物理療法科学
Online ISSN : 2758-1063
Print ISSN : 2188-9805
24 巻, 1 号
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特別講演
  • 伊橋 光二
    2017 年 24 巻 1 号 p. 01-07
    発行日: 2017年
    公開日: 2022/09/03
    ジャーナル オープンアクセス

    電気刺激療法は物理療法の中でも長い歴史を持つ治療手段の一つである.現在,運動麻痺に対する電気刺激療法の適応は,脳卒中片麻痺に代表される中枢性運動麻痺が中心となっている.中枢性運動麻痺の場合,運動単位に障害はなく(合併症がなければ),筋は電気刺激に容易に反応し,結果として様々な治療効果を生じる.特に機能的電気刺激(functional electrical stimulation: FES)については中枢性下垂足に対する簡便な装置が利用できるようになり,装具としての効果「orthotic effects」だけでなく,機能改善効果「therapeutic effects」が認められている.このtherapeutic effectsは脳卒中片麻痺だけでなく脳性麻痺においても特に片麻痺タイプで認められている.また,脳卒中片麻痺には筋電誘発型電気刺激装置も適応されている.この一つである本邦で開発された随意運動介助型電気刺激は、FESとして用いることで機能改善効果が報告され,脳の可塑性を賦活していることが示唆されている. 人工膝関節置換術後は大腿四頭筋の筋力低下が問題となることが多い.この筋力低下には筋力発揮の抑制,すなわち神経因子が影響しており,Central Activation Ratioの低下が指摘されている.これに対して術後早期から神経筋電気刺激療法(Neuromuscular electrical stimulation: NMES)が適応され効果が示されている. NMESは筋骨格系障害だけでなく,近年,重症疾患の筋力低下にも適応されるようになった.敗血症に代表される重症疾患患者に急性の重篤な四肢筋力低下が発生することが知られており,Intensive Care Unit-Acquired Weaknessと呼ばれている.これに対するNMESは,現在のところエビデンスの不足により効果が明確となっていないが,鎮静下での人工呼吸管理が必要な患者では能動的な運動療法は制限されるため,NMESは筋収縮を起こすことのできる簡便な方法として重要と考えられ,今後の研究に期待したい.重度の呼吸不全や心不全で運動療法の適応が困難な患者へのNMESの適応が広がっており,Cochrane Database of Systematic Reviewsで効果が認められている.この領域のNMESの普及と研究の進展に理学療法士の積極的な関与が重要と考えられる.

教育講演
シンポジウム
原 著
  • 植村 弥希子, 杉元 雅晴, 井上 岳人, 前重 伯壮, 古賀 由華, 吉川 義之, 宇佐美 眞
    2017 年 24 巻 1 号 p. 26-31
    発行日: 2017年
    公開日: 2022/09/03
    ジャーナル オープンアクセス

    【緒言】褥瘡治療における電気刺激療法は推奨度Bであるが,至適刺激条件や詳細なメカニズムは明らかでない.Focal adhesion kinase (FAK)は活性化するとアクチン重合を生じ,遊走を促進させるため,本研究では,褥瘡治癒に必要な皮膚線維芽細胞の遊走およびFAKに電流周波数が与える影響を検討した.【方法】ヒト皮膚由来線維芽細胞を播種し,電流強度0 (コントロール),200 mA,周波数2 Hz (250 msec),10 Hz (50 msec)の直流パルス電流刺激を2時間行った.スクラッチ法にて遊走距離を計測し,刺激10分,30分後のFAKおよびリン酸化FAK発現を western blotting法にて検討した.【結果】2 Hz群では,コントロール群,10 Hz群と比べ遊走が促進した(p<0.05).また,刺激10分後に2 Hz群でFAKの活性化を認めた(p<0.01).【考察】2 Hzの直流パルス電流はヒト皮膚由来線維芽細胞のFAKを活性化させ,遊走を促進させた.2 Hzが創治癒を促進させる至適周波数である可能性が示唆された.

