観光研究
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特集号: 観光研究
36 巻, 3 号
Vol.36 特集号
選択された号の論文の12件中1~12を表示しています
論文
  • 李 潤智, 木村 竜也, 羽生 冬佳
    2024 年36 巻3 号 p. 1-8
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/07
    ジャーナル フリー

    本研究は、国内におけるワーケーションの実態と課題について考察することを目的としている。まずワーケーション推進に取り組む自治体へのアンケート調査からその実態について把握した。さらに推進目的と効果が一致していた長野県辰野町と飯島町を事例とし、ワーケーションの推進方策の詳細について分析した。これらの結果、自治体では多様な目的からワーケーションを推進しているものの、推進方策は一時的なイベントや補助など、類似したものに止まっていた。また事例分析では、企業の合宿・研修利用が主になっており、バケーションよりもワークを中心としたワーケーションがなされる一方で、地域内外の新たなネットワークの形成もみられた。

  • 山田 雄一, 川村 竜之介
    2024 年36 巻3 号 p. 9-16
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/07
    ジャーナル フリー

    本研究では、宿泊・飲食業の就業者数について、コーホート分析の代表的な手法である要因法と変化率法を用いて、市町村別の将来推計を行った。その結果、推計方法によって傾向が異なり、要因法では多くの市町村で今後とも労働力確保が可能である一方、変化率法では逆に多くの市町村で労働力が減少する可能性が示された。これは、推計に利用したデータが 2000-2020 年であり、女性と高齢者の就業が増加する期間と合致したためであると考えられる。今後、宿泊・飲食業が労働力を確保していくためには、高齢者の雇用を維持することと、同産業に適正の高い若年層の雇用、特に女性の雇用が重要となることを示唆している。

  • ―長崎原爆資料館を訪問する観光客のレビューに着目して―
    田原 洋樹
    2024 年36 巻3 号 p. 17-25
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/07
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、観光客が平和貢献に寄与している実態を実証的に解明することである。パンデミック後に変化する国際情勢において観光を再定義し社会化する必要性が問われているが、その具体的方策は明らかにはなっていない。そこで、本研究では、旅行口コミサイトに投稿されたレビューをもとに、計量テキスト分析を行うことで、観光客が平和貢献を果たす実態解明を試みた。本研究から、平和貢献に寄与する観光客の特徴として、内省を誘発する観光経験、他者推奨意向の促進、国際情勢による共起パターンの変化、以上 3 つが示唆された。

  • ―沖縄県の事例―
    小原 満春
    2024 年36 巻3 号 p. 26-35
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/07
    ジャーナル フリー

    本研究は、沖縄県へライフスタイル移住を行った人々が、移住後にその地を離れる移住地からの離脱に焦点を当てた。離脱理由については 1 次インタビュー調査および 2 次アンケート調査を組み合わせた混合研究法を用いて、離脱動機を明らかにした。また、アンケート調査のデータを用いて、地域コミットメントおよび離脱後に沖縄との関係継続の意向の有無とその関連性について分析を行った。その結果、離脱動機はこれまでの U ターン研究で指摘されてきた要因と類似したが、地域コミットメントを形成することで、離脱後も関係を継続する意向が形成されることが明らかになった。

  • ―石川県鹿島郡中能登町への移住者を対象とした半構造化インタビュー調査より―
    清水 一樹, 川澄 厚志
    2024 年36 巻3 号 p. 36-45
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/07
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、中能登町への移住者を対象とした半構造化インタビュー調査をもとに、関係人口を構築するための要素について質的側面から明らかにし、その上で、スローツーリズムの特性を踏まえ、同ツーリズムによる関係人口の構築の可能性を計画論的に考察することにある。本研究の結果として、第一に、関係人口を構築するための要素として、「地域に在住する地縁血縁者や友人知人等の存在」が重要であることが分かった。第二に、スローツーリズムの特性を活かすことで、関係人口を構築する上で重要となる「地域に在住する地縁血縁者や友人知人等の存在」の創出に寄与することが示唆された。

  • ―上田市、金沢市と七尾市、唐津市、佐賀県の来訪者への質問紙調査から―
    郭 一博, 中山 徹
    2024 年36 巻3 号 p. 46-55
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/07
    ジャーナル フリー

    本研究は 4 つの異なる地域のアニメツーリズム事例を対象に質問紙で調査し、分析した結果、異なる地域や作品の特性によって来訪者の意識と行動に共通点と相違点があることがわかった。共通点として、作品を原動力に地域を訪れ、作品のゆかりの場所を重視しつつ一般的な観光も行い、高い満足度と再来訪の意欲が見られた。物語の内容により来訪者が異なり、地域の取組みにより交通手段、情報の収集に違いが生じ、舞台地と観光スポットの重なりが行動範囲に影響するなど相違点が存在した。地域とアニメ作品のタイアップが来訪者の意識と行動に影響を与えることが示唆された。

