物理療法科学
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23 巻, 1 号
選択された号の論文の11件中1~11を表示しています
教育セミナー
  • ─振動器の開発研究を事例として─
    仲上 豪二朗, 真田 弘美
    2016 年 23 巻 1 号 p. 01-07
    発行日: 2016年
    公開日: 2022/09/03
    ジャーナル オープンアクセス

    創傷医療において機器開発は重要な位置づけである.血流を改善することは皮膚の健康を保つために有効であるのみならず,創傷治癒の促進にも効果があることが分かってきている.特に,血流が低下することが病態の基盤にある褥瘡では血流の確保が創傷治癒にとって極めて重要な要因となる.我々は血流を非侵襲的に,しかも利用者に快適な方法で促進させる「振動」に着目し,振動器を看護理工学の研究フレームで開発してきた.看護理工学は1.臨床ニーズの明確化,2.病態生理の理解,3.ターゲットとなる現象のメカニズムの解明,4.仮説の生成,5.合理的な解決策の提案とプロトタイプの作成,6.実験室ベースでのテストと前臨床試験,7.臨床試験,8.技術を使用する人材の育成のステップで実施される,現場立脚型の研究フレームである.創傷医療における新たな技術開発が実際にどのように行われるのかを解説し,今後の展望を述べた.

原 著
  • 小山 総市朗, 田辺 茂雄, 青山 貴文, 武田 和也, 加藤 勇気, 河村 信利, 櫻井 宏明, 金田 嘉清
    2016 年 23 巻 1 号 p. 08-14
    発行日: 2016年
    公開日: 2022/09/03
    ジャーナル オープンアクセス

    脳卒中患者の歩行能力改善はADL能力やQOLの改善に重要である.本研究は,随意運動や電気刺激治療の運動機能改善効果を促進するとされる経頭蓋直流電気刺激(tDCS)が,機能的電気刺激ペダリング運動の歩行能力改善効果を促進するか検証した.対象は初発脳卒中,年齢18歳から80歳,併存疾患なし,MMES 21点以上,10 m連続歩行可能者とした.介入は5日間連続で,10分間のFESペダリング運動中,tDCS条件は損傷側一次運動野への 2 mAの陽極刺激を全期間,偽条件は初期15秒のみ行った.評価は10 m歩行速度,6分間歩行距離,Timed Up and Go test(TUG),Fugl-Meyer Assessment下肢項目,前脛骨筋筋力とした.期間中取り込み基準を満たした者は5名で,tDCS条件は6分間歩行距離とTUG(171.8±68.7 mから194.0±75.0 m,23.0±11.7秒から20.2±10.9秒),偽条件はTUGのみ介入前後で有意な改善を認めた(21.6±10.2秒から18.6±9.0秒).本結果は陽極tDCSの歩行耐久性改善寄与を示唆するが,臨床応用にはメカニズム解明が必要である.

  • ─運動イメージ時の自覚的筋収縮強度を考慮して─
    文野 住文, 鬼形 周恵子, 東藤 真理奈, 福本 悠樹, 鈴木 俊明
    2016 年 23 巻 1 号 p. 15-19
    発行日: 2016年
    公開日: 2022/09/03
    ジャーナル オープンアクセス

    10%収縮強度運動イメージが脊髄運動神経の興奮性に与える影響について,F波により検討した.また,運動イメージ後にイメージした筋収縮強度でのピンチ運動を再現し,イメージ前後で平均ピンチ力を比較することで,運動イメージが適切な筋収縮強度で行えていたか検討した.対象は健常男性9名,平均年齢20.2歳とした.安静背臥位で左正中神経刺激により,左母指球筋よりF波を導出した.ピンチメータの圧力センサーを用いて最大ピンチ力を測定後,その10%収縮強度を目標ピンチ力とした.10%収縮強度ピンチ運動を学習後,閉眼で10秒間,学習したピンチ運動を行い,イメージ前平均ピンチ力を測定した.次に,10%収縮強度運動イメージを行い,F波を測定した.その後,イメージ前と同様にイメージ後平均ピンチ力を測定した.運動イメージ時のF波の出現頻度および振幅F/M比が安静より有意に増加した.目標ピンチ力,イメージ前後の平均ピンチ力に差を認めなかった.結果より,10%収縮強度運動イメージは脊髄運動神経の興奮性を増加させることが示唆された.また被験者は,適切な10%収縮強度運動イメージを行っていたと推測された.

