薬史学雑誌
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57 巻, 2 号
選択された号の論文の9件中1~9を表示しています
  • 中川 好秋, 松本 和男, 中辻 慎一, 村岡 修
    2022 年 57 巻 2 号 p. 79-92
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2023/02/10
    ジャーナル フリー
    農芸化学系における有機化学研究は鈴木梅太郎らのビタミンの研究に始まり,その後,植物ホルモン,抗生物質などの天然物化学研究が精力的に行われて農薬研究へと繋がった.第二次世界大戦後に利用された農薬は海外から導入されたものであったが,20 世紀の後半には国産の農薬が次々と開発され,国内外における植物防疫に多大な貢献をしてきた.最近では,日本で新しく開発される農薬の数が群を抜いて多くなっている.本稿では,農薬分野に軸をおき,間もなく100周年を迎える日本農芸化学会と50周年を迎える日本農薬学会で行われてきた天然物化学,生物有機化学,農薬化学を中心とした有機化学研究に多大な貢献をした研究者と関連機関の経緯などを概観したい.
  • 髙際 麻奈未
    2022 年 57 巻 2 号 p. 93-100
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2023/02/10
    ジャーナル フリー
    日本初の無鉛白粉「御園白粉」の現存する販売宣伝用小冊子には,商品が無害であることを学理上から保証する薬学博士として下山順一郎,田原良純の名前が挙げられている.本稿では日本における白粉の歴史および無鉛白粉が作られた背景について調査した.かつての白粉は鉛白や軽粉からなるものであった.鉛白は 5 世紀中頃に中国より日本へ伝えられ,以後白粉の原料としても使用され続けた.含鉛白粉による鉛中毒が問題となり,明治 33 年に内務省より有害性著色料取締規則が出されるまでに至った.「御園白粉」は白粉の安全性が求められる中で作製された,日本で初めての鉛白を使用しない白粉であった.日本初の無鉛白粉の無害証明には3 名の薬学者が関わっていた.これは旧薬事法が制定される以前に薬学出身者が化粧品の品質証明に関わった初めての事例である.
  • 柳沢 清久
    2022 年 57 巻 2 号 p. 101-110
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2023/02/10
    ジャーナル フリー
    目的:ホップ腺(ルプリン)は長年にわたりビールの原料として使用されてきた.一方西欧では,古くから生薬として,鎮静薬,苦味健胃薬に利用されてきた.そしてかつて 1800 年代後半~1900 年代初めにかけて,JPをはじめ USP,BP,DAB など各国薬局方に本品が収載された.それから約 100 年後の 21 世紀直前になって,EP では,EP3.0(1998)~今日の EP10.0(2020),BP では,BP2000~今日の BP2022 まで,約 20 年間,継続 収載されている.今回は 21 世紀になって,EP および BP に収載されたホップ腺の規格・試験法に関して,今日の 2022 年までの 20 年間の変遷について調査を行った.そして EP,BP に規定されたホップ腺の成分の規格・試験に関して,近年の学術文献に見られたホップ腺の成分などの学術情報と対比させて考察を行った.さらにホップ腺の成分の薬理学的,生物学的活性効果に関する学術情報を科学的根拠とした場合,ホップ腺の今後の 治療薬,医薬資源としての展開についても考察を行った. 方法:1)EP3.0(1998)~EP10.0(2020),および BP2000~BP2022 に収載されたホップ腺の規格・試験に関して,検索を行った.2)ホップ腺の成分に関する学術文献を抽出した.そこに掲載された EP,BP に規定されたホップ腺の成分のフムロン,イソフムロン(フムロンの異性体),ルプロン,キサントフモールの薬理学的,生物学的活性効果の調査を行った. 結果:1)最初にホップ腺が収載された EP3.0(1998)および BP2000 に規定されたホップ腺の規格・試験法は今日の EP10.0(2020)および BP2022 まで継続,維持されている.2)文献調査から,EP,BP に規定されたホップ腺の成分に関して,多彩な薬理学的,生物学的活性効果があることがわかった. 結論:21 世紀直前になって,ホップ腺は EP では,EP3.0(1998)より,また BP では,BP2000 より収載された.この当時,規定されたホップ腺の規格・試験法は今日まで,約 20 年以上,そのまま維持,継続されている.ホップ腺含有成分の定性試験として,フムロン,ルプロン,キサントフモールの 3 成分について,薄層クロマトグラフィーによる検出が規定された.近年の薬学水準の向上,化学技術の進歩により,この 3 成分の化学構造が解明され,また多くの研究によって,その薬理的,生物学的活性効果についても,解明された.このことを科学的根拠として,ホップ腺は癌,白血病,アルツハイマー型認知症などの多岐にわたる疾患の治療に効果が期待される.この中で,著者はアルツハイマー型認知症に対して,ホップ腺がその治療薬(認知症の進行抑制)の新たな開拓につながると期待する.そして今後,貴重な薬用資源となり得るものと考えた.
