日本健康相談活動学会誌
Online ISSN : 2436-1038
Print ISSN : 1882-3807
10 巻, 1 号
選択された号の論文の6件中1~6を表示しています
原著論文
  • ―M-GTAを用いた分析―
    竹鼻 ゆかり, 朝倉 隆司, 高橋 浩之
    2015 年 10 巻 1 号 p. 21-34
    発行日: 2015/03/10
    公開日: 2021/07/07
    ジャーナル フリー

     目的は、小学校から高校までに出会った慢性疾患がある友達をどのように認識していたのか、また現在はそれをどのように受け止めているのかを明らかにすることである。

     研究承諾の得られた女子大学生14名に、病気の友達の様子、病気の友人を通じて考えたことなどを半構造化面接にて調査し、M-GTAを用いて分析した。

     その結果、16の概念と7つのサブカテゴリー、3つのカテゴリーを生成した。

     女子大学生は子どもの頃、【友達が病気であることを認識したための疑問や感情】において、病気の友達に対して、《特別な存在であることへの疑問》と《教室内での位置や成長発達に伴い薄くなる存在への戸惑い》を持つことにより、《病気であることを知るために抱く葛藤》を抱いていた。また【病気とは異なる観点で認識する友達の存在】では、《病気に関わらず示された存在感》が分かることによって、《病気を認めたうえでの友達としての対応》を行えるようになっていた。この2つのカテゴリーは、病気の友達に対するアンビバレントな関係性であった。

     更に、女子大学生が当時を振り返ったとき病気の友達に対して、理解や共感を示し《肯定的な受け止め》をするようになった故に、もっと配慮できたのではないかという反省や後悔の念を抱く《関わりかたへの苦い思い》をするようになる。つまり女子大学生が【子どもの頃に出会った病気の友達への後悔を伴った理解】をするようになる思考の内省的プロセスが明らかとなった。

  • ―認識と行動の変化に着目して―
    籠谷 恵, 朝倉 隆司
    2015 年 10 巻 1 号 p. 35-48
    発行日: 2015/03/10
    公開日: 2021/07/07
    ジャーナル フリー

     本研究は、学生から社会人への移行において、新任養護教諭がどのような心理的変化を経て専門職的自律性を獲得していくのか(新任養護教諭の専門職的自律性の獲得プロセス)を明らかにすることを目的とし、9名の新任養護教諭に半構造化面接を行い、データを修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチにより分析した。

     その結果、14概念とそれらに基づく4カテゴリーを生成し、新任養護教諭の専門職的自律性の獲得プロセスは【リアリティギャップ】に直面し、【試行錯誤による自律化】に向かうことで、組織や養護教諭という職に【積極的関与】する過程であると説明することができた。また、〈校内サポーターの存在〉と〈養護教諭のピアサポート〉が新任養護教諭の専門職的自律性の獲得の【影響要因】となっていた。

     さらに、本研究結果と移行理論との関連について考察した結果、新任養護教諭の専門職的自律性の獲得プロセスは、学生から社会人への移行において、〈役割の再構築〉により理想と自分の思いの間で折り合いをつけ、養護教諭としての役割を問い直すことで、専門職的自律性を獲得していくというオリジナルなプロセスをもつ可能性が示唆された。

  • 沖津 奈緒, 朝倉 隆司
    2015 年 10 巻 1 号 p. 49-64
    発行日: 2015/03/10
    公開日: 2021/07/07
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は、小学校教員を志望する学生の教育実習体験において、健康課題のある児童の対応の意識変容のプロセスを説明し、影響要因を明らかにすることである。

     対象者は、東京都内の教員養成系であるT大学小学校教員養成課程の学生11名である。2013年7月から8月にかけて半構造化インタビューを実施し、対象者には、実習内容や担当学級の児童との関わりについての体験、指導教員から受けた指導について質問した。データ分析にはM-GTAを用いた。倫理的配慮として、対象者に口頭で趣旨を説明し承諾を得た。

     教育実習生の〈健康課題のある児童の対応における意識変容プロセス〉は、《健康課題のある児童に直面して動揺する》ことをきっかけに、《健康課題のある児童への対応に試行錯誤する》という過程を経て、《学校における健康課題のある児童への取り組みを認識する》。そして、《健康課題のある児童の対応における担任の役割を自覚する》というプロセスであった。また、〈学校保健の学びを促す実習校の指導体制〉と〈児童の健康に目が向けられる教育実習生の特徴〉という2つの要因が明らかになった。