  • ─片側刺激と両側刺激の違い─
    瀧口 述弘, 庄本 康治
    2016 年 23 巻 1 号 p. 20-28
    発行日: 2016年
    公開日: 2022/09/03
    ジャーナル オープンアクセス

    経皮的電気刺激(Transcutaneous electrical nerve stimulation: TENS)は,電極貼付部位や心理面がTENSの効果に影響を与えると報告されている.本研究は電荷量をほぼ同一にした片側肢と両側肢のTENSが健常人に対する実験的疼痛に与える影響と,さらに,不安がこれらに与える影響を明らかにすることを目的とした.本研究のデザインはランダム化クロスオーバー試験とし,健常人21名にState-trait anxiety inventory Y-2(STAIY-2)を測定後,右1チャンネル(channel: ch): 右L3/4皮膚分節領域に1ch刺激,右2ch: 右同領域に2ch刺激,両側2ch: 左右同領域に各1ch刺激の3条件の電極貼付部位に対してTENSを実施した.TENSは30分実施し,TENS前,10, 20, 30分後に右鵞足の圧痛閾値(Pressure pain threshold: PPT)を測定し,PPT変化率に対し反復測定分散分析,多重比較を行った.またSTAIY-2とPPT30分後の変化率との関係をpearsonの相関係数で調べた.10, 20分後のPPT変化率は両側2chと右2chが右1chに対して有意に上昇し(p<0.01),30分後では,両側2chが右1ch(p<0.01)と右2ch(p<0.05)に対し有意に上昇していた.STAIY-2と両側2chPPT変化率にr=-0.44(p<0.05)の相関関係が認められた.両側肢のTENSは片側肢のみのTENSより鎮痛でき,不安がTENSの効果を減弱させる可能性が示唆された.

  • 齊藤 慧, 犬飼 康人, 小丹 晋一, 佐々木 亮樹, 中川 昌樹, 大西 秀明
    2016 年 23 巻 1 号 p. 29-34
    発行日: 2016年
    公開日: 2022/09/03
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】皮質脊髄路の興奮性変化を増強するトレイン内の至適な刺激パルス数について検討した.【方法】健常成人24名を対象に,右正中神経に対するトレイン刺激を5秒間実施した.実験1ではトレイン内の刺激パルス数を2,4,6,8,10発とし,トレイン間隔(ITI)を100 msとした.実験2ではトレイン内の刺激パルス数を4,8発とし,ITIをそれぞれ50,100 msとした.皮質脊髄路興奮性の評価は運動誘発電位(MEP)を電気刺激前後で記録し,比較した.【結果】トレインの刺激パルス数が8発であるとき,トレイン刺激後のMEPは有意に増大した.刺激パルス数が8発,ITIが100 msのときとパルス数が4発,ITIが50 msのときのトレイン刺激後のMEP変化の間に有意な差は認められなかった.【考察】トレインの刺激パルス数によらず,トレイン刺激は皮質脊髄路の興奮性を増大させることが示唆された.

  • 舘林 大介, 檜森 弘一, 阿部 真佐美, 李 宰植, 山田 崇史
    2016 年 23 巻 1 号 p. 35-43
    発行日: 2016年
    公開日: 2022/09/03
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では,癌モデルマウスに生じる筋量低下に対する神経-筋電気刺激療法(NMES)の効果を,癌性筋萎縮の重要なメディエーターとされるグルココルチコイドの下流因子である,グルタミン合成酵素(GS)に着目し検討した.5週齢のCD2F1マウスを対照(CNT)群,CNT群にNMESを負荷するCNT+NMES群,側腹部皮下にC-26細胞株を播種するC-26群,C-26群にNMESを負荷するC-26+NMES群の4群に分けた.NMES(最大底屈トルクの60%の強度,50 Hz,刺激時間2 s,休息時間4 s,1日約30収縮)は,C-26播種翌日より下腿三頭筋に2日に1度負荷した.C-26播種28日後,CNT群と比較しC-26群では,活動量の低下が認められ,腓腹筋及びヒラメ筋の筋湿重量の低下が,GSの顕著な増加を伴っていた.また,C-26群と比較して,C-26+NMES群では,ヒラメ筋の筋量低下が一部抑制されたが,腓腹筋の筋量に変化は認められなかった.C-26+NMES群のGS発現量は,腓腹筋ではC-26群と比べ低下したが,CNT群よりも高値を示した.一方,ヒラメ筋では,C-26によるGS発現の増加はNMESによって抑制されなかった.これらの知見から,癌性筋萎縮のメカニズムは筋線維タイプによって異なり,速筋ではグルココルチコイド系の活性化が,一方,遅筋では,それに加え活動量の低下が関与すると考えられる.また,NMESは,不活動誘因性の筋量低下に比べ,グルココルチコイド誘因性の筋量低下に対する抑制効果が低いことが示唆された.