  • 西谷 篤彦
    2022 年 57 巻 2 号 p. 111-121
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2023/02/10
    ジャーナル フリー
    目的:ASHPの2代目CEOを37 年間務められた Dr. Joseph A. Oddis が2021年2月24 日,92才で逝去された. Dr. OddisのASHPでの個人史を通してアメリカの薬剤師教育・業務活動の歴史とそれらが日本の薬剤師の教育・業務に与えた影響と寄与について調査した. 方法:Dr. Oddisの生涯・歩み・業績は,原則一次情報とGregory J. Higby.“American pharmacy in the twentieth century”.Am J Health-Syst Pharm.1997;54.1805-15,C. Richard Talley and Mary Jo Reilly.“Joseph A. Oddis:influences and achievements.” Am J Health-Syst Pharm.1997;54:1815-25,“In Memoriam:Joseph A. Oddis”.Am J Pharm.2021;16:1449-36や Joseph A. Oddis.“The next five years of the ASHP ─ a projection”.Am J Hosp Pharm.1967;24:164-9,ASHP の HP および書籍 150 Years of Caring(A Pictorial History of the APhA),Hospital Pharmacists,APhA 出版,2002,p. 55-8を確認して調査した. 結果:ASHP 業務基準の向上や,病院薬局業務の全国調査,教育サービス,生涯教育,レジデント訓練の拡充,医薬品情報,臨床薬学,Pharmaceutical Careの概念などを紹介した.Dr. Oddis は薬剤師の職業的な学位としてのPharm.D. の創設など薬局で働く薬剤師の役割の拡充に貢献した.また薬局でのテクニシャンの雇用・訓練を推進した.これらASHPの取り組みは,レジデント認定基準が日本の専門薬剤師制度に影響を与えるなど,少なからず日本の薬剤師教育・業務の参考となり向上に寄与した. 結論:Dr. OddisのASHPにおける業績は,医薬品の専門家として,日本の薬剤師業務がよりよい方向に発展していくうえで,貴重な示唆を与えてくれた方針と業務基準そして活動だった.特にDr. Oddisのリーダーシップの下でテーマや委員会の報告は多く出版され,医療薬学の発展に貢献した.
  • 西原 正和
    2022 年 57 巻 2 号 p. 122-127
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2023/02/10
    ジャーナル フリー
    目的:唐招提寺は,鑑真和上により創建された寺である.鑑真和上は,医学・薬学にも長けており,失明しているにもかかわらず,その嗅覚,味覚,触覚などで薬物を鑑別したとされている.今日,唐招提寺境内に薬園が再興され,その一部が公開されることとなったが,薬園を設置するに至った背景を調査することを目的とした. 方法:過去の書物,文献,報告に加えて,唐招提寺に残る書物や関係者への聞き取り調査を行った. 結果:唐招提寺の薬園は,第81代長老の森本孝順の熱い思いにより1988年に設置されたものの,金堂における平成の大修理に伴い,金堂に安置する三仏の避難場所として使用するために,1999 年に廃園となった.しかし,廃園の際に一部を岐阜県に移植し保管し,長年管理されてきた.その後,2018年に第88代長老の西山明彦の発願により薬園を復興する計画が持ち上がり,2022年3月に岐阜県に移植していた薬草を唐招提寺薬園内に再移植し,4月から薬園が一部再興することとなった.なお,薬園は2024年に完成予定とされている. 結論:唐招提寺の薬園は,寺院の維持管理のためにやむを得ず一度廃園したものの,2022年より一部再興するに至った.
