性がある。いずれも耳鼻咽喉科と小児科で器質的疾患を否定し,本人と家族に本症の機序などを説明した結果,予後は良好であった。COVID-19が小児にもたらす不安にも留意して複数の診療科により心因性咳嗽の診療にあたる必要がある。

  • 前田 泰規, 上野 達哉, 原 隆太郎, 松下 大佑, 落合 秀也, 太田 修司, 工藤 直美, 松原 篤
    2023 年3 巻4 号 p. 169-177
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    レミエール症候群は,口腔咽頭感染,内頸静脈の血栓性静脈炎,全身臓器の血栓塞栓症を特徴としており死亡率も高い疾患である。最も多い遠隔病巣は,肺,関節,骨,皮膚,軟部組織であり,中枢神経系合併症は約3%とされている。

    症例は62歳男性で,悪寒と体動困難で当院救急外来に救急搬送された。造影CTで右副咽頭間隙膿瘍を認め,排膿後に抗菌薬治療を開始した。入院時の血液と膿瘍の培養からStreptococcus constellatusが検出された。入院後,不随意運動と精神症状が出現し,髄液検査および造影MRIで髄膜炎,脳炎,硬膜下膿瘍,S状静脈洞血栓症が判明した。抗菌薬治療に加え,抗凝固療法を開始し,血栓は消失した。視床下核に炎症が波及したため,不随意運動と精神症状が生じたと考えられた。不随意運動は改善したが,精神症状は残存した。レミエール症候群を診療する際は,中枢神経系合併症の可能性に留意する必要がある。

  • 乙田 愛美, 竹内 万彦
    2023 年3 巻4 号 p. 179-183
    発行日: 2023年
    公開日: 2023/12/28
    ジャーナル フリー

    アナフィラキシーは重篤な全身性の過敏反応で,診療の様々な局面で遭遇する。今回全身麻酔下手術後に,アナフィラキシーを発症した症例を経験したので報告する。

    症例は9歳男児で,キウイ,アーモンド,落花生等の食物アレルギー歴はあったが,薬剤アレルギー歴はなかった。滲出性中耳炎の診断で全身麻酔下に鼓膜換気チューブ挿入術を施行した。ラテックス製でない手袋を使用し,セボフルランで導入後,フェンタニルクエン酸塩,ロクロニウム臭化物を静脈内投与し,気管内挿管した。セボフルラン,レミフェンタニル塩酸塩で維持し,手術終了20分前にアセトアミノフェンを投与,終了時にフェンタニルクエン酸塩を投与した。手術終了13分後にスガマデクスナトリウムを投与し,その3分後に抜管してから軽度の乾性咳嗽を認めた。帰室後も咳嗽は持続し,軽度喘鳴も聴取し,掻痒感のある皮疹が全身に広がったため,アナフィラキシー重症度グレード2と診断した。アドレナリン等の薬剤投与を行うと皮疹は速やかに消退したため翌朝退院した。

    本症例では,退院後の血液検査でラテックスアレルギー,好塩基球活性化試験でスガマデクスアレルギーの確定診断を得た。併存している食物アレルギーやラテックスアレルギーに対処した上で手術を施行したが,スガマデクスによるアナフィラキシーは予期することが難しい。術前の最大限のアレルゲン排除と患者に合わせた方法による誘因薬剤の診断が重要である。

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