症例報告
  • 尾崎 新平, 草場 正彦, 植田 耕造, 宮本 定治, 恵飛須 俊彦
    2017 年 24 巻 1 号 p. 32-36
    発行日: 2017年
    公開日: 2022/09/03
    ジャーナル オープンアクセス

    Lateropulsion は,脳幹損傷後で起こる左右方向の姿勢制御障害として報告されているが,介入報告はほとんど見当たらない.近年,介入として直流前庭電気刺激(GVS)が注目されている.今回,lateropulsionを呈した一症例にGVSを実施し,即時効果を検証した.症例は60歳代の男性で,診断名は脳梗塞(小脳,橋,中脳).実験デザインは,シングルケースデザインの操作交代デザインを使用した.刺激条件とControl条件を5回ずつ乱数表に基づいてランダムに実施し,各々の条件中の足圧中心(COP)動揺を重心動揺計で計測した.解析方法は,randomization検定を用い,刺激条件とControl条件でCOP変数を比較した.評価時期は発症から38日目に実施し,計測は1日のみで即時効果を判定した.結果は,左に偏倚していた重心位置がGVS中ほぼ正中になり,GVSの即時効果があることが示された.

  • 脇本 謙吾, 唄 大輔, 前谷 朱美, 徳田 光紀
    2017 年 24 巻 1 号 p. 37-40
    発行日: 2017年
    公開日: 2022/09/03
    ジャーナル オープンアクセス

    今回は,義足装着時のみに幻肢痛を認める症例に対して経皮的電気刺激(TENS)の鎮痛効果の検証と痛みの解釈の検討を行ったので報告する.本症例の幻肢痛は,健側の糖尿病性神経障害による痛みと質,部位共に類似していた.方法は,ABAデザインを用い,A期にはプラセボTENS介入,B期にはTENS介入をそれぞれ3日間ずつ実施した.TENSには電気治療器(ESPURGE)を用い,パラメーターはパルス幅150μs,周波数100~250Hzの変調モードに設定し,治療は1日1回30分を同時間帯に実施した.電極の貼付部位は,幻肢痛出現部位及び,断端部と同部位にあたる対側下肢の計4ヶ所とした.幻肢痛の評価としてNRSを用い,痛みの認知的側面に対し破局的思考尺度(PCS)を用いて評価した.TENS介入にて鎮痛効果を認め,鎮痛に伴いPCS得点にも低下を認めた.結果から,本症例の幻肢痛に対する健側へのTENSの有効性と,鎮痛に伴う痛みの認知的側面への効果が推察された.

  • 佐藤 雅浩, 岡崎 大資, 倉田 浩充
    2017 年 24 巻 1 号 p. 41-46
    発行日: 2017年
    公開日: 2022/09/03
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】本研究は慢性脳卒中片麻痺患者を対象に温熱刺激及び温熱振動磁気刺激が痙縮抑制効果に与える影響を検討することを目的に実施した.【対象】当院外来に通院する慢性脳卒中片麻痺患者5名(男性2名,女性3名,平均年齢75±8.1歳)を対象とした.【方法】治療介入として温熱刺激による治療を3回,温熱振動磁気刺激による治療を5回実施し,治療介入の前後に評価としてPendulum Testにて伸張反射閾値,10 m歩行検査にて歩行速度と歩幅を測定した.【結果】伸張反射閾値の変化率が治療前よりも10%以上上昇した症例は温熱刺激で1症例,温熱振動磁気刺激で3症例であった.歩行速度では10%以上増加した症例は温熱刺激で2症例,温熱振動磁気刺激では5症例全てであり,歩幅では10%以上増加した症例は温熱刺激で1症例,温熱振動磁気刺激で3症例であったが,伸張反射閾値の上昇とは関連が見られなかった.【結語】温熱,振動及び磁気刺激を組み合わせることで温熱単独より痙縮抑制効果がみられる症例はあるが,歩行の改善との関連はなく物理刺激の心理的要因も含めたほかの要因の関与が示唆された.

