行動医学研究
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18 巻, 1 号
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原著
  • 森本 浩志, 木下 奈緒子, 嶋田 洋徳
    2012 年 18 巻 1 号 p. 3-11
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    ストレッサーのコントロール可能性の評価に基づいてコーピングを選択することが、ストレス反応の低減に有効であるとするGoodness-of-fit仮説について、これまで多くの検討が行われてきた。しかし、これまでGoodness-of-fit仮説を支持する知見と支持しない知見があり、一貫した知見が得られていない。本研究では、この要因として、何のためにコーピングを行ったのかというコーピングの選択理由を取りあげ、コーピングの有効性におけるGoodness-of-fit仮説とコーピングの選択理由の関連について検討した。ストレッサー、コーピング、ストレッサーのコントロール可能性の評価、コーピングの選択理由(目標接近的な選択と回避的選択)、ストレス反応について、勤労者351名を対象に調査を行い282名から回答を得た。このうち回答に不備のあった者を除いた274名のデータを分析対象とした。ストレッサー(職務ストレス、対人ストレス)と行ったコーピング(問題焦点型、情動焦点型、組み合わせ型)の種類に基づいて分析対象者を分類し、コントロール可能性の評価およびコーピングの選択理由とストレス反応の関連について相関分析と階層的重回帰分析を行った。その結果、コントロール可能性の評価は、Goodness-of-fit仮説の指摘通り、問題焦点群においてはストレス反応と負の相関が見られたが、情動焦点群においてはGoodness-of-fit仮説の指摘とは異なり、ストレス反応と負の相関が見られた。コーピングの選択理由については、情動焦点群および組み合わせ群においてのみ、ストレス反応と有意な相関が見られた。コントロール可能性の評価とコーピングの選択理由の交互作用は有意ではなかった。これらの結果から、コントロール可能性の評価とコーピングの選択理由は、それぞれ独立してコーピングの有効性に関与していることが示唆された。
  • 前場 康介, 竹中 晃二
    2012 年 18 巻 1 号 p. 12-18
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    本研究では、高齢者における運動セルフ・エフィカシー(Self-efficacy; SE)に影響する4つの情報源および運動変容ステージとの関連について検討し、各変容ステージにおける情報源の特徴を明らかにすることを目的とした。60歳以上の高齢者を対象とした質問紙調査を実施し、合計365名(男性166名、女性199名:平均年齢74.21歳)の回答が分析対象となった。質問紙の内容は、①基本属性、②運動SEの情報源、③運動SE、および④運動変容ステージ、をそれぞれ測定するものであった。分析の結果、定期的な運動習慣を有する高齢者は192名(52.6%)であり、運動SEの情報源における合計得点、および運動SE得点は変容ステージが進行するにつれて高まっていくことが明らかになった。さらに、運動SEの各情報源も同様に、変容ステージが進行するにつれてそれらの得点も漸増する傾向にあることが示された。本研究から得られた知見に従うことで、高齢者を対象とした運動介入においてより効果的な方略を提案することが可能となる。
  • 安達 圭一郎, 武井 麗子, 北村 俊則, 上野 徳美
    2012 年 18 巻 1 号 p. 19-28
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    ここ数年、わが国における40歳以上女性のマンモグラフィ検診の年間受診率は20%を超えることはなく、欧米の70~80%と比べてもその数値は極端に低い。一方で、わが国女性の乳がん罹患数は年々増加し、現在では毎年4万人以上の女性が乳がんに罹患し、2010年の乳がん死亡者数は12,455名であった。乳がんは、再発・転移が決してまれではない疾患であることを考えると、乳がんの早期発見、早期治療が喫緊の課題である。その中心的役割を担うのが、マンモグラフィ検診受診である。本研究は、女性のマンモグラフィ検診受診行動の背景にある心理社会的要因について、自己制御に関するコモンセンスモデル(CSM)を援用しながら探索的に検討を試みたものである。