症例報告
  • 工藤 和善, 水木 猛夫, 南本 俊之, 杉元 雅晴
    2016 年 23 巻 1 号 p. 44-49
    発行日: 2016年
    公開日: 2022/09/03
    ジャーナル オープンアクセス

    壊死組織の除去を目的に直流微弱電流刺激療法(LIDC:Low Intensity Direct Current (Stimulation) Therapy)を実施した.対象は,仙骨部のstageⅣの褥瘡,直達牽引にてピン挿入部に発生したMDRPU(Medical Device Related Pressure Ulcer;医療関連機器圧迫創傷),皮弁後に創傷部が壊死した潰瘍の3症例である.方法は,創面に生理食塩水を含んだガーゼを置き,ポリウレタンフィルムで被覆後,棒状電極を挿入(関電極)した.不関電極は周囲の健常皮膚面に貼布した.極性は壊死組織を除去する目的で創面上を陽極とした.電気刺激装置(伊藤超短波社製;ES-530®)を使用し,刺激強度170 mA,刺激幅250 ms(直流パルス波),周波数2 Hz,刺激時間40分を週5回実施した.毎日の洗浄とデキストラノマー(デブリサンペースト®)塗付を併用した.3症例すべてで壊死組織の融解を認め,外科的デブリードメントが必要な症例では,安全で正確なデブリードメントが実施された.中止に至る副作用は認めなかった.

  • 山川 浩二, 渡辺 真弓, 石井 良枝, 大戸 元気, 加藤 貴志, 井野邉 純一
    2016 年 23 巻 1 号 p. 50-56
    発行日: 2016年
    公開日: 2022/09/03
    ジャーナル オープンアクセス

    【目的】セラピストのスイッチ操作にて通電可能な二筋同時電気刺激装置を使用した電気刺激療法と,ボツリヌス療法を併用し,慢性期脳卒中患者の上肢麻痺に対する治療効果を検討した.【方法】対象は右橋脳梗塞による左片麻痺を呈し,発症から6年経過した60歳代女性.二筋同時電気刺激装置による治療は,肩屈曲等(5種類)を口頭指示し,その主動筋に対し随意運動に合わせた電気刺激をそれぞれ100回ずつ行った.1日1時間の治療を7日間実施し,評価にはModified Ashworth Scale (MAS),Fugl-Meyer Assessment (FMA),Motor Activity Log (MAL)を用いた.【結果】7日間の治療後,MAS,FMA,MALの改善がみられた.表面筋電図では肩屈曲動作時の上腕二頭筋の筋活動低下,上腕三頭筋の筋活動増加がみられた.【結論】脳卒中上肢麻痺に対するボツリヌス療法と二筋同時電気刺激装置の併用により上肢麻痺筋の随意性の向上・協調性の改善がもたらされた.一症例であるため今後さまざまな検討が必要であるが,慢性期脳卒中患者における機能改善の可能性が示唆されたのではないかと考えられる.