短報
  • 金口 瑛典, 小澤 淳也
    2017 年 24 巻 1 号 p. 47-51
    発行日: 2017年
    公開日: 2022/09/03
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は,低反応レベルレーザー治療(Low-level laser therapy:LLLT)が,関節固定解除後の関節包の線維化反応および関節性拘縮の進行を抑制することができるかどうか検証した.ラットの右膝を屈曲位で3週間外固定し,関節拘縮を惹起した.その後,固定を解除し,1週間の通常飼育による回復期間を与えた.回復期間中,LLLT(接触法,波長830 nm,光出力150 mW,エネルギー密度5 W/cm2)を膝関節に1日120秒間行い,関節包におけるI型およびIII型コラーゲンの遺伝子発現と関節性拘縮に対する効果を評価した.3週間の関節固定により,関節性拘縮が生じた.固定解除1週間後, I型およびIII型コラーゲン遺伝子の有意な増加もしくは増加傾向を伴って,関節性拘縮は固定解除直後よりも悪化した.しかし,固定解除後にLLLTを行うと,コラーゲン遺伝子の増加が部分的に軽減し,関節性拘縮の進行が抑制された.これらの結果は,LLLTが,関節包の線維化抑制を介して関節性制限の進行を抑制した可能性を示唆する.そのため,LLLTは関節固定後の関節性拘縮に抗する有効な治療法となる可能性がある.

  • ─電極貼付部位の違いが鎮痛効果に与える影響─
    伊藤 芳恵, 庄本 康治
    2017 年 24 巻 1 号 p. 52-58
    発行日: 2017年
    公開日: 2022/09/03
    ジャーナル オープンアクセス

    機能性月経困難症は月経のある女性の約半数が経験する婦人科疾患で,激しい下腹部痛によりQOLの低下及び経済的損失が報告されている.本疾患の疼痛管理として経皮的電気刺激(Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation: TENS)の研究が報告されているが電極貼付部位は様々である.本研究の目的は機能性月経困難症に対するTENSの鎮痛効果を電極貼付部位に着目して調査することである.医師に機能性月経困難症と診断され,特に疼痛の強い女子学生2名を対象にTENSの介入研究を行った.調査期間は月経3周期とし,各周期でそれぞれ設定した電極部位の鎮痛効果を調査した.電極部位は,Th12/L1/L2とS2/S4デルマトームに電極を貼付する群(全髄節刺激),Th12/L1/L2デルマトームのみに電極を貼付する群(一部髄節刺激),無関係なL3/L4デルマトームに電極を貼付する群(非髄節刺激)とし,TENSの刺激は月経痛が強くなった時から60分間実施した. TENS前後にVisual Analog Scale(VAS)とMcGill Pain Questionnaire-Short Form(MPQ-SF)を測定した.VAS値は全髄節刺激で37.5±16.5 mm,一部髄節刺激で64.0±14.0 mm,非髄節刺激で18.0±7.0 mm低下した.MPQ-SF(情緒的項目)の改善が認められた.VAS値は一部髄節刺激,全髄節刺激で30.0 mm以上低下し,臨床的に重要な鎮痛が可能だった.MPQ-SFの結果より,鎮痛による精神的苦痛の改善が期待できる可能性がある.

  • 富岡 美恵, 来間 弘展, 尾池 純太, 三浦 祐介
    2017 年 24 巻 1 号 p. 59-64
    発行日: 2017年
    公開日: 2022/09/03
    ジャーナル オープンアクセス

    スポーツ現場やリハビリテーションにおいて,運動後に起こる遅発性筋痛の回復を促進するために,マイクロカレント療法やストレッチングを行う.これらの治療が,運動後の筋にどのような影響を及ぼすかを検討した.健常成人30名に対し,30%MVCのダンベルにて肘関節の屈曲・伸展運動10回5セット行った.運動後に,MCRとセルフストレッチングを組み合わせて施行する群(MCR群),セルフストレッチングのみを施行する群(Stretch群),コントロール群(Control群)に分け治療介入を行った.運動負荷前・運動負荷直後・24時間後・48時間後・72時間後に,筋硬度・疼痛閾値・最大筋力を測定した.筋硬度は,MCR群では48時間後以降で24時間後と比較し優位な低下を認めた.疼痛閾値は,24時間後において全ての群で優位な低下を認め,MCR群とStretch群は72時間後において24時間後と比較して優位な上昇を認めた.マイクロカレント療法とセルフストレッチングの併用は筋硬度や疼痛閾値を早期に改善させ,遅発性筋痛に対し効果的であることが示された.

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