行動医学研究
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10 巻, 1 号
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特集:行動医学の教育カリキュラム
原著
  • 磯和 勅子
    2004 年 10 巻 1 号 p. 25-33
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    本研究の第1の目的は、看護師における職務ストレッサーとバーンアウト、身体的健康問題の因果関係を共分散構造分析によって検討することであった。また、第2の目的は、免疫指標 (唾液中s-IgA) により、看護師の職務ストレスが生体に及ぼす影響を評価することであった。
    1年以上の経験を持つ看護師138名 (Mean 32.1、SD 8.8) を対象とし、日本語版NIOSH職業性ストレス調査票および日本語版MBIを用いて、職務ストレッサー、身体的自覚症状、バーンアウトを測定した。また、日勤勤務の前後 (8:45、17:00) において、唾液中の分泌型免疫グロブリンA (s-IgA) を測定した。
    共分散構造分析の結果、採択された因果モデルの適合性は十分なものであった (GFI=.93、AGFI=.87)。そして、職務ストレッサーである仕事上の葛藤と労働負荷は、共にバーンアウトの規定要因になる可能性が示された。また、職務上の葛藤と労働負荷との間にはやや強い正の相関が認められた。さらに、バーンアウトが身体的健康問題発生の可能性に強く影響していることが示された。s-IgAに関しては、勤務後のs-IgA濃度が勤務前に比べ有意に低下することが示された。また、勤務前後のs-IgA濃度の変動について、勤務 (前・後) ×職務ストレス (高群・低群) の二要因の分散分析を行った結果、交互作用が認められ、個人的達成感の低い者ほど勤務後におけるs-IgA濃度の減少の程度が大きいことが示された。
    以上の結果から、職務上の葛藤及び労働負荷のような職務ストレッサーは、看護師のバーンアウトを導く可能性を持つことが示された。特に、労働負荷よりも職務上の葛藤の方がバーンアウトへの影響が強い可能性がある。そして、バーンアウトの状態が改善されず継続することによって、身体的健康問題にまで発展する可能性が示唆された。看護師の職務上の葛藤や労働負荷を低減するための対策が必要である。また、勤務前後におけるs-IgA濃度の変動が、個人的達成感という個人差変数の影響を受けたことは、同一の職場環境で勤務したとしても個人によってストレス反応が異なる可能性を示す。今後、ストレス反応の個体要因の影響を追究していく必要がある。
  • 中学生における13カ月後の追跡調査から
    大竹 恵子, 島井 哲志
    2004 年 10 巻 1 号 p. 34-43
    発行日: 2004年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    本研究では、中学生の喫煙防止教育として、ステージ理論に基づいた予防のための介入を実施し、13ヵ月後の追跡調査の結果からその介入の効果について検討することを目的とした。
    喫煙行動に関する行動変容の理論としてステージモデルがある。このモデルは、喫煙者が禁煙するという行動変容の段階をステージとしてとらえ、それぞれのステージごとにアプローチすることが効果的であることを提唱した理論である。多くの実践研究から、喫煙者が禁煙するという行動変容をはじめとして、飲酒や薬物、食行動、運動習慣など、さまざまな不健康行動の修正を行う場合に、このステージモデルを用いることが有効であることが報告されている。
    われわれは先の研究において、青少年を対象に喫煙行動に関する調査を行い、非喫煙者が喫煙していくという喫煙獲得の行動変容を、前熟考期、熟考期、準備期、実行期という4つのステージから理解できることを示し、不健康行動を獲得しないことをめざした予防のための新しい理論を提案した。そして、この4つの喫煙獲得行動のステージごとに、喫煙に関連するセルフ・エフィカシー、誘惑、意思決定バランスなどの個人の認知、社会的スキル、環境要因などのさまざまな要因が変化することを明らかにしてきた。そこで、本研究では、われわれが先に提案した新しいステージモデルに基づいて中学生を対象に予防的な介入を行い、13ヵ月後の追跡調査から介入効果について検討した。
    対象者は中学生123名 (男子69名、女子54名) であった。これらの対象者は、同学年であり、調査開始時は中学2年生であった。調査内容は、喫煙獲得行動のステージを判別する4項目と喫煙に関する正しい知識を聞く10項目、喫煙行動に関連するスキルを測定する9項目、喫煙に関するセルフ・エフィカシーを聞く6項目と誘惑に関する10項目の尺度であった。介入にあたっては、ステージを考慮して独自に作成したリーフレットと携帯用カードを用いて、現職教員が実施した。これらの教材にはステージごとの認知的、行動的な目標が詳細に設定されており、映像を提示して知識を高めたり、ロールプレイを行うことによって模倣学習させるなど、集団での喫煙防止教育の介入効果をめざした。
    13ヵ月後の追跡調査の結果から、ベースライン調査時に比べて前熟考期の人数割合が増加していることが示された。さらに、前熟考期の生徒では、知識、スキル、セルフ・エフィカシーの平均得点がベースライン調査時に比べて有意に増加していることが明らかにされた。しかしながら、熟考期、準備期、実行期の生徒については、介入後の人数の変化はみとめられなかった。また、熟考期の生徒ではスキル得点の増加が示されたが、他のステージや個人要因については、介入後の変化はみとめられなかった。
    以上の結果から、本研究で行ったステージに焦点をあてた予防のための介入は、前熟考期に生徒を変化させる効果がみとめられたと考えられるが、他の3つの喫煙ステージについては介入の効果は示されなかった。今後、さらに長期的な追跡調査から介入の効果を検討し、他の個人要因、心理社会的要因の変化についても明らかにする必要があると考えられる。
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