  • ―持続可能な観光地マネジメントに向けた EBPM の実践を念頭として―
    古屋 秀樹
    2024 年36 巻3 号 p. 56-65
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/07
    ジャーナル フリー

    本研究は、岐阜県高山市を対象として、観光客の来訪に対する住民評価に及ぼす影響要因を明らかにすることを目的とする。観光客来訪に対する評価と個別要因との関連性に加えて、個別要因の影響の大きさやトレードオフを明らかにすることを念頭に、住民を対象としたアンケート調査を実施した。数量化 I 類により分析した結果、「観光面での評価に誇りを感じる」「来訪による経済的効果」「居住年数」による影響の大きさが明らかとなった。これらは、持続可能な観光マネジメント確立に向けた計画支援情報として有用と考えられる。

  • ―レドルス&チェイスウォーター鉄道トレイルを事例に―
    藤井 秀登
    2024 年36 巻3 号 p. 66-75
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/07
    ジャーナル フリー

    本稿はヘリテージ空間におけるサイクル・ツーリズムについて、観光政策、特に規律権力の視点から考察している。規律権力とは、構造的要因によって個々人の行為を規制する不可視の権力を意味する。事例として取り上げたイギリスのコーンウォール鉱山地域にあるレドルス&チェイスウォーター鉄道トレイルは、コーンウォール・カウンシルが実施するミネラル・トラムウェイズ・ヘリテージ・プロジェクトの一環に位置づけられる。サストランズや世界遺産委員会の知がトレイル用に区分された小道と組み合わさり、観光者の行為を規制していく構造について、同トレイルを介しながら主に理論面から解明していった。

  • 山﨑 瑞季, 内田 彩, 安藤 巖乙, 無量井 春菜
    2024 年36 巻3 号 p. 76-85
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/07
    ジャーナル フリー

    本研究は、十和田八幡平国立公園を対象に、湯治場の歴史的な変容過程を明らかにした。国立公園制度の中で温泉は、当初、レクリエーションの拠点として把握されていたが、自然と共に切り離すことのできない文化景観として評価されるようになった。国立公園指定に伴い観光化の影響を受けながらも、現在でも湯治場が多く残されている。しかし、近年では湯治文化を知らない観光者も増加しており、湯治の歴史的・文化的背景と価値をいかに次世代に伝えていくのかが課題となっている。

  • ―ローカルフードフェスティバルからのアプローチ―
    尾家 建生, 高田 剛司
    2024 年36 巻3 号 p. 86-94
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/07
    ジャーナル フリー

    地域を食べ物と飲み物の味覚体験を通じて経験するガストロノミーツーリズムは国際観光の成長とともにこの 30 年余に急速に発展し、場所のアイデンティティとブランディングの確立に欠かすことのできない観光開発手法として定着してきた。生活文化のひとつとして捉えられてきた食文化は、重要な遺産であることが主張され始め、UN Tourism のイニシアティブによってガストロノミーは食べ物や料理の上部概念と目されている。本研究は、観光サービスの供給者と消費者の相互関係に着目し、経営学分野におけるサービス理論を援用し、ガストロノミ―ツーリズムにおける価値共創とコミュニティの関係を検証するものである。

  • ―ガイドツアー造成事業を事例として―
    谷口 晃晴, 大平 悠季, 原野 恵子, 清水 哲夫
    2024 年36 巻3 号 p. 95-104
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/07
    ジャーナル フリー

    観光地域づくり法人(DMO)は観光地域づくりの旗振り役として期待されている一方、その活動の中には直接には経済的な成果に結びつかないものも多く含まれ、DMO に対する行政支援の評価には課題がある。本研究では、八ヶ岳南麓地域の地域連携 DMO が実施したガイドツアー造成事業を対象に、社会的インパクトの評価手法の一つである SROI を用いて、社会的価値を含む事業成果の定量化・可視化を試みた。分析の結果、SROI 値は 2.31〜4.34 と算定された。また、SROI はステークホルダーが観光地域づくり活動における協働の質を向上させ、取組みを高度化していく過程で有用となる可能性が示唆された。

  • ―文化現象としての観光―
    齋藤 千恵
    2024 年36 巻3 号 p. 105-113
    発行日: 2024年
    公開日: 2025/06/07
    ジャーナル フリー

    観光は文化現象である。そのため観光概念は文化的に規定される。こうした視点から、本論では、日本文化に根差した観光の概念を論じる。古くから観光研究の中では、近代以前の旅と近代観光、日常生活とそれとは対照的な旅先での経験など、二項対立の図式が使われてきた。しかし、日本社会で行われてきた団体旅行を含む観光や歴史的文脈の中で楽しみの要素が含まれると表されることが多い近世の旅は、欧米のそれと同じ図式で論じるべきなのか?本論では、広く観光を学ぶ者が目にする観光学事典や入門書の記述を分析することにより、日本の観光概念が二項対立の図式では論じきれないことを示す。

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