日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会誌
Online ISSN : 2435-7952
1 巻, 3 号
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総説
  • 池田 勝久
    2021 年1 巻3 号 p. 117-122
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    パッチクランプ法と蛍光顕微鏡を使用して,哺乳類の鼻腺の腺房細胞のシグナル伝達メカニズムを解明した。アセチルコリン(ACh)は,細胞内Ca2+を上昇させることにより,ClチャネルとKチャネルの両方を間接的に活性化した。管腔膜のClチャネルを介したCl流出に起因するその後の膜脱分極は,基底外側Kチャネルのさらなる活性化およびK流出のために有利な電気化学的勾配をもたらす。KとCIの両イオンはNa-K ATPaseとNa-K-CIの共輸送によって媒介されて,細胞内に流入する。Na-K-CI共輸送は,おそらくCa2+/カルモジュリン依存性ミオシン軽鎖キナーゼによるリン酸化を伴うCa2+の増加によって直接活性化される。その結果として生じる管腔側の陰性化は,傍細胞経路を介してNaを管腔に流入させる。Clチャネルの活性化は,NaClが豊富な等張腺分泌物を生成する上で重要な役割を果たす。複数の薬品は,上記の細胞シグナル伝達経路によって媒介される刺激応答カップリングに影響を与える。

  • 近藤 悟
    2021 年1 巻3 号 p. 123-127
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    中咽頭に存在する口蓋扁桃,上咽頭に存在する咽頭扁桃は,ワルダイエル輪を構成する免疫装置である。上咽頭にはエプスタインバールウイルス(EBV)に関連する上咽頭癌,中咽頭にはヒト乳頭腫ウイルス(HPV)に関連する中咽頭癌が惹起される。この狭い領域に異なったウイルスにより悪性腫瘍が発生する機序は明らかではないが,これまでの研究から少しずつその病態が解明されつつある。

    上咽頭癌は高転移性の癌である。上咽頭癌の病態形成には,EBV癌遺伝子の潜伏膜蛋白1(LMP1)が重要である。例えば,LMP1はSiah1という低酸素関連分子を介し血管新生を誘導することで転移を促し,その発現は予後不良因子であることが分かってきた。そして,LMP1は浸潤・転移だけでなく発癌のイニシエーションのステップに重要な「癌幹細胞」性を誘導する必須因子である。

    一方で,先進国でHPVによる中咽頭癌の発症が急激な増加が問題である。正常口蓋扁桃にも発現する内因性免疫APOBEC3が発癌のトリガーのインテグレーションを誘導することが分かってきている。

    なぜ,これらの二つの悪性腫瘍の母地が異なるのか理由は分かっていない。EBV関連上咽頭癌組織中のHPV陽性率を検討すると,HPV陽性例はほとんど認めないこと,非腫瘍性の口蓋扁桃と咽頭扁桃のEBV量を検討すると,小児期には咽頭扁桃にEBV量が多いことから,EBVの咽頭扁桃への組織特異性が示唆される。今後,さらにこれらのウイルス発癌の研究を継続し,新規治療の開発につなげることを期待する。

  • 高原 幹
    2021 年1 巻3 号 p. 129-133
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    扁桃病巣疾患に関する本教室の基礎的,臨床的検討の結果を概説する。本疾患群の病因として,常在細菌や内在するDNAに対して扁桃が過剰免疫応答を起こし,ホーミング受容体を介した扁桃T細胞の病巣への遊走,IgAを含めた免疫グロブリンの量的,質的産生異常が背景にあり,扁桃を原因とした自己免疫・炎症疾患症候群(tonsil induced autoimmune/inflammatory syndrome:TIAS)であると考えられる。TIASを構成する疾患において扁桃摘出術の効果は高く,耳鼻咽喉科を紹介された症例において,積極的に手術を勧めることが望まれる。

  • 高林 哲司
    2021 年1 巻3 号 p. 135-142
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    慢性副鼻腔炎は炎症のタイプによるエンドタイプ分類が病態の理解や治療法の選択を行う上で望ましいと考えられるようになってきた。エンドタイプは大きく,好酸球性炎症を呈する好酸球性副鼻腔炎(ECRS)と非好酸球性副鼻腔炎(non-ECRS)の二つに分類され前者はtype2炎症を呈し,難治性であることが知られている。ECRSにおける鼻・副鼻腔粘膜の病的な浮腫は鼻腔においては鼻茸と呼ばれており,篩骨洞を中心に認められる病的粘膜も同様の組織学的な特徴を呈することから同じ病態によって形成される病変であると考えられる。またこれらの病的粘膜は喘息,特にアスピリン/NSAIDs不耐症を伴う場合では極めて難治性でありECRSの治療の主なターゲットは鼻・副鼻腔の鼻茸を含めた病的浮腫状粘膜である。