     教育実習生が、健康課題のある児童の対応に向けて、担任としての自覚を高めるためには、教育実習の事前学習の充実や、教育実習生を指導する現職教員の指導力向上の必要性が示唆された。

論文
  • 加瀬 涼子, 竹鼻 ゆかり
    2015 年 10 巻 1 号 p. 65-78
    発行日: 2015/03/10
    公開日: 2021/07/07
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は、院内学級の教員が病気のある子どもと関わるうえでの教育的配慮、ならびに病弱教育の課題を明らかにすることである。

     対象者は、東京都内の院内学級に勤務する教員3名、および病弱特別支援学校での勤務経験のある教員1名である。半構造化インタビューを2013年8月~11月にかけて実施した。インタビュー内容は、教師との関わりや空間が子どもに与える良い影響、子どもとのかかわりに対する配慮点や工夫点、困難点、病弱教育の抱える課題と今後求めることについてである。インタビュー・データはM-GTAによって分析した。

     その結果、教員は病気のある子どもに対し、学力の保障はもとより、病気であってもその子の発達を保障することを目的として働きかけていることが明らかとなった。それは、〈子どもの状態のアセスメント〉を基盤とした、〈子どもを取り巻く環境への働きかけ〉と〈子どもに対する教員の意識的な働きかけ〉であり、この働きかけが病気のある〈子どもの発達の保障〉につながっていた。また、病弱教育の課題としては〈教育における病弱教育の発展の必要〉と〈制度や組織の不備〉が明らかとなり、病気の子どもと、発達の保障を含めた教育をつなぐ支援が求められていることが示唆された。

  • ~小学校と中学校との比較から~
    林 典子, 下村 淳子, 戸田 須恵子, 井澤 昌子
    2015 年 10 巻 1 号 p. 79-89
    発行日: 2015/03/10
    公開日: 2021/07/07
    ジャーナル フリー

     研究目的:観察法により、保健室来室児童生徒への養護教諭の対応における小学校・中学校の違いや特徴と、観察法の有効性を明らかにすることを目的とした。

     対象:A県の公立小中学校8校の養護教諭と養護教諭が保健室で対応した児童生徒107名を対象とした。

     研究方法:各学校におけるある日の10時から14時の4時間中に、どのような対応を行っているかについて、観察者3名で観察した。

     結果および考察:小学校の平均対応時間は約12分で、外科的理由で来室し、立位の児童に、養護教諭は児童の左斜め前に立つか、立て膝で、応急処置を中心に対応している。中学校は、平均対応時間は22分で、内科的・健康相談・外科的理由で来室し、座っている生徒に、養護教諭は、生徒の右斜め前・前・左斜め前の位置に立って、体と心の両面に対応している。小学校・中学校共通していたのは、平均対応回数、対応場所、児童生徒と養護教諭の距離、タッチの有無、タッチの種類であった。従来の質問紙調査では明らかにすることができなかった正確な対応時間、対応場所、児童生徒の体位、養護教諭の姿勢、児童生徒と養護教諭との距離、タッチ等、養護教諭の対応の詳細が明らかになった。また、本研究の観察法は、養護教諭自身が回答するのではなく、第三者である観察者が独自性を持ち観察したことにより、結果は信憑性が高く、意義あるものである。

資料
  • ―小・中学校養護教諭対象の質問紙調査から―
    佐藤 倫子, 今野 洋子, 照井 沙彩
    2015 年 10 巻 1 号 p. 90-99
    発行日: 2015/03/10
    公開日: 2021/07/07
    ジャーナル フリー

     本研究では、北海道A市の公立小学校及び中学校に勤務する養護教諭を対象に無記名による自記式質問紙調査を行い、健康相談・健康相談活動の実態を把握し、校種や経験年数、講義及び研修受講の有無と比較して課題を検討することを目的とした。その結果、以下のような知見を得たので報告する。

    1.保健室来室児童生徒に対する対応は、校種や経験年数、講義及び研修受講の有無による差がほとんどみられず、タッチングや救急処置を行いながら話を聴いたり話し掛けるなど、養護教諭の専門性を生かして行われていた。

    2.支援協力者との連携は、経験年数によって差がみられ、経験年数が多い者の方が実施している傾向にあった。

    3.支援協力者との連携のうち、専門機関への紹介後のフォローアップについては、研修を受けている者の方が実施していた。

     これらのことから、健康相談・健康相談活動は、保健室来室児童生徒に対する対応においては養護教諭の専門性を生かして概ね実施されていることが明らかになった。しかし、支援協力者との連携においては、経験年数を補う研修の必要性及び健康相談・健康相談活動に特化した研修の必要性が課題として捉えられた。

feedback
Top