短報
  • 松島 祥帆, 木村 貞治, 崕 啓介, 阿部 裕一, 齋門 良紀
    2016 年 23 巻 1 号 p. 57-62
    発行日: 2016年
    公開日: 2022/09/03
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は,異なる強度のパルス電磁場(Pulsed electromagnetic field, PEMF)刺激による血液循環動態への影響を,超音波検査にて測定した血流速度を指標として検討することを目的として行った.対象は感覚異常がなく,超音波・電磁場の禁忌事項に該当しない健常な男性10名とした.同一被験者において右上腕動脈上の肘関節掌側に強度の異なるPEMFを60分間照射し,左上肢はコントロールとして安静位にした.超音波検査のパルスドップラーモードを用いて介入0,15,30,45,60分後の計5回の血流速度と皮膚温度を測定し比較した.その結果,群間比較,群内比較ともに強度に関わらずPEMF照射45分後,60分後の血流速度において有意な減少が認められた.本研究の結果から,今回用いた刺激強度での長時間のPEMF照射は,血流速度を減少させることが示された.流体の連続の法則より,本研究において血流速度が減少した背景としては,血管拡張が生じた可能性があるものと推察された.しかし,PEMFの血液循環動態に対する生理学的効果のメカニズムに関しては,まだ十分に解明されておらず,不明な点が多いことから,今後のさらなる研究の展開が必要であると考えられた.

  • ─人工骨頭置換術後8症例での予備的研究─
    徳田 光紀, 唄 大輔, 藤森 由貴, 亀口 祐貴, 庄本 康治
    2016 年 23 巻 1 号 p. 63-66
    発行日: 2016年
    公開日: 2022/09/03
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究の目的は大腿骨頚部骨折術後症例を対象に,術後翌日から電気刺激治療を併用しながら筋力強化運動を実施する電気刺激併用筋力強化法の効果を検討することである.大腿骨頚部骨折術後に人工骨頭置換術を施行した8名を対象に電気刺激併用筋力強化法群(ES群)4名とコントロール群4名に割り付けた.電気刺激併用筋力強化法は電気刺激治療器(ESPERGE)で患側の大腿四頭筋に対して二相性非対称性パルス波,パルス幅300 µs,周波数80 pps,強度は運動レベルの耐えうる最大強度,ON:OFF=5:7秒に設定して毎日20分間実施した.膝伸展筋力(患健側比),股関節JOAスコア,日常生活動作および歩行の自立するまでに要した日数を評価し,各群で比較した.ES群はコントロール群よりも筋力や股関節JOAスコアは早期に改善し,日常生活動作および歩行の自立も早かった.大腿骨頚部骨折後の人工骨頭置換術後症例に対する術後翌日からの電気刺激併用筋力強化法は,膝伸展筋力の改善や日常生活動作および歩行の早期獲得に効果的に寄与することが示唆された.

  • ─電流知覚閾値を指標にした時系列反転デザインによる痛み評価─
    青木 幹昌, 吉村 康夫, Goh Ah Cheng
    2016 年 23 巻 1 号 p. 67-71
    発行日: 2016年
    公開日: 2022/09/03
    ジャーナル オープンアクセス

    [目的]本研究の目的は,膝前十字靭帯(ACL)再建術後疼痛に対する鍼様経皮的神経電気刺激(Acupuncture-like Transcutaneous electrical nerve stimulation:鍼様TENS)の効果について,時系列デザインにより電流知覚閾値(Current perception threshold:CPT)を指標にして評価すること.[対象]膝ACL再建術を施行され同意を得られた10名(男性4名,女性6名,平均年齢27.0±14.2歳).[方法]時系列反転(ABABA)デザインに基づいて,術後4日目から術後8日目まで5日間に,2回の鍼様TENS介入を行い, CPTと疼痛の程度をVisual analogue scale (以下VAS)によって測定した. 鍼様TENS条件は,周波数5 Hz,パルス幅250 ms,最大運動刺激の約50%強度,治療時間15分間で実施した.解析は,術後日数を独立変数,CPTとVASを従属変数とし,鍼様TENS介入前後で,t検定により変化量を比較した.また,時系列グラフによる傾斜線の方向変化(陽性または陰性)ついて言及した.[結果]鍼様TENS介入前後で各CPTとVASの有意な差は見られなかった.傾斜線の方向変化はCPT(2,000 Hz)とCPT(5 Hz)が,介入後に陽性を示し,対照的に疼痛VASは陰性を示した.[結語]ACL再建術後疼痛に対して,鍼様TENS介入が感覚神経Ab線維とC線維の閾値上昇に影響を与え,疼痛の伝達に対して抑制的に働くことが推察された.

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