    ECRSにおける鼻茸の組織学的な特徴は,強い炎症によって末梢血管から漏出したアルブミンを中心とした血漿タンパクの貯留による著しい浮腫,線維化の低形成,そして好酸球の著しい浸潤である。我々はこれまでの検討によって鼻茸組織において浮腫の遷延化の原因が鼻粘膜に過剰に形成されたフィブリン網が液体の血漿タンパクをゲル化することによって組織内に保持されることが鼻茸形成の主な形成メカニズムであることを報告している。生体におけるフィブリン網の形成は止血機構としての働きの他に,組織の初期修復にも関与し,いずれも凝固系によって形成され,線溶系によって分解される。フィブリン網の過剰な沈着は様々な疾患の原因になることが知られており,ECRSにおいても凝固・線溶系の制御異常が鼻茸形成に関与することが窺われる。

    本稿では我々が行ってきた研究の中で,ECRSの鼻粘膜においてtype2炎症が形成されるメカニズム,またtype2炎症が凝固・線溶系に影響し,どのように難治性の鼻茸の形成に関与しているのか,最後に病態を踏まえた上での治療ターゲットの可能性について概説する。

  • 吉崎 智一
    2021 年1 巻3 号 p. 143-145
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    宇宙誕生から130億年,地球誕生から46億年,最も原始的な生物誕生から30億年が経過した。現在,コンセンサスが得られている生物の定義におけるキーワードは自己複製と代謝である。この定義に基づくとウイルスは特定の生物との間に密接な相互作用を示すにもかかわらず生物とはいいがたい。それともウイルスを生物か無生物のどちらかに分類すること自身に無理があり,意味のないことなのかもしれない。ウイルスというと悪役のイメージが強いが,例えば哺乳類の胎盤の獲得など,生物の進化に果たしてきた役割は大きい。ウイルスの誕生から今日に至るまでの道のりを縦糸とし,生物と無生物,自己と非自己,病原性と共生,など免疫,アレルギー,感染症的視点を横糸として,本学会で取り扱うテーマの学術的側面を深く考察する。

  • 熊井 琢美, 原渕 保明
    2021 年1 巻3 号 p. 147-152
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    20世紀後半よりウイルスが発癌に寄与することが次々と明らかにされてきた。頭頸部は多くの病原体が侵入する経路であり,耳鼻咽喉科・頭頸部外科医が加療する疾患においてもヒトパピローマウイルスやEpstein Barrウイルス(EBウイルス)が中咽頭癌や上咽頭癌の発生や進行に関わっている。鼻性NK/T細胞リンパ腫は頭頸部を主座とする致死的な疾患であり,病理学的診断が非常に困難なことで知られる。1990年にEBウイルスが本リンパ腫細胞に発現することが明らかとなり,EBウイルス関連ゲノム(EB virus-encoded small RNAs:EBER)のIn situ hybridizationによる検出が本疾患の診断に役立ってきた。さらに血中のEBウイルスDNA量が病勢に応じたマーカーとして臨床応用され,ウイルス発癌の特性が実臨床にも生かされてきたと言える。近年,EBウイルス由来タンパクであるLMP1が本疾患の病態に関わるメカニズムの解明に加え,EBウイルス由来タンパクを治療標的としたペプチドワクチンの開発が進んできた。本稿では,EBウイルスを中心とした本疾患の病態解明および本疾患を取り巻く免疫微小環境,今後の治療戦略について概説する。

  • 高原 幹
    2021 年1 巻3 号 p. 153-156
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    扁桃を原因とした自己免疫・炎症疾患症候群(tonsil induced autoimmune/inflammatory syndrome:TIAS)と扁桃細菌叢の関連に関しては,掌蹠膿疱症に関してはα溶血性連鎖球菌が,IgA腎症に関してはパラインフルエンザ菌の検出率が高く,それらの菌に対して各疾患の扁桃リンパ球は過剰免疫応答を起こしていることが報告されている。我々の16SrRNA遺伝子検査における扁桃細菌叢の比較では,病巣扁桃にて検出率の高い細菌は認められなかった。しかし,ウイルスや細菌の内在する核酸であるCpG-ODN(deoxycytidyl-deoxyguanosine oligodeoxynucleotides)の過剰免疫反応はTIASの病態に関連している可能性がある。本総説ではTIASと扁桃細菌叢の関連に関して我々のデーターを基に概説する。