243名の女子大学生(平均年齢18.9±1.14歳; range=18–23歳)を対象に、人口統計学的データ、乳がん罹患の可能性認知(リスク認知)、乳がんに罹患することによって生じるであろう恐れ・不安などの不快感情(乳がん罹患に伴う不安)、マンモグラフィ検診への受診意図、日本語版TCI(Temperament and character Inventory)125項目版、日本語版POMS(Profile of Mood States)短縮版などを質問紙にまとめ実施した。その結果、以下のことが明らかになった。(1)リスク認知には、遺伝負因が影響していた。(2)乳がん罹患に伴う不安には、損害回避気質、報酬依存気質が影響すると同時に、影響する気質によって、受診意図を促進する場合と抑制する場合があった。(3)リスク認知や乳がん罹患に伴う不安は、マンモグラフィ検診受診に対する信念を媒介として、マンモグラフィ検診への受診意図を促進した。以上の諸結果をCSMの観点から考察し、わが国女子大学生におけるCSMの適応可能性が示唆された。
資料
  • 井澤 修平, 吉田 菜穂子, 李 在麟, 有江 恵, 河合 隆史, 野村 忍, イームズ ダグラス, 貝谷 久宣
    2012 年 18 巻 1 号 p. 29-35
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    近年、唾液中コルチゾールが非侵襲的かつ簡便に用いることができるストレス指標として注目されている。本研究ではパニック障害患者を対象とし、認知行動療法(cognitive-behavioral therapy: CBT)プログラム実施に伴う唾液中コルチゾール分泌の変化を検討した。対象は9名の広場恐怖を伴うパニック障害患者であり、6回のセッションからなるCBTプログラムを実施した。プログラムの導入前と終了後に、質問紙・面接によってパニック障害重症度、回避行動、不安、抑うつ症状、一般性セルフ・エフィカシーを評価した。また導入前と終了後に唾液採取日を設け、一日6回(起床直後、15分後、30分後、3時間後、8時間後、就寝前)の唾液採取を実施した。得られたコルチゾール値から、傾き(直後から就寝前の値を減じたもの)、起床時反応(直後から15分・30分にかけてのコルチゾール反応の総面積)、一日分泌量(直後から8時間後までのコルチゾール分泌の総面積)を算出し、指標とした。分析の結果、プログラム終了後にパニック障害重症度、回避行動、一般性セルフ・エフィカシーが改善するとともに、コルチゾールの傾きが有意に上昇した(t[7]=2.51, p<0.05)。またプログラム前後の変化値をとり、スピアマンの相関分析を行ったところ、パニック障害重症度と一日分泌量(rs=0.71, p<.05)、状態不安と一日分泌量(rs=0.78, p<0.05)、状態不安と起床時反応(rs=0.81, p<0.05)の間に有意な相関が認められ、重症度や不安の低下とともに一日分泌量や起床時反応が低下することが示された。これらの結果はCBTプログラムの効果が生理学的にも簡便に評価できる可能性を示している。唾液中コルチゾールを用いた研究は今後さらに増えると予想され、臨床的な場面でも、生理的評価の手法として、このような指標が積極的に使われることが望まれる。
短報
  • —メタ・アナリシスを用いた予備的検討—
    前場 康介, 竹中 晃二
    2012 年 18 巻 1 号 p. 36-40
    発行日: 2012年
    公開日: 2014/07/03
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は、セルフ・エフィカシー(SE)の強化を意図した介入が高齢者の運動継続に及ぼす効果をメタ・アナリシスにより検討することであった。国内および国外における論文について、「高齢者(older)」、「運動(exercise)」、および「自己効力感/セルフ・エフィカシー(self-efficacy)」をキーワードとして検索した。論文の採択基準として、①60歳以上の高齢者を対象としていること、②SEの向上を意図した介入を行っていること、③ランダム化比較試験であること、④SEおよび運動継続に関する評価を行っていること、および⑤メタ・アナリシスに必要な統計量が記載されていること、という5つを設定した。これらの基準を満たす5件の研究を対象としてメタ・アナリシスを実施した結果、運動SEの強化を意図した介入が高齢者の運動継続に有効であること、さらに、その効果はフォローアップ時により顕著に表れることが明らかになった。高齢者を対象とした今後の運動介入研究においては、SEの強化を意図することが重要であるとともに、その具体的な介入方法について詳細に検討することが必要になると考えられる。
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