  • 森本 和滋, 日向 昌司, 石井 明子
    2022 年 57 巻 2 号 p. 128-137
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2023/02/10
    ジャーナル フリー
    目的:バイオ後続品と先行バイオ医薬品の同等性/同質性評価技術の進歩,国内外における規制と承認の動向を調べた. 方法:国立医薬品食品衛生研究所(NIHS)年報の業務報告,医薬品医療機器総合機構(PMDA),NIHS 生物薬品部のウェブサイトおよび関連文献情報より収集した. 結果と考察:欧州EMAは,2005年以降,総論的ガイドライン(GL)に加えて,品質GL,非臨床・臨床試験GL,および製品群別の非臨床・臨床GLを継続的に公表し,その起点になった.2009年には,我が国でも,バイオ後続品の品質・安全性・有効性確保のための指針(薬食審査発第 0304007 号)の通知が厚生労働省より発出された.米国では,2010年バイオ後続品の規制要件を定めた法律が成立し,2012年 FDA からガイダンス案が公開された.先行品との同等性/同質性が承認のキーポイントとなっている.同等性/同質性評価においては,製法の影響で差異が生じやすい N-結合型糖鎖プロファイルや,抗体医薬品の ADCC 活性,FcγRⅢa 結合活性などが重要となる場合が多く,NIHS でも関連する評価法の研究が行われている.抗体医薬品の重要な生物学的特性である免疫細胞活性の Fc-介在機能の比較は重要である.この評価法は,2013年から現在まで続けられ進展して来ている.一般的な生物学的分析法は,マウス IgG1 モノクローナル抗体での簡易サンプル調整法と LC/MS を用いたモニタリング法が開発された.我が国では,現在まで,サイトカイン,エリスロポエチン類,抗体等を含む32品目が承認された.
  • 五位野 政彦
    2022 年 57 巻 2 号 p. 138-143
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2023/02/10
    ジャーナル フリー
    序論:1907(明治 40)年に発生した山梨県大水害において,薬剤師志村権左衛門が行った災害医療支援(飲用水の供給)について調査を行った. 方法:次の資料による文献調査を行った.国立国会図書館デジタルコレクション,東京薬科大学図書館所蔵史料,東京都公文書館収蔵史料,国立公文書館収蔵史料,山梨県ならびに山梨市公刊資料. 結果・考察:山梨県は四方を山岳に囲まれた地域であり,災害時には他府県からの援助物資の到着に時間を要する.その状況にあった山梨県大水害(1907(明治 40)年)において薬剤師?志村権左衛門は,医薬品供給ではなく飲用水の製造と配布という公衆衛生活動により被災者に対する災害医支援活動を行った.これは災害時等に医薬品供給が見込めない状況下でも薬剤師はその職能をもって支援活動が可能であることを 20 世紀初頭 に示した事例である.
  • ボンテ ルイ, ボンテ フレデリック, 髙際 麻奈未
    2022 年 57 巻 2 号 p. 144-149
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2023/02/10
    ジャーナル フリー
    日本の会社,胡蝶園の化粧品は皇室に認められた日本初の無鉛白粉である.この商品の開発者はフランスで化学を学んだ化学者,長谷部仲彦である.何年もの研究の後,彼は1900年に酸化亜鉛を主成分とする白粉を宮中に献上した.4年後,商品に「御園白粉」と名付けた.本稿では,2人の偉大な日本人薬学者,下山順一郎と田原良純が無害証明を行った御園化粧品の商品を紹介している同社発行の珍しい小冊子を取り上げ,会社の初期の成功について論じている.白粉の販売競争と西洋化粧品の輸入についても言及している.
  • 2022 年 57 巻 2 号 p. 151-152
    発行日: 2022/12/31
    公開日: 2023/02/10
    ジャーナル フリー
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