原著論文
  • 塩野 理, 金子 光裕, 白石 千壽瑠, 逆井 清, 二宮 啓彰, 鬼島 菜摘, 大氣 大和, 青山 準, 山本 学慧, 丹羽 一友, 波多 ...
    2021 年1 巻3 号 p. 157-163
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    本邦ではスギ花粉とダニの2つの抗原に重複感作しているアレルギー性鼻炎症例は多く,両者に対する治療薬を併用した舌下免疫療法の報告が散見されている。今回,当科で施行している併用舌下免疫療法の内容,有害事象とそのマネジメントを報告する。2017年10月から2018年11月までに併用舌下免疫療法を開始した30症例を対象とした。スギ花粉治療薬はシダトレン®またはシダキュア®を,ダニ治療薬はアシテア®を用いた。初めに単独投与を4週間以上行い,続けて2剤の分割投与(朝晩)を4週間以上行い,その後に2剤を5分間あけて連続投与した。各段階で重篤な有害事象が認められないことを確認して次の投与方法に進むこととした。先行薬の選択はランダムではなく,主治医と患者との話し合いによって決定した。参加症例30例の内訳は男性18例女性12例,年齢は17~62歳(平均38.5歳),観察期間は3ヵ月~18ヵ月(中央値7ヵ月)であった。併用舌下免疫療法は30例のうち29例で可能であり,液剤の味が苦手で中止した症例が1例あった。2剤を併用できた29例のうち27例は連続投与で継続できたが,残りの2例は連続投与後に有害事象のため分割投与に戻して継続した。有害事象は60%の症例に認められ,分割投与や連続投与にかかわらずダニ治療薬で有意に多く,すべて軽微なものであった。結論として,併用舌下免疫療法は安全であり日常診療で認容し得るものであると考えられた。

  • 平野 隆, 川野 利明, 松永 崇志, 吉永 和弘, 門脇 嘉宣, 梅本 真吾, 鈴木 正志
    2021 年1 巻3 号 p. 165-175
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    今回,T細胞の分化に焦点を当て,無莢膜型インフルエンザ菌の外膜タンパク質(OMP)に対する加齢による上気道の粘膜免疫応答の変化を分析した。マウス(5週齢,6ヵ月齢,1年齢マウス)に,10 μgのOMPと1 μgのコレラトキシンを粘膜アジュバントとして週1回3回OMPを経鼻投与した。投与した後に中耳,鼻粘膜,鼻関連リンパ組織,頸部リンパ節,および脾臓から単核細胞を収集し,フローサイトメトリーによってT細胞の分化を分析した。対照は無免疫マウスとした。フローサイトメトリーによる単核細胞のリンパ球領域の分析は,CD3陽性T細胞がリンパ組織の加齢によって減少する傾向があることを示した。CD4陽性T細胞では,経鼻免疫後の5週齢マウスの上気道粘膜でメモリーおよびエフェクターT細胞比率が増加し,また,5週齢マウスのリンパ組織でエフェクターT細胞比率が増加した。上気道粘膜およびリンパ組織におけるOMPに対するT細胞免疫応答は加齢により減少する可能性があることが示唆された。

症例報告
  • 清水 藍子, 菅谷 明子, 片岡 祐子, 檜垣 貴哉, 假谷 伸, 安藤 瑞生
    2021 年1 巻3 号 p. 177-180
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/12/28
    ジャーナル フリー

    人工内耳植え込み術において,術後の創部感染や皮弁壊死により,電極の入れ替えや側頭・頭頂筋膜弁を用いての閉鎖など,複数回の手術にて感染を制御した症例の報告が散見される。しかし,人工内耳術後の創部感染により,言語発達途上にある難聴児において音声入力の遅延が生じることは影響が大きく,極力保存的加療が望ましい。今回我々は保存的加療により人工内耳植え込み術後の局所感染を制御できた1例を経験したため報告する。

    症例は1歳11ヵ月男児。2ヵ月時に両側高度感音難聴と診断し,補聴器装用による効果が乏しかったため,1歳1ヵ月時に右人工内耳植え込み術を施行し,両耳装用の希望があったため,X年1月20日に左人工内耳植え込み術を施行した。退院後の術後12日目に保護者が左耳後部の悪臭があることに気付き,術後13日目に療育施設で創部の排膿を指摘された。同日当科を受診し,創部の離開と同部位からの排膿を認めた。膿を細菌培養検査へ提出するとともに,入院にて1日2回の生食洗浄を行った。また,MRSA感染の可能性も考慮し,メロペネムの投与を行った。培養結果がMSSAであったため,術後16日目よりセファゾリンナトリウムへ変更した。排膿を認めなくなったため,術後20日目に全身麻酔下で閉創を行った。術後約2ヵ月目のX年3月19日に音入れを行い,現在も感染なく経過している。

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